毎年6月開催の長官所長会同


目次

1 総論
2 長官所長会同の開始時の経緯
3 最高裁判所長官あいさつ
4 過去の開催日
5 戦前の司法長官会同
6 「会同」という名称の意義
7 最高裁が長官・所長会同において策定した,次年度概算要求の方針や執行計画は存在しないこと
8 関連記事その他

1 総論
(1) 毎年6月に開催される長官所長会同では,全国の高等裁判所長官,地方裁判所所長及び家庭裁判所所長が一堂に集まり,当面の司法行政上の諸問題等について協議しています。
(2)ア   平成28年度までの毎年の流れは大体,以下のとおりです。
1日目:最高裁判所長官あいさつ→協議→(昼食・休憩)→協議→懇談会
2日目:協議→(昼食・休憩)→皇居での拝謁等
イ   1日間だけの開催となった平成23年6月9日の長官所長会同流れは以下のとおりでした。
最高裁判所長官あいさつ→協議→(昼食・休憩)→皇居での拝謁等→協議
ウ 平成29年度以降,皇居での拝謁がなくなりました。
(3)ア 長官所長会同における協議結果概要は裁判所時報に掲載されています。
イ 裁判所時報編集マニュアルについては「裁判所時報」を参照して下さい。

2 長官所長会同の開始時の経緯
(1) 長官所長会同は最高裁発足に続き高裁長官及び地裁所長の任命が完了した昭和22年12月に初めて招集されました。
(2) 昭和24年1月1日の家庭裁判所制度発足により,家裁所長を加えた現行の長官所長会同となったのは昭和24年5月からであり,以後,毎年5月又は6月に開催されてきました。
(3) J-STAGE「最高裁における「信頼」の文脈-『裁判所時報』における最高裁長官訓示・あいさつにみる-」が参考になります。

3 最高裁判所長官あいさつ
(1) 長官所長会同における最高裁判所長官あいさつ(平成11年度までは,「最高裁判所長官訓示」でした。)は裁判所時報及び裁判所HPに掲載されています。
(2)
ア 関根小郷最高裁判所総務局長は,昭和33年7月9日の衆議院法務委員会において以下の答弁をしています。
   今お話の長官訓示は、打ちあけたところを申し上げますと、毎年行われます長官所長会同におきましての長官の訓示は、裁判官会議の議を経ましていろいろ手も入れられましてでき上るものでございます。これは、最高裁判所長官御自身で作られたものではない。でありますから、結局最高裁判所全体の意見ということになると申し上げていいと思います。
イ 5期の大西勝也最高裁判所総務局長は,昭和53年9月14日の参議院決算委員会において以下の答弁をしています。
   いわゆる長官・所長会同におきます最高裁長官の訓示は、いま寺田委員御指摘のように、まずその原案の原案とでも申すべきものを総務局でつくりまして、事務総局で検討をいたしました上、さらに裁判官会議の慎重な御検討を得て決まる、こういう形になっております。
ウ 9期の山口繁最高裁判所総務局長は,昭和59年12月18日の衆議院法務委員会において以下の答弁をしています。
   寺田長官が新年のあいさつあるいは長官・所長会同の訓示におきまして、ただいま横山委員御指摘のような発言あるいは意見表明をなさっておられることはそのとおりでございます。長官・所長会同の訓示と申しますのは、年一回行われます長官・所長会同におきまして、司法行政の最終的な責任者としての長官の立場をお述べになっていることでございまして、その内容につきましては裁判官会議で慎重に検討された上決められたものでございますので、事務当局といたしましては訓示の本文自体から御判断いただくほかはないと考えておりますが、ただ原案の作成に若干関連いたしました者といたしまして、少しばかり述べさせていただきたいと思います。
 ただいまお尋ねの時代の変化という点につきましては、御承知のように高度成長から低成長への移行、あるいは技術革新の問題、高齢化社会の到来、あるいは意識の面では価値観の多様化、権利意識の高揚、そういった問題がございまして、訴訟の面ではコンピューターに絡まる犯罪あるいは特許の問題、さらには環境権といったような新しい権利主張の問題、離婚訴訟の増大でございますとか、隣人訴訟の到来でございますとか、従来見られなかったような形での訴訟につきまして我々裁判官は対応を迫られるわけでございます。
 そこで、私どもといたしましては、時代の変化を的確に見通して時代の要請を的確に把握しながら、それに相応したような紛争の解決を図らなければならない、そういうふうに考えておりますところから、ただいま御指摘のような長官の訓示あるいは「新年のことば」にあらわれているわけでございます。

4 過去の開催日

・ 長官所長会同の過去の開催日は以下のとおりです。
令和 5年6月14日(水)~6月15日(木)
令和 4年6月 1日(水)~6月 2日(木)
令和 3年6月16日(水)(オンライン形式による開催)
(令和2年6月はなし。)
令和 元年6月19日(水)~6月20日(木)
平成30年6月20日(水)~6月21日(木)
平成29年6月21日(水)~6月22日(木)
平成28年6月23日(木)~6月24日(金)
平成27年6月18日(木)~6月19日(金)
平成26年6月18日(水)~6月19日(木)
平成25年6月19日(水)~6月20日(木)
平成24年6月13日(水)~6月14日(木)
平成23年6月  9日(木)
平成22年6月  9日(水)~6月10日(木)
平成21年6月17日(水)~6月18日(木)
平成20年6月18日(水)~6月19日(木)

5 戦前の司法長官会同
(1) 戦前においては,司法大臣が,毎年一回,全国の控訴院長,検事長,地裁所長及び検事正(この四者は「長官」と称されていました。)を司法省に招集して「司法長官会同」を開催しており,その際には,宮中での天皇拝謁及び内閣総理大臣官邸での午餐が行われていました。
(2) 昭和19年2月28日及び同月29日に開催された臨時司法長官会同では以下の行事がありました。
(2月28日の行事)
① 司法大臣官舎における岩村通世司法大臣の訓示
② 宮中に参内した上での天皇拝謁
③ 総理大臣官邸における東条英機内閣総理大臣の訓示,軍事概況に関する佐藤賢了陸軍軍務局長の説明,外交事情に関する重光葵外務大臣の説明
(2月29日の行事)
① 軍需生産状況に関する岸信介商工大臣の説明
② 各閣僚との懇談
(3)ア 昭和19年2月28日の東条英機内閣総理大臣の訓示(昭和19年当時,部外秘扱いされていたもの)には以下の記載があります(出典は「司法権独立の歴史的考察」(昭和37年7月30日出版)47頁及び48頁ですが,私の方で平仮名に変更したり,改行を追加したりしました。)。
     勝利無くしては司法権の独立もあり得ないのであります。筍且(山中注:かりそめ)にも心構へに於て、将又(山中注:はたまた)執務振りに於て、法文の末節に捉はれ、無益有害なる慣習に拘はり、戦争遂行上に重大なる障害を与ふるが如き措置をせらるるに於ては、洵に寒心に堪へない所であります。
     万々一にも斯くの如き状況にて推移せん乎、政府と致しましては、戦時治安確保上緊急なる措置を講ずることをも考慮せざるを得なくなると考へて居るのであります。
     斯くして此の緊急措置を執らざるを得ない状況に立ち至ることありと致しまするならば、之国家の為洵に不幸とする所であります。
     然し乍ら、真に必要巳むを得ざるに至れば、政府は機を失せず此の非常措置にも出づる考へであります。此の点に付ては特に諸君の充分なる御注意を願ひ度いものと存ずる次第であります。
イ Wikipediaの「東條演説事件」には「東條演説事件(とうじょうえんぜつじけん)とは、太平洋戦争中の1944年に、日本の内閣総理大臣だった東條英機が司法関係者に対して戦時体制に協力した司法権の運用を求める演説をした事件。 」と書いてあります。
(4) 戦前の司法長官会同については,「私の最高裁判所論-憲法の求める司法の役割」(著者は泉徳治 元最高裁判所判事)48頁ないし56頁が参考になります。

6 「会同」という名称の意義
・ 人は死ねばゴミになる-私のがんとの闘い-(著者は伊藤栄樹 元検事総長)14頁及び15頁には以下の記載があります。
     法務・検察の世界には、会同という古めかしい名前が残っている。要するに、全国の検事をポスト、担当任務に応じて、中央に招集して開く会議のことである。検事は、一人ひとりが独立して職権を行使する建前になっているから、会議でも、一同に会して議論するだけで、結論を出して各人に押し付けることをしない。そんな気分を表すのに「会同」がふさわしいというのがわれわれのいささか古い語感なのである。

7 最高裁が長官・所長会同において策定した,次年度概算要求の方針や執行計画は存在しないこと

(1) 全司法新聞 2017年4月20日(2262号)には以下の記載があるものの,長官所長会同の資料にはなぜか,該当する資料がありません。
   諸要求貫徹闘争は、次年度(2018年度)裁判所予算の概算要求や今年度予算の具体的な執行計画に、私たちの要求を反映させるたたかいです。最高裁は6月に全国長官・所長会同を開催し、次年度概算要求の方針や執行計画の策定を行いますが、全司法はこの時期から全国一丸となった統一行動を展開し、各職場の要求を支部から地連、本部へと積み上げ、対応当局に対し要求実現に向けた上級庁への上申を求めています。
(2) 平成30年1月11日付の司法行政文書不開示通知書によれば,最高裁が全国長官・所長会同において策定した,次年度概算要求の方針や執行計画(最新版)は存在しません。

8 関連記事その他
(1)ア 「思い出すまま」(著者は2期の石川義夫裁判官)221頁及び222頁には以下の記載があります。
     高裁長官は裁判官とは名ばかりで、裁判業務にたずさわることは全くなく、司法行政に関しても、当時の徹底した中央集権制度のもと、高裁長官が腕を振るう余地は殆どないように思われた。私の経験した全国長官所長会同においても、高裁長官は単なる並び大名に過ぎなかったから、私は高裁長官になるよりも、むしろ高裁裁判長を自分の双六のあがりと考えて、裁判業務に専心し、それに満足していた。
イ 「裁判官とは何者か?-その実像と虚像との間から見えるもの-」(講演者は24期の千葉勝美 元最高裁判所判事)には以下の記載があります(リンク先のPDF17頁)。
    キャリアが30年程度になると、所長(全国で100ある地家裁の長で、兼務があるので、結局75人が就任する)、高裁長官(全国8高裁の長で、いわゆる認証官:就任に際し、天皇陛下から皇居で認証を受ける)を経験する。これらは、大きな組織の長として組織全体を動かす。いわばお山の大将であり、自由に自分のアイデア等を述べて実現させることができ、誠に楽しい思い出が多い(甲府地家裁所長、仙台高裁長官)。そこでは、事件処理を離れて、広い視野で司法を捉える目が養われ、人を使って組織を動かす苦労と喜びがある。同じ課題に取り組んだ部下の人達とは、そのポストを離れても、その後も一生の付き合いとなる(○○前所長を囲む会等)。
(2) Chatwork HPの「対面会議とオンライン会議の特徴とメリット・デメリットとは?」によれば,オンライン会議のデメリット及びデメリットは以下のとおりです。
(メリット)
・ 場所を選ばずに開催できるので出張経費や移動時間が不要
・ 会議室の確保や紙の会議資料の準備などの手間が不要
(デメリット)
・ 参加者の表情や雰囲気をつかみづらい
・ 通信状況や機器の調子の影響を受けやすい
・ ITリテラシーが必要になる
(3) 以下の記事も参照してください。
・ 平成17年度から平成30年度までの長官所長会同の資料等
・ 令和元年度以降の長官所長会同の資料及び議事概要
・ 裁判所の協議会等開催計画
 高等裁判所長官事務打合せ
 高等裁判所事務局長事務打合せ
→ 初開催は,平成28年2月25日です。


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