メインコンテンツへスキップ
       

東京地裁の所長代行者―種類・選挙・職務と公開資料(AIリライト)

第1 所長を常時補佐する司法行政上の役職

東京地裁の所長代行者は,所長を常時補佐し,所長に差支えがあるときにその職務を代行する裁判官である。
本庁民事部・刑事部で選出される者のほか,専門部の部総括判事,東京簡裁の司法行政事務を掌理する裁判官及び立川支部長が所長代行者となる仕組みがあり,選任方法や職務の範囲は一様ではない。

地方裁判所の司法行政は,裁判官会議の議によって行い,所長が総括する(裁判所法29条2項)。
所長代行者の具体的な構成と職務は,東京地裁の司法行政事務処理規程24条に定められている。

本記事では,法令は令和8年8月31日現在のものを,東京地裁の庁内規程は令和6年8月当時の開示資料を基に説明する。
この開示資料は事務処理規程の関係部分と選出・任期に関する規程を収録したものであり,令和6年8月より後の庁内規程の改正や,現在の在職者全員を示すものではない。

第2 所長代行者の種類と選任方法

1 規程上の構成と担当範囲

令和6年8月当時の事務処理規程24条4項・6項~8項に示された構成は,次のとおりである。
本庁民事部2人,本庁刑事部2人と,それ以外の5つの役割を合わせると9人分となるが,全員が同じ方法で選ばれるわけではない。

区分人数選任方法・根拠職務の範囲に関する規定
本庁民事部の所長代行者2人同部の各部に配置された判事から選出(24条4項・5項)所長の常時補佐・差支え時の代行(同条2項)
本庁刑事部の所長代行者2人同部の各部に配置された判事から選出(同条4項・5項)同上
民事執行を担当する所長代行者1人民事第21部の部総括判事を充てる(同条7項1号)同部及び民事執行センターに係る業務に限る(同条8項)
商事・倒産・知財の各部を担当する所長代行者1人民事第8部・第20部・第29部・第40部・第46部・第47部の部総括判事から所長が指名(同条7項2号)これらの部及び中目黒庁舎に係る業務に限る(同条8項)
行政・労働・医事の各部を担当する所長代行者1人民事第2部・第3部・第11部・第14部・第19部・第30部・第33部・第34部・第35部・第36部・第38部・第51部の部総括判事から所長が指名(同条7項3号)これらの部に係る業務に限る(同条8項)
東京簡裁の司法行政事務を掌理する裁判官1人東京地裁の裁判官が東京簡裁の裁判官を兼ね,その司法行政事務を掌理する裁判官に指名された場合。ただし東京地裁所長である場合を除く(同条6項)同条6項により所長代行者となる
立川支部長1人支部長を充てる(同条4項)同条4項により所長代行者となる

専門部に関する3人の所長代行者は,規程24条8項により,それぞれ限定された業務について所長を補佐し,差支え時に職務を代行する。
このうち商事・倒産・知財及び行政・労働・医事の2系統は,平成29年6月29日の規程改正によって設けられた。

東京簡裁の司法行政事務を掌理する裁判官については,裁判所法37条が,裁判官が2人以上いる簡易裁判所では最高裁判所が1人を指名する仕組みを定めている。
東京地裁の所長代行者となるのは,これに加えて上表の兼官等の条件を満たす場合である。

2 第一・第二の順位と部の配置

本庁民事部・刑事部の所長代行者には,第一・第二という順位を付した呼び方が用いられる。
ただし,事務処理規程24条4項は各部門の判事から2人を選ぶことを定めるもので,第一・第二の担当部を固定していない。
平成31年度の選挙関係文書には民事第9部及び刑事第14部に配置された所長代行者が記載されているが,配置された部と代理順位は区別して確認する必要がある。

下級裁判所事務処理規則22条は,所長等に差支えがある場合の司法行政上の代理順序を,毎年あらかじめ裁判官会議の議で定め,変更もその議によって行うものとしている。
所長代行者の選出,裁判官の異動及び代理順序の変更は別の事柄であり,第一代行の転出によって第二代行が当然に第一代行になるという規定ではない。
個々の就任・転出の経過は,東京地裁の歴代の第一所長代行を参照されたい。

第3 民事部・刑事部の選挙と任期

本庁民事部・刑事部の各2人の所長代行者は,常置委員及び所長代行者の選出方法及び任期に関する規程に基づく選挙で選ばれる。
選挙人は,それぞれの部門に配置された判事及び判事の権限を有する判事補であり,所長代行者に選ばれる者は事務処理規程24条4項にいう判事である。

定例選挙の主な仕組みは,次のとおりである(選出・任期規程3条~9条)。
①定例選挙は毎年12月中に行い,投票は2名連記の無記名式とする。
②所長が選挙長となり,選挙人の中から委嘱された選挙管理人2人が投票・開票を管理する。
③開票は投票終了後直ちに行い,結果を投票所に掲示する。
当選人は得票によって決まり,同数の場合は抽選による。

所長代行者に欠員が生じた場合は1か月以内に補欠選挙を行い,投票は単記無記名式とする。
補欠選挙による当選者の任期は前任者の残任期間となる(同規程3条2項・6条・13条2項)。

定例選挙で選ばれた所長代行者の任期は翌年1月1日から1年間であり,再任を妨げない。
選出時の本庁民事部又は本庁刑事部から他に配置換えとなったときは退任する(同規程13条・14条)。

常置委員も選挙の対象であるが,所長代行者と同一の役職ではない。
令和6年8月当時の事務処理規程4条は,本庁民事部・刑事部から選出する常置委員を各7人,立川支部から選出する常置委員を1人とし,所長・所長代行者等とともに常置委員会を組織するものとしている。
常置委員についての次点者の繰上げ規定を,そのまま所長代行者に当てはめることはできない。

第4 選挙関係文書と得票情報

1 8年分の選挙資料と不開示情報

東京地裁の常置委員及び所長代行者の選挙関係文書について,平成28年度から令和5年度までの8年分を以下に掲げる。
各年のリンクから,告示,選挙通知,開票関係資料等をまとめたPDFを参照できる。

平成28年度 ②平成29年度 ③平成30年度 ④平成31年度
令和2年度 ⑥令和3年度 ⑦令和4年度 ⑧令和5年度

令和2年度(情)答申第31号は,令和2年度の選挙関係文書について,候補者別の得票数等を不開示とした判断を妥当とした裁判所の情報公開に関する答申である。
告示された当選者等の氏名と,個人を識別できる非公表の氏名・得票情報は区別されており,過去に得票情報が開示されたことだけで,公にする慣行があるとは認めなかった(答申3頁~4頁)。

掲載資料でも,令和2年度及び令和5年度の開票結果には黒塗りがある。
当選者の氏名を確認できることと,各候補者の得票数まで確認できることは同じではなく,個々の年度の資料ごとに開示範囲を見ることになる。

2 選挙の運用を述べた文献

瀬木比呂志絶望の裁判所』(講談社,平成26年)25頁~26頁は,東京地裁の第一代行が司法行政に専念していたことや,選挙の投票先が事前に指示され,その指定が「天の声」と呼ばれていたことを述べている。
これは著者が当時の運用として記した内容であり,選任の根拠となる規程の文言や,現在のすべての選挙の実態を示す資料とは区別される。

同書が常置委員の人数を民事・刑事各5,6人程度と説明している点も,令和6年8月当時の規程が各7人としていることとは時点が異なる。
制度の仕組みは規程から,個々の年の選出結果は選挙文書から,著者の経験や評価は文献から読み取るのが適切である。

第5 人事評価と裁判への関与

1 評価権者と所長の補佐を区別する

裁判官の人事評価に関する規則2条1項は,判事・判事補の評価を所属裁判所の長が行うことを原則としている。
地方裁判所・家庭裁判所の長が行った評価については管轄の高等裁判所長官が調整・補充を行い,裁判所の長自身を評価する場合等には別に定める方法による(同条2項・3項)。

平成14年7月16日の「裁判官の人事評価の在り方に関する研究会報告書」は,当時の評価の状況を説明した箇所で,大規模な裁判所では所長代行が所長を補佐していると記している(第2・6(3))。
また,東京地裁刑事部人事評価関係検討チームの意見は,地裁の所長又は所長代行者を評価権者とするのが相当との考えを示していた。
この意見は制度検討のために寄せられた提案であり,平成16年制定の人事評価規則と同じ効力を持つものではない。

所長の評価業務を補佐することと,規則上の評価権者として評価を行うことは区別される。
所長代行者という肩書だけから,独立した評価権者であると扱うことはできない。

2 司法行政上の事務分配と裁判権の限界

裁判所法81条は,司法行政上の監督権が裁判官の裁判権に影響を及ぼし,又はこれを制限するものではないと定める。
所長を補佐する役職であることから,個々の裁判の結論を指示する権限が生じるわけではない。

最高裁昭和49年7月18日第一小法廷決定(昭和48年(あ)第2460号,集刑193号145頁)は,東京地裁の裁定合議委員会による併合案の作成や事前調査を事務分配に関する職務と捉え,所長代行裁判官が委員として参加したことも職務の執行であるとした。
同決定は,当該事案について裁判への司法行政の支配介入であるとの主張を退けたものであり,裁判内容への個別の指示一般を許容したものではない(決定2頁)。

第6 在職者を調べる資料と関連記事

裁判所ウェブサイトの東京地方裁判所委員会委員一覧には,令和8年8月18日現在,所長代行者という肩書の委員2人が掲載されている。
ただし,同一覧は委員会の名簿であって,所長代行者全員の名簿や,民事・刑事の第一・第二の順位表ではない。
担当裁判官一覧も裁判の担当を調べる資料であるため,所長代行者としての地位は別途確認する必要がある。

令和6年度法曹連絡協議会の出席者名簿には,民事部・刑事部を付した所長代行の肩書と,単に東京地裁所長代行とする肩書が併存する(資料22頁,PDF70頁)。
肩書の省略だけから,その者の担当範囲や代理順位が分かるわけではない。

東京地裁の所長人事や,他の裁判所の代行者を調べる場合には,次の記事が参考となる。
歴代の東京地裁所長
東京家裁の歴代の家事部所長代行者
大阪地裁の所長代行者,上席裁判官等

裁判官会議と委任先の関係は,次の記事で扱っている。
下級裁判所の裁判官会議から権限を委任された機関
下級裁判所の裁判官会議が行う司法行政事務

第7 出典・参考資料

1 法令・最高裁判所規則

裁判所法(昭和22年法律第59号)29条2項,37条,81条(e-Gov法令検索)
下級裁判所事務処理規則(昭和23年最高裁判所規則第16号)22条(PDF4頁~5頁)
裁判官の人事評価に関する規則(平成16年最高裁判所規則第1号)2条(PDF1頁)

2 東京地裁の規程・選挙関係文書

①東京地方裁判所「東京地裁民事部及び刑事部の所長代行者,並びに常置委員の選出方法及び任期について定めた文書(令和6年8月当時のもの)」所収の司法行政事務処理規程4条・24条(資料2頁・7頁~8頁,PDF3頁~5頁)
②東京地方裁判所「常置委員及び所長代行者の選出方法及び任期に関する規程(令和6年8月当時の文書)」1条~14条(資料1頁~4頁)
③東京地方裁判所「司法行政事務処理規程(平成29年6月29日改正後)」24条・同改正の附則
④東京地方裁判所「常置委員及び所長代行者の選挙関係文書」平成28年度~令和5年度(8年分のリンクは第4に掲載。
本文で配置例を参照したのは平成31年度PDF3頁,黒塗りを参照したのは令和2年度・令和5年度の各PDF6頁)

過去の版として,司法行政事務処理規程の平成31年4月1日適用分及び選出・任期規程の平成30年6月28日適用分も参照できる。
前者と令和6年8月当時の資料では,24条8項の中目黒庁舎に関する記載等に違いがある。

3 情報公開の答申・人事評価の制度検討資料

①裁判所情報公開・個人情報保護審査委員会「令和2年度(情)答申第31号」(令和3年1月25日)3頁~4頁
②裁判官の人事評価の在り方に関する研究会「研究会報告書」(平成14年7月16日)第2・6(3)
③東京地方裁判所刑事部人事評価関係検討チーム「人事評価の在り方に関する研究会に対する意見の送付について」1頁(作成日は本文から特定できない)

4 裁判例

最高裁昭和49年7月18日第一小法廷決定(昭和48年(あ)第2460号,集刑193号145頁,裁判所ウェブサイト,参照箇所は決定2頁)

5 名簿・文献

①東京地方裁判所「東京地方裁判所委員会委員」(令和8年8月18日現在)及び「担当裁判官一覧」(リンクは第6に掲載)
②「令和6年度法曹連絡協議会に関する文書」所収の出席者名簿(令和6年12月3日の協議会,資料22頁,PDF70頁。
リンクは第6に掲載)
瀬木比呂志『絶望の裁判所』(講談社,平成26年)25頁~26頁