第1 最高裁判所が開示した7点の文書1 文書の一覧2 令和元年5月以降の最新版が存在しないこと3 7点の分量と作成時点第2 対照表が示す7か国の比較1 対照表の行の構成2 裁判所の組織3 憲法裁判所及び行政裁判所の有無4 裁判官の任用と国民の司法参加5 弁護士資格と法曹養成制度6 裁判手続の特徴第3 対照表を読むときの留意点1 各国編の6章のうち2章に対応する行がない2 英国欄に家庭裁判所が現れない3 「法曹一元」という分類軸4 対象は6か国に限られる第4 日本欄の記述と現在の制度との違い1 刑事――司法取引と検察審査会の起訴議決2 民事――法定審理期間訴訟手続3 裁判員制度の対象事件第5 懲罰的損害賠償を命じた外国裁判所の判決と日本の執行判決第6 各国編の内容を検討した記事第7 関連する開示資料及び記事出典・参考資料1 法令2 裁判例3 公文書・開示文書4 文献5 ウェブ資料
第1 最高裁判所が開示した7点の文書
1 文書の一覧
最高裁判所に対する司法行政文書の開示申出により,諸外国の司法制度に関する文書7点の開示を受けた。内訳は,7か国を1枚の表に並べた対照表1点と,各国の制度を個別に記述した各国編6点である。以下のリンクからそれぞれのPDFを直接閲覧することができる。
①諸外国(米英独仏豪加)及び我が国の司法制度の概要(対照表)
②アメリカ合衆国の司法制度
③イギリス連合王国(イングランド及びウェールズ)の司法制度
④ドイツ連邦共和国の司法制度
⑤フランス共和国の司法制度
⑥オーストラリア連邦の司法制度
⑦カナダの司法制度
③の文書の標題について,注意を要する点がある。開示された文書の1頁目に印刷された標題は「イギリス連合王国(イングランド及びウェールズ)の司法制度」であるのに対し,後記2の不開示通知書は同じ文書を「イギリス連邦(イングランド及びウェールズ)の司法制度」と記載している。「イギリス連邦」は英連邦(Commonwealth of Nations)を指す語としても用いられるから,イングランド及びウェールズの司法制度を扱う文書の標題としては,原本のとおり「イギリス連合王国」とするのが正確である。自サイトに掲載しているPDFのファイル名及び①から⑦までのリンク先も「連合王国」であり,本記事では,開示された文書自体の標題に従う。
2 令和元年5月以降の最新版が存在しないこと
これらの文書がいつの時点の制度を示すものかは,その後の不開示決定によって確定している。最高裁判所事務総長は,令和6年10月9日付け司法行政文書不開示通知書(最高裁秘書第2739号)により,上記7点の文書の「令和元年5月以降の最新版」について,「1の文書は,作成又は取得していない。」という理由で開示しないこととした。
この通知書は,不開示の理由を文書の不存在に求めるものである。したがって,最高裁判所は,令和元年5月以降にこれらの文書の改訂版を作成しておらず,保有もしていないことになる。開示された7点は,作成された時点の制度を示す資料として読むほかなく,その後の法改正によって現行制度と食い違う部分が生じていることを前提に利用する必要がある。司法行政文書の開示手続そのものについては裁判所の情報公開――通達・司法行政文書の開示手続と判決情報の公開を,開示を受けた文書の利用に制限がないことについては開示文書の利用目的は一切問われないこと等を参照されたい。
3 7点の分量と作成時点
7点はいずれも文字情報を含まない画像のPDFであり,同じ読取ソフトウェアにより,平成28年12月25日の午後6時35分から午後7時35分までの約1時間の間に連続して読み取られている。最初に読み取られているのは①の対照表であり,以下,②アメリカ,⑤フランス,④ドイツ,⑥オーストラリア,③イギリス,⑦カナダの順である。この読取りの順序は,不開示通知書が掲げる①から⑦までの順序とも,対照表の列の並び順とも一致しない。
分量は,①の対照表がA4判横1枚,②アメリカが32頁,③イギリスが69頁,④ドイツが43頁,⑤フランスが55頁,⑥オーストラリアが31頁,⑦カナダが62頁であり,各国編の合計は292頁である。各国編は,条文番号や統計の出典を付した脚注を備えた詳細な資料であるのに対し,対照表はこれを1枚に圧縮したものであるから,両者は精度も用途も異なる。
第2 対照表が示す7か国の比較
1 対照表の行の構成
対照表は,アメリカ,イギリス,フランス,ドイツ,オーストラリア,カナダ及び日本の7か国を列に並べ,裁判所(基本的組織,憲法裁判所の有無及び行政裁判所の有無),裁判官の任用,陪審・参審制(制度採用の有無及び民事・刑事における採用の別),弁護士資格,法曹養成制度並びに裁判等手続の特徴(民事・刑事)を行に配置している。注記は3つ付されており,アメリカについては主に連邦の場合を記載したこと,フランスの弁護士資格の統合の沿革,職権主義の例示を内容とする。
主要な項目を国ごとに整理すると,次のとおりである。
国憲法裁判所行政裁判所裁判官の任用国民の司法参加弁護士資格アメリカなしなし法曹一元陪審制(大陪審・小陪審)単一イギリスなしなし法曹一元陪審制法廷弁護士・事務弁護士フランスあり(憲法院)あり(コンセイユ・デタ等)キャリアシステム参審制単一ドイツあり(連邦及び州の憲法裁判所)あり(連邦及び州の行政裁判所)キャリアシステム参審制単一オーストラリアなしなし法曹一元陪審制法廷弁護士・事務弁護士カナダなしなし法曹一元陪審制単一日本なしなしキャリアシステム裁判員制度単一
2 裁判所の組織
基本的組織の欄は,国ごとに掲げる裁判所の数が大きく異なる。アメリカは地方裁判所,控訴裁判所及び最高裁判所の3種類にとどまるが,これは注記のとおり主に連邦の場合を記載したためであり,州の裁判所は対象外である。これに対し,連邦制を採るオーストラリアは連邦最高裁判所,連邦裁判所,家庭裁判所,連邦巡回裁判所並びに州の上級・中間・下級の各裁判所を,カナダは連邦最高裁判所,連邦控訴裁判所,州控訴裁判所,連邦裁判所,州上級裁判所及び州裁判所を掲げており,連邦裁判所と州裁判所が並存する構造がそのまま表れている。
イギリスの欄は,治安判事裁判所,郡[県]裁判所,刑事法院,高等法院,控訴院及び連合王国最高裁判所を掲げ,最高裁判所には「貴族院から移行」という注記が付されている。フランスは小審裁判所,大審裁判所,重罪院,控訴院及び破毀院を,ドイツは区裁判所,地方裁判所等,高等裁判所等,連邦通常裁判所等及びその他特別裁判所を掲げている。日本は簡易裁判所,地方裁判所,家庭裁判所,高等裁判所及び最高裁判所である。
3 憲法裁判所及び行政裁判所の有無
憲法裁判所を「あり」とするのはフランスとドイツだけであり,フランスは憲法院,ドイツは連邦及び州の憲法裁判所が挙げられている。行政裁判所も同じくフランスとドイツだけが「あり」であり,フランスはコンセイユ・デタ等,ドイツは連邦及び州の行政裁判所が挙げられている。残る5か国はいずれも「なし」である。
日本が両欄とも「なし」とされているのは,日本国憲法76条2項が特別裁判所の設置を禁じ,行政機関が終審として裁判を行うことができないと定めていることによる。もっとも,「行政裁判所なし」という表示は,行政事件を扱う手続が存在しないという意味ではない。イギリスについても,行政上の紛争は審判所(tribunal)の体系が広く担っており,「なし」という1語からは,各国が行政上の紛争をどのような機関で処理しているかまでは読み取れない。対照表は,通常裁判所とは別系統の裁判所が置かれているかどうかという1点で仕分けたものとして読む必要がある。
4 裁判官の任用と国民の司法参加
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