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ロシア制裁で海外送金が止まるとき―外為法第17条と日米欧英の所有・支配基準(AI作成)

第1 銀行から照会が来る理由

中央アジアの会社に機械部品を販売し,米ドルで代金を受け取るとする。
契約相手の名称が制裁リストに載っていなくても,取引銀行から相手方の株主,代金を送る者や決済経路を聞かれることがある。
確認する対象を,支払の規制,関係者の所有・支配,銀行が決済を処理できるかという順に分けると,どの資料が足りないかを把握しやすい。
本記事の記載は,令和8年11月8日時点で確認できた法令及び各国当局の公表資料に基づく。

1 支払者の許可義務と銀行等の確認義務

外国為替及び外国貿易法(以下「外為法」という。)第16条に基づき,制裁対象者等に対する支払等に許可を受ける義務が課されることがある。
外為法第17条は,銀行等は,顧客の支払等が許可を受ける義務の課された支払等に当たらないこと,又は当たる場合には必要な許可を受けていることなどを確認した後でなければ,その支払等に係る為替取引を行ってはならないと定めている。
支払等の許可は支払をする者が受けるものであり,銀行の確認はこれと別の手続である。
企業が銀行へ取引を説明する手続と,法令上の許可申請は区別して進める。
支払等の許可が必要な場合の様式や提出先は,日本銀行の案内で取引の種類に応じて確認できる。

2 銀行が原取引の資料を求める根拠

財務省の支払告示・資本取引告示のFAQ問6は,銀行等が外為法第17条の確認義務を履行する方法の例として,公知の情報の追加的な調査,顧客へのヒアリング,支払等の原因となる原取引に関する資料の提示を求めることを挙げている。
同FAQ問3は,規制の該否は形式的な名義ではなく,意思決定を行っている実質的な当事者やその利益の帰属先などを総合的に勘案して判断されるとし,ロシア連邦の資産凍結等の対象者についても,第三者の名義で行われる支払等や間接的に行われる支払等が規制の対象になるとしている。
銀行が送金目的や契約相手に加え,株主や実質的な当事者の説明を求めるのは,このためである。

第2 所有と支配の基準は法域ごとに異なる

1 日本

財務省が公表するロシア連邦の資産凍結等の対象者一覧の冒頭の注記は,掲げられた団体(一部を除く。)により株式の総数又は出資の総額の50%以上を直接に所有されている団体(本邦内に主たる事務所を有する団体を除く。)にも資産凍結等の措置が適用されるとしている。
この注記は直接所有を基準としている。
直接所有の基準に当てはまらないときも,前記のとおり第三者名義・間接の支払等は規制の対象となり得るため,原取引と実質的な当事者を確認する必要がある。

2 米国

米国財務省外国資産管理室(OFAC)のFAQ 401は,凍結対象者が単独又は合算で直接又は間接に50%以上を所有する法人等を,名称の掲載がなくても凍結対象として扱うと説明している。
同FAQの例では,凍結対象者XがA社の50%を所有し,A社がB社の50%を所有する場合,A社とB社はいずれも凍結対象となる。
各階層の持分を掛けて25%と評価すると,この例の結論を見落とす。
FAQ 398によれば,50%ルールは所有についてのものであり,所有要件を満たさずに凍結対象者が支配しているだけの法人等は,自動的に凍結対象となるわけではない。
もっとも,同FAQは,凍結対象者が契約書に署名するなど,その法人等を代表して取引に関与する場合に注意を促している。

3 EU

欧州委員会の対ロシア資産凍結FAQ問8は,所有の判断に当たって合算した所有を考慮するとし,指定者の1人が30%,別の指定者が25%を所有する例で,その法人を指定者に所有されているものとして扱うべきだとしている。
同FAQは,所有に加えて支配関係も検討の対象としている。

4 英国

英国の対ロシア制裁規則第7条は,株式又は議決権の50%超の保有,取締役会の過半数の選任・解任権のほか,あらゆる事情に照らし,指定者が会社の事務を自らの意思に従って行わせることができると期待するのが合理的であるかという支配の基準を定めている。
英国財務省金融制裁執行室(OFSI)の金融制裁ガイダンスは,指定者同士の共同の取決めがある場合や一方が他方の権利を支配する場合などを除き,別々の指定者の持分を単純に合算しないと説明している。

5 確認の進め方

各制度の要件を当てはめるため,直接株主とその持分,親会社を介した各階層,議決権・役員選任権,株主間の取決めを分けて確認する。
銀行に最終実質所有者を届け出たことだけで,他の制裁制度の所有・支配の判断まで終わるわけではない。

第3 米ドル決済では実際の経由銀行を確認する

米ドルでの送金が米国のコルレス銀行を経由する場合,その銀行が関与する部分について,米国の制裁規制が問題となり得る。
通貨名のほか,送金銀行・中継銀行・受取銀行と,どの者の資金又は利益に関係する支払かを確認する。
銀行が取引を留保,拒絶又は返送したことだけでは,どの法令が適用されたかまでは分からない。

米国接点を通じた個々の取引の禁止と,ロシアの軍需産業基盤に関わる取引への関与を理由に米国以外の者が指定される可能性は別の論点である。
米国財務省は2025年1月15日,キルギスのKeremet Bankを,ロシアの銀行の国境を越える送金を代行する制裁回避の仕組みに関与したとして,大統領令14024(大統領令14114による改正後のもの)に基づき指定したと公表した。
第三国の銀行が関与する取引でも,使用する銀行と,その時点の規制を確認する意味がある。

第4 取引前にそろえる資料と送金保留時の対応

1 取引前の資料

取引前に,契約書・注文書・請求書,取引相手の登記や株主資料,所有関係図,商品の品名・原産地・仕向地,最終使用者・用途,運送書類,決済経路を整理する。
契約相手と送金名義人が異なる場合は,その関係と支払の理由も確認する。
資料ごとに取得日と照合日を残し,誰が資料を確認したかを記録する。
契約の締結後に銀行,株主又は輸送経路が変われば,変更のあった箇所を履行前に見直す。

2 送金が保留されたとき

銀行から送金を保留されたときは,送金番号,銀行の照会内容,留保・拒絶・返送などの処理状況,追加で求められた資料を確認する。
法令上の許可が問題なのか,取引の説明が不足しているのか,銀行が経路を提供できないのかによって対応が変わる。
決済方法の変更を検討するときも,変更後の法令と契約の両方を確認する。

3 契約での手当て

契約では,所有関係・最終使用者等の資料提供,関係者や決済経路の変更通知,確認中の履行留保,適法な代替履行を協議する期間,解除や費用負担を具体化できる。
これらは取引当事者間の取決めであり,銀行や当局の判断は別途行われる。

第5 関連記事

米国の制裁対象に指定されることと契約の反社会的勢力排除条項の関係は,米国の制裁対象となることと反社会的勢力排除条項の関係―OFAC・SDN指定は直ちに「反社」を意味するか(AI作成)で説明している。

第6 出典

1 法令

①外国為替及び外国貿易法(e-Gov法令検索)第16条・第17条
②The Russia (Sanctions) (EU Exit) Regulations 2019, regulation 7(英国)

2 日本の行政資料

①財務省「経済制裁措置及び対象者リスト」
②財務省「資産凍結等の措置の対象となるロシア連邦の団体及び個人」(冒頭の注記)
③財務省「令和5年6月1日施行の支払告示・資本取引告示のFAQ」問3・問6
④日本銀行「許可申請書様式および記入の手引等」

3 外国当局の公表資料

①OFAC「FAQ 398」・「FAQ 401」
②欧州委員会「Frequently asked questions on asset freezes following sanctions adopted in view of Russia’s military aggression against Ukraine and Belarus’ involvement in it」問8
③OFSI「UK financial sanctions general guidance」4.1.4
④米国財務省「Treasury Disrupts Russia’s Sanctions Evasion Schemes」(2025年1月15日)