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社長の人間ドック費用は会社の経費になるか―役員だけが受ける場合の給与課税と損金(AI作成)

第1 先に区別する三つの税務処理

従業員は法定健診を受け,社長だけが会社負担で人間ドックを受ける場合,その費用相当額は社長への給与として扱われることがある。
経営者の健康管理に会社として関心がある場合でも,受診できる人や会社が負担する検査の範囲を確認する必要がある。
本記事の法令・通達等の確認日は令和8年11月8日である。

処理は,①役員本人の給与所得に含まれるか,②会社に源泉徴収義務があるか,③会社が法人税の計算上,損金に算入できるかに分ける。
個人的な費用の肩代わりによる経済的利益は,給与所得の収入金額に含まれ得る(所得税法28条1項・36条1項)。
居住者に対して国内で給与等を支払う場合,原則として会社に源泉徴収義務が生じる(所得税法183条1項)。
役員給与に当たる費用の損金算入は,法人税法34条と法人税法施行令69条に従って別に判断する。

国税庁のタックスアンサーは,役員に対して継続的に供与される経済的利益のうち,その額が毎月おおむね一定であるものは定期同額給与に該当し,その他のものは定期同額給与に該当せず損金の額に算入されないと説明している。
例えば,役員個人のために会社が1回だけ高額な検査費を負担した場合,毎月おおむね一定の経済的利益には通常当たらない。
他方,所得税法上経済的な利益として課税されないもので,かつ,会社が役員に対する給与として経理しなかったものは,法人税法上も給与として扱われないとされている。
使用人としての職務を有する役員に対する当該職務分の取扱いなどは,実態に即して確認する。
根拠は,所得税法28条・36条・183条,法人税法34条,法人税法施行令69条及び国税庁「No.5202 役員等に対する経済的利益」である。

第2 給与課税を要しないとされた国税庁の設例

国税庁の質疑応答事例「人間ドックの費用負担」では,会社が社内規程を設け,役員及び使用人の全員について春秋2回の定期健康診断を実施するほか,年齢35歳以上の希望者の全てについて2日間の人間ドックによる検診を実施し,その検診料を会社が負担していた。
この設例で,国税庁は給与等として課税する必要はないと回答している。
回答は,役員や特定の地位にある人だけを対象として費用を負担する場合には課税の問題が生じるとした上で,一定年齢以上の希望者は全て検診を受けることができ,検診を受けた者の全てを対象として費用を負担する場合は課税する必要はないとする。
年齢35歳以上や2日間の検診という条件は当該照会の事実関係であり,国税庁も,照会に係る事実関係を前提とした一般的な回答であると注記している。

所得税基本通達36-29は,使用者が福利厚生のための施設の運営費等を負担することにより役員又は使用人が受ける経済的利益について,その額が著しく多額であると認められる場合や役員だけを対象として供与される場合を除いて,課税しなくて差し支えないとする。
会社に課される労働者の法定健診の義務と,任意の人間ドックの費用負担は,制度の目的と対象を分けて確認する。
法定健診の実施に関しては,従業員の健康診断-対象者・検査項目・費用・事後措置を参照されたい。

第3 役員だけへの支給を給与所得とした福岡地裁判決

福岡地裁平成21年2月19日判決(事件番号は非公表,税務訴訟資料259号-32(順号11145),判例秘書の判例番号 L06451186)の事案では,会社が従業員には労働安全衛生法66条等に基づく一般の健康診断を受診させ,役員には人間ドックを受診させて,その費用を負担していた。
1人当たりの負担額は3万4000円から20万7900円までで,役員や年度によって差があった。

判決は,役員だけを対象として人間ドックを受診させた場合には,役員の意思にかかわらず受診を強制しているとしても,役員の健康管理は従業員よりも向上し,役員は従業員にはない経済的利益を得ているとした。
その上で,一度の支給額が多額になる者も含まれていることから,各役員の受けた人間ドックは社会通念上一般に行われている健康診断とはいえないとし,本件の人間ドック費用は役員の給与所得に係る収入金額に当たると判断した。
同判決は,会社の請求を棄却し(一部は却下),確定している。
判決中の支給額は当該事案の認定事実であり,会社負担の上限を定める基準にはならない。
判決の本文は,国税庁の税務訴訟資料第259号-32(順号11145)の16頁~17頁にある。

第4 従業員の人間ドック補助を扱った裁決

国税不服審判所令和2年1月20日裁決は,従業員向けの選択型福利厚生制度(カフェテリアプラン)で人間ドック等を補助した事案である。
原処分庁は,付与されたポイントに換金性があるとして,選ばれたメニューの内容にかかわらず全て給与等として課税すべきだと主張した。
審判所は,金銭が支給される財形貯蓄の補助メニューも,財形貯蓄をした使用人に積立額の範囲内で支給するものであり,何ら要件なくポイントを金銭に換えるものではないとして換金性を認めなかった。
その上で,実際に選ばれたメニューの内容を検討し,本件の人間ドック等の補助を所得税基本通達36-29又は36-30に定める課税しない経済的利益と判断した。
その結果,会社の源泉徴収義務を否定し,納税告知処分等の全部を取り消した。
役員限定の検査費負担とは,対象者と制度の仕組みが異なる。
国税不服審判所・令和2年1月20日裁決(裁決書(抄))

第5 制度と支払を決める前に確認すること

1 社長だけ上位コースを受ける場合

従業員が受けられる検査と社長のコースを比べ,会社負担に含まれる上乗せ検査とその金額を確認する。
全員が使える基本コースと,役員だけが受けられる上乗せを分けると,課税関係を検討すべき部分が分かる。

2 役員しかいない会社や,受診者が社長1人の場合

役員だけで運営する会社では,国税庁の照会事例と対象者の構成が異なるため,社内規程があることだけで同じ処理を選ばない。
一方,従業員にも制度が実際に周知され,同じ条件で利用できる会社で,ある年に社長1人しか受診しなかった場合は,最初から社長に限定した制度とは事情が異なる。
対象者,周知方法,申込機会,補助額及び実際の運用を資料で確認する。

3 医療機関への直接払いと立替精算

会社が医療機関に直接払う場合も,役員だけに利益が供与されていないかを確認する。
立替精算の場合は,何の検査費を誰が支払い,会社がどの規程に基づいていくら負担したかを明らかにする。
社内規程,案内文,コース別料金,領収書又は請求書,支払記録をそろえて税理士に示すと,給与課税と損金算入を分けて確認できる。

第6 出典・関連記事

1 出典

① 所得税法28条,36条及び183条,法人税法34条,法人税法施行令69条(e-Gov法令検索)
② 所得税基本通達36-29(国税庁)
③ 人間ドックの費用負担(国税庁・質疑応答事例,令和7年8月1日現在)
④ No.5202 役員等に対する経済的利益(国税庁・タックスアンサー,令和8年4月1日現在)
⑤ 福岡地裁平成21年2月19日判決・税務訴訟資料第259号-32(順号11145)16頁~17頁(判例秘書の判例番号 L06451186)
⑥ 国税不服審判所令和2年1月20日裁決

2 関連記事

① 従業員の健康診断-対象者・検査項目・費用・事後措置
② 自由診療・栄養療法・サプリメントの医療費控除―治療,予防,医師の指示及びセルフメディケーション税制