判事補及び検事の弁護士職務経験制度


目次

1 総論
2 弁護士職務経験判事補の名簿
3 弁護士職務経験に従事している判事補又は検事の地位
4 弁護士職務経験と懲戒手続
5 関連記事その他

1 総論
(1) 判事補及び検事の弁護士職務経験に関する法律(平成16年6月18日法律第121号)(略称は「弁護士職務経験法」です。)に基づき,平成17年度から,任官10年以内の判事補及び検事の一部について,弁護士職務経験制度(他職経験制度)が実施されています。
(2)ア 首相官邸HPの「判事補及び検事の弁護士職務経験に関する法律の概要」で図示されています。
イ 日弁連HPの「基礎的な統計情報」における「弁護士の活動領域の拡大」において,判事補・検事の弁護士職務経験制度の状況が載っています。
ウ 日弁連は,法律事務所に対し,弁護士職務経験受入事務所への応募を呼びかけています(日弁連パンフ「判事補・検事の弁護士職務(他職)経験   受入事務所に応募しませんか」参照)。
(3)ア 弁護士職務経験判事補になる裁判官は通常,3月25日付で入会予定の弁護士会に対応する地裁の判事補(地「家」裁の判事補ではないです。)に異動しています。
イ 判事補の弁護士職務経験制度については,東弁リブラ2007年12月号に掲載されている「判事補からの弁護士職務経験者との懇談会」が参考になります。
(4) 法務省HPに「検事の弁護士職務経験制度について」が載っていますところ,例えば,以下の資料があります。
・ 検事の弁護士職務経験制度の 運用に関する取りまとめ(平成16年6月23日付)
・ 検事の弁護士職務経験制度に関する運用要領(平成16年11月19日付)

2 弁護士職務経験判事補の名簿

(1)ア 歴代の弁護士職務経験判事補の受入法律事務所の一覧表(平成17年度から平成30年度まで)を掲載しています。
イ 弁護士職務経験判事補名簿の元データは以下のとおりです。
(令和時代)
令和2年4月開始分令和3年4月開始分令和4年4月開始分令和5年4月開始分
令和6年4月開始分
(平成時代)
平成17年4月開始分平成18年4月開始分平成19年4月開始分平成20年4月開始分
平成21年4月開始分平成22年4月開始分平成23年4月開始分平成24年4月開始分
平成25年4月開始分平成26年4月開始分平成27年4月開始分平成28年4月開始分
平成29年4月開始分平成30年4月開始分平成31年4月開始分
* 「令和5年4月開始の,弁護士職務経験判事補名簿」といったファイル名です。
(2) 平成27年度(行情)答申第135号(平成27年6月17日答申)の12頁及び13頁によれば,検事の弁護士職務経験制度における派遣法律事務所の名称及び検事の外部派遣制度における検事の派遣先法人等の名称は,不開示情報に該当します。

3 弁護士職務経験に従事している判事補又は検事の地位

(1) 弁護士職務経験に従事している判事補又は検事の地位は以下のとおりです。
① 法的な身分は裁判所事務官又は検察事務官となります(弁護士職務経験法2条3項及び6項)。
② 2年間,弁護士職務に従事します(弁護士職務経験法3条)。
③ 勤務先の法律事務所と雇用契約を締結します(弁護士職務経験法4条1項)。
④ 2年間の弁護士職務従事期間中,勤務先の法律事務所から給料を支払われますが,国からは給料をもらえません(弁護士職務経験法5条2項)。
⑤ 弁護士職務従事期間中は,退職手当の計算において,裁判官又は検事の勤続期間に含まれます(弁護士職務経験法11条2項に基づき,勤続期間の計算から除外される国家公務員退職手当法6条の4第1項及び7条4項の「現実に職務をとることを要しない期間」には該当しないとみなされるため。)。
(2)ア 東弁リブラ2007年12月号「特集 判事補からの弁護士職務経験者との懇談会」には以下の記載があります(左下10頁)。
    弁護士登録をして通常の弁護士として活動することには特に制約はない。ただし,年金(共済)の関係などから,裁判所事務官,法務省職員としての身分も併有することになった。
    採用する事務所と職務経験者との間で雇用契約が締結されるので,給与は話し合いで決められるが,判事補や検事として得ていた給与と比べ,総体として遜色のない水準になるよう配慮される。
イ 判事補の弁護士職務経験制度に係る最高裁判所から日本弁護士連合会に対する要望等(例えば,職務経験判事補に支払うべき給料の水準)は,最高裁と日弁連との間の判事補の弁護士職務経験制度についての協議に係る事務に支障が生じるだけでなく,上記制度の円滑な運用が困難になるおそれがありますから,不開示情報です(平成30年度(最情)答申第2号(平成30年4月20日答申))。
(3) 令和元年度(最情)答申第21号(令和元年6月21日答申)における,「最高裁判所事務総長の説明の要旨」には以下の記載があります。
   弁護士職務従事職員は,専ら弁護士となってその職務を行うことが予定されており,裁判所事務官としての身分を保有するが,その職務に従事しないこととされていること(弁職法5条1項)から,最高裁判所は,通常,弁護士職務従事職員に対し弁護士職務経験に関する日常的な報告を求めることはなく,弁護士職務従事職員又は受入先弁護士法人等に関して問題が生じた場合に,弁護士職務従事職員の弁護士業務への従事状況(怠業を含む。)や受入先弁護士法人等における勤務条件(勤務時間,給与の支払状況)等に関して,弁職法に基づく報告書の提出を求めるものである。

4 弁護士職務経験と懲戒手続

(1) 懲戒の手続に付された弁護士は,その手続が終了するまでの間,登録換又は登録取消しの請求をすることができない(弁護士法62条1項)ところ,「懲戒の手続」には,綱紀委員会による事案の調査が含まれます(弁護士法58条2項参照)。
    そのため,弁護士職務経験の判事補又は検事が懲戒請求された場合,それが不当な懲戒請求であったとしても,懲戒手続が終了するまでの間,弁護士登録を抹消できないかもしれません。
(2) 懲戒の手続は,懲戒処分が行われる場合,対象弁護士に対して処分の告知があった時に終わり(弁護士法64条の6参照),懲戒処分が行われない場合,対象弁護士に対してその旨の通知があったときに終わります(弁護士法64条の7参照)。

5 関連記事その他

(1) 首相官邸HPの法曹制度検討会(第20回)議事概要(平成15年9月9日開催分)の主な議題は「検察官・裁判官の身分を離れて弁護士となった者が、検察官・裁判官に復帰した場合の、退職手当や共済関係等の面での適切な配慮」でした。
(2) noteの「職務経験判事補を受け入れた理由について」(筆者は弁護士武内優宏(法律事務所アルシエン)です。)には以下の記載があります。
理由④ 事務所の評判をあげる
4つ目の理由は、弁護士業界内でのアルシエンの評判をあげるという下心です。
私たち法律事務所アルシエンは60期が代表の事務所です。
受け入れに手を挙げた2016年当時、清水先生がネット上の誹謗中傷対策である程度有名になっていましたが、事務所全体としては「ああ若手の新興事務所ね。」というイメージだったと思います。
(中略)
職務経験判事補を受け入れているということは公表されていますし、山中理司先生のホームページにも掲載されます。
(3) 自由と正義2023年1月号54頁及び55頁に「判事補を弁護士職務経験者として受け入れて~三宅坂総合法律事務所訪問記」が載っていますところ,そこには,日弁連側の質問として以下の記載があります。
-日弁連としては多様な弁護士職務経験の受入事務所を確保しようと様々な努力をしているのですが、現在のところ判事補については毎年30前後の事務所からしか手が挙がらない状況なのです。
(中略)
-予定されている給与が高い、希望したからといって職務経験者が必ず来るわけではない、2年間しかいないといったところが理由と言われていますが
(4)ア 関連資料は以下のとおりです。
・ 判事補の弁護士職務経験制度に関する取りまとめ(平成16年6月23日付)
・ 弁護士職務経験法の各省協議に関する資料
・ 弁護士職務経験法の国会答弁資料(衆議院)
・ 弁護士職務経験法の国会答弁資料(参議院)
イ 関連記事は以下のとおりです。
・ 弁護士登録の請求
・ 弁護士登録の取消し
・ 弁護士登録番号と修習期の対応関係
・ 弁護士の懲戒事由
・ 裁判官の種類
→ 判事新任のタイミングについても説明しています。
・ 弁護士再登録時の費用
・ 弁護士任官者研究会の資料


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