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裁判官の「報酬」,検察官の「俸給」及び国家公務員の「給与」の違い(AI作成)

第1 結論

1 三つの用語の関係

裁判官の「報酬」と検察官の「俸給」は,いずれも諸手当を除いた基本的な月額を指す。これに対し,「給与」は,通常,その基本的な月額と各種手当等を含む包括概念である。

したがって,「報酬」「俸給」「給与」は三つの職種に対応する同列の名称ではない。裁判官についても裁判官報酬法1条は「報酬その他の給与」と定め,検察官についても検察官俸給法1条は「検察官の給与」と定めているため,裁判官及び検察官にも上位概念としての「給与」がある。

令和8年8月15日現在の用語関係を表にすると,次のとおりである。

対象国家公務員法上の身分基本的な月額の名称主な根拠「給与」との関係
裁判官特別職報酬日本国憲法,裁判所法,裁判官報酬法報酬その他の給与という関係である。
検察官一般職俸給検察庁法,検察官俸給法俸給その他の給付を含む給与という関係である。
一般職給与法の適用職員一般職俸給国家公務員法,一般職給与法俸給及び法律上の各種手当等を含む給与という関係である。

2 経済的機能と法的規律は分けて考えること

平成28年10月26日の衆議院法務委員会で,法務省の政府参考人は,諸手当を除いた基本的な給与を裁判官について「報酬」,検察官について「俸給」と呼ぶものの,「その意味するところに差異はございません」と答弁した。その上で,検察官は一般の公務員の例に従って「俸給」を用い,裁判官は憲法の用語に従って「報酬」を用いると説明した。

この答弁がいう「差異はない」とは,基本的な月額という経済的機能についての説明である。裁判官の報酬には憲法79条6項及び80条2項の保障があり,検察官の俸給には検察庁法25条の保障があるなど,根拠,身分保障及び具体的な支給規律まで同一であるという意味ではない。

第2 裁判官と検察官の国家公務員法上の身分

1 裁判官は特別職国家公務員であること

国家公務員法2条3項13号は,「裁判官及びその他の裁判所職員」を特別職とする。そのため,裁判官には国家公務員法及び一般職給与法の給与規定がそのまま適用されるのではなく,憲法,裁判所法及び裁判官報酬法による独自の制度が置かれている。

「特別職」という区分と,日常語として職務が特別であるという評価は同じものではない。ここでいう特別職は,国家公務員法2条が定める法的区分である。

2 検察官は一般職国家公務員であること

国家公務員法2条2項は,特別職に属する職以外の国家公務員の一切の職を一般職とする。検察官は同条3項の特別職の列挙に含まれないため,一般職国家公務員である。

もっとも,検察官は,一般職給与法の俸給表が直接適用される通常の給与法適用職員ではない。検察庁法21条及び検察官俸給法に基づく別個の俸給表により,裁判官との処遇の均衡を重視して給与が定められる。この意味で,「一般職であること」と「一般職給与法の俸給表によること」は別問題である。

第3 裁判官の「報酬」

1 憲法上の用語であること

日本国憲法79条6項は最高裁判所の裁判官について,同法80条2項は下級裁判所の裁判官について,いずれも定期に相当額の「報酬」を受けると定める。裁判官の基本的な月額を「報酬」と呼ぶ直接の理由は,憲法がこの語を採用していることにある。

裁判所法51条は,裁判官の受ける報酬を別に法律で定めるとする。その委任を受けた裁判官の報酬等に関する法律2条は,裁判官の報酬月額を別表によると定めている。

2 報酬と報酬以外の給与

裁判官報酬法1条は,「裁判官の受ける報酬その他の給与」について同法が定めるとする。同法9条も「報酬以外の給与」という表現を用いているため,法律上の「報酬」は裁判官が受ける金銭給付の全部を意味しない。

裁判官については,報酬が基本的な月額であり,それ以外の給与が別に存在する。したがって,裁判官について「給与」という語を用いること自体が誤りなのではなく,基本的な月額を特定するときに「報酬」と呼ぶのが正確である。

3 超過勤務手当等が支給されないこと

裁判官報酬法9条1項ただし書は,裁判官に報酬の特別調整額,超過勤務手当,休日給,夜勤手当及び宿日直手当を支給しないと定める。

平成28年10月26日の衆議院法務委員会で,最高裁判所事務総局は,裁判官には一般職職員と同様の勤務時間を観念することが困難であり,時間外手当的な要素も考慮した上で,職務と責任の特殊性を踏まえた報酬が設定されていると説明した。これは,超過勤務手当等を別に支給しない理由についての制度説明である。

第4 検察官の「俸給」

1 検察官俸給法の用語

検察庁法21条は,検察官の受ける「俸給」を別に法律で定めるとする。検察官の俸給等に関する法律2条は,検察官の俸給月額を別表によると定める。

他方で,検察官俸給法1条は冒頭で「検察官の給与に関しては」と定め,同法3条も「初任給,昇給その他検察官の給与に関する事項」という表現を用いる。ここでも,「給与」が包括概念であり,「俸給」がその中心となる基本的な月額であるという関係が確認できる。

検察官俸給法1条1項ただし書により,検察官にも俸給の特別調整額,超過勤務手当,休日給,夜勤手当及び宿日直手当は支給されない。

2 裁判官に準じた給与水準

検察官が一般職であるにもかかわらず独自の俸給表を持つのは,その職責を通常の一般行政官と区別し,裁判官に準じた待遇をするという制度設計による。

政府は,平成13年の質問答弁書で,検察官には司法権の適正かつ円滑な運営を図る上で重大な職責があり,その準司法官的性格を重視して,裁判官に対する待遇に準じた待遇を行うべきものとして昭和23年に現行の検察官俸給法が制定されたと説明した。人事院の令和6年度年次報告書も,一般職国家公務員のうち検察官の給与は「裁判官との処遇均衡を重視して決定」されると整理している。

3 俸給減額の身分保障と63歳以後の特則

検察庁法25条は,同法22条から24条までの場合及び懲戒処分による場合を除き,検察官がその意思に反して官を失い,職務を停止され,又は俸給を減額されないと定める。裁判官の報酬減額禁止が憲法にも置かれているのに対し,検察官の俸給減額禁止は法律上の身分保障である。

現在は,検察官俸給法附則5条1項により,検事及び副検事の俸給月額は,当分の間,63歳到達日の翌日以後,原則としてその者が受ける号に応じた俸給月額の70%となる。同法附則6条は,この措置を検察庁法25条の例外として扱うための読替えを定めている。この特則は,裁判官の報酬と検察官の俸給が経済的に同じ基本給の機能を持っていても,法的規律が同一ではないことを示す例である。

第5 一般職国家公務員の「給与」と「俸給」

1 給与は俸給を含む包括概念であること

国家公務員法62条から65条までは,「給与」を章及び制度全体の用語としながら,給与に関する法律に俸給表,俸給決定の基準及び特殊性を考慮して支給する給与等を定めることを要求している。

一般職の職員の給与に関する法律5条1項は,俸給を,正規の勤務時間による勤務に対する報酬であり,同項が列挙する各種手当,超過勤務手当,休日給,期末手当及び勤勉手当等を除いた全額と定義する。したがって,一般職給与法の適用職員についても,基本的な月額は「俸給」であり,俸給及び各種手当等を含む制度全体の概念が「給与」である。

2 「給与=俸給+諸手当」は説明上の略式であること

平成28年の政府答弁が述べた「俸給に諸手当を加えたものが給与」という説明は,用語の骨格を理解する上で有用である。ただし,これは一般的な説明であり,あらゆる給付を機械的に足し合わせた厳密な法定式ではない。

例えば,一般職給与法3条3項は,公務について生じた実費の弁償を給与に含めない。他方で,同法5条2項は,宿舎,食事,制服その他これらに類する有価物の支給又は無償貸与を給与の一部として扱う場合を定める。個別の給付が給与に含まれるかは,名称だけではなく,根拠法令ごとに確認する必要がある。

3 人事院の給与勧告の直接の対象

人事院「給与勧告の仕組み」令和7年8月によれば,人事院の給与勧告の直接の対象は,一般職給与法の適用を受ける一般職国家公務員である。同資料は,一般職の中でも給与法適用職員,検察官及び行政執行法人職員を区別している。

したがって,「一般職である検察官も一般職給与法の俸給表及び人事院勧告が直接適用される」という理解は正確ではない。検察官の俸給は,裁判官との均衡及び国家公務員全体の給与体系との均衡を踏まえ,別の法律によって改定される。

第6 裁判官の報酬及び検察官の俸給の改定方法

1 人事院勧告との関係

人事院は,一般職給与法の適用職員と民間従業員について,役職段階,勤務地域,学歴及び年齢等の給与決定要素をそろえ,ラスパイレス方式で給与水準を比較する。その結果を踏まえて,人事院が国会及び内閣に給与改定を勧告する。

裁判官及び検察官はこの勧告の直接の対象ではないが,その報酬月額及び俸給月額の改定は,人事院勧告に基づく国家公務員給与の改定と連動して行われてきた。

2 対応金額スライド方式

令和7年12月11日の衆議院法務委員会で,法務省の政府参考人は,裁判官の報酬月額及び検察官の俸給月額について「対応金額スライド方式」を採用していると説明した。これは,特別職及び一般職国家公務員の給与水準との間に一定の較差を保つことを前提に,対応する俸給月額の改定率に応じて改定額を定める方式である。

同答弁は,この方式が,裁判官及び検察官の職務と責任の特殊性を反映させるとともに,人事院勧告を尊重し,国家公務員全体の給与体系との均衡を維持するためのものであると説明している。

3 別々の法律改正を要すること

人事院勧告又は一般職給与法の改正だけで,裁判官の報酬月額及び検察官の俸給月額が当然に書き換わるわけではない。裁判官報酬法及び検察官俸給法の別表に月額が定められているため,その改定には各法律の改正が必要である。

したがって,改定の実質的な基準には連動性があるが,法形式としては,国会が一般職給与法,裁判官報酬法及び検察官俸給法の各改正法を成立させるという構造である。

第7 歳費,給料及び賃金との違い

1 国会議員の歳費

日本国憲法49条は,両議院の議員が国庫から相当額の「歳費」を受けると定める。国会議員の歳費,旅費及び手当等に関する法律1条は,議長,副議長及び議員の歳費月額を定めている。

国会議員も国家公務員に含まれるが,基本的な月額の法令上の名称は「給与」又は「俸給」ではなく「歳費」である。このことからも,「国家公務員の基本給はすべて俸給である」という整理はできない。

2 地方公務員の給料及び報酬

地方自治法204条1項は,普通地方公共団体の長,常勤職員及び同項所定の短時間勤務職員等に「給料及び旅費」を支給すると定める。この範囲では,基本的な月額を「給料」と呼ぶのが原則である。

もっとも,同法203条1項は地方議会議員に「議員報酬」を支給すると定め,同法203条の2第1項は一定の非常勤職員に「報酬」を支給すると定める。したがって,「地方公務員の基本給は給料である」という説明にも例外があり,対象となる職の法的身分を確認する必要がある。

3 所得税法及び労働基準法における用語

所得税法28条1項は,給与所得を「俸給,給料,賃金,歳費及び賞与並びにこれらの性質を有する給与」に係る所得と定義する。同条では,行政法上の名称が異なる給付を税法上の給与所得としてまとめている。

労働基準法11条は,「賃金」を,名称を問わず,労働の対償として使用者が労働者に支払う全てのものと定義する。同じ金銭給付でも,憲法,公務員法,税法及び労働法では用語の目的と範囲が異なるため,単語だけを切り離して意味を決めることはできない。

第8 裁判官の報酬減額禁止

1 憲法及び裁判所法の規定

日本国憲法79条6項及び80条2項は,裁判官の報酬を在任中に減額できないと定める。裁判所法48条も,法定の例外を除き,裁判官がその意思に反して免官,転官,転所,職務停止又は報酬減額をされないと定める。

これらの規定は,裁判官の職権行使の独立を経済的側面から保障し,個々の裁判官又は司法全体に圧力を加える目的で報酬を減額することを防ぐ身分保障である。裁判官について憲法が「報酬」という語を用いる背景には,この独立保障がある。

2 一般的な減額をめぐる政府見解と学説上の議論

平成14年の国家公務員給与引下げ時に,政府は,民間給与との客観的な比較及び人事院勧告に基づき,他の国家公務員と同程度に全裁判官の報酬を一律に引き下げる措置であり,裁判官の独立又は三権の均衡を害する意図も現実もない場合には,憲法が禁止する減額に当たらないとの見解を示した。その後,法律改正による一般的な減額が行われた。

もっとも,憲法の文言は「在任中,これを減額することができない」と定めているため,この政府見解の当否については学説上の議論がある。馬場健一「司法の位置づけと立憲主義の日本的位相―裁判官報酬減額問題から考える―」『社会科学研究』58巻2号5頁~38頁は,国会答弁が示した要件を整理した上で,比較法的観点から日本の運用を批判的に検討している。したがって,一般的減額が当然に許されると断定するのではなく,政府及び立法実務の解釈と,これに対する学説上の批判を区別する必要がある。

第9 関連記事

1 用語,給与水準及び月額

① 裁判官の給料と他の国家公務員の給料との整合性に関する答弁例

② 裁判官の年収及び退職手当(推定計算)

③ 判検事トップの月収と,行政機関の主な特別職の月収との比較

2 号別在職状況及び報酬減額

① 裁判官の号別在職状況

② 裁判官の報酬減額の合憲性に関する国会答弁

③ 裁判官の地域手当の合憲性(AI作成)

第10 出典・参考資料

1 法令

① 日本国憲法49条,79条6項及び80条2項

② 裁判所法48条及び51条並びに裁判官の報酬等に関する法律1条,2条及び9条

③ 検察庁法21条,22条及び25条並びに検察官の俸給等に関する法律1条から3条まで並びに附則5条及び6条

④ 国家公務員法2条及び62条から65条まで並びに一般職の職員の給与に関する法律3条から5条まで

⑤ 地方自治法203条,203条の2及び204条,国会議員の歳費,旅費及び手当等に関する法律1条,所得税法28条並びに労働基準法11条

2 国会会議録,質問答弁書及び人事院資料

① 第192回国会衆議院法務委員会第5号(平成28年10月26日)

② 第219回国会衆議院法務委員会第7号(令和7年12月11日)

③ 衆議院議員保坂展人君提出検事らの待遇と死刑執行などに関する質問に対する答弁書(平成13年7月17日)及び衆議院議員保坂展人君提出死刑制度に関する質問に対する答弁書(平成13年9月25日)

④ 第155回国会衆議院法務委員会第7号(平成14年11月13日)

⑤ 人事院「令和6年度年次報告書 第1編第1部第1章第1節 公務員の種類と数」及び人事院「給与勧告の仕組み」令和7年8月

3 論文

① 馬場健一「司法の位置づけと立憲主義の日本的位相―裁判官報酬減額問題から考える―」『社会科学研究』58巻2号(東京大学社会科学研究所,平成19年)5頁~38頁(特に12頁~14頁)掲載ページPDF