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司法行政を担う裁判官会議,最高裁判所事務総長及び下級裁判所事務局長(AIリライト)

この記事は,日本の裁判所において司法行政事務を「誰が」担うのかを,最高裁判所から簡易裁判所まで審級ごとに整理する総論記事です。
裁判官会議,最高裁判所事務総長及び事務総局,各裁判所の事務局長,簡易裁判所の司法行政事務掌理裁判官という担い手の役割分担を,裁判所法及び下級裁判所事務処理規則の現行条文(2026年7月現在)に即して示します。
あわせて,明治憲法下の裁判所構成法との比較,国会答弁及び公表資料,司法行政部門の意思決定(決裁・専決・代決)の仕組み,並びに裁判官会議に関する規則条文を収めます。
高等裁判所事務局長という一つの職の任用・格付け・実務接点を掘り下げた各論は,別記事「高等裁判所事務局長」に譲り,本記事は各審級を横断する全体像を担います。

第1 総論——裁判所の司法行政は誰が担うのか

最高裁判所及び下級裁判所の組織は,事件を審理・裁判する裁判部門と,これを人的・物的に支える司法行政部門に分かれます。
司法行政部門には事務局が置かれ,総務課・人事課・会計課等が裁判事務の合理的・効率的な運用のために裁判部門を支援します(事務局の課の構成は下級裁判所事務処理規則24条による)。
裁判部門では裁判官が事件を審理・裁判し,これを支える職種として裁判所事務官のほか,裁判所書記官(裁判所法60条)及び家庭裁判所調査官(裁判所法61条の2)が置かれます。

司法行政の担い手についての基本的な建前は,各裁判所の司法行政事務は,その裁判所の長ではなく,その裁判所の裁判官会議が行うというものです(裁判所法12条1項,20条1項,29条2項,31条の5)。
もっとも,この建前と運用の実態には差があります。昭和34年頃から昭和35年頃にかけて,全国各地の裁判所で,長官・所長や常置委員会に対する大幅な権限委任が決議され,裁判官会議の形骸化が進んだとされます。
下級裁判所では裁判官会議は年2回程度の開催にとどまり,正式な議題は裁判事務に関する事項に限られ,常置委員会の決定事項の報告・承認等を加えても所要時間は1時間に満たないともいわれます(判例時報2141号17頁)。

裁判所の司法行政を裁判官人事の観点から分析したものとして,政治学者・西川伸一による研究「司法行政からみた裁判官」も参考になります。

第2 最高裁判所の司法行政の担い手

1 最高裁判所裁判官会議

最高裁判所の司法行政の担い手は,最高裁判所裁判官会議です。裁判所法12条1項は,最高裁判所が司法行政事務を行うのは裁判官会議の議によるものとし,最高裁判所長官がこれを総括すると定めます。
裁判官会議は全員の裁判官で組織し,最高裁判所長官がその議長となります(裁判所法12条2項)。

最高裁判所裁判官会議は,毎年12月に,翌年分の各小法廷の裁判官の配置,裁判官に差し支えがあるときの代理順序及び各小法廷に対する事務の分配を定めます(最高裁判所裁判事務処理規則4条)。

裁判官会議の議事録の署名及び印影については,最高裁判所長官及び秘書課長のそれが個人識別情報(情報公開法5条1号)に当たり不開示とされた例があります。署名・押印は文書の真正を示す認証的機能を有し,公にすれば偽造・悪用のおそれがあるという理由によります(平成30年度(最情)答申第32号(平成30年9月21日答申))。

次の裁判所職員の任免又は勤務場所の指定は,最高裁判所が行います(裁判所法64条・65条,並びに裁判官以外の裁判所職員の任免等に関する規則2条)。

  • ① 最高裁判所事務総長
  • ② 最高裁判所長官秘書官及び最高裁判所判事秘書官
  • ③ 司法研修所教官
  • ④ 裁判所職員総合研修所教官
  • ⑤ 裁判所調査官
  • ⑥ 高裁・地裁・家裁又は簡裁の首席書記官,次席書記官又は総括主任書記官(知財高裁首席書記官を含む。)
  • ⑦ 首席家裁調査官,次席家裁調査官又は総括主任家裁調査官
  • ⑧ 高裁・地裁又は家裁の事務局長又は事務局次長(知財高裁事務局長を含む。)
  • ⑨ 簡易裁判所事務部長
  • ⑩ 最高裁判所に勤務する裁判所書記官,裁判所速記官,裁判所事務官,裁判所技官及び廷吏
  • ⑪ 弁護士職務従事職員たる裁判所事務官

2 最高裁判所事務総長

最高裁判所の庶務を掌る機関として,最高裁判所に事務総局が置かれます(裁判所法13条)。そのトップが最高裁判所事務総長であり,最高裁判所長官の監督を受けて事務総局の事務を掌理し,事務総局の職員を指揮監督します(裁判所法53条)。

事務総長は裁判官以外の裁判所職員であり,裁判官が事務総長に就任する場合には,いったん裁判所事務官となる取扱いがとられています(平成30年度(最情)答申第83号(平成31年3月15日答申))。

事務総長というポストの性格について,元裁判官で明治大学教授の瀬木比呂志(31期)は,著書『絶望の裁判所』で次のように述べています(54頁・88頁)。
いわゆる良識派の裁判官は地家裁所長や高裁裁判長止まりで事務総長にはならないこと,所長・所長代行の時代に事務総局に対して言うべきことを言うと,その後の人事は良い方向に向かわないこと,といった見方です。これは同書の著者による評価として紹介するものです。

3 最高裁判所事務総局

事務総局が掌る「庶務」の意味について,『裁判所法逐条解説』は,司法行政権の主体としての最高裁判所の事務を補佐する事務であって,裁判権の主体としての最高裁判所の事務を補助する事務は原則として含まれない,と説明します。
具体的事件の審理・裁判に必要な調査は裁判所調査官が,訴訟記録の保管等は裁判所書記官が掌るため,具体的事件に関する事務総局の職務は,調査官や書記官の職務に属さない事務的・機械的な事項に限られるとされます(同書上巻109頁・110頁)。
なお,同書は昭和42年の刊行で,右の説明中は裁判所調査官を「五六」と表記しますが,これは当時の条番号であり,現行の裁判所法では裁判所調査官は57条です。

事務総局の位置づけについて,元最高裁判所長官の矢口洪一(高輪1期。統一司法修習開始前の世代の呼称)は,著書『最高裁判所とともに』82頁で,司法行政は内部管理であって裁判に対するサービスの提供にすぎず,最終責任は最高裁の裁判官会議にあり,事務総長は許された範囲内で職務を行うにすぎず固有の権限は何もない,重要な事項はすべて報告して裁判官会議の議決を受ける,と述べています。

庁舎の警備に関する情報については,最高裁判所判事や事務総局の各局課館長が要人として襲撃の対象となるおそれが高いことなどから,各門における入構方法の具体的な運用が情報公開法5条6号の不開示情報に当たるとされた例があります(令和元年6月13日付の理由説明書)。

最高裁判所内部の会議運用については,山中理司弁護士が次の資料を紹介しています(審査室会議・事務総局会議・裁判官会議の開催曜日,議事録の記載範囲)。

第3 高等裁判所の司法行政の担い手

1 高等裁判所の裁判官会議

各地の高等裁判所の司法行政の担い手は,各高等裁判所の裁判官会議です(裁判所法20条1項)。各高等裁判所の裁判官会議はその全員の裁判官で組織し,各高等裁判所長官がその議長となります(裁判所法20条2項)。

『裁判所法逐条解説』上巻167頁は,高等裁判所が同等の任命資格及び権限を有する長官及び判事で構成されるため,最高裁判所の場合と同様,その司法行政事務は裁判官全員で組織する裁判官会議により行うのが相当であると説明します。

次の裁判所職員の任免又は勤務場所の指定は,高等裁判所が行います(裁判所法64条・65条,並びに裁判官以外の裁判所職員の任免等に関する規則3条)。

  • ① 高等裁判所長官秘書官
  • ② 高裁管内の地裁・家裁又は簡裁の主任書記官又は訟廷管理官(地裁の裁判員調整官を含む。)
  • ③ 高裁管内の地裁の主任速記官又は速記管理官
  • ④ 高裁管内の家裁の主任家裁調査官
  • ⑤ 高裁管内の地裁・家裁又は簡裁の課長又は課長補佐(地裁の文書企画官又は企画官を含む。)
  • ⑥ 高裁に勤務する裁判所書記官,裁判所速記官,家裁調査官,裁判所事務官,裁判所技官及び廷吏

2 高等裁判所事務局長

高等裁判所の庶務を掌る機関として事務局が置かれ(裁判所法21条),そのトップが高等裁判所事務局長です(裁判所法59条)。

高等裁判所事務局長に就任するのは常に裁判官であり,高等裁判所事務局次長に就任するのは常に裁判官以外の裁判所職員です。これは,地方裁判所及び家庭裁判所の事務局長に裁判官以外の職員が就くのと逆の関係にあります。

高裁事務局長の職務のイメージは,元仙台高裁長官の河合健司による講演録に表れています。同人は,札幌高裁の事務局長を4年間務め,これは北海道管内の司法行政(裁判官や職員の人事関係事務,会計事務,一般の庶務など)の責任者であって裁判は全くしない仕事であった旨を述べています(早稲田大学リポジトリ「河合健司元仙台高裁長官講演会講演録 裁判官の実像」)。

高等裁判所事務局長に判事が就き事務局次長に裁判官以外の職員が就くという任用の非対称の理由,格付け(指定職の序列)及び弁護士業務との具体的な接点は,別記事「高等裁判所事務局長」で詳しく扱っています。

3 高等裁判所事務局及び支部庶務課

高等裁判所事務局には,総務課・人事課及び会計課が置かれます(下級裁判所事務処理規則24条1項)。
高等裁判所の支部には庶務課が置かれます(同条2項)。ただし,知的財産高等裁判所事務局には庶務第一課及び庶務第二課が置かれます(同条3項)。

高等裁判所単位の配置定員の設定に関する資料については,山中理司弁護士が次の文書を紹介しています。

第4 地方裁判所の司法行政の担い手

1 地方裁判所の裁判官会議

各地の地方裁判所の司法行政の担い手は,各地方裁判所の裁判官会議です(裁判所法29条2項)。各地方裁判所の裁判官会議はその全員の判事で組織し,各地方裁判所長がその議長となります(裁判所法29条3項)。
地方裁判所の庶務を掌る機関として事務局が置かれ(裁判所法30条),そのトップが地方裁判所事務局長です(裁判所法59条)。

裁判官会議の構成員は判事及び特例判事補です(裁判所法29条3項参照)。判事補(特例判事補を除く。)は構成員ではありませんが,所属の裁判所の裁判官会議に出席して意見を述べることができます(下級裁判所事務処理規則15条2項)。

各地方裁判所の司法行政事務の権限委任の方式については,『日本の裁判所——司法行政の歴史的研究』110頁・111頁が次の経緯を指摘します。
従来は,明文で列挙した事項についてのみ裁判官会議から地方裁判所長へ権限を委任する方式がとられていました。ところが,1982年に東京地方裁判所が,逆に権限を委任しない司法行政事務を列挙し,その他の事務は所長に委任するという原則委任の方式に転換し,その後,全国の地方裁判所がこれにならったと考えられています。

地裁及び管内の簡裁に勤務する裁判所書記官,裁判所速記官,裁判所事務官,裁判所技官及び廷吏の任免又は勤務場所の指定は,地方裁判所が行います(裁判所法64条・65条,並びに裁判官以外の裁判所職員の任免等に関する規則4条)。
検察審査会に勤務する者の任免又は勤務検察審査会の指定は,その所在地を管轄する地方裁判所が行います(同規則6条)。

各地方裁判所が定める司法行政事務処理規程の例として,次の資料が公開されています。

2 地方裁判所事務局及び支部庶務課

地方裁判所事務局長に就任するのは常に裁判官以外の裁判所職員です。
地方裁判所事務局には総務課及び会計課が置かれ(下級裁判所事務処理規則24条1項),地方裁判所の支部には庶務課が置かれます(同条2項)。

第5 家庭裁判所の司法行政の担い手

1 家庭裁判所の裁判官会議

各地の家庭裁判所の司法行政の担い手は,各家庭裁判所の裁判官会議です(裁判所法31条の5・29条2項)。各家庭裁判所の裁判官会議はその全員の判事で組織し,各家庭裁判所長がその議長となります(裁判所法31条の5・29条3項)。
家庭裁判所の庶務を掌る機関として事務局が置かれ(裁判所法31条の5・30条),そのトップが家庭裁判所事務局長です(裁判所法59条)。

裁判官会議の構成員は判事及び特例判事補です(裁判所法31条の5・29条3項参照)。判事補(特例判事補を除く。)は,所属の裁判所の裁判官会議に出席して意見を述べることができます(下級裁判所事務処理規則15条2項)。

家裁に勤務する裁判所書記官,裁判所速記官,家裁調査官,家裁調査官補,裁判所事務官,裁判所技官及び廷吏の任免又は勤務場所の指定は,家庭裁判所が行います(裁判所法64条・65条,並びに裁判官以外の裁判所職員の任免等に関する規則5条)。

2 家庭裁判所事務局及び支部庶務課

家庭裁判所事務局長に就任するのは常に裁判官以外の裁判所職員です。
家庭裁判所事務局には総務課及び会計課が置かれ(下級裁判所事務処理規則24条1項),家庭裁判所の支部には庶務課が置かれます(同条2項)。

第6 簡易裁判所の司法行政の担い手

1 簡易裁判所司法行政事務掌理裁判官

各簡易裁判所の司法行政事務は,簡易裁判所の裁判官が一人のときはその裁判官が,二人以上のときは最高裁判所の指名する一人の裁判官がこれを掌理します(裁判所法37条)。この最高裁判所の指名する裁判官を,司法行政事務掌理裁判官といいます。

運用の例として,東京簡易裁判所には専属の司法行政事務掌理裁判官が置かれるのに対し,大阪簡易裁判所では,大阪地方裁判所の民事上席裁判官(大阪地方裁判所第1民事部部総括判事)が大阪簡易裁判所の司法行政事務掌理裁判官を兼任しています。

2 簡易裁判所事務部及び庶務課

簡易裁判所には事務部又は庶務課が置かれます(下級裁判所事務処理規則24条2項・4項)。事務部が置かれる簡易裁判所には,事務部長が置かれます(同条7項)。

事務部が置かれる簡易裁判所は,東京簡易裁判所及び大阪簡易裁判所だけです(事務部を置く簡易裁判所の指定について(平成6年7月21日付の最高裁判所総務局長通知))。

第7 司法行政と裁判官人事——国会答弁及び関連資料

各裁判所の裁判官会議が行う司法行政事務と,裁判官人事との関係は,国会答弁で説明されています。
最高裁判所事務総長であった竹崎博允(21期。後の最高裁判所長官)は,平成16年3月25日の衆議院憲法調査会最高法規としての憲法のあり方に関する調査小委員会で,各裁判所の裁判官会議が行う司法行政事務は,開廷の日割りや事務の分配など,その庁における固有の司法行政事務を指すのであって,裁判官人事,特に裁判官に対する評価はこれに委ねられておらず,指名権を持つ最高裁判所が人事の評価を一元的に管理してきた,と答弁しました。
その上で,司法制度改革の過程で,最高裁判所規則により裁判官指名諮問委員会を最高裁の外に設けたこと,人事評価のシステムを明らかにし手続の透明化を図っていることを説明しています。

裁判官の側からの意見として,浅見宣義(40期)らが平成13年12月までに提出した意見書が,裁判所HPの「最高裁判所事務総局に直接寄せられた裁判官の意見」に掲載されています。人事評価情報の本人開示に関し,これからは裁判官相互に批判すべきところは批判し合い,当事者からの批判意見も聞いて自分を変えていくことが義務とならざるを得ない旨の発言がみられます。

裁判官の人事関係記録の所在については,司法制度改革審議会の照会に対する最高裁判所の回答があります。すなわち,最高裁人事局に各裁判官の人事関係記録があるほか,高裁・地家裁にも所属裁判官の人事関係記録があり,下級裁判所の人事関係記録は異動に伴って移転すること,異動計画は高裁管内の異動を主として各高裁が,全国単位の異動を最高裁人事局が立案し,最高裁と各高裁との協議を経て作成されることが示されています(判例時報2144号(平成24年5月21日号)40頁)。人事記録を閲覧できる者の範囲など高等裁判所事務局長に関わる点は,別記事「高等裁判所事務局長」で扱っています。

第8 明治憲法下の取扱いとの比較

日本国憲法下の司法行政の仕組みは,明治憲法下の裁判所構成法(明治23年法律第6号。昭和22年に裁判所法の施行により廃止)と比較すると,その特徴が明確になります。以下では,制定時の裁判所構成法の条文に即して対比します。

1 司法行政権の主体の違い

(1) 日本国憲法下の取扱い
最高の司法行政権は,最高裁判所長官ではなく,最高裁判所裁判官会議が掌握します(裁判所法12条1項)。各裁判所における司法行政事務は,その裁判所の長ではなく,その裁判所の裁判官会議が行うべきものとされています(裁判所法20条1項,29条2項,31条の5)。

(2) 明治憲法下の取扱い
最高の司法行政権は,行政府の一員である司法大臣が掌握しました(裁判所構成法135条第一)。各裁判所における司法行政事務は,それぞれその裁判所の長が行うべきものとされていました(裁判所構成法135条第二ないし第五)。
実際,大審院長は大審院の行政事務を監督する権限を有し(裁判所構成法44条2項),控訴院長は控訴院の行政事務を監督する権限を有し(裁判所構成法35条2項),地方裁判所長は地方裁判所の行政事務を監督する権限を有していました(裁判所構成法20条2項)。

2 裁判事務の分配方法の違い

(1) 日本国憲法下の取扱い

  • ① 最高裁判所の裁判事務の分配は,毎年12月の最高裁判所裁判官会議が定めます(最高裁判所裁判事務処理規則4条)。
  • ② 下級裁判所の裁判事務の分配は,毎年あらかじめ当該裁判所の裁判官会議が定めます(下級裁判所事務処理規則6条1項)。
  • ③ 部内の事務分配は,各部又は各支部において定めます(下級裁判所事務処理規則6条2項。各部の裁判官の申合せによる例として,広島地裁の裁判事務の分配等に関する申合せ集(平成27年7月2日現在)参照)。

(2) 明治憲法下の取扱い

  • ① 大審院の裁判事務は,大審院長が大審院部長と協議した上で各部に分配し(裁判所構成法45条1項),部内の事務分配は各部の部長が定めていました(裁判所構成法44条3項)。
  • ② 控訴院の裁判事務は,司法大臣が定めた通則に従い,毎年あらかじめ,所長・部長及び部の上席判事の会議に基づき各部に分配され(裁判所構成法36条・22条1項及び3項),部内の事務分配は各部の部長が定めていました(裁判所構成法35条3項)。
  • ③ 地方裁判所の裁判事務は,司法大臣が定めた通則に従い,毎年あらかじめ,所長・部長及び部の上席判事の会議に基づき各部に分配され(裁判所構成法22条1項及び3項),部内の事務分配は各部の部長が定めていました(裁判所構成法20条3項)。

3 代理順序等の定め方の違い

(1) 日本国憲法下の取扱い
裁判官の配置及び裁判官に差し支えのあるときの代理順序は,毎年あらかじめ当該裁判所の裁判官会議が定めます(下級裁判所事務処理規則6条1項)。

(2) 明治憲法下の取扱い

  • ① 大審院の判事に差し支えのあるときの代理順序は,毎年あらかじめ,大審院長が大審院部長と協議した上で定めていました(裁判所構成法45条1項)。
  • ② 控訴院の判事の配置及び代理順序は,毎年あらかじめ,所長・部長及び部の上席判事の会議に基づき定められました(裁判所構成法36条・22条2項及び3項)。
  • ③ 地方裁判所の判事の配置及び代理順序は,毎年あらかじめ,所長・部長及び部の上席判事の会議に基づき定められました(裁判所構成法22条2項及び3項)。

4 司法行政専任の裁判官を認めることは避けるべきとされたこと

『裁判所法逐条解説』上巻168頁は,官僚機構が行政上の監督権者を重視しその地位を高くする傾向をもつことを指摘し,旧憲法下で裁判官が官僚機構に組み入れられていた弊害に触れた上で,司法行政権を所長等の特定の裁判官に一任せず裁判官会議に与えたことは裁判所における官僚制を打破する画期的な変革であったと評価します。
その上で,裁判所における官僚制の打破が望ましい要請である以上,司法行政専任の裁判官を認めることはあくまで避けなければならない,と述べています。

5 戦前の大審院が下級裁判所に対する監督権を有していなかった理由

家永三郎『司法権独立の歴史的考察』(昭和37年7月30日出版)103頁は,明治憲法下の裁判所構成法によれば大審院長は大審院を監督するのみで下級裁判所に対する監督権を与えられていなかったことを指摘します。
同書は,長島毅がその理由を推測し,大審院は上告審の裁判を通じて下級裁判所の裁判に批評を加えており,これが実際上痛切な監督として十分であって,これ以上に行政上の監督権まで大審院に収めることは,判例に従いがちな下級裁判所をますますその傾向に導くおそれがある,というのが立法理由の一つであろうと述べたことを紹介しています。
その上で,現在の最高裁判所が最高上級裁判権と司法行政権とを併有していることは,そうした配慮を度外視したものといわねばなるまい,と評しています。

裁判所の幹部職員の設置根拠・職務内容の定めに関する資料については,山中理司弁護士が次の文書を紹介しています。

第9 司法行政部門の意思決定——決裁・専決・代決

司法行政事務がどのように意思決定されるかについて,「文書事務における知識付与を行うためのツールの改訂版」(平成31年3月7日付の配布文書)の「司法行政部門の意思決定」が整理しています。以下はその要点です。

権限
司法行政事務を行う権限を有する者が,その事務についての意思決定の権限を有します。この権限は法令・通達等によって定まります。
例えば,通達等で各裁判所が行うものとされる事務は,各裁判所の裁判官会議が権限を有しますが(裁判所法20条1項,29条2項,31条の5),各裁判所で定める司法行政事務処理規程等によって長官又は所長に委任されている場合には(下級裁判所事務処理規則20条1項参照),長官又は所長が権限の主体となります。庁によっては,長から事務局長等の下位の者に更に委任されている場合があります。

決裁
司法行政事務の意思決定は「決裁」によって行われます。決裁とは,意思決定の権限を有する者が,押印・署名又はこれらに類する行為により,その内容を裁判所の意思として決定し又は確認する行為をいいます。最終決裁者は,その事務を行う権限を有する者です。

専決
本来の意思決定の権限を有する者が,あらかじめ補助者に,その者の名において決裁し得る権限を付与している場合に,補助者が決裁することを専決といい,最終決裁者は補助者となります。専決による文書の発出名義は,本来の権限を有する者の名となります。例えば,所長から事務局長に専決権限が与えられている場合には,発出名義が所長である文書の決裁を事務局長が行います。

補助者の名において事務を行う権限の委任
本来の権限を有する者が,あらかじめ補助者に,補助者の名において事務を行う権限を委任している場合には,最終決裁者は委任された補助者となり,文書の発出名義も補助者となります。

代決
本来の権限を有する者が出張等により不在で,特に緊急に処理しなければならない決裁文書について,その直近下位の者が内部的に代理の意思表示をして決裁することを代決といいます。代決による文書の発出名義は,本来の権限を有する者の名となります。

司法行政文書の開示・照会について,発出名義が高等裁判所長官であっても事務局長が専決により決裁する場合があるなど,高等裁判所における決裁の具体的な相手方は,別記事「高等裁判所事務局長」で扱っています。

第10 下級裁判所事務処理規則(裁判官会議に関する条文)

裁判官会議の招集・議事・委任等については,下級裁判所事務処理規則が定めています。裁判所公式の現行条文(12条から20条の2まで)は次のとおりです。

第十二条 裁判官会議は、高等裁判所においては高等裁判所長官が、地方裁判所においては地方裁判所長が、家庭裁判所においては家庭裁判所長が、必要に応じてこれを招集する。

第十三条 各高等裁判所、各地方裁判所又は各家庭裁判所の判事(判事の権限を有する判事補を含む。)の三分の一以上が会議の目的及び招集の理由を明らかにして請求したときは、高等裁判所長官、地方裁判所長又は家庭裁判所長は、速やかに裁判官会議を招集しなければならない。

第十四条 裁判官会議の議に付すべき事項は、あらかじめ、当該裁判官会議を組織する各裁判官にこれを通知しなければならない。但し、緊急やむを得ない場合は、この限りでない。

第十五条 裁判官会議は、公開しない。但し、裁判官会議の許可を受けた者は、これを傍聴することができる。
② 判事補(判事の権限を有する者を除く。)及び高等裁判所、地方裁判所又は家庭裁判所の裁判官の職務を行う裁判官は、所属の裁判所又は当該職務を行う裁判所の裁判官会議に出席して、意見を述べることができる。
③ 事務局長は、裁判官会議に出席して、意見を述べることができる。但し、裁判官会議において適当と認めるときは、その出席を拒み、又はこれを退席させることができる。
④ 首席書記官及び首席家庭裁判所調査官は、所管事務に関し、裁判官会議に出席して、意見を述べることができる。この場合においては、前項但書の規定を準用する。
⑤ 裁判官会議において適当と認めるときは、当該裁判官会議を組織する裁判官以外の者の出席を求めて、説明又は意見を聞くことができる。

第十五条の二 検察審査会事務局長は、当該検察審査会の所在地を管轄する地方裁判所の定めるところにより、検察審査会の事務局の職員に関する事項について、裁判官会議に出席して、意見を述べることができる。

第十六条 裁判官会議は、当該裁判官会議を組織する裁判官の半数以上が出席しなければ決議をすることができない。

第十七条 裁判官会議の議事は、出席裁判官の過半数で、これを決し、可否同数のときは、議長の決するところによる。

第十八条 裁判官会議の議事については、議事録を作らなければならない。
② 議事録には、出席者の氏名、議事の経過の要領及びその結果を記載し、議長及びこれを作つた者が、これに署名しなければならない。

第十九条 緊急の事情のため裁判官会議を開くことができない場合には、高等裁判所長官、地方裁判所長又は家庭裁判所長は、応急の措置を講ずることができる。この場合には、次の裁判官会議において承認を得なければならない。

第二十条 司法行政事務は、裁判官会議の議により、その一部を当該裁判官会議を組織する一人又は二人以上の裁判官に委任することができる。
② 裁判官が、前項の規定により、その委任された事務を処理したときは、次の裁判官会議にこれを報告しなければならない。

第二十条の二 第十二条から前条まで(第十五条の二を除く。)の規定は、知的財産高等裁判所に勤務する裁判官の会議について準用する。この場合において、第十二条中「高等裁判所においては高等裁判所長官が、地方裁判所においては地方裁判所長が、家庭裁判所においては家庭裁判所長が」とあるのは「知的財産高等裁判所長が」と、第十三条中「各高等裁判所、各地方裁判所又は各家庭裁判所の判事(判事の権限を有する判事補を含む。)」とあるのは「知的財産高等裁判所に勤務する判事」と、同条及び第十九条中「高等裁判所長官、地方裁判所長又は家庭裁判所長」とあるのは「知的財産高等裁判所長」と、第十五条第二項中「判事補(判事の権限を有する者を除く。)及び高等裁判所、地方裁判所又は家庭裁判所の裁判官の職務を行う裁判官」とあるのは「高等裁判所の裁判官の職務を行う裁判官のうち知的財産高等裁判所に勤務する裁判官」と、同条第三項中「事務局長」とあるのは「知的財産高等裁判所事務局長」と、同条第四項中「首席書記官及び首席家庭裁判所調査官」とあるのは「知的財産高等裁判所首席書記官」と読み替えるものとする。

第11 関連記事

本記事と関連する記事として,次のものがあります。高等裁判所事務局長の各論は,冒頭及び第3の2でも案内した専門記事「高等裁判所事務局長」を参照してください。

1 最高裁判所関係

2 高等裁判所・下級裁判所関係

3 地方裁判所関係

4 その他の司法行政関係資料

出典・参考資料

1 法令・規則

  • 裁判所法(昭和22年法律第59号)——12条・13条・20条・21条・29条・30条・31条の5・37条・53条・57条・59条・60条・61条の2・64条・65条。e-Gov法令検索(https://laws.e-gov.go.jp/law/322AC0000000059 )
  • 下級裁判所事務処理規則(昭和23年最高裁判所規則第16号)——6条・12条から20条の2まで・24条。裁判所公式PDF「下級裁判所事務処理規則(平成24年4月1日現在)」(https://www.courts.go.jp/vc-files/courts/file5/kakyuuki-H240401.pdf )
  • 最高裁判所裁判事務処理規則(昭和22年最高裁判所規則第6号)4条。裁判所HP(https://www.courts.go.jp/toukei_siryou/kisokusyu/sonota_kisoku/sonota_kisoku_06/index.html )
  • 裁判官以外の裁判所職員の任免等に関する規則——2条・3条・4条・5条・6条
  • 裁判所構成法(明治23年法律第6号,昭和22年廃止)——20条・22条・35条・36条・44条・45条・135条(制定時法文。国立国会図書館デジタルコレクション所収の官報・法令全書による)

2 公文書・情報公開資料

  • 平成30年度(最情)答申第32号(平成30年9月21日答申。裁判官会議議事録の署名・印影の不開示)
  • 平成30年度(最情)答申第83号(平成31年3月15日答申。事務総長就任時の裁判所事務官としての取扱い)
  • 令和元年6月13日付の理由説明書(最高裁判所庁舎の入構方法の不開示)
  • 文書事務における知識付与を行うためのツールの改訂版(平成31年3月7日付の配布文書。「司法行政部門の意思決定」)
  • 東京地方裁判所司法行政事務処理規程(昭和57年6月17日東京地方裁判所規程第1号),大阪地方裁判所司法行政事務処理規程(平成16年9月15日大阪地方裁判所規程第1号)
  • 事務部を置く簡易裁判所の指定について(平成6年7月21日付の最高裁判所総務局長通知)
  • 広島地裁の裁判事務の分配等に関する申合せ集(平成27年7月2日現在)
  • 最高裁判所事務総局に直接寄せられた裁判官の意見(裁判所HP。https://www.courts.go.jp/saikosai/iinkai/saiban_kenkyu/saiban_iken/index.html )

3 文献

  • 裁判所法逐条解説 上巻(最高裁判所事務総局,昭和42年)109頁・110頁・167頁・168頁
  • 矢口洪一『最高裁判所とともに』(有斐閣,平成17年)82頁
  • 瀬木比呂志『絶望の裁判所』(講談社現代新書,平成26年)54頁・88頁
  • 龍谷大学社会科学研究所叢書『日本の裁判所——司法行政の歴史的研究』(晃洋書房,平成28年)110頁・111頁
  • 家永三郎『司法権独立の歴史的考察』(日本評論新社,昭和37年)103頁
  • 判例時報2141号17頁,判例時報2144号(平成24年5月21日号)40頁

4 ウェブ資料

  • 西川伸一Online「司法行政からみた裁判官」(http://www.nishikawashin-ichi.net/oral-reports/oralreports-34.pdf )
  • 河合健司元仙台高裁長官講演会講演録「裁判官の実像」(早稲田大学リポジトリ)

本記事は,裁判所法及び下級裁判所事務処理規則の2026年7月時点の現行条文に基づきます。情報公開に関する答申・理由説明書及び国会答弁は,各資料の作成時点のものです。裁判所構成法は制定時(明治23年)の法文に基づき対比しています。