第1 不開示とされた情報と本記事の対象
司法修習生の罷免理由や非違行為等の報告については,個人に関する情報であることに加え,公表すると人事管理上の調査等に支障が生じるおそれがあることを理由に,不開示を妥当とした答申がある。
ただし,罷免に関係する文書がすべて一律に不開示となるわけではなく,不開示の考え方を説明する文書が開示された例もある。
本記事は,令和8年8月30日時点で確認した資料に基づき,70期・71期司法修習生に関係する次の5件の答申と,文書開示の仕組みを扱う。
罷免そのものの事由・手続については,司法修習生の罷免を参照されたい。
| 答申 | 対象 | 判断の内容 |
|---|---|---|
| 平成30年度(最情)第32号 | 最高裁判所裁判官会議議事録 | 氏名・修習期・罷免理由等の一部不開示を妥当とした |
| 平成30年度(最情)第41号 | 70期司法修習生の罷免に際して作成された報告書 | 標題等を含む文書全体の不開示を妥当とした |
| 令和元年度(最情)第57号 | 71期司法修習生の非違行為等の報告 | 標題・枚数等を含む文書全体の不開示を妥当とした |
| 令和元年度(最情)第60号 | 罷免理由を公にすると支障が生じると考える根拠が分かる文書 | 第32号答申を特定して開示した判断を妥当とした |
| 令和元年度(最情)第35号 | 71期司法修習生の戒告・修習停止・罷免の人数が分かる文書 | 作成・取得していないとして不開示とした判断を妥当とした |
これらは,情報公開・個人情報保護審査委員会の答申であり,判決ではない。
同じ「不開示」という結果でも,情報の内容を理由に開示しない場合と,対象文書を保有していない場合とを区別して読む必要がある。
第2 裁判所の文書開示制度と不開示の例外
1 情報公開法の直接適用ではなく取扱要綱による開示
裁判所は,行政機関の保有する情報の公開に関する法律(以下「情報公開法」という。)2条1項にいう行政機関に含まれず,同法が直接適用されるわけではない。
裁判所の司法行政文書の開示は,同法の趣旨を踏まえて定められた裁判所の保有する司法行政文書の開示に関する事務の取扱要綱(以下「開示取扱要綱」という。)に基づいて行われる。
開示取扱要綱第2は,何人に対しても司法行政文書を開示することを原則としつつ,法令に別段の定めがある場合や,情報公開法5条の不開示情報に相当する情報が記録されている場合を除外している。
そのため,答申における「情報公開法5条1号及び6号ニに相当する」という説明は,この要綱上の判断を意味する。
本記事の答申で中心となったのは,①特定の個人を識別できる情報等を定める情報公開法5条1号と,②人事管理に関し,公正かつ円滑な人事の確保に支障を及ぼすおそれを定める同条6号ニである。
個人を識別できるかという問題と,調査・資料収集等への支障が生じるかという問題は,別々の不開示理由となり得る。
2 個人情報の例外,部分開示及び公益上の開示
情報公開法5条1号には,①法令又は慣行により公にされ,又は公にすることが予定されている情報,②人の生命・健康・生活・財産を保護するため公にする必要がある情報,③公務員等の職務遂行情報のうち職及び職務遂行の内容に係る部分という例外がある。
もっとも,後記の第32号・第41号・第57号答申は,そこで問題となった司法修習生の個人識別情報について,同号ただし書イからハまでに相当する事情又は記載を認めなかった。
開示取扱要綱第3は,不開示部分を容易に区分して除くことができる場合の部分開示を定めている。
氏名等を除くことで個人の権利利益を害するおそれがなくなる場合も検討の対象となるが,残りに有意の情報がない場合は例外とされ,他の情報との照合による識別や,人事管理上の支障という別の不開示理由が残ることもある。
また,同要綱第4は,不開示情報が記録されていても,公益上特に必要があると認めるときは開示できるとしている。
これは裁量的な開示の定めであり,関心の高い問題であるというだけで,開示が必ず認められるという趣旨ではない。
第3 罷免理由・報告書・枚数を不開示とした答申
1 裁判官会議議事録に記載された罷免理由
平成30年度(最情)答申第32号(平成30年9月21日)は,平成29年1月18日に開催された最高裁判所裁判官会議の議事録について,一部不開示を妥当とした。
司法修習生に関する不開示部分は,罷免された者の氏名,修習期及び罷免理由である。
委員会は,これらを個人識別情報と認めるとともに,罷免理由を公にすると,どのような事案で罷免されるかが明らかになり,罷免に係る事務に支障が生じるおそれがあると判断した。
その判断は,今後の同種事案における事実確認等への支障を述べた最高裁判所事務総長の説明を,不合理とはいえないとしたものである(答申第4の2・第6の1,2頁~3頁)。
対象は議事録中の特定の記載であって,議事録全体が不開示とされた事案ではない。
また,個別の罷免理由を不開示としたことから,公表済みの法令上の罷免事由まで秘密であるという結論が導かれるものでもない。
2 罷免に際して作成された規則19条の報告書
平成30年度(最情)答申第41号(平成30年11月16日)は,70期司法修習生を罷免するに際して司法研修所が作成した報告書について,標題等を含む全体の不開示を妥当とした。
ここでいう報告書は,平成29年最高裁判所規則第4号による改正前の「司法修習生に関する規則」19条に基づくものである(答申第6の1,2頁)。
委員会は,氏名や行状等を個人識別情報と認めたほか,報告書を公にすると,罷免事由に関する調査事項,司法修習生の弁明書及び提出資料の内容が明らかになる点を検討した。
その上で,今後の公正かつ円滑な調査・資料収集や,適正な罷免手続事務に支障を及ぼすおそれがあるという事務総長の説明を,不合理とはいえないとした(答申第6の1,2頁~3頁)。
この答申は,当該報告書全体の開示の可否を判断したものである。
「司法修習生の弁明書は,どのような内容・取得経路であっても常に不開示である」という一般的な判断として読むことはできない。
3 71期司法修習生の非違行為等の報告と枚数
令和元年度(最情)答申第57号(令和元年11月15日)は,全国の実務修習地から送付された71期司法修習生の罷免・修習停止・戒告の該当事由及び非違行為の報告について,全部不開示を妥当とした。
平成31年3月26日付けの原判断と,令和元年5月30日付理由説明書の後にされた答申である。
委員会は,氏名や行状等の記載を,報告対象の修習生ごとに一体として個人識別情報と認めた。
さらに,標題・枚数等を含めて公にすると,調査事項・調査量や提出資料の内容・分量が推知され,人事管理上の調査・資料収集に支障が生じるおそれがあるという説明を受け入れた(答申第6の1,2頁~3頁)。
この事案では,報告書の本文だけでなく,送付された文書の枚数も不開示とされた。
ただし,報告書の枚数と,罷免・戒告等を受けた人数とは異なる情報であり,人数資料については次の第35号答申を区別して参照する必要がある。
第4 根拠文書の特定と人数資料の不存在
1 不開示の考え方を示す文書は開示されている
令和元年度(最情)答申第60号(令和元年11月15日)は,罷免理由を公にすると事務に支障が生じると最高裁判所が考える根拠が分かる文書の開示申出を扱った。
最高裁判所は,第32号答申を対象文書として特定して開示しており,第60号答申はこの文書特定を妥当とした。
第32号答申には事務総長の説明が記載されているため,求められた根拠が分かる文書に当たるとされた。
他に該当文書を保有していないという説明についても,不合理とはいえないと判断されている(第60号答申第6,2頁~3頁)。
この経過は,令和元年6月20日付理由説明書と併せて確認できる。
第60号答申を,個別の罷免理由について新たに全面不開示を認めた答申と捉えるのは正確ではない。
2 人数資料の不存在は,人数が0人という意味ではない
令和元年度(最情)答申第35号(令和元年8月23日)は,71期司法修習生の戒告・修習停止・罷免の人数及び罷免事由別の人数が分かる文書について,作成又は取得していないとして不開示とした判断を妥当とした。
委員会は,これらが司法修習の事務を遂行する上で必ず作成されなければならない性質の文書ともいえないことなどを理由としている(答申第6,2頁,別紙3頁)。
これは,対象文書を保有していないという判断であり,人数情報そのものが不開示情報に当たると判断したものではない。
また,その期に罷免等を受けた者が0人であったことを示すものでもなく,期別の資料状況は司法修習生の罷免事由別の人数を参照されたい。
なお,開示取扱要綱第5には,文書の存在の有無を答えるだけで不開示情報を明らかにしてしまう場合に,存否を明らかにせず開示しない取扱いも定められている。
この存否応答拒否も,文書を作成・取得していないという第35号答申の判断とは別のものである。
第5 裁判官の官報公示・公開審理との違い
1 分限事件の裁判の公示との制度上の違い
第60号答申で申出人が比較対象としたのは,裁判官の分限事件手続規則9条による,分限事件の裁判が確定した後の全文の官報公示である。
これは,裁判が確定した後にその内容を公示する制度であり,審問を一般に公開することとは区別される。
同答申は,裁判官と司法修習生では,憲法・法律上の任免や身分等の規律が異なり,司法修習生の罷免について同条に相当する法令上の規定がないことを指摘した。
この制度差を踏まえ,他の根拠文書を保有する必要がないという事務総長の説明を不合理とはいえないとしたのであって,裁判官との比較だけで別の文書の存在が認められたわけではない(第60号答申第6の1,3頁)。
2 公開審理をめぐる多数意見と反対意見
最高裁判所大法廷平成10年12月1日決定(平成10年(分ク)第1号,民集52巻9号1761頁)は,裁判官分限事件について,憲法82条1項の適用がないと判示した。
多数意見は,裁判官の懲戒は実質的には行政処分の性質を持ち,純然たる訴訟事件の裁判ではないと説明している(決定15頁~17頁)。
これに対し,同決定の反対意見には,裁判所が懲戒権者と司法的判断者の役割を併せ持つ点を重視し,公正・中立への信頼を確保するため,公開手続,口頭主義及び直接主義の下で審理すべきであると説くものがある。
これは公開審理を求める反対意見であり,多数意見が採用した結論ではない(決定25頁~26頁)。
市民的及び政治的権利に関する国際規約14条1項も公正な公開審理等を定めているが,同決定の多数意見は,分限事件の審問を公開しないことが同項に違反するともいえないとした(決定17頁)。
公開審理の保障と,司法行政文書として保有する情報の開示は対象が異なるため,この反対意見を根拠に,司法修習生の罷免関係文書が当然に公開されると結論付けることはできない。
第6 本人情報の開示と不開示判断への苦情
1 自分の情報を求める場合の別手続
裁判所の司法行政文書開示手続の案内は,一般の司法行政文書開示では,開示申出人自身の情報であっても個人に関する情報は原則として開示されないと説明している。
司法行政文書に記録された自分の個人情報を求める場合は,保有個人情報開示手続が別に用意されている。
裁判所が司法行政事務に関して保有する個人情報の取扱要綱第4の1・2は,本人又は代理人への開示と部分開示を定めている。
ただし,本人以外の個人に関する情報や事務への支障等を理由に不開示となる部分もあるため,本人からの申出であれば罷免関係資料の全体が開示されるというものではない。
2 苦情申出の期間は通知を発した日から原則3か月
司法行政文書の全部又は一部を不開示とする判断に対しては,開示申出人が最高裁判所に苦情を申し出る手続がある。
開示取扱要綱第11の1による期間は,原判断の通知を発した日から原則3か月であり,通知を受け取った日からではない。
同要綱は,通知が到達しなかったことが明らかな場合その他正当な理由があると認める場合の例外も定めている。
苦情の受付は,原判断をした裁判所の別にかかわらず,最高裁判所事務総局秘書課が担当する。
所定の除外事由がなければ委員会への諮問が行われ,最高裁判所は答申を尊重して判断する(同要綱第11の3・4・7・14)。
この苦情手続は,罷免処分そのものの取消しを求める手続ではない。
文書開示の問題と処分自体の不服申立てを混同しないよう,それぞれ裁判所の不開示決定と取消訴訟及び司法修習生の罷免等に対する不服申立方法を参照されたい。
出典
1 法令・条約
①行政機関の保有する情報の公開に関する法律(平成11年法律第42号)2条・5条(e-Gov法令検索)
②日本国憲法82条1項(e-Gov法令検索)
③市民的及び政治的権利に関する国際規約14条1項(外務省掲載日本語本文)
④裁判官の分限事件手続規則(昭和23年6月7日最高裁判所規則第6号)9条(裁判所公表本文,PDF1頁。第60号答申の比較対象として参照)
2 裁判例
①最高裁判所大法廷平成10年12月1日決定(平成10年(分ク)第1号,民集52巻9号1761頁,裁判所ウェブサイト)
参照箇所は,多数意見15頁~17頁及び反対意見25頁~26頁である(決定全文PDFの頁数と一致する)。
3 裁判所の運用規範・手続案内
①裁判所の保有する司法行政文書の開示に関する事務の取扱要綱(平成27年3月4日裁判官会議議決,令和4年6月8日改正議決)前文,第2~5,第11(PDF1頁~2頁・4頁~8頁)
②裁判所が司法行政事務に関して保有する個人情報の取扱要綱(令和8年2月1日実施改正を含む裁判所公表本文)第4の1・2(10頁~11頁,PDF頁と一致)
③裁判所「司法行政文書開示手続」1(1)・(4)・(8)
④裁判所「保有個人情報開示手続」2(1)・(2)・(4)・(5)
4 審査委員会の答申・原判断機関の理由説明書
以下の答申の作成主体は,情報公開・個人情報保護審査委員会である。
答申の資料上の頁とPDF頁は,いずれも一致する。
①平成30年度(最情)答申第32号(平成30年9月21日)「最高裁判所裁判官会議議事録の一部開示の判断に関する件」第4の2・第6,2頁~3頁
②平成30年度(最情)答申第41号(平成30年11月16日)「司法修習生を罷免するに際し,司法研修所が作成し,又は取得した文書の不開示判断に関する件」第4・第6,1頁~3頁
③令和元年度(最情)答申第57号(令和元年11月15日)「司法修習生に関する罷免等の該当事由及び非違行為の報告に関する文書の不開示判断に関する件」第6,2頁~3頁
④令和元年度(最情)答申第60号(令和元年11月15日)「司法修習生の罷免理由を公にすると司法修習生の罷免に係る事務に支障が生じるおそれがあると最高裁判所が考えている根拠が分かる文書の開示判断に関する件(文書の特定)」第6,2頁~3頁
⑤令和元年度(最情)答申第35号(令和元年8月23日)「戒告処分を受けた71期司法修習生の数が分かる文書等の不開示判断(不存在)に関する件」第6・別紙,2頁~3頁
⑥最高裁判所令和元年5月30日付理由説明書(71期司法修習生の非違行為等の報告に関するもの)(3),PDF1頁~2頁
⑦最高裁判所令和元年6月20日付理由説明書(不開示の根拠が分かる文書に関するもの)(1)~(3),PDF1頁~2頁