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裁判官秘書官の職務・身分・人数及び制度の沿革(AIリライト)

第1 裁判官秘書官の種類及び法定数

1 最高裁判所の秘書官は15人である

裁判所法54条1項は,最高裁判所に最高裁判所長官秘書官1人及び最高裁判所判事秘書官14人を置くと定めている。最高裁判所の裁判官が長官1人及び判事14人で構成されることに対応し,それぞれの裁判官に秘書官が付く仕組みである。

2 高等裁判所長官秘書官は8人である

裁判所法56条の5第1項は,各高等裁判所に高等裁判所長官秘書官各1人を置くと定めている。高等裁判所は東京,大阪,名古屋,広島,福岡,仙台,札幌及び高松の8庁であるから,法定ポストは8人である。

したがって,裁判官秘書官の法定ポストは,最高裁判所関係15人と高等裁判所関係8人の合計23人である。令和8年度歳出概算要求書も,最高裁判所の秘書官15人及び下級裁判所の秘書官8人を既定定員として掲げている。

3 法定ポスト数と実際の任命者数は区別を要する

裁判所法が定める人数,予算書上の人数及び特定日に実際に任命されている人数は,同じ概念ではない。後記第5のとおり,昭和23年法律第260号によって法定ポストが23人となった後も任命は段階的に進み,長期間欠員であったポストが存在した。

もっとも,令和6年4月1日現在の裁判官秘書官名簿には,最高裁判所関係15人及び高等裁判所関係8人の合計23人が掲載されている。

第2 裁判官秘書官の職務

1 法定職務は「機密に関する事務」である

裁判所法54条2項は,最高裁判所長官秘書官及び最高裁判所判事秘書官が,それぞれ担当する裁判官の命を受けて「機密に関する事務を掌る」と定めている。裁判所法56条の5第2項も,高等裁判所長官秘書官について同じ構造を採るが,法律は機密事務の具体的内容を列挙していない。

制度創設時の昭和23年11月26日衆議院法務委員会では,最高裁判所側が,多数の事件及び司法行政上の裁判官会議を処理する裁判官のため,機密文書の整理・保存を信頼できる者へ任せる必要があると説明した。高等裁判所長官秘書官についても,長官の司法行政事務を身近で補助する必要があると説明されている。

2 日程・連絡・書類整理等の身近な執務補助を行う

昭和26年11月16日参議院法務委員会では,裁判官と外部との接触,事件処理及び司法行政を身近で補助し,事件書類・会議資料を整理することが説明された。昭和30年6月15日衆議院法務委員会でも,司法行政,外部との連絡,裁判関係書類の整理,参考書の編纂その他の身近な補助が必要であるとされた。

宇賀克也管見 最高裁判所』(有斐閣,2026年)108頁~111頁は,最高裁判所の秘書官が中堅の裁判所書記官から選ばれ,日程調整,メール,連絡及び諸準備を担い,裁判官が裁判業務へ集中できるよう支援すること,原則3年勤務であるものの裁判官の就任・退任と交代が重ならないよう調整されることを記している。これらは最高裁判所判事在任中の経験に基づく記述であり,法令上の一律の任用要件又は任期ではない。

3 裁判判断そのものには関与しない

制度創設時には,秘書官が調査官のように裁判内容へ関与するのではないかという懸念が国会で示された。これに対し,最高裁判所側は,昭和23年11月19日参議院法務委員会及び同年12月9日参議院法務委員会において,実体的な法的調査は調査官が担い,秘書官は裁判に直接関与せず,連絡,裁判官会議資料の回付その他の機械的・事務的補助を行う制度であると説明した。

したがって,秘書官が事件書類や会議資料を取り扱うことと,裁判判断の形成へ関与することは区別しなければならない。公開資料から確認できる職務像は,担当裁判官の至近で機密性の高い事務及び執務環境を支えるものであり,裁判権を行使するものではない。

第3 裁判所調査官及び裁判所書記官との違い

1 裁判所調査官は審理・裁判に必要な調査を行う

裁判所法57条は,裁判所調査官が裁判官の命を受け,事件の審理及び裁判に必要な調査その他法律で定める事務を掌ると定めている。最高裁判所では民事,行政及び刑事の各分野の調査官が事件の法的・実体的調査を行うため,この機能は秘書官の機密事務・身辺的執務補助とは異なる。

2 裁判所書記官は事件記録及び手続事務を担う

裁判所法60条及び裁判所の裁判所書記官の説明によれば,裁判所書記官は,裁判手続に関する記録等の作成・保管,手続法が定める事務及び裁判官が行う法令・判例調査の補助等を担う。宇賀克也『管見 最高裁判所』122頁も,当事者・代理人との事件上の連絡は書記官が担うと記している。

3 三つの官職は支援対象と法的機能が異なる

裁判官秘書官は機密事務,裁判所調査官は審理・裁判に必要な専門的調査,裁判所書記官は事件記録・手続事務を中心とする。実際の裁判所内部では相互に連絡しながら裁判官を支えるが,法律上の根拠及び担当機能を入れ替えて理解することはできない。

第4 特別職としての身分及び勤務条件

1 一般職裁判所職員向けの包括的準用から外れる

裁判所職員臨時措置法は,国家公務員法等を準用する対象を「裁判官及び裁判官の秘書官以外の裁判所職員」としている。裁判官秘書官は特別職であり,裁判所の一般職職員に対する採用試験,任免,給与,人事評価,分限,懲戒,服務等の包括的な準用枠組みから除外される特殊な官職である。

2 給与は特別職給与法による

特別職の職員の給与に関する法律1条44号及び別表第3は,裁判官秘書官を同法の「秘書官」に含め,号俸別の俸給月額を定めている。また,同法施行令4条は,本府省業務調整手当の対象となる秘書官の業務から高等裁判所長官秘書官を除いており,最高裁判所関係の秘書官と高等裁判所長官秘書官では手当上の取扱いが同一ではない。

3 休暇,保健及び安全保持には個別規程がある

裁判官及び裁判官の秘書官の年次休暇等に関する規程は,年次休暇,病気休暇及び特別休暇について,裁判官等以外の裁判所職員の例によると定めている。裁判官及び裁判官の秘書官の保健及び安全保持に関する規程も,職務の性質に反しない限り,裁判官等以外の裁判所職員の例によると定めている。

4 懲戒に関する公開資料上の状況

令和8年3月9日付令和7年度(最情)答申第72号は,裁判官秘書官の懲戒に関する事項を明示的に定めた法令は見当たらず,裁判官及び裁判官秘書官の懲戒処分について規則,要綱,要領,通知及び通達等が定められているとは認められないとした。

もっとも,この答申は,情報公開手続において対象文書を特定できるかを判断したものである。裁判官秘書官に対する懲戒の法的可能性一般を否定した最終的な法解釈として扱うべきではない。

第5 制度の沿革と実配置

1 裁判所法施行時は長官秘書官1人だけであった

昭和22年5月3日に施行された制定時の裁判所法54条が置いたのは,最高裁判所長官秘書官1人だけであった。最高裁判所判事秘書官及び高等裁判所長官秘書官は,制定時には法定されていなかった。

2 昭和23年法律第260号が法定ポストを23人にした

昭和23年法律第260号は,最高裁判所判事秘書官14人及び各高等裁判所長官秘書官各1人を新設した。同法は昭和23年12月21日に公布され,昭和24年1月1日に施行されたため,この時点で法定ポストは合計23人となった。

3 実際の任命は法改正後も段階的に進んだ

昭和24年5月18日参議院法務委員会では,任命済みの秘書官は最高裁判所長官秘書官だけであり,他の最高裁判所判事秘書官は庁舎の部屋不足のため未任命であると説明された。昭和26年11月16日参議院法務委員会でも,実際に置かれているのは最高裁判所裁判官の秘書官だけであると説明されている。

したがって,「昭和24年以降,裁判官秘書官が一貫して23人配置されていた」とする理解は正確でない。昭和24年1月1日は法定ポストが23人となった日であり,実任命が直ちに23人へ達した日ではない。

4 高裁長官秘書官の配置はさらに遅れた

昭和43年3月12日衆議院法務委員会では,最高裁判所関係の秘書官15人が充足している一方,高等裁判所長官秘書官8ポストは制度創設以来全て欠員であると説明された。特別職であること,長官との個人的信頼関係を要すること,高裁長官の在任期間が短いこと及び適任者確保の困難が理由として挙げられ,欠員中は秘書係が業務を担っていた。

昭和44年3月11日衆議院法務委員会でも欠員解消が検討課題とされ,昭和47年11月6日衆議院内閣委員会では,寒冷地所在の高等裁判所長官秘書官が「このほど発令された」ことに伴う寒冷地手当の改正が説明された。少なくとも昭和47年には高裁長官秘書官の実配置が始まっていたことが分かるが,この会議録だけから同年に8ポスト全てが充足したとまではいえない。

第6 公開名簿及び情報公開資料

1 裁判官秘書官名簿

公開されている名簿は次のとおりである。令和6年4月1日現在の名簿は23人全員を掲載するが,令和7年又は令和8年の特定日現在の23人全員を収載した名簿は,公開ウェブ上で確認できなかった。

① 平成31年3月20日作成の名簿

② 令和2年4月1日現在の名簿

③ 令和3年4月1日現在の名簿

④ 令和4年4月1日現在の名簿

⑤ 令和5年4月1日現在の名簿

⑥ 令和6年4月1日現在の名簿

2 近年の個別異動

令和7年4月15日付裁判所時報第1860号同年8月15日付同第1868号及び令和8年4月15日付同第1884号には,最高裁判所判事秘書官の個別異動が掲載されている。これらは近年も任命・異動が行われていることを示すが,各号だけで特定日現在の全員を確定することはできない。

3 情報公開資料から分かる職務と文書管理

最高裁判所は,平成30年9月5日付司法行政文書不開示通知書において,新任の最高裁判所判事秘書官へ職務内容を説明する際に使用している文書として開示を求められた対象文書を保有していないとして,不開示とした。この通知だけから,口頭説明,別名称の資料又は後日作成された資料まで存在しないと断定することはできない。

平成28年度(最情)答申第19号は,最高裁判所判事付秘書官が視察資料を受領することはあり得るが,判事へ直ちに渡すためであり,秘書官自身は保有しないとの説明を合理的とした。また,平成28年度(情)答申第8号は,広島高等裁判所長官が長官秘書官を含む各職員から必要に応じて説明を受けて執務していたと記載している。

広島高等裁判所人事課の標準文書保存期間基準は,「高等裁判所長官秘書官の人事評価」を保存期間5年の文書として掲げている。これは,高等裁判所長官秘書官が現行の人事評価及び文書管理実務上も扱われていることを示す。

4 関連資料及び関連記事

① 裁判官及び裁判官の秘書官の年次休暇等に関する規程

② 裁判所職員の予算定員の推移

③ 裁判所職員に関する記事の一覧

出典・参考資料

1 法令

① 裁判所法(昭和22年法律第59号)54条,56条の5,57条及び60条(e-Gov法令検索)

② 裁判所職員臨時措置法(昭和26年法律第299号)(e-Gov法令検索)

③ 特別職の職員の給与に関する法律(昭和24年法律第252号)1条44号及び別表第3(e-Gov法令検索)

④ 特別職の職員の給与に関する法律施行令(平成2年政令第366号)4条(e-Gov法令検索)

2 制定法及び国会会議録

① 昭和23年法律第260号(衆議院制定法律情報)

② 第3回国会参議院法務委員会第7号(昭和23年11月19日)

③ 第3回国会衆議院法務委員会第9号(昭和23年11月26日)

④ 第4回国会参議院法務委員会第3号(昭和23年12月9日)

⑤ 第5回国会参議院法務委員会第16号(昭和24年5月18日)

⑥ 第12回国会参議院法務委員会第4号(昭和26年11月16日)

⑦ 第22回国会衆議院法務委員会第20号(昭和30年6月15日)

⑧ 第58回国会衆議院法務委員会第7号(昭和43年3月12日)

⑨ 第61回国会衆議院法務委員会第6号(昭和44年3月11日)

⑩ 第70回国会衆議院内閣委員会第1号(昭和47年11月6日)

3 裁判所公表資料

① 令和8年度歳出概算要求書

② 裁判官及び裁判官の秘書官の年次休暇等に関する規程

③ 裁判官及び裁判官の秘書官の保健及び安全保持に関する規程

④ 令和7年度(最情)答申第72号

⑤ 平成28年度(最情)答申第19号及び平成28年度(情)答申第8号

4 文献

① 宇賀克也管見 最高裁判所』(有斐閣,2026年)30頁~31頁・108頁~111頁・122頁・128頁