第1 本税の誤りだけで重加算税は決まらない
法人税の税務調査で経費の計上時期や資産の評価を否認されても,そのことだけで重加算税が決まるわけではない。
本税の計算,過少申告加算税,重加算税は,それぞれの要件と対象額を分けて検討する必要がある。
本稿は,令和8年10月16日に確認した法令・公表資料を基に,申告済みの法人税について国税通則法68条1項の重加算税が問題になる場面を中心に整理する。
過年度の事件では,当該申告・処分に適用される改正前後の条文と経過措置を確認する。
重加算税の検討では,①誰が何を隠し又は装ったのか,②いつ行ったのか,③その行為と申告内容がどう結び付くのか,④どの税額が対象になるのかを,証拠と対応させる。
以下の整理表や確認手順は,法定の提出様式ではなく,会社,税理士及び弁護士が事実と争点を共有するための実務上の提案である。
第2 税額の誤りと隠蔽・仮装を分ける
1 過少申告型の基本的な要件
国税通則法68条1項は,課税の基礎となる事実の全部又は一部を隠蔽・仮装し,その隠蔽・仮装したところに基づいて申告書等を提出した場合を定めている。
同項の基本割合は対象となる基礎税額の35%であり,通常の過少申告加算税に代えて課される。
本税そのものの35%が常に追加されるという意味ではなく,対象税額の切分けと,同条4項による加重の適用も別途確認する。
修正申告書を提出したという一事だけでも結論は決まらない。
同条1項には,更正があるべきことを予知してされたものでない修正申告を除く旨の規定がある。
調査通知と更正予知の区別,通常の過少申告加算税への影響は,修正申告と加算税―行政指導,調査通知及び更正予知の前後で何が変わるか(AI作成)で整理している。
2 科目名や年度誤りだけで断定しない
国税庁の法人税の重加算税に関する事務運営指針は,二重帳簿,帳簿書類の隠匿・改ざん,相手方と通謀した虚偽書類などを例示している。
他方,同指針第1の3は,翌期の収益計上や支出が確認できる計上時期の誤り,寄附金等を単に他の費用科目へ記載した場合などについて,一定の条件の下で帳簿書類の隠匿・虚偽記載等に該当しないとする。
この取扱いには,相手方との通謀や証ひょうの破棄・隠匿・改ざん等によるものではないという条件が付いている。
したがって,「科目を間違えただけだから問題がない」とも,「経費を否認されたから仮装である」とも即断しない。
請求書,発注内容,検収,実際の役務提供,支払及び仕訳作成の経緯を比較し,税額の修正理由と事実の隠蔽・仮装の根拠を別々に説明する。
同指針は行政の取扱基準であり,条文に代わるものではない。
第3 申告前後の時系列で証拠を読む
1 申告後の説明から何を推認するのか
調査時に事実と異なる回答をしたというだけで,過去の申告時点に隠蔽・仮装があったと当然に扱うことはできない。
一方,申告後の回答や書類作成の経緯が,申告前からの認識や工作を裏付ける証拠になる場合はある。
申告後の行動を証拠から一律に除外するのではなく,どの過去の事実を,どの資料と併せて推認するのかを示す必要がある。
時系列は,取引時,決算時,税理士への資料交付時,申告時,調査開始後に分けると整理しやすい。
各出来事に,行為者,作成日,実際の対象日,資料の所在,当時知っていた事実及び申告への反映を記録する。
電子ファイルの更新日時だけで,当該内容を誰がいつ認識したかまで断定しない。
2 質問応答記録と元資料を対応させる
「工事が完了していないことを知っていた」と「その年度の損金にできないと理解していた」は,同じ命題ではない。
また,税理士が作成した書類の記載を,代表者本人の知識や指示へ結び付けるには,説明,確認,承認又は修正指示の資料が必要になる。
質問応答記録書では,回答者自身の経験,担当者から聞いた内容,資料からの推測及び記憶がない事項を区別する。
誤った回答が判明した場合は,元の記録を残した上で,訂正内容,根拠資料,申出日及び相手方を記録する方法が考えられる。
説明を整えるために原資料を上書きしたり,作成日を遡らせたりすると,事実確認を困難にする。
調査対応全体は,税務調査に関するメモ書き(AI作成)も参照されたい。
第4 修繕費の繰上計上と仮装を分けた裁決
1 工事の完了と請求書の作成経緯が争われた例
国税不服審判所の令和2年3月10日裁決では,期末までに完了していなかった修繕工事の費用について,代表者が施工業者に請求書を発行させたことが仮装に当たるかが争われた。
審判所は,期末前の準備状況,請求書の発行時期や日付の事情,代表者の認識及び税理士の作業を具体的に検討した。
公表資料は裁決書の抄であり,本税の年度帰属を全面的に覆した裁決ではない。
2 代表者の認識と税理士作成書類の評価
審判所は,代表者が虚偽の完了日を記載するよう依頼したとの証拠や,損金算入できないことを認識していたとする根拠を検討し,仮装に当たる事実を認定しなかった。
税理士が作成した書類に情報が記載されていることから,代表者も同じ知識を持っていたと直結させなかった点が参考になる。
ただし,通常の過少申告加算税相当額を超える部分が取り消されたのであり,加算税がすべてなくなったわけではない。
この事例から,未完成工事の請求書なら重加算税が課されないとか,税理士に依頼していれば会社は責任を負わないという一般則を導くことはできない。
個別事件では,請求書発行の依頼文言,当事者間のやり取り,実際の工事進行及び申告までの認識を確認する必要がある。
詳細は公表裁決書(抄)を参照されたい。
第5 対象税額を項目ごとに計算する
隠蔽・仮装がある取引と,通常の評価差や年度誤りがある取引が混在する場合,増差所得又は追徴税額の全部を一括して重加算税の対象にしない。
国税通則法68条1項と同法施行令28条は,隠蔽・仮装されていない事実に基づく税額を控除する仕組みを定めている。
国税庁の事務運営指針第3も,重加対象税額と重加対象所得の計算を示している。
計算表では,否認項目ごとに本税の調整理由,隠蔽・仮装とされる行為,証拠,対応する所得金額及び税額計算への反映を記載する。
隠蔽・仮装が認められない項目についても,本税や通常の過少申告加算税が残るかは別途検討する。
対象税額と税率を区別し,35%という数字だけで見積りを終えない。
第6 会社・税理士・弁護士の確認手順
1 資料と説明を先に分けて保全する
会社は,原始証ひょう,メール,契約書,決算前後の仕訳及び申告時に交付した資料を,出所と版が分かる状態で保全する。
税理士は,受領した資料,自ら作成した帳簿・申告書,追加照会及び会社からの回答を分け,税務判断の前提を説明できるようにする。
弁護士が関与する場合は,行為者の認識と行為の評価,手続上争う対象及び証拠の対応を整理し,税額計算との整合を税理士と確認する。
具体的な税務代理,書類作成及び不服申立ての担当は,各資格の業務範囲と依頼内容を確認して定める。
整理票には,「確認済みの事実」「本人等の説明」「資料からの推認」「未確認」を分けて記載する。
担当者の説明を,裏付けを確認しないまま確定した事実へ書き換えない。
また,同じ資料でも,工事の実施,代表者の認識,税理士の判断のどれを証明するために用いるのかを明示する。
2 修正申告と重加算税への対応を別々に決める
本税の誤りを認める場合も,重加算税の根拠となる事実と対象額について,課税庁の説明を確認する。
本税を修正することと,隠蔽・仮装の評価に同意することを混同せず,提出書面で認める事実と争う点を明確にする。
修正申告の時期は加算税に影響するため,証拠確認,納付準備及び手続期限を並行して管理する。
回答書や意見書にまとめる場合は,税務調査への回答書と税務意見書の作り方(AI作成)も参照されたい。
事案ごとの結論を出す前に,本税の計算根拠,行為の評価及び対象税額の三つが,同じ前提事実に立っているかを確認する。
第7 出典
法令は国税通則法65条・68条及び国税通則法施行令28条を参照した。
法令の適用時点は各事件で確認する必要がある。
行政の取扱いは,法人税の重加算税の取扱いについて(事務運営指針)の第1の1・3及び第3を中心に参照した。
同ページの改正履歴には令和8年6月30日までの改正が掲載されている。
裁決は,令和2年3月10日裁決・裁決事例集第118集の公表裁決書(抄)を参照した。