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裁判所関係者及び弁護士に対する叙勲の相場(AIリライト)

第1 この記事でいう「叙勲の相場」

1 公表基準と受章例を区別する必要

叙勲の「相場」とは,特定の役職に就けば特定の勲章を受章できるという法的基準ではなく,内閣府が公表した過去の受章者名簿から読み取れる経験的な傾向をいう。

勲章の授与基準は,候補者の生涯にわたる功績を総合的に評価するとし,瑞宝章についても,形式的な職務歴に等しく応じて授与するものではないとしている。

したがって,同じ役職の経験者でも,担当した職務の重要性,在職期間,ほかの主要経歴,業績及び推薦・選考の結果によって異なる章を受けることがある。

本記事は,公表された授与基準と,令和8年春までの受章者名簿から認められる傾向とを分けて記載する。

2 調査対象と限界

本記事では,令和8年春の全都道府県及び外国在住者等の受章者名簿並びに令和3年春から令和8年春までの上位章受章者名簿を確認した。

役職は受章者名簿の主要経歴欄に記載されたものに限られ,一人の職歴全部が表示されるわけではない。

また,公表資料からは,推薦順位,辞退者,候補者間の比較,個別の加算・減算事情及び選考過程の詳細を確認できない。

そのため,以下の役職別整理は,将来の受章を予測又は保証するものではない。

第2 叙勲制度の基礎

1 法的根拠と現行制度

日本国憲法7条7号は,天皇が内閣の助言と承認により栄典を授与すると定め,同法14条3項は,栄誉,勲章その他の栄典の授与は,いかなる特権も伴わないと定めている。

現在の叙勲制度は,日本国憲法のほか,勲章制定ノ件,宝冠章及大勲位菊花章頸飾ニ関スル件,平成14年8月7日閣議決定「栄典制度の改革について」,平成15年5月20日閣議決定「勲章の授与基準」等に基づいて運用されている。

生存者に対する叙勲は昭和39年に再開され,平成15年秋の叙勲から,勲等による表示を廃止し,旭日章及び瑞宝章をそれぞれ6段階とする現行の枠組みが用いられている。

2 旭日章と瑞宝章

旭日章は,国家又は公共に対し功労のある者のうち,功績の内容に着目し,顕著な功績を挙げた者に授与される。

瑞宝章は,国家又は公共に対し功労のある者のうち,公務等に長年にわたり従事し,成績を挙げた者に授与される。

裁判官及び裁判所職員は主として瑞宝章,弁護士は主として旭日章の受章例が公表されているが,章の種類及び等級は個人の全経歴に対する評価で決まる。

3 選考及び授与

春秋叙勲候補者推薦要綱によれば,春秋叙勲は,原則として70歳以上の者又は精神的若しくは肉体的に著しく労苦の多い環境で業務に精励した55歳以上の者を対象とし,毎回おおむね4000名が受章する。

最高裁判所関係の候補者は最高裁判所長官が推薦し,内閣総理大臣の審査及び閣議決定を経て,天皇が勲章を授与する。

大綬章以上は宮中で親授され,重光章は内閣総理大臣が伝達し,中綬章以下の最高裁判所所管者には最高裁判所長官が伝達する。

第3 最高裁判所長官及び最高裁判所判事

1 最高裁判所長官

公表された授与基準は,最高裁判所長官について旭日大綬章を標準とする一方,功績全体から見てふさわしい場合には,より上位の勲章を授与できるとしている。

平成15年秋の制度改正後に退官し,令和7年秋までに受章した最高裁判所長官経験者については,桐花大綬章受章者一覧により,桐花大綬章の受章例が継続していることを確認できる。

したがって,公表基準上の標準は旭日大綬章であるが,近年の受章例から読み取れる傾向は桐花大綬章である。

これは受章例に基づく傾向であり,「最高裁判所長官を経験すれば桐花大綬章となる」という法定又は公表基準ではない。

2 最高裁判所判事

公表された授与基準は,最高裁判所判事について旭日大綬章又は旭日重光章を標準とする。

実際の受章例には旭日大綬章と旭日重光章の双方があり,裁判官出身か弁護士出身かという一つの属性だけで章を決めることはできない。

令和8年春にも,最高裁判所判事としての司法功労と長年の弁護士功労が主要経歴に記載された者の旭日大綬章受章例がある。

第4 下級裁判所裁判官

1 高裁長官及び地家裁所長

令和8年春には,高松,札幌,広島及び名古屋の各高裁長官経験者が瑞宝重光章を受章した。

また,名古屋地裁所長及び福岡地裁所長の各経験者にも瑞宝重光章の受章例があるため,大規模地裁の所長経験は瑞宝重光章となる傾向を補強する事情である。

もっとも,地方裁判所長又は家庭裁判所長の経験者には瑞宝重光章と瑞宝中綬章の双方があり,裁判所の規模又は最終官職だけによる一律の区分はできない。

2 高裁部総括

令和8年春の受章者名簿で,高裁部総括経験者について確認できた対応は次のとおりである。

主要経歴瑞宝重光章瑞宝中綬章
東京高裁部総括1例1例
大阪高裁部総括2例0例
名古屋高裁部総括1例0例
広島高裁部総括0例1例
仙台高裁部総括0例1例

同じ令和8年春に,同じ東京高裁の部総括経験者について瑞宝重光章と瑞宝中綬章の双方がある。

したがって,「高裁本庁の部総括は瑞宝重光章,高裁支部の部総括は瑞宝中綬章」という二分法は正確ではない。

より正確には,高裁部総括経験者には瑞宝重光章又は瑞宝中綬章の受章例があり,近年は瑞宝重光章の例が多いものの,本庁の部総括経験者にも瑞宝中綬章の例があると整理できる。

3 その他の裁判官

地家裁所長以外の裁判官経験者についても,瑞宝重光章又は瑞宝中綬章の受章例があり,受章者名簿に表示された最終官職だけでは結論を出せない。

簡易裁判所判事経験者には瑞宝小綬章の受章例が多く,令和8年春にも複数例を確認できる。

ただし,いずれも個人の全経歴と功績に対する評価であり,現に在職している者又は将来退官する者に当然に授与されることを意味しない。

第5 裁判官以外の裁判所職員

1 指定職俸給表と勲章は別の制度

裁判所職員については,役職名と受章した章との対応を検索する資料として受章者名簿が有用である。

もっとも,裁判所の指定職職員に適用される俸給表及び号俸と,叙勲における功績評価とは別の制度である。

指定職の役職であることは職責の大きさを示す事情となり得るが,特定の号俸から特定の勲章が導かれるわけではない。

2 瑞宝中綬章の受章例

令和8年春には,東京高裁事務局次長及び大阪高裁事務局次長の各経験者が瑞宝中綬章を受章した。

過去の公表名簿では,最高裁大法廷首席書記官,最高裁訟廷首席書記官,最高裁家庭審議官等の経験者にも瑞宝中綬章の例がある。

これらは役職別の法的基準ではなく,各受章者の主要経歴と受章した章との対応例である。

3 瑞宝小綬章及び瑞宝単光章の受章例

令和8年春には,地家裁の事務局長,首席書記官,首席家庭裁判所調査官等の経験者について瑞宝小綬章の受章例を確認できる。

過去の公表名簿では,最高裁小法廷首席書記官,最高裁事務総局の課長,司法研修所事務局次長,裁判所職員総合研修所長,最高裁図書館副館長,高裁事務局次長等の経験者にも瑞宝小綬章の例がある。

また,技術系又は技能系の裁判所職員には瑞宝単光章の受章例がある。

個々の役職と章との対応は,勲章受章者名簿(裁判官,簡裁判事,一般職,弁護士及び調停委員)で確認できる。

第6 弁護士

1 公表基準と日弁連の推薦

弁護士は,業務を通じて公益に寄与した者として旭日章の対象となり得る。

しかし,内閣府が公表する授与基準には,「日弁連会長は旭日重光章」,「日弁連副会長は旭日中綬章」等の役職別基準はない。

日本弁護士連合会『平成25年度会務報告書』92頁は,日弁連が春秋叙勲及び死亡叙勲について候補者を最高裁判所経由で内閣府賞勲局に推薦していることを記載する。

これは日弁連が推薦過程に制度的に関与することを示すが,役職と章との固定的な換算表が公表されていることを意味しない。

2 役職別の受章傾向

令和3年春から令和8年春までの上位章受章者名簿と令和8年春の全受章者名簿からは,次の傾向を読み取ることができる。

主要経歴公表名簿から読み取れる傾向留意点
日弁連会長旭日重光章の例が継続している公表基準ではない
日弁連副会長旭日中綬章の例が多い令和8年春にも2例がある
日弁連事務総長旭日小綬章の例がある他の主要経歴を含む全体評価である
日弁連常務理事又は理事旭日小綬章の例が多い令和8年春にも多数例がある
最高裁判所司法研修所教官旭日小綬章の例が多い令和8年春にも多数例がある

したがって,日弁連会長経験者には旭日重光章,副会長経験者には旭日中綬章,常務理事・理事又は司法研修所教官経験者には旭日小綬章となる例が多いという経験則は,現在の公表名簿によっても相当程度裏付けられる。

もっとも,一人が複数の役職を経験する場合,どの経歴がどの程度評価されたかは受章者名簿だけでは分からない。

日弁連の役職歴は,日弁連の歴代正副会長及び日弁連の歴代会長及び事務総長を参照されたい。

3 弁護士会内の異なる意見

弁護士会内には,叙勲を個人の功績に対する栄誉として受け止める見解がある一方,弁護士自治,弁護士会役員選挙又は会務人事への影響を理由に,弁護士会が叙勲を祝うことに慎重な見解も存在してきた。

東京弁護士会『LIBRA』2017年2月号56頁に掲載された追悼記事は,後者の立場から栄典制度に批判的であった会員の活動を紹介している。

このような意見の対立は,役職別の受章傾向とは別の問題として区別する必要がある。

第7 調停委員及び再叙勲

1 調停委員

調停委員は,公共的業務に長年従事した功労により瑞宝章の対象となり得る。

令和8年春の受章者名簿では,調停委員功労について瑞宝双光章と瑞宝単光章の双方を確認できる。

したがって,調停委員は瑞宝双光章又は瑞宝単光章となる例があるという整理は維持できるが,委嘱期間,功績及びほかの経歴による個人差がある。

調停委員に対する表彰は,叙勲とは別に最高裁判所長官表彰等があり,詳細は民事調停委員及び家事調停委員に対する表彰制度を参照されたい。

2 再叙勲

現行の春秋叙勲候補者推薦要綱は,既に勲章を受章した者について,先の受章後に抜群の功績を挙げ,かつ,原則として7年以上を経過した場合に限り,再叙勲を検討できるとする。

過去の内部資料にあった章の等級に関する取扱いを,現在の公表基準であるかのように一般化することはできない。

第8 受章後の勲章の褫奪等

1 勲章褫奪令

勲章褫奪令1条1項は,勲章を有する者が死刑又は拘禁刑に処せられたときは,原則として勲章を褫奪すると定める。

刑の執行猶予が付された場合は,同項ただし書により自動的な褫奪の対象から外れる。

同令2条は,刑の全部の執行猶予,懲戒による免官・免職その他の一定の場合に,情状によって勲章を褫奪できる旨を定める。

同令3条は,法令により拘禁され,又は労役場に留置された期間は勲章を佩用できない旨を定めている。

令和7年6月1日の拘禁刑創設後の現行条文は「死刑又ハ拘禁刑」であり,従前の「懲役又ハ禁錮」という説明は現行法の表現ではない。

2 犯罪捜査規範上の取扱い

犯罪捜査規範178条3項は,被疑者供述調書に,位記,勲章,褒賞,記章,恩給又は年金の有無を記載するものとする。

交通被疑事件の供述調書については同規範220条の特則がある一方,同規範219条は逮捕上の注意を定める条文であり,勲章の記載を定める条文ではない。

出典・参考資料

1 内閣府及び法令

① 内閣府「勲章の授与基準

② 内閣府「勲章の選考手続

③ 内閣府「春秋叙勲候補者の推薦について

④ 内閣府「令和8年春の叙勲受章者名簿

⑤ 内閣府「勲章に関する資料集

⑥ e-Gov法令検索「日本国憲法

⑦ e-Gov法令検索「勲章褫奪令

⑧ e-Gov法令検索「犯罪捜査規範

2 日弁連及び弁護士会資料

① 日本弁護士連合会『平成25年度会務報告書』92頁

② 東京弁護士会『LIBRA 2017年2月号』56頁

3 受章者名簿の調査範囲

① 令和8年春の叙勲について公表された全都道府県及び外国在住者等の受章者名簿

② 令和3年春から令和8年春までに内閣府が公表した桐花大綬章,旭日大綬章,旭日重光章,瑞宝大綬章及び瑞宝重光章の受章者名簿