秘匿情報の管理に関する裁判所の文書


目次

第0 はじめに
第1 秘匿情報の管理に関する裁判所の文書
第2 関連記事その他

第0 はじめに
1 令和5年2月20日以降については原則として,新たな秘匿制度が適用されます(当事者に対する住所,氏名等の秘匿の制度に関する改正民事訴訟法等に関する運用方法が書いてある文書1/2及び2/2当事者に対する住所,氏名等の秘匿の制度に関する改正民事訴訟法等に関する運用方法が書いてある文書によって開示された文書)に含まれる,新たな秘匿制度を踏まえた秘匿情報の適切な管理について(令和5年1月26日付の最高裁総務局第一課長等の事務連絡)参照)。
2 「秘匿制度に係る改正通達に関する事務処理のポイントとQA」の発出について(令和5年2月3日付の最高裁総務局第三課長の事務連絡)が分かりやすいです。

第1 秘匿情報の管理に関する裁判所の文書
・ 秘匿情報の適切な管理について(平成27年2月19日付の最高裁判所総務局,民事局,刑事局及び家庭局の課長の事務連絡)別紙1ないし3は以下のとおりです。

秘匿情報の適切な管理について(別紙1)

1 はじめに    裁判所は,記録上に表れている情報のうち,当事者や被害者等の利害関係人(以下「当事者等」という。)からの秘匿を希望する旨の申出等を踏まえて,秘匿すべきであると判断した情報(以下「秘匿情報」という。)については,裁判所の意図に反して流出させることのないように適切に管理しなければならない。

仮に,裁判所として行うべき管理を怠って秘匿情報を流出させるといった事態を発生させた場合には,秘匿を希望した当事者等の名誉や社会生活の平穏が著しく害されたり,身体や財産への危害が加えられたりするおそれを生じさせることになり,ひいては,あらゆる裁判の基盤となっている裁判所に対する信頼を大きく揺るがすことになりかねない。したがって,秘匿情報の適切な管理の重要性についての意識を,裁判官を含めた関係職員間で共有し,共通の視点を持って日々の事務処理を行っていく必要がある。
2 秘匿情報の適切な管理に向けて
(1) 事務処理態勢の構築
    秘匿情報の適切な管理は,事件受理時における教示の段階から事件終局後の関係機関等への引継ぎの段階までといった,裁判所が関わる手続の流れを意識しながら,関係職員が互いに有機的な連携を図りつつ,実現されなければならない。これに向けて,個々の職員が秘匿情報の管理について高い問題意識を有することも重要ではあるが,それのみに依存するのでは不十分である。秘匿情報の管理が必要となる事件が常に係属し得ることを前提に,あらかじめ万全な事務処理態勢を組織として検討し, これを構築した上で,関係職員間で適切に認識を共有しておく必要がある。
(2) 検討すべき事項の整理
    事務処理態勢を検討するに当たっては,秘匿情報の適切な管理の重要性を踏まえた上で,事務を行う根拠・目的に照らして合理的な対策を検討する必要があるが, どのような視点で何をどこまで検討すればよいのか,考えられる対策の中からどのような対策を選択し実践すべきかについては,悩みが多いものと思われる。そのような検討を効果的に進めるためには,検討すべき事項を具体的に整理することが有用であり,その内容としては,次のようなものが考えられる。
① (当事者等がどのような情報について秘匿を希望しているかを把握し,それらを踏まえた上で)どの情報を秘匿情報として取り扱うかを具体的に判断し,その内容について秘匿情報を取り扱う可能性のある者との間で相互に共有すること(秘匿情報の確定)
② 事件処理上,当然に記録に表れるべき情報と必ずしも記録に表れなくてもよい情報とを整理し,不必要な秘匿情報が記録上に表れないような措置を講じること(記録上に不必要な秘匿情報が表れないようにするための措置)
③ ②の措置を講じたとしても,記録上に表れることとなった秘匿情報(秘匿情報として取り扱うことを決めた際には既に記録に表れていたものを含む。)について,裁判官を含めた関係職員間で相互に共有すること(記録上に表れることとなった秘匿情報の共有)
④ 記録上に表れている秘匿情報が裁判所の意図に反して流出しないように取り扱うこと(記録上に表れた秘匿情報の流出の防止)
    以上のことを十分に検討した上で,事務処理態勢が構築され,関係職員で認識が共有されれば,基本的には,秘匿情報の適切な管理を実現することができると考えられる。しかし,上記の各事項の中でも,①秘匿情報の確定の場面においては,例えば, どのような手順で秘匿情報を確定し,その内容をどの範囲で,どのように共有するのかといったことが問題となるし,④流出の防止の場面においては,秘匿情報がどのような契機で流出し得るのか,流出しないためにどのような措置がとれるのかなど,更に検討すべき事項を整理する必要が生じる。そのような事項を,上記の各事項に従って整理すると別紙第2のとおりになると考えられる。
(3) 工夫例の活用
    秘匿情報の適切な管理の問題は,あらゆる裁判所の,あらゆる事件分野において,検討されるべき問題で,実際に,各庁各部ごとに様々な工夫がされている。参考になると思われる工夫例については, これまでも事務連絡等(民事訴訟事件,人事訴訟事件の分野については別紙第3の番号7,刑事事件の分野については別紙第3の番号5,9の各事務連絡等)で紹介しており,今後とも,適宜紹介していきたいと考えている。事務処理態勢を構築するに当たっては, このような工夫例を活用することも有益であろう。
(4) 適時の連携・協働等
   各庁における検討の結果として,構築され,認識が共有された事務処理態勢は,一般的な事務処理の指針にすぎないのであるから,特別な事情が存在する場合には,適時に裁判官を含めた関係職員で問題状況を整理し,具体的な対応策を検討し,改めて認識を共有しなけれぱならない。
(5) その他留意すべき点
ア 職員の意識
    各庁における検討の結果として,事務処理態勢が構築され,認識が共有されたとしても,これに基づいて実際に事務を行う者が秘匿情報の適切な管理の重要性を理解していないと,その趣旨に従った事務処理が行われないおそれがある。したがって,関係職員に対する問題意識の喚起がされていること,そして,それが継続的に行われていることが不可欠となる。
イ 他部署との連携とこれを踏まえた当事者等への教示
    例えば訟廷と担当部,第一審担当部と第二審担当部との間のように,実際の事務処理は異なる部署で行われるものの,秘匿情報の管理に当たって必要な情報を共有すべきである部署間においては,情報の引継ぎが適切に行われるような事務処理態勢を構築しなければならない。他方で,保全事件担当部,本案事件担当部,執行事件担当部相互間のように,情報を引き継ぐことを前提にした事務処理態勢を構築しにくいところも現実にはある。そこで,裁判所としては, どのような場合にどのような情報をどのような方法で引き継ぐのかという点を整理した上で,その整理を踏まえた適切な教示方法を検討しておく必要がある。
    また,住所や氏名を秘匿することで,執行や登記の場面で問題が生じる場合もある。相手方が勝訴した場合に執行の場面で困ることは容易に想像がつくが,秘匿を希望した側が勝訴した場合でも,例えば,本人の住所を秘匿するために現住所に代えて代理人住所を記載していたが,本訴と執行で代理人が異なったために連続性を証明できない場合や,同様の事例で現住所に代えて記載した代理人住所に弁護士事務所名が入っているなどしていたため,単なる連絡先であるとして法務局において(仮)差押登記を受け付けてもらえない場合などがあり得る。裁判所としては,このような問題点が生じ得る可能性があることを,あらかじめ当事者等に教示しておく必要がある。
ウ 法の規律や記録の概念
     裁判所は,適正な手続に則って裁判手続を行っていく使命を負っており,たとえ,当事者等が秘匿を希望したとしても,常にそれをかなえられるわけではない。記録の作成や保管を適切に行い,かつ,法で規律されている当事者等の権利を適切に保護する必要があることを前提にした上で,裁判所として,秘匿情報を適切に管理するためにどのようなことができるのかを,手続の流れ全体を通して整理し,法律上の根拠を踏まえて検討していく必要がある。例えば,適法に送達がされたことを証明する送達報告書や,裁判所による調査嘱託決定に対する回答書は,裁判手続が適正に遂行されたことを明らかにするものであり,記録として構成されるべき書類であると考えられる。そうであるとすれば,秘匿の要否にかかわらず,本来は,記録につづり込まなければならないものであって,秘匿情報が記載されているからといって記録にしないことは許されない。
3 おわりに
    どのような情報について秘匿情報とする必要があるか,秘匿情報が何を契機として外部に流出し得るかは,記録に表れ得る情報の種別,記録に表れた情報へのアクセス権の範囲によって違いが生じるから,実際には,事件等の特性に応じた個別の検討をしていかなければ,秘匿情報の適切な管理のための事務処理態勢を構築することができない。また,執務態勢によっても,検討結果は異なってくる可能性がある。したがって,各裁判所の置かれた状況を前提にし,その実情に即した事務処理態勢を検討した上で, このようにして構築された事務の流れが実効的であり,かつ,無理のないものになっているかを実際の事務処理を通じて不断に検証して, より良い事務魑態勢の構築に努めていく必要がある。

第2 関連記事その他
1 あおい法律事務所HP「7.訴えの提起における当事者の特定・住所地の記載されていない債務名義の強制執行の方法等」に載ってある東京高裁平成21年12月25日判決は以下の判示をしています。
     民事訴訟の当事者は,判決の名宛人として判決の効力を受ける者であるから,他の者と識別することができる程度に特定する必要がある。自然人である当事者は,氏名及び住所によって特定するのが通常であるが,氏名は,通称や芸名などでもよく,現住所が判明しないときは,居所又は最後の住所等によって特定することも許されるものと解される。
2 令和5年2月20日以降については,改正後の民事訴訟法133条に基づき,住所等又は氏名等が相手方当事者に知られることによって社会生活を営むのに著しい支障を生じるおそれがあることについて疎明があった場合,住所等又は氏名等を秘匿する旨の裁判をしてもらうことができるようになりました(法務省HPの「民事訴訟法等の一部を改正する法律について」(令和5年1月11日付)に載ってある「住所、氏名等の秘匿制度の創設」参照)。
3(1) 以下の事務連絡等を掲載しています。
・ 訴状等における当事者の住所の記載の取扱いについて(平成17年11月8日付の事務連絡)
・ 犯罪被害者等の保護のための諸制度に関する参考事項について(平成19年12月25日付の事務連絡)
・ 刑事損害賠償命令手続から民事訴訟手続に移行した場合の犯罪被害者等の特定事項への配慮について(平成22年6月7日付の事務連絡)
・ 暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律の一部を改正する法律の施行に伴う留意点について(平成25年3月27日付の事務連絡)
・ 被害者特定事項の秘匿決定がされた事件における被害者等の住所等の取扱いについて(平成25年6月28日付の事務連絡)
・ 平成25年9月18日付の刑事局第二課長・家庭局第一課長書簡(平成25年度特別研究会の議論概要メモの送付)
・ 人事訴訟事件及び民事訴訟事件において秘匿の希望がされた住所等の取扱いについて(平成25年12月4日付の事務連絡)
・ 平成26年9月24日付の総務局第三課長・刑事局第二課長書簡(被害者匿名化事案において判決書等に実名を記載した場合の抄本等の作成及び交付等に関する東京地裁での取扱いについて)
・ 被害者特定事項の秘匿決定がされた事件における被害者等の住所等の取扱いについて(平成26年9月24日付の事務連絡)
・ 民事非訟手続における秘匿情報の適切な管理について(平成27年4月30日付の最高裁民事局第一課長及び総務局第三課長の事務連絡)
・ 
被害者特定事項の秘匿決定がされた事件及び当事者名を秘密記載部分として閲覧等制限の申立てがされた事件の報道機関等に対する期日情報の提供について(平成27年9月17日付)
・ 家事事件手続における非開示希望情報等の適切な管理について(平成28年4月26日付の最高裁判所家庭局第二課長及び総務局第三課長の事務連絡)
・ 
被害者特定事項の秘匿決定がなされた事件等における秘匿情報の適切な管理のための工夫例について(平成28年10月12日付の最高裁判所刑事局長及び総務局長の事務連絡)
・ 秘匿情報管理に関する事務処理態勢を維持・継続するための取組について(平成29年2月22日付の最高裁判所刑事局第二課長の事務連絡)
(2) 以下の記事も参照してください。
・ 訴訟提起に際して原告の住所等を秘匿したい場合の取扱い
・ 司法修習生の守秘義務違反が問題となった事例
 司法修習生に関する規則第3条の「秘密」の具体的内容が書いてある文書
・ 「品位を辱める行状」があったことを理由とする司法修習生の罷免事例及び再採用
 司法修習生の罷免理由等は不開示情報であること
・ 司法修習生の逮捕及び実名報道


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