その他裁判所関係

最高裁判所裁判官の少数意見

目次
1 少数意見の種類
2 最高裁判所裁判官に限り意見の表示が認められている理由
3 裁判所法及び最高裁判所裁判事務処理規則の関係条文
4 少数意見において専ら事実認定に関することが書いてあった実例
5 多数意見がほとんど書いていない最高裁判決の実例
6 関連記事その他

1 少数意見の種類
(1) 少数意見は以下の三種類に分けられます。
① 反対意見
・ ある論点についての法廷意見である多数意見の結論に反対するものです。
② 意見
・ 法廷意見の結論には賛成するものの,理由付けを異にする意見です。
・ 理由付けを省いたもの,又は理由付けを最大公約数の範囲に縮小したものを法廷意見とした場合,法廷意見の一つとなる性質を持っています。
③ 補足意見
・ 法廷意見に加わった裁判官がさらに自分だけの意見をこれに付加して述べるものです。
・ 反対意見及び意見はそれだけがそれを述べた裁判官の意見であるのに対し,補足意見は共同意見としての法廷意見と補足意見との双方がその裁判官の意見であることになります。
(2) 少数意見は,単独意見として書かれることもあれば,それに賛成する二人以上の裁判官の共同意見の形を採ることもあります。
    また,他の裁判官の少数意見に「同調する」という,共同意見よりはやや緩やかな形を採ることもあります。
(3) 反対意見が共同意見として書かれた場合,それに加わった裁判官がさらに付加意見を述べることがありますところ,反対意見とこの付加意見の関係は,法廷意見と補足意見の関係と同じです。
(4) 「判例とその読み方(三訂版)」104頁及び105頁が非常に参考になります。

2 最高裁判所裁判官に限り意見の表示が認められている理由
・ 裁判所法案質疑応答(昭和22年3月頃の,司法省刑事局作成の文書)には以下の記載があります。

第十一条(裁判官の意見の表示)
一問 この条文の趣旨
   答 第七十五条の評議の秘密の例外を設けた。
   元来評議を外部に漏らすことを許さないのは、評議における自由な意見の発表を保障しようとする趣旨に出たものであるが、最高裁判所の裁判官については、このような点を顧慮する必要がないばかりでなく,最高裁判所の裁判官はその任命について国民の審査に付されるから、国民としては裁判に関与した裁判官がどんな意見をもつていたかを知つて、国民審査の際の判断の資料とする必要がある。それで最高裁判所では、大法廷においても、小法廷においても、裁判官の意見を裁判書に表示しなければならないこととした。如何なる程度にその意見を表示するか、又表示の形式等は最高裁判所の規則で定められるであろう。
二問 何故下級裁判所には同様のことを認めないのか
   答 下級裁判所の裁判官については国民審査の制度がないばかりでなく、下級裁判所の裁判は事実の判断に関するものであつて、少数意見の公表をさせるのに適当でないから、これを認めなかった。


3 裁判所法及び最高裁判所裁判事務処理規則の関係条文
(1) 裁判所法11条(裁判官の意見の表示)は以下のとおりです。
    裁判書には、各裁判官の意見を表示しなければならない。
(2) 裁判所法75条(評議の秘密)は以下のとおりです。
① 合議体でする裁判の評議は、これを公行しない。但し、司法修習生の傍聴を許すことができる。
② 評議は、裁判長が、これを開き、且つこれを整理する。その評議の経過並びに各裁判官の意見及びその多少の数については、この法律に特別の定がない限り、秘密を守らなければならない。
(3) 最高裁判所裁判事務処理規則(昭和22年11月1日最高裁判所規則第6号)13条は以下のとおりです。
     裁判書に各裁判官の意見を表示するには、理由を明らかにして、これをしなければならない。

4 少数意見において専ら事実認定に関することが書いてあった実例
(1)ア 昭和24年8月17日発生の松川事件(現在の福島市松川町の国鉄東北本線で起きて乗務員3名が殉職した,列車往来妨害事件)の第二次上告審である最高裁昭和38年9月12日判決(20人の被告人全員を無罪とした仙台高裁昭和36年8月8日判決に対する上告を棄却した判決です。第一次控訴審としての仙台高裁昭和28年12月22日判決は17人について有罪(うち死刑4人)としていましたが,最高裁大法廷昭和34年8月10日判決によって破棄差戻しとされました。)はPDFで370頁ありますところ,
    多数意見は1頁ないし34頁であり,
    斎藤朔郎
最高裁判事(満州国司法部次長をしていたため,終戦後,ハバロフスクで抑留生活を送りました。)の補足意見は34頁ないし39頁であり,
    下記の記載(改行を追加しています。)を含む下飯坂潤夫最高裁判事の少数意見は39頁ないし370頁ですし,
    専ら事実認定に関することが書いてあります。
記(PDF367頁)
     以上私は縷々として証述したわけであるが、これによつて、原判決には幾多の甚しい審理不尽、理由不備の存することが判然としたものと考える。
     そしてその理由不備は重大な事実誤認に直結するものであり、これを看過することは著しく正義に反するものであることは云うまでもない。上来私の述べたところは実行々為に関するものであるが、実行々為あつての松川事件である。
     実行行為に関する判示に許し難しい欠陥があれば原判決全体に影響を及ぼすものであることはこれ亦証をまたない。
    よつて、私は原判決は全部これを破棄し、原裁判所に差戻すを相当と考える。
イ 第一審から数えて262回の公判期日がありました(NHKアーカイブスの「松川事件 全員に無罪判決」参照)。
(2)ア 松川事件に関しては,東京地裁昭和44年4月23日判決(第一審判決)及び東京高裁昭和45年8月1日判決(原則として控訴棄却の控訴審判決)によって国家賠償請求が認められました(いずれも判例秘書に掲載されています。)。
イ 「裁判官の勉強について-若い人のために-」(筆者は27期の西野喜一 元裁判官)には,東京地裁昭和44年4月23日判決について,「裁判において,証拠によって事実を認定するという作業の本質を洞察した名判決で,一読の価値があります。」と書いてあります(判例タイムズ1191号104頁)。
ウ 自由と正義2021年11月号の「司法の源流を訪ねて 第57回 松川事件(福島県福島市松川町)」には,松川事件に関して以下の記載があります。
    第一審、控訴審では死刑、無期懲役を含む重刑が言い渡された。これに対し、「無実の労働者を救え」を合言葉に思想信条、階層を超えて無数の人々が結束した。被告・家族会をはじめ1300を超える守る会、大弁護団が結成された。14年の歳月と5回の裁判を経て、1963年9月12日、全員無罪の判決を勝ち取った。その後、松川事件を題材とした小説や映画が多数世に出された。

5 多数意見がほとんど書いていない最高裁判決の実例
(1) 最高裁大法廷平成16年1月14日判決
ア 平成15年12月10日の口頭弁論を経て,最高裁大法廷平成16年1月14日判決は,公職選挙法14条,別表第3の参議院(選挙区選出)議員の議員定数配分規定は,平成13年7月29日施行の参議院議員選挙当時,憲法14条1項に違反していたものということはできないと判示しました。
イ 最高裁大法廷平成16年1月14日判決の多数意見は5行だけであって(判決文4頁参照),残りは以下のとおりでした。
① 補足意見1(裁判官5人)
② 補足意見1の追加補足意見(裁判官島田仁郎)
③ 補足意見2(裁判官4人)
④ 補足意見2の追加補足意見(裁判官亀山継夫)
⑤ 補足意見2の追加補足意見(裁判官横尾和子)
⑥ 反対意見(裁判官6人)
⑦ 追加反対意見(裁判官福田博)
⑧ 追加反対意見(裁判官梶谷玄)
⑨ 追加反対意見(裁判官深澤武久)
⑩ 追加反対意見(裁判官濱田邦夫)
⑪ 追加反対意見(裁判官滝井繁男)
⑫ 追加反対意見(裁判官泉徳治)
(2) 最高裁大法廷昭和28年7月22日判決
・ 多数意見が結論しか書いていない最高裁判決としては,最高裁大法廷昭和28年7月22日判決があるぐらいです(「一歩前へ出る司法」172頁参照)。


6 関連記事その他
(1) 「最高裁の暗闘 少数意見が時代を切り開く」10頁及び11頁には以下の記載があります。
    最高裁がホームページで公表しているすべての判決や決定のうち、少数意見がついたものを集計したところ、2008年は21世紀に入ってから初めて20%を超した。2010年は10月まででみると3割に達するペースだ。
    さらに、少数意見の論理がその後、同テーマを扱う別のケースで、多数意見に生まれ変わることが目立つようになってきた。それは、特に社会を大きく変える画期的な判決で際だっている。
(2) 北海道大学HPに載ってある「憲法裁判における調査官の役割」(藤田宙靖 元最高裁判所判事へのインタビュー)には最高裁判所裁判官の少数意見の作成方法に関して以下の記載があります(リンク先4頁・末尾298頁)。
・ 通常は裁判官が自ら書く。
・ 裁判官から調査官に頼むこともある。例えば、「この部分○○を書きたいが、調べて補足してくれ」と依頼することもある。また、「××について文章にしてくれ」と依頼することがある。
・ 理系の研究室で、教授が、准教授、講師、助教や院生をアシスタントとして使うことに似ているのかもしれない。
(3) 東弁リブラ2022年1月・2月号「元最高裁判所判事 木澤克之」には以下の記載があります。
    キャリア裁判官は,補足意見をよく書かれます。それは,下級審の裁判官向けの発信としての意味があるようです。最高裁判事は,下級審の裁判官から,最高裁判決についていろいろと尋ねられるので,判決の趣旨を正しく理解してもらうために,この文章はこういう趣旨なのだということを補足意見で示すのだ,と。これは裁判実務において,大きな意義があることだと思います。
    しかし,例えば私のような立場の裁判官(山中注:弁護士出身の最高裁判所判事)が,単独で,自身の見解を自由に「補足意見」などとして世に出してしまうと,最高裁判決に対して誤解を招いてしまうこともあり得ます。このような社会に与える影響も考えると,どうしても謙抑的に考えてしまうのです。
(4) 以下の記事も参照してください。
 最高裁判所裁判官の任命に関する各種説明
 最高裁判所長官任命の閣議書
・ 最高裁判所判事任命の閣議書
 高輪1期以降の,裁判官出身の最高裁判所判事
 外務省国際法局長経験のある最高裁判所判事

陳述書作成の注意点

目次
第1 陳述書作成の注意点
1 総論
2 記載すべき内容
3 信用性を高めるための工夫
4 記憶があるのであれば,具体的な事実を記載すべきこと
5 あいまいな記憶の取扱い
6 伝聞供述の取扱い
7 その他
第2 関連記事その他

第1 陳述書作成の注意点
1 総論
(1) 陳述書の作成者が直接体験した「生の事実」を,できる限り日時を入れて「時系列で」,「自分の言葉で」説明することを心がける必要があります。
(2) 段落分けをした上で段落ごとに番号(1,2,3・・・等)を振るべきですし,可能であれば,各番号ごとに小見出しを付けることが望ましいです。
(3)ア 動かしがたい事実をつなぐ線(ストーリー)を可能な限り分かりやすく示すことが望ましいです。
イ 動かしがたい事実としては以下のものがあります。
① 当事者間に争いのない事実
② 公文書(例えば,戸籍謄本及び登記簿)によって認定できる事実
③ 信用性の高い私文書(契約書等の処分証書及び領収書は当然ですが,紛争当時のメール及びLINEが含まれることもあります。)によって認定できる事実

2 記載すべき内容
(1) 争点に関係する生の事実を中心として記載すべきですが,背景事情にも言及した方がいいです。
(2)   交通事故事件において後遺障害逸失利益が問題となる場合,基礎収入をいくらとするのかが問題となりますから,依頼者の経歴を記載することがあります。
(3) 陳述書に記載されていない重要な事実が尋問で突然,出てきた場合,裁判官が違和感を持つことが多いですから,重要な事実は一通り陳述書に書いておいた方がいいです。
(4) 都合の悪い事実であっても反対尋問が予想されるものについては,フォローする事情と一緒に書いておいた方がいいです。

3 信用性を高めるための工夫
(1) 書証をよく読み込んだ上で,動かしがたい事実との間の整合性を確保する必要があります
(2) 経験則に反する行動を記載した場合,そのように行動した特別の事情を記載しておく必要があります。
(3) 陳述書の重要な部分については絶対に矛盾が生じないようにする必要があります。

4 記憶があるのであれば,具体的な事実を記載すべきこと
(1) 記憶があるのであれば,「暴行」,「脅迫」,「侮辱」といった抽象的な表現に留めずに,具体的な事実を記載すべきです。
(2) 記憶があるのであれば,「弁済」のような評価が含まれる表現については,具体的な事実も記載すべきです。

5 あいまいな記憶の取扱い
(1) 体験したことではっきりした記憶があるものはそのとおり記述すればいいのですが,すでに記憶があいまいだという部分も当然あり得ます。
   そういう部分は,むしろここはもう記憶がはっきりしませんと正直に書いていただいた方が,裁判所に与える印象がいいです。
(2) 何でもかんでも明快に,断定調で書けばいいというものではありません。
    記憶を喚起しても,それ以上明らかにならないところは,ここは今となってはよく分からない,思い出せないと正直に書いた方が,裁判所に与える印象がいいです。

6 伝聞供述の取扱い
(1)   伝聞を入れることは許されますものの,この場合,これは伝聞である旨をはっきり書いておく必要があるのであって,反対尋問で初めて伝聞供述であることが明らかになるような事態は避ける必要があります。
(2) 「ステップアップ民事事実認定 第2版」93頁には以下の記載があります。
    伝聞供述であることは,その信用性を判断する際には十分に考慮しなければならないことですが,伝聞供述であることから,一般論として当然に信用できないとまでいうのは行き過ぎで,個別に判断する必要があります。

7 その他
(1) 事実と意見は区別し,意見については当時のものか現在のものかを明らかにする必要があります。
(2) 感情的な記載は,事件の種類や記載した場合の影響を考えて適切な範囲にとどめる必要があります。
(3) 陳述書の作成者の話し方を,陳述書になるべく反映させた方が,尋問での供述との整合性を確保しやすいと思います。


第2 関連記事その他
1 法律トラブル羅針盤HP「陳述書例」が載っています。
2 「裁判官!当職そこが知りたかったのです。-民事訴訟がはかどる本-」52頁及び53頁には以下の記載があります。
岡口 基本的な周辺情報は,陳述書に書いてほしいですけどね。
    陳述書に書いていない,動機や人間性に関わる周辺情報が尋問でポロッと出てくると,それは,まさに,作為が介入していない生の情報として,裁判官の心証に決定的に影響することがあります。
3 訴訟の心得92頁には以下の記載があります。
    (山中注:陳述書を)弁護士が起案しても良いとはいっても,本人が使うはずのない言葉,たとえば法律用語や準備書面と全く同じ言い回しなどを使用すると,幻滅である。本人が知っているはずのない用語が出てくれば,それは弁護士が言わせただけであるし,それに対応する記憶も本人にないことが明らかである。
    弁護士は,訴訟全体を担当しているから,代理人としての目でモノを見ている。しかし証人は,その証人としてモノを見たのだし,記憶もしたのである。そのときその証人がどういう知識を持っていたか,何を知っていて,何を知っていなかったのか。またその証人は会社において何を担当する部署にいて,現実にどういう立ち位置でその事案に関わったのか,ということもきちんと整理して,その証人の立場に立って起案してやらないといけない。準備書面を書いているのと同じ立場で書いたら,恥ずかしいことになる。
4 クロスレファレンス民事実務講義(第3版)24頁には「【実務の着眼】-漏れのない発問-」として以下の記載があります。
① その人と最初に,また最後に会ったのはいつですか。
② その人と合計で何回会いましたか。
③ 相手方に出した通知,及び相手方から来た書面はこれで全部ですか。
④ その書類の原本は今どこにありますか。
⑤ あなたが◯◯したことは生まれてから今まで何回ありますか。
⑥ 結局のところ,あなたが出したお金は差し引きいくらですか。
⑦ 別の人に対しても同じようなことをしていませんか。
⑧ あなたは何時も◯◯の方法で△△をするのですか。
5 以下の記事も参照して下さい。
・ 証人尋問及び当事者尋問
・ 陳述書の機能及び裁判官の心証形成
 新様式判決
 処分証書及び報告文書
・ 二段の推定
・ 文書鑑定
 裁判所が考えるところの,人証に基づく心証形成
・ 尋問の必要性等に関する東京高裁部総括の講演での発言
 通常は信用性を有する私文書と陳述書との違い

陳述書の作成が違法となる場合に関する裁判例

目次
第1 名誉毀損に関する裁判例
1 東京地裁平成13年4月25日判決
2 東京地裁平成27年10月30日判決
第2 侮辱行為の違法性に関する最高裁判例等
第3 検察官の論告が違法となる場合
第4 関連記事その他

第1 名誉毀損に関する裁判例
1 東京地裁平成13年4月25日判決
・ 東京地裁平成13年4月25日判決(判例秘書に掲載)は,以下のとおり判示しています(ナンバリング及び改行を行っています。)。
①   裁判所は、当事者双方の主張する事実について争いがあるときは、民事訴訟法に従い、当事者が提出する証拠方法を取り調べ、その結果に基づいて事実を認定し、これに法を適用して請求の当否を判断するものであり、私人の主張する権利又は法律関係はこのような手続によってその存否が確定されるものである。
    そのようなことから、民事訴訟手続において尋問を受ける証人は、特別の定めがある場合を除き、宣誓の上、尋問された事項について良心に従って真実を述べるべき義務がある(民事訴訟法201条1項、民事訴訟規則112条4項参照)。
    そして、証人の証言は、要証事実と関連性があるものとして質問され、それに答えるべき必要性がある限り、他人の名誉を毀損し、もしくは侮辱することになったとしても、それが真実と認められる場合には、違法性を阻却し、不法行為に当たらないものと解される。
② そして、書証として訴訟手続に提出される陳述書は、作成者が証言をすることになったときにはそれを補い、もしくは証言に代わるものとしての機能を有し、その意味で、作成者が証人として証言する場合に類似したものということができるから、当該陳述書の内容が、要証事実に関連性を有し、明らかにする必要性がある限り、他人の名誉を毀損し、もしくは侮辱することになったとしても、それが真実と認められる場合には、証言の場合と同様、違法性を阻却し、不法行為に当たらないものと解される。

2 東京地裁平成27年10月30日判決
・ 東京地裁平成27年10月30日判決(判例秘書に掲載)は,以下のとおり判示しています(ナンバリング及び改行を行っています。)。
① 一般的に陳述書は,陳述者が自らの体験,記憶,認識等に基づく事実や意見を記載して民事訴訟の証拠として用いることで,客観的な裏付け資料を得にくい事実関係についての当事者の立証活動に資するものであるが,その信用性は,受訴裁判所において,記載内容の合理性,当該事実認識の根拠となった前提事実の蓋然性・確実性,対立当事者の陳述書を含む他の証拠との整合性,陳述書作成者の尋問等を通じて吟味,判断されるものである。
     もとより,第三者が一方当事者の求めに応じて陳述書を作成する場合にも,虚偽内容の陳述書を作成して真実発見を阻害することは許されないというべきであるし,また,誇張する表現を用いた陳述書を作成して真実発見を歪めることは相当でないというべきであるが,結果として裁判所の認定した事実と異なる事実や誇張された表現を記載した陳述書の作成が,それだけで事後的に違法と評価されるならば,陳述書の作成は著しく制約を受けることになり,当事者の立証活動を妨げかねず,その結果,受訴裁判所の判断に資する証拠が乏しくなり,ひいては真実の発見・解明を困難にすることにつながりかねない。
② したがって,陳述書の作成が相手方当事者との関係で違法と評価されるためには,その記載内容が客観的な裏付けを欠く(客観的裏付けのあることを立証できない場合を含む。)というだけでは足りず,少なくとも,陳述書に記載された事実が虚偽であること,あるいは,判断等の根拠とされた資料に看過できない誤りがあり,作成者がその誤りを知り又は当然に知り得たことを要するものと解される。

第2 侮辱行為の違法性に関する最高裁判例等
1 最高裁平成22年4月13日判決は,発信者情報開示等請求事件に関するものであって,陳述書に関する裁判例ではないですが,以下のとおり判示しています(ナンバリング及び改行を追加しています。)。
① 本件書き込み(山中注:「なにこのまともなスレ 気違いはどうみてもA学長」との書き込み)は,その文言からすると,本件スレッド(山中注:インターネット上のウェブサイト「2ちゃんねる」の電子掲示板の「A学園Part2」と題するスレッド)における議論はまともなものであって,異常な行動をしているのはどのように判断しても被上告人であるとの意見ないし感想を,異常な行動をする者を「気違い」という表現を用いて表し,記述したものと解される。
    このような記述は,「気違い」といった侮辱的な表現を含むとはいえ,被上告人の人格的価値に関し,具体的事実を摘示してその社会的評価を低下させるものではなく,被上告人の名誉感情を侵害するにとどまるものであって,これが社会通念上許される限度を超える侮辱行為であると認められる場合に初めて被上告人の人格的利益の侵害が認められ得るにすぎない。
   そして,本件書き込み中,被上告人を侮辱する文言は上記の「気違い」という表現の一語のみであり,特段の根拠を示すこともなく,本件書き込みをした者の意見ないし感想としてこれが述べられていることも考慮すれば,本件書き込みの文言それ自体から,これが社会通念上許される限度を超える侮辱行為であることが一見明白であるということはできず,本件スレッドの他の書き込みの内容,本件書き込みがされた経緯等を考慮しなければ,被上告人の権利侵害の明白性の有無を判断することはできないものというべきである。
    そのような判断は,裁判外において本件発信者情報の開示請求を受けた上告人にとって,必ずしも容易なものではないといわなければならない。
② そうすると,上告人が,本件書き込みによって被上告人の権利が侵害されたことが明らかであるとは認められないとして,裁判外における被上告人からの 本件発信者情報の開示請求に応じなかったことについては,上告人に重大な過失があったということはできないというべきである。
2(1) 弁護士神田知宏公式サイト「名誉感情侵害(侮辱)」に以下の記載があります。
    民事の「侮辱」は、刑事の「侮辱罪」と異なり、保護法益は個人の名誉感情です。最高裁は、「民法七二三条にいう名誉とは、人がその品性、徳行、名声、信用等の人格的価値について社会から受ける客観的な評価、すなわち社会的名誉を指すものであつて、人が自己自身の人格的価値について有する主観的な評価すなわち名誉感情は含まないものと解するのが相当である」として(最二小判昭45・12・18民集24巻13号2151頁)、名誉感情について「人が自己自身の人格的価値について有する主観的な評価」と定義しています。簡単に言うと「プライド」です。
(2) 「社会通念上許される限度を超える」かどうかの判断基準として,「インターネット削除請求・発信者情報開示請求の実務と書式」62頁には,「単にプライドが傷付けば成立するのではなく,いわゆる放送禁止用語のレベル感が求められています。」と書いてあります。
3 相手方訴訟代理人が準備書面等で行った名誉感情の毀損を理由とする弁護士会の懲戒処分としては以下のものがあります。
・ 平成21年2月23日発効の第二東京弁護士会の戒告(自由と正義2009年6月号207頁)
・ 平成26年7月8日発効の大阪弁護士会の戒告(自由と正義2014年11月号89頁)
・ 平成26年8月10日発効の東京弁護士会の業務停止1月(自由と正義2014年11月号96頁)
・ 平成27年9月9日発効の千葉県弁護士会の戒告(自由と正義2015年12月号95頁)
・ 平成28年7月25日発効の第一東京弁護士会の戒告(自由と正義2016年12月号96頁)
4 ちなみに,尊属傷害致死罪は憲法14条1項に違反しないとした最高裁大法廷昭和25年10月11日判決(ただし,最高裁大法廷昭和48年4月4日判決により判例変更されています。)の斎藤悠輔最高裁判事の意見(リンク先PDF15頁ないし22頁)には,「(山中注:穂積重遠最高裁判事の少数意見は)要するに民主主義の美名の下にその実得手勝手な我儘を基底として国辱的な曲学阿世の論を展開するもので読むに堪えない」などと書いてあります。


第3 検察官の論告が違法となる場合
・ 最高裁昭和60年5月17日判決は以下のとおり判示しています(改行を追加しています。)。
    検察官は、事件について証拠調が終つた後、論告すなわち事実及び法律の適用についての意見の陳述をしなければならないのであるが、論告をすることは、裁判所の適正な認定判断及び刑の量定に資することを目的として検察官に与えられた訴訟上の権利であり、公共の福祉の維持と個人の基本的人権の保障とを全うしつつ、事案の真相を明らかにし、刑罰法令を適正かつ迅速に適用実現すべき刑事訴訟手続において、論告が右の目的を達成するためには、検察官に対し、必要な範囲において、自由に陳述する機会が保障されなければならないものというべきである。
     もとより、この訴訟上の権利は、誠実に行使されなければならないが、論告において第三者の名誉又は信用を害するような陳述に及ぶことがあつたとしても、その陳述が、もつぱら誹謗を目的としたり、事件と全く関係がなかつたり、あるいは明らかに自己の主観や単なる見込みに基づくものにすぎないなど論告の目的、範囲を著しく逸脱するとき、又は陳述の方法が甚しく不当であるときなど、当該陳述が訴訟上の権利の濫用にあたる特段の事情のない限り、右陳述は、正当な職務行為として違法性を阻却され、公権力の違法な行使ということはできないものと解するのが相当である。

第4 関連記事その他
1(1) 新潟合同法律事務所HP「名誉を毀損する陳述書の作成者に慰謝料請求は可能か」が載っています。
(2) 法務省HPに「法制審議会-刑事法(侮辱罪の法定刑関係)部会」(令和3年9月22日第1回会議)が載っています。
(3) 法学セミナー2021年12月号に「侮辱罪の立法過程から見た罪質と役割──侮辱罪の法定刑引き上げをめぐって」が載っています。
2 相手方の提出した防禦方法を是認したうえその相手方の主張事実に立脚して新たに請求をする場合,すなわち相手方の陳述した事実をとってもって新請求の原因とする場合においては,かりにその新請求が請求の基礎を変更する訴の変更であっても,相手方はこれに対し異議をとなえその訴の変更の許されないことを主張することはできず,相手方が右の訴の変更に対し現実に同意したかどうかにかかわらず、右の訴の変更は許されます(最高裁昭和39年7月10日判決。なお,先例として,大審院昭和9年3月13日判決参照)。
3 以下の記事も参照してください。
・ 陳述書作成の注意点
・ 陳述書の機能及び裁判官の心証形成
 尋問の必要性等に関する東京高裁部総括の講演での発言

陳述書の機能及び裁判官の心証形成

目次
1 陳述書の機能
2 裁判官の心証形成
3 陳述書への批判的意見
4 書籍の記載の抜粋
5 関連記事その他

1 陳述書の機能
① 証拠開示機能
   本人の供述内容なり,証人の証言内容なりを事前に開示する機能です。
   これにより,反対尋問の準備が促進され,効果的な反対尋問が可能となり,集中証拠調べが充実・活性化されます。
② 主尋問代用補完機能
   主尋問に代用し,これを補完する機能です。
   詳細な数値など性質上口頭の陳述に適さない事項や,身上・経歴関係などわざわざ口頭で時間をかけて尋問するまでもない事項は陳述書に譲り,提出された書証等によって確定されず証拠調べの実施によって初めて確定できる争点に絞って主尋問を行うことが可能となります。
③ 情報収集機能
   早い段階での事案の正確な把握のため,情報及び証拠収集作業を代理人が前倒しするようになる機能です。
④ 参加意識向上機能
   陳述書の作成過程及び自己名義の陳述書が裁判所に提出されることを通じて,当事者の訴訟への参加意識を高める機能です。
⑤ 主張固定機能
   事後に主張を変更したり,誤解があったなどと弁解したりすることを困難にし,事実についての当事者の主張を固定する機能です。
⑥ 調書作成補助機能
   書記官が正確な要領調書を作成する助けとなる機能です。


2 裁判官の心証形成
(1)   周辺的な事情,例えば,①過失や因果関係が争点になっている事案における被害感情等が書かれている場合,②実質的に争いがない事実が書かれてある場合,③提出者にとって不利なことが書かれている場合,人証調べを行わないで陳述書により裁判所の心証が形成されることが多いです。
(2)ア  反対尋問を経ていない陳述書の証明力は極めて弱いと考えられています。
   そのため,争いがある重要な事実については,原則として,人証調べを行った上で裁判所の心証が形成されますから,反対尋問を経ていない陳述書だけで重要な事実が認定されることは原則としてありません。
イ やむを得ない理由で反対尋問ができなかった本人尋問の結果は証拠資料となることがあります(最高裁昭和32年2月8日判決参照)。
    また,民事訴訟においては,伝聞証言の証拠能力は当然に制限されるものではなく,その採否は,裁判官の自由な心証による判断に委ねられています(最高裁昭和32年3月26日判決。先例として,最高裁昭和27年12月5日判決参照)。
   そのため,反対尋問を経ていないというだけの理由で陳述書の証拠能力が否定されるわけではありません。
ウ 外部ブログの「反対尋問を経ない陳述書の証明力について」によれば,簡易裁判所の場合,反対尋問を申請しなかった相手方当事者の陳述書が過大評価されることがあるみたいです。
(3) 訴訟の心得139頁には以下の記載があります。
     裁判官の心証は,動かしがたい事実をもとに考え始めていって,ストーリーの整合性で確信に至る。ストーリーの整合性で確信に至るのであるから,原告が勝ちなら原告のストーリー,被告が勝ちなら被告のストーリーが基本になる。もちろん細々とした点は別である(まれに第3のストーリーということもある。)。
     したがって,個々の要件事実ごとに,こちらは原告のいうとおり,こちらは被告のいうとおりなどという,ばらばらな認定にはならず,全体として首尾一貫した認定になる。
     当事者から見ると,ギリギリの51:49の事案でも,結論が出たときには,一方的に片方が勝ったように見えることになる。当事者が腹を立てる原因である。
(4) 裁判官の心証形成一般については,外部HPの「事実認定と裁判官の心証形成」が参考になります。


3 陳述書への批判的意見
・ 16期の佐藤歳二 元裁判官の「勝つべき者が勝つ民事裁判を目指してー事実認定における法曹の心構えー」(「要件事実・事実認定論と基礎法学の新たな展開-伊藤滋夫先生喜寿記念」(平成21年2月1日出版)116頁)には以下の記載があります。
    最近の民事訴訟では,証人又は本人尋問に代えてそれらの陳述書を提出させる扱いが多いようであるが,私としては,この点が大変気にかかる。もちろん,旧民訴法時代にも,人事訴訟や労働関係訴訟において,争点に至るまでの経緯等について関係者の陳述書を提出させて,証人等の尋問時間を短縮する手法として用いられたことはあるが,現行の民事訴訟法施行後の実務では,通常の訴訟事件においても,かなり多用されていることが目立っている。証人等の尋問時間を短縮するためでなく,これをもって人証に代えてしまう扱いが少なくないと感じている。言うまでもなく,口頭弁論主義,直接主義の要請により,裁判所は,証人又は本人に対し直接尋問をして心証を得るのが原則であり,このような書面重視の審理では本当に真実の認定ができるのか,ひいては「勝つべき者を勝たせる裁判になっていないのではないか」と心配している。
    こうした陳述書変更の傾向は,裁判の迅速化重視の副作用だと思うが,到底,当事者の納得を得られるものではないと考える。


4 書籍の記載の抜粋
(1) 「書きたい誘惑と書かない勇気」(弁護士任官の窓第154回。筆者は54期の廣瀬一平 福岡高裁5民判事)には主張書面に関するものですが,以下の記載があります(自由と正義2021年3月号40頁)。
    長い文書は、集中力が続きません。
    事件類型によっても異なると思いますし、今の私に精進不足があることは否定できませんが、おおむね7~8枚を超えた辺りから、自分の集中が切れ始めるのが分かります。15枚を超えてしまうと、一息入れようと考えます。
    内容も大切です。たとえば、以前の書面で書かれていた内容と同旨の言い換えに過ぎなかったり、別の原稿の貼り付けだったりとの疑惑を一旦抱いてしまうと、ついつい、全体を端折って読む誘惑に負けそうになります。
(2) 「コートマネージャーとしての裁判所書記官-協働の中の裁判実務-」5頁には,平成元年前後の状況として以下の記載があります。
    当時の民事訴訟審理の考え方は,古典的な弁論主義伝統的な裁判官論の立場に立っていた。主張・立証は当事者(代理人)の為すに任せ,争点の整理もせず,立証趣旨も不明確なまま申請された証人を次々と調べ,最後に判決を出すという姿が多い実情だった。また,裁判官の初任時研修の講話では,顔に表情を出さず(心証非開示) 「裁判官はスフィンクスたれ」と指導されたともいう。
(3) 50期の武藤貴明裁判官が執筆した「争点整理の考え方と実務」(令和3年9月20日出版)350頁及び351頁には以下の記載があります。
    このような場合(山中注:必要性に乏しいと思われる人証が申請された場合)、なぜその人証が必要なのか当事者の考えを聴いた上で、採否を決める必要があります。必要な人証である限り、尋問の時間を確保して採用することは当然ですが、不必要な人証についても、当事者の反発を恐れて申請されるまま採用することは、望ましいことではありません。当事者の納得(いわゆる「ガス抜き」)のために採用することもありますが、そのような特段の事情のない限りは、争点との関係で必要性に乏しい人証を採用することは適当ではないでしょう。
    もっとも、人証の必要性については、当事者が一番よく認識しているはずですので、裁判所としては、まず当事者の考えを聴くのが相当であり、最初から不必要と決めつけて期日に臨むことは控えるべきでしょう。

5 関連記事その他

(1) 北村・松谷・きさらぎ法律事務所HPの「裁判官の心証形成について――司法委員の経験から」には以下の記載があります。
    司法委員は、裁判官を補佐します。ときとして、証人尋問等の証拠調に立会い、意見を述べることがあります。その経験から申しますと、裁判官には、『心証のなだれ現象』があるということです。
『心証のなだれ現象』という言葉は、先輩弁護士らの受け売りですが、ある事実,ある証拠を岐点に、一挙に裁判官の心証が、一定方向に決まってしまうことを意味します。まさに、なだれを打つかのように。
(2) 以下の記事も参照してください。
・ 証人尋問及び当事者尋問
・ 陳述書作成の注意点
・ 新様式判決
 処分証書及び報告文書
・ 二段の推定
・ 文書鑑定
・ 裁判所が考えるところの,人証に基づく心証形成
・ 尋問の必要性等に関する東京高裁部総括の講演での発言
 通常は信用性を有する私文書と陳述書との違い

通常は信用性を有する私文書と陳述書との違い

目次
1 通常は信用性を有する私文書
2 陳述書それ自体の証明力が大きくない理由
3 メール及びLINEのやり取りが信用される理由
4 関連記事その他

1 通常は信用性を有する私文書
① 紛争が顕在化する前に作成された文書
→ 例えば,取引中にやり取りされた見積書及びメールがあります。
② 紛争当事者と利害関係のない者が作成した文書
→ 例えば,紛争とは無関係に作成された第三者の報告書があります。
③ 事実があった時点に近い時期に作成された文書
→ 例えば,紛争当時のメール及びLINE,作業日報があります。
④ 記載内容が習慣化されている文書
→ 例えば,商業帳簿及びカルテがあります。
⑤ 自己に不利益な内容を記載した文書
→ 例えば,領収書があります(最高裁昭和45年11月26日判決参照)。

2 陳述書それ自体の証明力が大きくない理由
・ 陳述書は,①紛争が顕在化した後に作成される文書ですし,②紛争当事者又はこれと利害関係のある人が作成することが通常ですし,③事実があった時点からかなり後に作成される文書ですし,④記載内容が習慣化されているわけではないです。
   そのため,陳述書は,通常は信用性を有する私文書と大きく異なりますから,自己に不利益な内容が記載されている部分を除き,陳述書それ自体の証明力は大きくありません。

3 メール及びLINEのやり取りが信用される理由
(1) 訴訟の心得13頁には以下の記載があります。
    経緯の中の細かな間接事実については,当事者間に争いがない事実も多い。今や企業間の交渉は,その多くが電子メールでなされているから,それは動かしがたい証拠・事実になっている。メールのやり取りなどは相互で行うものであるから,特に信用性は高い。「見てない」などの言い訳はできないし,どう理解したかも分かってしまう。そうすると,その経緯の中で争いのない事実を多数拾い出していくと,原被告の主張するストーリーのうち,どちらがより整合的であるかが判断できることになる。
(2) LINEについてもメールと同趣旨のことがいえると思います。

4 関連記事その他
(1) 「運送品を外観上良好な状態で船積した」旨の記載のある船荷証券の所持人において荷揚当時外部から運送品そのものにつき損傷等の異常を認めうる状態にあつたときは,特段の事情がないかぎり,運送品そのものの損傷等の異常は,運送人の運送品取扱中に生じたものと事実上推定されます(最高裁昭和48年4月19日判決)。
(2) 以下の記事も参照してください。
・ 証人尋問及び当事者尋問
・ 証拠説明書
・ 陳述書作成の注意点
 新様式判決
 処分証書と報告文書
・ 二段の推定
・ 文書鑑定
 裁判所が考えるところの,人証に基づく心証形成
・ 尋問の必要性等に関する東京高裁部総括の講演での発言
・ 陳述書の機能及び裁判官の心証形成

任期終了直前の依願退官及び任期終了退官における退職手当の支給月数(推定)

目次
1 総論
2 退職手当の支給月数の具体例
3 関係記事その他

1 総論
(1) 国家公務員生涯設計総合情報提供システムHPの「5 退職手当の計算例」に,平成30年1月1日以降の「国家公務員退職手当支給割合一覧」が載っています。
(2) 退職手当を計算する場合,勤続期間1年未満の端数は切り捨てられるとのことです。
   
2 退職手当の支給月数の具体例
(1) 平成30年1月1日以降,任期終了直前の依願退官及び任期終了退官における退職手当の支給月数は以下のとおりとなると思われます(国家公務員退職手当法を「法」と記載し,国家公務員退職手当法施行令を「令」と記載しています。)。
(判事補10年の場合)
① 任期終了直前の3月31日等に依願退官した場合
   在職期間9年の自己都合退職となる結果,4,5198月(法3条1項)
② 任期終了により退官した場合
   在職期間10年の任期終了退官となる結果,8.37月(法3条1項)
(判事補10年+判事10年の場合)
③ 任期終了直前の3月31日等に依願退官した場合
   在職期間19年の自己都合退職となる結果,16.49727月(法3条1項)
   ただし,任期の終了に伴う裁判官の配置等の事務の都合により依願退官した場合,18.3303月(法4条1項2号・令3条1号)
④ 任期終了により退官した場合
   在職期間20年の任期終了退官となる結果,24.586875月(法4条1項2号・令3条2号)
(判事補10年+判事20年の場合)
⑤ 任期終了直前の3月31日等に依願退官した場合
   在職期間29年の自己都合退職となる結果,33.3963月
   ただし,任期の終了に伴う裁判官の配置等の事務の都合により依願退官した場合,39.29715月(法5条1項5号,令4条・3条1号)
⑥ 任期終了により退官した場合
   在職期間30年の任期終了退官となる結果,40.80375月(法5条1項1号)
(判事補10年+判事30年の場合)
⑦ 任期終了直前の3月31日等に依願退官した場合
   在職期間39年の自己都合退職となる結果,43.7751月
   ただし,任期の終了に伴う裁判官の配置等の事務の都合により依願退官した場合,39.29715月(法5条1項5号,令4条・3条1号)
⑧ 任期終了により退官した場合
   在職期間40年の任期終了退官となる結果,47.709月(法5条1項1号)
(2) 基準日時点において50歳以上の裁判官が,毎年4回ぐらい実施されている早期退職希望者の募集(国家公務員退職手当法8条の2)に応募することで依願退官した場合,任期終了退職と同じ支給率で退職手当を支給してもらうことができます(国家公務員退職手当法4条1項3号又は5条1項6号)。

3 関係記事その他
(1) 38期の井上薫裁判官は,「諸君!」2006年1月号の80頁ないし88頁に,「あの「靖国傍論」判決批判の裁判官がクビ?我、「裁判干渉」を甘受せず」と題する記事を寄稿していますところ,82頁には以下の記載があります。
     平成一六年一一月のある日、私は、横浜地裁の浅生重機所長から、「判決の理由が短いので改善せよ」と言われた。執務時間中所長室で二人きりの時のことである。
     平成一七年七月一四日、所長面談の時、私は所長から「判決の理由を改善するように言ったのに改善しないので、来年の判事再任は無理である。第二の人生を考えておくように」と言われた。所長面談というのは、所長が裁判官の人事評価をするに先立ち、その裁判官としなければならないものとして制度化された面談であり、公式行事である。余人は立ち会わない。
(2) 以下の資料を掲載しています。
・ 裁判官の人事評価に関する規則(平成16年1月7日最高裁判所規則第1号)
・ 裁判官の人事評価に関する規則の運用について(平成16年3月26日付の最高裁判所事務総長の依命通達)
・ 裁判官の人事評価の実施等について(平成16年3月26日付の最高裁判所人事局長通達)
・ 裁判官に関する人事事務の資料の作成等について(平成16年5月31日付の最高裁判所人事局長の依命通達)
・ 裁判官の再任等に関する事務について(平成16年6月17日付の最高裁判所人事局長通達)
・ 令和元年10月30日開催の退職準備等説明会の資料(東京高裁)
(3) 以下の記事も参照してください。
・ 裁判官の年収及び退職手当(推定計算)
・ 裁判官の号別在職状況

戦前の裁判官の報酬減額の適法性に関する国会答弁

目次
1 戦前の裁判官の報酬減額の適法性に関する国会答弁等
2 関連記事その他

1 戦前の裁判官の報酬減額の適法性に関する国会答弁等
(1)   森山眞弓法務大臣は,平成14年11月13日の衆議院法務委員会において以下の答弁をしています。
① 御指摘のとおり、昭和6年という、大分前でございますが、若槻内閣のときに裁判官の減俸がされたことがあったという話でございます。資料は必ずしも十分ではございませんけれども、法令や文献等によりますと、おおむね次のような経緯であったようでございます。
    昭和6年に若槻内閣は、経済不況が続く中で、国家財政緊縮の一環として、俸給等の具体的額を定めた勅令の改正によりまして、判事を含むすべての官吏を減俸しようといたしましたが、これに対しては、判事を含めて官吏による反対運動が起こったそうでございます。
ここで判事による反対の理由は、判事を減俸する勅令の改正は先ほど申した裁判所構成法第73条に違反するというものでございました。

② 当時の政府の解釈は、すべての判事をその意にかかわらず減俸する勅令の改正は裁判所構成法に反しないというものでありましたけれども、このような反対運動を受けまして、政府は、改正勅令〔昭和6年勅令第99号高等官官等俸給令中改正ノ件のこと。〕の附則に、判事については、その意に反して現に受ける額を減額されないとの規定を設けて、他方で、減俸に同意しない判事に対しては、次回帝国議会提出の法律案によって減俸するという方針を閣議決定いたしました。
    もっとも、その後、大審院長が乗り出しまして、全国の判事に対しまして減俸に同意するように訓示をいたしましたことから、結局、判事全員が減俸もしくは寄附に同意したということでございまして、以上、当省において把握しておりますこの経緯はこんなところでございますけれども、当時の政府の裁判所構成法第73条の解釈の内容自体、必ずしもはっきりいたしませんし、そもそも当時の裁判所構成法及び改正勅令の解釈は、その内容及び法規範としての性質の相違等に照らしまして、そのまま現在の憲法及び裁判官報酬法に当てはまるとは考えられません。
③ 既に申しました事情から今回の改正を行うものでございまして、当時の勅令改正における措置と同様の措置をとるということは、現在、相当ではないというふうに考えます。
(2) 裁判官の報酬等に関する法律の一部を改正する法律(平成14年11月27日法律第113号)に基づき,戦後始めて裁判官の報酬減額が実施されました。

2 関連記事その他
(1) 裁判所構成法(明治23年2月10日法律第6号)73条は以下のとおりでした。
① 第七十四条及第七十五条ノ場合ヲ除ク外判事ハ刑法ノ宣告又ハ懲戒ノ処分ニ由ルニ非サレハ其ノ意ニ反シテ転官転所停職免職又ハ減俸セラルルコトナシ
    但シ予備判事タルトキ及補闕ノ必要ナル場合ニ於テ転所ヲ命セラルルハ此ノ限ニ在ラス
② 前項ハ懲戒取調又ハ刑事訴追ノ始若ハ其ノ間ニ於テ法律ノ許ス停職ニ関係アルコトナシ
(2) 裁判所百年史158頁及び159頁には以下の記載があります。
1 官吏の俸給減額と裁判官の身分保障
   昭和六年、当時の内閣は、財政緊縮の見地から、司法官をも含むすべての官吏についてその俸給の減額を企図した。行政官等の減俸についても種々の抵抗があったが、司法官特に判事については、憲法及び裁判所構成法による各種の身分保障があることから、減俸はこれに反するとして、反対運動が展開され、政府も勅令による減俸が許されないことは認めざるを得なくなった。
   そこで、政府は、昭和六年五月二七日、勅令をもって、高等官官等俸給令及び判任官俸給令を改正し、官吏の俸給を一割ないし二割程度減額したが、判事に関しては、勅令の附則中に、同勅令施行の際現に従前の規定により俸給を受ける判事については、その意に反して現に受ける俸給額を減ずることができない旨が規定された(もっとも、実際には、判事の同意ないしは「献金」による減俸が行われることで事態は収まった。)。
(3) 全国の裁判所に対する司法大臣の司法行政権(裁判所構成法135条第一)との重複を避けるため,大審院長の司法行政権は大審院についてしか及びませんでした(裁判所構成法135条第二)。
(4) 以下の記事も参照してください。
・ 裁判官の報酬減額の合憲性に関する国会答弁
・ 裁判官の年収及び退職手当(推定計算)

裁判官の報酬減額の合憲性に関する国会答弁

目次
1 裁判官の報酬減額の合憲性に関する国会答弁
2 平成18年度からの地域手当導入時の国会答弁
3 行政府としての憲法の解釈は、国会及び裁判所を拘束するものではないこと
4 平成14年の裁判官報酬法改正に関する国会答弁資料等
5 関連記事その他

1 裁判官の報酬減額の合憲性に関する国会答弁
・   
野沢太三法務大臣は,平成15年8月8日付の平成15年度人事院勧告に基づく裁判官の報酬減額(平成15年10月16日法律第143号参照)に関して,平成15年10月3日の衆議院法務委員会において以下の答弁をしています(ナンバリング及び改行を追加しています。)。
① このたびの裁判官及び検察官の報酬及び俸給の引き下げにつきましては、今般の人事院勧告を受けまして、一般の政府職員につき同勧告どおりの給与の改定を行う旨閣議決定をしたことがございます。
   また、従来、裁判官及び検察官の給与については、国家公務員全体の給与体系の中で、その職務の特殊性を考慮しつつバランスのとれたものとする考え方に基づいて改定を行ってきたことなどを踏まえておるわけでございますが、政府といたしましては、裁判官及び検察官についても、一般の政府職員の給与改定に伴い、報酬月額を、その額においておおむね対応する一般の政府職員の俸給の減額に準じて改正する必要があるものとして措置を講ずることとしたものでございます。
   ところで、裁判官の報酬の減額につき、憲法第79条第6項及び第80条第2項が「在任中、これを減額することができない。」と規定しておりますことを承知しておりますが、法務省は憲法の解釈一般について政府を代表して見解を述べる立場にはございませんが、当省なりの考え方を申し上げますと、これらの憲法の規定は、裁判官の職権行使の独立性を経済的側面から担保するため、相当額の報酬を保障することによって裁判官が安んじて職務に専念することができるようにするとともに、裁判官の報酬の減額については、個々の裁判官または司法全体に何らかの圧力をかける意図でされるおそれがないとは言えないということから、このようなおそれのある報酬の減額を禁止した趣旨の規定であると解釈しております。
② ところで、今回の国家公務員の給与の引き下げは、民間企業の給与水準等に関する客観的な調査結果に基づく人事院勧告を受けて行われるものであります。
   このような国家公務員全体の給与水準の民間との均衡等の観点から、人事院勧告に基づく行政府の国家公務員の給与引き下げに伴い、法律によって一律に全裁判官の報酬についてこれと同程度の引き下げを行うことは、裁判官の職権行使の独立性や三権の均衡を害して司法府の活動に影響を及ぼすということはありません。
   したがいまして、今回の措置は、憲法第79条第6項及び80条第2項の減額禁止規定の趣旨に反するものではなく、同条に違反するものではないと考えております。
③ 確かに、委員御指摘のとおり、人事院勧告は一般の政府職員の給与などに関して行われるものでありまして、当然に同勧告によって裁判官の報酬のあり方が決められないのは御指摘のとおりであります。
   従来、裁判官の給与については、国家公務員全体の給与体系の中で、その職務の特殊性を考慮しつつバランスのとれたものとするという考え方に基づいて改定を行ってきたところであります。
   そして、一般の政府職員につきましては、人事院勧告どおりの給与の改定を行う旨、閣議決定をしたことなどを踏まえまして、今回の措置を行うものとしたところでございます。

2 平成18年度からの地域手当導入時の国会答弁
・ 27期の山崎敏充最高裁判所人事局長は,平成17年10月27日の参議院法務委員会において以下の答弁をしています。
① 今回の給与改定につきまして最高裁判所の裁判官会議で御議論をいただいたという経過がございますが、その際、地域手当制度の導入については、全国いずれの裁判所においても均質な裁判を実現するため、転勤が多く、独立して職権を行使している裁判官の職務の特殊性等に照らし、これまで同様、地方都市を含め全国各地にひとしく優れた裁判官を配置できるように適切な人事上の施策を行うように努める必要があると、こういった認識が示されておりまして、私ども事務方もそのように努力してまいりたいと考えておるところでございます。
② 若干経過を御説明いたしますと、八月十五日、人事院勧告ございまして、これが裁判官の報酬に適用になった場合どういうふうに考えるかということについて下級裁判所の裁判官の意見を聞いたわけでございます。
 人事院勧告の内容もすべてお知らせし、所長から口頭で説明もし、その結果として裁判官の意見を取りまとめて私どもいただいたということになるわけですが、多くの裁判官の意見は、これは一般政府職員の給与改定に準ずる形で改定されるのはやむを得ないと。引下げが内容でございますからそんな喜んでということはもちろんないだろうと思いますが、これはやむを得ないことだと理解を示したわけですが、一部、もちろん疑問だという声はございました。例えば、地域手当の導入によりまして、今でも調整手当が違いますんで差がございますが、その差が広がることについてどうだろうかという意見もございまして、反対するという意見ももちろんあったわけでございます。
 委員がおっしゃられた、じゃ反対した裁判官についてどう評価するのかと。これは不利益に扱うなんということは全くございませんで、反対を述べられた裁判官も様々でございます。ベテランの裁判官でもそういう意見を言われた方もおられる、若い方で言われた方もおられます。そういったことを不利益に扱うなんということは全くございません。
③ 委員のお話にございましたとおり、現在におきましても大都市勤務を希望する裁判官が多いというのは事実でございます。それは調整手当が高いというそういう理由ではなくて、やはり教育の問題ですとか扶養の問題ですとか、そういうもろもろのところから来ている問題ではなかろうかと思っておりますが、そういった中で、私どもとしては全国にやはり裁判官を配置していかなきゃいけないということで異動ということを行っておりまして、これは全裁判官が異動の負担をできるだけ公平に担っていくんだという、ある種共通認識に基づいて運営がされておりまして、特に大きな問題がなく運営されているという状況だろうと思います。
 ところで、その地域手当が導入された場合でございますが、この場合にも従前の調整手当における異動保障といったもの、これは同様の特例が設けられるようでございます。それからまた、本年度の人事院勧告によりますと、今後、広域異動手当の導入も検討されているというふうに聞いておりまして、こうしたことを考慮いたしますと、裁判官の全国配置が困難になって司法サービスの提供に支障を来すという懸念は、これは少ないのではないかというふうに思っております。


3 行政府としての憲法の解釈は、国会及び裁判所を拘束するものではないこと
・ 参議院議員小西洋之君提出内閣の解釈変更と議院内閣制等との関係に関する質問に対する答弁書(平成27年10月6日付)には以下の記載があります。
   憲法の解釈を最終的に確定する権能を有する国家機関は、憲法第八十一条によりいわゆる違憲立法審査権を与えられている最高裁判所である。他方、行政府においても、いわゆる立憲主義の原則を始め、憲法第九十九条が公務員の憲法尊重擁護義務を定めていることなども踏まえ、その権限を行使するに当たって、憲法を適正に解釈していくことは当然のことであり、このような行政府としての憲法の解釈については、第一次的には法律の執行の任に当たる行政機関が行い、最終的には、憲法第六十五条において「行政権は、内閣に属する。」と規定されているとおり、行政権の帰属主体である内閣がその責任において行うものである。行政府としての憲法の解釈は、国会及び裁判所を拘束するものではない。
   その上で、憲法を始めとする法令の解釈は、当該法令の規定の文言、趣旨等に即しつつ、立案者の意図や立案の背景となる社会情勢等を考慮し、また、議論の積み重ねのあるものについては全体の整合性を保つことにも留意して論理的に確定されるべきものであり、政府による憲法の解釈は、このような考え方に基づき、それぞれ論理的な追求の結果として示されてきたものであって、諸情勢の変化とそれから生ずる新たな要請を考慮すべきことは当然であるとしても、なお、前記のような考え方を離れて政府が自由に憲法の解釈を変更することができるという性質のものではないと考えている。仮に、政府において、憲法解釈を便宜的、意図的に変更するようなことをするとすれば、政府の憲法解釈ひいては憲法規範そのものに対する国民の信頼が損なわれかねないと考えられる。
    このようなことを前提に検討を行った結果、従前の解釈を変更することが至当であるとの結論が得られた場合には、これを変更することがおよそ許されないというものではないと考えられるが、政府として、御指摘のような「歴代政府の解釈に対して論理的整合性を逸脱し、法的安定性を損ねるような解釈変更」を行うことはない。

4 平成14年の裁判官報酬法改正に関する国会答弁資料及び法律案審議録
1 戦後始めて裁判官の報酬減額を実施した裁判官の報酬等に関する法律の一部を改正する法律(平成14年11月27日法律第113号)に関する国会答弁資料及び法律案審議録を以下のとおり掲載しています。
(1) 国会答弁資料
① 平成14年11月13日の衆議院法務委員会
② 平成14年11月19日の参議院法務委員会
(2) 法律案審議録(法務省開示分)
→ ①最高裁判所事務総長コメント,②裁判官の報酬の減額について,③検察官の俸給を一律に引き下げることについて,及び④裁判官報酬法及び検察官俸給法の改正に関する用例集(平成14年10月の法務省大臣官房司法法制部司法法制課の文書)が含まれています。
2 裁判官報酬の減額を受け入れた,平成14年9月4日の最高裁判所の裁判官会議議事録の本文には「人事院勧告について」として以下の記載があります。
    金築人事局長から,裁判官の報酬の取扱いについて補充説明があり,政府が人事院勧告を完全実施した場合,裁判官の報酬についても一般の国家公務員同様に減額するという方針に立って対処することについて了承した。
3 最高裁判所事務総長コメントは以下のとおりです。
    政府においては,今年度の人事院勧告に沿って,特別職を含め,国家公務員の給与全体を引き下げることとした旨決定したと聞いております。
そこで,本日,先般の最高裁判所裁判官会議の結果に基づいて,裁判官の報酬等に関する法律を所管する法務省の担当部局に対し,裁判官の報酬について,国家公務員同様の引き下げを行う旨の立法関係作業を依頼することとしました。
裁判官会議では,憲法上,裁判官の報酬について特に保障規定が設けられている趣旨及びその重みを十分に踏まえて検討し,人事院勧告の完全実施に伴い,国家公務員の給与全体が引き下げられるような場合に,裁判官の報酬を同様に引き下げても,司法の独立を侵すものではないことなどから,憲法に違反しない旨確認したものと理解しています。

5 関連記事
・ 裁判官の報酬等に関する法律の一部を改正する法律に関する国会答弁資料等
・ 戦前の裁判官の報酬減額の適法性に関する国会答弁
・ 裁判官の年収及び退職手当(推定計算)

裁判官及び検察官の定年が定められた経緯(日本国憲法の制定経緯を含む。)

目次
第1 裁判官の定年が定められた経緯
1 戦前の経緯
2 ポツダム宣言の発表から降伏文書調印までの経緯
3 降伏文書調印後,GHQ草案作成までの経緯
4 GHQ草案作成後,憲法改正草案発表までの経緯
5 枢密院における審議等
6 帝国議会における審議等
7 日本国憲法制定後の経緯
8 参考になるHP等
第2 検察官の定年が定められた経緯
1 戦前の経緯
2 戦後の経緯
第3 日本国憲法制定経緯に関する政府答弁
第4 関連記事その他


第1 裁判官の定年が定められた経緯
1 
戦前の経緯
(1) 大正10年6月1日施行の改正裁判所構成法に基づき,大審院長の定年は65歳であり,その他の判事の定年は63歳でした。
    ただし,控訴院又は大審院の総会決議により最大で3年間,引き続き在職することができました(大正10年5月18日公布の法律第101号による改正後の裁判所構成法74条ノ2)。
(2) 裁判所構成法74条ノ2は,昭和12年9月1日公布の法律第82号による改正があり,同日以降,定年退職日は5月31日又は11月30日に統一されました。
(3) 詳細については,「戦前の判事及び検事の定年」を参照してください
   
2 ポツダム宣言の発表から降伏文書調印までの経緯
(1)ア 昭和20年7月26日に発表されたポツダム宣言(訳文)には以下の条項が含まれていました。
6項:吾等ハ無責任ナル軍国主義カ世界ヨリ駆逐セラルルニ至ル迄ハ平和、安全及正義ノ新秩序カ生シ得サルコトヲ主張スルモノナルヲ以テ日本国国民ヲ欺瞞シ之ヲシテ世界征服ノ挙ニ出ツルノ過誤ヲ犯サシメタル者ノ権力及勢力ハ永久ニ除去セラレサルヘカラス
10項後段:日本国政府ハ日本国国民ノ間ニ於ケル民主主義的傾向ノ復活強化ニ対スル一切ノ障礙ヲ除去スヘシ言論、宗教及思想ノ自由並ニ基本的人権ノ尊重ハ確立セラルヘシ
12項:前記諸目的カ達成セラレ且日本国国民ノ自由ニ表明セル意思ニ従ヒ平和的傾向ヲ有シ且責任アル政府カ樹立セラルルニ於テハ聯合国ノ占領軍ハ直ニ日本国ヨリ撤収セラルヘシ
イ ポツダム宣言の中には,憲法改正という文言が直接に出てくる部分はありませんでした。
(2) 日本政府は,連合国に対し,昭和20年8月14日にポツダム宣言受諾を通告し,同日付のポツダム宣言受諾の詔書(いわゆる「終戦の詔書」)を,翌日正午のラジオ放送(いわゆる「玉音放送」)により発表しました。

3 降伏文書調印後,GHQ草案作成までの経緯
(1) 昭和20年8月31日に国務・陸・海軍三省調整委員会(SWNCC)で決定された「対日政策の基本文書」(SWNCC150)では,天皇を含む既存の日本の統治機構を通じて占領政策を遂行するという間接統治の方針が明確化される一方、主要連合国間で意見が相違する場合には米国の政策がこれを決定するという記載がありました(「米国の「初期対日方針」」参照)。
(2) 昭和20年9月6日にトルーマン大統領が発した,連合国最高司令官の権限に関する指令(JCS1380/6 =SWNCC181/2)では,ポツダム宣言は双務的な拘束力を持たないのであって,日本との関係は無条件降伏が基礎となっているとされました。
(3) 昭和20年10月8日,国務・陸・海軍三省調整委員会(SWNCC)は「日本の統治体制の改革」を作成しましたところ,そこでは,日本が自主的に統治体制を変革できなった場合,最高司令官が日本側に対し,憲法改正(日本国民が天皇制を維持すると決めた場合に天皇は一切の重要事項につき内閣の助言に基づいてのみ行うことや,日本国民及び日本の管轄権のもとにあるすべての人に基本的市民権を保障すること等の9項目の原則を盛り込んだもの)を示唆すべきとしていました。
(4) 昭和20年10月11日,マッカーサーが,就任挨拶に訪れた幣原喜重郎首相に示した5大改革指令の一つとして,「四、国民ヲ秘密ノ審問ノ濫用ニ依リ絶エス恐怖ヲ与フル組織ヲ撤廃スルコト―故ニ専制的恣意的且不正ナル手段ヨリ国民ヲ守ル正義ノ制度ヲ以テ之ニ代フ」という指令がありました(「十月十一日幣原首相ニ対シ表明セル「マクアーサー」意見」参照)。
(5) 昭和20年10月27日から昭和21年2月2日までの間,昭和20年10月13日付の閣議了解に基づき,幣原内閣の下に設置された憲法問題調査委員会(委員長は松本烝治国務大臣であり,通称は「松本委員会」です。)が,憲法問題審議のための会合を続けました。
(6) 昭和20年12月8日,松本烝治国務大臣は,衆議院予算委員会において,憲法改正について,①天皇の統治権総覧の堅持,②議会議決権の拡充,③国務大臣の議会に対する責任の拡大及び④人民の自由・権利の保護強化という,松本4原則を明らかにしました。
(7) 昭和21年1月7日,国務・陸・海軍三省調整委員会(SWNCC)は,「日本統治制度の改革」(SWNCC228)を作成し,同月11日,マッカーサーに伝達しました。
   SWNCC228では,マッカーサーが日本政府に対し,選挙民に責任を負う政府の樹立,基本的人権の保障,国民の自由意思が表明される方法による憲法の改正といった目的を達成すべく,統治体制の改革を示唆すべきであるとしていました。
(8) 昭和21年2月1日,「松本委員会試案」なるものが毎日新聞によってスクープされたところ,同日,これを見たマッカーサーは,GHQのホイットニー民政局長に対し,松本試案の詳細な回答書を作成して日本政府に手交するように命じました。
(9) 昭和21年2月3日,マッカーサー3原則(天皇は国家の元首・戦争放棄・封建制度の撤廃)に基づくGHQ草案の作成がGHQ民政局で開始し,同月10日に完了しました。
(10) 政府がGHQに対し,昭和21年2月8日に提出した憲法改正要綱「政府ノ起案セル憲法改正案ノ大要ニ付キ大体的ノ説明」とセットです。)によれば,司法に関する改正事項は「第六十一条ノ規定ヲ改メ行政事件ニ関ル訴訟ハ別ニ法律ノ定ムル所ニ依リ司法裁判所ノ管轄ニ属スルモノトスル」ことだけでした。
   


4 GHQ草案作成後,憲法改正草案発表までの経緯
(1)ア GHQが日本政府に対し,昭和21年2月13日に提示したGHQ草案訳文)によれば,71条本文で「最高法院ハ首席判事及国会ノ定ムル員数ノ普通判事ヲ以テ構成ス右判事ハ凡ヘテ内閣ニ依リ任命セラレ不都合ノ所為無キ限リ満七十歳ニ到ルマテ其ノ職ヲ免セラルルコト無カルヘシ」と定めていて,72条後段で「判事ハ満七十歳ニ達シタルトキハ退職スヘシ」と定めていました。
イ 日本政府は,GHQに対し,昭和21年2月18日,憲法改正案説明補充を提出し,日本の国情にあわない民主主義的憲法を制定した場合,ワイマール憲法制定後にヒトラー政権が誕生したような事態が起きかねないなどと反対したものの,同月8日の案については考慮の余地がないとGHQに通告されました。
   そのため,日本政府は,同月22日の閣議において,GHQ草案を基本として,可能な限り日本側の意向を取り込んだものを起案することを決定しました。
(2) 日本政府がGHQに対し,昭和21年3月4日に提出した憲法改正案(3月2日案)86条は「裁判官ハ満七十歳ニ達シタトキハ当然退官ス。」と定めていました。
(3) GHQ及び日本政府の共同作業として作成された憲法改正案(3月5日案)によれば,75条1項後段は「此等ノ裁判官ハ凡テ内閣ニ於テ之ヲ任命シ満七十歳ニ達シタル時退官スルモノトス」と定めていて,76条第5段は「裁判官ハ満七十歳ニ達シタル後ハ在任スルコトヲ得ズ」と定めていました。
(4) 昭和21年3月6日午後5時,「憲法改正草案要綱」が,英訳文,勅語,内閣総理大臣談話とともに内閣から発表され,謄写刷り版にして新聞社その他の報道機関に配布され,翌日に報道されました。
(5) 昭和21年4月2日のGHQ及び閣議の了解に基づき,ひらがな口語体によって憲法改正草案が準備されることとなりました。
(6) 昭和21年4月5日時点の憲法改正草案では,裁判官の定年は70歳とされていたものの,昭和21年4月17日時点の憲法改正草案(同日,枢密院に諮詢され,かつ,全文が公表されました。)では,裁判官の定年年齢は法律で定めるものとされました。
   
5 枢密院における審議等
(1) 昭和21年4月10日,第22回衆議院議員総選挙が実施され,過半数を制した政党が出なかったため,同月22日,幣原内閣は総辞職を表明しました。
(2) 昭和21年5月2日,鳩山一郎に大命降下があったものの,同月4日,昭和5年に統帥権干犯問題を発生させて軍部の台頭に協力したことを理由に,鳩山一郎が公職追放されました。
   そのため,同月16日,幣原内閣で外務大臣をしていた吉田茂に大命降下があり,同月22日,第1次吉田内閣が発足しました。
(3) 昭和21年5月27日,政府は,それまでの審査結果に基づく修正を加えた帝国憲法改正草案を再び枢密院に諮詢しました。
(4) 昭和21年6月8日,枢密院本会議は,「国体変更」であるとして反対した美濃部達吉顧問官(昭和10年9月18日,天皇機関説事件により貴族院議員を辞職した憲法学者です。)を除く賛成多数で,帝国憲法改正草案を可決しました。
   
6 帝国議会における審議等
(1) 昭和21年6月20日,政府は帝国憲法改正案を第90回帝国議会に提出しました。
(2) 昭和21年8月24日,衆議院本会議で,修正された帝国憲法改正案を可決し,同日,貴族院に送付しました。
(3) 昭和21年10月7日,衆議院が貴族院の修正に同意しましたから,帝国議会での審議が終了しました。
(4) 昭和21年10月12日,政府は,「帝国議会において修正を加えた帝国憲法改正案」を枢密院に諮詢し,同月29日,枢密院本会議は,2名の欠席者(うち,1人は美濃部達吉顧問官)を除く全員一致で,帝国憲法改正案を可決しました。
(5) 明治節(明治天皇の誕生日であることに基づく祝日)である昭和21年11月3日,日本国憲法が公布されました。
   


7 日本国憲法制定後の経緯
(1)ア 裁判所法(昭和22年4月16日法律第59号)50条に基づき,最高裁判所の裁判官の定年は70歳となり,下級裁判所の裁判官の定年は65歳となりました。
イ 昭和22年5月3日,日本国憲法及び裁判所法が施行されました。
ウ 「司法行政について(上)」(筆者は22期の西理 元裁判官)には以下の記載があります(平成24年4月21日発行の判例時報2141号9頁)。
    裁判所法案については翌二二年一月二八日に閣議決定されたが、GHQのアプルーヴァルがなかなか得られず難航する。三月三日からは殆ど連日にわたって会談が持たれた結果、一二日に漸くこれを得て、即日枢密院本会議で議決・上奏、同月一八日に衆議院通過、同月二六日に貴族院本会議で可決成立を見る。
   こうして、裁判所法は辛うじて憲法と歩調を合わせて施行される運びとなった。
(2) 昭和23年1月1日法律第1号による改正後の裁判所法50条に基づき,昭和23年1月1日以降,簡易裁判所の裁判官の定年は70歳となりました。
(3) 昭和23年12月21日法律第260号による改正後の裁判所法50条に基づき,昭和24年1月1日に設置された家庭裁判所の裁判官の定年は65歳となりました。
   
8 参考になるHP等
(1)ア 以下の資料が非常に参考になります。
① 国立国会図書館HP「日本国憲法の誕生」
② 憲法制定の経過に関する小委員会報告書の概要(平成12年4月)(衆議院憲法調査会事務局作成)
→ 裁判官の定年及び勤務延長の可否について,特段の記載はありません。
③ 憲法制定の経過に関する小委員会報告書/日本国憲法制定経過年表
④ 「日本国憲法の制定過程」に関する資料(平成28年11月)(衆議院憲法調査会事務局作成)
⑤ 内藤頼博裁判官が寄稿した「戦後の司法改革-裁判所法の制定経過-」(法曹百年史(昭和44年10月10日発行)337頁ないし350頁)
⑥ 衆議院HPの「終戦への日々」及び「帝国憲法改正案の審議」
→ 短い文章でよくまとまっています。
イ 衆議院憲法調査会HPに②及び④の資料が載っています。
(2) 帝国憲法の改正については,枢密顧問の諮詢(帝国憲法56条及び枢密院官制6条2号)及び帝国議会の議決(帝国憲法73条)を経る必要がありました(日本国憲法の上諭参照)。
   
第2 検察官の定年が定められた経緯
1 戦前の経緯
(1) 大正10年6月1日施行の改正裁判所構成法に基づき,検事総長の定年は65歳であり,その他の検事の定年は63歳でした。
   ただし,司法大臣の決定により,最大で3年間,引き続き在職することができました(大正10年5月18日公布の法律第101号による改正後の80条ノ2)。
(2) 裁判所構成法80条ノ2は,昭和12年9月1日公布の法律第82号による改正があり,同日以降,定年退職日は5月31日又は11月30日に統一されました。
(3) 詳細については,戦前の判事及び検事の定年」を参照してください
   
2 戦後の経緯
(1)ア GHQが日本政府に対し,昭和21年2月13日に提示したGHQ草案69条2項(訳文)には,「検事ハ裁判所ノ職員ニシテ裁判所ノ規則制定権ニ服スヘシ」と定められていました。
   しかし,日本政府がGHQに対し,昭和21年3月4日に提出した憲法改正案(3月2日案)では,検事に関する条文は削除されていました。
イ GHQ及び日本政府の共同作業として作成された憲法改正案(3月5日案)によれば,73条2項は「検察官ハ最高裁判所ノ定ムル規則ニ従フコトヲ要ス最高裁判所ハ下級裁判所ニ関スル制規ヲ定ムルノ権限ヲ之ニ委任スルコトヲ得」と定めていました。
ウ 日本国憲法77条2項は,「検察官は、最高裁判所の定める規則に従はなければならない。」と定めています。
(2)ア 司法法制審議会第一小委員会(昭和21年7月9日に司法省に設置されたもの)において,検事はすべて判事に準じて任期,定年制を設けることと決定されました。
   その関係で,検察庁法要綱案(昭和21年8月5日付)(多分,司法省刑事局が作成したもの)の第十五では,「一級検事が年令六十五年に達したとき、二級検事又は副検事が年令六十年に達したときは各退官とするとすること。」とされました。
イ 検察庁法案立案の方針(昭和22年1月23日付)(多分,司法省刑事局が作成したもの)の第七では,「その他は、概ね裁判所構成法による現在の構成に則ることとし、特に検察官の準司法的性格を保持すること」とされました。
ウ 検察庁法要綱案及び検察庁法案立案の方針は,終戦後の司法制度改革の経過(令和2年4月26日現在,楽天ブックスにおいて53万6800円で販売されています。)に載っています。
エ 「検察審査会法制定の経緯」のPDF1頁目には以下の記載があります。
   1946年 7月から 1947年3月の第 2期には,日本側が主導して様々な法令が制定されたが,検察庁法の制定は警察制度改革に目途がつかずに難航し,また裁判所法には最終段階で公判陪審に関する規定が挿入された。
(3)ア 検察庁法(昭和22年4月16日法律第61号)(リンク先の3頁及び4頁)22条に基づき,検事総長の定年は65歳となり,その他の検事の定年は63歳となりました。
イ 佐藤藤佐司法省刑事局長は,昭和22年3月28日の貴族院検察庁法案特別委員会において以下の答弁をしています。
   裁判官の職務と檢察官の職務は、其の性質上の差もあります關係から、職務を執行される職員の能力と申しますか、體力の點に於ても、檢察官が裁判官に比べて積極的に活動することを必要と致します關係から、裁判官程高い定年を設けることは適當ではなからうと云ふ考の下に、現行法通り定年を六十三と致したのでありまして、長官級の方はそれより高めて、現在の檢事總長の定年を六十五と斯う云ふ程度に止めたのであります。
ウ 「新検察制度の十年の回顧」には以下の記載があります(昭和33年2月発行の法曹時報10巻2号68頁)。
   検察官の定年をこのように決めたことについては別に科学的考慮があったわけではないが、検察官の職務は裁判官に較べて激職であり体力的に見て一般の検察官は従前の定年が相当だろうというところからこれを踏襲し、検事総長についてはその地位と職責から従来の定年をいくらかあげたに過ぎないのである(山中注:検事総長の定年についても戦前と同じです。)。
   ただ、裁判官の定年に較べて差等が設けられたのは主として総司令部の示唆があったことに因るのである。


第3 日本国憲法制定経緯に関する政府答弁
1 吉国一郎内閣法制局長官は,昭和51年5月7日の参議院予算委員会において以下の答弁をしています(ナンバリング及び改行を追加しています。)。
① 憲法の前文の第一段にございます「政府」の言葉は、これは狭い意味の行政府を指すのではなくて、国家の統治機関全体を指すものというのが、これはもう学界の通説であろうと思います。
② 旧大日本帝国憲法第七十三条では、憲法の改正手続を定めております。その改正手続によって、もちろん旧憲法は欽定憲法でございましたので、その改正手続も天皇が発議をされて、それで当時の帝国議会が審議をして、それをさらに天皇が裁可されるという形で改正が行われたわけでございます。改正が行われて新しい憲法の基本原理は国民主権ということにあることは御承知のとおりでございます。

   そこで、人類普遍の原理である国民主権に反するような一切の憲法、法令及び詔勅を排除するということを言っただけでございまして、大日本帝国憲法第七十三条の規定によって改正手続が行われ、その改正が行われた結果、国民主権というものが確立をされた。
   国民主権が確立される以上は、それに矛盾抵触するようなあらゆる法令、詔勅は排除されることは当然でございまして、法理的のみならず、一般の理念としても何らそこに矛盾するものはないと私どもは考えております。
③ 新憲法が連合国軍の占領下というきわめて異常な事態の中で制定されたということは事実でございますけれども、当時、旧憲法第七十五条にございましたように、摂政が置かれていたわけではないのでございますから、旧憲法第七十五条に矛盾するということは全くございません。法理論上は特に問題はないものと思っております。
   それからもう一つ、旧大日本帝国憲法第七十三条には、「将来此ノ憲法ノ条項ヲ改正スルノ必要アルトキハ」云々とあって、この憲法全体を改正することはできないのではないかというような御議論がございましたけれども、これは一条項、つまり数個の条なり数個の項を改正することのみを言っているわけではなくて、基本的に旧大日本帝国憲法全文を改正することも、この第七十三条の規定によってできるものと私どもは考えております。
2 
衆議院議員森清君提出日本国憲法制定に関する質問に対する答弁書(昭和60年9月27日付)
には以下の記載があります。
① 日本国憲法は、大日本帝国憲法の改正手続によつて有効に成立したものであつて、その間の経緯については、法理的に何ら問題はないものと考える。
② 日本国憲法は大日本帝国憲法の改正手続によつて有効に成立したものであつて、御指摘のように連合国最高司令官の権限においてその有効性が保障されているものではない。
③ 陸戦ノ法規慣例ニ関スル規則中の占領に関する規定(山中注:「国の権力が事実上占領者の手に移りたる上は、占領者は、絶対的の支障なき限り、占領地の現行法規を尊重して、成るべく公共の秩序及び生活を回復確保する為、施し得べき一切の手段を盡すべし。」と定める43条のこと。)は、本来交戦国の一方が戦闘継続中他方の領土を事実上占領した場合のことを予想しているものであつて、連合国による我が国の占領のような場合について定めたものではないと解される。
④ 日本国憲法が大日本帝国憲法の改正手続によつて有効に成立したものであることは、一についてにおいて述べたとおりであり、日本国憲法の前文における「日本国民は、正当に選挙された国会における代表者を通じて行動し、…この憲法を確定する」との文言は、日本国憲法が正当に選挙された国民の代表者によつて構成されていた衆議院の議決を経たものであることを表したものと解される。したがつて、御指摘のような問題(山中注:明治憲法の下では,日本国民は憲法改正を確定することはできないし,貴族院は正当に選挙された国会における代表者ではないという問題)はないものと考える。
⑤ 日本国憲法が御指摘の分類(山中注:欽定憲法,民定憲法及び協約憲法の三分類)のいずれに属するかは、講学上の問題であつて、政府として断定することは、差し控えたい。

第4 関連記事その他
1(1) 国立国会図書館デジタルアーカイブ「日本国憲法等」に,大日本帝国憲法,終戦の詔書,日本国憲法等の原本の写真データが載っています。
(2) 国立国会図書館HPの「日本国憲法の誕生」に,「2-18 大日本弁護士会連合会「憲法改正案」 1946年1月21日」が載っています。
2(1) 昭和30年代後半までは,民間企業の多くで導入されていたのは55歳定年制でした(「国家公務員の定年引上げをめぐる議論」3頁参照)。

(2) 検察官及び国立大学の教員を除く一般職の国家公務員について60歳定年制が導入されたのは昭和60年3月31日です(「国家公務員の定年引上げをめぐる議論」4頁参照)。
3 汚れた法衣-ドキュメント司法記者47頁によれば,戦後の司法改革によって裁判所が独立した際,戦前の裁判官がまったく戦争責任を問われることなく新憲法下の裁判官になったのに対し,検事は多数追放されたとのことです。
4 以下の記事も参照してください。
 戦前の判事及び検事の定年
 幹部裁判官の定年予定日
・ 日本国憲法外で法的効力を有していたポツダム命令
・ ポツダム宣言の発表から降伏文書調印までの経緯
・ 在外財産補償問題
・ 日本の戦後処理に関する記事の一覧

戦前の判事及び検事の定年

目次
第1 定年制導入前の状況
1 裁判所構成法の条文
2 精神又は身体の衰弱を理由とする退職決議の事例
3 帝国議会の答弁に立った鈴木喜三郎司法次官のその後
第2 1921年の,裁判所構成法改正に基づく定年制の導入及び定年退職者に対する増加恩給の支給
1 1921年の,裁判所構成法改正に基づく定年制の導入
2 定年退職者に対する増加恩給の支給
第3 1921年6月13日の司法省人事
1 司法省人事の内容
2 司法省人事の分析
3 横田国臣 大審院長の定年退官に関する背景事情
第4 1937年の,裁判所構成法改正に基づく定年時期の統一及び勇退者に対する増加恩給の支給等
1 裁判所構成法改正に基づく定年時期の統一
2 勇退者に対する増加恩給の支給
3 日中戦争の初期に裁判所構成法等の改正が実施されたこと
4 その後の恩給
第5 司法官以外の戦前の定年,及び戦前の幹部裁判官の人事等
1 司法官以外の戦前の定年
2 戦前の幹部裁判官の人事等
第6 関連記事その他

1 定年制導入前の状況
1 裁判所構成法の条文
(1) 制定時の裁判所構成法67条は「判事ハ勅任又ハ奏任トシ其ノ任官ヲ終身トス」と定めていました。
    また,大正2年4月7日公布の法律第6号による改正後の裁判所構成法67条は「判事ハ終身官トシ親任勅任又ハ奏任トス」と定めていました。
(2) 制定時の裁判所構成法73条1項本文は「第七十四條及第七十五條ノ場合ヲ除ク外判事ハ刑法ノ宣告又ハ懲戒ノ處分ニ由ルニ非サレハ其ノ意ニ反シテ轉官轉所停職免職又ハ減俸セラルルコトナシ」と定めていました。
(3) 裁判所構成法74条は「判事身體若ハ精神ノ衰弱ニ因リ職務ヲ執ルコト能ハサルニ至リタルトキハ司法大臣ハ控訴院又ハ大審院ノ總會ノ決議ニ依リ之ニ退職ヲ命スルコトヲ得」と定めていました。
2 精神又は身体の衰弱を理由とする退職決議の事例
(1)ア 精神の衰弱を判断することは著しく困難であったため,精神の衰弱を理由とする退職決議については,提案すらされことがありませんでした(大正10年3月23日の衆議院裁判所構成法中改正法律案外一件委員会における鈴木喜三郎司法次官の答弁(会議録6頁3段目)参照)。
     ただし,大正9年7月15日の貴族院裁判所構成法中改正法律案外一件特別委員会における鈴木喜三郎司法次官の答弁(会議録3頁1段目)には,強制的に貴様は身体が衰弱した,精神が衰弱したといって,判事総会によって退職を命じられた事例が,明治31年から明治32年の頃に12件あったもようであると書いてあります。
イ 横田国臣司法次官は,明治31年6月,判事検事官等俸給令の改正により各裁判所職級別の定員を廃止して,司法省の計画する人事に賛成する判事を大審院及び控訴院に送り込み,司法省の与党で大審院及び控訴院の総会の多数を制することで,当時の春木義彰検事総長及び北畠治房大阪控訴院長ら老朽司法官に対し,裁判所構成法74条に基づく退職を命じた上で,横田国臣は同月28日に検事総長に就任しました。
     ただし,同月30日に成立した第1次大隈内閣がこの人事を問題視したため,同年10月15日に横田国臣 検事総長は懲戒免官となりました(Wikipediaの「横田国臣」のほか,「司法権独立の歴史的考察」9頁,10頁及び73頁参照)。
(2) 身体の衰弱を理由とする退職決議については,明治40年以降,0件となりました(大正9年7月15日の貴族院裁判所構成法中改正法律案外一件特別委員会における鈴木喜三郎司法次官の答弁(会議録3頁1段目)参照)。
(3) 戦後の裁判官分限法の場合,執務不能を理由とする分限裁判は,最高裁大法廷昭和33年10月28日決定(7年以上の療養生活)及び大阪高等裁判所昭和61年2月19日決定(失踪)の2件だけです。
3 帝国議会の答弁に立った鈴木喜三郎司法次官のその後
・ 帝国議会の答弁に立った鈴木喜三郎(1867年生まれ)は1914年4月18日から1921年10月5日まで司法次官をして,同日から1924年1月7日まで検事総長(54歳で就任)をして,同月から同年6月11日まで司法大臣(56歳で就任)をした後,5・15事件の直後に立憲政友会総裁に就任しました。

第2 1921年の,裁判所構成法改正に基づく定年制の導入,及び定年退職者に対する増加恩給の支給
 1921年の,裁判所構成法改正に基づく定年制の導入
(1) 明治憲法58条2項は「裁判官ハ刑法ノ宣告又ハ懲戒ノ處分ニ由ルノ外其ノ職ヲ免セラルヽコトナシ」と定めていました。
   そのため,裁判官に対する定年制の導入を内容とする裁判所構成法の改正案に対しては,明治憲法58条2項に違反するのではないかという質問が帝国議会で繰り返し行われました。
   しかし,明治憲法58条2項の「職」は「官」のことであると解されるし,裁判所構成法の定年は退職事由に過ぎず,判事の官を失うわけではない(ただし,判事としての職務を行うわけではなく,その俸給も受けませんでした。)から,定年制の導入は明治憲法58条2項に違反しないとされました。
(2) 大審院長及び検事総長の定年は65歳であり,その他の判事及び検事の定年は63歳でした。
    ただし,判事の場合,控訴院又は大審院の総会決議により,検事の場合,司法大臣の決定により,最大で3年間,引き続き在職することができました(大正10年5月18日公布の法律第101号による改正後の裁判所構成法74条ノ2及び80条ノ2)。
(3) 帝国議会における司法次官の説明によれば,大審院長及び検事総長が担当する,一般を指揮監督するという任務は,その職務の性質上,それ以外の任務と異なり細かいことをする必要がないし,大審院部長及び控訴院長並びに検事長以下と異なり裁判事務はほとんどせずに司法行政事務だけをすればいいから定年を2年遅くしたのであって,両者に対して敬意を払うために定年を2年遅くしたわけではないことになっています(大正10年3月24日の衆議院裁判所構成法中改正法律案外一件委員会における鈴木喜三郎司法次官の答弁(会議録6頁及び8頁)参照)。
(4) 当初の政府案では,60歳,63歳及び65歳の3段階の定年制でしたが,枢密院の審議の結果,60歳定年制は早すぎるということで,63歳及び65歳の2段階の定年制となりました(大正9年7月15日の貴族院裁判所構成法中改正法律案外一件特別委員会における鈴木喜三郎司法次官の答弁(会議録1頁)参照)。
(5) 大正10年当時,判検事の人数は1600人ぐらいであり,定年退官の対象者は年間10人ぐらいでした(大正10年3月24日の衆議院裁判所構成法中改正法律案外一件委員会における鈴木喜三郎司法次官の答弁(会議録9頁)参照)。
(6) 満60歳以上であり,相続の単純承認をする家督相続人がいた場合,裁判所の許可がなくても戸主は隠居できました(旧民法752条・普通隠居)が,それ以外の場合,裁判所の許可がない限り戸主は隠居できませんでした(旧民法753条・特別隠居)。
2 定年退職者に対する増加恩給の支給
(1) 定年ニ因ル退職判事検事ノ恩給ニ関スル法律(大正10年5月18日公布の法律第102号)1項に基づき,裁判官及び検事が定年退官した場合,増加恩給(文官の普通恩給の50%相当額)を支給してもらえることとなりました。
(2) 大正12年4月14日公布の法律第49号による改正に基づき,既に恩給を受給している退職者も含めて,増加恩給は30%となりました。
(3) 「恩給法の改正」(内閣恩給局長が投稿した,昭和8年9月の東京朝日新聞の記事)に,恩給に関する従前の経緯が書いてあります。

3 1921年6月13日の司法省人事
1 司法省人事の内容
    1921年6月13日に裁判所構成法74条ノ2が施行されたことに基づき,以下の司法省人事が実施されました(1921年6月14日の官報(リンク先のコマ番号3の左及び5の左))。
(新規就任者)
・ 富谷鉎太郎 大審院長(64歳。1912年12月23日,東京控訴院長に就任)
・ 牧野菊之助 東京控訴院長(54歳。1920年6月30日,名古屋控訴院長に就任)
・ 磯谷幸次郎 名古屋控訴院長(55歳。1921年3月25日,函館控訴院長に就任)
・ 能勢萬 函館控訴院長(58歳頃。1920年7月16日,大阪地裁所長に就任)
・ 谷田三郎 大阪控訴院長(1911年11月30日,司法省監獄局長に就任)
・ 高橋文之助 廣島控訴院長
・ 柳川勝二 宮城控訴院長(53歳。大審院判事)
・ 豊島直通 東京控訴院検事長(49歳。1919年4月18日,司法省刑事局長に就任)
・ 三木猪太郎 名古屋控訴院検事長(51歳頃。1913年4月12日,廣島控訴院検事長に就任)
・ 大田黒英記 廣島控訴院検事長(55歳頃。1918年6月12日,東京地裁検事正に就任)
・ 松岡義正 大審院部長(50歳。1916年5月8日,大審院部長に就任)
(定年退職者)
・ 横田国臣 大審院長(70歳。1906年7月3日就任)
・ 河村善益 東京控訴院検事長(63歳。1907年9月28日就任)
・ 水上長次郎 大阪控訴院長(63歳。1913年4月12日就任)
・ 清水一郎 宮城控訴院長(64歳頃。1910年4月20日就任)
・ 志方鍛 廣島控訴院長(64歳。1913年4月12日就任)
・ 末広厳石 大審院部長(63歳。1918年7月1日就任)
・ 鶴見守義 大審院検事(63歳)
2 司法省人事の分析
(1) 大審院長以外の判事の定年を63歳としたのは,8年以上在籍していて,施行時に63歳であった東京控訴院検事長及び大阪控訴院長まで退職させるためであり,大審院長の定年を65歳としたのは,後任の大審院長が決まるまでの間,当時64歳の東京控訴院長につなぎの大審院長をさせるためであったのかもしれません。
   実際,富谷鉎太郎大審院長の後任は1921年10月5日就任の平沼騏一郎(当時54歳であり,1912年12月21日就任の検事総長)であり,平沼騏一郎検事総長の後任は鈴木喜三郎(当時54歳であり,1914年4月18日就任の司法次官)でした。
(2) 1898年6月,横田国臣
は司法次官として,当時の検事総長及び大阪控訴院長といった老朽司法官の淘汰を断行した直後の同月28日に自分が検事総長に就任して周囲のねたみを買ったため,同年10月15日に懲戒免官となりました。
   そのため,平沼騏一郎及び鈴木喜三郎は,前任者の定年退職直後の昇進を避けることで,横田国臣と同じ目にあうことを避けようとしたのかも知れません。
(3)ア 「公務員制度改革の経緯と今後の展望 」(2008年1月の立法と調査)には以下の記載があります(リンク先のPDF2頁)。
   昇進に関しては、文官高等試験(高文)に合格すると、最初は、判任官である属として任用され、2年後に奏任官である事務官に任官する。入省 10年後には本省課長、20 年程度で局長、42,3 歳で次官に就任している。
イ 戦前の次官及び局長は勅任官でありますところ,すべての地裁所長及び地裁検事正が勅任官となったのは,昭和2年4月18日公布の勅令第87号(リンク先のコマ番号2)による裁判所職員定員令の改正後です。
(4) 1921年5月の裁判所構成法の改正当時,63歳の定年を超えていた大審院長,東京控訴院長,東京控訴院検事長,大阪控訴院長,宮城控訴院長,廣島控訴院長等が一斉に退職した場合,何らかの不都合が発生する可能性があったことから,最大で3年間,引き続き在職できるとする規定を置いたのかもしれません。
3 横田国臣 大審院長の定年退官に関する背景事情
・ 「私の会った明治の名法曹物語」(著者は小林俊三 元最高裁判事)222頁及び223頁には,横田国臣に関して以下の記載があります。
   横田検事総長は、前記のように、自分の立案した司法改革案に便乗し検事総長になった(山中注:明治31年の隈板内閣で司法次官をしていました。)が、大きな非難を呼び起して終に懲戒免官になってしまった。しかし前にふれたように親友清浦司法大臣(山中注:後の清浦奎吾首相のこと。)に救われて東京の検事長に帰り咲いた。しかしその後は何といっても実力者であるから明治三七年四月には検事総長となり、さらに明治三九年七月三日南部甕男氏が大審院長から枢密院入りをしたとき、その後を襲って大審院長となった。それからの氏の終身官を名とする執着力が司法部の歴史的話柄となったのである。横田国臣大審院長が現われた明治三九年七月は多分彼の五五歳ぐらいの時であったろう。今から思えばずい分若い。その人が五年はもとより一○年たっても退かない。もちろん一口に裁判官は終身官であるといわれるから、傍からとやかく言っても退かせるわけにはいかない。このことは横田氏が次官として行った司法改革の精神と全く矛盾する態度であるというのが、他の巷説として私の耳に入って来ている。その間の政府側の処置としてまず横田氏に大正四年一二月男爵を授与するよう取り計らった。これが大審院長退任の示唆であると巷説は伝えているが、氏が一向に退かなかったところを見ると、交換条件などは何もなかったのであろう。かくしてその後も延々として大審院長の地位を動かないので、当時の司法省の主脳者(山中注:首脳者の誤記と思います。)の間に、これではやむを得ないから法律によって定年制を布くほかないという談が強力となった。そして終にそれが法律となった。すなわち当時の裁判所構成法第七四条に二を加え、大審院長は六五年、その他の判事は六三年で退職することに定められた。さすがの横田国臣氏も、この法律の施行された大正一○年六月にはすでに七○歳となっていたから、当然退職するの余儀なきに至った。それにしても同じ地位に約一五年いたというのは、毀誉いずれの意味かは別として、強心臓は天晴れと申すべきであろう。
   後年(もちろん終戦はるか前である)知人の裁判官から、われわれは本来終身官なのに定年制を布かれたのは一に横田のためであると冗談めかして話されたことがある。
   横田国臣氏は大審院長退職後さすがに疲れが来たか、その後二年経たないうちに、すなわち大正一二年二月二二日七三歳をもってその異彩ある生涯を閉じた。

第4 1937年の,裁判所構成法改正に基づく定年時期の統一及び勇退者に対する増加恩給の支給等
1 裁判所構成法改正に基づく定年時期の統一
(1) 裁判所構成法74条ノ2及び80条ノ2は,昭和12年9月1日公布の法律第82号による改正があり,定年退職日は5月31日又は11月30日に統一されました。
   その趣旨は定年時期を統一することで,人事異動が複雑にならないようにする点にありました(昭和12年8月6日の衆議院本会議における牧野賤男 衆議院裁判所構成法中改正法律案外二件委員会委員長の報告参照)。
(2) 改正前は,65歳又は63歳になった日に退職するという取扱いであったため,年度途中にたびたび人事異動が行われ,非常に煩雑であり,事務の統制を欠くこととなっていました。
(3) 第七十一回帝國議會の協賛を經たる法律竝に其の立法理由(日本銀行調査局)のコマ番号149に立法当時の解説が載っています。

2 勇退者に対する増加恩給の支給
(1) 昭和12年8月14日公布の法律第69号による改正後の定年ニ因ル退職判事検事ノ恩給ニ関スル法律(大正10年法律第102号)1項に基づき,同日以降,裁判官及び検事は,60歳に達した後に退職すれば,定年退官した場合と同様に,増加恩給(文官の普通恩給の30%相当額)を支給してもらえることとなりました。
   その趣旨は,勇退者を多くして,後進のために道を開く点にありました(昭和12年8月6日の衆議院本会議における牧野賤男 衆議院裁判所構成法中改正法律案外二件委員会委員長の報告参照)。
(2) 改正前は,定年退官した場合に限り,増加恩給(普通恩給の30%相当額)を支給してもらうことができました。
(3) 第七十一回帝國議會の協賛を經たる法律竝に其の立法理由(日本銀行調査局)のコマ番号81に立法当時の解説が載っています。
(4) 裁判官及び検事を含む文官の場合,最低恩給年限は17年でした(総務省HPの「恩給制度の概要」及び「恩給Q&A」参照)。
   
3 日中戦争の初期に裁判所構成法等の改正が実施されたこと
(1) 昭和12年7月7日に盧溝橋事件が発生し,同月11日に「北支事変」と名付けられ,同年8月13日に第二次上海事変が発生したために華北での事変終結を前提とした船津和平工作が頓挫し,同年9月2日に日本政府は「北支事変」を「支那事変」と改称しました。
   つまり,日中戦争の初期に裁判所構成法等の改正が実施されたということです。
(2) 司法沿革誌(昭和14年10月に司法省が作成した文書)における,昭和12年7月7日の記事は以下のとおりです(旧字体を新字体に変えています。)。
   我北支駐屯軍部隊北平西南方ナル盧溝橋龍王廟附近ニ於テ夜間演習中同地ニアル馮治安部隊ノ一團ヨリ不意ニ不法発砲ヲ受ケシモ我方ハ隠忍自重シテ応射セス徐々ニ交渉ヲ進メタルニ支那側ハ毫モ誠意ヲ表セス為ニ彼我交戦ニ及ヒ遂ニ日支事変ノ端ヲナス


4 その後の恩給
(1) 国家公務員共済組合法(昭和23年6月30日法律第69号)94条に基づき,恩給法(大正12年4月10日法律第48号)の適用を受ける国家公務員については,退職給付(同法17条2号)としての退職年金(同法39条)ではなく,引き続き恩給が支給されることとなりました。
(2) 国家公務員共済組合法(昭和33年5月1日法律第128号)付則1条ただし書に基づき,昭和34年1月1日以降に退職した国家公務員については,恩給ではなく,退職給付(同法第4章第3節)としての退職年金(同法76条)が支給されることとなりました。
(3) 現行の公務員共済年金制度は、公務員の恩給期間及び旧共済組合員期間(旧国家公務員共済組合等の組合員であった期間をいいます。)を引き継いだ制度です(衆議院議員平岡秀夫君提出旧令共済組合の取扱いに関する質問に対する内閣答弁書(平成20年4月11日付)参照)。


第5 司法官以外の戦前の定年,及び戦前の幹部裁判官の人事等
1 司法官以外の戦前の定年
(1) 判事及び検事以外の官吏についても定年制の導入が検討されたものの,定年まで在官することが権利のごとく考えられるとかえって沈滞の空気が濃化するおそれがあるという考え等のために導入されませんでした(「国家公務員の定年引上げをめぐる議論」1頁参照)。
(2) 戦前の陸軍の場合,大将は65歳,中将は62歳,少将は58歳が定年であり,戦前の海軍の場合,大将は65歳,中将は60歳,少将は56歳が定年でしたが,元帥府に列せられた陸軍大将又は海軍大将については定年がありませんでした(Wikipediaの「停限年齢」参照)。
2 戦前の幹部裁判官の人事等
(1) 戦前の幹部裁判官の人事については,外部HPの「大正・昭和戦前期における幹部裁判官のキャリアパス分析-戦前期司法行政の一断面への接近」,及び「大正・昭和戦前期における司法省の裁判所支配」が非常に参考になります。
(2) 明治15年から明治34年までに明治法律学校を卒業した司法官の経歴が,外部HPの「明治法律学校出身の司法官群像」に載っています。
(3) 最高裁判所とともに(著者は高輪1期の矢口洪一 元最高裁判所長官)には以下の記載があります。
(4頁の記載)
    明治憲法の下では、裁判官の身分は司法省に属し、司法大臣が監督した。違憲立法審査に関しては天皇の諮問機関である枢密院がある程度の力を持っていたが、最高裁に相当する大審院には権限がなかった。当然、司法官は行政官に比べて定年が長い分だけ出世も遅く、地位も必ずしも高くはなかった。大審院院長は、もちろん司法大臣より低くみられていた。
(56頁の記載)
    戦前の裁判官の人事権は司法大臣の下に置かれており、俸給面でも行政官が四〇歳半ばで次官などに登りつめるのに対し、裁判官は同じ俸給表を六三歳の定年までにゆっくり消化していくものとされていた。
(4) 主として戦前の検察制度の沿革が,検察庁HPの「我が国の検察制度の沿革」に載っています。

第6 関連記事その他
1(1) 1921年当時の大正天皇の病状について,Wikipediaの「大正天皇」には以下の記載があります。
    1920年(大正9年)から1921年(大正10年)2月にかけ皇太子妃の内定取り消しをめぐる宮中某重大事件が発生するも無事解決したのを受けて、1921年3月、皇太子裕仁親王は懸案だった欧州訪問に出発した。この頃の大正天皇は、同年7月に塩原御用邸へ静養に行った際には、侍従に抱えられてやっと歩き、風呂や階段を怖がったり、突然暴れだしたりした。また前年の出来事や身近な人物を忘れるなど記憶喪失状態に陥るなどの状態であった。
(2) 1920年3月30日に大正天皇の「体調悪化」が始めて宮内省から公表され,1921年11月25日,昭和天皇が大正天皇の摂政に就任し,摂政宮(せっしょうのみや)と呼ばれるようになり,1926年12月25日に大正天皇が47歳で崩御しました。
2 労働契約に定年の定めがないということは,ただ,雇用期間の定めがないというだけのことで,労働者に対して終身雇用を保障したり,将来にわたって定年制を採用しないことを意味するものではありません(最高裁大法廷昭和43年12月25日判決)。
3(1) 大正10年当時の日本人男性の平均寿命は42.06歳であり,65歳男性の平均余命は9.31年でした(厚生労働省HPの「表2 完全生命表における平均余命の年次推移」参照)から,大審院長及び検事総長の65歳という定年は当時の男性の平均寿命より23歳近くも長かったこととなります。
(2) 大阪の弁護士重次直樹のブログ「職業と寿命,長寿の秘訣:僧侶,画家,医師,学者,弁護士は長生き」が載っています。
4 以下の記事も参照して下さい。
・ 裁判官の定年が70歳又は65歳とされた根拠
・ 裁判官及び検察官の定年が定められた経緯(日本国憲法の制定経緯を含む。)
 幹部裁判官の定年予定日

文書提出命令に関する最高裁判例

目次
1 民事訴訟法219条(書証の申出)に関する最高裁判例
2 民事訴訟法220条3号(法律関係文書)に関する最高裁判例
3 除外事由としての民事訴訟法220条4号ロ(公務秘密文書)に関する最高裁判例
4 除外事由としての民事訴訟法220条4号ハ(職務上知り得た事実で黙秘すべきもの,技術又は職業の秘密に関する文書)に関する最高裁判例
5 除外事由としての民事訴訟法220条4号ニ「専ら文書の所持者の利用に供するための文書」に関する最高裁判例
6 除外事由としての民事訴訟法220条4号ホ(刑事事件に係る訴訟に関する書類)に関する最高裁判例
7 民事訴訟法223条1項に関する最高裁判例
8 民事訴訟法223条6項(インカメラ手続)に関する最高裁判例等
9 民事訴訟法223条7項(即時抗告)に関する最高裁判例等
10 文書提出命令に関する下級審判例
11 民事訴訟法の条文
12 関連記事その他

1 民事訴訟法219条(書証の申出)に関する最高裁判例
・ 地方公共団体は,その機関が保管する文書について,文書提出命令の名宛人となる文書の所持者に当たります(最高裁平成29年10月4日決定)。

2 民事訴訟法220条3号(法律関係文書)に関する最高裁判例
(1) 総論
・ 刑訴法47条所定の「訴訟に関する書類」に該当する文書について文書提出命令の申立てがされた場合であっても,当該文書が民訴法220条3号所定のいわゆる法律関係文書に該当し,かつ,当該文書の保管者によるその提出の拒否が,民事訴訟における当該文書を取り調べる必要性の有無,程度,当該文書が開示されることによる被告人,被疑者等の名誉,プライバシーの侵害等の弊害発生のおそれの有無等の諸般の事情に照らし,当該保管者の有する裁量権の範囲を逸脱し,又は濫用するものであるときは,裁判所は,その提出を命ずることができます(最高裁平成16年5月25日決定)。
・ 公務員の職務上の秘密に関する文書であって,その提出により公務の遂行に著しい支障を生ずるおそれがあるものについては,民訴法220条3号に基づく提出義務を認めることはできなません(最高裁平成16年2月20日決定)。
・ 捜査に関して作成された書類の写しが民訴法220条1号所定の引用文書又は同条3号所定の法律関係文書に該当し,当該写しを所持する都道府県による提出の拒否が裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用するものであるときは,裁判所は,その提出を命ずることができます(最高裁平成31年1月22日決定)。
(2) 該当する例
・ 警察官が文書提出命令の申立人の住居等において行った捜索差押えに係る捜索差押許可状及び捜索差押令状請求書は,いずれも,当該警察官が所属し,上記各文書を所持する地方公共団体と文書提出命令申立人との間において,民訴法220条3号所定のいわゆる法律関係文書に該当します(最高裁平成17年7月22日決定)。
・ 検察官が被疑者の勾留請求に当たって刑訴規則148条1項3号所定の資料として裁判官に提供した告訴状及び被害者の供述調書は,いずれも,上記各文書を所持する国と上記請求により勾留された者との間において,民訴法220条3号所定のいわゆる法律関係文書に該当します(最高裁平成19年12月12日決定)。
・  鑑定のために必要な処分としてされた死体の解剖の写真に係る情報が記録された電磁的記録媒体は,民訴法220条3号所定のいわゆる法律関係文書に該当します(最高裁令和2年3月24日決定)。

3 除外事由としての民事訴訟法220条4号ロ(公務秘密文書)に関する最高裁判例
(1) 総論
・ 民訴法220条4号ロにいう「公務員の職務上の秘密」とは,公務員が職務上知り得た非公知の事項であって,実質的にもそれを秘密として保護するに値すると認められるものをいいます(最高裁平成17年10月14日決定。なお,先例として,最高裁昭和52年12月19日決定及び最高裁昭和53年5月31日決定参照)ところ,上記「公務員の職務上の秘密」には,公務員の所掌事務に属する秘密だけでなく,公務員が職務を遂行する上で知ることができた私人の秘密であって,それが本案事件において公にされることにより,私人との信頼関係が損なわれ,公務の公正かつ円滑な運営に支障を来すこととなるものも含まれます(最高裁平成17年10月14日決定)。
・ 民訴法220条4号ロにいう「その提出により公共の利益を害し,又は公務の遂行に著しい支障を生ずるおそれがある」とは,単に文書の性格から公共の利益を害し,又は公務の遂行に著しい支障を生ずる抽象的なおそれがあることが認められるだけでは足りず,その文書の記載内容からみてそのおそれの存在することが具体的に認められることが必要です(最高裁平成17年10月14日決定)。
・ 民訴法220条4号ロにいう「公務員」には,国立大学法人の役員及び職員も含まれます(最高裁平成25年12月19日決定)。
・ 最高裁平成25年4月19日決定の田原睦夫裁判官の補足意見には,公務秘密文書のことが詳しく書いてあります。
(2) 該当する例
・ 県が漁業協同組合との間で漁業補償交渉をする際の手持ち資料として作成した補償額算定調書中の文書提出命令申立人に係る補償見積額が記載された部分は,具体的事情によっては,民訴法220条4号ロ所定の文書に該当します(最高裁平成16年2月20日決定)。
・ 外務省が外国公機関に交付した照会文書の控え及び同機関が同省に交付した回答文書は,具体的事情によっては,民訴法223条4項1号の「他国との信頼関係が損なわれるおそれ」があり同法220条4号ロ所定の文書に該当する旨の監督官庁の意見に相当の理由があると認められます(最高裁平成17年7月22日決定)。
・ 全国消費実態調査の調査票情報を記録した準文書は,具体的事情によっては,民訴法231条において準用する同法220条4号ロ所定の「その提出により…公務の遂行に著しい支障を生ずるおそれがあるもの」に当たります(最高裁平成25年4月19日決定)。
・ 検察官による取調べの録音録画記録媒体(最高裁令和6年10月16日決定
(3) 該当する例及び該当しない例
・ 労働災害が発生した際に労働基準監督官等の調査担当者が労働災害の発生原因を究明し同種災害の再発防止策等を策定するために調査結果等を踏まえた所見を取りまとめて作成した災害調査復命書に,(1)当該調査担当者が事業者や労働者らから聴取した内容,事業者から提供を受けた関係資料,当該事業場内での計測,見分等に基づいて推測,評価,分析した事項という当該調査担当者が職務上知ることができた当該事業者にとっての私的な情報のほか,(2)再発防止策,行政指導の措置内容についての当該調査担当者の意見,署長判決及び意見等の行政内部の意思形成過程に関する情報が記載されていること,(1)の情報に係る部分の中には,上記聴取内容がそのまま記載されたり,引用されたりしている部分はなく,当該調査担当者において,他の調査結果を総合し,その判断により上記聴取内容を取捨選択して,その分析評価と一体化させたものが記載されていること,調査担当者には,事業場に立ち入り,関係者に質問し,帳簿,書類その他の物件を検査するなどの権限があることなど判示の事情の下においては,上記災害調査復命書のうち,(2)の情報に係る部分は民訴法220条4号ロ所定の文書に該当しないとはいえないが,(1)の情報に係る部分は同号ロ所定の文書に該当しません(最高裁平成17年10月14日決定)。
    なお,「(1)の情報に係る部分の中には,(a)上記聴取内容がそのまま記載されたり,引用されたりしている部分はなく,当該調査担当者において,他の調査結果を総合し,その判断により上記聴取内容を取捨選択して,その分析評価と一体化させたものが記載されていること,(b)調査担当者には,事業場に立ち入り,関係者に質問し,帳簿,書類その他の物件を検査するなどの権限があること」という裁判要旨に関して,最高裁平成17年10月14日決定の調査官解説には「本決定は,本件事案に即して(a),(b)の2点を考慮要素として挙げたが,そのいずれかが欠ければ直ちに公務の遂行に著しい支障が生ずるおそれが存在すると判断すべきことをいうものではないであろう。」と書いてあります(平成17年度の最高裁判所判例解説(民事篇)718頁)。

4 除外事由としての民事訴訟法220条4号ハ(職務上知り得た事実で黙秘すべきもの,技術又は職業の秘密に関する文書)に関する最高裁判例
(1) 総論

ア 民訴法197条1項2号所定の「黙秘すべきもの」とは,一般に知られていない事実のうち,弁護士等に事務を行うこと等を依頼した本人が,これを秘匿することについて,単に主観的利益だけではなく,客観的にみて保護に値するような利益を有するものをいいます(最高裁平成16年11月26日決定)。
イ 民訴法197条1項2号は,法定専門職にある者が,その職務上,依頼者等の秘密を取り扱うものであり,その秘密を保護するために法定専門職従事者等に法令上の守秘義務が課されていることに鑑みて,法定専門職従事者等に証言拒絶権を与えたものです(最高裁令和3年3月18日決定)。
ウ 民訴法197条1項3号所定の「技術又は職業の秘密」とは、その事項が公開されると、当該技術の有する社会的価値が下落しこれによる活動が困難になるもの又は当該職業に深刻な影響を与え以後その遂行が困難になるものをいいます(最高裁平成12年3月10日決定)。
(2) 該当しない例
・ 破たんした保険会社につき選任された保険管理人が,金融監督庁長官から,保険業法(平成11年法律第160号による改正前のもの)313条1項,242条3項に基づき,当該保険会社の破たんについての旧役員等の経営責任を明らかにするために弁護士,公認会計士等の第三者を委員とする調査委員会を設置して調査を行うことを命じられたため,上記命令の実行として弁護士及び公認会計士を委員とする調査委員会を設置し,当該調査委員会から上記調査の結果が記載された調査報告書の提出を受けたという事実関係の下では,当該調査報告書は,民訴法220条4号ハ所定の「第197条第1項第2号に規定する事実で黙秘の義務が免除されていないものが記載されている文書」に当たりません(最高裁平成16年11月26日決定)。
・ A,Bを当事者とする民事訴訟の手続の中で,Aが金融機関Cを相手方としてBとCとの間の取引履歴が記載された明細表を対象文書とする文書提出命令を申し立てた場合において,Bが上記明細表を所持しているとすれば民訴法220条4号所定の事由のいずれにも該当せず提出義務が認められること,Cがその取引履歴を秘匿する独自の利益を有するものとはいえないことなど判示の事情の下では,上記明細表は,同法197条1項3号にいう職業の秘密として保護されるべき情報が記載された文書とはいえず,同法220条4号ハ所定の文書に該当しません(最高裁平成19年12月11日決定)。
・ 金融機関を当事者とする民事訴訟の手続の中で,当該金融機関が行った顧客の財務状況等についての分析,評価等に関する情報が記載された文書につき,具体的事情によっては,文書提出命令が申し立てられた場合において,上記文書が民訴法220条4号ハ所定の文書に該当しません(最高裁平成20年11月25日決定)。

5 除外事由としての民事訴訟法220条4号ニ「専ら文書の所持者の利用に供するための文書」に関する最高裁判例
(1) 総論
・ ある文書が,その作成目的,記載内容,これを現在の所持者が所持するに至るまでの経緯,その他の事情から判断して,専ら内部の者の利用に供する目的で作成され,外部の者に開示することが予定されていない文書であって,開示されると個人のプライバシーが侵害されたり個人ないし団体の自由な意思形成が阻害されたりするなど,開示によって所持者の側に看過し難い不利益が生ずるおそれがあると認められる場合には,特段の事情がない限り,当該文書は民訴法220条4号ニ所定の「専ら文書の所持者の利用に供するための文書」に当たります(最高裁平成11年11月12日決定)。
・ 国立大学法人が所持し,その役員又は職員が組織的に用いる文書についての文書提出命令の申立てには,民訴法220条4号ニ括弧書部分が類推適用されます(最高裁平成25年12月19日決定)。
(2) 該当する例
・ 仙台市議会の議員が所属会派に交付された政務調査費によって費用を支弁して行った調査研究の内容及び経費の内訳を記載して当該会派に提出した調査研究報告書及びその添付書類は,具体的事情によっては,民訴法220条4号ニ所定の「専ら文書の所持者の利用に供するための文書」に当たります(最高裁平成17年11月10日決定)。
・ 名古屋市議会の会派が市から交付された政務調査費を所属議員に支出する際に各議員から諸経費と使途基準中の経費の項目等との対応関係を示す文書として提出を受けた報告書及びこれに添付された領収書は,具体的事情によっては,民訴法220条4号ニ所定の「専ら文書の所持者の利用に供するための文書」に当たります(最高裁平成22年4月12日決定)。
・  弁護士会の綱紀委員会の議事録のうち「重要な発言の要旨」に当たる部分は,具体的事情によっては,民訴法220条4号ニ所定の「専ら文書の所持者の利用に供するための文書」に該当します(最高裁平成23年10月11日決定)。
(3) 該当しない例
・ 信用金庫の会員が代表訴訟において信用金庫の貸出稟議書につき文書提出命令の申立てをしたことは,当該貸出稟議書が民訴法二二〇条四号ハ所定の「専ら文書の所持者の利用に供するための文書」に当たらない特段の事情とはいえません(最高裁平成12年12月14日決定)。
・ 信用組合の貸出稟議書は民訴法220条4号ニ所定の「専ら文書の所持者の利用に供するための文書」に当たらないことがあります(最高裁平成13年12月7日決定)。
・ 銀行の本部の担当部署から各営業店長等にあてて発出されたいわゆる社内通達文書であって一般的な業務遂行上の指針等が記載されたものは,具体的事情によっては,民訴法220条4号ニ所定の「専ら文書の所持者の利用に供するための文書」に当たりません(最高裁平成18年2月17日決定)。
・ 介護サービス事業者が介護給付費等の請求のために審査支払機関に伝送する情報を利用者の個人情報を除いて一覧表にまとめた文書は,具体的事情によっては,民訴法220条4号ニ所定の「専ら文書の所持者の利用に供するための文書」に当たりません(最高裁平成19年8月23日決定)。
・  銀行が,法令により義務付けられた資産査定の前提として,監督官庁の通達において立入検査の手引書とされている「金融検査マニュアル」に沿って債務者区分を行うために作成し,保存している資料は,民訴法220条4号ニ所定の「専ら文書の所持者の利用に供するための文書」に当たりません(最高裁平成19年11月30日決定)。
・ 岡山県議会の議員が県から交付された政務調査費の支出に係る1万円以下の支出に係る領収書その他の証拠書類等及び会計帳簿は,具体的事情によっては,民訴法220条4号ニ所定の「専ら文書の所持者の利用に供するための文書」に当たりません(最高裁平成26年10月29日決定)。

6 除外事由としての民事訴訟法220条4号ホ(刑事事件に係る訴訟に関する書類)に関する最高裁判例
・  検察官等から鑑定の嘱託を受けた者が当該鑑定に関して作成し若しくは受領した文書等又はその写しは,民訴法220条4号ホに定める刑事事件に係る訴訟に関する書類又は刑事事件において押収されている文書に該当します(最高裁令和2年3月24日決定)。

7 民事訴訟法223条1項に関する最高裁判例
・ 1通の文書の記載中に提出の義務があると認めることができない部分があるときは,特段の事情のない限り,当該部分を除いて提出を命ずることができます(最高裁平成13年2月22日決定)。
・ 裁判所は,財務諸表等の監査証明に関する省令(平成12年総理府令第65号による改正前のもの)6条に基づき監査調書として整理された記録又は資料のうち,貸付先の一部の氏名,会社名等の部分を除いて文書提出命令を発することができます(最高裁平成13年2月22日決定)。

8 民事訴訟法223条6項(インカメラ手続)に関する最高裁判例等
(1) 最高裁判例
・ 事実審である抗告審が民訴法223条6項に基づき文書提出命令の申立てに係る文書をその所持者に提示させ,これを閲読した上でした文書の記載内容の認定は,それが一件記録に照らして明らかに不合理であるといえるような特段の事情がない限り,法律審である許可抗告審において争うことができません(最高裁平成20年11月25日決定)。
・ 情報公開法に基づく行政文書の開示請求に対する不開示決定の取消訴訟において,不開示とされた文書を目的とする検証を被告に受忍義務を負わせて行うことは,原告が検証への立会権を放棄するなどしたとしても許されず,上記文書を検証の目的として被告にその提示を命ずることも許されません(最高裁平成21年1月15日決定)。
・ 電気通信事業者は,その管理する電気通信設備を用いて送信された通信の送信者情報で黙秘の義務が免除されていないものが記載され,又は記録された文書又は準文書について,当該通信の内容にかかわらず,検証の目的として提示する義務を負いません(最高裁令和3年3月18日決定)。
(2) 調査官解説の記載
・ 最高裁平成17年10月14日決定に関する最高裁判所判例解説には,「本決定(山中注:最高裁平成17年10月14日決定)によれば,「公務の遂行に著しい支障を生ずるおそれ」は,その文書の記載内容からみてそのおそれの存在することが具体的に認められることが必要というのであるから,裁判所は,当該文書の記載内容について,インカメラ手続又はボーンインデックス方式等によって,その具体的内容を十分に把握した上で判断すべきものである。」と書いてあります(平成17年度の最高裁判所判例解説(民事篇)728頁)。

9 民事訴訟法223条7項(即時抗告)に関する最高裁判例等
(1) 最高裁判例
・ 証拠調べの必要性を欠くことを理由として文書提出命令の申立てを却下する決定に対しては,当該必要性があることを理由として独立に不服の申立てをすることはできません(最高裁平成12年3月10日決定)。
・ 文書提出命令の申立てについての決定に対しては、文書の提出を命じられた所持者及び申立てを却下された申立人以外の者は抗告の利益を有しません(最高裁平成12年12月14日決定)。
・ 文書提出命令の申立てを却下する決定に対し,口頭弁論終結後に即時抗告をすることはできません(最高裁平成13年4月26日決定)。
(2) 判例タイムズの論文の記載
・ 「文書提出命令の審理・判断における秘密保護と真実発見」(寄稿者は55期の中武由紀)には以下の記載があります(判例タイムズ1444号(2018年3月号)31頁)
① 最高裁は,4号ロ,ハ前段,ニの判断において,ハ後段において用いられるような,証拠としての重要性や代替証拠の有無等との比較衡量を用いるかどうかについて明らかにしていない
② 別表一覧表の【22】(抗告審)(山中注:高松高裁平成27年2月27日決定(判例秘書掲載))は,原審が証拠調べの必要性を認めて文書提出命令を発令した事案において,ハ該当性判断のための比較衡量の際に,証拠調べの必要性が高くない旨を述べて,一部提出義務の存否を検討することなく提出義務を否定したものであるが,抗告審が証拠調べの必要性について原審とは異なる心証をもった結果ではないかと推測できる。

10 文書提出命令に関する下級審判例
(1) 民事訴訟法220条1号関係

ア 札幌高裁令和2年8月11日決定は,黒塗り文書の引用文書該当性に関して以下の判示をしています(改行を追加しています。)。
     民訴法220条1号が訴訟において引用した文書を自ら所持するときにその提出義務を負うとした趣旨は,当該文書の秘密保持の利益を放棄したと解されること及び相手方当事者に当該文書を利用させ,反論の機会を与えることが公平にかなうことにあると解される。
 基本事件におけるYの主張内容等に照らすと,Yは,基本事件で陳述した答弁書,各準備書面において,本件黒塗り部分について,本件処分の処分理由が真実であるとの心証を裁判所に抱かせるために言及しているとはいえず,秘密保持の利益を放棄したとはいえない。
     また,Yが本件聞き取り調書に言及している態様に加え,本件黒塗り部分の類型的性質が明らかにされているにとどまるため,本件聞き取り調書の証拠価値には限界があることに照らすと,Xに本件黒塗り部分を開示して利用させ,反論の機会を与えなければ,裁判所に一方的な心証を抱かせる危険性があるとはいえず,公平にかなわないとはいえない。
    結局,本件の事実関係の下では,Yが本件文書の存在及び本件黒塗り部分の内容を引用したとは認められない。
イ 最高裁令和3年5月20日決定は,「所論の点に関する原審の判断は,正当として是認することができる。論旨は採用することができない。」と判示してXの許可抗告を棄却しました(判例時報2516号11頁)。
(2) 民事訴訟法220条2号関係
ア 交通事故の損害賠償請求事件において、事故車両となった都営バスが事故時に設置していたドライブレコーダー映像は,基本事件原告が基本事件被告(東京都)に対し,東京都情報公開条例に基づき引渡し又は閲覧を求めることができるため,民事訴訟法220条2号に掲げる準文書に該当すると解されています(東京高裁令和2年2月21日決定(判例時報2480号7頁以下)参照)。
     都営バスの交通事故の場合,東京都の代表者は公営企業管理者東京都交通局長となります(地方公営企業法8条1項本文及び東京都公営企業組織条例2条,並びにWikipediaの「地方公営企業」参照)。
イ 東京高裁令和2年10月30日決定は,基本事件において不動産媒介契約に基づく仲介手数料の支払をY(株式会社)に求めるXが,債権者として会社法上の閲覧等請求権を有すると主張し,民訴法220条2号に基づきYの株主名簿,株主総会議事録及び計算書類等(以下「本件各文書」といいます。)の提出を求めた文書提出命令の申立てに関して,Yの債権者であることの一応の証明をしたXは本件各文書につき会社法125条2項,318条4項及び442条3項に基づき閲覧等請求権を有するということで,文書提出命令が発令された事案です。
     最高裁令和3年2月2日決定は,「所論の点に関する原審の判断は,是認することができる。論旨は採用することができない。」と判示してYの許可抗告を棄却しました(判例時報2516号10頁)。
(3) 民事訴訟法220条3号関係
・ 大阪地裁令和5年9月19日決定(判例タイムズ1516号(2024年3月号))は以下の事例です。
① 申立人(基本事件の原告)が被告人となった刑事事件(申立人については無罪判決が確定)において,申立人の共犯者とされた者の取調べ録音録画につき,民事訴訟法220条3号後段所定の法律関係文書に該当するとされた事例
② 上記取調べ録音録画のうち,申立人の刑事裁判の公判に提出された部分について,閲覧制限事由はなく文書提出義務を認めることに支障はないとされた事例
③ 上記取調べ録音録画のうち,申立人の刑事裁判の公判に提出されなかった部分について,刑事訴訟法47条に基づきその提出を拒否したことが,保管検察官の裁量権の範囲を逸脱し又は濫用するものとされた事例
(4) 民事訴訟法220条4号関係
ア 広島高裁令和2年11月30日決定は,中学生の自死に関して生徒又は教職員からアンケート又は事情聴取により得られた情報が記載された文書に関する文書提出命令の申立てについて,要旨以下のとおり判断して一部の文書については申立てを却下し,他の文書については,自殺したA以外の生徒の具体的な特定につながる部分等を除いて提出することを命じました。
(a) 生徒及び教員を対象とするアンケートの回答用紙原本については,開示すると将来の同様の調査で協力が得られず,真実解明を阻害する具体的なおそれがあり,公務遂行支障性が認められる。
(b) 同アンケートの回答を転記,集約した文書については,①回答者である生徒や教員は回答内容がプライバシーに配慮した方法で公表されることは予期していたといえること,②個人の特定につながる部分をマスキングすれば情報の匿名性が高まること,③生徒の自死という問題の重要性等に照らせば,聴取内容がプライバシーに配慮した方法で提出されたからといって,将来の同様の調査で協力が得られなくなる具体的なおそれがあるとはいえないこと等及び証拠としての重要性を考慮すると,個人の特定につながる部分をマスキングすれば公務遂行支障性は認められない。
(c) 生徒及び教員からの聴取内容を要約,集計等した文書の一部については,事情聴取に当たり,明示に非公開の約束がされていたとは認められないこと,前記(b)の②及び③の事情並びに証拠としての重要性を考慮すると,個人の特定につながる部分をマスキングすれば公務遂行支障性は認められない。
     最高裁令和3年6月3日決定は,「所論の点に関する原審の判断は,是認することができる。論旨は採用することができない。」と判示して許可抗告を棄却しました(判例時報2516号11頁及び12頁)。
イ 国際郵便小包の配達証及び同控えは,追跡用番号が付され郵便事故の際の追跡調査に資する面はあるとしても法律関係文書に該当しませんし,開示されると通信の秘密や個人のプライバシーが侵害されるおそれがあるものといえますから,事故利用文書に該当します(高松高裁平成25年9月26日決定)ところ,当該決定は最高裁平成26年1月16日決定によって支持されました(判例時報2291号8頁)。

11 民事訴訟法の条文
(1) 219条(書証の申出)
    書証の申出は、文書を提出し、又は文書の所持者にその提出を命ずることを申し立ててしなければならない。

(2) 220条(文書提出義務)
    次に掲げる場合には、文書の所持者は、その提出を拒むことができない。
一 当事者が訴訟において引用した文書を自ら所持するとき。
二 挙証者が文書の所持者に対しその引渡し又は閲覧を求めることができるとき。
三 文書が挙証者の利益のために作成され、又は挙証者と文書の所持者との間の法律関係について作成されたとき。
四 前三号に掲げる場合のほか、文書が次に掲げるもののいずれにも該当しないとき。
イ 文書の所持者又は文書の所持者と第百九十六条各号に掲げる関係を有する者についての同条に規定する事項が記載されている文書
ロ 公務員の職務上の秘密に関する文書でその提出により公共の利益を害し、又は公務の遂行に著しい支障を生ずるおそれがあるもの
ハ 第百九十七条第一項第二号に規定する事実又は同項第三号に規定する事項で、黙秘の義務が免除されていないものが記載されている文書
ニ 専ら文書の所持者の利用に供するための文書(国又は地方公共団体が所持する文書にあっては、公務員が組織的に用いるものを除く。)
ホ 刑事事件に係る訴訟に関する書類若しくは少年の保護事件の記録又はこれらの事件において押収されている文書


(3) 223条(文書提出命令等)
① 裁判所は、文書提出命令の申立てを理由があると認めるときは、決定で、文書の所持者に対し、その提出を命ずる。この場合において、文書に取り調べる必要がないと認める部分又は提出の義務があると認めることができない部分があるときは、その部分を除いて、提出を命ずることができる。
② 裁判所は、第三者に対して文書の提出を命じようとする場合には、その第三者を審尋しなければならない。
③ 裁判所は、公務員の職務上の秘密に関する文書について第二百二十条第四号に掲げる場合であることを文書の提出義務の原因とする文書提出命令の申立てがあった場合には、その申立てに理由がないことが明らかなときを除き、当該文書が同号ロに掲げる文書に該当するかどうかについて、当該監督官庁(衆議院又は参議院の議員の職務上の秘密に関する文書についてはその院、内閣総理大臣その他の国務大臣の職務上の秘密に関する文書については内閣。以下この条において同じ。)の意見を聴かなければならない。この場合において、当該監督官庁は、当該文書が同号ロに掲げる文書に該当する旨の意見を述べるときは、その理由を示さなければならない。
④ 前項の場合において、当該監督官庁が当該文書の提出により次に掲げるおそれがあることを理由として当該文書が第二百二十条第四号ロに掲げる文書に該当する旨の意見を述べたときは、裁判所は、その意見について相当の理由があると認めるに足りない場合に限り、文書の所持者に対し、その提出を命ずることができる。
一 国の安全が害されるおそれ、他国若しくは国際機関との信頼関係が損なわれるおそれ又は他国若しくは国際機関との交渉上不利益を被るおそれ
二 犯罪の予防、鎮圧又は捜査、公訴の維持、刑の執行その他の公共の安全と秩序の維持に支障を及ぼすおそれ
⑤ 第三項前段の場合において、当該監督官庁は、当該文書の所持者以外の第三者の技術又は職業の秘密に関する事項に係る記載がされている文書について意見を述べようとするときは、第二百二十条第四号ロに掲げる文書に該当する旨の意見を述べようとするときを除き、あらかじめ、当該第三者の意見を聴くものとする。
⑥ 裁判所は、文書提出命令の申立てに係る文書が第二百二十条第四号イからニまでに掲げる文書のいずれかに該当するかどうかの判断をするため必要があると認めるときは、文書の所持者にその提示をさせることができる。この場合においては、何人も、その提示された文書の開示を求めることができない。
⑦ 文書提出命令の申立てについての決定に対しては、即時抗告をすることができる。


12 関連記事その他
(1) 判例タイムズ1444号(平成30年3月1日付)に「捜査機関が所持する解剖関係の鑑定書の文書提出命令」及び「文書提出命令の審理・判断における秘密保護と真実発見」が載っています。
(2) 以下の記事も参照してください。
・ 即時抗告,執行抗告,再抗告,特別抗告及び許可抗告の提出期限
・ 最高裁判所における違憲判決の一覧
 最高裁判所大法廷の判決及び決定の一覧
 最高裁が出した,一票の格差に関する違憲状態の判決及び違憲判決の一覧
 民事事件の判決原本の国立公文書館への移管
・ 日本国憲法外で法的効力を有していたポツダム命令

最高裁総務局・人事局・情報政策課との座談会

目次
1 日本裁判所書記官協議会と,最高裁総務局・人事局・情報政策課との座談会
2 平成16年7月成立の日本裁判所書記官協議会
3 全国裁判所書記官協議会と,最高裁総務局・人事局との座談会(昭和56年から平成16年までの分)
4 平成27年7月まで続いていた,郵便切手を巡る不適切事案
5 関連記事その他

1 日本裁判所書記官協議会と,最高裁総務局・人事局・情報政策課との座談会
(1)ア 会報書記官に載っているものですが,日本裁判所書記官協議会と,最高裁総務局・人事局・情報政策課との座談会のバックナンバーは以下のとおりです。
(令和時代)
令和 元年
(平成時代)
平成17年平成18年平成19年平成20年
平成21年平成22年平成23年平成24年
平成25年平成26年平成27年平成28年
平成29年平成30年
イ 以下の年度については開催されていません。
令和2年令和3年
(2)ア 平成17年度の座談会は「最高裁総務局・人事局との座談会」という名称であり,平成18年度以降の座談会は「最高裁総務局・人事局・情報政策課との座談会」という名称です。
イ 平成29年3月10日当時,日本裁判所書記官協議会側の出席者の氏名及び肩書は不開示情報でしたし,座談会の議事録は最高裁判所に存在しませんでした(「日本裁判所書記官協議会との座談会(平成28年6月2日開催)に関する決裁文書」及び平成29年度(最情)答申第22号(平成29年7月24日答申)参照)。
ウ 平成29年度の座談会から,誰の発言であるかがわからなくなりました。

2 平成16年7月成立の日本裁判所書記官協議会
(1)ア 平成16年7月,全国裁判所書記官協議会と裁判所書記官研修所富士見同窓会が統合し,日本裁判所書記官協議会(略称は「日本書協」です。)となりました(国立国会図書館典拠データ検索・提供サービス「全国裁判所書記官協議会」参照)。
イ 全国裁判所書記官協議会会報第167号40頁には以下の記載があります。
    全国書協は,富士見同窓会と来る7月24日(土)に開催される設立総会において,長年の懸案でありました両組織の統合を図ることを予定しております。司法制度改革の実現を目指すこの時期に,裁判所の基幹職種である裁判所書記官の新しい組織として再出発をして,所期の目的を達成すべく努力を傾けてまいる所存であります。
(2) 座談会の出席者欄を見る限り,日本裁判所書記官協議会の会長は最高裁判所大法廷首席書記官みたいです。

3 全国裁判所書記官協議会と,最高裁総務局・人事局との座談会(昭和56年から平成16年までの分)
(1) バックナンバーは以下のとおりです。
(平成時代)
平成元年平成2年平成3年平成 4年平成 5年平成 6年
平成7年平成8年平成9年平成10年平成11年平成12年
平成13年平成14年平成15年平成16年
(昭和時代)
昭和56年昭和57年昭和58年昭和59年
昭和60年昭和61年昭和62年昭和63年
(2) 昭和56年以降の座談会の名称は以下のとおりです。
昭和56年~平成 3年:最高裁総務局・人事局各課長,参事官を囲む
平成 4年~平成12年:最高裁総務局・人事局各課長,参事官を囲む座談会
平成13年~平成16年:最高裁総務局・人事局との座談会


4 平成27年7月まで続いていた,郵便切手を巡る不適切事案
(1)ア 最高裁判所事務総局が作成した,郵便切手を巡る不適切事案に係る調査報告書には以下の記載があります。
(2頁の記載)
    東京地簡裁での不適切事務の判明を受けて,平成27年7月以降,全国959庁の民事事件・家事事件担当部署に所属する全職員(調査時点の状況につき回答した職員数は1万0571名)を対象に,予納郵便切手として適切に管理されていない記録外の郵便切手(以下「記録外郵便切手」という。)の有無及びその保管状況,不適切事務や私的流用の有無等について調査を行い,さらに,その部署における事務の状況や記録外郵便切手の額等に鑑み,過去に不適切事務が行われていた可能性を否定することができない部署については,過去に当該部署に所属した職員を遡って対象者とし,不適切事務の有無等についての調査を行った。
(2頁及び3頁の記載)
2 調査の結果
(1) 記録外郵便切手の確認状況
    職員に対する調査によって確認された記録外郵便切手のうち,①その由来となった事件ないし当事者等を客観的に特定することができたものが3万9331円(保管者数10名),②その由来を客観的に特定することができなかったものが747万8425円(保管者数693名)であった。
    なお,①及び②とは別に,調査時点の職員等が自費で購入したと認められたものが約400万円あった(保管者数約2200名)。
イ ①その由来となった事件ないし当事者等を客観的に特定することができた記録外郵便切手は保管者1人あたり3933円であり,②その由来を客観的に特定することができなかった記録外郵便切手は1人あたり1万791円です。
(2) 平成28年6月2日開催の最高裁総務局・人事局・情報政策課との座談会には以下の記載があります(会報書記官第48号60頁及び61頁)。
佐藤総務局第三課長
    昨年,複数の裁判所で不適切な郵便切手の管理が発覚し, それに対する調査結果を本年3月28日に公表しました。調査に当たって多くの書記官に協力していただいたことに,まず謝意を表したいと思います。調査結果報告書は裁判所ホームページに掲載されており,すでに一読していただいていると思います
(中略)
    ところで,この郵券問題を通して書記官事務に関して,本質的な問題がいくつか浮かび上がりました。
    第1に,一見細々とした事務を適正に処理することの重要性です。郵便切手の管理は煩瑣であるというのが多くの番記官の本音だと思いますが,書記官事務の第一義は手続の適正さの確保にあり,いかに煩瑣な事務であっても,それを適正に処理することが書記官の本分です。
(中略)
     第2に,当事者の便宜や事務処理の迅速は金科玉条ではないということです。郵券問題において,当事者の便宜や事務処理の迅速を理由として.記録外の郵便切手で両替したり立て替えたりしたという事例が散見されました。一見するともっともな理由のように思えるのが危険なところです。記録外の郵便切手を事務処理に使用することは,銀行の預金担当者が顧客から受領した金銭をポケットマネーと交換するようなものであり,適正さを著しく害することは言うまでもありません。いかに当事者の便宜や事務処理の迅速のためであっても,公正中立さや適正さを害してはいけないのです。
(中略)
     第3に,悩みを共有して解決するために現場からの発信が必要であるということです。郵券問題では,前任者から事実上受け継いだ記録外の郵便切手の処理に困っていたので,調査を通じて報告・相談することができて良かったという感想が複数の書記官から寄せられました。
(3)ア 日本公認会計士協会HPの「リスク・アプローチ」には,リスク・アプローチの説明として以下の記載があります。
監査を効果的・効率的に進めるための手法。
監査の人員や時間などの監査資源が有限であるため、すべての項目に対して総括的に監査を行うのではなく、経済環境、会社の特性などを勘案して、財務諸表の重要な虚偽表示に繋がるリスクのある項目に対して重点的に監査資源を投入し、効果的・効率的に監査を行う手法。
イ Senses Lab.HPの「営業組織をブチ壊したい人必見!サボタージュマニュアルとは?」には,CIAの前身だったOSS(戦略諜報局)が70年ほど前に作成した,組織のパフォーマンスめちゃ下げマニュアルからの引用として例えば,以下の記載があります。
6.些細なことにも高い完成度を要求せよ。わずかな間違いも繰り返し修正させ小さな間違いも見つけ出せ。
8.もっともらしくペーパーワークを増大させよ。
10.すべての規則を隅々まで厳格に適用せよ。
11.何事をするにも「通常のルート」を通して行うように主張せよ。決断を早めるためのショートカットを認めるな。
16.あらゆる決断の妥当性を問え。ある決定が自分たちの管轄にあるのかどうか、また組織上層部のポリシーと相反しないかどうかなどを問題にせよ。

5 関連記事その他
(1) 予納郵便切手の交換に関する事務の取扱いについて(平成28年3月28日付の最高裁判所総務局長及び経理局長の通達)を掲載しています。
(2) 以下の記事も参照してください。
(秘書課関係)
・ 歴代の最高裁判所秘書課長兼広報課長
・ 裁判所の情報公開に関する通達等
 司法行政文書に関する文書管理
(情報政策課関係)
 歴代の最高裁判所情報政策課長
・ 最高裁判所事務総局情報政策課
・ 最高裁判所事務総局情報政策課の事務分掌
 裁判所における主なシステム
・ 裁判所の情報化の流れ
(総務局関係)
・ 歴代の最高裁判所総務局長
・ 最高裁判所事務総局総務局の事務分掌
・ 民事事件の裁判文書に関する文書管理
・ 裁判文書の文書管理に関する規程及び通達
・ 司法行政文書の国立公文書館への移管
・ 裁判文書の文書管理に関する規程及び通達
 最高裁判所裁判部作成の民事・刑事書記官実務必携
(人事局関係)
・ 歴代の最高裁判所人事局長
・ 最高裁判所事務総局人事局の事務分掌
・ 最高裁判所が作成している,最高裁判所判事・事務総局局長・課長等名簿
・ 裁判所の指定職職員
・ 裁判所の指定職職員の名簿
・ 級別定数の改定に関する文書
・ 裁判所における一般職の職員
・ 指定職未満の裁判所一般職の級
・ 裁判所書記官の役職
 家庭裁判所調査官の役職

最高裁判所裁判官及び高裁長官人事の一覧表

目次
1 最高裁判所裁判官及び高裁長官人事の一覧表
2 幹部裁判官の経歴一覧表(平成30年1月29日時点)
3 関連記事

1 最高裁判所裁判官及び高裁長官人事の一覧表
(1) 最高裁判所裁判官及び高裁長官人事の一覧表として,以下の時点のものを掲載しています。
・ 令和 4年 3月 3日時点
・ 令和 3年 2月28日時点
・ 令和 2年 2月 6日時点
・ 平成31年 1月 1日時点
・ 平成30年 1月29日時点
・ 平成29年 7月14日時点
・   平成29年 2月 6日時点
(2)  この一覧表を見れば,高裁長官の直前のポストが何であるか,及び高裁長官の直後のポストが何であるかが分かります。
(3) 一覧表における氏名右の括弧内の数字は期であり,0期は高輪1期(昭和22年12月修習終了)及び高輪2期(昭和23年4月修習終了)ことです。
   高輪1期及び高輪2期というのは,日本国憲法が施行された昭和22年5月3日時点で司法官試補の地位にあった人のことであり,裁判所法施行令18条1項に基づき,司法修習生を命ぜられたものとして取り扱われています。

2 幹部裁判官の経歴一覧表(平成30年1月29日時点)
・ 平成30年1月29日を基準日とする,以下の表を掲載しています。
① 最高裁長官,最高裁判事,事務総長,首席調査官及び司研所長前後の経歴一覧表
② 最高裁の審議官,秘書課長兼広報課長,情報政策課長,局長6人,上席調査官3人,司研事務局長及び総研所長,並びに法務省の民事局長,訟務局長及び人権擁護局長前後の経歴一覧表
③ 高裁長官及び知財高裁所長前後の経歴一覧表
④ 高裁事務局長前後の経歴一覧表
⑤ 大規模地家裁所長(東京地裁,東京家裁,横浜地裁,さいたま地裁,千葉地裁,大阪地裁,大阪家裁,京都地裁,神戸地裁,名古屋地裁及び福岡地裁)の所長前後の経歴一覧表

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・ 幹部裁判官の定年予定日
・ 高裁長官人事のスケジュール
 戦前の判事及び検事の定年
・ 裁判官及び検察官の定年が定められた経緯(日本国憲法の制定経緯を含む。)
・ 裁判官の定年が70歳又は65歳とされた根拠
・ 司法行政を担う裁判官会議,最高裁判所事務総長及び下級裁判所事務局長

国家緊急権に関する内閣法制局長官の国会答弁

目次
1 総論
2 内閣法制局長官の国会答弁
○秋山収内閣法制局長官の,平成16年5月11日の衆議院武力攻撃事態等への対処に関する特別委員会における答弁
○秋山収内閣法制局長官の,平成16年4月20日の衆議院武力攻撃事態等への対処に関する特別委員会における答弁
○津野修内閣法制局長官の,平成14年5月8日の衆議院武力攻撃事態への対処に関する特別委員会における答弁
○吉國一郎内閣法制局長官の,昭和50年5月14日の衆議院法務委員会における答弁
○高辻正己内閣法制局長官の,昭和44年3月15日の参議院予算委員会における答弁
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1 総論
(1) 国家緊急権とは,戦争,内乱,恐慌又は大規模な自然災害その他平時の統治機構をもってしては対処できない非常事態において,国家の存立を維持するために,国家権力が立憲的な憲法秩序を一時停止して非常措置を採る権限をいいます。ところ,を以下のとおり掲載しています。
(2) 国家緊急権に関する内閣法制局長官の答弁の結論としては,国家緊急権というものは日本国憲法において認められないものの,大規模な災害や経済上の混乱などの非常な事態に対応すべく,公共の福祉の観点から,合理的な範囲内で国民の権利を制限し,国民に義務を課す法律を制定することは可能であり,例としては,災害対策基本法,国民生活安定緊急措置法及び武力攻撃事態対処法があります。

2 内閣法制局長官の国会答弁
◯秋山収内閣法制局長官の,平成16年5月11日の衆議院武力攻撃事態等への対処に関する特別委員会における答弁

1 (山中注:日本と同じように内閣制をとっている国で非常大権が元首にない国の例を質問されたことに対して)外国に関する法令を正確に把握することは難しい点がございますけれども、私どもが承知しております限りでは、ドイツ連邦共和国でございますが、これは憲法上に規定があるわけではございませんが、一応、国のトップとして大統領が元首であるというふうに解されていると思います。
   しかしながら、ドイツ連邦共和国におきましては、防衛事態などの国家の緊急事態におきましても、立憲的な憲法秩序を一時停止するような性格を有する国家緊急権のような権限は大統領にも与えられておりませんで、現行ドイツ基本法の規定に基づき制定されている、あるいは、新たに制定される法律の定めるところにより連邦政府がこれに対処するものとされているものと承知しております。
2 ただ、細部にわたってこれは正確かどうかちょっと自信がございませんけれども、大勢としてはそういう考え方でございます。

○秋山収内閣法制局長官の,平成16年4月20日の衆議院武力攻撃事態等への対処に関する特別委員会における答弁
1(1) お尋ねの大統領非常大権、これは法律学ではいわゆる国家緊急権という言葉で議論されるものでございます。
   すなわち、戦争とか内乱、恐慌、大規模な自然災害など、平時の統治機構をもっては対処することが困難なような非常事態におきまして、国家の存立を維持するために国家権力が通常の立憲的な憲法秩序を一時停止して非常措置をとる権限というふうに考えられております。
(2) それで、フランスでは、御指摘のとおり、フランス第五共和国憲法は第16条でそういう規定があるわけでございます。それから、大日本帝国憲法でも、先ほど御指摘のとおりのものがございます。
   日本国憲法においてはこのような規定は存在しておらず、したがって、先ほど申し上げたような国家緊急権というものは現行の憲法下では認められないものと考えております。
(3) ただ、現行憲法下でも、大規模な災害とか経済的混乱などのような非常な事態に対応すべく、公共の福祉の観点から合理的な範囲内で国民の権利を制限し、あるいは義務を課す法律を制定することは可能でございまして、災害対策基本法、国民生活安定緊急措置法など、既に多くの立法がございます。
   今回提案しております有事関連の法律も、そのような系列のものに入るものと考えております。
2 累次、この国会に至る前にも政府側から答弁しておりますけれども、今回の法案は、現行憲法のもとで、基本的な人権の尊重に十分配慮しつつ、事態の特性に応じて必要な制約を加えるというものでありまして、これは、冒頭申し上げましたような国家緊急権の発動というものではないというふうに考えております。

○津野修内閣法制局長官の,平成14年5月8日の衆議院武力攻撃事態への対処に関する特別委員会における答弁
1 事務的に、経緯でございますので事実関係をお答えさせていただきますが、国家緊急権と申しますのは、これは講学上の概念でございまして、戦争とか内乱とか、あるいは恐慌、大規模な自然災害など、平時の統治機構をもってしては対処できない、そういった非常事態におきまして、国家の存立を維持するために、国家権力が立憲的な憲法秩序を一時停止して非常措置をとる権限をいうものと解されているわけでございます。これは、一般的に、学説上、大体このような概念でございます。
   このような国家緊急権につきましては、大日本帝国憲法におきましては、戦争、内乱等の非常事態において、天皇による戒厳、それから非常大権などとして憲法に規定されておりまして、制度化が図られているところでございますが、日本国憲法においては、そういった規定はないわけであります。
2 この点につきましては、要するに規定されていないということにつきましては、その具体的な経緯は明らかではありませんが、憲法制定議会におきまして、第90回帝国議会の衆議院帝国憲法改正案委員会におきまして、金森国務大臣は、非常事態の際に、大日本帝国憲法第31条、非常大権のような制度が必要ではないかという質問に対しまして、
   民主政治ヲ徹底サセテ国民ノ権利ヲ十分擁護致シマス為ニハ、左様ナ場合ノ政府一存ニ於テ行ヒマスル処置ハ、極力之ヲ防止シナケレバナラヌノデアリマス
言葉ヲ非常ト云フコトニ藉リテ、其ノ大イナル途ヲ残シテ置キマスナラ、ドンナニ精緻ナル憲法ヲ定メマシテモ、口実ヲ其処ニ入レテ又破壊セラレル虞絶無トハ断言シ難イト思ヒマス、
随テ此ノ憲法ハ左様ナ非常ナル特例ヲ以テ――謂ハバ行政権ノ自由判断ノ余地ヲ出来ルダケ少クスルヤウニ考ヘタ訳デアリマス、
随テ特殊ノ必要ガ起リマスレバ、臨時議会ヲ召集シテ之ニ応ズル処置ヲスル、又衆議院ガ解散後デアツテ処置ノ出来ナイ時ハ、参議院ノ緊急集会ヲ促シテ暫定ノ処置ヲスル、同時ニ他ノ一面ニ於テ、実際ノ特殊ナ場合ニ応ズル具体的ナ必要ナ規定ハ、平素カラ濫用ノ虞ナキ姿ニ於テ準備スルヤウニ規定ヲ完備シテ置クコトガ適当デアラウト思フ訳デアリマス、
と答弁しているわけであります。
3 こういったことでございまして、いわゆる国家緊急権が設けられなかった理由が答弁として残されているわけでありますが、ただ、日本国憲法のもとにおきましては、例えば、大規模な災害や経済上の混乱などの非常な事態に対応すべく、公共の福祉の観点から、合理的な範囲内で国民の権利を制限し、国民に義務を課す法律を制定することは可能であり、これまでにも、災害対策基本法、国民生活安定緊急措置法などの多くの立法がなされているところでございます。
   また、今回のいわゆる武力攻撃事態対処関連三法案につきましては、申すまでもありませんが、日本国憲法の範囲内で立法化をしようとするものでありますから、これまで述べてきました立憲的な憲法秩序を一時停止する性格を有する講学上の国家緊急権の制度を図るといったような法律ではないということでございます。

○吉國一郎内閣法制局長官の,昭和50年5月14日の衆議院法務委員会における答弁
1(1) 現行憲法のもとにおいて非常時立法ができるかというお尋ねでございますが、非常時立法というものにつきまして、もともとこれは法令上の用語ではございませんから明確な定義があるわけではございませんけれども、まあわが国に大規模な災害が起こった、あるいは外国から侵略を受けた、あるいは大規模な擾乱が起こった、経済上の重要な混乱が起こったというような、非常な事態に対応いたしますための法制として考えますと、それはあくまでも憲法に規定しております公共の福祉を確保する必要上の合理的な範囲内におきまして、国民の権利を制限したり、特定の義務を課したり、また場合によりましては個々の臨機の措置を、具体的な条件のもとに法律から授権をいたしまして、あるいは政令によりあるいは省令によって行政府の処断にゆだねるというようなことは現行憲法のもとにおいても考えられることでございまして、現に一昨年の11月に国会で非常に多大の御労苦を願いまして御審議いただきました国民生活安定緊急措置法というものがございます。
(2) これはその当時の緊急経済事態に対応いたしまして諸般の措置を定めたものでございますが、その中には、割り当てまたは配給につきまして全面的に政令以下に権限をゆだねていただいておるような法令もございます。
(3) これも、一定の限られた範囲ではございますけれども非常時立法の一例でございましょうし、また古くは、災害対策基本法の中で、非常災害が起こりました場合に、財政上、金融上の相当思い切った措置を講じ得るようになっておりますが、これもそのたびごとに政令をもって具体的な内容を規定いたすことになっております。
2 このように、現憲法のもとにおきましても特定の条件のもとにおいてはこのような立法ができることは、すでに現在先例を見ていることから言っても明らかでございまして、いわゆる非常時立法と申すものにつきまして、一定の範囲内においてこれを制定することができることは申すまでもないと思います。
   もちろん、旧憲法において認められておりましたような戒厳の制度でございますとか、あるいは非常大権の制度というようなものがとれないことは当然のことでございますし、また、現段階において全面的な広範な非常時立法を考えているというような事態はございませんことを申し上げておきます。

○高辻正己内閣法制局長官の,昭和44年3月15日の参議院予算委員会における答弁
1 私に対する御質疑は、いまやるかどうかという問題を離れて、憲法上可能かどうかという問題のようでございます。憲法にはこの非常事態に関する特別の規定は、御承知のとおり、政治機構に関して例の参議院緊急集会の制度があるくらいでございまして、そのほか一般的に非常事態に際してどうという規定はございません。
   しかしながら、御指摘のように、人権の保障も、常に公共の福祉のために利用する責任を負うということになっておりまして、公共の福祉に反する利用ということになりますと、まあいまのいろんな法律にもありますような、いろんな制限をこうむる場合がございます。
2 したがって非常事態というような場合になりますれば、それほど、相関関係における公共の福祉というものが当然問題になりますから、それと厳密に均衡のとれた制限であれば不可能とは言えない。
   むろん公共の人権の制限に関するものでありますから、立法にあたりましては慎重を期する必要がありますけれども、理論的には不可能であるということは申すわけにはまいらないと思います。

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(1) 衆議院HPに「緊急事態」に関する資料(平成25年5月の衆議院憲法審査会事務局)が載っています。
(2) 国が,積極的に,国民経済の健全な発達と国民生活の安定を期し,社会経済全体の均衡のとれた調和的発展を図るため,その社会経済政策の実施の一手段として,立法により,個人の経済活動に対し,一定の規則措置を講ずることは,それが右目的達成のために必要かつ合理的な範囲にとどまる限り,憲法の禁ずるところではありません(最高裁大法廷昭和47年11月22日判決)。
(3) 以下の記事も参照してください。
・ 新型コロナウイルス感染症への対応に関する最高裁判所作成の文書
・ 新型コロナウィルス感染症に準用されている感染症法,感染症法施行令及び感染症法施行規則の条文
・ 新型コロナウイルス感染症に準用されている検疫法の条文
・ 国内感染期において緊急事態宣言がされた場合の政府行動計画(新型インフルエンザの場合)

秘匿情報の管理に関する裁判所の文書

目次
第0 はじめに
第1 秘匿情報の管理に関する裁判所の文書
第2 関連記事その他

第0 はじめに
1 令和5年2月20日以降については原則として,新たな秘匿制度が適用されます(当事者に対する住所,氏名等の秘匿の制度に関する改正民事訴訟法等に関する運用方法が書いてある文書1/2及び2/2当事者に対する住所,氏名等の秘匿の制度に関する改正民事訴訟法等に関する運用方法が書いてある文書によって開示された文書)に含まれる,新たな秘匿制度を踏まえた秘匿情報の適切な管理について(令和5年1月26日付の最高裁総務局第一課長等の事務連絡)参照)。
2 「秘匿制度に係る改正通達に関する事務処理のポイントとQA」の発出について(令和5年2月3日付の最高裁総務局第三課長の事務連絡)が分かりやすいです。

第1 秘匿情報の管理に関する裁判所の文書
・ 秘匿情報の適切な管理について(平成27年2月19日付の最高裁判所総務局,民事局,刑事局及び家庭局の課長の事務連絡)別紙1ないし3は以下のとおりです。

秘匿情報の適切な管理について(別紙1)

1 はじめに
    裁判所は,記録上に表れている情報のうち,当事者や被害者等の利害関係人(以下「当事者等」という。)からの秘匿を希望する旨の申出等を踏まえて,秘匿すべきであると判断した情報(以下「秘匿情報」という。)については,裁判所の意図に反して流出させることのないように適切に管理しなければならない。仮に,裁判所として行うべき管理を怠って秘匿情報を流出させるといった事態を発生させた場合には,秘匿を希望した当事者等の名誉や社会生活の平穏が著しく害されたり,身体や財産への危害が加えられたりするおそれを生じさせることになり,ひいては,あらゆる裁判の基盤となっている裁判所に対する信頼を大きく揺るがすことになりかねない。したがって,秘匿情報の適切な管理の重要性についての意識を,裁判官を含めた関係職員間で共有し,共通の視点を持って日々の事務処理を行っていく必要がある。
2 秘匿情報の適切な管理に向けて
(1) 事務処理態勢の構築
    秘匿情報の適切な管理は,事件受理時における教示の段階から事件終局後の関係機関等への引継ぎの段階までといった,裁判所が関わる手続の流れを意識しながら,関係職員が互いに有機的な連携を図りつつ,実現されなければならない。これに向けて,個々の職員が秘匿情報の管理について高い問題意識を有することも重要ではあるが,それのみに依存するのでは不十分である。秘匿情報の管理が必要となる事件が常に係属し得ることを前提に,あらかじめ万全な事務処理態勢を組織として検討し, これを構築した上で,関係職員間で適切に認識を共有しておく必要がある。
(2) 検討すべき事項の整理
    事務処理態勢を検討するに当たっては,秘匿情報の適切な管理の重要性を踏まえた上で,事務を行う根拠・目的に照らして合理的な対策を検討する必要があるが, どのような視点で何をどこまで検討すればよいのか,考えられる対策の中からどのような対策を選択し実践すべきかについては,悩みが多いものと思われる。そのような検討を効果的に進めるためには,検討すべき事項を具体的に整理することが有用であり,その内容としては,次のようなものが考えられる。
① (当事者等がどのような情報について秘匿を希望しているかを把握し,それらを踏まえた上で)どの情報を秘匿情報として取り扱うかを具体的に判断し,その内容について秘匿情報を取り扱う可能性のある者との間で相互に共有すること(秘匿情報の確定)
② 事件処理上,当然に記録に表れるべき情報と必ずしも記録に表れなくてもよい情報とを整理し,不必要な秘匿情報が記録上に表れないような措置を講じること(記録上に不必要な秘匿情報が表れないようにするための措置)
③ ②の措置を講じたとしても,記録上に表れることとなった秘匿情報(秘匿情報として取り扱うことを決めた際には既に記録に表れていたものを含む。)について,裁判官を含めた関係職員間で相互に共有すること(記録上に表れることとなった秘匿情報の共有)
④ 記録上に表れている秘匿情報が裁判所の意図に反して流出しないように取り扱うこと(記録上に表れた秘匿情報の流出の防止)
    以上のことを十分に検討した上で,事務処理態勢が構築され,関係職員で認識が共有されれば,基本的には,秘匿情報の適切な管理を実現することができると考えられる。しかし,上記の各事項の中でも,①秘匿情報の確定の場面においては,例えば, どのような手順で秘匿情報を確定し,その内容をどの範囲で,どのように共有するのかといったことが問題となるし,④流出の防止の場面においては,秘匿情報がどのような契機で流出し得るのか,流出しないためにどのような措置がとれるのかなど,更に検討すべき事項を整理する必要が生じる。そのような事項を,上記の各事項に従って整理すると別紙第2のとおりになると考えられる。
(3) 工夫例の活用
    秘匿情報の適切な管理の問題は,あらゆる裁判所の,あらゆる事件分野において,検討されるべき問題で,実際に,各庁各部ごとに様々な工夫がされている。参考になると思われる工夫例については, これまでも事務連絡等(民事訴訟事件,人事訴訟事件の分野については別紙第3の番号7,刑事事件の分野については別紙第3の番号5,9の各事務連絡等)で紹介しており,今後とも,適宜紹介していきたいと考えている。事務処理態勢を構築するに当たっては, このような工夫例を活用することも有益であろう。
(4) 適時の連携・協働等
   各庁における検討の結果として,構築され,認識が共有された事務処理態勢は,一般的な事務処理の指針にすぎないのであるから,特別な事情が存在する場合には,適時に裁判官を含めた関係職員で問題状況を整理し,具体的な対応策を検討し,改めて認識を共有しなけれぱならない。
(5) その他留意すべき点
ア 職員の意識
    各庁における検討の結果として,事務処理態勢が構築され,認識が共有されたとしても,これに基づいて実際に事務を行う者が秘匿情報の適切な管理の重要性を理解していないと,その趣旨に従った事務処理が行われないおそれがある。したがって,関係職員に対する問題意識の喚起がされていること,そして,それが継続的に行われていることが不可欠となる。
イ 他部署との連携とこれを踏まえた当事者等への教示
    例えば訟廷と担当部,第一審担当部と第二審担当部との間のように,実際の事務処理は異なる部署で行われるものの,秘匿情報の管理に当たって必要な情報を共有すべきである部署間においては,情報の引継ぎが適切に行われるような事務処理態勢を構築しなければならない。他方で,保全事件担当部,本案事件担当部,執行事件担当部相互間のように,情報を引き継ぐことを前提にした事務処理態勢を構築しにくいところも現実にはある。そこで,裁判所としては, どのような場合にどのような情報をどのような方法で引き継ぐのかという点を整理した上で,その整理を踏まえた適切な教示方法を検討しておく必要がある。
    また,住所や氏名を秘匿することで,執行や登記の場面で問題が生じる場合もある。相手方が勝訴した場合に執行の場面で困ることは容易に想像がつくが,秘匿を希望した側が勝訴した場合でも,例えば,本人の住所を秘匿するために現住所に代えて代理人住所を記載していたが,本訴と執行で代理人が異なったために連続性を証明できない場合や,同様の事例で現住所に代えて記載した代理人住所に弁護士事務所名が入っているなどしていたため,単なる連絡先であるとして法務局において(仮)差押登記を受け付けてもらえない場合などがあり得る。裁判所としては,このような問題点が生じ得る可能性があることを,あらかじめ当事者等に教示しておく必要がある。
ウ 法の規律や記録の概念
     裁判所は,適正な手続に則って裁判手続を行っていく使命を負っており,たとえ,当事者等が秘匿を希望したとしても,常にそれをかなえられるわけではない。記録の作成や保管を適切に行い,かつ,法で規律されている当事者等の権利を適切に保護する必要があることを前提にした上で,裁判所として,秘匿情報を適切に管理するためにどのようなことができるのかを,手続の流れ全体を通して整理し,法律上の根拠を踏まえて検討していく必要がある。例えば,適法に送達がされたことを証明する送達報告書や,裁判所による調査嘱託決定に対する回答書は,裁判手続が適正に遂行されたことを明らかにするものであり,記録として構成されるべき書類であると考えられる。そうであるとすれば,秘匿の要否にかかわらず,本来は,記録につづり込まなければならないものであって,秘匿情報が記載されているからといって記録にしないことは許されない。
3 おわりに
    どのような情報について秘匿情報とする必要があるか,秘匿情報が何を契機として外部に流出し得るかは,記録に表れ得る情報の種別,記録に表れた情報へのアクセス権の範囲によって違いが生じるから,実際には,事件等の特性に応じた個別の検討をしていかなければ,秘匿情報の適切な管理のための事務処理態勢を構築することができない。また,執務態勢によっても,検討結果は異なってくる可能性がある。したがって,各裁判所の置かれた状況を前提にし,その実情に即した事務処理態勢を検討した上で, このようにして構築された事務の流れが実効的であり,かつ,無理のないものになっているかを実際の事務処理を通じて不断に検証して, より良い事務魑態勢の構築に努めていく必要がある。

第2 関連記事その他
1 あおい法律事務所HP「7.訴えの提起における当事者の特定・住所地の記載されていない債務名義の強制執行の方法等」に載ってある東京高裁平成21年12月25日判決は以下の判示をしています。
     民事訴訟の当事者は,判決の名宛人として判決の効力を受ける者であるから,他の者と識別することができる程度に特定する必要がある。自然人である当事者は,氏名及び住所によって特定するのが通常であるが,氏名は,通称や芸名などでもよく,現住所が判明しないときは,居所又は最後の住所等によって特定することも許されるものと解される。
2 令和5年2月20日以降については,改正後の民事訴訟法133条に基づき,住所等又は氏名等が相手方当事者に知られることによって社会生活を営むのに著しい支障を生じるおそれがあることについて疎明があった場合,住所等又は氏名等を秘匿する旨の裁判をしてもらうことができるようになりました(法務省HPの「民事訴訟法等の一部を改正する法律について」(令和5年1月11日付)に載ってある「住所、氏名等の秘匿制度の創設」参照)。
3(1) 以下の事務連絡等を掲載しています。
・ 訴状等における当事者の住所の記載の取扱いについて(平成17年11月8日付の事務連絡)
・ 犯罪被害者等の保護のための諸制度に関する参考事項について(平成19年12月25日付の事務連絡)
・ 刑事損害賠償命令手続から民事訴訟手続に移行した場合の犯罪被害者等の特定事項への配慮について(平成22年6月7日付の事務連絡)
・ 暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律の一部を改正する法律の施行に伴う留意点について(平成25年3月27日付の事務連絡)
・ 被害者特定事項の秘匿決定がされた事件における被害者等の住所等の取扱いについて(平成25年6月28日付の事務連絡)
・ 平成25年9月18日付の刑事局第二課長・家庭局第一課長書簡(平成25年度特別研究会の議論概要メモの送付)
・ 人事訴訟事件及び民事訴訟事件において秘匿の希望がされた住所等の取扱いについて(平成25年12月4日付の事務連絡)
・ 平成26年9月24日付の総務局第三課長・刑事局第二課長書簡(被害者匿名化事案において判決書等に実名を記載した場合の抄本等の作成及び交付等に関する東京地裁での取扱いについて)
・ 被害者特定事項の秘匿決定がされた事件における被害者等の住所等の取扱いについて(平成26年9月24日付の事務連絡)
・ 民事非訟手続における秘匿情報の適切な管理について(平成27年4月30日付の最高裁民事局第一課長及び総務局第三課長の事務連絡)
・ 
被害者特定事項の秘匿決定がされた事件及び当事者名を秘密記載部分として閲覧等制限の申立てがされた事件の報道機関等に対する期日情報の提供について(平成27年9月17日付)
・ 家事事件手続における非開示希望情報等の適切な管理について(平成28年4月26日付の最高裁判所家庭局第二課長及び総務局第三課長の事務連絡)
・ 
被害者特定事項の秘匿決定がなされた事件等における秘匿情報の適切な管理のための工夫例について(平成28年10月12日付の最高裁判所刑事局長及び総務局長の事務連絡)
・ 秘匿情報管理に関する事務処理態勢を維持・継続するための取組について(平成29年2月22日付の最高裁判所刑事局第二課長の事務連絡)
(2) 以下の記事も参照してください。
・ 訴訟提起に際して原告の住所等を秘匿したい場合の取扱い
・ 司法修習生の守秘義務違反が問題となった事例
 司法修習生に関する規則第3条の「秘密」の具体的内容が書いてある文書
・ 「品位を辱める行状」があったことを理由とする司法修習生の罷免事例及び再採用
 司法修習生の罷免理由等は不開示情報であること
・ 司法修習生の逮捕及び実名報道