司法修習生の罷免理由等は不開示情報であること

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目次
第1 司法修習生の罷免理由は不開示情報であること
第2 罷免された司法修習生の弁明書等は不開示情報であること
第3 司法修習生の戒告,非違行為等は不開示情報であること
第4 寺西判事補事件における裁判官尾崎行信の反対意見
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第1 司法修習生の罷免理由は不開示情報であること
1 平成29年1月18日に開催された最高裁判所裁判官会議議事録のうち,70期司法修習生の罷免に関する記載のほぼ全部が不開示情報であるとした,平成30年度(最情)答申第32号(平成30年9月21日答申)には以下の記載があります。
 本件不開示部分のうちその余の記載部分については,その記載内容に照らせば,罷免された司法修習生に係る個人識別情報と認められ,同号ただし書イからハまでに相当する事情は認められない。また,これらの記載部分については,司法修習生の人事事務に関する担当者等の一部の関係職員以外には知られることのない秘密性の高い情報であり,特に罷免理由を公にすると,どのような事案で罷免されるのかといった内容が明らかになるという最高裁判所事務総長の上記説明の内容が不合理とはいえず,司法修習生の罷免に係る事務に支障が生じるおそれがあると認められるから,法5条6号ニに規定する不開示情報に相当する。
2 令和元年6月20日付の理由説明書は以下のとおりです。
(1) 開示申出の内容
裁判官の分限事件手続規則9条に基づき,分限事件の裁判の全文を官報に掲載して公示することで裁判官の罷免理由を公にしているにもかかわらず,司法修習生の罷免理由を公にすると,司法修習生の罷免に係る事務に支障が生じるおそれがあると最高裁判所が考えている根拠が分かる文書
(2) 原判断機関としての最高裁判所の判断内容
最高裁判所は, (1)の開示の申出に対し, 5月21日付けで「情報公開・個人情報保護審査委員会作成の答申書(平成30年度(最情)答申第32号)」(以下「答申書」という。)を対象文書として特定し,開示の判断を行った。
(3) 最高裁判所の考え方及びその理由
ア 最高裁判所が取得した答申書は,罷免された司法修習生の氏名,修習期,罷免理由等を不開示とした最高裁判所の判断に対する苦情申出に関するものであり,答申書の第4の2に,司法修習生の罷免理由を公にすると,司法修習生の罷免に係る事務に支障が生じるおそれがあると最高裁判所が考えている根拠が分かる記載がある。また,答申書以外に本件開示申出に係る司法行政文書を保有する必要はない。
イ よって,本件対象文書を開示した原判断は相当である。

第2 罷免された司法修習生の弁明書等は不開示情報であること
1 70期司法修習生を罷免するに際し,司法研修所が作成した司法修習生に関する規則19条に基づく報告書は,その全体が不開示情報であるとした平成30年度(最情)答申第41号(平成30年11月16日答申)には以下の記載があります。
 本件対象文書を見分した結果によれば,本件対象文書は,70期司法修習生を罷免するに際し,司法研修所が作成した司法修習生に関する規則(平成29年最高裁判所規則第4号による改正前のもの)19条に基づく報告書であり,司法修習生の氏名や行状等が記載されていることが認められる。このうち司法修習生の氏名や行状等の記載部分については,法5条1号に規定する個人識別情報と認められ,同号ただし書イからハまでに相当する事情も認められない。また,本件対象文書の性質及び内容を踏まえると,標題等を含む本件対象文書全体について,これを公にすると,司法修習生の罷免事由に関する調査事項,司法修習生の弁明書及び提出された資料の内容が明らかになり,今後の公正かつ円滑な調査及び資料収集事務に好ましくない影響を与えるなど,適正な司法修習生の罷免手続事務の遂行に支障を及ぼすおそれがあるという最高裁判所事務総長の上記説明の内容が不合理とはいえない。
2 司法修習生に関する規則(昭和23年8月18日最高裁判所規則第15号)19条は以下のとおりです。
① 司法研修所長は、司法修習生に第十七条第一項各号のいずれか又は同条第二項の事由があると認めるときは、これを最高裁判所に報告しなければならない。
② 高等裁判所長官、地方裁判所長、検事長、検事正及び弁護士会長は、監督の委託を受けた司法修習生に、前二条の各号に当る事由があると認めるときは、司法研修所長を経て、これを最高裁判所に報告しなければならない。

第3 司法修習生の戒告,非違行為等は不開示情報であること
1 平成31年3月26日付の司法行政文書不開示通知書によれば,「全国の実務修習地から送付された,71期司法修習生に関する,罷免,修習の停止,戒告の該当事由及び非違行為の報告」は,その枚数も含めて不開示情報です。
2 令和元年5月30日付の理由説明書には,「(3) 最高裁判所の考え方及びその理由」として以下の記載があります。
 本件対象文書には,第71期司法修習生の氏名や行状等が記載されており,これらは個人識別情報に該当し,行政機関情報公開法(以下「法」という。)第5条第1号に定める不開示情報に相当する。
 また,本件対象文書の性質及び内容を踏まえると,標題及び様式等を含む,本件対象文書に記載されている情報並びに実務修習を委託している各配属庁会から送付された本件対象文書の枚数は,全体として,公にすると,司法修習生の非違行為等に関する調査事項や調査量,提出された資料の内容及び分量が推知されることになり,今後の公正かつ円滑な調査及び資料収集事務に好ましくない影響を与えるなど,今後の人事管理に係る事務に関し,公正かつ円滑な人事の確保に支障を及ぼすおそれがある情報に該当し,法第5条第6号二に定める不開示情報に相当する。
 したがって,標題及び様式等を含む本件対象文書に記載されている情報並びに実務修習を委託している各配属庁会から送付された本件対象文書の枚数は,全体として法第5条第1号及び第6号二に規定する不開示情報に相当する。
3 平成29年12月8日の日弁連臨時総会報告12頁には吉岡康祐日弁連副会長(岡山)の以下の答弁が載っています。
 戒告、修習停止、罷免の基準は明示的には定められていない。第71期司法修習生に対しては、例えば、犯罪に該当すると思料される行為があった場合はもとより、交通違反や交通事故、情報セキュリティ対策違反、守秘義務違反、無許可の兼職・兼業、セクハラ等の非違行為があった場合には、罷免、修習の停止又は戒告の処分や注意の措置を受けることがある旨説明されている。
 統一基準については、基準を定めてしまったら、硬直化されることも考えられるので、柔軟に対応するということで基準は作らないほうが、今のところいいのではないか。

第4 寺西判事補事件における裁判官尾崎行信の反対意見
   懲戒権者が裁判所であるという点では,司法修習生の罷免は裁判官の懲戒と類似する点がありますところ,寺西判事補事件に関する最高裁大法廷平成10年12月1日決定の裁判官尾崎行信の反対意見には以下の記載があります(ナンバリング及び改行を追加しています。)。
① 裁判官の懲戒については、非訟法の定めによらず公開手続、口頭主義、直接主義などの近代司法の原則の下に、基本的人権を保障すべく、格別の配慮を必要とする理由が認められる。
② 第一に、本件では、懲戒権者が裁判所である点に留意することを要する。すなわち、裁判所は、懲戒権の行使すなわち行政処分の実質を有する行為を裁判という形式で行うのであり、行政機関としての役割と司法機関としての役割を一つの行為によって果たしている。その結果、利害が相反することも想定され、特に被処分者からみれば司法的判断者としての公正・中立に危ぐを抱きやすいことは当然であるし、また外部の一般国民も同様の不信感を覚えることもあろう。
 このことにかんがみれば、裁判所は、司法審査権能を適正に行使したことを内外に示すため、本来の司法裁判の原則に照らし、最も公正な手続を採り、司法過程を最大限透明にし、当事者及び世人の危ぐを払拭すべきである。裁判官の職にある者がした裁判であるということだけでは、公正・中立を保障するものではなく、また、その無びゅう性を担保するものでもない。公正・中立は、公開・対審の手続を経ることによって保障の実が上げられるというべきである。公開法廷において、直接主義、口頭主義の原則の下に審理を尽くすことこそが、単に被処分者の基本的人権を保障するだけでなく、裁判所の公正・中立を社会に公示し、その信頼性を確保することとなるのである。
② 第二に、規則七条が「その性質に反しない限り」非訟法を準用すると定めていることを忘れてはならない。裁判官の懲戒事件は、刑事事件に比すべき重みを有するものであり、その審理手続は、刑事事件手続において要請される裁判の公開、対審構造、証拠主義などの原則に沿ったものが適切である。この面を無視し、民事・家事など通常の非訟事件と同一レベルで本懲戒事件を考え、単に非訟法を文面どおり準用すればよいとすることは、同条が特に「その性質に反しない限り」と定めた趣旨に違背するものというべきである。
 また、特別な公法関係にある者の懲戒手続につき司法的救済を拒否する合理的な理由は存在しない。一般の公務員はこれを享受しているのであるから、裁判官も同様の救済を得られるよう非訟法を解釈運用すべきである。
 しかも、本件においては、裁判所が懲戒権者の側面と司法的判断者の側面を同時に帯有するため、外観においても内容においても公正・中立を実現するためには特段の努力が要求される場合であるから、本事件の特質、特に右の二面性を考慮すれば、「その性質に反しない限り」の文言に照らし、前記の近代司法の諸原則を適用すべきである。
③ 第三に、裁判所の行う懲戒の裁判が行政処分の実質を有することにかんがみると、当裁判所が本抗告事件を非訟法に従って現に執った手続の下で処理することは、上級行政機関の行う再審査手続と大差がなく、行政機関が終審として裁判を行うことを禁ずる憲法七六条二項の趣旨に反することになると考える。裁判官の場合も他の公務員と同様不利益処分に対して司法救済のみちを開いておくべきである。
しかも、当裁判所において、抗告人が非訟法の定めの下で執り得る司法裁判に要請される適正手続に最大限近い手続による審理を受けることができなかったことは、懲戒事由の有無、懲戒権の存否など訴訟事件として判断さるべき事案につき適正手続下の公正な裁判を受ける権利(憲法三二条)を行使し得なかったこととなるというべきである。

④ 要するに、当審において本件を処理するに当たっては、裁判所は公開裁判、口頭主義、直接主義など近代司法の諸原則の下にこれを審理するべきであり、こうした審理、判断であってこそ社会一般も当事者本人も納得させることができ、裁判所への信頼も高められるのであり、そうでない限り、当審の手続は違法たるを免れない。

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