令和3年司法試験刑法の答案で,どの事実をどの規範へつなげるか。偽装強盗,商品占有,共犯の錯誤,後発故意,共犯解消と同時傷害の特例を,評価項目と完成答案で確認する。
第1 この記事の対象と結論
本記事は,令和3年司法試験の刑事系科目第1問(刑法)について,法務省の出題の趣旨と採点実感から独自に抽出した84項目の評価項目と,5段階の重み,完成答案を示す。重み5は22項目である。法務省の公式採点基準・配点・得点又は合格可能性を示すものではない。
設問1では,甲・丙の窃盗,乙の共謀共同正犯と共犯の錯誤,丁の保管途中の故意を順に検討する。設問2では,共犯関係の解消と同時傷害の特例の適用範囲を分け,責任否定の説明と責任肯定の反論を組み立てる。法状態の基準日は試験実施日の令和3年5月15日とする。
第2 評価項目の示し方と重み付けの基準
1 評価項目の示し方
一つの行を一つの判定対象とし,番号は記事全体で連続させる。「必須」は当該構成の検討を進めるための要求,「高評価」は理由付けの充実,「負例」は避けるべき誤り,「許容分岐」はその構成を採用する場合の要求を表す。別の理論・結論の条件付き項目を,全答案への累積要求にはしない。負例は誤りの回避を確認する行であり,逆の内容を書かせるものではない。
「出題の趣旨」「採点実感」欄は各資料のPDF頁と関連記述を示す。「記載なし」は第1問の関連範囲を実読した上で,その具体的記述がないとの意味であり,資料を読んでいないという意味ではない。根拠が間接であればその旨を付す。項目化,区分及び重みの判断は本記事の分析である。
2 5段階の重み付けの基準
①重み5:採点実感が評価の分かれ目とした事項,又は答案の骨格そのもの。
②重み4:出題の趣旨が検討を求め,採点実感も評価又は具体的な誤りの指摘を通じて取り上げる事項。全てを「高く評価した事項」とは扱わない。
③重み3:どちらか一方が明示する中核の理由付け。
④重み2:一方が軽い表現で触れる補強又は典型的な誤り。
⑤重み1:一方が控えめに触れるだけの事項。
区分と重みは独立している。重み5でも負例は回避監査であり,許容分岐はその枝を採用する場合だけ対象になる。5段階への件数割当てはせず,公式資料の取り上げ方と構造上の役割から項目ごとに判断した。
第3 本問の概要
設問1の舞台は腕時計店である。甲と副店長の丙は強盗に見せ掛け,商品100点を持ち去る。商品管理の重要事項には店長Cの承認が必要であり,Cと丙の双方が鍵を持つ。乙は内通を知らず,強盗のつもりで見張りと逃走車運転を担当する。丙は自己の取り分を丁へ預け,丁は当初盗品と知らなかったが,5日後に値札から盗品と認識し,その後も保管する。
設問2では,甲と丙が乙への暴行を共謀する。甲の木刀殴打の後,乙の通報発言を受けて丙が暴行を続け,制止した甲を殴って失神させ,甲の木刀で乙を殴る。乙の頭部裂傷は甲又は丙の木刀殴打のいずれか一方だけに起因するが,どちらか不明である。求められるのは,甲が裂傷の責任を負わない説明と,責任を負う立場からの論点別反論であり,自説の結論を選ぶことではない。
設問1では財物の取得・分配・丁の保管を対象とする。設問2では本件頭部裂傷の帰責に絞り,別の手拳暴行を裂傷原因へ追加しない。問題文が検討を除外する刑法130条は論じない。
第4 評価項目と重み
1 設問1・甲及び丙
| 番号 | 評価項目 | 重み | 出題の趣旨 | 採点実感 |
|---|---|---|---|---|
| 1 | 偽装行為が財物奪取に向けた反抗抑圧手段でないと説明する 【必須】 | 5 | 15頁・設問1について⑴甲及び丙の罪責について。関連記述:「財物の奪取に向けられたもの」。 | 2頁・3⑵ア(ア)甲及び丙の罪責。関連記述:「強盗を仮装する手段にすぎず」。 |
| 2 | 強盗の暴行・脅迫について反抗抑圧に足りる程度という規範を示す 【必須】 | 4 | 15頁・設問1について⑴甲及び丙の罪責について。関連記述:「反抗を抑圧」。 | 3頁・3⑵ア(ア)甲及び丙の罪責。関連記述:「反抗を抑圧」。 |
| 3 | ナイフと発言を一般的危険だけで評価せず内通・演技計画を当てはめる 【必須】 | 4 | 15頁・設問1について⑴甲及び丙の罪責について。関連記述:「内通していた」。 | 3頁・3⑵ア(ア)甲及び丙の罪責。関連記述:「具体的な事実関係」。 |
| 4 | 甲が偽装を認識しているため強盗の故意も否定する 【必須】 | 4 | 15頁・設問1について⑴甲及び丙の罪責について。関連記述:「故意を認めることもできない」。 | 2頁・3⑵ア(ア)甲及び丙の罪責。関連記述:「両名には同罪の故意も認め」。 |
| 5 | 一般人なら怖いとの理由だけで強盗既遂・未遂を肯定しない 【負例】 誤りの回避を確認。 | 5 | 15頁・設問1について⑴甲及び丙の罪責について。関連記述:「強盗罪の構成要件に該当しない」。 | 3頁・3⑵ア(ア)甲及び丙の罪責。関連記述:「強盗罪(又は強盗未遂罪)」。 |
| 6 | 現実に反抗を抑圧していないだけを理由に強盗を否定しない 【負例】 誤りの回避を確認。 | 2 | 記載なし(第1問の関連範囲を実読)。 | 3頁・3⑵ア(ア)甲及び丙の罪責。関連記述:「現実に反抗を抑圧」。 |
| 7 | 強盗構成要件該当後の丙の同意による違法性阻却と処理しない 【負例】 誤りの回避を確認。 | 2 | 記載なし(第1問の関連範囲を実読)。 | 3頁・3⑵ア(ア)甲及び丙の罪責。関連記述:「違法性が阻却」。 |
| 8 | 商品の占有の帰属を窃盗と業務上横領の区別として提示する 【必須】 | 5 | 15頁・設問1について⑴甲及び丙の罪責について。関連記述:「占有の帰属が問題」。 | 3頁・3⑵ア(ア)甲及び丙の罪責。関連記述:「占有の帰属」。 |
| 9 | 下位保管者の現実支配だけでなく上位者Cの占有を検討する 【必須】 | 4 | 15頁・設問1について⑴甲及び丙の罪責について。関連記述:「占有は上位者に属し」。 | 3頁・3⑵ア(ア)甲及び丙の罪責。関連記述:「Cの占有を検討」。 |
| 10 | 管理を完全に委ね独立権限・裁量を与えた場合の例外を示す 【必須】 | 3 | 15頁・設問1について⑴甲及び丙の罪責について。関連記述:「独立の権限・裁量」。 | 記載なし(第1問の関連範囲を実読)。 |
| 11 | 商品管理の権限を人事・帳簿・売上金管理の権限と区別する 【必須】 | 4 | 15頁・設問1について⑴甲及び丙の罪責について。関連記述:「腕時計の管理」。 | 3頁・3⑵ア(ア)甲及び丙の罪責。関連記述:「売上金の」。 |
| 12 | 仕入れ・店外持出し・価格設定にCの承認が必要という事実を評価する 【必須】 | 4 | 15頁・設問1について⑴甲及び丙の罪責について。関連記述:「Cの承認」。 | 1頁・2出題の趣旨。関連記述:「全てCの承認」。 |
| 13 | 閉鎖された店舗内・原則常時施錠のケースによる管理を評価する 【必須】 | 4 | 15頁・設問1について⑴甲及び丙の罪責について。関連記述:「閉鎖された空間」。 | 1頁・2出題の趣旨。関連記述:「常時施錠」。 |
| 14 | 鍵を丙だけでなくCも所持する事実を評価する 【必須】 | 4 | 15頁・設問1について⑴甲及び丙の罪責について。関連記述:「丙のみならずC」。 | 1頁・2出題の趣旨。関連記述:「Cも所持」。 |
| 15 | 常時防犯カメラ撮影録画を商品管理の評価に用いる 【必須】 | 3 | 15頁・設問1について⑴甲及び丙の罪責について。関連記述:「防犯カメラ」。 | 記載なし(第1問の関連範囲を実読)。 |
| 16 | Cの占有が残るなら丙との共同占有でも窃盗となると示す 【必須】 | 4 | 15頁・設問1について⑴甲及び丙の罪責について。関連記述:「Cの占有を肯定」。 | 3頁・3⑵ア(ア)甲及び丙の罪責。関連記述:「共同占有」。 |
| 17 | A社所有の腕時計を他人の財物として特定する 【必須】 | 3 | 15頁・設問1について⑴甲及び丙の罪責について。関連記述:「「他人の財物」」。 | 記載なし(第1問の関連範囲を実読)。 |
| 18 | 解錠・バッグ詰め・交付・持去りをCの意思に反する占有移転として特定する 【必須】 | 4 | 15頁・設問1について⑴甲及び丙の罪責について。関連記述:「「窃取」」。 | 3頁・3⑵ア(ア)甲及び丙の罪責。関連記述:「実行行為に当たる」。 |
| 19 | 占有侵害の故意を問題文の内通・偽装に対応させる 【必須】 | 3 | 15頁・設問1について⑴甲及び丙の罪責について。関連記述:「故意及び不法領得」。 | 記載なし(第1問の関連範囲を実読)。 |
| 20 | 分配して自己の物にする意思を不法領得意思の二要素で説明する 【必須】 | 3 | 15頁・設問1について⑴甲及び丙の罪責について。関連記述:「不法領得の意」。 | 記載なし(第1問の関連範囲を実読)。 |
| 21 | 甲丙の意思連絡と窃取の実行分担を簡潔に示す 【必須】 | 4 | 15頁・設問1について⑴甲及び丙の罪責について。関連記述:「両者が実行行為を分」。 | 3頁・3⑵ア(ア)甲及び丙の罪責。関連記述:「実行行為を分担」。 |
| 22 | 甲を窃盗・丙を横領とする占有評価の不整合を避ける 【負例】 誤りの回避を確認。 | 2 | 記載なし(第1問の関連範囲を実読)。 | 3頁・3⑵ア(ア)甲及び丙の罪責。関連記述:「一貫性を欠いた」。 |
| 23 | 甲丙の明白な共同実行を乙と同じ厚さで冗長に論じない 【負例】 誤りの回避を確認。 | 2 | 15頁・設問1について⑴甲及び丙の罪責について。関連記述:「簡潔に指摘」。 | 3頁・3⑵ア(ア)甲及び丙の罪責。関連記述:「長々と論ずる」。 |
| 24 | C占有否定枝では業務上・自己占有・他人物・横領・故意を検討する 【許容分岐】 条件:当該理論・結論を採用する場合のみ | 3 | 15頁・設問1について⑴甲及び丙の罪責について。関連記述:「業務上横領罪の構成要件」。 | 3頁・3⑵ア(ア)甲及び丙の罪責。関連記述:「業務上横領罪とした」。 |
| 25 | 横領枝では丙の身分と無身分甲への65条の作用を説明する 【許容分岐】 条件:当該理論・結論を採用する場合のみ | 3 | 15頁・設問1について⑴甲及び丙の罪責について。関連記述:「刑法第65条の解釈」。 | 記載なし(第1問の関連範囲を実読)。 |
2 設問1・乙
| 番号 | 評価項目 | 重み | 出題の趣旨 | 採点実感 |
|---|---|---|---|---|
| 26 | 乙が窃取の実行行為を分担していないと明示する 【必須】 | 5 | 16頁・設問1について⑵乙の罪責について。関連記述:「乙は実行行為」。 | 1頁・2出題の趣旨。関連記述:「実行行為を分担していない」。 |
| 27 | 共謀共同正犯と幇助犯を区別する基準を示す 【必須】 | 5 | 16頁・設問1について⑵乙の罪責について。関連記述:「共同正犯と幇助犯の区別基準」。 | 3頁・3⑵ア(イ)乙の罪責。関連記述:「幇助犯との区別基準」。 |
| 28 | 選んだ区別基準と具体的な当てはめを整合させる 【必須】 | 5 | 16頁・設問1について⑵乙の罪責について。関連記述:「区別する立場」。 | 3頁・3⑵ア(イ)乙の罪責。関連記述:「当てはめに不整合」。 |
| 29 | 甲乙が金に困って共に計画した積極性を評価する 【必須】 | 4 | 16頁・設問1について⑵乙の罪責について。関連記述:「両者の積極性」。 | 1頁・2出題の趣旨。関連記述:「具体的事実」。 |
| 30 | 先輩後輩から直ちに支配服従とせず両者の関係を評価する 【高評価】 | 3 | 16頁・設問1について⑵乙の罪責について。関連記述:「指揮命令関係」。 | 記載なし(第1問の関連範囲を実読)。 |
| 31 | 見張り・通報警戒・逃走車運転の重要な寄与を説明する 【必須】 | 4 | 16頁・設問1について⑵乙の罪責について。関連記述:「重要であること」。 | 1頁・2出題の趣旨。関連記述:「見張り行為」。 |
| 32 | 20点400万円という多額の分配予定を正犯性に対応させる 【必須】 | 4 | 16頁・設問1について⑵乙の罪責について。関連記述:「相当多額の利益」。 | 1頁・2出題の趣旨。関連記述:「相当多額の利益分配」。 |
| 33 | 幇助を採る枝では内通という計画中核からの排除を理由にする 【許容分岐】 条件:当該理論・結論を採用する場合のみ | 4 | 16頁・設問1について⑵乙の罪責について。関連記述:「中核部分」。 | 3頁・3⑵ア(イ)乙の罪責。関連記述:「中核的」。 |
| 34 | 分け前が他者より少ないだけで正犯性を否定しない 【負例】 誤りの回避を確認。 | 2 | 記載なし(第1問の関連範囲を実読)。 | 3頁・3⑵ア(イ)乙の罪責。関連記述:「分け前が」。 |
| 35 | 強盗を認識する乙と窃盗を実現する甲丙の認識差を提示する 【必須】 | 5 | 16頁・設問1について⑵乙の罪責について。関連記述:「共犯の錯誤」。 | 1頁・2出題の趣旨。関連記述:「強盗罪を犯す意思」。 |
| 36 | 共謀時の認識不一致が共謀成立へ及ぼす作用を本質論から説明する 【高評価】 | 3 | 16頁・設問1について⑵乙の罪責について。関連記述:「謀議の時点」。 | 3頁・3⑵ア(イ)乙の罪責。関連記述:「共同正犯の本質論」。 |
| 37 | 部分的犯罪共同説を採る枝では窃盗の重なりに限って共謀を肯定する 【許容分岐】 条件:当該理論・結論を採用する場合のみ | 3 | 16頁・設問1について⑵乙の罪責について。関連記述:「部分的犯罪共同説」。 | 記載なし(第1問の関連範囲を実読)。 |
| 38 | 行為共同説を採る枝では取得行為の共同と個別故意を分ける 【許容分岐】 条件:当該理論・結論を採用する場合のみ | 3 | 16頁・設問1について⑵乙の罪責について。関連記述:「行為共同説」。 | 記載なし(第1問の関連範囲を実読)。 |
| 39 | 法定的符合説により認識・実現事実の具体的構成要件の重なりを示す 【必須】 | 5 | 16頁・設問1について⑵乙の罪責について。関連記述:「法定的符」。 | 1頁・2出題の趣旨。関連記述:「構成要件の間に重」。 |
| 40 | 財産犯という共通法益だけで符合を肯定しない 【負例】 誤りの回避を確認。 | 2 | 記載なし(第1問の関連範囲を実読)。 | 4頁・3⑵ア(イ)乙の罪責。関連記述:「財産権を侵害」。 |
| 41 | 共同正犯本質論と抽象的事実錯誤の処理を同じ立場で整合させる 【必須】 | 4 | 16頁・設問1について⑵乙の罪責について。関連記述:「論理的整合性」。 | 3頁・3⑵ア(イ)乙の罪責。関連記述:「本質論についても」。 |
| 42 | 甲を介する順次共謀を踏まえ乙丙の直接意思連絡の欠如だけで否定しない 【負例】 誤りの回避を確認。 | 2 | 記載なし(第1問の関連範囲を実読)。 | 4頁・3⑵ア(イ)乙の罪責。関連記述:「順次共謀」。 |
| 43 | 横領採用枝では強盗との符合範囲を独自に論証する 【許容分岐】 条件:当該理論・結論を採用する場合のみ | 3 | 16頁・設問1について⑵乙の罪責について。関連記述:「業務上)横領罪」。 | 4頁・3⑵ア(イ)乙の罪責。関連記述:「占有を侵害する罪」。 |
3 設問1・丁
| 番号 | 評価項目 | 重み | 出題の趣旨 | 採点実感 |
|---|---|---|---|---|
| 44 | 40点を本犯で領得された物として256条2項へ当てはめる 【必須】 | 4 | 16頁・設問1について⑶丁の罪責について。関連記述:「財産に対する罪」。 | 4頁・3⑵ア(ウ)丁の罪責。関連記述:「盗品性」。 |
| 45 | 丙の委託に基づく押し入れ内の管理を保管行為として特定する 【必須】 | 4 | 16頁・設問1について⑶丁の罪責について。関連記述:「押し入れ内」。 | 4頁・3⑵ア(ウ)丁の罪責。関連記述:「どの行為が「保管」」。 |
| 46 | 5日の保管開始時には盗品性の認識がないと区別する 【必須】 | 4 | 16頁・設問1について⑶丁の罪責について。関連記述:「預かった時点」。 | 4頁・3⑵ア(ウ)丁の罪責。関連記述:「盗品の占有」。 |
| 47 | 10日に値札から無断領得を認識した事実を故意へ対応させる 【必須】 | 4 | 16頁・設問1について⑶丁の罪責について。関連記述:「値札が付」。 | 1頁・2出題の趣旨。関連記述:「認識するに至った後」。 |
| 48 | 保管行為の終期と故意の同時存在を法的性質から論じる 【必須】 | 5 | 17頁・設問1について⑶丁の罪責について。関連記述:「実行行為が継続」。 | 4頁・3⑵ア(ウ)丁の罪責。関連記述:「実行行為と故意の同時存在」。 |
| 49 | 保管開始後も継続する実行行為を理由に10日以降の成立を示す 【必須】 | 4 | 17頁・設問1について⑶丁の罪責について。関連記述:「本犯者のため」。 | 4頁・3⑵ア(ウ)丁の罪責。関連記述:「保管を継続」。 |
| 50 | 受託という過去行為だけを保管とし後発故意を遡及させない 【負例】 誤りの回避を確認。 | 2 | 記載なし(第1問の関連範囲を実読)。 | 4頁・3⑵ア(ウ)丁の罪責。関連記述:「預かる行為」。 |
| 51 | 10日以降故意があるとの一言だけで成立を結論しない 【負例】 誤りの回避を確認。 | 2 | 記載なし(第1問の関連範囲を実読)。 | 4頁・3⑵ア(ウ)丁の罪責。関連記述:「極めて不十分」。 |
| 52 | 継続犯でも返還等の強制困難と譲受け罪との均衡から否定する枝を区別する 【許容分岐】 条件:当該理論・結論を採用する場合のみ | 3 | 17頁・設問1について⑶丁の罪責について。関連記述:「強制することは困難」。 | 記載なし(第1問の関連範囲を実読)。 |
| 53 | 状態犯採用枝では寄託時点の認識を要求する理論と不成立を接続する 【許容分岐】 条件:当該理論・結論を採用する場合のみ | 3 | 17頁・設問1について⑶丁の罪責について。関連記述:「状態犯」。 | 記載なし(第1問の関連範囲を実読)。 |
4 設問2・全体構造
| 番号 | 評価項目 | 重み | 出題の趣旨 | 採点実感 |
|---|---|---|---|---|
| 54 | 第1・第2暴行の一方だけが裂傷原因であるとの与件を維持する 【必須】 | 4 | 14頁・〔第1問〕冒頭総論。関連記述:「いずれか一方だけ」。 | 1頁・2出題の趣旨。関連記述:「いずれか一方だけ」。 |
| 55 | 当初の暴行共謀と第1暴行がその共謀に基づくことを認定する 【必須】 | 4 | 17頁・設問2について⑴前提事実及び問題の所在について。関連記述:「事前共謀」。 | 2頁・2出題の趣旨・設問2。関連記述:「暴行の共謀」。 |
| 56 | 第2暴行が共謀に基づくなら原因不明でも全部責任となると示す 【必須】 | 5 | 17頁・設問2について⑴前提事実及び問題の所在について。関連記述:「一部実行全部責任」。 | 4頁・3⑵イ設問2について。関連記述:「共同正犯としての罪責」。 |
| 57 | 責任否定には共犯責任と同時傷害の特例を両方排除する必要があると示す 【必須】 | 5 | 17頁・設問2について⑴前提事実及び問題の所在について。関連記述:「同特例が適用されない」。 | 4頁・3⑵イ設問2について。関連記述:「否定する必要」。 |
| 58 | 責任肯定は共犯関係存続又は解消後の207条適用という二経路を示す 【必須】 | 5 | 18頁・設問2について⑶責任を負う立場からの反論。関連記述:「解消されていたとしても」。 | 4頁・3⑵イ設問2について。関連記述:「解消それ自体を否定」。 |
| 59 | 自説の結論を決めず否定説明と各論点に対応する反論を示す 【必須】 | 5 | 14頁・〔第1問〕冒頭総論。関連記述:「論拠を示しつつ」。 | 2頁・2出題の趣旨・設問2。関連記述:「②の反論」。 |
5 設問2・責任否定の説明
| 番号 | 評価項目 | 重み | 出題の趣旨 | 採点実感 |
|---|---|---|---|---|
| 60 | 共犯解消の規範として物理的・心理的因果寄与の解消を提示する 【必須】 | 5 | 17頁・設問2について⑵責任を負わない立場からの説明。関連記述:「因果性遮断説」。 | 2頁・2出題の趣旨・設問2。関連記述:「心理的因果性及び物理的因果性」。 |
| 61 | 甲が丙を制止し暴行終了を求めた事実を心理的因果寄与の解消へ評価する 【必須】 | 4 | 17頁・設問2について⑵責任を負わない立場からの説明。関連記述:「制止しよう」。 | 2頁・2出題の趣旨・設問2。関連記述:「制止」。 |
| 62 | 丙が甲を殴打し気絶させた事実を共同関係の破壊へ評価する 【必須】 | 4 | 17頁・設問2について⑵責任を負わない立場からの説明。関連記述:「殴打されて気絶」。 | 2頁・2出題の趣旨・設問2。関連記述:「殴打されて気絶」。 |
| 63 | 丙が気絶した甲を放置して第2暴行をした点を独立犯行へ評価する 【必須】 | 4 | 17頁・設問2について⑵責任を負わない立場からの説明。関連記述:「気絶した甲を放置」。 | 2頁・2出題の趣旨・設問2。関連記述:「気絶した甲を放置」。 |
| 64 | 当初計画は甲の木刀殴打と丙の押さえ役であり丙の木刀殴打を含まないと評価する 【高評価】 | 3 | 17頁・設問2について⑵責任を負わない立場からの説明。関連記述:「計画は含まれていない」。 | 記載なし(第1問の関連範囲を実読)。 |
| 65 | 懲らしめと通報阻止の動機の相違を独立意思の補強として用いる 【高評価】 | 3 | 17頁・設問2について⑵責任を負わない立場からの説明。関連記述:「動機を異に」。 | 記載なし(第1問の関連範囲を実読)。 |
| 66 | 気絶という事実だけで当然に離脱したとしない 【負例】 誤りの回避を確認。 | 2 | 記載なし(第1問の関連範囲を実読)。 | 4頁・3⑵イ設問2について。関連記述:「気絶したという事実だけ」。 |
| 67 | 共謀射程の構成を採る枝では計画の大幅変更と別犯罪の実現を理由にする 【許容分岐】 条件:当該理論・結論を採用する場合のみ | 3 | 17頁・設問2について⑴前提事実及び問題の所在について。関連記述:「犯行計画が大幅に変更」。 | 4頁・3⑵イ設問2について。関連記述:「結論だけ」。 |
| 68 | 207条の一般要件である各暴行の傷害危険と同一機会を確認する 【必須】 | 4 | 17頁・設問2について⑴前提事実及び問題の所在について。関連記述:「これらの要件は充足」。 | 2頁・2出題の趣旨・設問2。関連記述:「適用要件」。 |
| 69 | 本件の特殊性を一部共犯関係と丙の全結果責任として提示する 【必須】 | 5 | 17頁・設問2について⑴前提事実及び問題の所在について。関連記述:「一部共犯関係」。 | 2頁・2出題の趣旨・設問2。関連記述:「本事例の特殊性」。 |
| 70 | 誰も結果責任を負わない不都合の解消という趣旨から特例不適用を論じる 【必須】 | 5 | 17頁・設問2について⑵責任を負わない立場からの説明。関連記述:「誰も責任を負わない不都合」。 | 4頁・3⑵イ設問2について。関連記述:「なぜこのことが問題」。 |
| 71 | 同一機会性の議論だけで一部共犯類型の適用範囲の議論を代用しない 【負例】 誤りの回避を確認。 | 5 | 17頁・設問2について⑴前提事実及び問題の所在について。関連記述:「適用範囲」。 | 4頁・3⑵イ設問2について。関連記述:「同一機会性」。 |
6 設問2・責任肯定の反論
| 番号 | 評価項目 | 重み | 出題の趣旨 | 採点実感 |
|---|---|---|---|---|
| 72 | 甲が嫌がる丙を説得して発案した首謀者性を心理的寄与へ評価する 【必須】 | 4 | 18頁・設問2について⑶責任を負う立場からの反論。関連記述:「首謀者的立場」。 | 2頁・2出題の趣旨・設問2。関連記述:「首謀者的立場」。 |
| 73 | 甲の第1暴行が丙の犯意を強化した点を心理的寄与へ評価する 【必須】 | 4 | 18頁・設問2について⑶責任を負う立場からの反論。関連記述:「丙の犯意を強化」。 | 2頁・2出題の趣旨・設問2。関連記述:「自ら第1暴行」。 |
| 74 | 甲が準備した同じ木刀を丙が使用した点を物理的寄与へ評価する 【必須】 | 4 | 18頁・設問2について⑶責任を負う立場からの反論。関連記述:「同木刀を使用」。 | 2頁・2出題の趣旨・設問2。関連記述:「同木刀を使用」。 |
| 75 | 制止失敗と気絶だけでは先行寄与が消滅せず共犯が存続するという反論を示す 【必須】 | 5 | 18頁・設問2について⑶責任を負う立場からの反論。関連記述:「未だ解消されていない」。 | 2頁・2出題の趣旨・設問2。関連記述:「因果的寄与」。 |
| 76 | 共犯解消を仮定した上で特例適用を独立に反論する 【必須】 | 5 | 18頁・設問2について⑶責任を負う立場からの反論。関連記述:「解消されていたとしても」。 | 2頁・2出題の趣旨・設問2。関連記述:「同時傷害の特例」。 |
| 77 | 一部共犯がある場合も207条を排除する理由はないと論じる 【必須】 | 4 | 18頁・設問2について⑶責任を負う立場からの反論。関連記述:「一部共犯関係が存在」。 | 4頁・3⑵イ設問2について。関連記述:「暴行の一部に共犯関係」。 |
| 78 | 全く共犯関係のない複数加害者との均衡を適用肯定の論拠として示す 【必須】 | 3 | 18頁・設問2について⑶責任を負う立場からの反論。関連記述:「均衡を失する」。 | 記載なし(第1問の関連範囲を実読)。 |
7 答案全体
| 番号 | 評価項目 | 重み | 出題の趣旨 | 採点実感 |
|---|---|---|---|---|
| 79 | 規範定立と具体的事実の当てはめを区別し事実の法的意味を説明する 【必須】 | 5 | 14頁・〔第1問〕総論・各設問。関連記述:「その事実に法規範を適用」。 | 2頁・3⑴全体について。関連記述:「事実が持つ法的意味」。 |
| 80 | 設問を通じて理論構成・規範・結論の整合性を保つ 【必須】 | 5 | 16頁・〔第1問〕総論・各設問。関連記述:「論理的整合性」。 | 5頁・3⑷答案の水準。関連記述:「論理的に矛盾」。 |
| 81 | 全体像を踏まえて中核論点へ分量を配分する 【必須】 | 3 | 記載なし(第1問の関連範囲を実読)。 | 1頁・2出題の趣旨。関連記述:「バランスよく答案構成」。 |
| 82 | 本件に不要な論証パターンや設問外の法解釈を長く書かない 【負例】 誤りの回避を確認。 | 2 | 記載なし(第1問の関連範囲を実読)。 | 2頁・3⑴全体について。関連記述:「必ずしも論じる必要がない」。 |
| 83 | 主要な犯罪の構成要件要素を正確に検討する 【必須】 | 3 | 15頁・〔第1問〕総論・各設問。関連記述:「構成要件要素」。 | 4頁・3⑷答案の水準。関連記述:「構成要件要素」。 |
| 84 | 自説を述べる設問1と両立場を説明する設問2の要求を区別する 【必須】 | 5 | 14頁・〔第1問〕総論・各設問。関連記述:「刑事責任を負わないとの」。 | 2頁・2出題の趣旨・設問2。関連記述:「①及び②を論じる」。 |
重みを付さない一般的な指摘として,採点実感4頁「3⑶その他」は,用語・漢字の正確さ,判読しやすい文字,補足・訂正を解読可能な大きさで書くことにも注意を促す。これらは上記84行の集計へ混ぜていない。
8 重みの分布
重み1:0項目/重み2:11項目/重み3:20項目/重み4:31項目/重み5:22項目。総項目数N=84,重み合計W=316である。重み合計は各行の重みを加算した参考値であり,公式の配点ではない。
重み5の全項目は次のとおりである。番号から評価表の行へ移動できる。
- 評価項目1:偽装行為が財物奪取に向けた反抗抑圧手段でないと説明する。区分:必須。適用条件:当該設問の採用ルート。骨格・評価の分かれ目:財物奪取手段の不存在を外すと罪名の出発点が強盗へ転倒する。
- 評価項目5:一般人なら怖いとの理由だけで強盗既遂・未遂を肯定しない。区分:負例。適用条件:全答案の負例回避監査(網羅率の分母には加算しない)。骨格・評価の分かれ目:採点実感は強盗既遂・未遂肯定を実質理解の著しい不足と明示する。
- 評価項目8:商品の占有の帰属を窃盗と業務上横領の区別として提示する。区分:必須。適用条件:当該設問の採用ルート。骨格・評価の分かれ目:占有帰属が窃盗・横領と以後の共犯錯誤を分岐させる。
- 評価項目26:乙が窃取の実行行為を分担していないと明示する。区分:必須。適用条件:当該設問の採用ルート。骨格・評価の分かれ目:実行共同正犯で処理すると共謀・幇助の審査を脱落させる。
- 評価項目27:共謀共同正犯と幇助犯を区別する基準を示す。区分:必須。適用条件:当該設問の採用ルート。骨格・評価の分かれ目:採点実感が区別基準を欠く結論及び基準と当てはめの不整合を指摘する。
- 評価項目28:選んだ区別基準と具体的な当てはめを整合させる。区分:必須。適用条件:当該設問の採用ルート。骨格・評価の分かれ目:採用基準と事実の連結が正犯性判断の骨格となる。
- 評価項目35:強盗を認識する乙と窃盗を実現する甲丙の認識差を提示する。区分:必須。適用条件:当該設問の採用ルート。骨格・評価の分かれ目:認識と実現の差を示さなければ共犯錯誤の処理へ入れない。
- 評価項目39:法定的符合説により認識・実現事実の具体的構成要件の重なりを示す。区分:必須。適用条件:当該設問の採用ルート。骨格・評価の分かれ目:具体的構成要件の符合理由を欠く結論を採点実感が不十分とする。
- 評価項目48:保管行為の終期と故意の同時存在を法的性質から論じる。区分:必須。適用条件:当該設問の採用ルート。骨格・評価の分かれ目:採点実感が実行行為と故意の同時存在に遡って説明する必要を明示する。
- 評価項目56:第2暴行が共謀に基づくなら原因不明でも全部責任となると示す。区分:必須。適用条件:当該設問の採用ルート。骨格・評価の分かれ目:後行行為の帰責が認められれば結果原因の不明だけでは免責されない。
- 評価項目57:責任否定には共犯責任と同時傷害の特例を両方排除する必要があると示す。区分:必須。適用条件:当該設問の採用ルート。骨格・評価の分かれ目:否定の結論には共犯帰責と207条の両経路の排除が必要となる。
- 評価項目58:責任肯定は共犯関係存続又は解消後の207条適用という二経路を示す。区分:必須。適用条件:当該設問の採用ルート。骨格・評価の分かれ目:肯定の反論が二つの独立した責任経路に対応する。
- 評価項目59:自説の結論を決めず否定説明と各論点に対応する反論を示す。区分:必須。適用条件:当該設問の採用ルート。骨格・評価の分かれ目:設問は自説選択ではなく否定説明と肯定反論をそれぞれ求める。
- 評価項目60:共犯解消の規範として物理的・心理的因果寄与の解消を提示する。区分:必須。適用条件:当該設問の採用ルート。骨格・評価の分かれ目:心理的・物理的寄与を踏まえた解消検討を採点実感が高く評価する。
- 評価項目69:本件の特殊性を一部共犯関係と丙の全結果責任として提示する。区分:必須。適用条件:当該設問の採用ルート。骨格・評価の分かれ目:一部共犯という固有問題を見落とす一般論だけの答案を採点実感が低評価とする。
- 評価項目70:誰も結果責任を負わない不都合の解消という趣旨から特例不適用を論じる。区分:必須。適用条件:当該設問の採用ルート。骨格・評価の分かれ目:結果責任者の存在がなぜ適用範囲に関係するかという橋渡しが必要となる。
- 評価項目71:同一機会性の議論だけで一部共犯類型の適用範囲の議論を代用しない。区分:負例。適用条件:全答案の負例回避監査(網羅率の分母には加算しない)。骨格・評価の分かれ目:一般的な適用要件の当てはめだけで終える答案を採点実感が低評価とする。
- 評価項目75:制止失敗と気絶だけでは先行寄与が消滅せず共犯が存続するという反論を示す。区分:必須。適用条件:当該設問の採用ルート。骨格・評価の分かれ目:先行寄与の残存は共犯関係解消の反論の中心となる。
- 評価項目76:共犯解消を仮定した上で特例適用を独立に反論する。区分:必須。適用条件:当該設問の採用ルート。骨格・評価の分かれ目:解消否定だけでは207条側の反論が残る。
- 評価項目79:規範定立と具体的事実の当てはめを区別し事実の法的意味を説明する。区分:必須。適用条件:当該設問の採用ルート。骨格・評価の分かれ目:事実の法的意味を説明せず結論へ進む答案を採点実感が批判する。
- 評価項目80:設問を通じて理論構成・規範・結論の整合性を保つ。区分:必須。適用条件:当該設問の採用ルート。骨格・評価の分かれ目:理論と結論の矛盾は占有・共犯錯誤・罪数を通じて構造を壊す。
- 評価項目84:自説を述べる設問1と両立場を説明する設問2の要求を区別する。区分:必須。適用条件:当該設問の採用ルート。骨格・評価の分かれ目:設問ごとの出力要求を取り違えると検討の終点が違ってしまう。
第5 模範解答
1 答案の前提と表記
設問1ではCの占有を肯定して窃盗とし,乙を共謀共同正犯,丁の10日以降の保管を盗品等保管罪とする。設問2は因果的寄与の解消という見地から否定説明を組み立て,それに対応する存続論及び207条適用論の反論を示す。採用しない構成は枠外で区別する。
条文は試験当時の刑法による。答案の字数は見出しを含み空白を除いて5363字である。判例の理由を使う場合でも,本問への類推と判例が直接判断した事案を同一視しない。
2 答案
第1 設問1
1 甲及び丙の罪責
⑴ 腕時計の取得について,まず強盗罪(刑法236条1項。以下,条数のみ示す。)が問題となる。強盗罪の暴行・脅迫は,相手方の反抗を抑圧する程度のものであり,それによって財物を取得することを要する。
甲は刃体約20センチメートルのナイフを示し,「殺されたくなかったら」「刺すぞ」と述べているから,外形的には強い脅迫に見える。しかし,丙はあらかじめ甲と内通し,要求を拒むふりをした後に腕時計を渡すことに合意していた。甲もその事情を知って演技をしている。通報や語気を強めた発言も合意された偽装の一環であり,ナイフと発言は財物奪取に向けられた反抗抑圧の手段ではなく,強盗罪の「脅迫」という実行行為に当たらない。丙が現実に怖がっていないという事情だけを理由にするのではない。甲丙には反抗抑圧の手段で財物を取得する認識・認容もないから,強盗の故意もなく,既遂・未遂いずれの強盗罪も成立しない。
⑵ 窃盗罪(235条)と業務上横領罪(253条)の区別は,商品である腕時計の占有が誰に帰属していたかによる。窃盗罪は他人の占有をその意思に反して移す犯罪であり,横領罪は委託に基づく自己占有物を不法に領得する犯罪である。上下関係のある保管では原則として上位者に占有が属するが,管理を完全に委ねられ,個別に上位者の判断を仰がず独立の権限・裁量を有する下位者には占有が認められる。
丙は副店長として採用や勤怠管理,帳簿作成,売上金管理を担当し,商品の陳列方法も決めていた。丙もショーケースの鍵を持つ。もっとも,売上金の報告・入金義務は売上金に関する権限であり,それから商品の独立した占有を直ちに導くことはできない。商品の仕入れ,店外への持出し,価格設定については全て店長Cの承認が必要であり,丙自身にその権限はない。店舗は閉鎖された空間であり,ショーケースは原則として常時施錠される。Cも鍵を所持し,店内は音声付き防犯カメラで常時撮影録画されている。
こうした商品管理の実態からは,商品に対するCの支配は継続しており,丙の支配はCの管理下の補助的なものであり,Cの不在だけでは占有が失われない。仮に丙にも商品の共同占有を認めても,他の共同占有者Cの支配を排除する取得は窃盗に当たる。丙の単独の受託占有を前提とする業務上横領罪として処理することはできない。
⑶ 腕時計100点はA社所有の財物であり,丙はCの承認なくショーケースを解錠してバッグに詰め,甲に交付した。甲がバッグを受け取って持ち去ることにより,Cの占有はその意思に反して排除された。丙の承諾はCの占有侵害を正当化する権限ある承諾ではない。丙に拒絶の演技をさせていることからも,甲丙は取得がA社及びCの意思に反することを認識している。
両名は,腕時計を後に分けて自分たちのものにする目的であるから,権利者を排除し,所有者としてその経済的用法に従って利用・処分する不法領得の意思を有する。
甲丙には事前の意思連絡があり,丙が鍵を用いて商品を取り出して交付し,甲が持ち去るという窃取の実行行為を分担している。したがって,甲丙に窃盗罪の共同正犯(60条)が成立する。
2 乙の罪責
⑴ 乙は,甲が店員に刃物を突き付けて腕時計を奪うと信じ,周囲の見張りと逃走車の運転を引き受けた。その認識は現実の窃盗と異なるため,まず共同正犯の成否と故意の符合範囲を区別して検討する。
乙は窃取の実行行為を分担していないので,共謀共同正犯と幇助犯との区別が問題となる。自らの犯罪として遂行する正犯意思を有し,相互に他人の実行を利用して犯罪を実現する者を共同正犯と解する。重要な役割や利益取得は,この正犯意思と相互利用関係を認定する事情となる。
甲乙は共に金に困って相談し計画したのであり,先輩後輩というだけで指揮命令・支配服従関係とはいえない。乙は腕時計の分配を受けるため,自分の犯罪として計画に参加した。店前への移動を担当し,甲が店内にいる間,通行人の警戒や警察官の接近を知らせるつもりで運転席から見張り,甲を乗せて逃走した。これらは,発覚を避けて奪取を成功させるための現場の役割であり,20点・時価400万円という多額の利益分配を予定し,実際に受けている。これらの寄与と自己利得の意思から,役割分担に基づく共同実行と評価できる。
⑵ 甲は乙に丙との内通を隠していたが,両名は同じ店の腕時計を同じ機会に権利者の意思に反して取得する点では意思を通じている。強盗と窃盗は,財物に対する他人の支配を排除して不法に領得する点で構成要件が重なり,強盗はその取得手段として反抗抑圧程度の暴行・脅迫を用いる点で重い。
共同正犯の本質について部分的犯罪共同説に立つと,共同する犯罪が完全に一致しなくても,構成要件が重なる窃盗の限度では共謀が成立する。故意については法定的符合説に立ち,認識事実と実現事実の構成要件が重なる限度で故意を認める。乙には,他人の占有する腕時計をその意思に反して取得する認識と不法領得の意思がある。甲との協力も,まさにその取得を実現するものである。したがって,窃盗罪の限度で共謀と故意が符合し,乙にも窃盗罪の共謀共同正犯が成立する。また,甲は丙と窃取を合意した上で乙に見張りと逃走を依頼し,乙は同じ奪取へ加功している。甲を介する順次共謀が認められ,乙丙間に直接の意思連絡がないことだけで共犯関係を否定しない。
現実には,反抗抑圧のための暴行・脅迫による取得がなく,乙の強盗の認識だけで強盗既遂を認めることはできない。本件の合意に基づく演技を,独立した強盗未遂の実行として重ねて評価することもしない。分け前が相対的に少ないというだけで,見張り・逃走の重要性と自己利得から認められる正犯性は否定されない。
3 取得後の分配及び保管
取得済みの腕時計を本犯の共同正犯者甲乙丙間で分配し,丙が自己の取り分を隠す行為は本犯の事後処分であり,別に盗品等譲受け・保管の罪を加えない。
4 丁の罪責
⑴ 盗品等保管罪(256条2項)は,財産に対する罪に当たる行為によって領得された物につき,委託を受けて保管する行為を処罰する。腕時計40点は窃盗によって取得された物であり,これを自己の押し入れで丙のために預かる行為は保管に当たる。
もっとも,丁は5日に預かった時点では,バッグ内の腕時計を確認せず,盗品であることを知らなかった。5日の受託時に盗品保管の故意を認めることはできない。
⑵ 盗品等保管罪は継続犯であり,委託に基づく管理を継続する間,実行行為も続くと解する。占有を取得する行為だけを不可欠な実行行為とするものではない。受託時には盗品と知らなくても,途中でこれを知り,なお本犯のために保管を継続すれば,その時点から故意と実行行為が併存する。
丁は10日にバッグを開き,腕時計全てに値札が付いていることから,丙が自分のものにするためB店から無断で持ち出した商品だと認識した。具体的な取得方法や窃盗という法律上の罪名まで知る必要はなく,財産犯で領得された物であることの認識で足りる。丁は丙のために預かり続けることにし,バッグを元の位置に戻し,25日の返却まで保管した。したがって,10日以降の行為につき盗品等保管罪が成立する。
第2 設問2⑴ 甲が頭部裂傷の責任を負わないとの説明
1 自己の殴打と傷害結果との因果関係
傷害罪(204条)の結果責任には,自己の実行行為又は共同正犯として帰責される行為と傷害結果の因果関係が必要である。頭部裂傷は甲又は丙の木刀による殴打のいずれか一方だけから生じたが,どちらか不明である。丙の手拳による顔面・腹部の暴行を裂傷原因に加えることはできない。甲の殴打から裂傷が生じたと証明できない以上,疑わしきは被告人の利益にという原則により,甲自身の殴打を原因とする傷害結果の責任は問えない。
ただし,これだけでは丙の後行殴打について共同正犯責任又は207条による責任を負う可能性が残る。これらも排除する必要がある。
2 共犯関係の解消
甲丙は,乙を懲らしめ,多少の怪我をさせても構わないとの合意に基づき,甲が木刀で殴り,丙が乙を押さえた。当初の共謀は存在する。しかし,共同正犯の処罰根拠を相互の利用・補充による犯罪実現への寄与に求めるなら,その関係が解消し,後行行為が新たな独立の意思に基づく場合,後行行為の結果まで前の共同者に帰責することはできない。
甲は通報を阻止しようと暴行を続ける丙をいさめ,終了を求めた。丙は甲に立腹して殴り,失神させたから,甲の意思を拒絶し共同実行関係を破壊した。その後,気絶した甲を放置して「この機会に」乙に約束させようと木刀で殴った点は,甲が機能しない状態を利用した独立の犯行と評価できる。
単なる動機の変化や甲の内心の離脱に依存するのではなく,制止の明示,丙による甲への攻撃,意識喪失及びその状態を利用する新たな意思から,相互利用・補充関係と甲の心理的影響が断たれたと説明する。当初計画は甲が木刀で殴り丙が乙を押さえるものであり,丙が木刀で頭部を殴る計画を含まない。甲の心理的働き掛けは制止と丙による拒絶で遮断され,木刀の利用も,甲を失神させた丙が独立意思で取り上げたものとして,当初の相互利用関係に基づく物理的寄与とは区別するという説明が考えられる。そうであれば,60条によって丙の後行殴打を甲へ帰責することはできない。
3 同時傷害の特例の不適用
207条は,二人以上の暴行による傷害の原因又は軽重を特定できない場合に,共同実行者でなくても共犯の例による特例である。刑事責任の原則に対する例外であるため,外形的に共同実行と等しい状況である同一の機会の暴行に限定して解釈すべきである。
本件の木刀による各頭部殴打は,いずれも裂傷を生じさせ得る危険性を有し,同じ場所で約5分の間に行われた同一機会の暴行である。一般的な適用要件が満たされていることを前提として,なお一部に共犯関係がある類型へ特例を適用できるかを検討する。
当初は甲丙に共犯関係があり,丙は先行殴打についても共同正犯,後行殴打についても実行者として責任を負う。誰も傷害結果の責任を負わなくなる空隙を埋めることが特例の趣旨であると限定するなら,丙の結果責任が確実な本件に特例を適用する必要はないと主張できる。
以上の説明によって207条も適用されないなら,甲は頭部裂傷について傷害結果の責任を負わない。
第3 設問2⑵ 上記説明に対する反論
1 共犯関係の存続
共同正犯の結果帰責は,途中で共同者が実行をやめたかだけでなく,それまでに与えた物理的・心理的寄与が後行実行へなお作用しているかによる。実行着手後は,共同者がなお暴行をするおそれが残るのに,自分だけ関与しないとの意思を示しただけでは,既に形成した因果的寄与を消滅させない。
甲は暴行を発案し,最初は嫌がった丙を説得して共謀を構築した首謀者である。甲が自ら第1暴行をしたことは,丙の犯意を強化する心理的寄与になる。さらに甲が用意した木刀が第2暴行にも使われ,物理的寄与も残る。丙の発覚防止という動機が加わっても,乙へ暴行を加えて傷害する行為自体は共謀した犯罪と共通する。甲の制止は効かず,丙は現場で乙への暴行を続け,甲が用意した木刀を取り上げて殴っている。甲が失神して追加行為をできなくなったことは,先行行為が後行暴行を容易にした作用の除去とは別である。
したがって,甲が丙をいさめた点は単に立ち去った事案とは異なるとしても,丙を実際にやめさせず,木刀の利用など自己の寄与も取り除けていない以上,共犯関係が解消したとはいえないと反論できる。そうであれば,裂傷が甲の殴打によるか丙の殴打によるかにかかわらず,共同実行に基づく傷害結果として甲も責任を負う。
2 共犯関係解消を認めても207条を適用する反論
同条の趣旨は,共犯関係の証明がない複数人の暴行で傷害原因の特定が困難な場合に,例外的に共犯の例による点にある。責任を負う者が一人もいない場合だけに限るとの条件は条文にない。途中から共謀に加担した者について,先行者が傷害の責任を負うことは特例の適用を妨げないとした判例の理由からも,一部に共犯関係があった本件だけを除外すると,全く共犯関係がない者には特例が適用されるのに,一部に共犯関係があった甲は免責されるという不均衡が生じると反論できる。
目的や共犯関係の変化のみで機会の同一性が失われるわけではない。甲丙の木刀殴打は同じ場所の約5分の一連の加害過程であり,甲への殴打の介在だけでは別の機会へ切り替わらない。
両者の木刀殴打はいずれも本件裂傷を生じさせ得る危険性を有し,現にその一方が原因であるが,どちらか分からない。これらの危険性及び機会の同一性が証明されれば,甲が自己の関与した暴行によって裂傷が生じていないことを立証しない限り,207条により傷害結果の責任を免れない。単に原因が不明であることを,自己行為と結果との因果関係がないことの証明と取り違えることはできない。
以上により,共犯関係が存続するとの構成,又はその解消を認めても207条を適用する構成のいずれからも,甲が頭部裂傷について責任を負うとの反論が成り立つ。
以上
3 出題の趣旨・採点実感を踏まえた解説
⑴ 答案と評価項目の対応
答案第1の1は評価項目1~23,第1の2は26~42,第1の3・4は44~51に対応する。答案第2は54~71,第3は72~78に対応する。79~84は答案全体の構造を確認する。重み5の項目は上記の全件一覧から確認できる。
⑵ 偽装強盗と商品の占有
強盗を否定する理由は,丙が実際に怖がらないというだけではない。内通した演技は財物奪取に向けた反抗抑圧手段でなく,強盗の実行行為及び故意を欠く(1~7)。占有では,副店長という名称や売上金の管理権限から商品占有を直結させず,Cによる商品の管理を検討する(8~16)。窃取・故意・不法領得意思は商品を持ち去る具体的行為に結び付ける(17~21)。
Cの占有を否定して丙の独立した委託占有を認める場合は,業務上横領の構成要件を検討し,無身分の甲への65条の作用を示す必要がある(24・25)。その場合,乙が認識した強盗との構成要件の符合を窃盗の場合の説明で代用できない(43)。本答案はこの枝を採用していない。
⑶ 乙の正犯性と共犯の錯誤
乙は店内の窃取を実行していない。見張りと運転を重要と述べるだけでなく,それが自らの犯罪としての意思や相互利用へどうつながるかを説明する(26~32)。内通という計画中核からの排除を重視する幇助の構成も許される(33)。分け前の相対的少なさだけを決め手にしない(34)。
共謀時点の認識差を部分的犯罪共同説の本質論で処理した上,実現した窃盗と認識した強盗の具体的構成要件の重なりを法定的符合説で示す(35~41)。行為共同説を採る場合は共同する取得行為と個別の故意を区別する(38)。本答案は部分的犯罪共同説を採用するため,異なる理論の説明を累積していない。甲を介する順次共謀は乙丙間の直接連絡の欠如だけを理由に共犯を否定する誤りを避ける(42)。
⑷ 丁の後発故意と保管
盗品性を知ったことを過去の受託行為へ遡及させず,故意が生じた時点にも保管の実行行為が続くことを説明する(44~51)。継続犯を採っても返還等の強制の困難と有償譲受けとの均衡を重視して不成立とする理由付け,又は状態犯として寄託時点の認識を要求する構成が趣旨に示されている(52・53)。本答案の成立結論だけを唯一の許容答案とは扱わない。
⑸ 設問2の二つの責任経路
共犯解消を論じるだけでは,207条の特例による結果責任が残る。否定説明には両経路を排除し,肯定反論には存続と,解消を仮定しても特例を適用するという経路を区別する(56~59)。
制止,甲への攻撃,失神,丙の独立した意思を解消に有利な事情として評価する一方,甲の首謀者性,第1暴行による犯意強化,同じ木刀の使用を存続に有利な事情として評価する(60~65・72~75)。共謀の射程から構成する場合も,計画の大幅変更と別の犯罪の実現を説明し,結論だけでは足りない(67)。
本件では各木刀殴打の傷害危険と同一機会という一般要件は満たされるとの前提で,一部共犯の存在及び丙が確実に結果責任を負うことが207条の適用範囲にどう作用するかを論じる(68~71・76~78)。共犯関係や動機の変化を,同一機会性の当然の消失へ置き換えない。
⑹ 答案の限界と補足の扱い
上位者が不在でも占有が直ちに消失しないという説明及び207条適用後の個別的な非因果関係の反証は,法令・判例による補足である。これらは独立の重み付き項目として追加していない。判例は採用構成を支える資料であり,公式が許容する別構成を一律に誤答とするものではない。甲丙の明白な実行分担を長く論じ過ぎず,乙の区別基準と設問2の論理関係へ分量を配分する(23・81・82)。
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第7 出典及び確認状態
1 公式資料
①令和3年司法試験・刑事系科目問題(第1問:PDF1~4頁)。
②令和3年司法試験論文式試験問題出題趣旨(刑事系第1問:PDF14頁の刑事系見出しから18頁の第2問直前まで)。
③令和3年司法試験の採点実感・刑事系科目(第1問:PDF1~5頁)。頁はファイル全体のPDF頁を示す。
2 法令
e-Gov法令API・令和3年5月15日時点の刑法で,令和2年4月1日施行版を取得した。38・45・54・60・62・65・204・207・208・235・236・243・252・253・256・257条の関連規定を確認した。後発改正を本問当時の法状態として使っていない。
3 裁判例
最高裁昭和25年6月6日判決・昭和25年(れ)第175号:占有及び窃盗の基礎。1頁全文を確認。
最高裁昭和31年1月19日決定・昭和30年(あ)第1983号:旅館の貸与物について旅館側の所持の継続を判断。2頁全文を確認。
最高裁昭和50年6月12日決定・昭和49年(あ)第1161号:受託後に盗品と知って本犯者のために寄蔵した行為。1頁全文を確認。
最高裁平成元年6月26日決定・昭和63年(あ)第948号:実行着手後の共犯関係の解消。2頁全文を確認。
最高裁平成28年3月24日決定・平成27年(あ)第703号:207条の各暴行の傷害危険,同一機会及び反証。5頁全文を確認。
最高裁令和2年9月30日決定・令和元年(あ)第1751号:途中加入と一部共犯関係がある類型での207条。4頁全文を確認。
昭和31年決定の多数意見が直接判断したのは旅館の貸与物であり,副店長と店長の権限分配を直接判断した事案ではない。上位・下位の占有に関する本問の説明は,出題趣旨の記述及び商品管理の事実への当てはめとして区別する。また,令和2年決定は途中加入の事案であり,共犯解消を扱う本問への理由の転用は類推である。
4 確認状態
Confirmed(確認済み):上記の問題,公式資料の対象範囲,歴史法令及び各判決原文を確認した。Source statement(資料の記載):評価表の根拠は対象公式資料の関連記述に基づく。Inference(分析):項目の原子化,5段階の重み,模範解答の採用構成及び別事案への判例の理由の転用は本記事の判断である。Unknown(不明):実際の採点での各項目の配点及び本答案の得点・合否は公表資料から確定できない。
評価表は第1問の関連範囲全部を読んで作成した。別問題の出題内容は本問の根拠に用いていない。各判決の結論・理由と,本問の答案上の評価は分けて扱う。