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下級裁判所の裁判官会議からの権限委任と常置・常任委員会(AIリライト)

第1 裁判官会議からの権限委任の仕組み

1 裁判官会議の議による司法行政と委任

高等裁判所及び地方裁判所の司法行政事務は,裁判官会議の議により行い,長官又は所長が総括する仕組みである(裁判所法20条1項・29条2項)。
家庭裁判所にも地方裁判所の規定が準用されるが,簡易裁判所の司法行政事務は,同法37条により1人の裁判官が掌理するため,本記事で扱う裁判官会議からの委任とは仕組みが異なる。

裁判官会議は,司法行政事務の一部を,その構成員である1人又は数人の裁判官に委任できる(下級裁判所事務処理規則20条1項)。
委任を受けた裁判官が処理した事務は,次の裁判官会議に報告することとされており,緊急処理について次の裁判官会議の承認を要する同規則19条とは区別される(同規則20条2項)。

2 常置委員会・常任委員会の名称だけでは権限は分からない

各庁の規程では,長官・所長への事務の委任,委員会への諮問,委員会の同意,部会議による処理などが組み合わされている。
したがって,常置委員会又は常任委員会という名称だけで,その委員会が最終的な決定権を持つとはいえない。

以下では,東京・大阪の高等裁判所と地方裁判所について,構成と権限を規程ごとに示す。
調査基準日は令和8年8月31日であり,各庁の規程は次表の版・改正資料に基づくもので,その後の改正を網羅した現行規程集ではない。

裁判所委員会本記事で用いる規程・改正資料の時点
東京高裁常置委員会常置委員会規程は平成17年3月18日改正表示。事務処理規則は令和6年3月8日改正・同年4月1日施行
大阪高裁常任委員会裁判官会議規則は昭和53年12月14日改正表示
東京地裁常置委員会司法行政事務処理規程は平成31年3月12日改正・同年4月1日適用
大阪地裁常任委員会平成20年12月15日改正表示の規程と,令和5年6月30日に可決・施行された委員構成の改正資料

第2 東京高裁と大阪高裁の委員会

1 東京高裁の常置委員会

東京高等裁判所常置委員会規程2条によれば,常置委員は12人であり,民事部から5人,刑事部から5人,知的財産高等裁判所から2人を選出する。
このうち民事部代表・刑事部代表各1人は,全委員の互選により選ばれる(PDF1頁)。

一方,東京高等裁判所事務処理規則3条は,一定の事項を除いて司法行政事務を長官に委任し,別表に掲げる事項については,あらかじめ常置委員会の同意を得るか,常置委員会に諮問する仕組みを定めている。
例えば,分限事件の申立て及び抗告は,常置委員会の同意を要する事項である(同規則3条2項・別表,PDF1頁・6頁)。

常置委員会には,同意・承認・答申のほか,司法行政事務について企画し,意見を述べる役割もある。
また,長官は委任された事務を常置委員会に処理させることができるため,常置委員会の役割を単なる諮問だけで説明することはできない(同規則4条2項・4項,PDF1頁~2頁)。

2 大阪高裁の常任委員会

大阪高等裁判所裁判官会議規則12条によれば,常任委員は8人である。
その内訳は,長官の司法行政事務の代理順位が民事係・刑事係でそれぞれ第1位の者と,判事の中から互選された6人である(PDF2頁)。

同規則10条・11条は,一定の事項を除く司法行政事務を長官に委任し,長官から次の裁判官会議への報告を定めている。
常任委員会は,委任された事項について長官の諮問に応じて意見を述べる機関とされており,東京高裁のように同意事項を定める仕組みとは区別される(同規則12条3項,PDF1頁~2頁)。

第3 東京地裁の各部会議と常置委員会

1 裁判官会議と3つの部会議

東京地方裁判所司法行政事務処理規程2条は,裁判官会議のほか,本庁民事部会議,本庁刑事部会議,立川支部会議及び常置委員会を置いている。
同規程にいう裁判官は,判事及び判事の権限を有する判事補であり,裁判官会議は,所長,所長代行者及び各部に配置された裁判官の全員で組織する(同規程3条1項,PDF2頁)。

各部会議の構成は,次のとおりである(同規程3条2項,PDF2頁)。

①本庁民事部会議は,所長,本庁民事部の所長代行者及び本庁民事部の各部に配置された裁判官の全員で組織する。
②本庁刑事部会議は,所長,本庁刑事部の所長代行者及び本庁刑事部の各部に配置された裁判官の全員で組織する。
③立川支部会議は,所長,立川支部長及び立川支部の各部に配置された裁判官の全員で組織する。

2 常置委員会の構成

常置委員会は,所長,所長代行者,本庁民事部・本庁刑事部から選出される各7人の常置委員及び立川支部から選出される1人の常置委員で組織する。
立川支部の1人は,立川支部長及び同支部の各部に配置された裁判官の中から選出するものであり,支部長とは別に1人を加える構成ではない(同規程4条1項,PDF2頁)。

常置委員の選出方法及び任期は,別に定めるものとされている。
この組織規定だけから,所長代行者の人数を仮定して委員総数を確定することはできない(同規程4条2項)。

3 部会議による処理と所長への委任

本庁民事部,本庁刑事部又は立川支部だけに関する事項は,それぞれの部会議の議により,裁判官会議の議に代えて処理できる。
本庁民事部と本庁刑事部に共通する事項は両部会議の合同の議によることができ,各部会議が処理した事項は,次の裁判官会議に報告して承認を得る仕組みである(同規程5条2項・6条,PDF2頁~3頁)。

同規程7条は,一定の事項を除く司法行政事務を所長に委任し,別紙に掲げる事項では常置委員会の意見を聴くことを原則としている。
ただし,分限事件の申立て及び抗告は,所長への委任から除かれている(同規程7条1項6号・2項,PDF3頁)。

第4 大阪地裁の常任委員会

1 裁判官会議と常任委員会の構成

大阪地方裁判所司法行政事務処理規程2条は,司法行政の機関として裁判官会議及び常任委員会を置いている。
裁判官会議は,所長,所長代行者並びに本庁の民事部・刑事部の各部及び各支部に配置された判事・判事の権限を有する判事補の全員で組織する(同規程3条,PDF1頁~2頁)。

常任委員会の構成員には,所長,所長代行者,堺支部長,岸和田支部長,民事上席裁判官及び刑事上席裁判官が含まれる。
この所長代行者は,同規程21条3項1号に定める者を指す(同規程4条1号~4号,PDF2頁)。

2 民事・刑事から選出する委員と令和5年の改正

上記の役職による委員に加え,民事・刑事から各3人の常任委員を選出する。
令和5年6月30日の裁判官会議議事録では,選出母体を次のように定める改正が可決され,同日施行とされている(PDF1頁・81頁)。

①民事の3人は,本庁及び堺支部の民事部の各部並びに岸和田支部に配置された裁判官から選出する。
②刑事の3人は,本庁及び堺支部の刑事部の各部に配置された裁判官から選出する。
③民事・刑事の各3人のうち,各1人は判事の権限を有する判事補である。

平成20年改正表示の規程では,刑事の選出母体は本庁の刑事部の各部であった。
令和5年の改正資料によって堺支部を含むことが確認できるが,この議事録だけで規程全体のその後の改正まで確認できるわけではない。

3 所長への委任と常任委員会の意見

同規程6条1項は,規則・規程の制定改廃,裁判事務の分配,裁判官の配置,開廷の日割などの事項を除き,司法行政事務を所長に委任する仕組みを定めている。
常任委員会は,所長が委任事務を処理する際に,別紙に掲げる事項について意見を聴く機関として位置付けられている(同規程6条2項,PDF3頁~4頁)。

所長の事務処理に常任委員会が関与することと,裁判官会議の権限が常任委員会に包括的に移ることは同じではない。
同規程でも,司法行政事務を裁判官会議の議により行い,所長が総括する原則を置いた上で,委任事務と委員会への意見聴取を定めている(同規程5条・6条)。

第5 権限委任を扱った最高裁決定

最高裁平成10年12月1日大法廷決定(平成10年(分ク)第1号,民集52巻9号1761頁,裁判所ウェブサイト)は,裁判官の懲戒申立てを裁判官会議から所長に委任できるかを扱っている。
同決定は,懲戒申立てが所属裁判所の裁判官会議の権限に属することを前提としつつ,下級裁判所事務処理規則20条1項による委任を認めた(決定本文「第二の五」,PDF19頁~20頁)。

同事件では,当時の仙台地裁の事務処理規則が所長への委任から除外した事項に分限事件の申立てが含まれていなかったため,申立ての都度,裁判官会議を開かなかったことを違法とはしなかった。
これは当該規程を前提とする判断であり,東京地裁の前記規程のように申立て・抗告を委任から除く場合まで,所長だけで処理できるとするものではない。

また,ここで問題となったのは懲戒を求める申立ての権限であり,懲戒の裁判自体を所長が行うという意味ではない。
司法行政上の監督権が裁判官の裁判権に影響を及ぼし,又はこれを制限することはないという原則とも区別して理解する必要がある(裁判所法81条)。

第6 開催頻度・運営を知るための資料

大阪高裁の前記規則3条は4月・12月,大阪地裁の前記規程7条は6月・12月の定例裁判官会議を定めているが,必要に応じた開催も予定している。
下級裁判所事務処理規則12条・13条も必要に応じた招集及び構成員の3分の1以上の要求による招集を定めており,定例会議が年2回とされていることから,実際の総開催回数も年2回だけであるとはいえない。

最高裁判所事務総局総務局編『裁判所法逐条解説 上巻』(法曹会,1967年)168頁~169頁は,裁判官会議による司法行政と裁判官の自主性を論じるとともに,日常的・機械的な事務の委任を認める説明をしている。
これは同書の制度解説であり,委任の可否や範囲を具体的に確認する際には,前記の最高裁判所規則と各庁の規程を併せて読むことになる。

竹内浩史による弁護士JPの記事(令和6年6月22日公開)は,裁判官会議が5分~10分程度で終わるとの経験を紹介している。
同記事は著書からの抜粋・構成であることを明示しており,個人の経験に基づく説明として読む資料であって,全国の裁判所の現在の所要時間を示す統計ではない。

個別の運営資料としては,神戸地裁の平成24年度常任委員会議事録(7月~9月)がある。
裁判官会議一般の制度と議事録については,下級裁判所の裁判官会議及び司法行政も参照されたい。

最高裁判所の運営に関する資料は,最高裁判所の裁判官会議同会議の議事録最高裁判所の常置委員会に関する資料及び事務総局会議の議事録にまとめている。
これらは下級裁判所4庁の規程とは対象を異にする関連資料である。

第7 出典

1 法令・最高裁判所規則

裁判所法20条・29条・31条の5・37条・81条(e-Gov法令検索,令和8年8月31日確認)。
下級裁判所事務処理規則12条・13条・19条・20条(昭和23年最高裁判所規則第16号,裁判所ウェブサイト掲載の平成24年4月1日施行版)。

2 各庁の規程・議事録

東京高等裁判所常置委員会規程2条(PDF1頁,平成17年3月18日改正表示)。
東京高等裁判所事務処理規則3条・4条・別表(PDF1頁~2頁・6頁,令和6年3月8日改正)。
大阪高等裁判所裁判官会議規則3条・10条~12条(PDF1頁~2頁,昭和53年12月14日改正表示)。

東京地方裁判所司法行政事務処理規程2条~7条(PDF2頁~3頁,平成31年4月1日適用分)。
大阪地方裁判所司法行政事務処理規程2条~7条(PDF1頁~4頁,平成20年12月15日改正表示)。
大阪地裁の裁判官会議議事録(令和5年6月30日開催分)(可決記録はPDF1頁,委員構成の新旧対照表はPDF81頁)。
神戸地裁の平成24年度常任委員会議事録(7月~9月)(運営資料への案内として掲載)。

以上の各庁資料へのリンクは,ブログに掲載された公文書の写しである。
改正時点の異なる資料を含むため,適用時点は本文及び各資料の表示による。

3 裁判例

最高裁平成10年12月1日大法廷決定(平成10年(分ク)第1号,民集52巻9号1761頁,裁判所ウェブサイト)。
委任に関する判示は,決定本文「第二の五」(PDF19頁~20頁)を参照。

4 書籍・個人による解説

①最高裁判所事務総局総務局編『裁判所法逐条解説 上巻』(法曹会,1967年)168頁~169頁。
リンク先は国立国会図書館の書誌であり,引用・要約の根拠頁は同書の印刷頁による。

竹内浩史による弁護士JPの裁判官会議に関する記事(令和6年6月22日公開)。
著書『「裁判官の良心」とはなにか』(弁護士会館ブックセンター出版部LABO)からの抜粋・構成として公表された個人の解説である。