第1 第三国を経由しても原産地は自動的に変わらない
中国で作った製品を日本の倉庫に入れ,箱を替えて米国へ送るとき,米国で日本原産と申告できるか。別の国で部品を加工・組立てしたときは,どの程度の工程があれば結論が変わるか。
米国側の確認は,適用する原産地規則,既存の反ダンピング税・相殺関税命令の範囲,輸入申告の正確性の順に分けると整理しやすい。
出荷国,積替港,売主の所在地,原産地はそれぞれ別の情報である。
例えば,中国で完成した機器を日本で保管し,ラベルを付け直して米国へ送る場合,日本から発送したという事実だけで日本原産と申告する根拠は生じない。
積替えや保管を選んだ商業上の理由があっても,適用される規則に沿った原産地を申告する必要がある。
一方,第三国で実際に加工する場合は,その工程を具体的に確認する。
米国税関・国境警備局(CBP)の対中通商法301条措置に関する個別教示では,実質的変更の分析により原産地を判断している。
輸入される物品について,加工前後の名称・性質・用途,部品があらかじめ備えていた機能,組立ての内容などを,製品と工程に即して比較する。
部材原産国の比率だけで結論が決まると考えると,重要な工程を見落とす。
関税上の措置ごとに適用規則を確認する。
特恵関税の原産地要件,原産国表示,通商法301条の追加関税,反ダンピング税・相殺関税命令の対象範囲は,それぞれの根拠と適用条件を持つ。
ある制度の原産地証明書や判定結果を別の制度へ使うときは,適用規則から検討する。
第2 商務省の反迂回調査と米税関の関税逃れ調査
1 米商務省は既存の関税命令の対象に含めるかを判断する
反ダンピング税(AD)・相殺関税(CVD)の既存命令については,第三国で完成・組立てした製品,軽微な変更を加えた製品などを命令の対象に含める制度がある。
第三国での完成・組立てに関する19 U.S.C. §1677j(b)では,対象国の部材等を使った同種・同類の貨物であるか,加工が軽微又は重要性の小さいものか,対象国由来の部材等の価額が重要な部分を占めるかなどを審査する。
投資,研究開発,製造工程,設備,加工による価値の割合などが判断材料となる。
原産地を正確に表示していても,該当する命令と反迂回認定の適用範囲を別に調べる必要がある。
具体例は,米商務省が2023年8月23日に公示した中国産太陽電池に関する最終認定である。
中国産ウエハーを使い,カンボジア,マレーシア,タイ又はベトナムで製造された一定の結晶シリコン太陽電池セルと,指定6部材のうち3種類以上が中国製であるなどの条件を満たす一定のモジュール等が対象となった。
同公示には供給者・企業別の扱い,除外,輸入者・輸出者による認証の条件もある。
2025年に米商務省が別途公表した4か国の太陽電池セルそのものに対するAD・CVD調査とは,調査の対象と根拠を分けて読む。
輸入案件では,認定当時の公示に加え,対象時点の命令,適用される認証とCBPへの指示を確認する。
2 米税関は虚偽表示等による既存のAD・CVD逃れを調査する
Enforce and Protect Act(EAPA)の下では,CBPが既存のAD・CVD命令の対象物品について,重要な虚偽の記載や省略により,本来の現金預託その他の負担が減額され,又は適用されなかったかを調査する。
例えば,CBPの2024年9月19日付け決定(統合事件7856)は,中国原産のマットレスを韓国経由で輸送し,韓国原産と申告した取引を扱った。
CBPは中国産品に対する命令について回避を認定し,別に調査対象としたベトナム産品に対する命令については十分な証拠がないと判断した。
当事者からの申立てや連邦機関の付託により調査が始まり,合理的な疑いが認められると清算の停止などの暫定措置があり得る。
最終判断は実質的な証拠に基づき,行政再審査と米国国際貿易裁判所(CIT)の司法審査には別々の期限がある。
通知を受けたら,取引の当事者と対象entryを特定し,期限の起算日と営業日・暦日の区別を確認する。
通常の関税申告における重要な虚偽等については,19 U.S.C. §1592など別の執行根拠もあり得る。
連邦巡回区控訴裁判所のRoyal Brush判決は,CBPが回避認定に使った秘密資料に当事者がアクセスできず,反論の機会もなかった事案を扱った。
同裁判所は適正手続に反すると判断し,保護命令の下での開示と,根拠資料への反論の機会を認めた。
調査通知を受けたときは,提出期限とともに,当局の判断資料にアクセスし反論する手続も確認する。
第3 旧相互関税の40%措置をどこまで参照できるか
2025年7月31日の米大統領令14326号第3節は,同令第2節の関税を免れるために積み替えたとCBPが認定した物品について,同節の原産国別追加税率に代わる40%の追加税率を定めた。
この規定は当時の相互関税の枠組みに属する。
米連邦最高裁は2026年2月20日,国際緊急経済権限法(IEEPA)は大統領に関税を課す権限を与えていないと判断した。
同日の大統領令14389号は,改正後の14257号を含む指定された大統領令に基づくIEEPA上の追加従価税を終了させた。
当時の40%を現在の第三国経由輸入に一律で足す計算には根拠がない。現行の負担は輸入日,貨物,原産地と適用される措置から調べる。
第4 輸出者と米国輸入者がそろえる資料
中国製部品を第三国で組み立てる案件では,部品表,供給者と製造場所の証拠,加工前後の仕様,工程表,設備と作業の内容,原価と価値付加の内訳をそろえる。
単なる積替えの案件でも,売買契約,インボイス,梱包明細,運送書類,原産地を裏付ける資料,米国側の申告指示と申告控えを対応させる。
売主が製造者の説明を転送しただけの場合は,説明者,対象ロットと裏付けの資料まで確認する。
契約では,誰が製造・原産地資料を提供するか,供給者や工程の変更をいつ通知するか,当局照会時の協力や事後徴収時の費用負担をどう扱うかを決める。
証明の根拠を出せないまま表示変更や異なる原産地での申告を求められた場合は,出荷又は申告を保留し,米国側輸入者や通関専門家と事実を確認する。
将来の取引で判断に迷う場合は,具体的な工程・資料を示してCBPの事前教示を検討できる。AD・CVD命令の対象範囲や反迂回については,米商務省の手続も別に検討する。
第三国からさらに制裁対象国に貨物が渡る懸念がある取引では,米国での原産地申告とは別に,輸出側の許可・承認,最終仕向地,用途,需要者を審査する。
物流経路,現物の製造履歴,最終用途・需要者の証拠は,取引ごとに照合する。
第5 関連記事・一次資料
① 関連記事 トランプ関税とは―税率の仕組み・日本への影響・最高裁判決を解説
② CBP CROSS H336031(対中通商法301条措置と実質的変更)
③ 米国法 19 U.S.C. §1677j(AD・CVD命令の反迂回) と 19 CFR §351.226(反迂回調査)
④ 米商務省 88 Fed. Reg. 57419(2023年太陽電池最終認定) と 2025年の4か国産太陽電池セルに関する別調査の最終判断
⑤ 米国法 19 U.S.C. §1517(EAPA) と 19 CFR Part 165(調査・行政再審査)
⑥ CBP EAPA統合事件7856の決定(2024年9月19日) と 19 CFR Part 177(事前教示)
⑦ 米連邦巡回区控訴裁判所 Royal Brush Manufacturing, Inc. v. United States(2023年7月27日)
⑧ 米国大統領 大統領令14326号(2025年7月31日) と 大統領令14389号(2026年2月20日)
⑨ 米連邦最高裁 Learning Resources, Inc. v. Trump(2026年2月20日)