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首席家庭裁判所調査官の職務―法的根拠,指導監督及び組織運営(AIリライト)

第1 法的根拠と位置付け

1 裁判所法及び最高裁判所規則

首席家庭裁判所調査官の法律上の根拠は,裁判所法61条の2第3項である。同項は,最高裁判所が高等裁判所又は家庭裁判所の家庭裁判所調査官の中から首席家庭裁判所調査官を命じ,調査事務の監督,関係行政機関その他の機関との連絡調整等をつかさどらせることができると定めている。

首席家庭裁判所調査官等に関する規則は,首席のほか,次席家庭裁判所調査官,総括主任家庭裁判所調査官,主任家庭裁判所調査官及び上席家庭裁判所調査官の職務を定めている。同規則は昭和57年6月14日最高裁判所規則第4号として制定され,日本法令索引では令和8年8月11日現在も有効とされており,平成7年及び平成16年に改正されているため,制定時の規則名だけでなく,これらの改正を反映した現行規則であることに注意を要する。

2 管理職であるが個別事件の判断者ではないこと

首席家庭裁判所調査官は,家庭裁判所調査官及び家庭裁判所調査官補の一般執務と調査事務を指導監督する管理職である。もっとも,裁判所法61条の2第4項は,家庭裁判所調査官がその職務を行うについて裁判官の命令に従うと定めているため,首席は調査事務の適正な実施を組織的かつ専門的に支えるが,個別事件について裁判をし,又は担当裁判官の調査命令に代わる命令をする立場にはない。

第2 二種類の指導監督

1 一般執務についての指導監督

首席家庭裁判所調査官等に関する規則の運用について(平成7年7月14日付,平成16年3月31日改正の最高裁判所事務総長依命通達)は,首席による指導監督の具体的内容を定めている。一般執務についての指導監督は,司法行政上の監督を補完し,調査官等の執務が法令,規則,規程及び通達等に従って適正かつ能率的に処理されているかを確かめるものである。

首席は,必要があるときは組相互間の事務を調整し,調査官等に助言若しくは指示を与え,又は指導する。また,記録,調査関係書類及び帳簿諸票の整備と適切な管理に配慮し,勤怠,執務態度及び行状に留意して,必要があるときは注意を与える。首席の指導監督権は,調査官等の補助者として配置された裁判所事務官にも及ぶ。

2 調査事務についての指導監督

調査事務についての指導監督は,個別事件を担当する裁判官の指揮監督を専門的観点から補完するものである。首席は,調査事務の処理計画及び処理状況を把握し,調査が裁判官の命令の趣旨に従い,専門的知識を活用して有効かつ適切に行われるように配慮する。また,事件の内容,調査官等の能力及び事務の繁閑等に応じて調査命令がされるよう裁判官を補佐し,必要がある事項について調査官等が配置されている裁判官に意見を述べることができる。

3 助言,指導及び指示の限界

家庭裁判所調査官執務必携1頁~7頁及び102頁~107頁は,指導監督の方法として調整,助言,指導,指示及び注意を挙げている。調査事務は担当調査官が専門的判断と責任に基づいて行うため,原則として助言又は指導によるべきであると説明されている。

他方で,法令若しくは通達への違反,裁判官の調査命令への違反,裁量権の不行使又は報告書の重要な誤り若しくは矛盾等を是正する必要がある場合には,指示が許され得ると整理されている。ただし,同必携は平成20年の説明資料であるため,この記述は指導監督制度の趣旨を理解する資料として用いるべきであり,各裁判所における令和8年現在の具体的な内部実施要領まで同一であると断定することはできない。

いずれの場合も,裁判官の個別事件に関する命令と監督が優先し,首席はこれに反する方法で調査官を指導監督することはできない。

第3 首席が監督する調査事務

1 家事事件の調査

家事事件手続法58条及び59条等により,家庭裁判所調査官は裁判所の命令を受けて事実を調査し,調査結果を書面又は口頭で報告し,意見を付すことができる。また,期日に出席して意見を述べ,社会福祉機関との連絡その他の措置によって事件関係人の家庭その他の環境を調整することがある。

同法65条は,子の意思を把握するに当たり,家庭裁判所調査官による調査その他の適切な方法を採ることを定めている。裁判所の家庭裁判所調査官に関する説明も,当事者又は子との面接,問題の原因及び背景の調査,関係機関との連絡調整,解決方法の検討並びに裁判官への報告を挙げている。

2 少年事件の調査

少年法8条及び9条等により,家庭裁判所は事件を調査し,家庭裁判所調査官に少年,保護者又は参考人の取調べその他の必要な調査をさせることができる。少年事件の調査は,少年,保護者及び関係者との面接,少年の性格,行動,経歴及び環境等の調査並びに医学,心理学,教育学,社会学その他の専門的知識の活用を含む。

裁判所の少年事件調査に関する説明によれば,心理テスト,関係機関への照会,教育的な働き掛け,保護者への助言,報告書の作成及び裁判官への提出等も行われる。したがって,首席の監督対象は単なる事務処理ではなく,行動科学等の専門的知見を用いた事実の調査と調整を含む。

第4 関係機関との連絡調整及び庁内施策

1 関係機関との連絡調整

首席は,少年保護,社会福祉,教育及び労働等に関する行政機関その他の機関との会議に出席し,必要事項について連絡及び協議をする。また,調査事務が円滑に行われるよう関係機関と連絡及び折衝をし,少年の補導を委託している施設等に裁判所の方針を伝え,補導の状況を一般的に調査する。

必要があるときは当該施設等に助言又は指導をし,家庭事件の処理に利用できる社会資源を開発する。これらは,個別事件における調査官の関係機関連携を支えるとともに,裁判所と地域の関係機関との継続的な協力基盤を整える職務である。

2 諸施策の企画立案及び実施

首席は,調査官等の事務が適正かつ能率的に処理されるための諸施策を企画立案し,実施する。この職務には,事件動向,各部署の負担,調査官の配置,経験及び能力を把握し,研修,役割分担,調査態勢,職種間連携及び本庁と支部の協働を整えることが含まれると考えられる。

平成20年の執務必携8頁~9頁は,首席を調査官集団の長にとどまらず,事務局長及び首席書記官とともに所長を支え,家庭裁判所の司法行政に関与する立場として説明している。裁判所の幹部職員メッセージでも,首席の役割は,調査官が良い仕事をするための態勢と環境を整え,チームで議論と研さんを重ね,社会の変化に対応して合理的な仕事の在り方を追求することとして説明されている。

第5 裁判所内の組織運営

1 裁判官会議,人事及び研修への関与

下級裁判所事務処理規則15条4項により,首席家庭裁判所調査官は,その所管事務について裁判官会議に出席し,意見を述べることができる。平成7年運用通達第6は,家庭裁判所が調査官等の配置,昇格,昇給その他の身分上の処置又は研修及び協議会の企画を行うときに,首席等の意見を聴くものとしている。首席は,事件処理の監督だけでなく,調査官の配置,人材育成及び組織運営に専門職の管理者として関与する。

2 次席及び主任との役割分担

次席家庭裁判所調査官は首席を補佐し,首席に事故があるとき又は首席が欠けたときにその職務を行う。運用通達は,首席が指導監督について総括主任家庭裁判所調査官又は主任家庭裁判所調査官に補佐させることができるとしている。

主任は担当する組の事件情報の共有,調査方針の協議,調査結果の検討及び柔軟な役割分担等を支える中間管理の役割を担い,首席及び次席は主任のニーズを把握して必要な指導と支援を行う。そのため,首席がすべての調査官を一人で直接監督するのではなく,次席及び主任等を通じた階層的な執務組織によって監督と支援を行うものと理解するのが適切である。

3 高等裁判所所在地を管轄する家庭裁判所の首席による調整

首席家庭裁判所調査官等に関する規則1条4項及び平成7年運用通達第1の4により,高等裁判所は,その所在地を管轄する家庭裁判所の首席に,高等裁判所管内の各家庭裁判所の首席が行う事務の調整を命ずることができる。命令を受けた首席は,各家庭裁判所における首席の事務執行状況を調査し,関係する首席と協議し,又は事務の取扱いについて助言を与え,高等裁判所に調整の実施状況を報告する。

これは,高等裁判所の命令に基づく管内の調整であり,高等裁判所所在地を管轄する家庭裁判所の首席が他の家庭裁判所の首席に対して当然に一般的な上級監督権を有するという意味ではない。

第6 近年の組織運営に現れた重点

1 調査官の専門性を生かす事件運営

令和7年度首席家庭裁判所調査官事務打合せに関する文書24頁~25頁は,家庭裁判所調査官の役割と機能を,行動科学の知見等に基づく事実の調査と調整と説明している。同資料は,事件動向及び事件構造を踏まえ,裁判官,書記官及び調査官が役割を共有し,調査官の関与を合理的かつ効果的に検討することを求めている。

また,首席及び次席には,事件処理の実情と課題を質的及び量的な観点から把握し,主任を適時に指導及び支援することが期待されている。

2 グループ単位の運営と柔軟な人員配置

同資料3頁~5頁及び24頁~25頁は,組単位の運営における柱として,事件情報の共有,調査方針の協議,調査結果の検討及び柔軟な役割分担を挙げている。首席及び次席には,本庁と支部を含む各組の状況を把握し,主任を支援するとともに,組相互間及び本庁と支部との間で調査官を柔軟に配置し,限られた人的資源を適切に配分することが求められている。

さらに,ウェブ会議を利用した調査の相当性を検討し,必要に応じて裁判官に意見を述べることや,デジタル化に応じた調査態勢を整えることも近年の課題である。これらは法令上の職務を変更するものではなく,指導監督,連絡調整及び諸施策の企画立案という既存の権限を,現在の事件動向と執務環境に応じて具体化したものと位置付けられる。

第7 関連記事

1 裁判所職員及び規則等

① 首席書記官の職務

② 裁判所書記官,家裁調査官及び下級裁判所事務局に関する規則,規程及び通達

③ 最高裁判所が作成している,下級裁判所幹部職員名簿

2 裁判所職員の官職及び給与

① 裁判所の指定職職員

② 裁判所の指定職職員の名簿(一般職)

③ 指定職未満の裁判所一般職の級

第8 出典・参考資料

1 法令及び最高裁判所規則

① e-Gov法令検索「裁判所法」(令和8年8月11日最終確認)

② e-Gov法令検索「家事事件手続法」(令和8年8月11日最終確認)

③ e-Gov法令検索「少年法」(令和8年8月11日最終確認)

④ 日本法令索引「首席家庭裁判所調査官等に関する規則」(令和8年8月11日最終確認)

⑤ 日本法令索引「下級裁判所事務処理規則」(令和8年8月11日最終確認)

2 裁判所の通達及び公表資料

① 最高裁判所「司法組織」掲載資料(令和8年8月11日最終確認)

② 首席家庭裁判所調査官等に関する規則の運用について(平成7年7月14日付,平成16年3月31日改正の最高裁判所事務総長依命通達)

③ 家庭裁判所調査官執務必携(最高裁判所事務総局家庭局,平成20年3月)1頁~9頁,102頁~107頁

④ 令和7年度首席家庭裁判所調査官事務打合せに関する文書(令和7年度)3頁~5頁,24頁~25頁

⑤ 裁判所「家庭裁判所調査官」(令和8年8月11日最終確認)

⑥ 裁判所「家庭裁判所調査官による調査」(令和8年8月11日最終確認)

⑦ 裁判所「幹部職員からのメッセージ」(令和8年8月11日最終確認)

3 文献

① 梶村太市・徳田和幸編著『家事事件手続法〔第3版〕』有斐閣,平成28年,174頁~175頁,203頁~204頁

② 梶村太市・石井久美子・貴島慶四郎・芝口典男編『家事事件手続Ⅰ』青林書院,令和6年,54頁~55頁

③ 松本博之『人事訴訟法〔第4版〕』弘文堂,令和3年,392頁~393頁