その他裁判所関係

個人事業主の廃業に関するメモ書き

目次
1 廃業した場合の税金関係の手続
2 廃業した場合の労働保険の手続
3 廃業した場合の社会保険の手続
4 関連記事その他

1 廃業した場合の税金関係の手続
・ 個人事業主が廃業する場合,税金に関しては以下の書類を提出する必要があります(マネーフォワードクラウド確定申告HPの「個人事業主が廃業届を提出する手続き・タイミング・書き方を解説」参照)。
① 個人事業の開業・廃業等届出書
② 青色申告の取りやめ届出書
③ 消費税の事業廃止届出書
④ 給与支払事務所等の開設・移転・廃止の届出書
⑤ 所得税及び復興特別所得税の予定納税額の減額申請書
⑥ 個人事業税の事業廃止届出書

2 廃業した場合の労働保険の手続
(1) 廃業した場合,事業所を廃止した日の翌日から50日以内に,労働保険確定保険料申告書を管轄の労働基準監督署等に提出する必要があります。
 また,事業所を廃止した日の翌日から10日以内に,適用事業所廃止届を管轄のハローワークに提出する必要がありますし,その際,従業員(雇用保険の被保険者)は雇用保険の資格を喪失することになるので,資格喪失届及び離職証明書を提出する必要があります。
(2) ADVANCE「事業所を廃止する場合の労働保険手続き」が参考になります。

3 廃業した場合の社会保険の手続
(1) 廃業した場合,事実発生から5日以内に「適用事業所全喪届」を年金事務所に提出する必要がありますところ,その際,雇用保険適用事業所廃止届(事業主控)のコピーを添付すれば足ります(日本年金機構HPの「適用事業所が廃止等により適用事業所に該当しなくなったときの手続き」参照)。
(2)ア 社会保険の被保険者となっている従業員は,事業所が廃止になった日の翌日に社会保険の資格を喪失することになりますから,これらの従業員の健康保険証を回収した上で,「被保険者資格資格喪失届」を年金事務所に提出する必要があります。
イ 保険証を添付できない場合,「健康保険被保険者証回収不能・滅失届」を作成して提出すれば足ります。
(3) 司法書士法人はやみず総合事務所HP「会社解散・清算時の社会保険手続き」が載っています。

4 関連記事その他
(1) 浅野直人税理士事務所HPに「閉院時のカルテの保存について」が載っています。
(2) 国税不服審判所平成22年6月30日裁決は,請求人が営んでいた税理士事務所を他の税理士に承継するに際して受領した金員に係る所得は,譲渡所得には該当しないとした事例です。
(3) 以下の記事も参照してください。
・ 個人事業主の税金,労働保険及び社会保険に関するメモ書き
・ 弁護士登録の取消し

上告不受理決定等と一緒に送られてくる予納郵券に関する受領書

目次
1 総論
2 予納郵便切手の返却時の取扱い
3 最高裁は受領書の提出を督促していないこと
4 関連記事その他

1 総論
(1)ア 簡易書留により郵送される最高裁判所の封筒(サイズは長形3号であり,上告不受理決定が入ってあります。)には,上告受理申立てに際して提出した予納郵券のほか,郵便切手内訳表が右上に記載された返還書兼受領書が一緒に入っています。
    しかし,以前は封筒及び受領書にFAX番号が書いていないため,最高裁判所に対して,FAXにより受領書を提出することができませんから,最高裁判所に対して受領書を提出する場合,持参又は郵送する必要がありました。
イ 特別抗告棄却決定についても同じ取扱いになっていました。
(2) 私の経験では,令和4年12月15日付の特別抗告棄却決定と一緒に入っていた返還書兼受領書にはFAX番号が書いてありました。


2 予納郵便切手の返却時の取扱い
(1) 予納郵便切手の取扱いに関する規程(昭和46年6月14日最高裁判所規程第4号)7条は以下のとおりです。
① 訟廷管理官又は主任書記官は、その保管する予納郵便切手について返還すべき事由が生じたときは、これを返還を受けるべき者に交付し、その者から受領書を受け取らなければならない。
② 主任書記官は、所在不明その他の理由により予納郵便切手を返還することができないときは、これを訟廷管理官に引き継がなければならない。
(2) 予納郵便切手の取扱いに関する規程の運用について(平成7年3月24日付の最高裁判所事務総長の通達)には「主任書記官は,予納郵便切手を郵便により送付して返還するときは,返還を受ける者に予納郵便切手及び返還書とともに受領書の用紙を送付し,これに所要の事項を記載させた上提出させる。」と書いてあります。


3 最高裁は受領書の提出を督促していないこと
(1) 令和3年10月18日付の最高裁判所事務総長の理由説明書には以下の記載があります。
 最高裁判所の書記官が訴訟関係人に対し,予納郵便切手を返還したにもかかわらず,受領書を受け取ることができなかった場合の対応は,書記官が個別に検討し,対応しているところ,その際には高等裁判所事務局長等宛ての事務連絡(平成18年2月24日付け最高裁判所事務総局総務局第三課長及び同家庭局第一課長事務連絡「「郵券通達等の改正の概要について」等の送付について」)を参考にするなどして処理しており,改めて最高裁判所の書記官に対して訴訟関係人から受領書を受け取ることができなかった場合の取扱いを記載した文書を作成又は取得せずども,何ら支障は生じない
(2) 郵券通達等の改正の概要について(平成18年2月24日付の最高裁判所総務局第三課長及び家庭局第一課長の事務連絡)には以下の記載があります。
c 受領書の提出状況の記載について
 従前,郵送により郵券を返還した場合において,受領書を得られないときは,郵券管理簿の「受領印」欄にその理由を記載し,押印することとされており(旧通達記第6の1の(3)のイただし書),その前提として,受領書の提出を受けた場合には,郵券管理簿の「受領印」欄に斜線を引く取扱いがされていた。
 この点,従前から受領書の提出がない場合に受領書の提出の督促や受領者に対する受領の確認までは必要とされておらず,帳簿により受領書の提出状況を把握する必要性は低いと考えられることから,今後は,管理袋に特段の記載をすることを要しないこととした。


4 関連記事その他
(1) 予納郵券額6074円というのは,大阪地裁民事訟廷事務室事件係(本館1階)に上告状を提出する場合(控訴審としての大阪地裁の判決に対して大阪高裁に上告する場合)の切手の組み合わせであります(大阪地裁HPの「民事訴訟等手続に必要な郵便切手一覧表」参照)ところ,大阪高裁民事訟廷事務室事件係(別館10階)に上告受理申立書を提出する場合にも使えます。
(2) 今井功弁護士(平成16年12月から平成21年12月までの間,最高裁判所判事)は,自由と正義2013年6月号13頁において以下のとおり書いています。
  民事事件は,各小法廷で年間1,000件を超えているから,各事件につき,判決書を作成して署名押印し,いちいち法廷を開いて言渡しをすることは,大変な無駄である。旧法時代は,弁論が開かれない上告棄却判決の多くは,傍聴人のいない法廷で,言渡しがされており,当時多くの裁判官から何とかならないかといわれていたものである。
(3)ア 以下の資料を掲載しています。
・ 調書決定事務処理要領(平成27年4月1日付)
・ 大阪高裁民事部の主任決議集(令和3年3月15日改訂)
・ 高等裁判所における上告提起事件及び上告受理申立て事件の処理について
→ 上告審から見た書記官事務の留意事項(令和3年分)に含まれている資料です。
イ 以下の記事も参照して下さい。
・ 上告審に関するメモ書き
・ 最高裁の既済事件一覧表(民事)
・ 最高裁の破棄判決等一覧表(平成25年4月以降の分),及び最高裁民事破棄判決等の実情
・ 最高裁判所に係属した許可抗告事件一覧表(平成25年分以降),及び許可抗告事件の実情

・ 最高裁判所事件月表(令和元年5月以降)
・ 2000円の印紙を貼付するだけで上告受理申立てをする方法
・ 控訴審に関するメモ書き
・ 最高裁判所調査官
・ 最高裁判所判例解説

遅延損害金に関するメモ書き

目次
1 総論
2 労災保険及び厚生年金保険の場合,不法行為時から当該年金の支給日までの遅延損害金は発生しないこと
3 自賠責保険の被害者請求と遅延損害金
4 関連記事その他

 総論
(1) 不法行為に基づく損害賠償債務は,損害の発生と同時に,なんらの催告を要することなく,遅滞に陥ります(最高裁平成7年7月14日判決(判例秘書に掲載)。なお,先例として,最高裁昭和37年9月4日判決)。
(2)  不法行為と相当因果関係に立つ損害である弁護士費用の賠償債務は,当該不法行為の時に履行遅滞となります(最高裁昭和58年9月6日判決)。
(3) 同一事故により生じた同一の身体傷害を理由とする損害賠償債務は一個と解すべきであって,一体として損害発生の時に遅滞に陥るものであり,個々の損害費目ごとに遅滞の時期が異なるものではありません(最高裁昭和58年9月6日判決参照)から,同一の交通事故によって生じた身体傷害を理由として損害賠償を請求する事件において,個々の遅延損害金の起算日の特定を問題にする余地はありません(最高裁平成7年7月14日判決(判例秘書に掲載))。

2 
労災保険及び厚生年金保険の場合,不法行為時から当該年金の支給日までの遅延損害金は発生しないこと
(1) 被害者が不法行為によって死亡した場合において,その損害賠償請求権を取得した相続人が遺族補償年金の支給を受け,又は支給を受けることが確定したときは,制度の予定するところと異なってその支給が著しく遅滞するなどの特段の事情のない限り,その塡補の対象となる損害は不法行為の時に塡補されたものと法的に評価して損益相殺的な調整が行われます(最高裁大法廷平成27年3月4日判決。なお,先例として,最高裁平成22年9月13日判決等参照)。
(2) 最高裁大法廷平成27年3月4日判決の事案では,葬祭料の他,事実審の口頭弁論終結時までの遺族補償年金が損益相殺の対象となりました。
(3) 遺族補償年金が支払時における損害金の元本及び遅延損害金の全部を消滅させるに足りないときは,遅延損害金の支払債務にまず充当されるべきものであることは明らかである(民法491条1項参照)と判示した最高裁平成16年12月20日判決は,最高裁大法廷平成27年3月4日判決によって変更されました。
(4) 最高裁平成16年12月20日判決は,死亡事案において,厚生年金保険法に基づく遺族厚生年金が損害賠償債務の元本及び遅延損害金の全部を消滅させるに足りないときは,事故の日から上記年金の支払日までの間に発生した遅延損害金の支払債務にまず充当されるべきものであることは明らかであると判示しているものの,最高裁大法廷平成27年3月4日判決の判断内容からすれば,遺族厚生年金についても,不法行為時から当該年金の支給日までの遅延損害金は発生しないことになると思います。

3 自賠責保険の被害者請求と遅延損害金
(1)ア 自賠法16条1項に基づく被害者の自賠責保険会社に対する直接請求権は,被害者が保険会社に対して有する損害賠償請求権であって,保有者の保険金請求権の変形ないしそれに準ずる権利ではありませんから,自賠責保険会社の被害者に対する損害賠償債務は商法514条所定の「商行為によって生じた債務」には当たりません。
    そのため,自賠責保険会社の遅延損害金の利率は,令和2年3月31日以前に発生した交通事故の場合,民法419条1項本文・404条に基づき,年5%となります(最高裁昭和57年1月19日判決参照)。
イ 令和2年4月1日以降に発生した交通事故の場合,遅延損害金の利率は年3%となります。
(2)ア 自賠責保険会社は,自賠法16条1項に基づく損害賠償額の支払の請求があった後,当該請求に係る自動車の運行による事故及び当該損害賠償額の確認をするために必要な期間が経過するまでは,遅滞の責任を負いません(自賠法16条の9第1項)。
    そのため,その限度で,最高裁昭和61年10月9日判決(先例として,最高裁昭和39年5月12日判決)の判断内容は修正されています。
イ 自賠法16条の9第1項にいう「当該請求に係る自動車の運行による事故及び当該損害賠償額の確認をするために必要な期間」とは,保険会社において,被害者の損害賠償額の支払請求に係る事故及び当該損害賠償額の確認に要する調査をするために必要とされる合理的な期間をいい,その期間については,事故又は損害賠償額に関して保険会社が取得した資料の内容及びその取得時期,損害賠償額についての争いの有無及びその内容,被害者と保険会社との間の交渉経過等の個々の事案における具体的事情を考慮して判断されます(最高裁平成30年9月27日判決)。
(3) 実務上,自賠責保険会社に対して遅延損害金を請求する場合,訴訟提起する必要がありますものの,逸失利益が小さくなる65歳以上の年金受給者の場合を除き,遅延損害金を付けなくても,「支払基準」で計算される損害額が保険金額を超えることが多いですから,訴訟提起する実益がありません。
    また,自賠責保険会社に対して訴訟提起した場合,「支払基準」に基づく過失相殺ではなく,実際の過失割合通りに過失相殺されます(最高裁平成24年10月11日判決。なお,先例として,最高裁平成18年3月30日判決参照)から,被害者の過失が大きい場合,訴訟提起する実益がありません。
(4) 自賠責保険金が支払時における交通事故の損害金の元本及び遅延損害金の全部を消滅させるに足りないときは,遅延損害金の支払債務にまず充当されます(最高裁平成16年12月20日判決)。

4 関連記事その他
(1)ア  離婚に伴う慰謝料として夫婦の一方が負担すべき損害賠償債務は,離婚の成立時に遅滞に陥ります(最高裁令和4年1月28日判決)。
イ 令和2年4月1日以降の民法404条(法定利息)2項は「法定利率は、年三パーセントとする。」と定めていますし,「離婚に伴う慰謝料として夫婦の一方が負担すべき損害賠償債務は,離婚の成立時に遅滞に陥る。」と判示した最高裁令和4年1月28日判決の主文1項には「上告人は,被上告人に対し,20万円に対する本判決確定の日の翌日から支払済みまで年3パーセントの割合による金員を支払え。」と書いてあります。
    そのため,請求の趣旨に記載する遅延損害金については%表示でいいと思います。
(2)ア 「実務に役立つ交通事故判例-東京地裁民事第27部裁判例から」327頁には,東京地裁交通部の取扱いとして,「自賠責保険の損害賠償額については遅延損害金から充当され,対人賠償責任保険からの支払いは,損害費目との結び付きが明確であれば元本に充当する黙示の合意を認めている。」と書いてあります。
イ 二弁フロンティア2022年4月号「【前編】交通事故訴訟の最新の運用と留意点~東京地裁民事第27部(交通部)インタビュー~」には「民事交通訴訟では、共同不法行為者間の求償債務が問題となることもありますが、この求償債務については、期限の定めのない債務とみて、遅延損害金の起算日を求償金支払催告日の翌日とした判例(最高裁平成10年9月10日第一小法廷判決・民集52巻6号1494頁)がありますので、催告日の翌日の法定利率によって遅延損害金を算定することとなります。」と書いてあります。
(3) 不法行為に基づく損害賠償債務の遅延損害金は,民法405条の適用又は類推適用により元本に組み入れることはできません(最高裁令和4年1月18日判決)。
(4) 損害賠償金に係る遅延損害金は雑所得となるものの,弁護士費用賠償金に係る遅延損害金は,被害者において支出を余儀なくされる弁護士費用の一部に充てられるものですから,非課税所得となります(国税不服審判所平成22年4月22日裁決)。
(5) 以下の記事も参照してください。
・ 共同不法行為に関するメモ書き
・ 自賠責保険の支払基準(令和2年4月1日以降の交通事故に適用されるもの)

共同不法行為に関するメモ書き

目次
1 共同不法行為者の責任
2 共同不法行為と過失相殺
3 共同不法行為者が損害の一部を支払った場合
4 共同不法行為者間の求償
5 不真正連帯債務における相対的効力
6 連帯債務と不真正連帯債務の主な違い等
7 関連記事その他

1 共同不法行為者の責任
(1) 交通事故の被害者がその後に第二の交通事故により死亡した場合,最初の事故の後遺障害による財産上の損害の額の算定に当たっては,死亡の事実は就労可能期間の算定上考慮すべきものではありません(最高裁平成8年5月31日判決)。
(2) 交通事故と医療事故とが順次競合し,そのいずれもが被害者の死亡という不可分の一個の結果を招来しこの結果について相当因果関係を有する関係にあって,運転行為と医療行為とが共同不法行為に当たる場合において,各不法行為者は被害者の被った損害の全額について連帯責任を負うべきものであり,結果発生に対する寄与の割合をもって被害者の被った損害額を案分し,責任を負うべき損害額を限定することはできません(最高裁平成13年3月13日判決)。

2 共同不法行為と過失相殺
(1) 交通事故と医療事故とが順次競合し,そのいずれもが被害者の死亡という不可分の一個の結果を招来しこの結果について相当因果関係を有する関係にあって,運転行為と医療行為とが共同不法行為に当たる場合において,過失相殺は,各不法行為の加害者と被害者との間の過失の割合に応じてすべきものであり,他の不法行為者と被害者との間における過失の割合をしんしゃくしてすることは許されません(最高裁平成13年3月13日判決)。
(2) 複数の加害者の過失及び被害者の過失が競合する一つの交通事故において,その交通事故の原因となったすべての過失の割合(いわゆる絶対的過失割合)を認定することができるときには,絶対的過失割合に基づく被害者の過失による過失相殺をした損害賠償額について,加害者らは連帯して共同不法行為に基づく賠償責任を負います(最高裁平成15年7月11日判決)。

3 共同不法行為者が損害の一部を支払った場合

・ 1つの交通事故について甲及び乙が被害者丙に対して連帯して損害賠償責任を負う場合において,乙の損害賠償責任についてのみ過失相殺がされ,両者の賠償すべき額が異なるときは,甲がした損害の一部てん補は,てん補額を丙が甲からてん補を受けるべき損害額から控除しその残損害額が乙の賠償すべき額を下回ることにならない限り,乙の賠償すべき額に影響しません(最高裁平成11年1月29日判決(判例秘書に掲載))。

4 共同不法行為者間の求償

(1) 自賠責保険金は,被保険者の損害賠償債務の負担による損害をてん補するものであるから,共同不法行為者間の求償関係においては,被保険者の負担部分に充当されます(最高裁平成15年7月11日判決)。
(2) 共同不法行為者の一人甲と被害者丙との間で成立した訴訟上の和解により,甲が丙の請求額の一部につき和解金を支払うとともに,丙が甲に対し残債務を免除した場合において,他の共同不法行為者乙に対しても残債務の免除の効力が及ぶときは,甲の乙に対する求償金額は,確定した損害額である右訴訟上の和解における甲の支払額を基準とし,双方の責任割合に従いその負担部分を定めて,これを算定すべきとされます(最高裁平成10年9月10日判決。なお,先例として,最高裁昭和63年7月1日判決及び最高裁平成3年10月25日判決参照)。
(3) 一問一答 民法(債権関係)改正119頁には以下の記載があります。
    例えば、旧法下の判例(最判昭和63年7月1日)は、一般的に不真正連帯債務と解されている共同不法行為に基づく損害賠償債務のケースで、弁済などをした連帯債務者は、他の連帯債務者に対し、自己の負担部分を超えて共同の免責を得ていない限り、求償はできないとするが、一部しか弁済がされていない場合は、他の連帯債務者は、弁済をした連帯債務者からの求償に応じるよりもむしろそれを被害者への賠償にあてることが被害者保護に資するという考え方にも合理性があるから、共同不法行為のケースには新法第442条第1項(改正の内容については、Q66参照)を適用しないという解釈もあり得るものと考えられる。

5 不真正連帯債務における相対的効力
(1) 被用者の不法行為に基づく責任と民法715条に基づく使用者の責任とはいわゆる不真正連帯債務の関係にあり,その一方の債務について和解等がされても,現実の弁済がされない限り,他方の債務については影響がありません(最高裁昭和45年4月21日判決)。
(2)  不真正連帯債務者中の一人と債権者との間の確定判決は,他の債
務者にその効力を及ぼすものではなく,このことは,民訴法114条2項により確定判決の既判力が相殺のために主張された反対債権の存否について生ずる場合においても同様です。
    そのため,不真正連帯債務者中の一人と債権者との間で右債務者の反対債権をもってする相殺を認める判決が確定しても,右判決の効力は他の債務者に及ぶものではありません(最高裁昭和53年3月23日判決)。

6 連帯債務と不真正連帯債務の主な違い等
(1) 令和2年4月施行の民法改正に基づき,連帯債務の絶対的効力事由が削減されました(法務省HPの「連帯債務に関する見直し」参照)。
    その結果,連帯債務と不真正連帯債務の主な違いは,連帯債務では一部の債務者が負担部分に満たない弁済を行った場合であっても他の債務者に負担割合に応じて求償できるのに対し,不真正連帯債務では負担部分を超えた弁済を行った場合のみ求償できるという程度に限られています(新日本法規HPの「交通事故に基づく損害賠償実務と民法、民事執行法、自賠責支払基準改正(法苑191号) 」参照)。
(3)ア 例えば,甲,乙及び丙が300万円の連帯債務を負っており,甲の債務について時効が完成したとしても,相対的効果しかないために(改正民法441条),債権者は,乙及び丙に対しても300万円の請求ができます。
    また,改正民法445条は「連帯債務者の一人に対して債務の免除がされ、又は連帯債務者の一人のために時効が完成した場合においても、他の連帯債務者は、その一人の連帯債務者に対し、第四百四十二条第一項の求償権を行使することができる。」と規定していますから,乙又は丙が債権者に弁済した場合,時効が完成している甲に対して求償できます。
イ 改正民法445条は,連帯債務において時効援用の効果を相対的効力に変更したことを受けた改正です(一問一答・民法(債権関係)改正125頁)。
    そのため,不真正連帯債務者の一人Aについて時効が完成したときに他の不真正連帯債務者Bが被害者に弁済した場合,不真正連帯債務にも民法445条が準用されると思いますから,BはAに対して求償できると思います。

 関連記事その他
(1) 被害者によって特定された複数の行為者のほかに被害者の損害をそれのみで惹起し得る行為をした者が存在しないことは,民法719条1項後段の適用の要件です(最高裁令和3年5月17日判決)。
(2)  使用者の施工にかかる水道管敷設工事の現場において,被用者が,右工事に従事中,作業用鋸の受渡しのことから,他の作業員と言い争ったあげく同人に対し暴行を加えて負傷させた場合,これによって右作業員の被った損害は、被用者が事業の執行につき加えた損害にあたります(最高裁昭和44年11月18日判決)。
(3) 以下の記事も参照してください。
・ 自賠責保険の支払基準(令和2年4月1日以降の交通事故に適用されるもの)

民事裁判手続のIT化

目次
第1 IT化の経緯の骨子
1 裁判手続等のIT化の検討開始
2 内閣官房における検討
3 商事法務研究会における検討,及びteamsの使用拡大
4 三つのeに関する法制審議会における検討から改正法の公布まで
5 mints
6 家事事件等のIT化
第2 ウェブ会議等のITツール(teams)を活用した争点整理手続
1 総論
2 実施裁判所の拡大状況
3 今後の予定
4 ウェブ会議における裁定和解
5 teamsの操作メモ
6 弁論準備手続期日に電話会議で出席した場合であっても,期日への出頭日当が認められること
7 弁論準備手続において通話先の場所の確認が不要になったこと
8 その他
第3 mints(民事裁判書類電子提出システム)
1 総論
2 名称の由来
3 実施裁判所の拡大状況
4 今後の予定
5 その他
第4 e事件管理及びe提出は令和7年度中に実施される予定であること
第5 民事非訟事件手続及び家事事件手続等のデジタル化
第6 民事判決情報データベース化
第7
 インターネットFAX
第8 関連記事その他

第1 IT化の経緯の骨子
1 裁判手続等のIT化の検討開始
・ 平成29年6月9日,未来投資戦略2017(成長戦略)及び骨太の方針2017において,裁判手続等のIT化を推進することとされました。
2 内閣官房における検討
(1) 平成29年10月30日,内閣官房日本経済再生本部おいて裁判手続等のIT化検討会が立ち上がりました。
(2) 平成30年3月30日,同検討会で「裁判手続等のIT化に向けた取りまとめ-「3つのe」の実現に向けて-」が取りまとめられられましたところ,同取りまとめ20頁では,フェーズ1は現行法の下でのウェブ会議・テレビ会議等の運用(e法廷)であり,フェーズ2は新法に基づく弁論・争点整理等の運用(e法廷)であり,フェーズ3はオンラインでの申立て等の運用(e提出及びe事件管理)であるとされました。
(3) 平成30年6月15日,未来投資戦略2018において,民事訴訟に関する裁判手続等の全面IT化の実現を目指すとされました。
3 商事法務研究会における検討,及びteamsの使用拡大
(1) 平成30年7月24日,公益社団法人商事法務研究会で民事裁判手続等IT化研究会が立ち上がりました。
(2) 令和元年12月13日過ぎ頃,同研究会で「民事裁判手続等IT化研究会報告書-民事裁判手続のIT化の実現に向けて-」が取りまとめられました。
(3) ウェブ会議による争点整理のため,令和2年2月3日に東京地裁等でteamsが使用されるようになり,令和4年11月7日にすべての下級裁判所でteamsが使用されるようになる予定です。
4 三つのeに関する法制審議会における検討から改正法の公布まで
(1) 令和2年6月19日,法制審議会において民事訴訟法(IT化関係)部会が立ち上がりました。
(2) 令和4年1月28日,同部会で「民事訴訟法(IT化関係)等の改正に関する要綱案」が取りまとめられました。
(3) 令和4年5月25日,民事訴訟法等の一部を改正する法律が公布された結果,令和8年5月までに三つのe(e法廷,e提出及びe事件管理)が実施されることが決まりました。
5 mints
・ 令和4年2月15日,e提出の一部について現行法上可能な範囲で先行実施するため,mintsの試行運用が開始しました。
6 家事事件等のIT化
(1) 令和3年4月20日,公益社団法人商事法務研究会で家事事件手続及び民事保全,執行,倒産手続等IT化研究会が立ち上がりました。
(2) 令和3年11月29日過ぎ頃,家事事件手続及び民事保全、執行、倒産手続等IT化研究会報告書が取りまとめられました。
(3) 令和4年4月8日,法制審議会において民事執行・民事保全・倒産及び家事事件等に関する手続(IT化関係)部会が立ち上がりました。


第2 ウェブ会議等のITツール(teams)を活用した争点整理手続
1 総論

(1) 最高裁判所のteamsは,裁判所の開庁日である平日8時30分から20時までの間に限り使えます(新清水法律事務所HPの「民事IT裁判FAQ18~夜間・休日はNG~」参照)。
(2) 民事訴訟事件の争点整理において、Teams が活用されるのは世界初らしいです(マイクロソフトHPの「裁判所の民事訴訟手続きの IT 化において、Microsoft Teams を採用」参照)。
(3) e法廷とは,ウェブ会議による裁判期日のことです。
(4) SE Design「初心者でも分かる「Microsoft Teams」の基本〜超便利なビジネスコミュニケーションツールの機能と使い方」には以下の記載があります。
Teams(Microsoft Teams)はマイクロソフト社が推奨するMicrosoft365のコミュニケーションツールで、Skype for businessの後継として登場しました(Skype for businessは2021年7月31日に提供終了)。Teamsにはチャット・通話機能の他、ビデオ会議機能、ファイル共有機能、Officeアプリとの連携機能があり、Microsoftアカウントがあれば無料での利用も可能です。


2 実施裁判所の拡大状況
・ 民事事件においてteamsを使ったウェブ会議(民事裁判手続IT化におけるフェーズ1)は以下のとおり実施裁判所が拡大していきました(裁判所HPの「全国の高等裁判所及び地方裁判所でウェブ会議等のITツールを活用した争点整理の運用を開始しました。」参照)。
(1) 令和2年2月3日
・ 知財高裁,東京地裁,大阪地裁,名古屋地裁,広島地裁,福岡地裁,仙台地裁,札幌地裁及び高松地裁で開始しました。
・ 地裁については本庁だけが対象です。
・ 東京地裁本庁及び大阪地裁本庁については一部の民事部だけでした(大阪地裁15民(交通部)も含まれていました。)。
(2) 令和2年5月11日
・ 横浜地裁,さいたま地裁,千葉地裁,京都地裁及び神戸地裁で開始しました。
・ 本庁だけが対象です。
(3) 令和2年7月6日
・ 東京地裁本庁及び大阪地裁本庁で使用する部が拡大しました。
(4) 令和2年11月2日
・ 東京地裁本庁のすべての部で開始しました。


(5) 令和2年12月14日
・ 未実施であった残り37の地裁本庁で開始しました(裁判所HPの「全国の地方裁判所本庁でウェブ会議等のITツールを活用した争点整理の運用を開始しました。」参照)。
(6) 令和4年2月14日
・ 離島にある8の地裁支部で開始しました。
(7) 令和4年5月23日
・ 73の地裁支部(例えば,大阪地裁堺支部)で開始しました。
(8) 令和4年7月4日
・ 未実施であった残り122の地裁支部で開始しました(裁判所HPの「地方裁判所支部におけるウェブ会議等のITツールを活用した争点整理の運用の開始について」参照)。
(9) 令和4年11月7日
・ すべての高裁本庁・支部で開始しました(裁判所HPの「高等裁判所におけるウェブ会議等のITツールを活用した争点整理の運用の開始について」参照)。


3 今後の予定
(1) 令和4年5月成立の改正民訴法に基づき,弁論準備手続の完全オンライン実施及びウェブ会議等による和解期日は令和5年5月までに開始する予定であり,口頭弁論のオンライン実施は令和6年5月までに開始する予定です(KEIYAKU-WATCHの「【2022年5月公布】民事訴訟法改正とは?民事訴訟(裁判)のIT化を解説!」参照)。
(2)ア 民事訴訟法等の一部を改正する法律の一部の施行期日を定める政令(令和4年12月16日政令第384号)に基づき令和5年3月1日以降の民事訴訟法170条3項は以下のとおりとなりますから,弁論準備手続の完全オンライン実施が可能となります。
裁判所は、相当と認めるときは、当事者の意見を聴いて、最高裁判所規則で定めるところにより、裁判所及び当事者双方が音声の送受信により同時に通話をすることができる方法によって、弁論準備手続の期日における手続を行うことができる。
イ 弁論準備手続としてウェブ会議が実施された場合,民事訴訟法169条2項に基づき,当事者が申し出た者については,手続を行うのに支障を生ずるおそれがない限り,相手方の同意なくウェブ会議を傍聴できることになります。


4 ウェブ会議における裁定和解
(1) ウェブ会議による書面による準備手続の場合,受諾和解(民事訴訟法264条)は利用できませんから,訴訟上の和解を成立させるためには裁定和解(民事訴訟法265条)を利用することになります。
(2)ア 民事訴訟法265条1項は「裁判所又は受命裁判官若しくは受託裁判官は、当事者の共同の申立てがあるときは、事件の解決のために適当な和解条項を定めることができる。」と定めているものの,新しい民事訴訟の実務111頁によれば,両当事者の意思の一致が確保される限り,他方当事者との共同の申立てである旨を記載した申立書を各当事者が別個に提出する方法によることもできるとのことです。
イ 私の経験では,原告訴訟代理人として以下のような文言で裁定和解の申立てをして,被告訴訟代理人が原告の和解条項案に同意するという書面を出した後に,ウェブ会議で裁定和解を成立させたことがあります。
1 頭書事件について,原告は,被告との間で,裁判所の定める和解条項に服することによって本件訴訟を解決することにしましたから,民事訴訟法265条1項に基づき,裁判所が事件の解決のために適当な和解条項を定めるように申し立てます。
2 原告としては,下記の和解条項による裁定和解を希望していますから,民事訴訟規則164条1項に基づく意見として述べておきます。

(和解条項案)
(3)ア 裁定和解の場合,ウェブ会議による書面による準備手続において和解条項の告知があります(民事訴訟法265条3項参照)ところ,期日が開催されるわけではありません。
    そのため,裁定和解の申立書と一緒に和解調書正本に関する送達申請書も出しておいた方がいいです。
イ 神戸地裁HPの「申立て等で使う書式例」送達申請書の書式が載っていますところ,和解調書の送達申請の場合,リンク先の請書部分は不要です。
(4) 令和5年3月1日以降については,双方ウェブ会議による弁論準備手続で和解ができるようになりました(改正後の民事訴訟法170条3項及び4項参照)から,「ウェブ会議における裁定和解」というものはなくなると思います。


5 teamsの操作メモ
(1)ア クラスメソッドHP「[Microsoftアカウント]と[職場または学校アカウント]の違い」が載っていますところ,私が裁判所の期日においてteamsを利用する場合,「個人のアカウント」(お客様が作成)となる「Microsoftアカウント」を使っています。
イ 弁護士 木村康之のブログ「【弁護士向け】裁判所Teamsに登録した後の不具合」では,「職場または学校アカウント」で裁判所のTeamsに接続しているみたいです。
(2) Aprico Hの「Teamsでチームが表示されない場合の対処法!」には,「Office 365」・「Microsoft 365 Business」といった有料プランに加入していても、個人用のアカウントでMicrosoft Teamsにログインしている場合はメニューにTeamsが表示されません。仕事と組織向けのアカウントでサインインを行うようにしましょう。」と書いてありますところ,令和4年10月16日時点で,私はMicrosoftコミュニティの「teamsのアプリバーに「チーム」が表示されない 」等を見ても「仕事と組織向けのアカウント」の作成方法が分かりません。
(3) システム開発メモブログの「Teamsが起動しない更新されない場合の対処」によれば,対処法は,①Teamsをログアウト,②Teamsアプリのキャッシュクリア,③Teamsアプリを再インストール,④Teams Web版を使用するとのことです。
(4) チームズにサインインをした後,画面左の「チームを管理」を左クリックすれば,自分が参加しているチームの一覧が表示されますところ,「ユーザー」欄の数字を左クリックすれば,「所有者」(裁判官及び書記官)並びに「メンバーおよびゲスト」(訴訟代理人)を表示できます。
(5) 月刊大阪弁護士会2022年12月号及び2023年1月号に掲載されている「民事裁判手続のIT化~フェーズⅠの運用状況~」には以下の事項に関する記載があります。
・ Teamsについて
・ 対象事件
・ ウェブ会議が利用される手続の種別とその基本的内容
・ ウェブ会議の実施の契機など
・ ウェブ会議の参加場所
・ ウェブ会議の実施にあたっての留意点
・ Teamsの各種機能を用いた工夫例
・ 迅速かつ充実した審理に向けた近時の取り組みなど
・ 記録課(調書の作成が必要的とされていない書面による準備手続を想定)
・ 和解について


6 弁論準備手続期日に電話会議で出席した場合であっても,期日への出頭日当が認められること
(1) 札幌高裁平成26年6月25日決定(判例時報2291号(2016年6月11日号)16頁及び17頁)の理由の概要は以下のとおりであって,当事者又は訴訟代理人が弁論準備手続期日に電話会議で出席した場合であっても,3950円の「日当」(費用法2条4号ロ(当事者の場合)又は2条5号(代理人の場合))が訴訟費用として認められると判示しました。
    費用法2条4号,5号は,当事者等又は代理人が期日に出頭するための「日当」が,当事者等又はその他の者が負担すべき民事訴訟等の費用の範囲であり,その額は「出頭・・・に現実に要した日数」に応じて最高裁判所が定める額である旨定めているところ,電話会議の方法による弁論準備手続期日に出頭しないでその手続に関与した場合でも,「期日に出頭しないで同項(注:民訴法170条3項)の手続に関与した当事者は、その期日に出頭としたものとみなす」とされており(同条4項),費用法は,前記の場合を「日当」の対象から除外していない。そうすると,前記の場合においても「日当」を訴訟費用額として認めた本件処分は相当である。
    また,訴訟費用額確定処分は,基本事件について,その訴訟記録に基づき,訴訟費用の負担の額を費用法等で定められた算定方法により確定するものであり,基本事件ごとに算定されるものである。したがって,基本事件の代理人が基本事件の期日を利用して他の事件の期日に出頭している可能性がある場合であっても,基本事件の「旅費」を算定するに当たり,基本事件の訴訟記録及び当事者が提出した訴訟費用額の疎明に必要な書面において基本事件の期日を利用した他事件への出頭状況を示す証拠資料があるなど特段の事情がない限り,これを考慮する必要はないというべきである。そして,本件において前記特段の事情は認められない(また,訴訟費用額確定処分においては特別な証拠調べが予定されていない上,異議審ないし抗告審において調査嘱託等の証拠調べをすることが許されるとしても,本件において代理人が同一日に他の事件の期日に出頭したことの有無に関する調査嘱託等の証拠調べを行う必要は認められない。)。そうすると,Y代理人が出頭した期日の「旅費」の全額を訴訟費用額として認めた本件処分は相当である。
(2) 最高裁平成26年12月17日決定は,「所論の点に関する原審の判断は,正当として是認することができる。論旨は採用することができない。」と判示して許可抗告を棄却しました。

7 弁論準備手続において通話先の場所の確認が不要になったこと
(1)ア 令和4年5月25日法律第48号による改正前の民事訴訟法170条3項は以下のとおりでした。
裁判所は、当事者が遠隔の地に居住しているときその他相当と認めるときは、当事者の意見を聴いて、最高裁判所規則で定めるところにより、裁判所及び当事者双方が音声の送受信により同時に通話をすることができる方法によって、弁論準備手続の期日における手続を行うことができる。ただし、当事者の一方がその期日に出頭した場合に限る。
イ 令和4年11月7日最高裁判所規則第17号による改正前の民事訴訟規則88条(弁論準備手続調書等・法第百七十条等)は以下のとおりでした。
① 弁論準備手続の調書には、当事者の陳述に基づき、法第百六十一条(準備書面)第二項に掲げる事項を記載し、特に、証拠については、その申出を明確にしなければならない。
② 裁判所及び当事者双方が音声の送受信により同時に通話をすることができる方法によって弁論準備手続の期日における手続を行うときは、裁判所又は受命裁判官は、通話者及び通話先の場所の確認をしなければならない。
③ 前項の手続を行ったときは、その旨及び通話先の電話番号を弁論準備手続の調書に記載しなければならない。この場合においては、通話先の電話番号に加えてその場所を記載することができる。
④ 第一項及び前項に規定するほか、弁論準備手続の調書については、法第百六十条(口頭弁論調書)及びこの規則中口頭弁論の調書に関する規定を準用する。
イ 民事事件の口頭弁論調書等の様式及び記載方法について(平成16年1月23日付の最高裁判所総務局長,民事局長,家庭局長通達)には以下の記載があります。
裁判所及び当事者双方が音声の送受信により同時に通話をすることができる方法により手続を行った場合には,「場所等」の「電話会議の方法による」の□にレを付し,期日に出頭しないでこの方法により手続に関与した当事者の氏名は,「出頭した当事者等」に記載し,通話先の電話番号及びその場所は,その当事者の氏名に続いて括弧書きで記載する。
ウ 条解民事訴訟規則202頁及び203頁には以下の記載があります。
電話会議の方法により手続を行う場合には,上記3のとおり,法170条3項の定める「当事者が遠隔の地に居住しているときその他相当と認めるとき」との要件との関係で,通話先の場所がどこであるかが重要な判断要素となることもあり得る。ただ,通常の場合,本条3項前段により通話先の電話番号を記載することとしておけば,その電話番号によって通話先の場所をある程度特定することも可能であると考えられることから,本条3項後段は,通話先の電話番号に加え,あえてその場所までを調書上記載しておくことが必要である場合(4)に限って,付加的な記載事項として,「通話先の場所」を調書に記戦することとしたものである。
(中略)
(注4) 例えば,携帯電話など可動式の電話機が使用されたような場合には,通話先の電話番号のみでは,通話先の場所を特定することが困難であることもあり得る。
(2)ア 令和4年5月25日法律第48号による改正後の民事訴訟法170条3項は以下のとおりであって,「当事者が遠隔の地に居住しているときその他」という文言及びただし書が削られました。
裁判所は、相当と認めるときは、当事者の意見を聴いて、最高裁判所規則で定めるところにより、裁判所及び当事者双方が音声の送受信により同時に通話をすることができる方法によって、弁論準備手続の期日における手続を行うことができる。
イ 令和4年11月7日最高裁判所規則第17号による改正後の民事訴訟規則88条(弁論準備手続調書等・法第百七十条等)は以下のとおりですから,弁論準備手続において,通話先の場所を回答する必要はありません。
① 弁論準備手続の調書には、当事者の陳述に基づき、法第百六十一条(準備書面)第二項に掲げる事項を記載し、特に、証拠については、その申出を明確にしなければならない。
② 裁判所及び当事者双方が音声の送受信により同時に通話をすることができる方法によって弁論準備手続の期日における手続を行うときは、裁判所又は受命裁判官は、次に掲げる事項を確認しなければならない。
一 通話者
二 通話者の所在する場所の状況が当該方法によって手続を実施するために適切なものであること。
③ 前項の手続を行ったときは、その旨及び同項第二号に掲げる事項を弁論準備手続の調書に記載しなければならない。
④ 第一項及び前項に規定するほか、弁論準備手続の調書については、法第百六十条(口頭弁論調書)及びこの規則中口頭弁論の調書に関する規定を準用する。
ウ 令和4年11月7日最高裁判所規則第17号による改正後の民事訴訟規則88条の施行日が令和5年2月20日であるのか,同年3月1日であるのかはよく分かりません。

8 その他
(1) 日本弁理士会の月刊パテント2020年12月号「民事訴訟におけるウェブ会議等を活用した新たな運用」が載っています。
(2) app worldに「Windows11にTeams統合!タスクバーからチャットが可能に」が載っています。


第3 mints(民事裁判書類電子提出システム)
1 総論
(1) mintsは,①民事訴訟法132条の10等に基づき裁判書類をオンラインで提出するためのシステムであり,②対象となるのは,準備書面,書証の写し,証拠説明書など,民訴規則3条1項によりファクシミリで提出することが許容されている書面であり,③当事者双方に訴訟代理人があり、双方の訴訟代理人がmintsの利用を希望する事件において利用できます(裁判所HPの「民事裁判書類電子提出システム(mints)について」参照)。
(2) mints(民事裁判書類電子提出システム)HP「操作マニュアル」が載っていますところ,6頁によれば,ファイル名は拡張子まで含めて最大50文字までとのことです。


2 名称の由来
・ 民事訴訟手続における裁判書類の電子提出に係るアプリケーションの主な機能等について(令和3年6月17日付の最高裁判所情報政策課参事官,民事局総括参事官の事務連絡)には以下の記載があります。
    「mints」とは,「MINji saibansyorui denshi Teisyutsu System」の略称である。本システムの利用により,一層,裁判手続のIT化(デジタル化)が促進され,裁判手続の新しい時代を迎えることを示すものとして,「mint(ミント)」のさわやかな語感も意識し,命名したものである。


3 mintsの実施裁判所の拡大状況
・ mintsの実施裁判所は以下のとおり拡大しています。
(1) 令和4年2月15日
・ 甲府地裁本庁及び大津地裁本庁で試行運用が開始しました。
・ 令和3年6月現在,甲府地家裁所長は43期の安東章裁判官(元最高裁情報政策課長)であり,大津地家裁所長は40期の冨田一彦裁判官でした。
(2) 令和4年4月21日
・ 甲府地裁本庁及び大津地裁本庁で本格運用が開始しました。
(3) 令和4年5月10日
・ 知財高裁,東京地裁商事部,東京地裁知財部等及び大阪地裁知財部で試行運用が開始しました。
(4) 令和4年6月28日
・ 知財高裁,東京地裁商事部,東京地裁知財部等及び大阪地裁知財部で本格運用が開始しました。
(5) 令和4年11月24日
・ 東京地裁本庁及び大阪地裁本庁の残りすべての部,並びに名古屋地裁本庁,広島地裁本庁,福岡地裁本庁,仙台地裁本庁,札幌地裁本庁及び高松地裁本庁で習熟期間が開始しました。


(6) 令和5年1月24日
・ 東京地裁本庁及び大阪地裁本庁の残りすべての部,並びに名古屋地裁本庁,広島地裁本庁,福岡地裁本庁,仙台地裁本庁,札幌地裁本庁及び高松地裁本庁で本格運用が開始しました。
(7) 令和5年6月20日
・ 東京高裁を除く全ての高裁本庁及び全ての地裁本庁で本格運用が開始しました。
(8) 令和5年9月12日
・ 東京高裁で本格運用が開始しました。
(9) 令和5年11月28日
・ すべての地裁支部で本格運用が開始しました。


4 今後の予定
・ 最高裁判所の令和5年度概算要求書(説明資料)377頁には「(1) 民事裁判書類電子提出システムに係るクラウド基盤の提供、運用・保守及び展開支援」として以下の記載があります。
<要求要旨>
    本システムは、e提出の一部について、現行法上可能な範囲で先行実施するためにクラウド上に開発されたシステムであるところ、令和4年度には、甲府地方裁判所本庁、大津地方裁判所本庁、知的財産高等裁判所及び高等裁判所所在地の地方裁判所本庁にそれぞれ導入し、令和5年度には全国の高等裁判所、高等裁判所所在地以外の地方裁判所本庁及び全国の地方裁判所の支部に導入することを予定している。
    本システムの安定した稼働を維持するためには、本システムで使用するクラウド基盤の提供とアプリケーション及びクラウドの運用保守を調達する必要がある。また、本システムは裁判所職員のみならず当事者等の国民も利用するシステムであり、令和5年度における導入庁の拡大に伴い、利用者も増加することが見込まれ、システムの処理に停滞を及ぼさないよう、適切なリソースを確保する必要がある。
    そこで、令和5年度は、本システムの安定稼働のためクラウド基盤の提供とアプリケーション及びクラウドの運用保守調達費用を要求する。


5 その他

・ 小林・弓削田法律事務所HP「民事裁判書類電子提出システム「mints」始動」には,mintsの使いづらい点として以下の事項が記載されています。
① 一人の補助者(事務局)は一人の弁護士のアドレスとしか紐づけられないこと。
② 現時点のmintsはFAX代替のシステムであるから,送達を要する書類,及び印紙代等の手数料納付が必要な書類については利用できないこと。
③ 原則として,A4で白黒のPDFデータだけが正式書類として取り扱われること。
④ 記録として上訴審に送られるのは,裁判所でデータを印刷した紙であること。


第4 e事件管理及びe提出は令和7年度中に実施される予定であること
1(1) 民事訴訟法等の一部を改正する法律(令和4年5月25日法律第48号)に基づき,e事件記録及びe提出は令和8年5月までに開始することになっています(KEIYAKU-WATCHの「【2022年5月公布】民事訴訟法改正とは?民事訴訟(裁判)のIT化を解説!」参照)。
(2) e提出は書面のオンライン提出のことであり,e事件管理は訴訟記録のオンラインアクセスのことです。
2 最高裁判所の令和5年度概算要求書(説明資料)380頁には,「(1) 民事訴訟手続のデジタル化に係るシステム(e事件記録.e提出)開発等」として以下の記載があります。
<要求要旨>
    第208回通常国会で成立した民事訴訟法等の一部を改正する法律については、公布の日から起算して4年を超えない範囲内において政令で定める日において施行とされている(附則第1条)ところ、令和4年6月7日に閣議決定された規制改革実施計画においては、「民事訴訟手続のデジタル化について、遅くとも令和7年度に本格的な運用を円滑に開始する」こととされており、本改正内容にかかる規律は令和7年度中に施行される見込みである。
    そのため、同法律に定める訴状等のオンライン提出や、訴訟記録を電子化して裁判所としても本改正内容を実現するためのシステムを開発(第2次開発)する必要があるところ、開発に要する期間を考慮すると、令和5年度予算に必要経費を計上した上で開発を進め、施行に備える必要がある。なお、本システムは別途開発を行うe事件管理システム(第1次開発部分)と疎結合することで、全体として民事裁判デジタル化を実現するシステムとなる。
    そこで、令和5年度はこれらのシステム開発にかかる経費を要求する。
    なお、本件は、複数年度にわたる契約を締結する必要があるため、併せて3箇年の国庫債務負相行為によることを要求しており、令和5年度はその1年目である。


第5 民事非訟事件手続及び家事事件手続等のデジタル化
1 令和3年12月8日以降,東京家裁,大阪家裁,名古屋家裁及び福岡家裁において,家事調停手続におけるウェブ会議が開始するようになりました。
2 家事事件手続のリモート化の推進について(令和3年3月18日付の民事司法の在り方に関する法曹三者連絡協議会家事WGの文書)には,「事件の性質・内容による選別」として以下の記載があります。
ア 離婚(特に子がいる場合),親権・監護権,子の引渡し,面会交流等
・ 一般論としては, これらの事件類型では,当事者の真意の把握が極めて重要であり,調停手続においては,より感情面に配慮した調整や当事者側においても自らの気持ちを整理してもらうこと等が必要となる。
    その基礎として,相対的に高度の信頼関係の形成が求められるところであり,非言語情報の交換が可能なテレビ会議の利用が有用と考えられる。
イ 財産関係事件等
・ 婚姻費用分担調停,養育費請求調停,財産分与調停,遺産分割調停,年金分割調停等の財産関係をめぐる紛争に関する調停(財産関係事件)については,収入や財産に関する客観的な資料に基づき,客観的に妥当な金額を模索するという側面が強く,一般論としては,上記アの類型に比べると,非言語情報の交換が必要な局面は限られるとも考えられるため,電話会議を選択する方が,期日の円滑な指定等の面で利用者にとって利便性が高いことも多いと考えられる。審判手続では,基本的には,より多様な事件類型において電話会議の活用が有用であるように思われる。
    もっとも,上記の事件類型のうち,婚姻費用分担や養育費の事件については,夫婦間や親子間の状況や心情等の理解が求められる場合等もあり,テレビ会議の有効性が高い場合も考えられる。
3 二弁フロンティア2022年12月号「家事事件の基礎と実践」には「ウェブ調停」として以下の記載があります。
従前、遠隔地に当事者がいる場合やその他相当と認めるときは、家事事件手続法54条に基づいてテレビ会議システムや電話会議システムが活用されていました。ただ大半は電話会議システムで、テレビ会議システムはほとんど利用が進んでいないのが現状でした。
こうした中でIT化の流れを受けて、東京家裁では2022年1月からウェブ調停の試行が開始され、4月から本格運用が始まっています。ウェブ調停は「Webex」というアプリを使用して、調停を行うものです。全国的には、東京、大阪、名古屋、福岡の計4庁で運用が開始され、10月からは19庁に拡大されました。東京家裁では家事2部から家事5部に機材が設置されており、手続代理人がいるケースでも、いないケースでも使用されています。
メリットとしては出頭の負担を軽減することができること、当事者の接触リスクを回避することができること、また電話会議システムに比べると調停委員側も当事者側もお互い、表情などを見ながら調整を進めることができることが挙げられます。
家事事件のIT化も見据え、開始されているのがウェブ調停です。積極的に利用を検討していただき、適当だと思われるケースについては先ほどご紹介した進行照会回答書や上申書を活用していただければと思います。
4 最高裁判所の令和5年度概算要求書(説明資料)377頁には,「(2) 民事非訟事件手続及び家事事件手続等のデジタル化に係る法改正等に伴うシステム開発のための要件定義及び調達支援業務」として以下の記載があります。
<要求要旨>
    民事執行、民事保全、倒産及び家事事件手続等のデジタル化については、公益社団法人商事法務研究会主催の「家事事件手続及び民事保全、執行、倒産手続等IT化研究会」において検討が進められ、令和3年12月に報告書が公表された。令和4年4月からは、法務省の法制審議会の民事執行・民事保全・倒産及び家事事件等に関する手続(IT化関係)部会において、上記各手続のデジタル化に係る法改正に関する議論が進められており、令和5年の法案提出が目指されている。
    なお、新たな運用については、先行する民事訴訟手続のデジタル化に大きく遅れることのないよう取り組むこととされている。
    上記法改正に対応するためには、上記各手続の現状の業務を分析し、これと既に稼働している業務システムとの関係を整理するとともに、同法改正後の業務モデルを検討した上で、国民にとってより身近で利用しやすく、裁判所の事務処理態勢の最適化にも資するシステムを構築する必要がある。
    また、これらの作業においては、民事訴訟手続における新システムの開発状況も踏まえて開発項目を精査し、その費用等を精緻に見積もる必要があることから、外部の專門的知見を取り入れて、同作業を支援させる必要がある。
    そこで、令和5年度は、民事執行、民事保全、倒産及び家事事件手続等のデジタル化に係るシステム開発のための要件定義及びコンサルティング業務の調達費用を要求する。


第6 民事判決情報データベース化
1(1) 司法制度改革審議会意見書-21世紀の日本を支える司法制度-(平成13年6月12日付)には以下の記載がありました。
     裁判所は、判例情報、訴訟の進行に関する情報を含む司法全般に関する情報の公開を推進していく一環として、特に判例情報については、先例的価値の乏しいものを除き、プライバシー等へ配慮しつつインターネット・ホームページ等を活用して全面的に公開し提供していくべきである。
(2) 民事司法制度改革の推進について(令和2年3月10日付)には以下の記載がありました。
イ 民事判決情報の提供について
     民事判決情報は、国民にとって、紛争発生前には行動規範となるとともに、紛争発生後には当事者による紛争解決指針の一つともなり得るものであり、社会全体で共有・活用すべき重要な財産である。将来的に、AIによる紛争解決手続のサポートの可能性があり、その活用が国家経済の活性化にもつながり得るものであることも踏まえると、現状、先例性の高い事件や社会的に関心の高い事件等の一部の事件に限定して一般に提供されている民事判決情報については、今後、より広く国民に提供されるべきである。
     そこで、法務省は、民事判決情報を広く国民に提供することについて、司法府の判断を尊重した上で、ニーズやあい路等につき必要な検討をする。
     また、最高裁判所においては、民事判決情報の提供も含め、法務省における上記検討に協力することが期待される。
2 公益財団法人日弁連法務研究財団の民事判決のオープンデータ化検討PTは,令和2年3月27日に第1回会合を開催し,令和3年3月25日,民事判決情報のオープンデータ化に向けた取りまとめを作成し,令和4年6月8日,民事判決情報の適正な利活用に向けた制度の在り方に関する提言を作成しました。
3 法制審議会の民事判決情報データベース化検討会は,令和4年10月14日に第1回会議を開催しました。


第7 インターネットFAX
1 eFax HPの「インターネットファックスとは」には以下の記載があります。
インターネットFAXとは、インターネットを通じてファックスのやり取りができるサービスです。
電話回線ではなく、インターネット回線を通じてFAXの送受信を行います。もちろん従来のファックス機を必要としません。
2 ワイマガHPに「eFAXの評判は悪い?口コミからメリット、デメリットを解説!」が載っています。

第8 関連記事その他
1(1) 個人的には,裁判所の期日に出席する場合,グーグルドライブを経由してパソコンデータと同期しているiPadを使って書証を確認することを前提に(期日開始直前に該当のフォルダを開いておけばいいです。),主張書面のファイルだけを持参すればいい気もしてます。
(2) 裁判所の尋問期日に出席する場合,少なくとも①尋問の台本及び②証人に示す予定の書証については,ペーパーで用意した方がいいです。
2 弁護士江本大輔のブログ「二弁フロンティア「裁判官アンケート」を改めて読む1」には以下の記載があります。
     これまで様々な特集記事が組まれてきましたが,私個人として,もっとも秀逸なもののひとつで伝説的な企画だと思っているのは2003年11月,12月に連載された「裁判官アンケート 東京地裁民事部裁判官109名から聞きました」という企画です。
3(1) 法務省HPの「「裁判のIT化に関する法制度の報告書」の紹介」「裁判の IT 化に関する法制度の報告書」(令和4年2月15日付のTMI総合法律事務所の文書)が載っています。
(2) 第二東京弁護士会HPに「2019年改正会社法等と実務対応 [後編]IT 技術を活用したバーチャル株主総会&株主総会資料の電子提供制度(2022年9月1日施行)について」が載っています。


4(1) ジュリスト2022年11月号に「【特集】民事訴訟法改正の要点」が載っています。
(2) 自由と正義2023年3月号に「改正民事訴訟法の要点」が載っています。
(3) 二弁フロンティア2023年5月号に「裁判IT化最前線 実務はどう変わるか?[前編]」が載っています。
5(1) 弁護士の事件ファイル電子化サービスを提供しているvivid HP「 書類電子化に関するよくある質問」が載っています。
(2) 弁護士ドットコムHPに「弁護士が業務で使うチャットツール、一番人気はどれ?」(2023年3月14日付)が載っています。
6(1) Chatworkの「オンラインが疲れる原因とは?オンライン会議が疲れる原因と解決策」によれば,オンラインが疲れる原因は,①集中しなければならない時間が長い,②同じ姿勢を続けなければならない,③リフレッシュしづらい,④非言語情報を得られにくい,⑤多数の人に見つめられる,⑥映像や音声の乱れでストレスを感じるとなっています。
(2) Workship MAGAZINEに「【東京駅】電源&Wi-Fiの使えるカフェ21選!勉強/仕事/ノマドワークにおすすめ」が載っています。
7 「一般的意見32 14条・裁判所の前の平等と公正な裁判を受ける権利」(2007年採択)28項には以下の記載があります。
刑事事件における、もしくは民事上の争いに関係するすべての裁判は、原則として口頭により公開で行われなければならない。審理の公開性は手続の透明性を確保し、それにより個人および社会全体の利益を守る重要な手段を提供する。裁判所は口頭審理の日時と場所に関する情報を公衆に入手可能にするとともに、公衆のうち関心を持つ人々の出席のために、とりわけその事案に対する潜在的関心および口頭審理の継続時間を考慮して、合理的な制約の範囲内で十分な便益を提供しなければならない。公開審理という要件は、書面審理に基づいてなされる上訴手続のすべて、あるいは検察官その他の公的機関によってなされる公判前決定手続には、必ずしも適用されない。
8(1) 以下の文書を掲載しています。
(民事事件)
・ 民事裁判書類電子提出システムの導入計画について(令和3年6月17日付の最高裁判所情報政策課参事官及び民事局総括参事官の事務連絡)
・ 民事裁判書類電子提出システムの運用開始に関する連絡文書(令和3年6月24日付の,日弁連事務総長宛の最高裁民事局長の文書)
・ 令和3年度情報通信ネットワーク専門官(デジタル推進室)の選考結果(最高裁判所の文書)
・ 最高裁のデジタル化推進を牽引するIT領域のジェネラリストの募集広告を出すために株式会社ビズリーチとの間で授受した文書
・ システム障害に起因する事務処理遅滞発生の可能性について(令和3年10月4日付の最高裁判所情報政策課の文書)
(家事事件)
・ 家事事件手続のリモート化の推進について(令和3年3月18日付の民事司法の在り方に関する法曹三者連絡協議会家事WGの文書)
・ 家事調停事件におけるウェブ会議の活用に向けた中間取りまとめ(令和3年10月18日付の,民事司法の在り方に関する法曹三者連絡協議会家事WGの文書)
・ 家事調停手続におけるウェブ会議の試行開始について(令和3年10月25日付の最高裁判所家庭局第一課長の事務連絡)
(その他)
・ AIチャットボットシステム構築等業務及び運用保守業務に関する請負契約書(令和4年4月1日付。受注者は株式会社ティファナ・ドットコム)
・ 第75期司法修習予定者に送付したTeamsの利用マニュアル
・ 法務省テレワーク実施要領の制定について(令和2年12月4日付の法務省大臣官房秘書課長及び人事課長の通知)
(2) 以下の記事も参照してください。
・ 歴代の最高裁判所情報政策課長
・ 最高裁判所事務総局情報政策課
・ 最高裁判所事務総局情報政策課の事務分掌
・ 裁判所の情報化の流れ
・ 裁判所における主なシステム
・ IT関係のメモ書き
・ 令和4年度概算要求書における,民事訴訟手続のIT化に関する最高裁判所の財務省に対する説明内容


相続財産管理人,不在者財産管理人及び代位による相続登記

目次
第1 相続財産管理人

1 総論
2 相続財産管理人の権限
3 強制執行開始前に債務者である所有者が死亡し、相続人不存在となっている場合における例外的取扱い
4 相続財産管理人が選任されている場合における当事者目録の記載例
5 特別縁故者に対する相続財産の分与
6 その他
第2 不在者財産管理人
1 総論
2 不在者財産管理人の権限
3 相続人の生死不明又は行方不明の場合の取扱い
4 公示送達と適用場面が重なる場合があること
5 不在者財産管理人が選任されている場合における当事者目録の記載例
6 その他
第3 代位による相続登記
1 相続人がいる場合
2 相続人がいない場合
3 抵当権設定者である在日韓国人が死亡した場合の対処方法
第4 関連記事その他

第1 相続財産管理人
1 総論
(1) 令和5年4月1日以降については,①相続財産の保存に必要な場合は相続財産管理人(民法897条の2)が選任され,②相続人のあることが明らかでない場合は相続財産清算人(民法951条及び民法952条)が選任されています。
イ 令和5年3月31日以前は,相続財産管理人が選任される場合としては,①相続財産の保存に必要な処分として選任される場合(民法918条2項),及び②相続人のあることが明らかでない場合(民法951条)がありました。
(2) 遺言者に相続人は存在しないが相続財産全部の包括受遺者が存在する場合,民法952条にいう「相続人のあることが明かでないとき」に当たりません(最高裁平成9年9月12日判決)。
(3) ①民事訴訟の被告,②民事執行の債務者又は③家事事件の相手方となる自然人に相続人がいない場合,相続財産管理人又は特別代理人を利用することとなると思いますところ,東京地裁21民(執行部)の取扱いとしては,少なくとも民事執行の債務者については相続財産清算人が原則となります。
2 相続財産管理人の権限
(1) 家庭裁判所が家事審判規則106条1項(現在の家事事件手続法200条1項)に基づき選任した相続財産管理人の場合,民法28条類推適用に基づき民法103条所定の範囲内の行為をすることができ,相続財産に関して提起された訴えにつき,相続人の法定代理人の資格において,保存行為として,家庭裁判所の許可なくして応訴することができます(最高裁昭和47年7月6日判決)。
(2) 「相続財産管理人 不在者財産管理人に関する実務」196頁によれば,家庭裁判所より権限外行為許可審判書主文例(訴え提起)は「相続財産管理人である申立人が,◯◯◯に対する別紙訴状案記載の訴状をもって訴訟提起を行うことを許可する。」となっています。
(3) 国税庁HPの「民法上の相続人が不存在の場合の準確定申告の手続」には以下の記載があります。
① 相続財産法人は、国税通則法第5条第1項《相続による国税の納付義務の承継》の規定に基づき納税義務を承継することとされていますから、所得税法第125条の規定を類推解釈して相続財産法人に対して適用することが合理的であると考えられます。
② 相続財産法人が準確定申告書を提出する場合の申告期限は、管理人が確定した日(裁判所から管理人に通知された日)の翌日から4か月を経過した日の前日とすることが相当です。
3 強制執行開始前に債務者である所有者が死亡し、相続人不存在となっている場合における例外的取扱い
(1) 民事訴訟法35条1項は「法定代理人がない場合又は法定代理人が代理権を行うことができない場合において、未成年者又は成年被後見人に対し訴訟行為をしようとする者は、遅滞のため損害を受けるおそれがあることを疎明して、受訴裁判所の裁判長に特別代理人の選任を申し立てることができる。」と定めていて,当該条文は,民事訴訟法37条1項に基づき法人の代表者について準用されています。
(2) 強制執行開始前に債務者が死亡し,債務者の相続財産清算人が選任された場合に相続財産清算人に対する承継執行文の付与を禁止する規定はありませんから,民事執行法上,相続財産法人に帰属する相続財産に対しても相続債権者が強制執行をしてその権利の実現を図ることができることが予定されています(東京高裁平成7年10月30日決定(判例秘書に掲載)参照)。
    ただし,強制執行開始前に債務者である所有者が死亡し、相続人不存在となっている場合につき,①相続財産清算人の選任を待っていたのでは,時効による消滅等により損害が生じる可能性がある場合,及び②物件がガソリンスタンドで速やかな処分が要求される場合,例外的に特別代理人の選任申立てができます(外部ブログの「所有者が死亡し、相続人が不存在となった場合の不動産競売(改訂)」参照)。
(3) 強制執行における債務者側の特別代理人の根拠は,民事執行法20条に基づく民事訴訟法37条及び35条の準用とされています(大審院昭和6年12月9日決定(判例秘書に掲載)のほか,関口法律事務所ブログの「訴える相手方が死亡し、相続人がいない場合の訴訟や強制執行手続について(相続財産管理人・特別代理人)」参照)ところ,理屈としては,相続財産法人について代表者である相続財産清算人がいない状態であるということだと思います。
4 相続財産清算人が選任されている場合における当事者目録の記載例
・ 債務者兼所有者について相続財産清算人が選任されている場合,担保不動産競売開始の申立ての当事者目録としては,以下のような記載になります。
〒◯◯◯-◯◯◯◯ 大阪市北区(以下省略)
          債務者兼所有者 亡◯◯◯◯相続財産
          相続財産清算人 山中理司
送達場所
〒530-0047 大阪市北区西天満4丁目7番3号
          冠山ビル3階 林弘法律事務所
5 特別縁故者に対する相続財産の分与
(1) 相続人の捜索の公告後,6か月以内に相続人としての権利を主張する者がない場合において,相当と認めるときは,家庭裁判所は,被相続人と生計を同じくしていた者,被相続人の療養看護に努めた者その他被相続人と特別の縁故があった者(いわゆる「特別縁故者」です。)の3か月以内の請求によって,これらの者に,清算後残存すべき相続財産の全部又は一部を与えることができます(民法958条の2)。
(2) 相続人不存在の場合において,特別縁故者に分与されなかつた相続財産は,相続財産清算人がこれを国庫に引き継いだ時に国庫に帰属し,相続財産全部の引継が完了するまでは,相続財産法人は消滅せず,相続財産清算人の代理権も引継未了の相続財産につき存続します(最高裁昭和50年10月24日判決)。
(3)ア  共有者の一人が死亡し,相続人の不存在が確定し,相続債権者や受遺者に対する清算手続が終了したときは,その持分は,民法958条の3(令和5年4月1日以降の民法958条の2)に基づく特別縁故者に対する財産分与の対象となり,右財産分与がされないときに,同法255条により他の共有者に帰属します(最高裁平成元年11月24日判決)。
イ 区分所有建物の敷地利用権の場合,民法255条は適用されません(建物の区分所有等に関する法律24条・22条1項)。
6 その他

(1) 大阪家裁HPの「家事事件の各種申請で使う書式について」には,「相続放棄・限定承認の申述の有無の照会書」等の書式が載っています。
(2) 裁判所HPに「相続財産管理人の選任の申立書」(民法952条の場合です。)が載っています。
(3) 地方公共団体の長は,所有者不明土地につき,その適切な管理のため特に必要があると認めるときは,家庭裁判所に対し,民法952条1項に基づく相続財産清算人の選任の請求ができます(所有者不明土地の利用の円滑化等に関する特別措置法38条)。
(4) 大阪地裁HPの「競売申立時の代位登記について」には「相続財産管理人(山中注:令和5年4月1日以降は「相続財産清算人」です。)が選任された場合,相続財産管理人が,所有者について「亡○○○○相続財産」と登記名義人表示変更登記をしますので,登記が完了した後に競売を申し立ててください。不動産登記簿にこの登記名義人が表示されていないと差押登記ができません。」と書いてあります。


第2 不在者財産管理人
1 総論

(1) 従来の住所又は居所を去り,容易に戻る見込みのない者(不在者)に財産管理人がいない場合,家庭裁判所は,利害関係人(例えば,債権者)の申立てにより,不在者自身や不在者の財産について利害関係を有する第三者の利益を保護するため,不在者財産管理人を選任できます(裁判所HPの「不在者財産管理人選任」参照)。
(2) 相続会議HPの「遺産分割協議に関わる不在者財産管理人とは 音信不通の相続人がいる場合の対処法」には,「不在者財産管理人を選任できるのは、本人が行方不明で「不在者」といえる場合のみです。「まったく連絡がとれず、どこにいるのかもわからず、当面は帰ってくる見込みが一切ない状態」が必要と考えましょう。」と書いてあります。
(3) 不在者財産管理人の選任申立ては,不在者の従来の住所地又は居所地を管轄する家庭裁判所の管轄に属します(家事事件手続法145条)。
(4) 後述することからすれば,①民事訴訟において被告となる死亡者の相続人が行方不明である場合,又は②民事執行において債務者となる死亡者の相続人が行方不明である場合,不在者財産管理人又は公示送達を利用することとなります。
2 不在者財産管理人の権限
(1) 家庭裁判所が選任した不在者財産管理人の場合,民法28条に基づき民法103条所定の範囲内の行為をすることができ,相続財産に関して提起された訴えにつき,相続人の法定代理人の資格において,保存行為として,家庭裁判所の許可なくして応訴することができると思います。
(2) 国税庁HPの「不在者財産管理人が家庭裁判所の権限外行為許可を得て、不在者の財産を譲渡した場合の申告」には「不在者財産管理人が家庭裁判所の権限外行為許可を得て、不在者の財産を譲渡した場合、当該譲渡についての納税申告は保存行為に該当すると解されますから、不在者財産管理人は、家庭裁判所の権限外行為許可を得ることなく、不在者の代理人として納税申告を行うことができます。」と書いてあります。
3 相続人の生死不明又は行方不明の場合の取扱い
(1) 民法951条にいわゆる「相続人のあることが明らかでないとき」とは相続人の存否不明をいうのであって,相続人の生死不明又は行方不明等は含まれないと解されています(東京高裁昭和50年1月30日決定(判例秘書に掲載))。
    そのため,戸籍上相続人が一人でも存在する場合,相続人の不存在に該当しませんから,債権者としては,不在者財産管理人の選任申立て(民法25条1項)を求めることとなります。
(2) 相続専門みかち司法書士事務所HP「不在者財産管理人と失踪宣告の違いを5つの項目で比較」が載っていますところ,債権者は失踪宣告(民法30条)の申立てをすることはできません。
4 公示送達と適用場面が重なる場合があること
(1) 不在者管理人選任の要件は「従来の住所又は居所を去った者がその財産の管理人を置かなかったとき」(民法25条1項)です。
    そのため,①民事訴訟として例えば,不動産の取得時効を原因とする所有権移転登記請求訴訟をするような場合,及び②民事執行として例えば,担保不動産競売開始の申立てをするような場合,「当事者の住所、居所その他送達をすべき場所が知れない」こと(民事訴訟法110条1項1号・民事執行法20条)を要件とする公示送達と適用場面が重なると思います。
(2) 被告又は債務者の手続保障を重視した場合,公示送達ではなく,事前に家庭裁判所に対して不在者財産管理人の選任申立てをすべきこととなります。
(3) 東京地裁21民HPの「申立債権者の方へ」に,公示送達申立書・調査書の書式が載っています。
5 不在者財産管理人が選任されている場合における当事者目録の記載例
・ 債務者兼所有者について不在者財産管理人が選任されている場合,担保不動産競売開始の申立ての当事者目録としては,以下のような記載になります。
〒◯◯◯-◯◯◯◯ 大阪市北区(以下省略)
          債務者兼所有者  ◯◯◯◯
          不在者財産管理人 山中理司
送達場所
〒530-0047 大阪市北区西天満4丁目7番3号
          冠山ビル3階 林弘法律事務所
6 その他
(1) 「裁判上の各種目録記載例集―当事者目録、物件目録、請求債権目録、差押・仮差押債権目録等」(2010年9月9日付)80頁及び81頁に,「不在者である債務者に対し競売の申立てや保全命令の申立てをしようとする際に,当事者目録を作成する場合」における当事者目録の記載例が載っています。
(2) 債務者が行方不明であるとしても,「法定代理人がない場合又は法定代理人が代理権を行うことができない場合」(民事訴訟法35条1項)に当たりませんから,特別代理人の選任申立てはできないと思います。
(3) 担保不動産競売開始の申立てをする場合における「担保権・被担保債権・請求債権目録」につき,例えば,死亡した債務者に2人の子がいる場合,「被担保債権及び請求債権」の末尾に以下の記載をすればいいです(不動産競売申立ての実務と記載例(2005年8月1日付)161頁参照)。
(1) 元 本  ◯◯◯万円
 ただし,平成◯◯年◯◯月◯◯日の金銭消費貸借契約に基づく貸付金◯◯◯◯万円の残元金
(2) 損害金
 ただし,上記元金に対する平成◯◯年◯月◯日から支払済みまでの,約定の年◯◯%の割合による遅延損害金
以上(1),(2)について,令和◯年◯月◯日に✕✕✕✕が死亡したことにより,債務者両名が,各2分の1の割合で債務を承継している。


第3 代位による相続登記
1 相続人がいる場合
(1) 所有者が死亡していて相続人がいるにもかかわらず相続登記がなされていない場合,担保不動産競売の申立てを行う債権者としては,債権者代位権を行使して相続登記を経る必要がありますところ,不動産競売申立ての実務と記載例(2005年8月1日付)182頁には,その手順として以下の記載があります。
① まず債権者は,執行裁判所に対し,被相続人(死者)名義のままの登記事項証明書を添付して,相続人を所有者とする担保不動産競売申立書(【記載例III-24】参照)を提出する(その際,相続を証する書面として戸籍謄本,戸籍の附票等が必要となる(民執規則173条1項, 23条1号参照)。そのほか,後述の相続放棄の申述のない旨の家庭裁判所の証明書を提出したほうがより望ましいであろう)。執行裁判所は, この申立てをそのまま受理する。
    申立ての際債権者は,競売申立書受理証明申請書(【記載例III-25】と,「速やかに代位による相続登記手続をし,その登記事項証明書を提出する」旨の上申書(【記載例III-26】)を併せて提出する。
② 申立債権者は,競売申立書受理証明申請書に裁判所書記官の証明をもらいこれを代位原因証書として相続登記をしたうえ,裁判所に相続人名義となった不動産登記事項証明書を提出する。
③ 裁判所は, この登記事項証明書を確認のうえ,開始決定を行い差押登記嘱託をする。
(2) 大阪地裁HPの「競売申立時の代位登記について」には,代位による相続登記を行う場合の必要書類が載っています。
(3) 相続人の住所が分かる場合,同人を債務者として競売手続を進めることができますが,相続人の住所が分からない場合,同人の手続保障にかんがみ,不在者財産管理人の選任が必要であると思います。
2 相続人がいない場合
(1) 相続人が不分明の不動産について,相続財産管理人を選任することなく,その不動産の登記名義人の債権者が,登記名義人の氏名等を相続財産法人に変更する代位の登記を申請することができます(佐藤正樹司法書士事務所HPの「相続人が不分明の不動産について、相続財産管理人を選任することなく、当該不動産の被相続人の債権者が、競売申立受理証明を代位原因を証する情報として、当該不動産の登記名義人の表示を相続財産法人に変更する代位の登記の申請の可否について」参照)。
(2) その後の競売手続を進めるためには,相続財産管理人(原則)又は特別代理人(例外)の選任が必要であると思います。


第4 関連記事その他
1 岡山地裁HPに「当事者目録記載例」が載っています。
2 令和5年4月1日以降の民法940条(相続の放棄をした者による管理)は以下のとおりです。
① 相続の放棄をした者は、その放棄の時に相続財産に属する財産を現に占有しているときは、相続人又は第九百五十二条第一項の相続財産の清算人に対して当該財産を引き渡すまでの間、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産を保存しなければならない。
② 第六百四十五条、第六百四十六条並びに第六百五十条第一項及び第二項の規定は、前項の場合について準用する。
3  抵当権の実行のための競売開始決定(現在の担保不動産競売開始決定)が所有者に対して送達されないかしがあっても,競落許可決定(現在の売却許可決定)が確定すれば,右かしを理由として同決定の無効を主張することは許されません(最高裁昭和46年2月25日判決)。
4(1) 以下の資料を掲載しています。
・ 相続財産管理人選任申立ての手引(申立てを検討している人向けの説明文書)
・ 相続財産管理人選任申立ての手引(民法918条2項用)
・ 相続財産管理人選任申立ての手引(成年後見人・保佐人・補助人用)
 自治体向け財産管理人選任事件申立てQ&A(令和元年11月改訂の,大阪家庭裁判所家事第4部財産管理係書記官室の文書)
・ 相続による納税義務の承継マニュアル(令和3年7月の大阪国税局徴収部徴収課の文書)
(2) 以下の記事も参照してください。
・ 訴訟能力,訴状等の受送達者,審判前の保全処分及び特別代理人
・ 家事事件に関する審判書・判決書記載例集(最高裁判所が作成したもの)
 大阪家裁後見センターだより
 裁判所関係国賠事件
 後見人等不正事例についての実情調査結果(平成23年分以降)
 平成17年以降の,成年後見関係事件の概況(家裁管内別件数)

文書鑑定

目次
1 文書鑑定の種類
2 筆跡鑑定に関する裁判例等
3 筆跡鑑定に関する最高裁平成17年3月16日決定
4 筆跡鑑定の精度が高まるための条件
5 筆跡鑑定業者
6 関連記事その他

1 文書鑑定の種類
・ 文書鑑定の種類としては以下のものがあります(科学警察研究所HP「情報科学第二研究室」参照)。
① 筆者識別
・ 誰が書いたかわからない筆跡と,誰が書いたかわかっている筆跡を比較して両者が同じ人によって書かれたかどうかを識別すること。
② 印影鑑定
・ 文書中の印影が偽造されているかどうかの鑑定
③ 不明文字鑑定
・ 塗りつぶされて見えなくなった文字を検出する鑑定
④ 事務機文字鑑定
・ プリンタで印字された文書から、その文書の作成に用いられた機種を識別する鑑定
⑤ 印刷物鑑定
・ 有価証券やパスポートなどの印刷物が偽造されたものかどうかの鑑定

2 筆跡鑑定に関する裁判例及びその評釈
(1) 最高裁昭和40年2月21日決定は,筆跡鑑定に関して以下の判示をしています。
    いわゆる伝統的筆跡鑑定方法は、多分に鑑定人の経験と感に頼るところがあり、ことの性質上、その証明力には自ら限界があるとしても、そのことから直ちに、この鑑定方法が非科学的で、不合理であるということはできないのであつて、筆跡鑑定におけるこれまでの経験の集積と、その経験によつて裏付けられた判断は、鑑定人の単なる主観にすぎないもの、といえないことはもちろんである。
    したがつて、事実審裁判所の自由心証によつて、これを罪証に供すると否とは、その専権に属することがらであるといわなければならない。
(2) 東京高裁平成12年10月26日判決(判例秘書に掲載)は,筆跡鑑定に関して以下の判示をしています。
   筆跡の鑑定は、科学的な検証を経ていないというその性質上、その証明力に限界があり、特に異なる者の筆になる旨を積極的にいう鑑定の証明力については、疑問なことが多い。
   したがって、筆跡鑑定には、他の証拠に優越するような証拠価値が一般的にあるのではないことに留意して、事案の総合的な分析検討をゆるがせにすることはできない。
(3) 「筆跡鑑定…一緒に問題解決しましょう。あなたに寄り添うトラスト筆跡鑑定研究所です。」ブログ「この判例はいかがなものか」には,筆跡鑑定に関して以下の記載があります。
    過去から現在に至るまで,裁判所に鑑定書を数多く提出している鑑定人の数は,おそらく30名にも満たない。
    この30名程度、ましてや資格もないどこの馬の骨かもわからない者の作成した鑑定書を読んで「筆跡鑑定の証明力には限界がある」との最高裁や東京高裁の判断は,データもエビデンスもない裁判官の心証から形成された何ら証明力のないものではないのか。また,科学の分野を心証で判断することは誤りではないのか。

3 筆跡鑑定に関する最高裁平成17年3月16日決定
・ 狭山事件に関する最高裁平成17年3月16日決定(判例秘書に掲載)は筆跡鑑定について以下の判示をしています(結論としては,別人の筆跡であるという筆跡鑑定の信用性を否定しています。)。
① (山中注:運筆の連続等の点は)経験上,作成すべき文書の性質・内容,作成時の状況,書き手の心理状態により変化し得るものであり,必ずしも書き癖として固定しているとは限らないものである。
② (山中注:画数の少ない模写の容易な漢字は,)漢字の表記能力が低い者であっても,練習(書き損じ)を経ることにより活字体の字形から離れた勢いのある筆跡となることも十分にあり得るところである。
③ ◯◯意見書によれば,異同比率(山中注:対照特徴総数中に見られる同一特徴の百分比)に基づく上記の鑑定方法では,被検文書と対照文書との間に,最低4文字以上の共通同一漢字があることが望ましいというところ,脅迫状と上申書とに共通し,異同比率算出の基礎にし得た漢字は,「月」「日」「時」の3文字にすぎず,共通漢数字の「五」を加えてやっと4文字になる程度であり,基礎資料として量的な問題があることは◯◯意見書も自認するところである。
④ 漢字の出現率,誤用,当て字と誤字,漢字の熟知性の相違の点は,無意識に表れる書き癖とは異なり,同一人が作成する場合でも,参考書物,練習・清書の有無,それらを作成した際の心理状態等により異なり得るものであるから,必ずしも異同鑑別の上での決定的基準にはならないと考えられる。
⑤ 一般に,用字,表記,筆圧,筆勢,書字の巧拙等は,その書く環境,書き手の立場,心理状態などにより多分に影響され得るのであるから,これらの諸条件を捨象し,該当文字等の出現頻度や,筆勢等に影響される字画の連続という限られた特徴点のみに着目して統計的処理を行い,これを判断基礎とすることが理論的に相当であるか疑問があるといわざるを得ない。
⑥ 脅迫状の文章は句読点を用いているといっても,おおむね各行の終わりに句点が付されているにすぎず,マルとダッシュの点も含め,その作成に高度の表記能力を要するものとはいえない。詩文に精通した者でなければ強調すべき文字を大きく書くことはないというに至っては独自の見解というほかはない。

4 筆跡鑑定の精度が高まるための条件
    筆跡鑑定の場合,遺言書や契約書を鑑定資料といい,対照したい人物が書いた文字資料を対照資料といいますところ,以下の条件に該当するものが多いほど筆跡鑑定の精度が高まります(税経通信2022年6月号108頁)。
・ 鑑定資料と対照資料に共通文字が多種・多数書かれている。
・ 鑑定資料と対照資料の筆記時期が近しい。
・ 鑑定資料と対象資料に書かれた筆記速度が同程度である。
・ 鑑定資料と対象資料は同じような筆記用具で書かれている。
・ 鑑定資料と対象資料が原本である。

5 筆跡鑑定業者
(1) 「遺言能力鑑定と筆跡鑑定」では,以下の4つの筆跡鑑定業者が紹介されています(税経通信2022年6月号109頁)。
① トラスト筆跡鑑定研究所(神奈川県相模原市中央区淵野辺)
② 田村鑑定調査(神奈川県横浜市泉区和泉中央北)
③ 一般社団法人日本筆跡鑑定人協会(神奈川県横浜市青葉区藤が丘)
④ 株式会社齋藤鑑識証明研究所(栃木県宇都宮市竹林町)
(2) 法科学鑑定研究所(ALFS)でも筆跡鑑定をしています(法科学鑑定研究所HPの「筆跡鑑定」参照)。

6 関連記事その他
(1) 公正証書遺言の場合,筆記具としてフェルトペンで書かれることが多いといわれていますところ,フェルトペンは滲むため,フェルトペンで書かれた署名については,字画形態,字画構成,筆順,筆圧,筆勢等の判断に基づく筆跡鑑定が難しくなります(税経通信2022年6月号109頁)。
(2) 署名については,親族であればよく見ているから偽造しやすいし,何度も練習すれば模倣することは容易であるともいわれます(税経通信2022年6月号109頁)。
(3)ア 東京地裁平成6年7月20日判決(判例秘書に掲載)は,同一遺言者の自筆証書遺言については筆跡鑑定の結果等に基づき無効としたが,公正証書遺言については右鑑定の結果を採用せずに有効とした事例です。
イ 仙台高裁令和3年1月13日判決(判例秘書に掲載)は,結論を異にする複数の私的筆跡鑑定の信用性を分析・評価し,遺言書の発見・保管等に係る関係者の供述の信用性をも検討して,遺言書の自書性を否定し,自筆証書遺言を無効とした事例です。
(4) 以下の記事も参照してください。
・ 処分証書及び報告文書
・ 二段の推定
・ 陳述書の機能及び裁判官の心証形成
・ 陳述書作成の注意点
 新様式判決
 裁判所が考えるところの,人証に基づく心証形成
 尋問の必要性等に関する東京高裁部総括の講演での発言
・ 通常は信用性を有する私文書と陳述書との違い

二段の推定

目次
第1 二段の推定
1 総論
2 二段の推定における実印及び認印の違い
3 二段の推定が特に重要となる場合
4 二段の推定により証明の負担が軽減される程度
5 事例判例
第2 作成者の判断能力と文書成立の真正
第3 二段の推定以外に,文書の成立の真正を証明する手段の確保方法
第4 ハンコ
第5 平成30年の民法(相続法)改正で押印要件が維持された理由
第6 関連記事その他

第1 二段の推定
1 総論
(1) 二段の推定とは,私文書の作成名義人の印影が当該名義人の印章によって顕出されたものである場合,反証のない限り,当該印影は本人の意思に基づいて顕出されたものと事実上推定されますから,民訴法228条4項により,当該文書が真正に成立したものと推定されることをいいます(最高裁昭和39年5月12日判決参照)。
(2) 民訴法228条4項は,「私文書は、本人又はその代理人の署名又は押印があるときは、真正に成立したものと推定する。」と定めています。
2 二段の推定における実印及び認印の違い
(1) 当該名義人の印章とは,印鑑登録をされている実印のみをさすものではありませんが,当該名義人の印章であることを要し,名義人が他の者と共有,共用している印章はこれに含まれません(最高裁昭和50年6月12日判決(判例秘書に掲載)参照)。
(2) 文書への押印を相手方から得る際,その印影に係る印鑑証明書を得ていれば,その印鑑証明書をもって,印影と作成名義人の印章の一致を証明することは容易であることとなります。
    また,押印されたものが実印であれば,押印時に印鑑証明書を得ていなくても,その他の手段(例えば,訴訟提起後に利用できる裁判所の文書送付嘱託)により事後的に印鑑証明書を入手すれば,その印鑑証明書をもって,印影と作成名義人の印章の一致を証明することができます。
(3)ア 「ステップアップ民事事実認定 第2版」151頁には以下の記載があります。
    実印は慎重に保管されているから,それが本人の意思に基づかないで押される可能性は,実印以外の印章の場合よりも低いということですね。ただ,一般的にはそういう場合が多いでしょうが,どの印章がどの程度慎重に保管されているかは,ケース・バイ・ケースというほかありませんから,具体的な事情次第で,推定力の強さは変わります。単純に「実印の推定力は強い」と暗記し,無批判にそれに従うというのは,やめた方がよいと思います。
イ 仙台高裁令和3年1月13日判決(判例秘書に掲載)は,「一般に,作成名義人の実印が押印されている文書について名義人が押印したものと事実上推定されるのは,実印は慎重に管理されており,第三者が容易に押印することができないという経験則を根拠とするものである」と判示しています。
(4) 総務省HPに「印鑑の登録及び証明に関する事務について」(昭和49年2月1日付の自治省行政局振興課長の通知)の抜粋が載っています。
3 二段の推定が特に重要となる場合
   二段の推定は,文書の真正な成立を推定するに過ぎないのであって,その文書が事実の証明にどこまで役立つのか(=作成名義人によってその文書に示された内容が信用できるものであるか)といった中身の問題は別の問題となります。
   そのため,二段の推定が特に重要となるのは,原則としてその記載通りの事実が認定される処分証書,及び高度の信用性を有する報告文書の場合となります。
4 二段の推定により証明の負担が軽減される程度
    二段の推定により証明の負担が軽減される程度は,以下のとおり限定的です。
① 推定である以上、印章の盗用や冒用などにより他人がその印章を利用した可能性があるなどの反証が相手方からなされた場合,その推定が破られることがあります。
② 印影と作成名義人の印章が一致することの立証は,実印である場合には印鑑証明書を得ることにより一定程度容易であるものの,いわゆる認印の場合には事実上困難となることがあります。
5 事例判例
     二段の推定のうち第一段目の推定を覆すに足りる事実の有無が具体的事案に即して判断されたものとして,最高裁平成23年11月24日判決(判例時報2161号21頁ないし23頁)があります。

第2 作成者の判断能力と文書成立の真正
1 契約に基づく履行請求等の事案で,本人の押印がある契約書等の文書に関し,本人は高齢で判断能力がなかった, 又は一定程度低下していたという主張の取扱いは以下のとおりです。
① 請求原因事実に当たる契約締結等の法律行為はしたものの,その当時意思能力がなかったことにより無効である(民法3条の2)という主張である場合,抗弁となります。
② 判断能力の低下を理由に直接証拠に当たる文書が真正に成立していないという主張である場合,(a)印鑑の冒用や盗用等の事実を推認させる事情に関する主張と位置づけられたり,(b)たとえ本人の押印があっても本人の「意思」に基づく顕出ではないから,一段目の推定が及ばないという主張と位置づけられたり,(c)文書の意味内容を理解していなかったので,意思に基づいて顕出されていたとしても,文書作成の真正は認められない,つまり,二段目の推定が及ばないという主張と位置づけられたりします。
     ただし,外形的な表示行為ができる程度の判断能力を持って文書を作成すれば,その文書は契約成立を立証することが可能なもの,つまり,形式的証拠力があるものといえますから,(c)の主張によって契約成立自体を否定することはできないと思われます。
2 「ステップアップ民事事実認定 第2版」272頁を参照しています。


第3 二段の推定以外に,文書の成立の真正を証明する手段の確保方法
   内閣府HPの「規制改革の公表資料」として掲載されている「押印についてのQ&A」には以下の記載があります。
・ 次のような様々な立証手段を確保しておき、それを利用することが考えられる。
① 継続的な取引関係がある場合
    取引先とのメールのメールアドレス・本文及び日時等、送受信記録の保存(請求書、納品書、検収書、領収書、確認書等は、このような方法の保存のみでも、文書の成立の真正が認められる重要な一事情になり得ると考えられる。)
② 新規に取引関係に入る場合
    契約締結前段階での本人確認情報(氏名・住所等及びその根拠資料としての運転免許証など)の記録・保存
    本人確認情報の入手過程(郵送受付やメールでの PDF 送付)の記録・保存
    文書や契約の成立過程(メールや SNS 上のやり取り)の保存
③ 電子署名や電子認証サービスの活用(利用時のログイン ID・日時や認証結果などを記録・保存できるサービスを含む。)
・  上記①、②については、文書の成立の真正が争われた場合であっても、例えば下記の方法により、その立証が更に容易になり得ると考えられる。また、こういった方法は技術進歩により更に多様化していくことが想定される。
(a) メールにより契約を締結することを事前に合意した場合の当該合意の保存
(b) PDF にパスワードを設定
(c) (b)の PDF をメールで送付する際、パスワードを携帯電話等の別経路で伝達
(d) 複数者宛のメール送信(担当者に加え、法務担当部長や取締役等の決裁権者を宛先に含める等)
(e) PDF を含む送信メール及びその送受信記録の長期保存


第4 ハンコ
1 印章はハンコの物体としての呼称であり,印影はハンコを紙に押したときに残る朱肉の跡のことであり,印鑑は実印・銀行印等の登録したハンコの印影のことでありますものの,「印鑑」が「印章」という意味で使われることもあります(印鑑うんちく事典HP「印鑑とは」参照)。
2(1) 個人の実印とは,市区町村の役所に登録した個人のハンコのことであり,個人の銀行印とは,金融機関に登録した個人のハンコのことであり,認印とは,届出をしていない個人のハンコのことです。
(2) マイナンバーカードを持っている場合,コンビニで住民票及び印鑑登録証明書を取得できます(大阪市HPの「証明書のコンビニ交付サービスを実施しています~住民票の写し等はコンビニ交付がお得で便利!~」参照)。
3(1) 代表者印は,会社が法務局に登録をした印鑑のことであり,会社実印となります(印鑑うんちく事典HP「代表者印(丸印)とは?会社実印を作るときのポイントを解説」参照)。
(2) Great Signに「契約における代理印鑑とは?押印方法や有効性について説明します」が載っています。
4 内閣府HPに「書面規制、押印、対面規制の見直し・電子署名の活用促進について」が載っています。

第5 平成30年の民法(相続法)改正で押印要件が維持された理由
・ デジタル技術を活用した遺言制度の在り方に関する研究会報告書(案)37頁及び38頁には以下の記載があります。
    平成30年民法(相続法)改正により、自筆証書遺言の方式要件が緩和され、自筆証書に財産目録を添付する場合には、その目録については自書を要しないこととされた。これに先立ち行われた法制審議会民法(相続関係)部会における調査審議では、併せて、押印要件を廃止する見直しをすることや、加除その他の変更の要件について、署名又は押印の一方のみで足りるとする見直しをすることが提案されたが、押印は遺言書の下書きと完成品を区別する上で重要な機能を果たしており、これを不要とすることは必ずしも相当でないとの指摘や、加除その他の変更につき署名又は押印のみでは偽造・変造のリスクが高まるなどの指摘があったことなどから、それらの要件についてはいずれも維持された。


第6 関連記事その他
1 判例時報2570号(令和5年12月1日号)19頁には以下の記載があります。
    私文書の真正な成立に関するいわゆる二段の推定については、最三判昭39・5・12民集18・4・597、本誌376・27が影響力の強い先例として定着しており、特に簡易迅速な処理を旨とする手形・小切手訴訟において、手形行為等の成立の濫用的な否認を牽制する法理として大いに活用された。
2(1) 自己の権利義務に関する事項を記載した書面に署名押印した者は,特段の事情がない限り,その書面の記載内容を了解して,これに署名捺印したものと推認されます(最高裁昭和38年7月30日判決参照)。
(2)  保険契約者が,保険会社の普通保険約款を承認のうえ保険契約を申し込む旨の文言が記載されている保険契約の申込書を作成して保険契約を締結したときは,反証のない限り,たとい保険契約者が盲目であって,右約款の内容を告げられず,これを知らなかったとしても,なお右約款による意思があつたものと推定されます(最高裁昭和42年10月24日判決)。
3 大阪高裁令和4年6月30日判決(判例時報2570号)は,「信用保証協会に対する保証委託契約上の求償金等債務を連帯保証する旨の保証契約につき、連帯保証人名下の印影は名義人の実印によるものであるが、本人の意思に基づいて顕出されたとの推定を妨げる特段の事情があるとして、その成立が否定された事例」です。
4(1) 判例タイムズ939号(1997年7月15日号)に「文書の真正な成立と署名代理形式で作成された処分証書の取扱いに関する一試論」(寄稿者は47期の井上泰人)が載っています。
(2) 判例タイムズ1421号(2016年4月1日付)に「二段の推定とその動揺」(寄稿者は49期の高島義行)が載っています。
5 以下の記事も参照してください。
・ 処分証書及び報告文書
・ 陳述書の機能及び裁判官の心証形成
・ 陳述書作成の注意点
 新様式判決
 裁判所が考えるところの,人証に基づく心証形成
 尋問の必要性等に関する東京高裁部総括の講演での発言
・ 通常は信用性を有する私文書と陳述書との違い

裁判官秘書官

目次
1 総論
2 裁判官秘書官名簿
3 関連記事その他

1 総論
(1) 裁判官秘書官としては,最高裁判所裁判官の秘書官(裁判所法54条)及び高等裁判所長官の秘書官(裁判所法56条の5)がいます。
(2) 最高裁判所長官秘書官は,最高裁判所長官の,最高裁判所判事秘書官は,最高裁判所判事の命を受けて,機密に関する事務を掌ります(裁判所法54条2項)。
(3) 高等裁判所長官秘書官は,高等裁判所長官の命を受けて,機密に関する事務を掌ります(裁判所法56条の5第2項)。

2 裁判官秘書官名簿
平成31年3月20日令和2年4月1日
令和3年4月1日令和4年4月1日
令和5年4月1日令和6年4月1日

3 関連記事その他
(1) 昭和22年5月3日の裁判所法施行時は最高裁判所長官秘書官1人だけでしたが,昭和23年12月21日法律第260号による改正後の昭和24年度以降は23人です。
(2) 平成30年9月5日付の司法行政文書不開示通知書によれば,新任の最高裁判所判事秘書官に対する説明文書は存在しません。
(3)ア 首相官邸きっずHP「総理大臣を支える人々 内閣総理大臣補佐官・内閣総理大臣秘書官」が載っています。
イ NHK政治マガジンに「岸田官邸の心臓部 8人の総理秘書官に迫る!」(2021年12月15日付)が載っています。
ウ 内閣総理大臣秘書官の定員は本来,5人です(内閣官房組織令11条)が,当分の間,8人とされています(内閣官房組織令附則5項)。
エ 国務大臣には政務担当秘書官といわれる「国務大臣秘書官」が1人います(国家行政組織法19条2項及び各省組織令)ところ,これとは別に,事務担当秘書官といわれる「大臣秘書官事務取扱」が1人います。
(4)ア 以下の資料を掲載しています。
・ 裁判官及び裁判官の秘書官の年次休暇等に関する規程(昭和60年12月18日最高裁判所規程第5号)
イ 以下の記事も参照してください。
・ 裁判所職員の予算定員の推移
・ 裁判所職員に関する記事の一覧

令和3年度実務協議会(冬季)

目次
1 令和4年2月4日に開催された,令和3年度実務協議会(冬季)の資料
2 関連記事その他

1 令和4年2月4日に開催された,令和3年度実務協議会(冬季)の資料
① 出席者名簿
② 日程表
③ 民事・行政事件の現状と課題
④ 刑事裁判最前線
⑤ 家庭裁判所の現状と課題
⑥ 最高裁判所経理局作成資料
→ 裁判所インフラ長寿命化計画(行動計画) 令和3年度~令和7年度(令和3年8月の最高裁判所の文書),及び今後の裁判所共済組合について【現在,共済組合で検討中の統合案】(令和3年度実務協議会(冬季)の配布資料)が含まれています。
⑦ 裁判所職員総合研修所の概要
→ 参考資料として,令和4年度研修実施計画(案)令和4年度研修実施計画一覧表(令和3年度との比較表)及び令和4年度裁判所職員(裁判官以外)研修が含まれています。

2 関連記事その他
(1)ア 実務協議会というのは,新たに地方裁判所長,家庭裁判所長又は高等裁判所事務局長を命ぜられた者を対象に,年に2回開催されている研修です(「裁判官研修実施計画」参照)。
イ 令和3年度実務協議会(冬季)の場合,令和4年4月に高裁事務局長になることが決まっていた57期の林欣寛司法研修所刑事裁判教官,51期の澤村智子東京地裁49民判事及び55期の一原友彦大阪地裁24民判事も出席しました。
(2) 最高裁判所人事局が作成した資料はなぜかありません。
(3) 令和3年度実務協議会(冬季)に関する資料として一本化しています。
(4) 以下の記事も参照してください。
・ 新任の地家裁所長等を対象とした実務協議会の資料
→ 平成30年度冬季以降の資料を掲載しています。

訴訟提起に際して原告の住所等を秘匿したい場合の取扱い

目次
第0 はじめに
第1 秘匿情報保護の申出
1 総論
2 訴状に記載する住所
3 秘匿情報保護の申出があった場合の対応措置
第2 訴状における当事者の表示の意味,及び原告が住所を秘匿した場合に被る可能性がある不利益
1 訴状における当事者の表示の意味
2 原告が住所を秘匿した場合に被る可能性がある不利益
第3 秘匿すべき住所の他に記載すべき住所がない場合における訴状の住所の記載,及びその後の強制執行の取扱い
1 秘匿すべき住所の他に記載すべき住所がない場合における訴状の住所の記載
2 その後の強制執行の取扱い
第4 秘匿情報について閲覧等請求があった場合の対応
第5 DV等支援措置
1 総論
2 DV等支援関連通知
3 DV等の加害者とされた人が訴訟等を提起する場合の取扱い
4 その他
第6 民訴法133条に基づく住所等又は氏名等の秘匿(令和5年2月20日以降の取扱い)
1 事務処理上の留意点に関する最高裁事務総局の文書(令和5年3月19日追加)
2 家事事件における取扱い
3 引き続き住民票上の住所等だけを記載した方が無難であるかもしれないこと
4 代替住所を記載した破産事件の官報公告の例(令和5年4月4日追加)
5 令和5年2月20日以降も従前の秘匿措置を利用できること(令和5年9月10日追加)
第7 関連記事その他

第0 はじめに
1 本ブログ記事の記載は主として京都地裁の以下の文書に基づいていますところ,令和5年2月19日以前については,他の裁判所でも同じような取扱いであったと思います。
① 京都地裁民事部秘匿情報管理に関する申合せ(平成28年3月10日最終改正)
② 秘匿情報管理に関する申合せの運用等について(平成28年3月10日付の京都地裁民事部の文書)
2(1) 令和5年2月20日以降については原則として,新たな秘匿制度が適用されます当事者に対する住所,氏名等の秘匿の制度に関する改正民事訴訟法等に関する運用方法が書いてある文書1/2及び2/2令和6年6月20日付の司法行政文書開示通知書によって開示された文書)に含まれる,新たな秘匿制度を踏まえた秘匿情報の適切な管理について(令和5年1月26日付の最高裁総務局第一課長等の事務連絡)参照)。
(2) 「秘匿制度に係る改正通達に関する事務処理のポイントとQA」の発出について(令和5年2月3日付の最高裁総務局第三課長の事務連絡)が分かりやすいです。


第1 秘匿情報保護の申出
1 総論
(1)ア DV,ストーカー及び犯罪による被害者(これに準ずる者を含む。)の場合,被告に連絡先が知られた場合に生命身体に対する具体的危険が発生することを疎明することで,秘匿希望の現住所(避難先,転居先)及び電話番号等(以下「秘匿情報」といいます。)を被告に知られないようにしてもらうことができますところ,京都地裁の場合,これを秘匿情報保護の申出といいます。
イ 被害者に準ずる者としては,被害者の親族,友人及び被害者と主張する者が含まれます。
ウ 京都地裁の場合,プライバシー保護を理由として秘匿情報保護の申出をすることはできません。
(2)ア 京都地裁において秘匿情報保護の申出をする場合,民事訟廷事件係に訴状等を提出する際,現住所(避難先,転居先)及び電話番号について非開示を希望する旨の情報非開示の申出書のほか,連絡先の届出書を提出すればいいです。
イ 京都地裁で情報非開示の申出書を出した場合,「住所等の秘匿を希望する場合の注意点について」を交付し,内容を説明されます。
2 訴状に記載する住所
(1) 秘匿情報保護の申出をした場合,訴状には,住民票上の住所,前住所,実家の住所等を住所として記載すればいいです。
(2) 月刊大阪弁護士会2022年2月号35頁に,「住所等の秘匿について(DV事案)」に関する大阪家裁家事第3部人事訴訟係の説明として以下の記載があります。
    当事者の住所を秘匿したい場合は、訴状に「大阪府(以下秘匿)」と記載したり、代理人弁護士の事務所を代替して記載することなども認められることもありますので、必ず事前に相談してください。
    なお、原告の住所を秘匿したい場合で、被告の住所が当庁管轄区域内にない場合には、管轄認定のため、原告の住所が同区域内にあることを示す書面の提出を求めることになります(例:生活保護の受給証明書、電気又は水道料金などの公共料金の領収書等、住民票写し等)。ただし、一部を黒塗りにし住所の詳細を除外することは差し支えありません。
3 秘匿情報保護の申出があった場合の対応措置
(1) 秘匿情報保護の申出があった場合の対応措置は,基本的には事実上の配慮として行われるものであり,訴訟記録の閲覧等請求は権利濫用といえない限り拒絶できませんから,秘匿情報は極力,裁判所に提出させないように指導されます。
(2) 訴訟係属後に秘匿情報保護の申出をすることもできます。
(3) 秘匿情報保護の申出に対する判断は事実上のものですから,決定書は作成されません。

第2 訴状における当事者の表示の意味,及び原告が住所を秘匿した場合に被る可能性がある不利益
1 訴状における当事者の表示の意味
・ 訴状における当事者の表示には以下の4つの意味があります(当事者の特定と表示について(判例タイムズ1248号(平成19年11月1日号)54頁以下)参照)。
① 当事者の特定のために必要となること
→ 当事者を他者から識別できる程度に明らかにするために必要であるということです。
② 管轄の認定資料となること
→ 訴状以外の訴訟記録に基づいて土地管轄を認定できることもありますから,訴状の記載が必須というわけではありません。
③ 送達場所の認定資料となること
→ 送達場所の届出がない場合に問題となります。
④ 執行手続において当事者の同一性を証明する必要があること
→ 債務名義上の当事者と執行手続における当事者とが同一であること(いわゆる「つながり」)を証明するために必要となります。
2 原告が住所を秘匿した場合に被る可能性がある不利益
・ 京都地裁民事部秘匿情報管理に関する申合せ(平成28年3月10日最終改正)4頁には,原告が住所を秘匿した場合に被る可能性がある不利益として以下の記載があります。
① 現住所を秘匿することにより,被告からの移送申立てが認められる場合がある(義務履行地(法5条1号)が不明となることによる管轄違いの移送(法16条1項)等)。
② 証拠の一部をマスキングして提出することにより,裁判官が行う証拠の評価に影響するおそれがある(例えば,現住所付近の病院で診断書を取得したが,病院の名称や医師の氏名をマスキングして証拠として提出した場合,「医師が保護申出人を診察した上で作成した診断書」であることが不明確であると扱われるおそれがある。)。
③ 現住所を秘匿すると,判決や和解により債務名義を得たとしても,強制執行時に住所のつながり証明が困難となる場合がある。
④ 債務名義を得た後,保護申出人(債務名義上の原告)につき承継が生じた場合における承継執行文付与申立ての際に,承継人が,債務名義上の原告と被承継人との同一性を証明することが困難となる場合がある(特に,保存期間経過による事件記録廃棄の際には原則として秘匿情報記載書面も含めて廃棄されるため,その後に上記証明を行うことは困難な場合が多いと思われる。上記③についても同様である。)。
⑤ 現住所を秘匿した保護申出人が債務名義を得た後,本案訴訟事件の被告が,保護申出人を被告として請求異議等の執行関係訴訟を提起した場合に,同訴訟の被告(保護申出人)の住所が調査を尽くしても不明であるとして公示送達の申立てがされると,かかる申立てが認められる可能性がある。


第3 秘匿すべき住所の他に記載すべき住所がない場合における訴状の住所の記載,及びその後の強制執行の取扱い
1 秘匿すべき住所の他に記載すべき住所がない場合における訴状の住所の記載
・ 京都地裁民事部秘匿情報管理に関する申合せ(平成28年3月10日最終改正)15頁及び16頁には以下の記載があります(1を①に変えています。)。
① 秘匿すべき住所の他に記載すべき住所がない場合,訴状の住所の記載はどうすればよいのか?
   訴状に記載する住所は,現住所(生活の本拠)を記載するのが原則である。
    秘匿情報保護を理由とする場合は,当事者の特定に支障がなければ,住民票上の住所,前住所,実家の住所等を記載することでかまわない。また,当事者を特定できるのであれば,本籍と生年月日の記載だけでもかまわない。
    ただし,以下の(1)及び(2)に留意する必要があり,保護申出人にも教示すべきである。
(1) 当事者の特定は,裁判官が判断する。
    訴状審査権は裁判長(官)の権限に属するものであり,当事者の特定に足りる事項が記載されているか否かは,裁判官によって判断されるため,事件が配てんされた部において,裁判官の指示に従って訂正や補充をしてもらうことがある。
(2) 移送の申立てが認められることがある。
    管轄が義務履行地として原告の居住地で定まる場合に,当該居住地が秘匿情報であって,被告から管轄違いによる移送(法16条1項),遅滞を避ける等のための移送(法17条)の申立てがされた場合には,裁判所が連絡メモ等で事実上把握している原告の現居住地の情報は記録外の情報にすぎないことから,それを判断材料とすることはできず,移送の申立てが認められることもあり得る。そのため,少なくとも当該裁判所の管轄区域内に居住していることは明らかにしてもらう必要が生じ得る。
    例えば,訴状記載の原告の住所を「●●市(以下秘匿)」等としてもらうことが考えられる。
※ 訴状に実際の居住地を記載しなくともよいとする上記の扱いは,訴訟手続内においては,本人特定ができるのであれば,その取扱いをしても双方当事者にとって差し支えないということが理由となるにとどまるものであるから,将来の強制執行を見込むのであれば,住民票でつながりが証明し易いように訴状段階で「住民票上の住所(現在又は過去の特定の時点の)」を記載しておいてもらうことが望ましい。もっとも,将来の強制執行との関係では,債務名義となる判決等に記載される住所が問題となるところ,この住所をどのように記載すべきかは裁判事項なので,訴え提起段階では,当事者の特定の観点を中心に検討すれば足りる。したがって,特定ができるのであれば,原告と連絡がつく,代理人事務所,実家の住所,(過去の)住民票上の住所,知人の住所などを記載してもらうことでよいと考えられる。(なお,強制執行申立段階では,強制執行等申立書記載の債権者等と判決等の債務名義に記載された原告等との同一性が証明されなければ,執行裁判所により申立てが却下され得るほか,後述のとおり困難な問題がある。)
 その後の強制執行の取扱い
・ 京都地裁民事部秘匿情報管理に関する申合せ(平成28年3月10日最終改正)19頁及び20頁には,訴状において住所を秘匿した場合における強制執行の取扱いに関して以下の記載があります(8,9及び10をそれぞれ⑧,⑨及び⑩に変えています。)。
⑧ 保護申出人である原告が勝訴した場合,住所を秘匿した状態での不動産執行による差押登記の嘱託は可能か?
    不動産執行で差押登記を嘱託する場合は,嘱託書に債権者の住所を記載することとなるが,例えば,過去の住民票上の住所といういわば虚偽住所を記載して差押登記の嘱託をすることは,不実登記の嘱託となるため,これを行うことはできない。したがって,執行申立書上の住所と債務名義上の住所が異なり,債務名義上の住所が過去の住民票上の住所である旨表示されていた場合は,執行係は,当事者の特定のために住民票(又は戸籍附票)により住所のつながりを証明させるなどして開始決定を行い,現住民票上の住所での登記嘱託をすることとなる(本案訴訟において,現住民票上の住所が秘匿情報とされていた場合であっても同様である。)。
    もっとも,執行申立書上の住所と債務名義上の住所が同一であれば,当事者の特定として問題はない(執行係では,債務名義上の住所が過去の住民票上の住所であることは分からない)から,そのまま登記嘱託を行うこととなるが,この場合でも,当事者の申出や債務名義の内容から,執行申立書上の住所が現住民票上の住所と異なっていることが判明したときは,やはり不実登記の嘱託という問題が生ずるので,そのまま登記嘱託を行うか否かは検討を要する。なお,不動産登記請求訴訟に関しても,上記不動産執行と同様の問題がある(判決後では,更正決定ができるかという問題が残るので,少なくとも,弁論終結までには住民票の写しを提出させるべきである。)。
⑨ 本案訴訟事件の被告が,同事件で債務名義を得た原告(実際の居住地を秘匿している者)を被告としてその債務名義の効力を否定するために請求異議等の執行関係訴訟を提起した場合に,被告(本案訴訟事件の原告)の住所が調査を尽くしても不明であるとして公示送達の申立てがあった。裁判所としては,公示送達申立てをどのように処理すればよいか?
    執行関係訴訟を担当する書記官は,本案訴訟事件の受訴裁判所との連絡を密にし,その指示を受けながら事件処理を行う必要がある。
    通常,公示送達の申立てをする段階では,債務名義上の住所を含め,明らかとなっている住所等の調査をしていることが多いであろうから,まずはそれらの調査がされているか否かを確認し,調査漏れがあった場合は,書記官から追加調査を依頼することになる。必要な追加調査を経ても住所が判明しなかった場合は,原則どおり,公示送達の申立てを認めざるを得ないと思われる(そのような事態が起こり得るということは,本案訴訟事件において秘匿情報保護の申出があった段階で,保護申出人に対し十分説明しておくべきである。)
⑩ 承継執行文付与申立ての際,債務名義上の当事者(実際の居住地を秘匿している者)と被相続人が同一であることの証明はどうするか。また,承継人の現居住地も秘匿してほしいとの申出があった場合の対処はどうするか?
    承継執行文付与申立ての際には,戸籍謄本等と債務名義が提出されることとなそれらと事件記録(本体記録)及び秘匿情報記載書面が綴られた別冊とるためを照合して,債務名義上の当事者と被相続人との同一性を認定する。したがって,事件記録廃棄後は,同一性の証明は困難なことが多いと思われる。
    また,執行文付与申立てには,申立人が特定できる範囲で住所等を記載すれば足りるので(実家の住所,過去の住民票上の住所等),現居住地の秘匿を希望する承継人に対してはその旨教示する。なお,承継執行文及び戸籍謄本等の承継を証明する文言は,その性格上,そのまま債務者に送達する必要がある(民事執行法29条,27条2項)ので,その点は,承知してもらう。



第4 秘匿情報について閲覧等請求があった場合の対応
・ 京都地裁民事部秘匿情報管理に関する申合せ(平成28年3月10日最終改正)10頁ないし12頁には,秘匿情報について閲覧等請求があった場合の対応に関して以下の記載があります。
(1) 請求者への対応
    当事者等から,秘匿情報保護申出がある事件記録(曳舟の別冊を含む。)につき閲覧等請求があった場合は,請求者に対し,秘匿情報保護申出がある旨を告げ,閲覧等の範囲から秘匿情報を任意に除外するよう説得する。
    閲覧等の範囲や理由を聴取したり,秘匿情報保護の申出がされている事実を伝えたりするなどのやりとりをする中で,申出理由に応じた範囲での閲覧等に絞ることにつき,請求者の了解を得られるよう試みる(この際の対応経過は,権利濫用性の判断資料となることから,必ず記録化する。)。
    請求者が上記説得に応じない場合は,秘匿情報部分につき閲覧等の不許可処分を行うことを検討するが,書記官は,閲覧等請求が権利濫用と認められる場合に限り,不許可処分を行うことができ,それ以外の場合は閲覧等を許可せざるを得ない。いずれの判断をするにせよ,書記官は,請求者との上記やりとりを含め,判断資料の収集を十分に行い,受訴裁判所と協議の上で慎重に判断すべきである。
※ 対応経過は,閲覧等請求書と一体にした上で,第3分類に編てつする。
※ 当事者間では秘匿情報保護を求めるが,第三者に対しては秘匿情報保護を求めないという場合も考えられるが,この場合であっても,秘匿情報保護の申出がされていることに変わりはなく,他方当事者が第三者を介して秘匿情報を取得することも考えられることから,本文と同様の対応となる。ただし,第三者については,権利濫用性の判断が当事者に比べて容易ではないので,より調査が必要である(例えば,保護申出人に対し,当該第三者と他方当事者との関係を聴取するなど)。
※ 不許可処分(一部不許可)の方法
    秘匿情報部分について不許可処分(一部不許可)を行う場合は,民事事件記録等閲覧・謄写票の「許否及び特別指定条件」欄に,例えば「郵便送達報告書の債権者の住所地を特定する部分を除いて許」などと記載する。なお,一部不許可の場合であるので,票の「許・否」欄には○印は付さない。(民事実務講義案Ⅱ(四訂補訂版)87頁(注3))
(2) 権利濫用性の判断について
閲覧等請求が権利の濫用(民法1条3項,法2条参照)に当たるか否かについては,権利行使の害意性(主観面)と,私権と公共的利益との利益衡量(客観面)という二つの要素をもとに判断することになると考えられる。

    例えば,DVの加害者が,全く請求が成り立たないにもかかわらず,DVの被害者を被告として訴訟を提起し,訴状の送達の際の転送等によって居場所を突き止めたいなどという目的を有していた場合で,訴状の送達報告書等に記載された被告の住所を閲覧したいというときには,請求認容の可能性がなく,執行の可能性もないことからすると,私権の実現の利益を保護する必要はなく(客観面),害意がある(主観面)ことから,閲覧等請求は権利の濫用と判断しやすい。一方,既に請求認容の判決が出ているが,裁判官の判断で被告の住所を記載しない判決であったという場合で,強制執行のために被告の住所を知りたいというときには,閲覧等請求に対する権利の濫用の判断は慎重にせざるを得ない。
    その他,権利濫用性の判断に当たっては,後掲参考文献等目録7の最高裁判所平成20年6月24日第二小法廷決定・刑集62巻66号1842頁の判決文及び調査官解説が参考となると思われる。
(3) 異議申立ての教示
    不許可処分を行う場合は,請求者に対し,受訴裁判所への異議申立てが可能である旨の教示をするのが適当である(法121条,費用法3条1項,別表第1の17イ(イ)(手数料500円))。必要に応じて請求者に交付できるよう,異議申立書のひな形(別紙様式)もあらかじめ準備しておくべきである。


閲覧等不許可処分に対する異議申立書の書式(京都地裁)

第5 DV等支援措置
1 総論
(1) 以下の事情がある方について,DV等支援措置を申し出て,DV等支援対象者となることで,市区町村において加害者からの住民票の写し等の交付等を制限してもらえます(総務省HPの「配偶者からの暴力(DV)、ストーカー行為等、児童虐待及びこれらに準ずる行為の被害者の方は、申出によって、住民票の写し等の交付等を制限できます。」参照)。
① 配偶者暴力防止法第1条第2項に規定する被害者であり、かつ、暴力によりその生命又は身体に危害を受けるおそれがある方
② ストーカー規制法第7条に規定するストーカー行為等の被害者であり、かつ、更に反復してつきまとい等をされるおそれがある方
③ 児童虐待防止法第2条に規定する児童虐待を受けた児童である被害者であり、かつ、再び児童虐待を受けるおそれがあるもの又は監護等を受けることに支障が生じるおそれがある方
④ その他①から③までに掲げる方に準ずる方
(2) 総務省HPに「住民基本台帳事務における支援措置申出書」の書式が載っています。
(3) ストーカー行為規制法は,「特定の者に対する恋愛感情その他の好意の感情又はそれが満たされなかったことに対する怨恨の感情を充足する目的」を持ったつきまとい等を規制しています(ストーカー行為規制法2条1項柱書)。
2 DV等支援関連通知
(1) 総務省HPの「DV等支援措置関連通知」に載ってある以下の文書を掲載しています。
① 住民基本台帳事務処理要領の一部改正について(平成16年5月31日付の総務省自治行政局長及び法務省民事局長の通知)
② ドメスティック・バイオレンス及びストーカー行為等の被害者の保護のための措置に係る質疑応答について(平成16年5月31日付の総務省自治行政局市町村課長の文書)
③ ドメスティック・バイオレンス、ストーカー行為等、児童虐待及びこれらに準ずる行為の被害者の保護のための住民基本台帳事務における支援措置に関する取扱いについて(平成30年3月28日付の総務省自治行政局住民制度課長の通知)
④ ドメスティック・バイオレンス,ストーカー行為等,児童虐待-及びこれらに準ずる行為の被害者の保護のための住民基本台帳-事務における支援措置に関する裁判所との連携について(平成30年12月3日付の総務省自治行政局住民制度課長の通知)
→ DV等支援措置に関する取扱いの総務省自治行政局住民制度課長通知への対応等について(平成30年11月30日付の最高裁判所民事局第一課長,家庭局第二課長及び総務局第三課長の事務連絡)が添付されています(ただし,同文書の別添第1及び別添第2は省略されています。)。
(2) ③の文書には以下の記載があります。
○住民基本台帳事務処理要領(昭和42年10月4日付け自治振第150号等通知)(抄) 第5 その他
10 住民基本台帳の一部の写しの閲覧及び住民票の写し等の交付並びに戸籍の附票の写しの交付におけるドメスティック・バイオレンス、ストーカー行為等、児童虐待及びこれらに準ずる行為の被害者の保護のための措置
コ 支援措置
(イ) 住民票の写し等及び戸籍の附票の写しの交付の請求又は申出に係る支援措置
    市町村長は、支援対象者に係る住民票(世帯を単位とする住民票を作成している場合にあっては、支援対象者に係る部分。また、消除された住民票及び改製前の住民票を含む。)の写し等及び戸籍の附票(支援対象者に係る部分。また、消除された戸籍の附票及び改製前の戸籍の附票を含む。)の写しの交付について、以下のように取り扱う。
(A) 加害者が判明しており、加害者から請求又は申出がなされた場合
    不当な目的があるものとして請求を拒否し、又は法第12条の3第1項各号に掲げる者に該当しないとして申出を拒否する。
    ただし、(ア)-A-(C)に準じて請求事由又は利用目的をより厳格に審査した結果、請求又は申出に特別の必要があると認められる場合には、交付する必要がある機関等から交付請求を受ける、加害者の了解を得て交付する必要がある機関等に市町村長が交付する、又は支援対象者から交付請求を受けるなどの方法により、加害者に交付せず目的を達成することが望ましい。
(B)及び(C) (略)
3 DV等の加害者とされた人が訴訟等を提起する場合の取扱い
・ さいとうゆたか法律事務所HP「DV等支援措置がなされた場合の対応」には以下の記載があります(ストーカー行為等の加害者についても同様であると思います。)。
DV加害者とされた方が調停や訴訟を起こそうとする場合の取扱いについては、最高裁判所事務総局民事局第一課長らによる「DV等支援措置に関する取扱いの総務省自治行政局住民制度課長通知への対応等について(事務連絡)」で定めています。
具体的には、
ⅰ まずは裁判所に申立てをする。住所が分からないから住所は不明としておく
ⅱ その際、裁判所に対し、相手方の住所について調査嘱託を申し立てる
ⅲ 裁判所が自治体に住所などについて調査嘱託をして調査、判明した住所に訴状などを送達
という流れで手続きをすることになります。
4 その他
・ 住民基本台帳法の細目を定めた省令として以下のものがあります。
① 住民基本台帳の一部の写しの閲覧並びに住民票の写し等及び除票の写し等の交付に関する省令
② 戸籍の附票の写し又は戸籍の附票の除票の写しの交付に関する省令


第6 民訴法133条に基づく住所等又は氏名等の秘匿(令和5年2月20日以降の取扱い)
1 事務処理上の留意点に関する最高裁事務総局の文書
(1) 事務処理上の留意点に関する最高裁事務総局の文書は以下のとおりです。
① 民事訴訟法等の一部を改正する法律及び民事訴訟規則等の一部を改正する規則の施行に伴う当事者に対する住所・氏名等の秘匿制度における事務処理上の留意点について(令和4年11月30日付の最高裁民事局第二課長の事務連絡)
→ 総論となる通達です。
② 民事訴訟法等の一部を改正する法律及び民事訴訟規則等の一部を改正する規則の施行に伴う民事非訟手続における秘匿制度における事務処理上の留意点について(令和4年12月22日付の最高裁民事局第一課長の事務連絡)
→ 債権執行事件(別紙2),不動産執行事件(別紙3),倒産事件(別紙4),財産開示事件及び情報取得事件(別紙5)並びにその他の事件(民事保全,保護命令及び民事調停)(別紙6)について定めています。
③ 民事訴訟法等の一部を改正する法律及び民事訴訟規則等の一部を改正する規則の施行に伴う人事訴訟手続及び家事事件手続に関する事務処理上の留意点について(令和4年12月1日付の最高裁家庭局第二課長の事務連絡)
→ 人事訴訟手続及び家事事件手続について定めています。
④ 民事訴訟法等の一部を改正する法律及び民事訴訟規則等の一部を改正する規則の施行に伴う労働審判手続における当事者に対する住所・氏名等の秘匿制度に関する事務処理上の留意点について(令和4年12月22日付の最高裁行政局第二課長の事務連絡)
→ 労働審判手続について定めています。
⑤ 「事件の受付及び分配に関する事務の取扱いについて」等の改正に関する補足説明の送付について(令和5年1月18日付の最高裁総務局第三課長の事務連絡)
⑥ 新たな秘匿制度を踏まえた秘匿情報の適切な管理について(令和5年1月26日付の最高裁総務局第一課長等の事務連絡)
(2) 当事者に対する住所,氏名等の秘匿の制度に関する改正民事訴訟法等に関する運用方法が書いてある文書1/2及び2/2(令和6年6月の開示文書)を掲載しています。


2 家事事件における取扱い
(1) 令和5年2月20日以降については,改正後の家事事件手続法38条の2に基づき,家事事件についても民事事件と同様の秘匿決定が認められるようになります。
(2) 裁判所HPの「当事者に対する住所、氏名等の秘匿制度等」には以下の記載があります。
 家庭裁判所で取り扱う人事訴訟事件及び家事調停、家事審判などの家事事件において、訴状、申立書、主張書面、書証、資料等を提出する際に、被告・相手方等に知られては困る情報がある場合には、原則として当事者において、該当箇所をマスキングするなどして、当該情報が書面に現れないようにすることが大切です。
3 引き続き住民票上の住所等だけを記載した方が無難であるかもしれないこと
・ 令和5年2月20日以降については,改正後の民事訴訟法133条に基づき,住所等又は氏名等が相手方当事者に知られることによって社会生活を営むのに著しい支障を生じるおそれがあることについて疎明があった場合,住所等又は氏名等を秘匿する旨の裁判をしてもらうことができるようになりました(法務省HPの「民事訴訟法等の一部を改正する法律について」(令和5年1月11日付)に載ってある「住所、氏名等の秘匿制度の創設」参照)。
    ただし,住所等の秘匿決定が認められなかった場合,住所等が相手方当事者に知られてしまいますし,住所等の秘匿決定が事後的に取り消される可能性もあります(民事訴訟法133条の4)から,裁判所に対して必ずしも実際の住所等を届け出る必要がない民事訴訟の場合,事件記録となる書類にはあくまでも住民票上の住所,前住所,実家の住所等だけを記載した方が無難であるかもしれません。
4 代替住所を記載した破産事件の官報公告の例
・ 破産事件における代替住所は当事者である債権者がDV加害者であるような場合に記載されますところ,令和5年3月の破産事件の官報公告において代替住所を記載した事例として以下の二つがあります。
① 令和5年(フ)第1094号
代替住所A(旧住所 東京都(山中注:以下省略))
 債務者 ◯◯◯◯(山中注:実名が記載されていました。)
1 決定年月日時 令和5年3月8日午後5時
2 主文 債務者について破産手続を開始する。
3 破産管財人 弁護士 ◯◯◯◯(山中注:実名が記載されていました。)
4 破産債権の届出期間 令和5年4月5日まで
5 財産状況報告集会・一般調査・廃止意見聴取・計算報告・免責審尋の期日 令和5年5月12日午後2時
6 免責意見申述期間 令和5年5月12日まで
② 令和5年(フ)第80号
代替住所A、旧住所神戸市(山中注:以下省略)
 債務者 ◯◯◯◯(山中注:実名が記載されていました。)
1 決定年月日時 令和5年3月6日午後5時
2 主文 債務者について破産手続を開始する。
    本件破産手続を廃止する。
3 理由の要旨 破産財団をもって破産手続の費用を支弁するのに不足する。
4 免責意見申述期間 令和5年5月12日まで
5 令和5年2月20日以降も従前の秘匿措置を利用できること
・ 令和4年度民事事件担当裁判官事務打合せ(令和5年2月20日)協議結果要旨その1(改正民事訴訟法に関する事項)には以下の記載があります(リンク先のPDF6頁及び7頁)。
(各庁からの質問事項に関する協議)
◯ 秘匿制度の施行後、①原告代理人が、訴え提起にあたり、秘匿決定の申立てをすることなく、従来のように原告の住所として旧住所等を訴状に記載した場合、当事者の特定を欠くことになるか、②特定に問題がないとしても、現住所を記載することとし、当該住所につき秘匿決定の申立てをする必要はないか。
① 当事者の特定
    当事者の住所の記載は、氏名と相まって本人を特定するためのものであり、必ずしも現住所である必要はないこと、従来から原告の住所について訴状段階で特に積極的な裏付け資料の提出を求めていなかったことからすると、旧住所等によっても原告が特定されているといえ、当事者の特定を欠くことを理由とする補正命令を出すことはできないとの意見が多数を占めた。
    他方で、別居前の住所や実家の住所は、生活の本拠性があるため許容されるものの、弁護士事務所は、通常、生活の本拠ではないことから、 これを記載するのは避けるべきであるとの指摘や、旧住所等の記載による場合、民事執行の段階におけるつながり証明に支障が生じ得る点があい路になるとの指摘があった。
② 秘匿決定の申立ての要否
    当事者の特定に問題はなく、訴状の補正の対象にはならないとしても、強制執行との関係では申立人の同一性が問題になるほか、訴状以外の書面に秘匿事項たる現住所が記載されることもあり得、秘匿決定がされない限り、 133条の2第2項の閲覧等制限はできず、従来のように事実上又は運用上で閲覧等制限を裁判所に求めることもできないことから、秘匿対象者の意図に反して情報が流出する可能性がある点を注意喚起した上で、秘匿決定の申立てを促すとの意見が多数を占めた。


第7 関連記事その他
1 公益社団法人商事法務研究会HPの「証拠収集手続の拡充等を中心とした民事訴訟法制の見直しのための研究会」「証拠収集手続の拡充等を中心とした民事訴訟法制の見直しのための研究会報告書-被害者の身元識別情報を相手方に秘匿する民事訴訟制度の創設に向けて-」(令和3年6月)が載っています。
2 薬院法律事務所HP「相手に住所を知らせず訴訟ができる?」が載っています。
3 東京高裁令和4年4月19日判決判例タイムズ1512号(2023年11月号)97頁以下),「弁護士に対する大量懲戒請求を巡る損害賠償請求訴訟において,懲戒請求を行った控訴人(被告)が,被控訴人(原告)の提出した訴状に記載された被控訴人の住所所属する弁護士事務所の所在地)は民事訴訟規則2条1項所定の「住所」に該当せず,被控訴人訴訟代理人弁護士も同様に正しい住所を記載していないから,訴状が同項に違反する不適法なものであり,訴えを却下すべきであるとした主張を排斥し,控訴を棄却して,被控訴人の控訴人に対する請求を一部認容した原判決を維持した事例」です。
4 訴訟関係人のする刑事確定訴訟記録法に基づく保管記録の閲覧請求であっても,関係人の名誉又は生活の平穏を害する行為をする目的でされたなど,権利の濫用に当たる場合は許されません(最高裁平成20年6月24日決定)。
4(1) 令和5年2月19日以前のものですが,以下の資料を掲載しています。
(最高裁の文書)
・ 訴状等における当事者の住所の記載の取扱いについて(平成17年11月8日付の事務連絡)
・ 人事訴訟事件及び民事訴訟事件において秘匿の希望がされた住所等の取扱いについて(平成25年12月4日付の事務連絡)
・ 家事事件手続における非開示希望情報等の適切な管理について(平成28年4月26日付の最高裁判所家庭局第二課長及び総務局第三課長の事務連絡)
・ 秘匿情報管理に関する事務処理態勢を維持・継続するための取組について(平成29年2月22日付の最高裁判所刑事局第二課長の事務連絡)
(大阪高裁の文書)
・ 住所等の秘匿が希望される事件の取扱いについて(平成27年6月29日付の大阪高裁民事部の文書)
(東京地裁の文書)
・ 秘匿(希望)情報の取扱いについて(平成28年3月29日付の東京地裁民事部の文書)
(東京簡裁の文書)

・ 秘匿(希望)情報の取扱いについて(東京簡裁版・平成30年5月17日改訂)
(法務省の文書)
・ 民事訴訟法等の一部を改正する法律の施行に伴う供託事務の取扱いについて(令和5年2月2日付の法務省民事局長の通達)
(2) 以下の記事も参照してください。
・ 秘匿情報の管理に関する裁判所の文書
・ 司法修習生の守秘義務違反が問題となった事例
 司法修習生に関する規則第3条の「秘密」の具体的内容が書いてある文書

送達に関するメモ書き

目次
1 送達事務取扱者
2 送達実施機関
3 書記官送達
4 出会送達
5 法人に対する送達
6 補充送達
7 付郵便送達
8 銀行口座しか分からない人に対する訴訟提起が可能となる場合があること
9 送達が不要となるケース
10 関連記事その他

1 送達事務取扱者
(1) 受訴裁判所の裁判所書記官は,送達事務取扱者として送達に関する事務を取り扱います(民事訴訟法98条2項)。
(2) 公証人,執行官等が例外的に送達事務取扱者となることがあります。

 送達実施機関
(1)ア 送達実施機関は,送達事務取扱者の指示に基づいて送達を実施し,民事訴訟法109条に基づき送達報告書を作成する機関です。
イ 送達実施機関としては,郵便業務従事者,裁判所書記官,執行官,廷吏及び公証人があります。
(2)ア 郵便業務従事者は,特別送達(郵便法66条)の方法による交付送達を行います(民事訴訟法99条)。
イ 郵便送達報告書の受領者の押印又は署名欄に他人である受送達者本人の氏名を冒書する行為は,同人名義の受領書を偽造したものとして,有印私文書偽造罪を構成します(最高裁平成16年11月30日決定)。
(3) 裁判所書記官は,書記官送達(民事訴訟法100条),出会送達(民事訴訟法105条),付郵便送達(民事訴訟法107条)及び公示送達(民事訴訟法110条)を行います。


3 書記官送達
(1)ア 裁判所書記官は,その所属する裁判所の事件について出頭した者に対しては,自ら送達をすることができますところ,これを「書記官送達」といいます(民事訴訟法100条)。
イ 旧民事訴訟法163条では,裁判所書記官が自ら送達をすることができる場合を,送達を受けるべき者(受送達者)が当該事件について出頭した場合に限定していたものの,平成10年1月1日施行の現行民事訴訟法100条では,そのような限定は廃止されました。
(2) 書記官送達を実施するためには,当事者が「裁判所書記官の所属する裁判所」の「事件について出頭した」ことが必要ですから,①大阪高裁の事件について出頭した当事者に対して大阪地裁の裁判所書記官が書記官送達をすることはできませんし,②およそ事件とは無関係に来庁したに過ぎない当事者に対して書記官送達をすることはできません。
    このような場合,当事者が送達を受けることを拒まない場合に限り,出会送達をできるにすぎません(民事訴訟法105条後段)。
(3) 勤務弁護士が所長弁護士の印鑑を持参して所長弁護士の名前で書記官送達を受けたような場合,当該送達は有効です(最高裁昭和27年8月22日判決参照)。


4 出会送達
(1) 出会送達は,受送達者が出会った場所での送達を受けることを拒まない場合に可能となりますところ,その具体例として以下のものが記載されています(民事訴訟関係書類の送達実務の研究-新訂-125頁参照)。
① 郵便業務従事者が,不在のため郵便局に持ち帰った後に,郵便局窓口に出頭した受送達者又はその補充送達受領資格者に交付する場合
・ 出会送達では, この場合のみ補充送達受領資格者にも交付可能となります(民事訴訟法106条1項後段)。
② 執行官送達において,送達場所以外の場所で受送達者に出会った場合
③ 書記官送達において,書記官の所属する裁判所の事件以外の関係で出頭した受送達者に出会った場合
(2) 係属部の書記官室において書記官送達又は出会送達を受けた場合,送達費用が発生しないこともあって,実務上,両者は必ずしも厳格に区別されているわけではないと思います。
    ただし,民事訴訟関係書類の送達実務の研究-新訂-231頁には「裁判所での出会送達」に関して,「(山中注:送達報告書は)基本的には,上記1の書記官送達に準ずることになるが,送達の場所は「出会場所」になるので, 「当庁○○において」等と具体的に記載する必要がある。」と書いてあります。


5 法人に対する送達
(1)ア 法人に対する送達はその代表者が受送達者となりますし(民事訴訟法37条及び102条),法文上はその代表者の住所等に送達するのが原則です(民事訴訟法103条1項本文)。
    しかし,実務上は通常,その例外規定である法人の営業所又は事務所に送達されていて(民事訴訟法103条1項ただし書),当該送達ができなかった場合に代表者の住所等に送達されています。
イ 例えば,大阪市北区西天満4丁目7番3号にある甲株式会社代表取締役Xの自宅に訴状等を送達する場合,「大阪市北区西天満4丁目7番3号 X様方 甲株式会社代表取締役X」が宛先となります。
(2)  債権差押及び転付命令が特別送達に付され,名宛人として甲銀行乙支店代表取締役丙と表示されていた場合に,右郵便物が郵便局員により乙支店の受付係へ交付されたときは,これにより送達の効力を生じ,その後に本店へ転送されても,送達の効力には影響を及ぼしません(最高裁昭和54年1月30日判決)。


6 補充送達
(1)ア 送達場所で送達名宛人に出会わない場合,送達名宛人の使用人その他の従業者又は同居者であって相当のわきまえのある者に書類を交付することにより,送達の効力が生じます(民事訴訟法106条1項及び2項)ところ,これを補充送達といいます。
イ 就業場所で補充送達がなされた場合,裁判所書記官はその旨を受送達者に通知しなければなりません(民事訴訟規則43条)。
(2) 受送達者宛の訴訟関係書類の交付を受けた民訴法106条1項所定の同居者等と受送達者との間に,その訴訟に関して事実上の利害関係の対立があるにすぎない場合には,当該同居者等に対して上記書類を交付することによって,受送達者に対する補充送達の効力が生じます(最高裁平成19年3月20日決定)。


7 付郵便送達
(1)ア 被告の住居所が明らかであり,実際に居住しているにもかかわらず,被告が訴状を受け取らない場合,書留郵便に付する送達(付郵便送達)ができます(民事訴訟法107条)。
イ 付郵便送達の場合,裁判所が被告に対し,訴状を書留郵便で発送した時点で送達が完了します。
ウ 付郵便送達をした場合,裁判所書記官はその旨を受送達者に通知しなければなりません(民事訴訟規則44条)。
(2) 最高裁平成10年9月10日判決は,前訴において相手方当事者の不法行為により訴訟手続に関与する機会のないまま判決が確定した場合に右判決に基づく債務の弁済として支払った金員につき損害賠償請求をすることが許されないとされた,付郵便送達に関する事例判例です。
(3) 付郵便送達の要件充足を調査するため,マンション管理会社等に対する調査嘱託(民訴法186条)又は釈明処分としての調査嘱託(民訴法151条1項6号)を利用できる場合があると思います。
(4) 住居所調査の内容としては,①表札の確認,②呼び鈴を鳴らしたときの応対の確認,③郵便受けの確認,④電気メーターの確認,⑤水道/ガスメーターの確認,⑥洗濯物の確認窓の確認,⑦車両や自転車などの確認,⑧直接訪問,⑨関係者/近隣者/共同住宅所有者/管理会社への聞き込み及び⑩根拠を示す写真撮影があります(クローバー総合調査HP「付郵便送達を行う際の注意点」参照)。



8 銀行口座しか分からない人に対する訴訟提起が可能となる場合があること

(1) 名古屋高裁平成16年12月28日決定は,以下の判示をしています(ナンバリング及び改行を追加した他,判例体系では「」となっている部分を「◯◯」等と記載しました。)。
① なるほど、訴状の被告名は上記預金口座の名義人である片仮名の名前にすぎず、しかも、住所表示(訴状送達の便宜等のために有益であり、また、被告を特定する上で有用であることから実務上記載されるのが一般である。)は「不詳」とされている。
 しかし、抗告人は、本件訴訟提起前に、弁護士照会等により、所轄の◯◯警察署長及び上記預金口座のある◯◯銀行◯◯支店宛に「◯◯◯◯」の住所及び氏名(漢字)を問い合わせるなどの手段を尽くしたものの、協力が得られず、やむなく上記の記載の訴状による訴えを提起したことが認められる。
 そして、抗告人は、本件訴訟提起と同時に上記銀行に対する調査嘱託を申し立てているところ、これらの方法により、「◯◯◯◯」の住所、氏名(漢字)が明らかとなり、本件被告の住所、氏名の表示に関する訴状の補正がなされることも予想できる。
② したがって、本件のように、被告の特定について困難な事情があり、原告である抗告人において、被告の特定につき可及的努力を行っていると認められる例外的な場合には、訴状の被告の住所及び氏名の表示が上記のとおりであるからといって、上記の調査嘱託等をすることなく、直ちに訴状を却下することは許されないというべきである。
(2) 名古屋高裁平成16年12月28日決定には,「訴状において、不法行為に基づく損害賠償請求の相手方である被告の表示につき、被告名を「◯◯◯◯」と、住所地を「住所不詳(後記する振込先預金口座の登録住所)」とそれぞれ記載した上、その振込先預金口座として、「◯◯銀行◯◯支店、普通預金、口座番号 、名義人」と記載していることが認められる。」と書いてあります(判例体系では「」とあるのを「◯◯」という風に変えました。)。


9 送達が不要となるケース
(1) 不適法なことが明らかであって当事者の訴訟活動により適法とすることが全く期待できない訴えにつき,口頭弁論を経ずに,訴えを却下するか,又は却下判決に対する控訴を棄却する場合には,訴状において被告とされている者に対し訴状,控訴状又は判決正本を送達することを要しません(最高裁平成8年5月28日判決)。
(2) 再審裁判所は,再審の訴えが再審の要件を欠く不適法なものであり,その瑕疵を補正することができないときは,民事訴訟法140条により,口頭弁論を経ないで訴えを却下することができます(最高裁平成8年9月26日判決(判例体系に掲載)参照)。



10 関連記事その他
(1) 和解調書,放棄調書及び認諾調書等については,判決書のように職権送達の規定(民事訴訟法255条)が明文上存在しないため,実務上は当事者の口頭の申立てを促した上で送達されます。
(2)ア 日本郵政HPに「郵政150年史」が載っています。
イ 3桁又は5桁の郵便番号制度は昭和43年7月1日に開始し,7桁の郵便番号制度は平成10年2月2日に開始しました。
(3) レターパック等につき,インターネットによって追跡を行える期間は約100日です(日本郵便HPの「Q.郵便追跡は、どれくらいの期間、確認が可能ですか?」参照)。
(4)ア 国税不服審判所平成9年10月15日裁決は,住民票を異動したり、郵便受箱を撤去するなどした行為は、通知書の送達を回避することを意図してなされたものであり、請求人の住所は本件住所にあるとして、差置送達の効力を認めた事例です。
イ 国税不服審判所平成9年12月15日裁決は,郵便局に郵便物を留め置く手続をしている場合の送達の時期は、当該郵便局に郵便物が留め置かれた時に送達の効力が生ずるとした事例です。
ウ 遺留分減殺の意思表示が記載された内容証明郵便が留置期間の経過により差出人に還付された場合において,受取人が,不在配達通知書の記載その他の事情から,その内容が遺留分減殺の意思表示又は少なくともこれを含む遺産分割協議の申入れであることを十分に推知することができ,また,受取人に受領の意思があれば,郵便物の受取方法を指定することによって,さしたる労力,困難を伴うことなく右内容証明郵便を受領することができたなどといった事情の下においては,右遺留分減殺の意思表示は,社会通念上,受取人の了知可能な状態に置かれ,遅くとも留置期間が満了した時点で受取人に到達したものと認められます(最高裁平成10年6月11日判決)。
(5) 東京パトレ税務法務オフィスHPに「日本郵便のWebレターを使ってみました」が載っています。
(6)ア 以下の資料を掲載しています。
・ 更正決定等に伴い国費を支出する場合の基本的な考え方等について(令和3年7月28日付の最高裁判所総務局第一課長等の事務連絡)
・ 書記官等の事務処理の誤りに伴い国費を支出する場合の基本的な考え方等について(平成31年4月16日付の最高裁判所経理局の事務連絡)
・ 特別送達における郵便業務従事者への注意喚起の方法について(平成28年3月22日付の最高裁判所事務総局総務局第三課長の事務連絡)(「本人渡し事務連絡」ともいいます。)
→ 課長補佐の事務連絡もあります。
イ 以下の記事も参照してください。
・ 外国送達
・ 訴訟能力,訴状等の受送達者,審判前の保全処分及び特別代理人
・ 裁判文書の文書管理に関する規程及び通達
・ 民事事件の裁判文書に関する文書管理


訴訟能力,訴状等の受送達者,審判前の保全処分及び特別代理人

目次
第1 訴訟能力
1 総論
2 未成年者
3 成年被後見人等
第2 訴状等の受送達者
1 総論
2 未成年者
3 成年被後見人
4 被保佐人
5 被補助人
6 意思無能力者
7 任意後見人
第3 審判前の保全処分が出た場合の取扱い
1 総論
2 後見命令が出た場合の取扱い
3 保佐命令が出た場合の取扱い
第4 訴訟係属後に当事者が訴訟能力を喪失した場合の取扱い
第5 特別代理人
1 総論
2 原告側の特別代理人
3 離婚訴訟等における特別代理人
4 強制執行開始前に債務者が死亡して相続人がいない場合における特別代理人
5 相続放棄の申述における特別代理人
6 その他
第6 関連記事その他

第1 訴訟能力
1 総論
(1) 訴訟能力とは,その者の名において(自ら又は自ら選任した代理人によって)訴訟行為を有効に行い,又は(裁判所又は相手方の)訴訟行為を有効に受けることができる一般的な能力を意味し,民訴法上特別の定め(民訴法31条以下)がある場合を除いて,民法の行為能力を基準にして決定されます(民事訴訟関係書類の送達実務の研究(新訂版)27頁)。
(2) 制限行為能力者としては,未成年者,成年被後見人,被保佐人及び被補助人がいます(民法13条1項10号)。
    そして,民事訴訟手続の場合,未成年者は原則として訴訟無能力者であり,成年被後見人は常に訴訟無能力者であり,被保佐人及び被補助人は制限訴訟能力者です。
2 未成年者
(1)ア 未成年者は,独立して法律行為をすることができる場合を除いて,訴訟無能力者となります(民訴法31条)。
イ 例えば,法定代理人の同意を得て労働契約を締結した未成年者は,その労働契約又は賃金に関しては,独立して法律行為をすることができます(労働基準法59条)から,その限りで訴訟能力を有します。
(2) 未成年者は,人事訴訟では,意思能力がある限り完全な訴訟能力が認められます(最高裁昭和43年8月27日判決(判例秘書に掲載))。
3 成年被後見人等
(1) 成年被後見人は,人事訴訟の場合も含めて常に訴訟無能力者となります(民訴法31条本文及び人事訴訟法14条1項本文)。
(2)ア 被保佐人は,民事訴訟において一定の場合に訴訟能力が認められますから,制限訴訟能力者となります。
イ 被保佐人は,人事訴訟では完全な訴訟能力を認められます(人事訴訟法13条1項)。
(3)ア 訴訟行為(民法13条1項4号)が要同意事項とされた被補助人は,一定の場合に訴訟能力が認められますから,制限訴訟能力者となります。
イ 被補助人は,人事訴訟では完全な訴訟能力を認められます(人事訴訟法13条1項)。

第2 訴状等の受送達者
1 総論

    訴訟無能力者に対する送達は,その法定代理人に対して行う必要があります(民事訴訟法102条1項)。
2 未成年者

(1) 未成年者が訴訟当事者である場合,法定代理人である両親(民法818条3項及び824条本文)が受送達者となりますところ,両親のいずれかに送達すれば足ります(民事訴訟法102条2項)。
(2) 未成年者が訴訟当事者となる場合,未成年者の戸籍謄本を提出する必要があります。
3 成年被後見人
(1) 成年被後見人が訴訟当事者である場合,法定代理人である成年後見人(民法859条1項)が受送達者となります。
(2) 成年後見人が法人である場合(民法843条4項参照),受送達者は法人の代表者となります。
(3) 成年被後見人が訴訟当事者となる場合,成年被後見人の登記事項証明書(後見登記等に関する法律10条)を提出する必要があります。
4 被保佐人
(1) 訴訟提起された場合
ア 相手方の提起した訴え等について受動的訴訟行為(応訴)する場合,保佐人の同意は不要です(民訴法32条1項)。
イ 応訴には送達受領行為も含め相手方の提起した訴えに対するすべての訴訟行為が含まれますから,受送達者は被保佐人となります。
ウ 保佐人に対して訴訟行為についての代理権(民法13条1項4号・876条の4)が付与されている場合,保佐人も受送達者となります。
(2) 訴訟提起する場合
ア 被保佐人は,訴訟行為をすることについて保佐人の同意(民法13条1項4号)又はこの同意に代わる家庭裁判所の許可(民法13条3項)があれば,訴訟の提起を含む訴訟行為ができます。
イ 保佐人の同意に代わる許可の申立てを却下する審判に対しては即時抗告できます(家事事件手続法132条1項5号)。
ウ 保佐人の同意書がある場合(民事訴訟規則15条),受送達者は被保佐人となります。
エ 訴えの提起に当たり特段の留保を付けずに保佐人の同意が与えられた場合,準禁治産者(現在の被保佐人に相当するもの)は,さらにその同意を受けなくても当該訴訟について控訴又は上告をすることができました(最高裁昭和43年11月19日判決(判例秘書に掲載))。
オ 保佐人に対して訴訟行為についての代理権(民法13条1項4号・876条の4)が付与されている場合,保佐人が訴訟行為をします。
5 被補助人
(1) 訴訟提起された場合
ア 相手方の提起した訴え等について受動的訴訟行為(応訴)する場合,補助人の同意は不要です(民訴法32条1項)。
イ 応訴には送達受領行為も含め相手方の提起した訴えに対するすべての訴訟行為が含まれますから,受送達者は被補助人となります。
ウ 補助人に対して訴訟行為についての代理権(民法17条1項・13条1項4号・876条の9)が付与されている場合,補助人も受送達者となります。
(2) 訴訟提起する場合
ア 訴訟行為(民法13条1項4号)が要同意事項とされた被補助人は,補助人の同意又はこの同意に代わる家庭裁判所の許可(民法17条3項)があれば,訴訟の提起を含む訴訟行為ができます。
イ 補助人の同意に代わる許可の申立てを却下する審判に対しては即時抗告できます(家事事件手続法141条1項4号)。
ウ 補助人の同意書がある場合(民事訴訟規則15条),受送達者は被補助人となります。
エ 補助人に対して訴訟行為についての代理権(民法17条1項・13条1項4号・876条の9)が付与されている場合,補助人が訴訟行為をします。
 意思無能力者
(1) 精神上の障害などのために意思能力を欠く者も訴訟無能力者ですから,この者に対する送達も法定代理人を受送達者とするのが原則です。
    ただし,この場合,成年被後見人等と異なり,個々の送達の受領時点における意思能力の有無を具体的に判断する必要があるのであって,意思能力が欠けていた場合,その送達は無効になります。
(2) 送達実施前に,受送達者が意思無能力であることが訴状等により裁判所に明らかになっている場合,被告について後見開始の審判の申立て(民法7条)をするか,特別代理人選任の申立て(民事訴訟法35条)をした上で,後見人又は特別代理人を受送達者として送達を行うことになります。
    ただし,後者の申立ては,後見開始の審判の確定を待っていては損害を受けるおそれがあることを疎明できる必要があります。
(3) 同居人等からの申出により訴状等の送達後に受送達者が意思無能力者であることが判明した場合,訴訟能力の有無の判断は職権探知事項ですから,裁判所は,診断書又は医師に対する照会等により意思能力の有無を調査する必要があるのであって,その結果として,送達受領時点で既に意思能力がなかった場合,その送達は無効です(大審院明治44年3月13日判決及び大審院大正2年3月18日判決(いずれも判例秘書に掲載))。
    ただし,後見人又は特別代理人が選任された場合において,これらの者を受送達者として再送達するか,これらの者が追認をすれば瑕疵が治癒されると解されています(民事訴訟関係書類の送達実務の研究(新訂版)32頁)。
 任意後見人
    任意被後見人の場合,任意後見契約の内容として,あらかじめ任意後見人に訴訟代理権を授与しておくことができると解されています。
    そのため,任意後見監督人が選任されて任意後見契約が効力を発生している場合(任意後見契約に関する法律2条1号参照),任意後見人が受送達者となりますところ,この場合は訴訟代理人であって,法定後見等による法定後見人ではありません(民事訴訟関係書類の送達実務の研究(新訂版)30頁)。

第3 審判前の保全処分が出た場合の取扱い
1 総論
(1) 後見,保佐及び補助における審判前の保全処分に共通する事項
ア 審判前の保全処分としては,①財産管理者の選任の審判,②事件関係人に対する指示の審判及び③後見命令・保佐命令・補助命令(以下「後見命令等」といいます。)がありますところ,本人が即時抗告できるのは③だけです。
イ 財産管理者の選任の審判が出ただけでは,本人の管理処分権は失われません。
ウ 事件関係人に対する指示の審判は勧告的効力しかなく,強制力はありません。
エ 後見命令等は仮の地位を定める仮処分と同じようなものですから,仮の地位を定める仮処分について原則として債務者の審尋が必要となる(民事保全法23条4項)のと同じように,原則として本人の陳述聴取が必要となります(家事事件手続法107条)。
オ 審判前の保全処分の場合,即時抗告できるものも含めて,告知があった時点で効力が発生します(家事事件手続法109条2項が同法74条2項ただし書の適用を除外しています。)。
カ 大阪家裁後見センターだより第18回は,「後見等開始に係る保全処分,後見センターの分室化」について説明していますところ,後見命令等の必要性に関しては以下の記載があります。
    現在の本人の生活状況から見て,本人が財産をすぐに浪費するおそれがあるとか,悪質な第三者が本人に近づき,言葉巧みに本人をだまして不要かつ高額な商品を売りつけようとしているような場合には,後見命令等についての保全の必要性が認められると思われます(片岡武,金井繁昌,草部康司,川畑晃一「家庭裁判所における成年後見・財産管理の実務(第2版)」・132頁)。
キ 大阪府社会福祉協議会HPに載ってある「成年後見制度 市町村長申立ての手引き」(平成26年3月)末尾26頁ないし29頁に,審判前の保全処分の主文例が載っています。
(2) 後見開始の申立てにおける,審判前の保全処分

ア 家庭裁判所は,後見開始の申立てがあった場合において,成年被後見人となるべき者(以下「本人」といいます。)の生活,療養看護又は財産の管理のため必要があるときは,申立てにより又は職権で,担保を立てさせないで,後見開始の申立てについての審判が効力を生ずるまでの間,①財産の管理者を選任し,又は②事件の関係人に対し,本人の生活,療養看護若しくは財産の管理に関する事項を指示することができます(家事事件手続法126条1項)。
イ 家庭裁判所は,後見開始の申立てがあった場合において,成年被後見人となるべき者の財産の保全のため特に必要があるときは,当該申立てをした者の申立てにより,後見開始の申立てについての審判が効力を生ずるまでの間,成年被後見人となるべき者の財産上の行為につき,財産の管理者の後見を受けることを命ずることができます(後見命令の審判。家事事件手続法126条2項)。
ウ ①成年被後見人となるべき者については,心身の障害によりその者の陳述を聴取できないときは,陳述聴取が省略されますし(家事事件手続法126条3項),②本人の陳述を聴く手続を経ることにより保全処分の目的を達することができない事情があるときも,本人の陳述聴取を要しません(家事事件手続法107条ただし書)。
(3) 保佐開始等の申立てにおける,審判前の保全処分
ア 家庭裁判所は,保佐開始又は補助開始(以下「保佐開始等」といいます。)の申立てがあった場合において,被保佐人又は被補助人となるべき者(以下「本人」といいます。)の生活,療養看護又は財産の管理のため必要があるときは,申立てにより又は職権で,担保を立てさせないで,保佐開始等の申立てについての審判が効力を生ずるまでの間,①財産の管理者を選任し,又は②事件の関係人に対し,本人の生活,療養看護若しくは財産の管理に関する事項を指示することができます(家事事件手続法134条1項又は143条1項・126条1項)。
イ 家庭裁判所は,保佐開始等の申立てがあった場合において,本人の財産の保全のため特に必要があるときは,当該申立てをした者の申立てにより,保佐開始等の申立てについての審判が効力を生ずるまでの間,本人の財産上の行為(民法13条1項に規定する行為に限ります。)につき,財産の管理者の保佐又は補助を受けることを命ずることができます(保佐命令の審判。家事事件手続法134条2項又は143条2項)。
ウ 被保佐人又は被補助人となるべき者の陳述を聴く手続を経ることにより保全処分の目的を達することができない事情があるときは,本人の陳述聴取を要しません(家事事件手続法107条ただし書)。
2 後見命令が出た場合の取扱い

(1) 財産管理者は成年後見人と同じ立場に立つわけではないのであって,身上監護はできませんし,財産管理の権限は原則として保存・管理行為の範囲内に限られ,財産管理の範囲を超えた権限外の行為については家庭裁判所の許可が必要です(家事事件手続法126条8項・民法28条)。
(2)ア 後見命令の審判が出た本人は,日常生活に関する行為を除く財産上の行為(民法9条)について後見を受け,本人及び財産管理者は,本人が財産管理者の同意を得ないでした財産上の行為を取り消すことができます(家事事件手続法126条7項,民法9条)。
イ 後見命令の審判は,財産管理者への告知によりその効力が生じます(家事事件手続法126条4項)ところ,本人が2週間以内に即時抗告できます(家事事件手続法110条2項・123条1項1号)。
ウ 一問一答・家事事件手続法20頁には以下の記載があります。
    告知は裁判の内容を知らせることを意味します(第74条第1項から第3項まで、第122条第2項等)。これに対して、通知は、裁判の内容以外の事実を知らせることを意味します。
    なお、後見開始の審判および後見命令は、成年被後見人となるべき者に「通知」することとしています(第122条第1項、第126条第5項)。この場合、成年被後見人となるべき者は、審判を受ける者であり、知らせる内容は裁判ですから、本来は告知すべきであるとも思われますが、告知の場合には、告知の対象となる者に告知を受ける能力が必要であるという観点を加味して、ここでは通知をするものとしているのです。
(3) 民法830条に基づく財産管理者は法定代理人として受送達者となります(民事訴訟関係書類の送達実務の研究(新訂版)32頁)から,これと同様に考えた場合,意思能力を有する本人について後見命令が出た場合,受送達者は財産管理者となると思います。
(4) 後見命令の審判は職権で後見登記されます(後見登記等に関する法律4条2項)から,本人の登記事項証明書でも確認できます。
3 保佐命令又は補助命令が出た場合の取扱い
(1) 財産管理者は保佐人又は補助人と同じ立場に立つわけではないのであって,身上監護はできませんし,財産管理の権限は原則として保存・管理行為の範囲内に限られ,財産管理の範囲を超えた権限外の行為については家庭裁判所の許可が必要です(家事事件手続法136条6項及び143条6項・民法28条)。
(2)ア 保佐命令等の審判が出た本人は,民法13条1項各号の行為について保佐を受け,本人及び財産管理者は,本人が財産管理者の同意を得ないでした財産上の行為を取り消すことができます(家事事件手続法134条5項・143条5項)。
イ 保佐命令等の審判は,財産管理者及び本人の両方に告知され(家事事件手続法134条3項・143条3項),本人への告知によりその効力が生じます(家事事件手続法109条2項・74条2項)ところ,本人が2週間以内に即時抗告できます(家事事件手続法110条2項・132条1項1号及び141条1項1号)。
ウ 民法13条3項類推適用に基づき,保佐人の同意に代わる許可を求めることができ,却下審判に対しては家事事件手続法132条1項5号に基づき即時抗告ができるかもしれません。
(3)ア 民法830条に基づく財産管理者は法定代理人として受送達者となります(民事訴訟関係書類の送達実務の研究(新訂版)32頁)から,これと同様に考えた場合,意思能力を有する本人について保佐命令等が出た場合,受送達者は財産管理者となると思います。
イ 保佐人又は補助人に代理権を付与する旨の審判の場合,本人の同意が必要である(民法876条の4第2項・876条の9第2項)ものの,保佐命令等の場合,本人の陳述を聴く手続を経ることにより保全処分の目的を達することができない事情があるときは本人の陳述聴取を要しません(家事事件手続法107条ただし書)。
(4) 保佐命令等の審判は職権で後見登記されます(後見登記等に関する法律4条2項)から,本人の登記事項証明書でも確認できます。
(5) 保佐開始の審判事件を本案とする保全処分の事件において選任された財産の管理者が家庭裁判所に提出した財産目録及び財産の状況についての報告書は、上記保全処分の事件の記録には当たりません(最高裁令和4年6月20日決定)。

第4 訴訟係属後に当事者が訴訟能力を喪失した場合の取扱い
1 民事訴訟関係書類の送達実務の研究(新訂版)31頁には,「訴訟係属後に受送達者が事理を弁識する能力を欠く常況になった場合」として以下の記載があります。
    この場合は,後見開始の審判の申立て(民7)又は特別代理人の選任の申立て(法35)をさせ,後見人又は特別代理人を受送達者とする。
    当事者が後見開始の審判を受けた場合,訴訟手続は中断し(法124Ⅰ③,法定代理人である成年後見人が訴訟手続を受継することになる(訴訟代理人が付いていれば中断しない(同Ⅱ))。受継後は,成年後見人を受送達者とする。
2 当事者より上告提起の特別委任を受けた訴訟代理人がある場合,第二審判決の送達後上告提起の期間内にその当事者が死亡しても訴訟手続は中断しません(最高裁昭和23年12月24日判決)。

第5 特別代理人
1 総論
(1)ア 民事訴訟法35条1項は「法定代理人がない場合又は法定代理人が代理権を行うことができない場合において、未成年者又は成年被後見人に対し訴訟行為をしようとする者は、遅滞のため損害を受けるおそれがあることを疎明して、受訴裁判所の裁判長に特別代理人の選任を申し立てることができる。」と定めていて,当該条文は,民事訴訟法37条1項に基づき法人の代表者について準用されています。
イ 家事事件手続法19条1項は民事訴訟法35条1項と同趣旨の条文です。
(2) 特別代理人は,特定の訴訟に関して法定代理人と同一の権限を有します。
(3) 基本法コンメンタール民事訴訟法Ⅰ(1条~132条)(第三版追補版)105頁によれば,特別代理人は,特別の授権なく上訴を提起できる(東京高裁昭和26年11月27日判決(判例秘書に掲載))ものの,請求の認諾又は和解をするためには特別の授権が必要であるとのことです。
2 原告側の特別代理人
(1)ア 株式会社が代表取締役を欠くに至った場合において,会社を代表して訴を提起するため仮代表取締役の選任の方法によったのでは遅滞のため損害を受けるおそれがあるときは,利害関係人は,民訴法58条及び56条(現在の民事訴訟法37条及び35条)の規定を類推して特別代理人の選任を申請することができます(最高裁昭和41年7月28日判決。なお,先例として大審院昭和9年1月23日判決参照)。
イ 仮代表取締役の正式名称は,代表取締役の一時職務執行者(会社法351条2項)でありますところ,大阪地裁HPに「一時取締役・監査役職務代行者(仮役員)選任申立ての方法等(会社非訟事件)」が載っています。
(2) 自動車事故による傷害のため精神障害を生じ判断能力を欠く状況にある者が,原告として右事故に基づく損害賠償請求の訴を提起するに際し,原告の長男が申請人となって同人を特別代理人に選任するよう申立てたのに対し,同人は利害関係者であるとして,民訴法56条(現在の民訴法35条)を準用して右申立てを認めた事例として京都地裁昭和57年9月7日決定(判例秘書に掲載)があります。
3 離婚訴訟等における特別代理人
(1)  離婚訴訟の場合,特別代理人を選任することはできません(最高裁昭和33年7月25日判決)から,後見開始の審判の申立てが常に必要となります(人事訴訟法14条1項本文参照)。
(2) 婚姻無効確認請求訴訟の場合,特別代理人を選任することができます(東京高裁昭和62年12月8日決定(判例秘書に掲載))。
4 強制執行開始前に債務者が死亡して相続人がいない場合における特別代理人
(1)ア 強制執行開始前に債務者が死亡し,債務者の相続財産管理人が選任された場合に相続財産管理人に対する承継執行文の付与を禁止する規定はありませんから,民事執行法上,相続財産法人に帰属する相続財産に対しても相続債権者が強制執行をしてその権利の実現を図ることができることが予定されています(東京高裁平成7年10月30日決定(判例秘書に掲載))。
    ただし,強制執行開始前に、所有者が死亡し、相続人不存在となっている場合につき,①相続財産管理人の選任を待っていたのでは,時効による消滅等により損害が生じる可能性がある場合,及び②物件がガソリンスタンドで速やかな処分が要求される場合,例外的に特別代理人の選任申立てができます(外部ブログの「所有者が死亡し、相続人が不存在となった場合の不動産競売(改訂)」参照)。
イ 強制執行における債務者側の特別代理人の根拠は民事執行法20条に基づく民事訴訟法35条の準用とされています(大審院昭和6年12月9日決定(判例秘書に掲載)のほか,関口法律事務所ブログの「訴える相手方が死亡し、相続人がいない場合の訴訟や強制執行手続について(相続財産管理人・特別代理人)」参照)ところ,理屈としては,相続財産法人について代表者である相続財産管理人がいない状態であるということだと思います。
(2)ア 競売手続における特別代理人に対する報酬は,手続費用として,配当時に償還を受けられるものの,特別代理人の選任申立て時には,それに相当する金額を債権者において予納する必要があります。
イ 不動産競売申立ての実務と記載例(2005年8月1日付)160頁には以下の記載があります。
予納金の額は,各庁により取扱いが異なる。東京地裁民事執行センターでは,現在,本人の事理弁識能力に疑いのある場合は10万円,それ以外の場合は5万円を予納額としている。ただし,特別代理人候補者の内諾があり,事前に報酬についての放棄書が提出される場合は,この予納は不要である。なお,事理弁識能力に疑いのある場合には,選任された特別代理人において,本人及び担当医師等と面接し,その結果を裁判所に対し報告してもらっている。面接の結果,本人に事理弁識能力があると認定されれば,特別代理人選任を取り消すこととなる。
(3) 民事執行法41条2項に基づく特別代理人は,強制執行開始後に債務者が死亡した場合に使える制度です。
5 相続放棄の申述における特別代理人
(1) 未成年者と法定代理人が共同相続人である場合に未成年者のみが申述する場合,利益相反行為に該当しますから,相続放棄の申述の前に民法826条1項に基づく特別代理人の選任が必要となります。
    ただし,熟慮期間があまりない場合,特別代理人選任申立書と特別代理人候補者からの相続放棄申述書が同時に提出されるときもあり,そのようなときに相続放棄申述書の受付をしている取扱いもあるようです(家事手続案内の研究71頁)。
(2)  共同相続人の一人が他の共同相続人の全部又は一部の者の後見をしている場合において,後見人が被後見人全員を代理してする相続の放棄は,後見人みずからが相続の放棄をしたのちにされたか,又はこれと同時にされたときは,民法860条・826条にいう利益相反行為に当たりません(最高裁昭和53年2月24日判決)。
6 その他
(1) 強制執行開始前に債務者である株式会社の代表取締役が死亡して代表取締役が不在となっている場合,民事執行法20条・民事訴訟法37条・35条に基づき,債務者について特別代理人の選任申立てができます。
    この場合,「遅滞のため損害を受けるおそれがあること」の疎明としては,以下のように記載すればいいです(不動産競売申立ての実務と記載例(2005年8月1日付)158頁参照)。
    債権者が直ちに本件競売の申立てをしなければ,債権回収の遅延による損害は拡大し,その損害は本件抵当権実行により填補されないものとなってしまうおそれがある。
(2)ア ①民事訴訟の被告,②民事執行の債務者又は③家事事件の相手方となる自然人に相続人がいない場合,相続財産管理人又は特別代理人を利用することとなると思いますところ,東京地裁21民(執行部)の取扱いとしては,少なくとも民事執行の債務者については相続財産清算人(令和5年3月31日までの相続財産管理人)が原則となります。
イ 被告となる株式会社に代表取締役がいない場合,仮代表取締役又は特別代理人を利用することとなりますところ,不動産競売申立ての実務と記載例(2005年8月1日付)158頁参照)160頁によれば,東京地裁8民(商事部)としては,費用,手数料等々の関係上,特別代理人の選任申立てをした方がよいという指導を行っているそうです。


第6 関連記事その他
1 制限行為能力者であることを黙秘することは,制限行為能力者の他の言動などと相まって,相手方を誤信させ,又は誤信を強めたものと認められるときには,民法21条(改正前の民法20条)の「詐術」に当たるものの,黙秘することのみでは「詐術」に当たりません(最高裁昭和44年2月13日判決)。
2  無権代理人がした訴訟行為の追認は,ある審級における手続がすでに終了したのちにおいては,その審級における訴訟行為を一体として不可分的にすべきものであって,すでに終了した控訴審における訴訟行為のうち控訴提起行為のみを選択して追認することは許されません(最高裁昭和55年9月26日判決)。
3(1) 二弁フロンティア2022年4月号「【前編】交通事故訴訟の最新の運用と留意点~東京地裁民事第27部(交通部)インタビュー~」には以下の記載があります。
    当事者が未成年の場合には、法定代理人(共同親権の場合には父母両名)の記載が必要であり、代理権を証する戸籍謄本などの証明書の添付や法定代理人名義の委任状が必要となります。なお、未成年が成人した際には、改めて委任状を取り直して提出していただく必要があります。また、当部の取扱いとして、資格証明書については訴え提起前3か月以内のもの、訴訟委任状については訴え提起前6か月以内のものを提出していただいております。
(2) 令和4年4月1日,成年年齢が20歳から18歳に変わりました。
4 たとえ被相続人が所有財産を他に仮装売買したとしても,単にその推定相続人であるというだけでは,右売買の無効(売買契約より生じた法律関係の不存在)の確認を求めることはできませんし,被相続人の権利を代位行使することはできません(最高裁昭和30年12月26日判決)。
5 訴訟代理人がその権限に基づいて選任した訴訟復代理人は独立して当事者本人の訴訟代理人となるものですから,選任後継続して本人のために適法に訴訟行為をなし得るものであって,訴訟代理人の死亡によって当然にその代理資格を失なうものではありません(最高裁昭和36年11月9日判決)。
6 遺産分割の審判を本案とする審判前の保全処分は,同保全処分が本案の係属を要し,本案と密接に関連しているという,民事保全と異なる面を持つ特殊な保全処分であることから,その被保全権利は,既存の権利ではなく,本案の終局審判で形成される具体的権利となるため,審判前の保全処分においては,本案の終局審判で形成される具体的権利が認められる蓋然性,すなわち本案認容の蓋然性および保全の必要性を要し,この本案認容の蓋然性は,保全処分の対象である権利関係が,本案手続において具体的に形成される見込みがあることと解されます(東京高裁令和3年4月15日決定(判例秘書に掲載))。
7 以下の記事も参照してください。
・ 相続財産管理人,不在者財産管理人及び代位による相続登記
・ 相続事件に関するメモ書き
・ 離婚事件に関するメモ書き
・ 家事事件に関する審判書・判決書記載例集(最高裁判所が作成したもの)
 大阪家裁後見センターだより
 裁判所関係国賠事件
 後見人等不正事例についての実情調査結果(平成23年分以降)
 平成17年以降の,成年後見関係事件の概況(家裁管内別件数)

令和4年1月1日以降の裁判所時報

目次
1 令和4年1月1日以降の裁判所時報
2 令和3年12月15日号までの裁判所時報は市販されていたこと等
3 毎年4月15日付の裁判所時報
4 開示文書の利用目的は一切問われないこと等
5 裁判所時報に載らない裁判官人事
6 関連記事その他

1 令和4年1月1日以降の裁判所時報
(1) 「裁判所時報◯◯◯◯号(令和◯年◯月◯日付)」というファイル名です。
(2) 裁判所時報5月15日号及び11月15日号の別紙として「勲章受章者名簿」が含まれています。
(令和7年)
1月1日1月15日2月1日2月15日
3月1日,3月15日,4月1日4月15日
5月1日5月15日6月1日6月15日
7月1日,7月15日,8月1日8月15日
9月1日9月15日10月1日10月15日
11月1日11月15日12月1日,12月15日
(令和6年)
1月1日1月15日2月1日2月15日
3月1日3月15日4月1日4月15日
5月1日5月15日6月1日6月15日
7月1日7月15日8月1日8月15日
9月1日9月15日10月1日10月15日
11月1日11月15日12月1日12月15日
(令和5年)
1月1日1月15日2月1日2月15日
3月1日3月15日4月1日4月15日
5月1日5月15日6月1日6月15日
7月1日7月15日8月1日8月15日
9月1日9月15日10月1日10月15日
11月1日11月15日12月1日12月15日
(令和4年)
1月1日1月15日2月1日2月15日
3月1日3月15日4月1日4月15日
5月1日5月15日6月1日6月15日
7月1日7月15日8月1日8月15日
9月1日9月15日10月1日10月15日
11月1日11月15日12月1日12月15日


2 令和3年12月15日号までの裁判所時報は市販されていたこと等
(1)ア 裁判所時報編集マニュアル(平成27年9月9日)19頁には以下の記載があります。
※ 裁判所時報は法曹会から一般販売されているが,著作権料は徴収していない。これは,「裁判所時報の内容は,広く,あまねくこれを知らしめる必要がある」との発刊の趣旨からのことと思われる。
イ 令和3年6月2日法律第52号による改正後の著作権法32条2項は「国等の周知目的資料は、説明の材料として新聞紙、雑誌その他の刊行物に転載することができる。ただし、これを禁止する旨の表示がある場合は、この限りでない。」と定めています。
ウ 国等の周知目的資料とは,国若しくは地方公共団体の機関、独立行政法人又は地方独立行政法人が一般に周知させることを目的として作成し、その著作の名義の下に公表する広報資料、調査統計資料、報告書その他これらに類する著作物をいいます(著作権法31条1項1号)。
(2) 「裁判所時報」の発行終了について(令和3年12月15日付の一般財団法人法曹会出版部長からの手紙)には以下の記載がありました。
    皆様に御購読いただいております「裁判所時報」ですが,同封の「裁判所時報第1780号」及び令和4年2月発行予定の「裁判所時報総目次(1757~1780)」をもって発行が終了されることとなりました。


3 毎年4月15日付の裁判所時報
・ 毎年4月15日付の裁判所時報に4月1日付の人事が載りますところ,以下の特徴があります。
(1) 個々人の記載事項
ア 1行目に異動先のポスト(4月1日付の発令事項)が書いてあり,2行目に1文字の字下げの後,異動前のポスト(現任庁・現官職)及び氏名が書いてあります。
イ 行政機関等の職員(行政機関職員のほか,衆議院法制局参事,国立国会図書館参事及び預金保険機構参与をいいます。)の出向先から戻ってきた裁判官,弁護士職務経験から戻ってきた裁判官及び弁護士任官した裁判官の場合,異動先のポストだけが書いてあります。
(2) 人事異動の記載の順番
ア 異動前のポストを基準として以下の順番で書いてあります。
① 最高裁勤務の裁判官の異動
・ (a)異動の前又は後のポストが最高裁調査官→(b)異動の前又は後のポストが事務総局勤務の裁判官→(c)異動の前又は後のポストが司法研修所教官→(d)異動の前又は後のポストが司法研修所所付→(e)異動の前又は後のポストが裁判所職員総合研修所教官の順番です。
② 高裁及び地家裁の判事の異動
・ 高裁単位で,東京→大阪→名古屋→広島→福岡→仙台→札幌→高松の順番で管内の異動が記載されます。
③ 地家裁の判事補の異動
・ 高裁単位で,東京→大阪→名古屋→広島→福岡→仙台→札幌→高松の順番で管内の異動が記載されます。
④ 簡裁判事の異動
・ 高裁単位で,東京→大阪→名古屋→広島→福岡→仙台→札幌→高松の順番で管内の異動が記載されます。
⑤ 一般職の異動
イ 異動先のポストだけが書いてある裁判官の場合,異動先のポストを基準として書いてあります。
    例えば,東京高裁判事に弁護士任官した場合,異動前のポストが東京高裁判事の人の最後に書いてあります。
ウ 職務上使用している旧姓と戸籍名が異なる場合,以前は戸籍名が書いてあったものの,裁判所職員の旧姓使用について(平成29年7月3日付の最高裁判所事務総長の通達)が施行された後は,職務上使用している旧姓が記載されるようになったみたいです。
    この点については,ウエストロー・ジャパンの法曹界人事と同じです。
(3) 独自に記載されている人事
ア 任官3年目の地裁判事補から地家裁判事補となる人事,及び司法研修所所付の人事が書いてあります。
イ これらの人事は,ウエストロー・ジャパンの法曹界人事には書いていません。
(4) 記載されていない人事
ア 弁護士職務経験判事補となる裁判官(身分上は裁判所事務官となります。),及び民間企業長期研修を開始する裁判官は書いてありません。
イ 行政機関等に出向する裁判官は書いてありません。
→ 3月1日付その他3月上旬に最高裁の局付判事となったり,3月31日付で東京地裁判事補等となったりしている場合,4月1日付で行政機関等に出向している可能性が高いです。
ウ 異動前後のポストが部総括判事であるかどうかは書いてありません。
エ 同一庁での部総括発令は書いてありません。
(5) その他
ア 3月25日付で高裁所在地の地裁判事補となっている場合,裁判所時報に記載されないものの,4月1日付で弁護士職務経験判事補となるか,又は民間企業長期研修を開始している可能性が高いです。
    ただし,東京地家裁判事補等から直接,弁護士職務経験判事補となったり,民間企業長期研修を開始したりする人もいます。
イ 人事異動の原稿の入手先は,裁判官については,人事局任用課任用第一実施係となっており,一般職については,人事局任用課任用第二実施係となっています。


4 開示文書の利用目的は一切問われないこと等
(1) 最高裁平成19年4月17日判決の裁判官藤田宙靖の補足意見には以下の記載があります。
    本件条例(注:愛知県公文書公開条例のこと。)をも含む我が国の情報公開法制は,「情報」そのものではなく,「情報」の記載された「文書」を開示の対象として採用しており,また,文書を特定して開示請求がされる以上,その開示が請求者にとってどのような意義を持つ(役に立つ)のか,また,開示された文書をどのような目的のために利用するのか等を一切問うことなく,(例外的に法定された不開示事由に該当する情報が記載された文書を除き)請求の対象とされた文書の全体を開示することを原則として構築されている。
(2) 裁判所をめぐる諸情勢について(令和3年6月の最高裁判所事務総局の文書)45頁には以下の記載があります。
    司法行政文書を適切に管理することは,司法行政事務の適正かつ効率的な運営に不可欠であるとともに,文書開示手続を通じて,国民に対する説明責任を全うする土台となるものであり,それができない場合には裁判所に対する国民の信頼を著しく失墜させることにつながりかねない。


5 裁判所時報に載らない裁判官人事
(1) 例えば,以下の裁判官人事は裁判所時報に載りません(裁判所時報編集マニュアル(平成27年9月9日付)13頁参照)。
・ 転勤に際して部総括に指名されたこと
・ 同一庁において部総括に指名されたこと
・ ◯◯地裁裁判所事務官(弁護士職務経験)になったこと
・ 民間企業長期研修を開始したこと
(2)ア 2年間の弁護士職務経験を開始する場合,その直前の3月25日付で東京地裁又は大阪地裁の判事補(地「家」裁の判事補ではないです。)になることが多いです。
イ 1年間の民間企業長期研修を開始する場合,その直前の3月25日付で研修先の近くの地家裁の判事補になることが多いものの,1年間だけであることもあって,直前の転勤がないことも多いです


6 関連記事その他
(1) 令和4年1月1日以降の裁判所時報のデータベースになるようにブログ記事を作成しています。
(2) 平成31年4月1日現在,裁判所時報の編集及び刊行に関する事項は,最高裁判所総務局第二課判例法令係が担当しています(最高裁判所事務総局総務局事務分掌(平成31年4月1日現在)参照)。
(3)ア CiNiiの「裁判所時報」に,全国の大学図書館における,裁判所時報第1号(昭和23年1月1日付)から第1780号(令和3年12月15日付)までの所蔵状況が載っています。
イ 令和4年1月1日以降の裁判所時報については,国立国会図書館デジタルコレクションの全文検索の対象になっています。
(4)ア 以下の資料を掲載しています。
・ 裁判所時報の組版,校正及び製本等(単価契約)に関する,令和3年8月20日付の請負契約書(受注者は星野製版印刷株式会社)
・ 裁判所時報マニュアル(令和3年11月の開示文書)
・ 一元的な文書管理システム教材の改訂版(令和2年3月24日付の配布文書)
・ 文書事務における知識付与を行うためのツールの改訂版(平成31年3月7日付の配布文書)
・ ホームページ,裁判所時報,民集又は裁判集の仮名処理について
イ 以下の記事も参照してください。
・ 裁判官の退官情報
・ 50歳以上の裁判官の依願退官の情報
 判事補時代に退官した元裁判官の名簿(令和時代)
・ 叙位の対象となった裁判官
・ 裁判所時報マニュアル(平成31年4月に開示されたもの)
 裁判官の民間企業長期研修等の名簿
・ 判事補及び検事の弁護士職務経験制度
 歴代の最高裁判所総務局長
・ 最高裁判所事務総局総務局の事務分掌


裁判所職員の予算定員の推移

目次
第1 裁判官及び秘書官の予算定員の推移
1 裁判官の予算定員の推移
2 裁判官秘書官の予算定員の推移
第2 一般職俸給表準用職員の予算定員の推移
第3 一般職俸給表準用職員の予算定員の内訳の推移
1 指定職俸給表準用職員の予算定員の推移
2 行政職俸給表(一)準用職員の予算定員の推移
3 行政職俸給表(二)準用職員の予算定員の推移
4 医療職俸給表(一)準用職員の予算定員の推移
5 医療職俸給表(二)準用職員の予算定員の推移
6 医療職俸給表(三)準用職員の予算定員の推移
第4 裁判所の職種別の予算定員の推移
1 裁判所書記官
2 裁判所速記官(平成10年度に新規養成停止)
3 家庭裁判所調査官
4 裁判所事務官
5 その他一般職(技能労務職員,医師,栄養士,看護師等)
6 補足説明
第5 平成25年度以降の裁判所の非常勤職員
第6 令和3年度開始のデジタル人材の採用
1 令和4年度採用のデジタル人材
2 令和3年度採用のデジタル人材
3 補足説明及び関連記事
第7 平成25年度以降の裁判所所管一般会計歳出予算各目明細書
第8 司法修習終了直後の判事補採用数の推移
第9 司法制度改革当時の裁判官の増員論
第10 予算書・決算書データベースに載ってある予算書へのリンク
第11 級別定数表の「職名」別の予算定員と裁判所データブックに記載されている書記官等の定員の対応関係
第12 最高裁から国会への情報提供文書
1 最高裁から衆議院への情報提供文書
2 最高裁から参議院への情報提供文書
第13 関連記事その他

第1 裁判官及び秘書官の予算定員の推移
1 裁判官の予算定員の推移
(1) 裁判官の予算定員の推移は,裁判所職員定員法のほか,昭和47年度から平成15年度まで存在していた沖縄の復帰に伴う特別措置に関する法律(略称は「沖特法」です。)63条に基づく予算定員を含めて,以下のとおりです。
令和 4年度:3841人(判事は2155人,判事補は 857人)
令和 3年度:3881人(判事は2155人,判事補は 897人)
令和 2年度:3881人(判事は2155人,判事補は 897人)
平成31年度:3881人(判事は2125人,判事補は 927人)
平成30年度:3866人(判事は2085人,判事補は 952人)
平成29年度:3841人(判事は2035人,判事補は 977人)
平成28年度:3814人(判事は1985人,判事補は1000人)
平成27年度:3782人(判事は1953人,判事補は1000人)
平成26年度:3750人(判事は1921人,判事補は1000人)
平成25年度:3718人(判事は1889人,判事補は1000人)
平成24年度:3686人(判事は1857人,判事補は1000人)
平成23年度:3656人(判事は1827人,判事補は1000人)
平成22年度:3611人(判事は1782人,判事補は1000人)
平成21年度:3566人(判事は1717人,判事補は1020人)
平成20年度:3491人(判事は1677人,判事補は 985人)
平成19年度:3416人(判事は1637人,判事補は 950人)
平成18年度:3341人(判事は1597人,判事補は 915人)
平成17年度:3266人(判事は1557人,判事補は 880人)
平成16年度:3191人(判事は1517人,判事補は 845人)
平成15年度:3139人(判事は1450人,判事補は 829人)
→ うち,沖特法63条に基づく予算定員は,判事が25人,判事補が6人,簡裁判事が12人(合計43人)
平成14年度:3094人(判事は1420人,判事補は 819人)
→ うち,沖特法63条に基づく予算定員は,判事が25人,判事補が6人,簡裁判事が12人(合計43人)
平成13年度:3049人(判事は1415人,判事補は 805人)
→ うち,沖特法63条に基づく予算定員は,判事が25人,判事補が6人,簡裁判事が12人(合計43人)
(中略)
平成 3年度:2828人(判事は1385人,判事補は 614人)
→ うち,沖特法63条に基づく予算定員は,判事が25人,判事補が6人,簡裁判事が12人(合計43人)
(中略)
昭和26年度:1595人(判事は1000人,判事補は 472人)
(2) 15期の泉徳治裁判官が最高裁判所人事局長となった後の平成3年度から裁判官の増員が開始しましたところ,昭和53年度ないし平成2年度の判事補の予算定員は609人であり,昭和62年度ないし平成12年度の判事の予算定員は1385人でした。
(3)ア 沖特法63条に基づく予算定員に基づく予算定員を含めた場合,平成2年度ないし令和4年度の簡裁判事の定員は806人です。
イ 沖特法63条に基づく予算定員につき,昭和47年度の場合,判事補20人,判事補が21人,簡裁判事が12人であり(合計53人),平成15年度の場合,判事が25人,判事補が6人,簡裁判事が12人でした(合計43人)。
(4) 47期の小野寺真也最高裁判所総務局長は,令和4年4月3日の衆議院法務委員会において以下の答弁をしています。
 今般の判事補の状況につきまして、充員が困難な状況が続いていること、直近の事件動向、あるいは、令和三年三月十二日の衆議院法務委員会附帯決議等を踏まえて、総合的に今般検討した結果、本年度につきましては判事補を四十人減員するものとしたものでございます。
 昨年につきましては、昨年の段階での事件動向あるいは今後の充員の在り方ということを、当時の検討としてそれが誤っていたというふうには考えておりませんが、今回の充員状況の動向も踏まえまして、今般、四十人の減員ということを考えたというものでございます。
2 裁判官秘書官の予算定員の推移
(1) 昭和22年5月3日の裁判所法施行時は最高裁判所長官秘書官1人だけでしたが,昭和23年12月21日法律第260号による改正後の昭和24年度以降は23人です。
(2) 裁判官秘書官の内訳は最高裁判所裁判官秘書官が15人,高等裁判所長官秘書官が8人です。


第2 一般職俸給表準用職員の予算定員の推移
1(1) 一般職俸給表準用職員の予算定員の推移は以下のとおりです。
令和 4年度:21753人(最高裁1007人,下級裁20745人)
令和 3年度:21778人(最高裁 995人,下級裁20783人)
令和 2年度:21795人(最高裁 994人,下級裁20801人)
平成31年度:21812人(最高裁 984人,下級裁20828人)
平成30年度:21825人(最高裁 980人,下級裁20845人)
平成29年度:21860人(最高裁 983人,下級裁20877人)
平成28年度:21895人(最高裁 981人,下級裁20914人)
平成27年度:21931人(最高裁 982人,下級裁20949人)
平成26年度:21967人(最高裁 989人,下級裁20978人)
平成25年度:22003人(最高裁 992人,下級裁21011人)
(中略)
平成13年度:21017人(最高裁1064人,下級裁19953人)
(中略)
平成 3年度:20814人(最高裁1072人,下級裁19742人)
(2) 令和4年度につき,自動車運行体制整備のため,下級裁判所から最高裁判所に12人の技能労務職員が振り替えられています。
2 一般職俸給表準用職員は裁判官及び秘書官以外の裁判所職員であって,その内訳は以下のとおりです。
(1) 指定職俸給表準用職員
(2) 行政職俸給表(一)準用職員
(3) 行政職俸給表(二)準用職員
(4) 医療職俸給表(一)準用職員
(5) 医療職俸給表(二)準用職員
(6) 医療職俸給表(三)準用職員

第3 一般職俸給表準用職員の予算定員の内訳の推移
1 指定職俸給表準用職員の予算定員の推移
(1)ア 指定職俸給表準用職員の予算定員の推移は以下のとおりです。
平成30年度ないし令和 4年度:44人(最高裁20人,下級裁24人)
平成25年度ないし平成29年度:43人(最高裁19人,下級裁24人)
(中略)
平成13年度:41人(最高裁19人,下級裁22人)
(中略)
平成 3年度:31人(最高裁17人,下級裁14人)
イ 平成30年度に最高裁判所審議官ポストが1つ増えてプロパーの裁判所事務官に割り当てられるようになりました。
(2) 令和3年度の指定職俸給表準用職員は以下のとおりです。
ア 最高裁判所20人
(ア) 裁判所事務官9人
8号棒:最高裁事務総長(プロパーの裁判官出身者が就任します。)
3号棒:最高裁大法廷首席書記官,最高裁審議官,最高裁家庭審議官
2号棒:最高裁訟廷首席書記官,最高裁小法廷首席書記官(3人),裁判所職員総合研修所事務局長
(イ) 裁判官の充て職11人
最高裁事務次長
最高裁の総務局長,人事局長,経理局長,民事局長,刑事局長,行政局長,家庭局長(7人)
最高裁審議官
司法研修所長,裁判所職員総合研修所長(2人)
イ 下級裁判所24人
(ア) 裁判所事務官16人
3号棒:東京及び大阪の高裁事務局次長(2人)
2号棒:名古屋,広島,福岡,仙台,札幌及び高松高裁の事務局次長(7人)
東京地裁事務局長
東京,大阪,名古屋,広島,福岡,仙台及び札幌の首席家裁調査官(7人)
(イ) 裁判官の充て職8人
8高裁の事務局長(8人)
(3) ①東京高裁事務局次長は昭和時代から指定職であったところ,②平成2年度に大阪高裁事務局次長が指定職となり,③平成4年度に福岡高裁事務局次長が指定職となり,④平成5年度に名古屋高裁事務局次長が指定職となり,⑤平成6年度に広島高裁事務局次長が指定職となり,⑥平成7年度に仙台高裁事務局次長が指定職となり,⑦平成8年度に札幌高裁事務局次長が指定職となり,⑧平成9年度に高松高裁事務局次長が指定職となりました(最高裁総務局・人事局各課長,参事官を囲む座談会(平成9年5月30日開催)における発言(全国裁判所書記官協議会会報第139号4頁)等参照)。
(4) 以下の記事も参照してください。
・ 裁判所の指定職職員
・ 裁判所関係者及び弁護士に対する叙勲の相場
・ 最高裁判所が作成している,下級裁判所幹部職員名簿
・ 首席書記官の職務
・ 首席家庭裁判所調査官の職務
・ 裁判所の指定職職員の名簿(一般職)

2 行政職俸給表(一)準用職員の予算定員の推移
(1) 行政職俸給表(一)準用職員の予算定員の推移は以下のとおりです。
令和 4年度:21267人(最高裁920人,下級裁20303人)
令和 3年度:21231人(最高裁920人,下級裁20311人)
令和 2年度:21223人(最高裁917人,下級裁20306人)
平成31年度:21203人(最高裁906人,下級裁20297人)
平成30年度:21166人(最高裁897人,下級裁20269人)
平成29年度:21138人(最高裁896人,下級裁20242人)
平成28年度:21102人(最高裁887人,下級裁20215人)
平成27年度:21067人(最高裁887人,下級裁20180人)
平成26年度:21032人(最高裁886人,下級裁20146人)
平成25年度:21003人(最高裁886人,下級裁20117人)
(中略)
平成13年度:19163人(最高裁871人,下級裁18292人)
(中略)
平成 3年度:18662人(最高裁864人,下級裁17798人)
(2) 行政職俸給表(一)準用職員には裁判所書記官,裁判所速記官,家庭裁判所調査官及び裁判所事務官が含まれます。
(3) 以下の記事も参照してください。
・ 首席書記官の職務
 首席家庭裁判所調査官の職務
・ 指定職未満の裁判所一般職の級
・ 司法行政部門における役職と,裁判部門における裁判所書記官の役職の対応関係

3 行政職俸給表(二)準用職員の予算定員の推移
(1) 行政職俸給表(二)準用職員の予算定員の推移は以下のとおりです。
令和 4年度: 361人(最高裁 58人,下級裁 303人)
令和 3年度: 379人(最高裁 46人,下級裁 333人)
令和 2年度: 404人(最高裁 48人,下級裁 356人)
平成31年度: 441人(最高裁 49人,下級裁 392人)
平成30年度: 491人(最高裁 54人,下級裁 437人)
平成29年度: 626人(最高裁 66人,下級裁 496人)
平成28年度: 626人(最高裁 66人,下級裁 560人)
平成27年度: 697人(最高裁 67人,下級裁 630人)
平成26年度: 768人(最高裁 75人,下級裁 693人)
平成25年度: 833人(最高裁 78人,下級裁 755人)
(中略)
平成13年度:1689人(最高裁165人,下級裁1524人)
(中略)
平成 3年度:1995人(最高裁180人,下級裁1815人)
イ 令和4年度につき,自動車運行体制整備のため,下級裁判所から最高裁判所に12人の技能労務職員が振り替えられています。
(2) 行政職俸給表(二)準用職員は技能労務職員だけでありますところ,技能労務職員というのは以下の職種です(「全司法本部の中央執行委員長が裁判所職員の定員に関して国会で述べた意見」参照)。
① 庁舎清掃などを担当する庁務員
② 庁舎管理などを担当する守衛
③ 裁判所の声の窓口となる電話交換手
④ 庁外の尋問や検証、少年事件における身柄押送などを担当する自動車運転手
(3) 47期の小野寺真也最高裁判所総務局長は,令和4年3月4日の衆議院法務委員会において以下の答弁をしています(ナンバリングを追加しています。)。
① 技能労務職員につきましては、庁舎の清掃や警備、電話交換といった庁舎管理等の業務や、自転車の運転等の業務を行っているところでございます。
 技能労務職員の定員の合理化は、定年等の退職に際し、裁判所の事務への支障の有無を考慮しつつ、外注化による合理化が可能かを判断し、後任を不補充とすることにより生じた欠員について実施しているところであります。
 技能労務職員が担当してきた業務につきましては、必要に応じて既に外部委託による代替等が行われているところであり、今回、技能労務職員の定員を合理化することで裁判所の事務に支障を生じさせることはないものと考えております。
② 済みません、先ほど自転車と申し上げてしまいまして、自動車の運転等の業務でございます。失礼いたしました。

4 医療職俸給表(一)準用職員の予算定員の推移
(1) 医療職俸給表(一)準用職員の予算定員の推移は以下のとおりです。
平成25年度ないし令和4年度:50人(最高裁0人,下級裁50人)
(中略)
平成13年度:50人(最高裁0人,下級裁50人)
(中略)
平成 3年度:50人(最高裁0人,下級裁50人)
(2) 医療職俸給表(一)準用職員は医師だけです。

5 医療職俸給表(二)準用職員の予算定員の推移
(1) 医療職俸給表(二)準用職員の予算定員の推移は以下のとおりです。
平成25年度ないし令和4年度:3人(最高裁3人,下級裁0人)
(中略)
平成13年度:3人(最高裁3人,下級裁0人)
(中略)
平成 3年度:5人(最高裁5人,下級裁0人)
(2) 医療職俸給表(二)準用職員は栄養士だけです。

6 医療職俸給表(三)準用職員の予算定員の推移
(1) 医療職俸給表(三)準用職員の予算定員の推移は以下のとおりです。
平成25年度ないし令和4年度:71人(最高裁6人,下級裁65人)
(中略)
平成13年度:71人(最高裁6人,下級裁65人)
(中略)
平成 3年度:71人(最高裁6人,下級裁65人)
(2) 医療職俸給表(三)準用職員は看護師(以前の看護婦)だけです。


第4 裁判所の職種別の予算定員の推移
1 裁判所書記官
令和 3年度:9878人 令和 2年度:9876人
平成31年度:9868人 平成30年度:9853人
平成29年度:9834人 平成28年度:9810人
平成27年度:9771人 平成26年度:9732人
平成25年度:9688人 平成24年度:9640人
平成23年度:9560人 平成22年度:9480人
平成21年度:9405人 平成20年度:9280人
平成19年度:9160人 平成18年度:9030人
平成17年度:8882人 平成16年度:8692人
平成15年度:8500人 平成14年度:8278人
平成13年度:8033人
2 裁判所速記官(平成10年度に新規養成停止)
令和 4年度:205人(予定)
令和 3年度:207人 令和 2年度:209人
平成31年度:211人 平成30年度:213人
平成29年度:215人 平成28年度:220人
平成27年度:225人 平成26年度:230人
平成25年度:235人 平成24年度:240人
平成23年度:245人 平成22年度:260人
平成21年度:270人 平成20年度:285人
平成19年度:305人 平成18年度:325人
平成17年度:355人 平成16年度:385人
平成15年度:435人 平成14年度:485人
平成13年度:535人 平成12年度:635人
平成11年度:735人 平成10年度:835人
平成 9年度:935人
3 家庭裁判所調査官
令和 4年度:1598人(予定)
平成21年度ないし令和3年度:1596人
平成18年度ないし平成20年度:1591人
平成17年度:1588人 平成16年度:1583人
平成15年度:1568人 平成14年度:1538人
平成13年度:1533人
4 裁判所事務官
令和 4年度:9394人(予定)
令和 3年度:9392人 令和 2年度:9384人
平成31年度:9370人 平成30年度:9346人
平成29年度:9334人 平成28年度:9317人
平成27年度:9316人 平成26年度:9315人
平成25年度:9325人 平成24年度:9335人
平成22年度及び平成23年度:9345人
平成19年度及び平成20年度:9355人
平成17年度:9408人 平成16年度:9508人
平成15年度:9629人 平成14年度:9779人
平成13年度:9929人
5 その他一般職(技能労務職員,医師,栄養士,看護師等)
令和 3年度: 728人 令和 2年度: 753人
平成31年度: 790人 平成30年度: 840人
平成29年度: 904人 平成28年度: 975人
平成27年度:1046人 平成26年度:1117人
平成25年度:1182人 平成24年度:1248人
平成23年度:1343人 平成22年度:1408人
平成21年度:1473人 平成20年度:1575人
平成19年度:1675人 平成18年度:1755人
平成17年度:1850人 平成16年度:1905人
平成15年度:1931人 平成14年度:1974人
平成13年度:2017人
6 補足説明
(1)ア 職種別の予算定員及び級別定数は一般会計予算参照書に記載されています。
イ 裁判所速記官の予算定員は,(項)下級裁判所の主任速記官及び速記官の合計です。
ウ 家庭裁判所調査官の予算定員は,(項)下級裁判所の首席家庭裁判所調査官7人(指定職俸給表)のほか,首席家庭裁判所調査官,次席家庭裁判所調査官,主任家庭裁判所調査官,家庭裁判所調査官及び家庭裁判所調査官補の合計です。
(2) 元データは裁判所データブックのバックナンバーです。


第5 平成25年度以降の裁判所の非常勤職員
1 最高裁判所の非常勤職員
令和4年度:16人(医員4人,看護師2人,デジタル人材10人)
平成25年度ないし令和3年度:6人(医員4人,看護師2人)
2 下級裁判所の非常勤職員
令和4年度:81人(医員51人,看護師30人)
平成31年度ないし令和 3年度:61人(医員51人,看護師10人)
平成25年度ないし平成30年度:79人(医員58人,看護師21人)
3 補足説明
(1) 裁判所職員定員法2条は「裁判官以外の裁判所の職員(執行官、非常勤職員、二箇月以内の期間を定めて雇用される者及び休職者を除く。)の員数は」という文言を使っていますから,非常勤職員は裁判所職員の定員外となります。
(2) 裁判所所管一般会計歳出予算各目明細書において(項)最高裁判所の「非常勤職員手当」の「積算内容」(PDF4頁辺り)を見れば最高裁判所の非常勤職員の内訳が分かり,(項)下級裁判所の「非常勤職員手当」の「積算内容」(PDF11頁辺り)を見れば下級裁判所の非常勤職員の内訳が分かります。

第6 令和3年度開始のデジタル人材の採用
1 令和4年度採用のデジタル人材
(1)ア 令和3年度の(項)最高裁判所の「非常勤職員手当」の予算要求額(医員4人,看護師2人)は850万7000円であり,令和4年度の(項)最高裁判所の「非常勤職員手当」の予算要求額(医員4人,看護師2人,デジタル人材10人)は6068万円ですから,差額の5217万3000円がデジタル人材10人のための予算であると思います。
イ 令和4年度の概算要求では,(項)最高裁判所の「非常勤職員手当」の要求額は7232万7000円でしたから,財務省の予算査定で1164万7000円削減されて6068万円になったことになります。
(2) 令和4年度の最高裁判所の概算要求書(説明資料)251頁には「(1) 非常勤職員手当」として以下の記載があります。
<要求要旨>
    最高裁判所及び下級裁判所における裁判所職員の健康の保持及び増進を図るため,非常勤職員たる医師及び看護師の確保に必要な経費を要求する。また,裁判所における情報システムの開発や業務改革,サイバーセキュリティ対策等を適切に実施し,裁判所のデジタル化の推進を図るため,非常勤職員としてIT・セキュリティ知識を有する人材を確保するために必要な経費を要求する。
(3) 以下の資料を掲載しています。
・ 非常勤職員(デジタル推進室)の採用手続に関する実施要領(令和4年4月1日付の採用)
→ DX戦略アドバイザー,情報セキュリティ対策アドバイザー,プロジェクトマネージャー(クラウド移行)及びプロジェクトマネージャー(アプリ開発・UI/UXデザイン)の4職種について1人ずつ非常勤職員を募集するというものであり,勤務日数は1週間当たり29時間を超えない範囲内で定められるとのことです。
・ 令和4年1月に裁判のDXを推進する中核メンバーの募集広告を出すために株式会社ビズリーチとの間で授受した文書
2 令和3年度採用のデジタル人材
(1)ア 令和3年度採用のデジタル人材として,デジタル推進室専門官1人及び情報政策課兼民事局専門官1人が採用されました(ビズリーチの「司法府の最高機関でDXを推進し、日本の裁判を変革する」参照)。
イ 任期付職員としての採用のためであると思いますが,令和3年度の最高裁判所の概算要求書(説明資料)には関連する記載が見当たりません。
(2) 以下の資料を掲載しています。
・ 令和3年度任期付採用職員(デジタル推進室)選考採用手続実施要領
→ 情報基盤関係業務について任期付の裁判所事務官1人の募集(令和3年8月1日付の採用)であって,非常勤職員ではありません。
・ 令和3年度情報通信ネットワーク専門官(デジタル推進室)の選考結果
→ 296人の応募者のうち,書類選考者が31人,1次試験合格者が14人,2次試験合格者が5人,採用者が2人でした。
3 補足説明及び関連記事
(1) 毎年度の裁判所所管一般会計歳出予算各目明細書には,「(備考) この各目明細書の積算内訳に記載している各俸給表の予算定員には、「一般職の任期付職員の採用及び給与の特例に関する法律」第7条第1項の俸給表を適用する特定任期付職員が含まれる。」と記載されています。
    そのため,任期付職員の採用予定は歳出概算要求書を見るだけではわかりません。
(2) 以下の資料を掲載しています。
・ 中村慎最高裁判所事務総長と,デジタル専門官及び最高裁職員との対談記事(令和4年3月18日実施)
(3) 以下の記事も参照してください。
・ 最高裁判所の概算要求書(説明資料)
・ 令和4年度概算要求書における,民事訴訟手続のIT化に関する最高裁判所の財務省に対する説明内容
 裁判所の情報化の流れ


第7 平成25年度以降の裁判所所管一般会計歳出予算各目明細書
1 裁判所所管一般会計歳出予算各目明細書は以下のとおりです。
(令和時代)
令和2年度令和3年度令和4年度令和5年度
令和6年度
(平成時代)
平成25年度平成26年度平成27年度平成28年度
平成29年度平成30年度平成31年度
2 裁判所HPの「裁判所の予算」における掲載期間が10年だけみたいですから,裁判所HPに載ってあるものを転載しています。

第8 司法修習終了直後の判事補採用数の推移
1 裁判所データブックによれば,司法修習終了直後の判事補採用数の推移は以下のとおりです。
令和 4年度(75期) 75人(うち,女性は28人)
令和 4年度(74期) 73人(うち,女性は24人)
令和 2年度(73期) 66人(うち,女性は23人)
令和 元年度(72期) 75人(うち,女性は28人)
平成30年度(71期) 82人(うち,女性は21人)
平成29年度(70期) 65人(うち,女性は18人)
平成28年度(69期) 78人(うち,女性は30人)
平成27年度(68期) 91人(うち,女性は38人)
平成26年度(67期)101人(うち,女性は29人)
平成25年度(66期) 96人(うち,女性は38人)
平成24年度(65期) 92人(うち,女性は28人)
平成23年度(64期)102人(うち,女性は34人)
→ うち旧64期が4人,新64期が98人
平成22年度(63期)102人(うち,女性は32人)
→ うち旧63期が4人,新63期が98人
平成21年度(62期)106人(うち,女性は34人)
→ うち旧62期が7人,新62期が99人
平成20年度(61期) 99人(うち,女性は36人)
→ うち旧61期が24人,新61期が75人
平成19年度(60期)118人(うち,女性は43人)
→ うち旧60期が52人,新60期が66人
平成18年度(59期)115人(うち,女性は35人)
平成17年度(58期)124人(うち,女性は34人)
平成16年度(57期)109人(うち,女性は35人)
平成15年度(56期)101人(うち,女性は29人)
平成14年度(55期)106人(うち,女性は30人)
平成13年度(54期)112人(うち,女性は31人)
平成12年度(52期+53期) 87人(うち,女性は22人)+82人(うち,女性は26人)=169人(うち,女性は48人)
平成11年度(51期) 97人(うち,女性は18人)
平成10年度(50期) 93人(うち,女性は21人)
平成 9年度(49期)102人(うち,女性は26人)
平成 8年度(48期) 99人(うち,女性は26人)
平成 7年度(47期) 99人(うち,女性は34人)
平成 6年度(46期)104人(うち,女性は18人)
平成 5年度(45期) 98人(うち,女性は20人)
平成 4年度(44期) 65人(うち,女性は16人)
平成 3年度(43期) 96人(うち,女性は20人)
平成 2年度(42期) 81人(うち,女性は16人)
平成 元年度(41期) 58人(うち,女性は10人)
2(1) 週刊東洋経済2023年9月9日号51頁には以下の記載があります。
     形式的なものとはいえ諮問委での審査があるため、裁判官の内定が出るのは年末近くになってからになる。そこで内定が出た途端に内定辞退者が続出する。なぜか。裁判官の内定を得るような優秀な修習生に対しては、大手事務所が審査期間中にもう一段、採用条件の上乗せをすることがあるためだという。
(2) 下級裁判所裁判官指名諮問委員会の以下の議事録を見る限り,「判事補に任命されるべき者として指名することが適当」と答申された人の数及び指名留保者の数の合計と現実の任官者数はすべて一致していますから,「内定が出た途端に内定辞退者が続出」しているわけではないと思います(指名留保者は56期で1人,57期で1人いただけです,)。
5回(56期)11回(57期)18回(58期)24回(59期)
29回(旧60期)31回(新60期)34回(旧61期)36回(新61期)
39回(旧62期)41回(新62期)44回(旧63期)46回(新63期)
49回(旧64期)51回(新64期)56回(65期)61回(66期)
66回(67期)72回(68期)77回(69期)82回(70期)
87回(71期)92回(72期)97回(73期)103回(74期)107回(75期)
3 15期の泉徳治裁判官へのインタビューが載ってある一歩前へ出る司法127頁には,平成6年に判事補採用が100人を超えた理由として以下の記載があります(改行を追加しました。)。
     司法修習終了者が六○○人程度になるには一九九四年四月まで待たなければなりませんが、私は五○○人時代にも判事補採用一○○人を目指したいと考え、一九九一年に九六人まで採用できました。
    翌一九九二年には六五人に落ち込んだものの、一九九三年には九八人採用しました。そして、一九九四年四月に司法修習終了者が五九四人となったところで、判事補一○四人の採用を実現させました。
    ともかく三桁三桁と言い続けて、そこまで行ったんです。また、定員の方も、一九九一年から判事補の定員を増やすということを始めました。毎年、五人、七人、七人、一〇人、一二人と、徐々にではありますが、判事補の定員増を図りました。
    毎年一〇〇人前後の判事補を採用すれば、その人たちが判事になる一〇年後には判事の定員が足りなくなるでしょう。そのことは当然に分かっておりますが、一〇年後に事務総局にいる人たちが汗をかいて増員すればよいことですし、汗をかくべきだと思っておりました。
    矢口さん(山中注:矢口洪一 元最高裁判所長官のこと。)は、毎年六〇人程度を採用すればよい、そうすれば定員増も必要ないし、処遇の面でも楽であると言っておられました。しかし、それでは発展がありませんね。


第9 司法制度改革当時の裁判官の増員論
1 平成13年4月当時の最高裁判所事務総局の考えが,首相官邸HPの「裁判所の人的体制の充実について(司法制度改革審議会からの照会に対する回答)」(平成13年4月16日付)に書いてあります。
    5頁には「現在の事件数を前提に,迅速化と専門化への対応,裁判官制度改革への対応を図るために,約500人の裁判官の増員が必要である。」と書いてあります。
2 日弁連は,平成15年10月23日,裁判官及び検察官の倍増を求める意見書を発表しました。

第10 予算書・決算書データベースに載ってある予算書へのリンク
1 予算書・決算書データベースに載ってある予算書につき,以下のとおりリンクを張っています。
(令和時代)
令和元年度令和2年度令和3年度令和4年度
(平成時代)
平成27年度平成28年度平成29年度平成30年度
2 一般会計【PDF版】に含まれる「令和◯年度一般会計各省各庁予定経費要求書等」(一般会計予算参照書の一部です。)の「予算定員及び俸給額表」の中身は,級別定数表と同じであって,例えば,令和3年度予算の場合,リンク先のPDF287頁ないし291頁に,「裁判所所管 令和3年度裁判所職員予算定員及び俸給額表」が載っています。
3 リンク先につき,昭和44年度以降に関しては予算書と決算書が分けて掲載されています。

第11 級別定数表の「職名」別の予算定員と裁判所データブックに記載されている書記官等の定員の対応関係
1 令和4年9月9日付の最高裁判所事務総長の理由説明書には以下の記載があります。
    裁判所データブックとは、最高裁判所が裁判所に関する各種データを一般に公表することを目的として毎年度作成している文書であり、その中に官職名等別に定員が記載されている表(以下「裁判所データブックの表」という場合はこの表を指す。)が存在する。
    裁判所データブックの表は、予算定員表に定められた職名別の定員の数値を参考としつつ、裁判所職員定員法改正による定員の増減数を反映するなどして一般に公表するために作成しているものである。
2 令和4年度(最情)答申第30号(令和5年2月27日答申)には以下の記載があります。
  当委員会庶務を通じた確認の結果は、次のようなものである。まず、級別定数表とは、最高裁判所が予算の範囲内で職務の級の定数を設定することを目的として毎年度作成されている文書であり、職名別に職務の級ごとの定数が記載されている。級別定数表の定数は、各年度の一般予算参照書の予算定員表に定められた職名別の定員の数値を基礎資料として作成され、級別定数表の職名は、予算定員表の職名と一致する。一方、裁判所データブックとは、最高裁判所が裁判所に関する各種データについて、各種資料等を総合し、一般に公表することを目的として毎年度作成されている文書である。裁判所データブックの表には「裁判所職員(執行官を除く。)の定員」として、「官職名等」欄の「一般職」の項目に「書記官」、「速記官」、「家庭裁判所調査官」、「事務官」及び「その他」の項目ごと定員の記載がある。裁判所データブックの表の定員の数値は、予算定員表に定められた総数及び裁判所職員定員法改正による法律定員の増減数を把握するなど各種資料を総合して作成されている。
    上記確認結果を踏まえれば、裁判所データブックの表を作成するに当たっては、級別定数表を参考にするのではなく、予算定員表に定められた職名別の定員の数値を参考にしつつ、裁判所職員定員法改正による法律定員の増減数などを反映して作成されていることが推認される。したがって、級別定数表と裁判所データブックの表は、異なる目的に応じて作成されたものであり、それぞれに記載された各数値の間に直接的な対応関係はないということができるから、その対応関係が分かる文書を作成し、又は取得する必要がないとする最高裁判所事務総長の上記説明の内容が不合理とはいえない。


第12 関連記事その他
1 内閣官房HPの「国の行政機関の定員」「令和2年度から令和6年度までの定員合理化目標数について」(令和元年6月28日付の内閣人事局長通知)が載っています。
2 以下の記事も参照してください。
(概算要求から級別定数の配布まで)
・ 最高裁判所の概算要求書(説明資料)
・ 最高裁判所の国会答弁資料
・ 最高裁及び法務省から国会への情報提供文書
・ 裁判所をめぐる諸情勢について
・ 裁判所職員定員法の一部を改正する法律に関する国会答弁資料等
・ 級別定数の改定に関する文書
・ 下級裁判所の裁判官の定員配置
(その他)
 最高裁から国会への情報提供文書
 令和4年度概算要求書における,民事訴訟手続のIT化に関する最高裁判所の財務省に対する説明内容
 新任の地家裁所長等を対象とした実務協議会の資料
 毎年6月開催の長官所長会同
・ 高等裁判所事務局長事務打合せ
・ 司法行政を担う裁判官会議,最高裁判所事務総長及び下級裁判所事務局長
・ 下級裁判所事務局の係の事務分掌
・ 東京高裁及び大阪高裁事務局,並びに東京地裁,大阪地裁及び大阪家裁事務局に設置されている係
・ 裁判所書記官,家裁調査官及び下級裁判所事務局に関する規則,規程及び通達