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法律事務所で生成AI活用が進まないとき―原因の見分け方と4週間の試行(AI作成)

第1 使われない理由を業務の流れから見分ける

直近の対象業務を担当した弁護士と職員に,どの工程まで進めたかを聞く。
たとえば資料一覧を作るとき,対象業務に気付いたか,どの資料を入力できるか判断できたか,結果を原資料と照合できたか,困ったときに誰から答えを得られたかをたどる。

確認する点担当者への問い試行前に決めること
目的と短縮時間の配分何を改善すると自分の担当業務が楽になるか減らす手戻りと,浮いた時間を回す仕事
業務指示と監督どの資料,サービス,操作が許されるか入力の範囲,確認する項目,弁護士へ戻す条件
練習と確認通常業務のどこを減らせば練習とレビューの時間が取れるか業務時間内の練習枠,確認者の予定
利用環境と費用待ち時間,利用上限,端末の遅さのうち何で止まるか事務所の許可条件と,実機で比較する項目
質問と事故対応答えに迷うとき,利用を止めて誰に聞けるか内部の窓口,代理者,外部に聞ける範囲

効率化の利益を経営側と現場が同じように見ているとは限らない。
同じ仕事を短く終えた結果として追加業務ばかりが増えると,改善を報告する動機が弱くなることがある。
試行の前に,短縮できた時間を未処理業務の解消,資料の確認,研修,残業の削減などのどこへ配分するかを話し合う。
評価や配分の詳細は,AIで時短した職員を損させない法律事務所の評価制度で扱う。

第2 対象業務と練習時間を決める

最初の課題には,例えば,個人や事件を特定できる情報を含まない公開行政資料から,資料名,公表日,該当頁及び資料に明示された要点を一覧にする業務を選べる。
担当者は各行を原資料と照合し,日付や頁が判別できないものを分けて弁護士へ戻す。
依頼者の資料を入力する練習,法律判断の確定,外部送信及び事件記録への自動登録は,この試行の対象から外す。
事務所の許可サービスや秘密情報の管理は,法律事務所の生成AI利用ガイドラインの作り方を参照されたい。

経営弁護士やパートナーは,同等の端末・設定と同じ模擬課題を用い,各自に付与された試行用アカウントで一度作業し,どこで質問が必要になるかを見る。
慣れている人は手順を省略して説明しがちであり,使っていない人には,出力を確かめたり誤りを直したりする時間が見えにくい。
導入直後にかかった時間は,習熟後の1件当たりの時間と分けて記録する。

労働者に業務上参加を義務付ける研修や,使用者の指示で業務に必要な学習をする時間は,労働時間に当たる。
最高裁平成12年3月9日判決は,造船所で義務付けられた作業服・保護具の装着等を扱い,労働時間に当たるかは使用者の指揮命令下にあったかによって客観的に決まるとした。
自宅での視聴や任意と表示された講習でも,受講が実質的に求められているか,断ると不利益があるかなど,実際の指揮命令関係を確認する。
実務上は,必須の受講や練習に勤務時間内の枠を設け,実際にかかった時間を記録できるようにするとよい。
雇用される事務職員を主に想定した説明であり,所属弁護士については契約名だけで判断せず,働き方の実態に応じて労働者性を別に確認する。
厚生労働省の労働時間把握ガイドライン・研修・教育訓練の取扱い

第3 4週間で一つの業務を試す

以下は期間と課題を限定した実施例である。
同じ資料を続けて処理すると,内容を覚えた分だけ速くなり得るので,比較には難度の近い別の資料も使う。
資料量や担当者が違うときは,その違いを記録して結果を読む。

週実施すること記録すること
第1週従来の手順で資料一覧を作り,許可環境と正解資料を用意する件数,作業時間,誤り,手順が滞った箇所
第2週勤務時間内に練習し,職員と弁護士が照合の分担を確認する初期設定・学習時間,質問,判別できなかった項目
第3週同程度の別資料を処理し,利用した場合と見送った場合を記録する準備,生成待ち,原資料照合,修正,差戻し,最終確認の時間
第4週弁護士と職員が結果を読み,継続,修正して再試行,従来手順に戻す,のいずれかを決める品質,純短縮時間,担当者ごとの負担,短縮時間の配分,次の確認日

例えば,公開資料の一覧化が従来1件30分で,試行では準備・入力8分,職員の照合12分,弁護士の確認12分なら,人の合計は32分になる。
生成が速くても,この例では従来より2分長い。
弁護士の確認が集中して待ちが増えた場合は,待ち時間を人の作業時間と分け,確認の分担や使う資料の範囲を見直す。
各時間は仮の数字であり,研修・初期設定の時間,ツール費用及び通常業務へ戻す場合の負担も継続判断に含める。

試行前に対象となる資料一覧の範囲を決め,期間中に届いた該当依頼を台帳に登録して分母とする。
週末ごとに各依頼を一つの状態に分類し,前の週に止まっていた依頼がどこまで進んだかも記録する。
着手予定日がまだ来ていない依頼や作成中の依頼は,表の五つの状態に無理に入れず,進行中として別に数える。
人の手順へ戻した場合は,理由と対応者を残す。

週末時点の状態確認する記録次の対応
対象だと気付かず未着手依頼時に試行対象の表示があったか依頼票に対象の印を付け,同じ業務で再試行する
対象だと分かったが利用を見送った入力の可否,作業時間,端末や利用枠のどれで止まったか許可範囲や作業枠を確認し,安全に使える条件がそろうまでは従来手順で処理する
出力を作成し,照合待ち誰にいつ渡し,どの確認が残ったか確認者と時間枠を確保するまで対象を広げない
照合で不合格欠落,誤記又は根拠をたどれない項目と,修正時間重大な誤りがあれば試行を止め,それ以外は指示や資料の選び方を直して再試行する
照合済みで合格原資料に一致し,後工程で使えることを確認したか使わなかった場合の時間・品質と比較し,継続の可否を決める

たとえば6件のうち3件でAIを使っていても,合格1件,照合待ち1件,不合格1件なら,利用件数だけでは定着の可否を判断できない。
未利用の3件も,対象に気付かなかった場合と入力の可否が不明だった場合とでは,取るべき対応が異なる。
秘密情報の入力,無断の外部操作,原資料にない記載の混入,期限に影響する確認の滞留などが起きた場合は,該当する試行を止めて弁護士へ戻す。
品質と安全の基準を満たすことを,処理件数を増やす条件とする。

第4 追加投資と外部支援は止まった工程に合わせる

利用上限で止まるならプラン,操作自体で止まるなら端末や回線,確認で止まるなら弁護士のレビュー枠と課題の選び方を見直す。
有料プランに変える前に,事務所で実際に使う契約・設定で,入力の学習利用,保存,管理権限及び外部連携の条件を確認する。
研修を頼む場合は,操作の実演に加え,自所の模擬課題で誤りを発見し,どこまで自分たちで再現できるかを確認する。

外部の講師や支援者に聞ける体制を作る場合も,日常の質問を受ける内部の担当者と,緊急時に利用を止める弁護士を決める。
設定や一般的な使い方は,公開資料や試験用データで相談できる。
事件情報や事務所のアカウントにアクセスが必要な支援については,扱う情報,権限,保存・返却・削除,事故時の連絡と契約終了時の引継ぎを,アクセスを渡す前に確認する。
通常の質問は内部で解決できるように,手順と停止条件を事務所内に残す。

第5 関連記事と出典

① 弁護士職務基本規程19条と事務職員の生成AI利用
② 法律事務所の生成AIをどう評価・改善するか
③ AIエージェントは内製か外注か
④ 最高裁第一小法廷平成12年3月9日判決・平成7年(オ)第2029号理由一・三(作業の準備等の事案)
⑤ 労働基準法第9条・第32条
⑥ 厚生労働省「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」3・4,「労働時間の考え方『研修・教育訓練』等の取扱い」。掲載ページ