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出向経験のある判事補が判事になるタイミング(AIリライト)

第1 結論

出向経験のある判事補が判事になる時期は,1本の「10年」の時計だけでは決まらない。
①裁判所法42条による判事の任命資格を取得する時期と,②最高裁判所の指名及び内閣の任命を経て実際に判事になる時期を分けて考える必要がある。

判事補,簡易裁判所判事,検察官又は弁護士としての在職期間は,裁判所法42条1項により通算され,その合計が10年以上になれば判事の任命資格を取得する。
これらの在職期間を直接通算する規定は同条1項であり,同条2項ではない。

もっとも,10年の通算要件を満たしただけで自動的に判事になるわけではない。
出向中の正式な身分,復帰日,判事の任命資格を取得する日及び指名手続の日程によっては,いったん判事補として復帰し,後に判事へ任命されることもある。

第2 4つの時点を区別する

1 判事補の任期

裁判所法40条3項は,簡易裁判所判事を除く下級裁判所裁判官の任期を「その官に任命された日から十年」としている。
判事補として連続して在職する通常の経歴であれば,最初の判事補任命日から10年で判事補の任期が満了する。

これに対し,検事への転官又は弁護士職務経験のために判事補の官を失い,復帰時に改めて判事補に任命された場合,新たな判事補の任期は復帰時の任命日から進行する。
この任期の計算は,次に述べる判事の任命資格のための在職期間の通算とは別問題である。

2 判事の任命資格

裁判所法42条1項は,判事補,簡易裁判所判事,検察官,弁護士等の職にあった年数を通算し,その期間が10年以上である者に判事の任命資格を認めている。
例えば,判事補5年,検事2年,復帰後の判事補3年という経歴であれば,同項による通算期間は10年となる。

同条2項は,1項各号所定の職に3年以上在職した者について,裁判所事務官,法務事務官又は法務教官としての在職期間を1項各号所定の職の在職期間とみなす特則である。
したがって,検事又は弁護士としての期間を通算する根拠と,法務事務官等としての期間を通算する根拠を混同してはならない。

3 特例判事補として職権を行使できる時期

判事補の職権の特例等に関する法律1条は,裁判所法42条所定の職に通算5年以上在職し,最高裁判所の指名を受けた判事補について,判事の職権を行わせることができると定めている。

この「5年」は,判事の任命資格に必要な「10年」とは別の基準である。
特例判事補になっても官名は判事補のままであり,判事に任命されたことにはならない。

4 実際に判事へ任命される日

裁判所法40条1項により,下級裁判所裁判官は,最高裁判所の指名した者の名簿によって内閣が任命する。
現在は,判事補から判事への任命候補者及び出向からの復帰候補者について,下級裁判所裁判官指名諮問委員会が指名の適否を審議している。

判事補として10年を経過した者が判事になることは,実務上「再任」と呼ばれることがある。
しかし,最高裁判所長官代理者は,昭和46年3月25日の参議院法務委員会で,法的には判事への新任である旨を説明している。

第3 外部経験中の身分で通算の有無が決まる

1 最高裁判所の説明資料による区分

最高裁判所作成の「判事補の外部経験の概要について」(令和4年9月頃の文書)と現行法を対応させると,主な外部経験は次のとおりである。

外部経験資料に記載された身分判事の任命資格への算入主な根拠
行政機関への出向検事及び出向先機関の職員算入される裁判所法42条1項
訟務検事又は法務省勤務検事算入される裁判所法42条1項
弁護士職務経験裁判所事務官の身分を保有しつつ弁護士として職務を行う弁護士としての期間は算入される裁判所法42条1項及び弁護士職務経験法
民間企業研修判事補算入される裁判所法42条1項
海外留学判事補算入される裁判所法42条1項
在外公館勤務外務事務官資料上は算入されない裁判所法42条所定の身分ではないため
海外での法整備支援検事及び国際協力機構職員算入される裁判所法42条1項
衆議院又は参議院の法制局参事等法制局参事等条件を満たせば算入される特例法3条の3及び裁判所法42条2項
国立国会図書館勤務国立国会図書館参事資料上は算入されない裁判所法42条所定の身分ではないため
預金保険機構勤務預金保険機構職員資料上は算入されない裁判所法42条所定の身分ではないため

したがって,「出向であるから算入される」又は「裁判所を離れたから算入されない」と一律に判断することはできない。
出向先の名称ではなく,その期間にどの官職又は資格を有していたかが基準となる。

2 弁護士職務経験中の身分

判事補及び検事の弁護士職務経験に関する法律2条3項によれば,最高裁判所は,弁護士職務経験をする判事補を裁判所事務官に任命し,その者は判事補の官を失う。
同法4条及び5条によれば,その者は弁護士登録をして弁護士の職務を行う一方,裁判所事務官の身分を保有するが,その職務を行わず,給与を受けない。

弁護士としての在職期間は裁判所法42条1項によって直接通算される。
また,同法7条4項は,職務経験の終了時に,欠格事由等がない限り,最高裁判所が判事補又は判事への任命に必要な措置をとるものとしている。

3 個別の経歴を確認するときの注意

最高裁判所の説明資料は制度の標準的な身分関係を示すものである。
特定の裁判官について通算日を確定する場合は,任免発令,官報,裁判官人事情報その他の資料により,対象期間の正式な身分と開始日及び終了日を確認する必要がある。

特に,法制局参事等は,特例法3条の3によって法務事務官としての在職とみなされるが,裁判所法42条2項を適用するには,その前提となる同条1項各号所定の職への3年以上の在職が必要である。
勤務先の名称だけを見て「同期と同じ時期に判事になる」と断定することはできない。

第4 復帰日に判事か判事補かが分かれる

1 出向からの復帰候補者の審査

出向からの復帰は,裁判官の単なる異動ではなく,出向中に判事補の官を失っている場合には,新たな裁判官任命を伴う。
下級裁判所裁判官指名諮問委員会第1回資料でも,判事補採用願,判事任命願及び判事の再任希望調査表は別の書式として示されている。

復帰時に裁判所法42条の10年要件を満たしていれば判事として指名され得る。
復帰時には10年に達していなければ,判事補として復帰し,その後に任命資格を取得して判事へ任命されることがある。

2 平成21年及び令和7年の公表例

第37回下級裁判所裁判官指名諮問委員会議事要旨によれば,平成21年4月の出向からの復帰候補者10人のうち,3人は判事補として,7人は判事として指名することが適当であると答申された。
別の6人は出向期間が3年以下であったため復帰候補者としての諮問対象ではなかったが,同年4月に判事の任命資格を取得することから,全員について判事として指名することが適当であると答申された。

第118回同委員会議事要旨によれば,令和7年4月期の復帰候補者13人は,いずれも判事又は判事補に任命されるべき者として指名することが適当であると答申された。
同じ議事要旨には,令和7年4月に判事補として復帰し,令和8年1月に判事の任命資格を取得する予定の者も記載されている。

これらの公表例は,復帰者が一律に判事となるわけではないことと,復帰日と判事の任命資格取得日が異なる場合があることを具体的に示している。

第5 今崎幸彦裁判官の経歴から分かること

1 確認できる発令

今崎幸彦裁判官(35期)の経歴及び新日本法規の裁判官情報によれば,主要な発令は,次のとおりである。
①昭和58年4月12日 東京地裁判事補
②昭和63年4月1日 検事
③平成3年5月16日 京都簡裁判事兼京都地裁判事補
④平成6年4月1日 東京簡裁判事兼東京地裁判事補
⑤平成7年5月27日 東京地裁判事

最初の判事補任命日から暦日で10年を超えた後に判事へ任命されており,「最初の判事補任命日から10年後に必ず判事になる」という説明では処理できない経歴である。

2 この経歴を評価する限界

検事及び簡易裁判所判事としての在職期間は,裁判所法42条1項の通算対象である。
他方,在外公館その他の勤務期間を通算できるかは,その期間の正式な発令上の身分によって決まる。

このため,個々の期間の算入可否を発令原本で確認しないまま,判事への任命が遅れた日数を特定の出向期間と一致させて断定することは避けるべきである。
この事例から確実に分かるのは,暦日上の10年,裁判所法42条の通算10年及び実際の判事任命日を分けて確認する必要があるという点である。

第6 関連裁判例

1 出向期間の通算を直接判断した裁判例

裁判所HPの裁判例検索及び法務省の訟務重要判例集データベースで,裁判所法42条による出向期間の通算を直接判断した裁判例は確認できなかった。
もっとも,裁判所HPには全ての裁判例が掲載されているわけではないため,この検索結果は,そのような裁判例が存在しないことを意味しない。

2 任命資格と指名を区別した裁判例

大阪地裁平成12年5月26日判決・平成7年(ワ)第4379号・訟務月報46巻12号4217頁は,判事補候補者の指名が最高裁判所の広範な裁量に委ねられるとした。
同判決は,重要な事実の誤認,思想・信条等の憲法上許容されない理由又は判断の明白な不合理がある場合には,裁量権の逸脱又は濫用として違法となり得るとした上で,請求を棄却した。

大阪高裁平成15年10月10日判決・平成12年(ネ)第2366号・訟務月報50巻5号1482頁も,指名について法令上は任命資格及び欠格事由のほかに具体的な規定がなく,司法権の独立の保障と人の評価を伴う指名の性質から,最高裁判所に広範な裁量があるとした。
同判決は,原判決と同様に裁量権の逸脱又は濫用を否定し,控訴を棄却した。

両判決は裁判所HP未掲載であるが,法務省の訟務重要判例集データベースで判決本文を確認した。
また,両判決は司法修習修了者の判事補指名を扱ったものであり,出向期間の通算又は判事への任命時期を直接判断したものではない。

3 大阪高裁判決が参照した最高裁決定

大阪高裁平成15年10月10日判決は,裁判官に外見上も中立及び公正を害することがないよう自律が求められることに関して,最高裁平成10年12月1日大法廷決定・平成10年(分ク)第1号・民集52巻9号1761頁を参照している。

もっとも,この最高裁決定は,裁判官の積極的な政治運動に関する分限事件である。
判事の任命資格又は出向経験後の任命時期を判示した裁判例ではなく,指名において考慮される裁判官の中立及び公正という観点の背景判例にとどまる。

第7 出典

1 法令
e-Gov法令検索・裁判所法
e-Gov法令検索・判事補の職権の特例等に関する法律
e-Gov法令検索・判事補及び検事の弁護士職務経験に関する法律

2 裁判所及び国会の資料
下級裁判所裁判官指名諮問委員会第1回資料
同委員会第37回議事要旨
同委員会第118回議事要旨
第65回国会参議院法務委員会第6号・昭和46年3月25日
⑤最高裁判所作成「判事補の外部経験の概要について」(令和4年9月頃の文書)

3 裁判例
①大阪地裁平成12年5月26日判決・平成7年(ワ)第4379号・訟務月報46巻12号4217頁(法務省・訟務重要判例集データベース)
②大阪高裁平成15年10月10日判決・平成12年(ネ)第2366号・訟務月報50巻5号1482頁(法務省・訟務重要判例集データベース)
最高裁平成10年12月1日大法廷決定・平成10年(分ク)第1号・民集52巻9号1761頁

4 書籍
①西川伸一『日本の裁判所―司法行政の歴史的研究』(晃洋書房,2016年)134頁~138頁,222頁~229頁
②西川伸一『増補改訂版 裁判官幹部人事の研究―「経歴的資源」を手がかりとして』(五月書房新社,2020年)174頁~178頁
③山田隆司『裁判官になるには』(ぺりかん社,2021年)127頁~129頁
④瀬木比呂志『裁判官の仕事がわかる本』(法学書院,2011年)10頁~11頁