裁判所が考えるところの,人証に基づく心証形成

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  以下の記述は,①月刊大阪弁護士会平成23年10月号27頁ないし30頁,及び②阪地裁と大阪弁護士会の,平成27年2月2日開催の第72回民事裁判改善に関する懇談会議事録に書いてある,裁判官の発言をほぼ抜粋したものです。
 
1 総論
○弁論準備の終結段階で形成された心証が,尋問によって覆るという割合はそれほど多くはない。尋問前に心証が固まっている場合には,目的を持って証人尋問で検証している。
   客観的な証拠が乏しく,どちらのストーリーも成り立ちうるような場合は,どちらがより整合性があるかなどを考えて心証を確立させる場合が多い。
○目的意識が明確で簡にして要を得たものや,不利な点や矛盾点など相手方が指摘しそうな部分も意識的にカバーするような尋問が良い尋問であり,逆に,悪い尋問としては,陳述書をなぞるだけの尋問や意見を押しつける尋問,感情的になったり,証人を刺激したりするような尋問が挙げられる。
○証人の証言態度や口癖は基本的には心証形成にさほど影響しない。
   誠実に答えない場合は信用性に影響を及ぼす場合があり,逆に不利益事実も認めた上で証言すると全体として信用性が高まるという意見があった。
 
2 主尋問
(1) 総論
○大阪地裁では,主尋問を陳述書に譲って5分とする運用はしていない。
○具体的な事実をきちんと聞くと印象が強い。
   逆に,印鑑の管理が問題になっているのに,誰が管理していましたということだけ聞いて具体的にどこでどのように管理していたかということを聞かないと印象が良くない。
○表面的に流れているだけの質問では駄目で,きちんと裁判官が絵を描けるような質問が良く,リアルさに欠ける質問は適切ではない。
   主尋問で機械的に答えていたのに反対尋問で急に自分の言葉に変わるという場合,心証は良くない。本人の言葉で答えていることが大事である。
○証人や本人が直接体験していることを語ることが大前提であるから,そのリアリティーが浮かび上がってくるかどうかがポイントになってくる。
○実質的に争いのない点や争点に関係のない点に時間をかける主尋問はよくない。
   争点とは関係ないものの話しておきたいことがあれば,一番最後に「裁判所にいっておきたいことはありますか」という形で要約して伝えてもらえればよいのではないか。

(2) 主尋問における誘導
○陳述書に書いてあっても肝心なところは誘導せずに本人に話してもらいたい。
   裁判官は本人がどのように言うのかを見ているので,誘導して良い部分との区別が重要である。
○争点にかかわる部分に対する答えが「はい」「いいえ」のみの誘導が過ぎる尋問は悪い主尋問である。
○裁判所は,主尋問において,弱いと思っているところを本人がどのように説明するのかを見ているので,そういうところを誘導されると心証がとれないので止めてもらいたい。
 
(3) 陳述書との関係
○争点について具体的に証人の口から語らせるというところを一番重視しなければならない。
   陳述書をなぞるだけのメリハリのない尋問は,聞いていて効果がない。
○陳述書はきれいにまとまっていることが多いので,証人の認識等について,具体的に証人自身の言葉で聞くと迫真性が違う。
○証人が陳述書でも出ていない重要な間接事実について突然証言し出したような場合,争点に関係しないと言い切れるかどうかは疑問で,裁判所が尋問を止めることは難しい。
   ただし,その話がなぜこの段階で出るかについては非常に疑問を持つから,その理由を反対尋問で聞いてもらうのが良いのではないか。

(4) 文書等を示しての尋問
○高裁での経験からいうと,尋問は簡潔に要点を抜き出して,必要な書証に触れながら自分の言葉で語っているものが絶対良い。
   だらだらした調書を読まされることは非常に不評であり,簡にして要を得たものが一番理想だと思う。
○民事訴訟規則102条の「相当期間前」は尋問期日前の1,2週間前との理解であり,その期間は概ね遵守されている。
○尋問で示す証拠が尋問直前又は当日に提出された場合,相手方の意見を聞いた上で,事案の内容や証拠の重要性に応じて考える。
   期日の続行もあり得るし,弾劾証拠としてのみ使用を許したり,尋問で示すことを制限したり,時機に後れた攻撃防御方法として却下することもあり得る。
   例は少ないが,尋問期日が変更されたこともあるようである。
  
3 反対尋問
(1) 総論
○良い反対尋問は,淡々と事実や認識を証言させ,その中で客観的事実や主尋問との矛盾点や不合理な変遷を浮かび上がらせる尋問,記憶の内容や根拠が曖昧であることが明らかになるような尋問である。
○悪い反対尋問は,威圧的な尋問,侮辱的な尋問,些細な記憶違いをとらえて糾弾する尋問,意見や主張を押しつける尋問,無理に誘導する尋問,主尋問の上塗りの尋問である。
○反対尋問において客観的証拠との矛盾を指摘することは意味があるものの,矛盾を認めさせたり,証言を変えさせたりする必要はない。
   踏み込みすぎると,かえって弁解されたり,合理的な理由が出てきたりして逆効果となる。
○客観的な事実との矛盾を浮かび上がらせる尋問が効果的である。「このとき会いましたよね。」「いや,会っていません」というように主尋問を固めていくものは余り意味がない。
   証言と矛盾する物を示しながら,矛盾を浮かび上がらせられると良いのではないか。反対尋問で,証言の弱いところがよく分かったり,記憶の曖昧さが鮮明になったこともある。
○客観的証拠との矛盾を反対尋問で指摘する意味について,最終準備書面での指摘でもかまわないが,敗訴する側に譲歩させた和解に持って行くときに,尋問で指摘してもらっていると,それを前提に和解ができるという意味では非常にありがたい。
   自分としてはやっていただいた方が良い。
○最終準備書面における指摘で足りるということもあるが,最終準備書面は参考程度に拝見するということもあるので,尋問時間との関係もあるものの,ある程度尋問で指摘してもらった方がよい。
  
(2) 弾劾証拠
○尋問時に弾劾証拠が提出される例は多くないが,証人等の供述と矛盾する客観的事実を裏付けるような証拠(例えば,後遺症の程度と矛盾する画像,不貞の事件でホテルに入っていく写真,主張や供述と矛盾する証人自らの言動を示す文書)は効果的である。
   ただし,弾劾証拠といっても本体の証拠でもあることが多く,争点整理段階で出してもらえれば,争点や人証を絞り込めたり,和解の可能性も高まったと思われることが多い。
○弾劾証拠として機能しない証拠が出されることもある。
   録音反訳が出されることもあるが,尋問の場で反訳の正確性を検証できないから,事前に出しておくべきという意見が複数ある。
○その場で証人が内容を確認して反論できてしかるべきもの,例えば,鮮明な写真,証人自身が作成した手紙やメモで内容が完結しており,その場で見てどういうものかが誰でも分かるものであれば,尋問の際に弾劾証拠で出されても問題はない。
   しかし,内容をその場で見て確認できないものや反論の機会を後日改めて与えなければならないようなもの,例えば,録音反訳書,長いメールで一部だけ取り出してきてもやりとりの全体が分からないもの,第三者が作成したものについては,時間をとって内容を確認してもらう必要があるので,場合によっては尋問期日を続行したり,争点整理をやり直したりということにもなりかねない。
   期日を重ねて反論させるようなものであれば,尋問前に出してもらった方が良かったのではないかと思うし,尋問前に出してもらっていれば和解できたのではないかという事案もある。
   事案にもより一概に言えないが,内容に応じた適時の提出を心がけていただきたい。
○弾劾証拠をどのタイミングで提出するのかについては,弁護士の戦略と思うが,事前に提出すると弁解されて効果がなくなってしまうようなものについては,本当に弾劾証拠として意味があるのか。
   弾劾証拠というのは,その場でぎゃふんといわせるというか,弁解ができないようなものが良いのではないか。前後の文脈を見なければ分からないものはふさわしくない。
○録音した会話の証拠の価値については,裁判所と弁護士との間で若干認識のずれがある。
   発言の意味については,文脈や会話の流れの中で評価する必要がある。今証言した内容とその会話に出てきた内容との間に矛盾があることによって直ちに弾劾になるかといわれるとそうではなく,発言の趣旨を吟味した上で,弾劾証拠としての意味があるかについて判断していくことにある。
 
(3) 反対尋問で質問しないことの意味
○陳述書に重要な事実が書いてあるのに主尋問で聞かなかった場合に反対尋問しないことの印象について,反対尋問できないのだと思ってしまうという意見が多い。
○主尋問で陳述書に記載されている重要な事実を聞かなかった場合に,相手方がその事実に対して反対尋問を行わないときに,裁判所としてどういう印象をうけるかについては,ケース・バイ・ケースだと思う。
   主尋問で聞かなかった重要な事実について反対尋問を行わない場合には,そもそもその事実を立証できていないということになることもあるとは思うが,自分の印象ではむしろ逆にとらえてしまうことが多いように思う。
   反対尋問で聞かないということは,その事実は当然の前提として認めていると受け取ったり,反対尋問をしても効果が見込めないからしないと受け取ることの方が多いように思う。弁論の全趣旨で認定しても良いのだなと考える場合もある。
   したがって,争うのであれば,反対尋問はした方が良いと思う。
○反対尋問で聞かなければいけないと思っている事実については,主尋問で出てこなくても,反対尋問すべきだと思う。
○陳述書だけで事実を認定しない一番大きな理由は,反対尋問の機会が与えられておらず,弾劾を経ていないからであるが,陳述書が出され,重要な事実についての記載があり,反対尋問の機会が与えられているときに,反対尋問がされていないということになると,やはりそこは真剣に争っていないのかなという心証を抱く場合もあり得る。
   もっとも,主尋問でも触れられていないということで,その分,証明力としては弱いということは否定できないところではある。
○主尋問で触れられなかった重要な事実について,何でもかんでも反対尋問しておいた方がいいことになるのかといえば,逆効果な場合もあり得る。
   主尋問で触れられないことで,立証できていないとなりそうであったにもかかわらず,反対尋問で聞いて固めてしまうこともあり得ないわけではない。
   
4 介入尋問
○介入尋問は,身振りや手振り,「あれ,それ,そこ」といった表現,その他調書に残らない場合の確認のために行う。
○介入尋問は,証言の趣旨が不明確,質問を理解できていない,質問と答えがかみ合っていない,議論になった場合にも行う。

* 以下の記事も参照してください。
・ 処分証書と報告文書の違い,及び二段の推定
・ 陳述書の機能及び裁判官の心証形成
・ 通常は信用性を有する私文書と陳述書との違い

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