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秘匿情報の管理に関する裁判所の文書(AIリライト)

第1 本記事で扱う裁判所文書の位置付け

1 司法行政文書と事件記録の区別

本記事で扱う事務連絡は,裁判所内部の事務処理態勢や運用上の留意点を示す文書であり,法律又は最高裁判所規則そのものではない。これらは,裁判所職員が司法行政事務に関して組織的に用いるものとして保有する「司法行政文書」に当たり得る一方,個別事件の訴訟記録等は裁判事務に関して保有する別の記録であるため,裁判所の司法行政文書開示手続でも両者は区別されている。

したがって,事務連絡は裁判所の管理実務を知るための重要な原資料であるが,個別事件で秘匿が認められる要件や効力は,現行法令と当該事件における裁判所の判断によって決まる。歴史的な事務連絡の記載だけを根拠に,現在の事件で当然に秘匿されると理解することはできない。

2 平成27年・令和5年・令和8年の三つの層

現在の取扱いを理解するには,①平成27年2月19日付事務連絡が示した裁判部門横断の管理枠組み,②令和5年2月20日に施行された民事訴訟法133条以下の法定秘匿制度と令和5年の運用文書,③令和8年5月21日の民事訴訟手続デジタル化後の電子記録管理を分けて読む必要がある。平成27年文書は情報管理の基本的な視点を示し,令和5年文書は法定制度と従前の事実上の措置との関係を整理し,令和8年資料はmintsによる提出後の漏えい危険に対応している。

本記事では,この時間軸に沿って,管理の考え方と現行手続を接続する。なお,「秘匿情報」という語は,住所・氏名等の法定秘匿制度の対象だけでなく,証人,犯罪被害者その他の関係人について,記録の表示,閲覧等,送達,期日情報の提供,保管及び廃棄の各場面で漏えいを防ぐ必要がある情報を広く指す場合がある。

第2 平成27年2月19日付事務連絡

1 文書の目的

最高裁判所事務総局総務局第一課長,民事局第二課長,刑事局第二課長及び家庭局第二課長は,平成27年2月19日付けで,「秘匿情報の適切な管理について」と題する事務連絡を発出した。この文書は,個別の秘匿要件を新設するものではなく,各庁が秘匿情報を含む事件を常に取り扱い得ることを前提として,関係職員が連携できる事務処理態勢をあらかじめ構築するよう求めたものである。

同事務連絡は,事件受理時の教示から,終局後の関係機関への引継ぎまでの手続全体を視野に入れている。特定の担当者の注意力だけに依存せず,秘匿対象,管理担当者,共有範囲及び漏えい防止措置を組織として定め,実際の事務処理を通じて検証し続けるという発想が文書の中心にある。

2 5区分・11項目の管理枠組み

同事務連絡別紙1は,秘匿情報の確定,不要な秘匿情報を記録上に表さないための措置,記録上に表れた秘匿情報の共有及び流出防止という四つの中核事項を示している。これを具体化した別紙2は,「前提の整理」を先頭に加え,次の5区分・11項目として管理課題を配置している。

① 前提の整理(秘匿情報となる可能性が高い情報,そのような情報が記載されやすい書類,流出が起こり得る場面の整理)

② 秘匿情報の確定(判断の端緒,秘匿対象の範囲・内容についての裁判所の判断,関係者間の共有方法)

③ 記録上に不必要な秘匿情報が表れないようにするための措置(当事者等への教示,記録に表さないことの可否についての判断)

④ 記録上に表れることとなった秘匿情報の共有(記録への明示等による共有)

⑤ 記録上に表れた秘匿情報の流出防止(法的根拠を踏まえた防止措置,その措置を講ずることについての裁判所の判断)

この整理は,書面の受領時だけを対象とするものではない。記録の編成,閲覧・謄写,送達,期日情報の提供,裁判書の作成,移送,引継ぎ,保管及び廃棄まで,情報が移動し又は複製される全過程を管理対象としている。

秘匿情報の適切な管理のために検討すべき事項

秘匿情報の管理等について過去に発出された事務連絡等

3 現在も残る意義と限界

平成27年文書のライフサイクル全体を通じた管理という視点は,法定秘匿制度の施行後も,また訴訟記録のデジタル化後も失われていない。とりわけ,部署間の引継ぎ,裁判書等への転記,移送及び終局後の管理まで同一の秘匿対象を追跡する必要があるという指摘は,媒体が紙から電磁的記録へ変わっても妥当する。

もっとも,令和5年2月20日以後に申し立てられた民事訴訟事件について,住所等又は氏名等を相手方に知られないようにするための手段は,原則として民事訴訟法133条以下の法定手続である。平成27年文書に基づく従前の事実上の秘匿措置を,新制度と並ぶ一般的な選択肢として扱うことはできない。

平成27年文書6頁の結語は,各裁判所が実際の事務処理を通じて管理の流れを不断に検証し,「より良い事務処理態勢」の構築に努める必要があるとする。この記述は,固定した手順を設けるだけでなく,事件特性や執務態勢に応じて運用を更新する必要性を示している。

第3 令和5年文書が整理した新旧制度の関係

1 新規事件・係属事件・終局事件

最高裁判所事務総局総務局第一課長,民事局第二課長,刑事局第二課長及び家庭局第二課長の令和5年1月26日付事務連絡「新たな秘匿制度を踏まえた秘匿情報の適切な管理について」は,新制度と従前の措置との関係を事件の時期別に整理した。令和5年2月20日以後に申し立てられた民事訴訟事件は新たな法定秘匿制度によるべきであり,同日前から係属して従前の措置が講じられていた事件ではその措置を継続できるとする。

係属中の旧事件で当事者が新制度による申立てをした場合には新制度を用いるが,裁判所が全事件について一律に申立てを促す必要はない。もっとも,事件の事情に照らして新制度の利用が相当であれば申立てを促すことが考えられ,同日前に既に終局した事件については従前の措置を継続し,裁判所から新制度の申立てを促す必要はないとされている。

家事事件及び非訟事件では,記録の閲覧等について民事訴訟とは異なる制度があるため,民事訴訟法133条以下だけで処理を完結できない場面がある。手続の種類,事件の申立時期及び既存の措置を確認してから,適用される制度を選ぶ必要がある。

2 当事者と裁判所の役割分担

令和5年1月26日付事務連絡は,当事者が秘匿を必要とする情報を把握し,必要な申立て,マスキングその他の措置を講ずることを基本としている。裁判所は,申立てを受けて秘匿の要否及び範囲を判断し,決定後の記録を適切に管理する。

したがって,裁判所が提出書面の全てを,秘匿情報の発見だけを目的として一律に点検し,当事者の申立てがなくても全ての情報を除去する制度ではない。裁判所の「当事者に対する住所,氏名等の秘匿制度等」も,原則として提出者が該当箇所をマスキングし,やむを得ず情報が書面に現れる場合には所定の申立て等をするよう案内している。

第4 現行法上の住所・氏名等の秘匿制度

1 秘匿決定と秘匿事項届出書面

民事訴訟法133条1項は,申立人又はその法定代理人の住所等又は氏名等が他の当事者に知られることによって,申立人等が社会生活を営むのに著しい支障を生ずるおそれがある場合に,裁判所が申立てにより秘匿決定をする制度を定めている。「住所等」は住所,居所その他その通常所在する場所をいい,「氏名等」は氏名その他当該者を特定するに足りる事項をいう。

申立人は,秘匿対象となる事項を記載した秘匿事項届出書面を提出する。申立てから裁判が確定するまで,同書面には暫定的な閲覧等制限が働き,秘匿決定では住所又は氏名に代わる事項が定められ,当該事件等の手続ではその代替事項が用いられる。

2 別の記録部分にある秘匿事項等

秘匿決定がされても,準備書面,書証その他の記録中に同じ住所・氏名又はそれを推知できる情報が記載されていれば,その部分まで当然に秘匿されるわけではない。その部分を秘匿するには,民事訴訟法133条の2第2項に基づく別の閲覧等制限の申立てが必要となる。

申立てでは対象部分を特定し,民事訴訟規則52条の20に従い,秘匿部分を除いた閲覧等用の書面等を提出しなければならない。住所等又は氏名等の秘匿決定,秘匿事項届出書面,別の記録部分の閲覧等制限を混同しないことが重要である。

3 調査嘱託の結果・取消し・閲覧等の許可

送達場所の調査その他の調査嘱託に対する回答に秘匿事項又はその推知事項が記載され,閲覧によって社会生活を営むのに著しい支障を生ずるおそれが明らかである場合,裁判所は民事訴訟法133条の3により職権で閲覧等を制限できる。これは,当事者が自ら提出する文書等について申し立てる同法133条の2第2項の手続とは,判断の契機が異なる。

また,秘匿情報の主体以外の者は,要件を欠くこと又は事情変更を理由として秘匿決定等の取消しを申し立てることができる。攻撃又は防御に実質的な支障を生ずるおそれがあるときは,裁判所の許可を得て必要な範囲の閲覧等を求めることができるが,その情報を手続追行以外の目的で利用し,又は漏えいすることは禁止される。

第5 令和8年の民事訴訟デジタル化後の取扱い

1 申立ては電子提出,届出書面は紙

裁判所の民事裁判手続デジタル化案内によれば,民事訴訟手続は令和8年5月21日に全面デジタル化された。弁護士等の訴訟代理人は,住所・氏名等の秘匿決定の申立てを原則としてmintsで電子提出する。

これに対し,秘匿事項そのものを記載する秘匿事項届出書面は,デジタル化後も紙で提出され,裁判所でも紙で保管される。同書面には秘匿対象者の記名押印が必要であり,ファクシミリによる提出もできないことは,民事訴訟規則3条1項2号,52条の18及び52条の19並びに「民事裁判手続デジタル化(フェーズ3)に向けた準備の手引」38頁に示されている。

2 誤アップロードとマスキング

mintsに秘匿事項届出書面又は秘匿情報を含むファイルを誤ってアップロードし,相手方が事件情報に関連付いている場合,その時点で相手方から閲覧できる状態になり得る。準備の手引38頁は,誤提出に気付いた場合,電磁的記録からの消去措置の対象となるため,速やかに担当部の裁判所書記官へ連絡し,消去を申し出ることが重要であるとする。

PDF編集ソフトで文字の上に黒色の図形を重ねただけでは,文字情報が残り,図形の移動,文字列選択又はコピーによって復元される危険がある。準備の手引38頁~39頁が示すとおり,墨消し機能等で文字情報を完全に削除し,提出前に削除結果を確認する必要がある。

3 電磁的訴訟記録の安全管理

電磁的訴訟記録中の秘匿事項記載部分について閲覧等制限がされた場合,裁判所は,その内容を紙に出力して漏えい防止措置を講じた上で,当該部分を電磁的訴訟記録から消去する。この安全管理措置は,民事訴訟法133条の2第5項及び民事訴訟規則52条の23に定められている。

初めから紙で隔離して管理する秘匿事項届出書面と,いったん電磁的訴訟記録となった後に閲覧等制限を受ける部分とでは,法的根拠と処理が異なる。デジタル化は提出経路を変えたが,秘匿情報を識別し,必要な範囲だけを共有し,漏えい経路を断つという平成27年文書の管理思想は一層重要になっている。

第6 手続別の関連文書

1 民事訴訟・人事訴訟・民事非訟

平成27年文書の前後には,個別の手続に即した事務連絡が発出されている。次の文書は歴史的な運用資料を含むため,現在の事件では現行法令及び最新の通達と照合して利用する必要がある。

① 訴状等における当事者の住所の記載の取扱いについて(平成17年11月8日付事務連絡)

② 刑事損害賠償命令手続から民事訴訟手続に移行した場合の犯罪被害者等の特定事項への配慮について(平成22年6月7日付事務連絡)

③ 人事訴訟事件及び民事訴訟事件において秘匿の希望がされた住所等の取扱いについて(平成25年12月4日付事務連絡)

④ 民事非訟手続における秘匿情報の適切な管理について(平成27年4月30日付事務連絡)

⑤ 訴訟提起に際して原告の住所等を秘匿したい場合の取扱い

2 家事事件

家事事件では,事件記録の閲覧等に裁判所の許可を要するため,法定の住所・氏名等秘匿制度に加えて,非開示希望の申出という取扱いがある。非開示希望の申出は,後に閲覧等の許可申立てがされた際の判断資料となるが,申出どおりに非開示となることを保証するものではない。

① 家事事件手続における非開示希望情報等の適切な管理について(平成28年4月26日付事務連絡)

② 裁判所「当事者に対する住所,氏名等の秘匿制度等」

3 刑事事件・犯罪被害者保護

刑事事件では,被害者特定事項の秘匿決定,証人等の保護,裁判書の抄本作成及び報道機関への期日情報提供など,民事訴訟とは異なる法令と運用が問題となる。次の文書は,犯罪被害者等の住所その他の情報が,法廷,記録,裁判書及び外部提供の各場面で明らかになることを防ぐための資料である。

① 犯罪被害者等の保護のための諸制度に関する参考事項について(平成19年12月25日付事務連絡)

② 暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律の一部を改正する法律の施行に伴う留意点について(平成25年3月27日付事務連絡)

③ 被害者特定事項の秘匿決定がされた事件における被害者等の住所等の取扱いについて(平成25年6月28日付事務連絡)

④ 平成25年9月18日付の刑事局第二課長・家庭局第一課長書簡(平成25年度特別研究会の議論概要メモの送付)

⑤ 平成26年9月24日付の総務局第三課長・刑事局第二課長書簡(被害者匿名化事案における裁判書の抄本等の作成及び交付等に関する東京地裁の取扱い)

⑥ 被害者特定事項の秘匿決定がされた事件における被害者等の住所等の取扱いについて(平成26年9月24日付事務連絡)

⑦ 被害者特定事項の秘匿決定がされた事件等における報道機関等に対する期日情報の提供について(平成27年9月17日付)

⑧ 被害者特定事項の秘匿決定がなされた事件等における秘匿情報の適切な管理のための工夫例について(平成28年10月12日付事務連絡)

⑨ 秘匿情報管理に関する事務処理態勢を維持・継続するための取組について(平成29年2月22日付事務連絡)

被害者特定事項の秘匿決定がなされた事案における事務処理上の工夫例

第7 裁判所文書を利用するときの注意

第一に,事務連絡の発出日と現在の法令・通達を区別する必要がある。平成27年文書は管理の基本構造を示すが,令和5年施行の法定秘匿制度及び令和8年施行のデジタル化関係規定に置き換えられた部分については,現行法令を優先しなければならない。

第二に,秘匿決定があっても,別の書面や資料に同じ情報又は推知事項が残れば自動的には保護されない。第三に,家事事件の非開示希望,民事訴訟法133条以下の秘匿,民事訴訟記録の閲覧等制限,刑事事件の被害者特定事項の秘匿は,根拠法令と効果が異なる。

第四に,紙と電磁的記録の双方について,受領,保存,共有,複製,送信,移送及び廃棄の各段階を通じて同じ秘匿対象を追跡する必要がある。申立てやマスキングを行った時点で管理が完了するのではなく,裁判書への転記,誤アップロード,関係部署への引継ぎ及び終局後の保管までを一つの流れとして確認することが,平成27年文書から令和8年資料までに共通する要点である。

第8 出典

1 法令・裁判所資料

① 民事訴訟法(平成8年法律第109号)

② 民事訴訟規則(平成8年最高裁判所規則第5号)2頁,22頁~23頁

③ 法務省「民事訴訟法等の一部を改正する法律について」

④ 最高裁判所「司法行政文書開示手続」

⑤ 最高裁判所「当事者に対する住所,氏名等の秘匿制度等」

⑥ 最高裁判所「民事裁判手続のデジタル化」

⑦ 最高裁判所「民事裁判手続デジタル化(フェーズ3)に向けた準備の手引」38頁~39頁

⑧ 最高裁判所事務総局総務局第一課長ほか「秘匿情報の適切な管理について」(平成27年2月19日付事務連絡)1頁~8頁

⑨ 最高裁判所事務総局総務局第一課長ほか「新たな秘匿制度を踏まえた秘匿情報の適切な管理について」(令和5年1月26日付事務連絡)1頁~6頁

⑩ 最高裁判所事務総局総務局第三課長「『秘匿制度に係る改正通達に関する事務処理のポイントとQ&A』の発出について」(令和5年2月3日付事務連絡)

2 文献

① 伊藤眞『民事訴訟法〔第8版〕』有斐閣,2023年,360頁~366頁

② 瀬木比呂志『民事訴訟法〔第3版〕』日本評論社,2025年,38頁~42頁

③ 高原知明・松田桂子「当事者に対する住所・氏名等の秘匿」田中敦編・民事裁判実務研究会『民事裁判実務論点大系―裁判官からみた手続運用と実践知』ぎょうせい,2025年,256頁~272頁

④ 脇村真治『一問一答 新しい民事訴訟制度―民事訴訟法等の一部を改正する法律の解説』商事法務,2024年,206頁~233頁

⑤ 最高裁判所事務総局民事局監修『条解民事訴訟規則〔デジタル化関係等〕』法曹会,2026年,244頁~263頁