第1 米国の対イラン制裁で何が制限されるか
米国の対イラン制裁は,米国へのイラン産品の輸入,米国からの対イラン輸出,米国人の取引・投資などを広く制限する。
加えて,イラン政府や一定の銀行・企業の財産を凍結し,第三国の企業や金融機関も,取引の内容に応じて指定や米国のコルレス口座制限の対象となり得る。
日本企業が判断する際は,商品・サービスの内容,実際の支払経路,取引先の所有関係,輸送先,取引日に効力のある許可を分けて確認する必要がある。
本記事は,2026年11月9日(日本時間)現在の公表資料を基準に,これらの仕組みを整理する。 米国財務省OFACの対イラン制裁案内
| 取引・措置 | 主に確認する条件 | 生じ得る効果 |
|---|---|---|
| 米国接点のある貿易・投資 | 米国人,米国内の行為,イラン原産・仕向け,投資や促進の有無 | 取引禁止。例外・一般許可・個別許可を別途確認 |
| 凍結対象者が関与する取引 | 当事者,受益者,所有関係,財産の所在地・管理者 | 対象財産の凍結,支払・移転等の禁止 |
| 第三国の金融機関による取引 | 相手方,取引の重要性,認識,該当する法源 | 米国のコルレス口座等の禁止・厳格な条件,又は別根拠による指定 |
| 第三国企業による原油購入・輸送等 | 品目,取引の規模・性質,分野,相手方,許可の有無 | 行政上の指定・凍結,その他の制裁措置 |
| 第三国からのイラン向け輸出 | 米国から輸出された品目,米国技術等との関係,最終仕向地・用途・需要者 | OFACの取引禁止,米商務省BISの輸出許可要件 |
第2 一次制裁の対象と第三国にある子会社
1 米国への輸入,対イラン輸出,投資及び促進
米財務省外国資産管理局(OFAC)が所管するイラン取引・制裁規則(ITSR,31 C.F.R. Part 560)では,イラン原産の物品・サービスや,イラン政府が所有・支配する物品・サービスの米国への輸入が原則として禁止される。
米国から,又は所在地を問わず米国人による,イラン若しくはイラン政府向けの物品・技術・サービスの輸出,販売,供給等も,直接・間接を問わず,適用条項と許可を確認する。
米国人によるイラン等への新規投資や,外国人が行う取引について米国人が承認,資金供与又は促進する行為にも禁止がある。
米国人には,米国市民・永住者,米国法で設立された法人とその外国支店,米国内にいる者等が含まれる。 ITSR §§560.201,560.204,560.206~560.208,560.314
情報・情報資料や通常の旅行に付随する取引には,規則上の除外がある。
たとえば通常の旅行の除外と,航空会社によるイラン上空通過料の支払に関する一般許可は,適用場面が異なる。 ITSR §560.210
2 米国人に所有又は支配される外国法人
米国人に所有又は支配され,米国外で設立又は維持される法人等は,米国人が行えば禁止される一定の対イラン取引を,知りながら行うことを規制される。
所有・支配の判断では,議決権若しくは価値で50%以上の持分,取締役会の過半数の議席,又は経営・方針・人事決定への支配を確認する。
この基準は,米国の親会社等から見た外国法人への取引規制に関するものである。
制裁対象者が取引先を50%以上所有する場合の財産凍結とは,誰の所有・支配を調べるかが異なる。 ITSR §560.215
3 第三国からの再輸出とBIS規制
日本企業が第三国の商社に販売しても,品物がイランへ転送される場合は,契約相手の所在地と貨物の最終仕向地を分けて調べる必要がある。
ITSR §560.205は,米国から輸出された一定の物品・技術・サービスの第三国からの再輸出について,イラン又はイラン政府向けであることを知り,又は知るべき理由がある場合などに適用される。
米国の輸出管理規則(EAR)にも独自のイラン向け許可要件があり,一定の外国製品について,製品の範囲と仕向地・最終用途又は最終需要者の条件を満たせば,外国製直接製品規則によってEARの対象となる。
品目分類と適用される例外を確認したうえで,OFACとBISのうちどの許可が必要かをそれぞれ判断する。 ITSR §560.205・EAR §746.7・EAR §734.9(j)
第3 資産凍結,50%ルール及び二次制裁
1 SDNリストに載っていない取引先
イラン政府やイラン金融機関の規則上の定義に該当する者については,米国内にある財産や米国人の占有・支配に入る財産等が凍結対象となる。
定義に該当すれば,名称がOFACの特別指定国民及び凍結対象者リスト(SDNリスト)に掲載されていない場合も対象となる。
また,凍結対象者が単独又は合算で,直接・間接に50%以上を所有する法人等は,リストに独立の項目がなくても凍結対象となる。
所有を伴わない支配だけでは,OFACの一般的な50%ルールによる自動凍結の要件を満たさないが,イラン政府の定義や個別指定などの別根拠は確認を要する。 ITSR §§560.211,560.425・OFAC FAQ 398・OFAC FAQ 401
凍結は,財産の移転や支払などを制限する措置である。
米国人が対象の資金を保有する場合の米国内の凍結利付口座等は,ITSR §560.213で定められている。
所有と決済に関する共通の考え方は,ICCへの米国制裁で何が起きるかも参照されたい。 ITSR §§560.211~560.213
2 外国金融機関の口座措置と外国事業者の指定
イラン金融制裁規則(IFSR,31 C.F.R. Part 561)には,外国金融機関による所定の取引やサービスを理由として,米国におけるコルレス口座・支払通過口座の開設・維持を禁止し,又は厳しい条件を課す仕組みがある。
コルレス口座とは,銀行が他の銀行を通じて決済等を処理するために用いる口座である。
米国の口座へのアクセスを制限するCAPTA措置と,対象財産を凍結するSDN指定は,効果が異なる。
重要な取引に当たるかは,金額のほか,取引の回数・性質,経営層の認識,凍結対象者との関係などを含めて判断する。 IFSR §§561.201,561.203,561.404・22 U.S.C. §8513a(d)
第三国の事業者も,対象分野での活動,一定の重要な取引,凍結対象者への物的支援など,各根拠の条件を満たし当局の認定を受ければ,指定され得る。
この指定リスクは,非米国人が米国銀行等に禁止取引を処理させ,違反を生じさせるリスクとは別に検討する。
円建ての契約でも,実際にどの銀行や事業者が関与するか,米国を経由しない場合も別の指定・口座措置の要件に触れるかを確認する。
法令による凍結・拒絶,銀行のリスク管理による受付停止,契約の履行停止・解除は,それぞれ根拠を確認する。 ITSR §560.203・OFACの外国金融機関向け通知・米国制裁と日本法準拠の契約条項
第4 原油,海運,金属及び追加対象分野
大統領令13846は,所定のイラン産石油・石油製品等の購入・取得・販売・輸送・取引に関わる外国金融機関への口座措置や,別の要件を満たす事業者への制裁を規定する。
油種や産地のほか,購入者,売主,運送業者,保険者,仲介者,決済銀行のうち誰のどの行為が対象となるかを,適用根拠ごとに特定する。
人道取引等の例外や,特定の法律に基づく石油取引の例外・免除は,適用主体,対象行為及び有効期間を照合する。 大統領令13846 §§2・3・22 U.S.C. §8513a(d)
大統領令13902は建設,鉱業,製造及び繊維の各分野を掲げ,追加の分野を決定できるようにした。
財務省は2020年10月8日に金融,2024年10月11日に石油・石化を追加した。
さらに2026年8月24日に航空,デジタル資産,金,海運及び技術,同年10月1日に自動車及び鉄道を追加した。
分野の追加は当局が個別に認定・指定するための根拠を広げる。
2026年9月30日施行のITSR改正は,同令の資産凍結に関する指定類型を §560.211(c)(1)(iii) に取り込んだ。 大統領令13902・OFACの分野決定一覧・2026年9月30日改正官報
31 C.F.R. Part 562は,イラン政府による重大な人権侵害に関する大統領令13553と,鉄・鉄鋼・アルミニウム・銅分野に関する大統領令13871の所定の措置を扱う。
核・ミサイル等の拡散やテロ支援を根拠とする指定もあり,どの根拠が付されているかによって取引への効果や許可の適用範囲が変わる。
たとえば米国務長官による2019年のイスラム革命防衛隊(IRGC)の外国テロ組織(FTO)指定は,移民国籍法に基づく措置である。 31 C.F.R. Part 562・米国務省のFTO指定公示
第5 個人送金,人道取引,通信及び航空の例外
1 個人送金と航空の一般許可の停止
ITSR §560.550には非商業的な個人送金の一般許可の条文が掲載されているが,OFACは2026年8月24日からその効力を無期限に停止した。
同日には,一定の教育活動,会議サービス,スポーツ交流,学術交流等に関する一般許可も停止した。
従前の取引の終了処理を条件付きで認めたGL BBは,同年9月8日までの措置である。
旧FAQや条文の掲載だけで,個人送金に従前の一般許可を使えると判断すると,後続の停止を見落とす。 2026年8月の効力停止官報・OFACの停止通知
9月8日には,イラン上空通過料,航空安全,燃料補給・緊急修理及び民間機の一時滞在に関する所定の一般許可又は許可方針も無期限に停止した。
GL DDは,停止対象のうち指定された一般許可に基づく取引の終了処理を9月23日まで条件付きで認めた。
個人送金や航空サービスの判断では,停止対象の条項と,別途の許可又は除外の有無を個別に確認する。 2026年9月の効力停止官報・OFACの停止通知
2 医薬品・農産物・食料と決済
人道物資には,ITSR §560.530等による条件付きの許可がある。
GL 8Aは,イラン中央銀行(CBI),イラン国営石油会社(NIOC)又はNIOCが直接・間接に50%以上を所有する法人等が関与する一定の人道取引について,所定のITSR・テロ制裁上の許可を与える。
相手方に別の指定がある場合,対象外の物品が含まれる場合,又は支払が許可の条件を満たさない場合は,同じ人道目的でも追加の確認が必要である。
2026年9月30日改正で加わった人道取引及び国連の公務の除外は,条文が指定する §560.211(c)(1)(iii) の禁止に対応する。 ITSR §§560.210,560.530・一般許可8A・改正官報
3 インターネット通信と個別許可
ITSR §560.540は,通信に付随する一定のサービス,ソフトウェア及びハードウェアを条件付きで許可する。
提供する機能,利用者,品目やソフトウェアの分類,適用除外及び別の輸出管理規制を確認する必要がある。
OFACは2026年9月10日,イラン関連の個別ライセンス申請を原則不許可として審査する方針を示し,法律上必要な場合や,生命・身体・環境の安全上の事情などを留保した。 ITSR §560.540・OFACの個別許可方針
4 期限付き許可の読み方
| 許可 | 対象 | 2026年11月9日時点の確認 |
|---|---|---|
| GL X・X1 | イラン産原油・石化製品・石油製品等の所定取引 | Xは7月7日にX1へ全面置換。X1の終了処理も7月17日に失効 |
| GL FF-1 | Iraq Development Bank及び同行が直接・間接に50%以上所有する法人等の所定取引の終了処理 | 12月1日午前0時1分(米国東部標準時)まで。凍結者への支払は凍結口座へ入れることが条件 |
FF-1は旧FFを置き換えたものであり,対象者以外の別の凍結者が関与する取引などは別の許可を要する。
期限付き許可を使うときは,許可番号の枝番,適用される制裁根拠,対象者,行為,時刻・時差,除外項目を確認する。 X・X1の官報原文・FF-1原文・OFAC一般許可の公表一覧
第6 どのような取引が実際に問題になったか
1 第三国事業者の指定
米財務省は2026年9月14日,ロシアのVTB銀行をイランの金融分野で活動したとして大統領令13902に基づき指定したと公表した。
これは同銀行に対する従前の対ロシア指定とは別の根拠による指定である。
同年11月6日には,OFACがカナダ所在の資金サービス事業者8社をSDNリストに追加し,同令に基づく指定を公表した。
両例は,イラン国外の銀行・資金サービス事業者もイラン制裁の対象に加えられ得ることを示す。 VTB指定の財務省発表・11月6日のSDN更新・同日の財務省発表
2 ホルムズ海峡の通航料と船籍
OFACの2026年8月24日付の注意喚起は,ホルムズ海峡の通航料について,支払先・仲介者,保険・再保険,銀行,デジタル資産を使う支払などの関与を確認するよう促している。
11月4日の注意喚起は,虚偽の船籍登録又は船籍の表示がある場合に,海運・保険・貿易金融の事業者が船籍資料などを照合する必要性を指摘した。
注意喚起が示す制裁上の論点は,支払先,根拠法令,免除・許可及び各事業者の行為によって変わる。 通航料の注意喚起・偽旗に関する注意喚起
3 無許可輸出等の違反疑いに関する和解
OFACは2023年5月17日,米国からイランへの物品・サービスの無許可輸出等に関する違反疑いについて,化粧品会社Muradとその元役員との民事和解を公表した。
指定の公表,違反疑いについての和解,裁判所による違反認定では,資料が示す事実と法的効果が異なる。 OFACの執行公表
第7 米国政府の方針,イラン政府の反論及び国連措置
1 核合意後の米国措置と2026年の追加関税
米国は2018年にイラン核合意(JCPOA)への参加をやめ,大統領令13846などで,解除・免除していた米国の制裁を再適用する枠組みを示した。
2025年2月4日の大統領覚書NSPM-2は,核・ミサイルや武装勢力への支援をめぐる米政府の立場から,対イランの圧力を強める政策を指示した。
2026年のGraham Sanctioning Russia and Iran Actの第201条は,1996年イラン制裁法の期限年を2026年から2031年へ変更した。 2018年の再適用案内・NSPM-2・Public Law 119-111
2026年2月6日の大統領令14382は,イランから物品・サービスを取得する第三国の製品への追加関税の仕組みを定め,25%を税率の例として掲げた。
実際の賦課には所定の認定・決定が必要であり,同月20日の大統領令14389は,同令に基づく国際緊急経済権限法(IEEPA)上の追加関税を終了するよう定めた。
税率例,終了した追加関税,従来からの取引禁止・指定措置はそれぞれ根拠が異なる。 大統領令14382・大統領令14389
2 イラン政府の公式見解とICJの仮保全
イラン外務省は2018年に国際司法裁判所(ICJ)へ提出された外交文書で,米国の制裁再適用は米国の国際義務に反すると主張した。
イラン外相は2026年1月14日に国連へ送付された書簡でも,一方的制裁の違法性と,イラン国民の生命・発展への影響を主張した。
これはイラン政府の法的・事実上の主張である。 イラン政府のICJ提出資料・イラン外相書簡 S/2026/30 別添
ICJは2018年10月3日の仮保全命令で,米国に対し,同年5月8日発表の措置に起因する,医薬品・医療機器,食料・農産物,民間航空の安全に必要な物品・役務のイラン向け輸出の障害を除去し,必要な許可と決済等を確保するよう求めた。
仮保全命令は指定された措置・取引についての手続上の判断であり,米国の対イラン制裁全体の適法性や,現在の個々の一般許可の効力は別の問いである。 ICJ仮保全命令第102項
3 国連安保理の措置と日本の外為法
国連安保理の制裁委員会は,対イランの資産凍結,渡航制限及び一定の貨物等の措置を掲示している。
イラン外相は2025年9月27日付の国連宛て書簡で,決議2231号に関する英仏独の再適用手続の有効性を争った。
日本の財務省は同月29日,国連安保理決議を受けた外為法に基づく資産凍結等,資金移転防止等の措置を公表した。
日本の企業は,米国規則の適用と,日本の法令に基づく許可の要否をそれぞれ確認する必要がある。 国連安保理の制裁委員会・イラン外相書簡 A/80/406–S/2025/602 別添・日本財務省の措置公表
第8 日本企業が取引ごとに確認する順序
1 イラン関係の送金を受けるとき
①原取引の契約書と請求書から,商取引,非商業的な個人送金又は人道取引のどれに当たるかを確認する。
②送金人・受取人・受益者,銀行及び実質所有者について,OFACのリスト・制裁根拠と所有関係を調べる。
③送金通貨だけで判断せず,銀行に実際の中継先と処理状況を確認する。
④利用できる許可があれば,支払方法,関与できる銀行・指定者,期限及び凍結口座の条件を照合する。 ITSR・OFACの外国金融機関向け通知
2 第三国商社へ輸出するとき
①品目,米国原産性や米国技術等との関係,荷揚港,最終仕向地,用途,需要者を確認する。
②第三国商社に対する販売でも,イラン向けと知り,又は知るべき事情があれば,ITSR §560.205とEARの適用をそれぞれ確認する。
③米国人による承認・促進,第三国の物流・金融機関との関係,指定分野への取引及び各国の規制を照合する。 ITSR §§560.203~560.208・EAR §746.7
3 原油・海運取引に関与するとき
①原産地,貨物の種類,売主・購入者,船舶の識別番号,所有者,運航者,保険者及び支払先を確認する。
②制裁対象の分野・取引・相手方が関与する場合は,適用条項,取引の重要性,認識及び許可の条件を切り分ける。
③船籍情報に不一致があれば,登録当局等の資料と突き合わせる。
取引書類と確認結果を保存し,制裁根拠・取引経路・許可が一致しているかを取引日を基準に確認する。 大統領令13846・大統領令13902・OFACの偽旗に関する注意喚起