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判事補及び検事の弁護士職務経験制度

第1 制度の対象と開始までの手続

弁護士職務経験制度は,判事補と法律で定める検事が,一定期間その官を離れ,弁護士登録をして,受入先との雇用契約に基づき弁護士の職務を経験する制度である。
従事期間は2年以内であり,特に必要がある場合は,本人と受入先の同意を得て,弁護士職務経験を開始した日から引き続き3年を超えない範囲内で延長できる。
従事中は裁判所事務官又は法務省職員の身分を保有するが,その職務には従事せず,国から給与は支給されない。

1 判事補と検事の違い

判事補及び検事の弁護士職務経験に関する法律(平成16年法律第121号。以下「弁護士職務経験法」という。)は,判事補及び検事が弁護士としての職務を経験することを通じて,裁判官及び検察官としての能力及び資質の一層の向上並びにその職務の一層の充実を図ることを目的とする(1条)。

項目判事補検事
参加の対象判事補司法修習生の修習を終え,最初に検事に任命された日から10年を経過していない検事
参加の相当性を判断し,受入先と取決めをする者最高裁判所法務大臣
従事に伴い任命される官職裁判所事務官法務省(検察庁を除く。)に属する官職
職務経験終了時の任命に関する手続・措置(第6参照)判事補又は判事への任命に関し必要な手続検事への任命に関し必要な措置

最高裁判所は,平成16年6月23日の裁判官会議で「判事補の経験多様化に関する基本方針」を議決した。
同方針は,事件処理態勢の確保,適切な受入先の確保・拡充等の環境・条件を整備した上で,原則としてすべての判事補に,弁護士職務経験,行政機関・在外公館等での勤務,民間企業等への派遣又は海外留学等の多様な経験を積む機会を与えるとしている。
もっとも,個々の弁護士職務経験には本人の同意が必要である(弁護士職務経験法2条1項・4項)。

2 取決め・同意・雇用契約・登録

最高裁判所又は法務大臣は,弁護士職務経験の必要性,これに伴う事務の支障その他の事情を勘案して相当と認めるときに,受入先との取決めに基づき,期間を定めて,判事補又は検事に弁護士の職務を行わせることができる。
本人の同意を得るに当たっては,あらかじめ取決めの内容を本人に明示しなければならず,同意には,元の官を離れて裁判所事務官又は法務省の官職に任命されることについての同意も含まれる(弁護士職務経験法2条1項から6項まで)。
取決めの内容を変更しようとするときも,あらかじめ変更後の内容を明示した上で,本人の同意を得なければならない(同条8項)。

取決めをするのは最高裁判所又は法務大臣と受入先であり,雇用契約を結ぶのは本人と受入先である。
従事者は,取決めに定められた内容に従って受入先と雇用契約を締結し,弁護士法の定めるところにより弁護士登録を受け,その雇用契約に基づいて弁護士の業務に従事する(同法2条7項,4条1項)。
登録手続の概要は,弁護士登録の請求を参照されたい。

3 従事期間

従事期間は2年を超えることができない。
ただし,最高裁判所又は法務大臣が特に必要があると認めるときは,本人と受入先の同意を得て,弁護士職務経験を開始した日から引き続き3年を超えない範囲内で延長できる(弁護士職務経験法3条)。

第2 実施状況と判事補の名簿

1 検事の令和8年度の運用状況

法務省の「令和8年度における検事の弁護士職務経験制度の運用状況」によれば,検事の弁護士職務従事職員は8名である。

同資料が示す弁護士職務従事期間人数
令和7年4月1日から令和9年3月31日まで4名
令和8年4月1日から令和10年3月31日まで4名
合計8名

令和8年度に従事を開始したのは4名であり,残る4名は前年度に開始した者である。
同資料は,直前の所属検察庁として東京・横浜・名古屋の各地方検察庁を,受入先の所属する弁護士会として東京弁護士会,第一東京弁護士会及び大阪弁護士会を掲げている。

2 判事補の年度別資料

判事補の年度別の開始者名簿と受入法律事務所に関する資料は,弁護士職務経験判事補の名簿にまとめている。
開始者数,ある時点の従事者数及び制度開始以来の累計は,それぞれ集計の範囲が異なる。
過去の受入先を調べるときは名簿の年度を,現在の募集を調べるときは募集案内の対象年度を確認する必要がある。

第3 従事中の身分,給与及び退職手当

1 元の官を離れ,別の公務員の身分を保有する

判事補は,裁判所事務官に任命された時に判事補の官を失う。
検事は,法務省(検察庁を除く。)に属する官職に任命された時に検事の官を失う(弁護士職務経験法2条3項・6項)。
従事期間中は,裁判所事務官又は法務省職員としての身分を保有するが,その職務には従事しない(同法5条1項)。
判事補一般の官職,職権及び判事との違いは,判事補とはを参照されたい。

2 給与と勤務条件

従事期間中,弁護士職務従事職員には国から給与が支給されない(弁護士職務経験法5条2項)。
受入先での賃金その他の勤務条件は,取決めに従って本人と受入先との間で締結される雇用契約によって定まる(同法2条7項,4条1項)。

法務省と日本弁護士連合会の「検事の弁護士職務経験制度の運用に関する取りまとめ」(平成16年6月23日)の第6項は,日本弁護士連合会が,受入法律事務所に対し,受入法律事務所から支給を受ける給与等について「検事として受けるものと比べ,総体として遜色のない水準とするよう配慮を求める。」としていた。
これは当時の運用に関する協議の内容であり,各人に適用される給与額は個別の雇用条件によって確認する必要がある。

3 退職手当・共済

退職手当の勤続期間の計算については,弁護士職務従事期間を国家公務員退職手当法上の「現実に職務をとることを要しない期間」に当たらないものとみなす特例がある(弁護士職務経験法11条2項)。
ただし,受入先から所得税法30条1項の退職手当等(同法31条により退職手当等とみなされるものを含む。)の支払を受けた場合には,この特例は適用されない(弁護士職務経験法11条3項)。
個別の退職手当額の計算には,勤続期間のほか,適用される算定規定や退職時の事情の確認が必要である。

国家公務員共済組合法,子ども・子育て支援法及び一般職の職員の給与に関する法律の適用についても特例がある(弁護士職務経験法8条から10条まで)。
加入する保険や具体的な給付を確認する際は,関係法令と個別の勤務条件を確認する必要がある。

第4 受入先と担当できる事件

1 受入先の種類と事件の担当方法

受入先には,弁護士法人,弁護士・外国法事務弁護士共同法人及び弁護士の3種類がある(弁護士職務経験法2条7項)。
当事者その他関係人から依頼を受けて行う事務の担当方法は,受入先の種類によって異なる(同法4条2項)。

受入先原則となる担当方法
弁護士法人又は弁護士・外国法事務弁護士共同法人受入先の法人が当事者その他関係人から委託を受けた事務を行う
弁護士受入先の弁護士と共同して当事者その他関係人から依頼を受け,その事務を行う

受入先が個別に承認した事務については,雇用契約に基づいて,単独で当事者その他関係人から依頼を受けてその事務を行うことができる(同項ただし書)。
取決めや雇用契約を確認するときは,どのような事務について,どのように個別の承認をするかを区別しておく必要がある。

2 公務上取り扱った事件,地位の利用,報告と秘密

弁護士は,公務員として職務上取り扱った事件について,その職務を行ってはならない(弁護士法25条4号)。
また,弁護士職務従事職員は,弁護士の業務を行うに当たり,裁判所事務官若しくは法務省職員たる地位を利用し,又は判事補若しくは検事であったことによる影響力を利用してはならない(弁護士職務経験法6条1項)。

最高裁判所又は法務大臣は,必要があると認めるときは,弁護士職務従事職員に対し,受入先における勤務条件及び弁護士の業務への従事の状況について報告を求めることができる。
ただし,弁護士法23条に規定する職務上知り得た秘密に該当する事項は,報告の対象から除かれる(弁護士職務経験法6条3項)。
最高裁判所事務総長は,最高裁判所が通常は日常的な報告を求めず,弁護士職務従事職員又は受入先に関して問題が生じた場合に報告書の提出を求めると説明しており,最高裁判所の情報公開・個人情報保護審査委員会も,この説明が不合理とはいえないとしている(令和元年度(最情)答申第21号)。

第5 受入れを検討する際の確認事項

受入先と最高裁判所又は法務大臣との取決めには,雇用契約の締結,受入先における勤務条件,弁護士職務従事期間,弁護士職務経験の終了に関する事項その他所定の事項を定める(弁護士職務経験法2条7項)。
受入れを検討する際は,次の点を具体化しておくと,取決めの内容と日々の執務を照合しやすい。

① 雇用契約の内容(勤務場所,執務時間,賃金,休暇及び福利厚生)
② 担当する事務の内容,指導・共同担当の体制及び受任時の確認方法
③ 単独で受任できる事務と個別の承認の方法,秘密情報の取扱い
④ 従事期間と,満了又は途中終了の際の担当事件の引継ぎ

検事については,前記の平成16年の取りまとめが,日本弁護士連合会が受入れ可能な法律事務所を十分に確保するとし(第2項),検事が弁護士職務を開始する時期を原則として任官後3年半程度から5年半程度とする(第3項)としていた。
参加の法律上の要件は弁護士職務経験法1条・2条によって確認し,具体的な募集や日程は対象年度の案内によって確認する必要がある。

第6 職務経験の終了,登録取消し及び復帰

1 期間満了と途中終了

弁護士職務従事期間が満了したときは,弁護士職務経験は終了する(弁護士職務経験法7条1項)。
受入先との雇用契約上の地位を失った場合その他の最高裁判所規則又は法務省令で定める場合であって,最高裁判所又は法務大臣が弁護士職務経験を継続することができないか又は適当でないと認めるときは,速やかに弁護士職務経験を終了させなければならない(同条2項・3項)。

2 弁護士登録の取消しと任命

弁護士職務経験が終了するときは,従事者は,弁護士法の定めるところにより弁護士登録の取消しを受ける。
最高裁判所は判事補又は判事への任命に関し必要な手続をとり,法務大臣は検事への任命に関し必要な措置をとらなければならない。
ただし,任命を不相当と認めるべき事由があるときは,この限りでない(同条4項・5項)。

弁護士職務経験の終了後に判事補,判事又は検事に任命された場合の処遇については,他の判事補,判事又は検事との権衡上必要と認められる範囲内において,適切な配慮が加えられなければならない(同法12条)。

3 懲戒の手続に付された場合

懲戒の手続に付された弁護士は,その手続が結了するまで,登録換え又は登録取消しの請求をすることができない(弁護士法62条1項)。
弁護士会は,懲戒の請求があったとき等には,懲戒の手続に付し,綱紀委員会に事案の調査をさせなければならない(同法58条2項)。
懲戒の処分や懲戒しない旨の決定等には書面による通知の規定があり,懲戒請求者には所定の場合に日本弁護士連合会に異議を申し出る手続もある(同法64条,64条の6,64条の7)。

本人の請求に対する制限と,弁護士職務経験の終了時に予定される登録取消し及び任命に関する手続は,それぞれ根拠と判断の対象が異なる。
個別の取消しや任命の時期を判断するには,懲戒の手続がどの段階にあるか,どの手続が適用されるかを確認する必要がある。
取消事由と手続の一般論は,弁護士登録の取消しを参照されたい。

第7 よくある質問

1 本人が希望すれば参加できるか

本人の同意は必要である。
これに加え,最高裁判所又は法務大臣が相当と認めることと,受入先との取決めが必要となる(弁護士職務経験法2条)。

2 従事期間は何年か

従事期間の上限は2年である。
特に必要がある場合は,本人と受入先の同意を得て,開始した日から引き続き3年を超えない範囲内で延長できる(同法3条)。

3 給与はどこから支払われるか

従事期間中は,国から給与が支給されない(同法5条2項)。
受入先での賃金は,受入先との雇用契約で定まる(同法4条1項)。

4 一人で事件を受任できるか

受入先の法人が受託した事務を行うこと,又は受入先の弁護士と共同して受任することが原則である。
受入先が個別に承認した事務は,雇用契約に基づいて単独で受任できる(同法4条2項)。

5 期間が終われば元の職に戻るか

期間の満了だけで元の官に戻るわけではない。
弁護士職務経験法7条4項・5項は,終了時の弁護士登録の取消しと,判事補・判事又は検事への任命に関し必要な手続・措置を定めている。
任命を不相当と認めるべき事由があるときは,例外となる。

第8 資料と関連記事

1 法令・運用資料

① 判事補及び検事の弁護士職務経験に関する法律(e-Gov法令検索)
② 判事補の弁護士職務経験に関する規則(平成16年11月1日最高裁判所規則第19号)
③ 検事の弁護士職務経験制度について(法務省)
④ 令和8年度における検事の弁護士職務経験制度の運用状況(法務省)
⑤ 検事の弁護士職務経験に関する運用要領(平成16年11月19日,法務省・日本弁護士連合会)

2 制度の経緯と当時の運用

① 判事補の経験多様化に関する基本方針(平成16年6月23日裁判官会議議決)
② 検事の弁護士職務経験制度の運用に関する取りまとめ(平成16年6月23日,法務省・日本弁護士連合会)
③ 判事補の弁護士職務経験制度に関する取りまとめ(平成16年6月23日付)
④ 法曹制度検討会(第20回)議事概要(平成15年9月9日開催)
→ 検察官・裁判官の身分を離れて弁護士となった者が復帰した場合の,退職手当や共済関係等の面での適切な配慮が議題とされた。
⑤ 弁護士職務経験法の各省協議に関する資料
⑥ 弁護士職務経験法の国会答弁資料(衆議院)
⑦ 弁護士職務経験法の国会答弁資料(参議院)
⑧ 東弁リブラ2007年12月号の「特集 判事補からの弁護士職務経験者との懇談会」
⑨ 平成30年度(最情)答申第2号(平成30年4月20日答申)
→ 最高裁判所が日本弁護士連合会に対し判事補の弁護士職務経験について伝えた文書のうち,要望等が記載された部分の不開示の判断が妥当とされた。
⑩ 令和元年度(最情)答申第21号(令和元年6月21日答申)
→ 弁護士職務経験者から報告された内容が記載された文書について,存否を明らかにしない不開示の判断が妥当とされた。
⑪ 「職務経験判事補を受け入れた理由について」(筆者は受入事務所の弁護士武内優宏)

3 関連記事

① 弁護士職務経験判事補の名簿
② 判事補とは
③ 裁判官の種類
④ 弁護士登録の請求
⑤ 弁護士登録の取消し
⑥ 弁護士再登録時の費用
⑦ 弁護士登録番号と修習期の対応関係
⑧ 弁護士の懲戒事由
⑨ 弁護士任官者研究会の資料