録音反訳方式による逐語調書


目次
1 総論
2 逐語調書の作成方法
3 録音反訳方式による逐語調書の法的根拠
4 録音反訳方式に関する事務の運用
5 録音反訳方式に関する最高裁判所作成の文書
6 法廷用デジタル録音機
7 録音反訳方式及び速記方式の比較に関する国会答弁
8 裁判員裁判における尋問と供述調書に関する国会答弁
9 関連記事

1 総論
(1) 録音反訳方式とは,録音テープ等の反訳を裁判所職員以外の者に委託して逐語調書を作成する方式をいいます(録音反訳方式に関する事務の運用について(平成10年3月20日付の最高裁判所総務局長通達)参照)。
(2) 録音反訳方式は,速記官制度を取り巻く客観的状況を踏まえ,今後増大すると予想される逐語録需要に的確かつ機動的に応えるため,平成9年4月から導入されましたが,平成10年4月からは,録音反訳方式の本格的な展開が開始しました。

2 逐語調書の作成方法

(1) 逐語調書の作成方法としては,速記録を引用する方法及び録音反訳方式を利用する方法の2種類があります。
(2) 最高裁判所が平成10年4月以降,速記官の新規養成を停止した(「平成9年2月26日付の最高裁判所裁判官会議議事録」参照)関係で,速記録を作成できる速記官の人数は年々,減少しています。
    そのため,逐語調書は通常,録音反訳方式を利用して作成されています。

3 録音反訳方式による逐語調書の法的根拠
(1) 録音反訳方式による逐語調書の法的根拠は,民事訴訟規則76条後段です。
(2) 民事訴訟規則76条(口頭弁論における陳述の録音)は以下のとおりです。
裁判所は、必要があると認めるときは、申立てにより又は職権で、録音装置を使用して口頭弁論における陳述の全部又は一部を録取させることができる。この場合において、裁判所が相当と認めるときは、録音テープを反訳した調書を作成しなければならない。

4 録音反訳方式に関する事務の運用
(1) 録音反訳方式に関する事務の運用について(平成10年3月20日付の最高裁判所総務局長通達)によれば,以下のとおりです。
① 録音反訳方式は,事件内容,供述内容等を考慮し,証人の供述等を録音した録音テープを反訳して逐語調書を作成することが相当である場合に利用します。
② 録音反訳方式を利用する証拠調べ等に立ち会う裁判所書記官は,証人の供述等を2台の録音機を用いて同時に録音します。
③ 録音テープは,当該調書の記載の正確性に対する異議申立てをすることができる期間が経過するまでは保管するものの,当該期間が経過すれば消去します。
④ 訴訟関係人が希望すれば,裁判所職員の立ち会いの下で録音テープを聴取できます。
(2) 私の経験では,当事者尋問又は証人尋問を実施した場合,尋問直後に訴訟上の和解が成立したケースを除き,常に逐語調書が作成されています。

5 録音反訳方式に関する最高裁判所作成の文書
(1) 録音反訳方式に関する最高裁判所作成の文書を以下のとおり掲載しています。
(総務局長通達)
・ 録音反訳方式に関する事務の運用について(平成10年3月20日付の最高裁判所総務局長通達)
(総務局第三課長の事務連絡)
・ 録音事務を行うに当たっての留意事項について(平成27年10月14日付の最高裁判所総務局第三課長書簡)
・ 「音声認識システムの認識結果を利用した録音反訳業務について」の送付について(平成21年6月29日付の最高裁判所総務局第三課長の事務連絡)
 録音反訳業務における反訳業務の発注について(平成28年2月23日付の最高裁判所総務局第三課長及び経理局用度課長の事務連絡)
 録音反訳事務における反訳の発注に関する留意点について(平成28年2月23日付の最高裁判所総務局第三課課長補佐の事務連絡)
・ 録音反訳方式を利用する上での留意事項について(平成30年4月26日付の最高裁判所総務局第三課長の事務連絡)
・ 録音反訳方式を利用する上での留意事項について(平成31年4月22日付の最高裁判所総務局第三課長の事務連絡)
(2) 「録音反訳参考資料(改訂版)」(平成13年3月)に含まれる「録音反訳通達の解説」も参照してください。

6 法廷用デジタル録音機

・ 最高裁判所の令和4年度概算要求書(説明資料)158頁には,「法廷用デジタル録音機【要望】」として以下の記載があります。
<要求要旨>
    社会,経済情勢の変化により,複雑困難な事件が増えている中で,逐語録需要の増加に容量的,機動的に対応するために,速記録に加え,法廷供述を録音反訳して逐語録を作成する方式(録音反訳方式)により法廷における証人尋問等の供述内容を正確に記録する必要があり,そのために,質問者及び供述者の音声を確実かつ明瞭に録音するためにデジタル録音機を整備する必要がある。
    また,簡易裁判所における民事訴訟事件については,民事訴訟規則において,証拠調べの証人等の陳述の結果の記載を省略できることとされているが,この場合,当事者の裁判上の利用に供するため,その証人等の陳述の結果を記録する必要があり,そのためにもデジタル録音機を整備する必要がある。
<整備計画>
    令和4年度は,285台の更新整備にかかる経費を要求する。

7 録音反訳方式及び速記方式の比較に関する国会答弁
・ 40期の中村慎最高裁判所総務局長は,平成28年3月16日の衆議院法務委員会において以下の答弁をしています(ナンバリングを追加しています。)。
① 委員が要約調書と速記調書というものの比較をされました。要約調書というのは書記官が概要を書く調書でございますので、それと比較いたしますと、速記調書の方が、まさに逐語的にとっているのでそういう感想が出たんだと思います。
 逐語調書という中におきましては、録音反訳方式と速記の調書、両方がございます。一般的に、裁判利用者の要望については真摯に耳を傾ける必要があると考えております。
 ただ、録音反訳方式でありましても、反訳業者が提出した反訳書を裁判所書記官が確認して、必要に応じて校正を行った上で書記官の調書として完成させておりまして、正確性を欠くということはございません。また、反訳書をつくる期間につきましても、最短の場合では音声データを業者が受領したときから四十八時間で完成させるというような迅速性についても、十分な手当てをしているところでございます。
② このように、録音反訳方式と速記とについては、いずれも逐語録需要に対応するものであるところ、この両者について、どちらがすぐれているということはないというふうに考えておりまして、利用者からの要望のみによって速記録を作成するということにはならないというふうに考えております。

8 裁判員裁判における尋問と供述調書に関する国会答弁

・ 40期の中村慎最高裁判所総務局長は,平成28年3月16日の衆議院法務委員会において以下の答弁をしています(ナンバリングを追加しています。)。
① 具体的にどの程度という数のところは把握しておりませんけれども、裁判員裁判におきましても、他の事件と同様に、逐語録を作成する必要があるものについては、録音反訳方式にするのか、速記録にするのかということを各裁判体において判断されているというふうに承知しているところでございます。
② 裁判員裁判におきましては、記憶が鮮明なうちに連日的な審理が進められるということから、速記録を含めた供述調書を用いて証人等の供述内容を確認するという必要性は低いものと考えています。
 速記官が尋問後即時に速記録を作成するということを御指摘になりましたけれども、そのような速記録を作成できるのは全ての速記官ということではございません。
 一方、尋問の終了後、訴訟当事者には、音声認識システムを用いて認識、録音いたしました音声データ及び文字データを提供しておりまして、いわばその文字データをインデックスとして利用することで、証人の供述等の検索をして確認できるような運用を行っているところでございます。

9 関連記事その他

(1) 以下の資料を掲載しています。
・ 広島高裁本庁の録音反訳方式の実施要領(令和元年9月最終改訂)
(2) 以下の記事も参照してください。
・ 裁判所速記官
 裁判所速記官の新規養成停止を決定した際の国会答弁
 地方裁判所において尋問調書の作成が省略される場合
 簡易裁判所においては尋問調書の作成が原則として省略されること
 裁判文書の文書管理に関する規程及び通達
・ 民事事件記録一般の閲覧・謄写手続


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