「品位を辱める行状」があったことを理由とする司法修習生の罷免事例及び再採用

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目次
1 23期の阪口徳雄修習生(昭和44年4月採用)の罷免事例
2 33期の男性司法修習生(昭和54年4月採用)の罷免事例
3 34期の男性司法修習生(昭和55年4月採用)の罷免事例
4 70期の男性司法修習生(平成28年11月採用)の罷免事例
5 その他の罷免事例
6 罷免された後の再採用
7 関連記事その他

1 23期の阪口徳雄修習生(昭和44年4月採用)の罷免事例
(1) 23期の司法修習終了式の中止
ア 阪口徳雄修習生は,昭和46年4月5日(月)の午前中に司法研修所講堂で行われた司法修習終了式において,23期の裁判官志望者7人に対する任官拒否に抗議するため,司法研修所長のマイクを手にとって,「裁判官への任官を拒否された修習生7人に発言させる機会を与えて欲しい」などと発言を始めたため,約1分後に司法研修所事務局長が修習終了式の終了を宣言したという事件を発生させました。
   最高裁判所は,同日午後6時から臨時の裁判官会議を開催し,「品位を辱める行状」があったということで,阪口徳雄修習生に弁明の機会を与えることなく,同人を罷免しました。
イ 23期の裁判官志望者7人に対する任官拒否については,昭和46年4月5日午後1時半頃,23期の裁判官内定者55人のうちの40人が有志で,「青法協会員ら7人の任官拒否は思想・信条,団体加入による差別の疑いが強い。このまま裁判官として職務につくことは耐えがたい不安を感じる。不採用の理由を明らかにせよ」などとする要望書(署名者は23期裁判官内定者45人)を高輪1期の矢口洪一最高裁判所人事局長に提出するため,最高裁判所に赴きました。
   しかし,最高裁判所は彼らが構内に入ることを拒否し,要望書を受け取りませんでした。
ウ 阪口徳雄修習生に対する罷免通知の時刻につき,昭和46年4月6日の毎日新聞朝刊では,午後7時40分頃に司法研修所事務局長から罷免通告が伝えられたと書いてあります。
   昭和46年5月8日の日弁連臨時総会決議では,午後8時26分に罷免処分が言い渡されたと書いてあります。
   自由と正義2018年7月号5頁には,阪口徳雄弁護士が自分で,「1971年4月5日午後8時過ぎ司法研修所の所長室で守田所長(当時)から「司法修習生の品位を汚した」ので罷免するという最高裁裁判官会議の決定書を交付された。」と書いてあります。
エ 23期は昭和46年4月5日付で司法修習を終了し,同月6日の官報にその氏名が公表され,同月8日の官報に「阪口徳雄を削除」という訂正記事が載りました。
オ 平成29年3月15日付の司法行政文書不開示通知書及び平成29年度(最情)答申第47号(平成29年12月1日答申)によれば,昭和46年4月に司法修習生を罷免した際の最高裁判所裁判官会議議事録は保存されていません。
(2) 23期の司法修習終了式の中止に関する国会答弁
   高輪1期の矢口洪一最高裁判所人事局長は,昭和46年5月20日の参議院法務委員会において以下の答弁をしています。
 わしづかみというふうに、私が、衆議院の法務委員会で申し上げましたところが、問題にされたようでございますが、そのときの状況を正確に申し上げさせていただきますと、当日研修所長から最高裁にあてまして、こういうトラブルがあったということの正式の文書による報告がございました。で、その文書による報告の内容を私自身といたしましてはかいつまんで申し上げたつもりであったわけでございますが、その文書を朗読したわけではございませんので、その間少しやや妥当を欠く面もあったかと思います。お尋ねでございますので、短いものでございますので、そのところを朗読さしていただきましてお答えにかえさせていただきたいと思います。
 「(別紙)」でございますが、「予定よりやや遅れて十時三十分ごろ事務局長が開式を宣し、司法研修所長が式辞を述べるため登壇した。ところがその発言前に、前から七、八列目の中央に座っていた阪口徳雄が立ち上り、所長に向い、「任官拒否された修習生に十分ぐらい発言の機会を与えてもらいたい云々」と言い、周囲の者もこれに和し「そうだ、そうだ」という発言、拍手などで式場は騒然となったので、所長は手をあげておだやかに阪口を制し、事務局長は進行係用マイクで「まず、式辞を聞きなさい。」と二度か三度注意した。しかし、彼等はこれを聞かず、中には阪口に対し「マイクでやれ」「前に出てやれ」と声援する者あるいは「止めろ」と叫ぶ者もあった。阪口は自席を離れ、演壇の下に進み出て、演壇用マイクを無断で抜き取り、演壇を背にして修習生に向い、マイクをもつて演説を開始し、式場はますます騒然となった。
 所長は、一言の式辞も述べないままこの事態では到底終了式を続行する可能性がないものと判断して自席に戻ったので、事務局長は進行係用のマイクを持って所長席の近くに行き、所長の指示を仰ぎ「終了式はこれで終了する。」と宣した。しかし、数名の修習生はこれを不満とし、自席を離れて事務局長を取り囲み、「どうして止めるのか」と抗議し、さらに所長、教官の退席を阻止しようとする修習生も若干名あったが、事務局職員が数名でスクラムを組み通路を確保したので、所長、教官も次第に退席し、その後は修習生だけで抗議集会を行なった。」というのが研修所の報告でございます。
 事実は、正確にはこのとおりであるというふうに御承知おきをいただきたいと思います。
(3) 日弁連の対応
ア 7人の任官拒否等に関しては,日弁連会長は,昭和46年4月3日,「13期裁判官の再任拒否問題に関する談話」を出しました。
   なお,13期裁判官は,宮本康昭熊本地家裁判事補のことです。
イ 阪口徳雄修習生の罷免事件では,日弁連が昭和46年5月8日に臨時総会を開催して抗議決議を出しました(日弁連HPの「臨時総会・司法修習生の罷免に関する決議」参照)。
   また,同決議によれば,この事件に関する矢口洪一最高裁判所人事局長の国会答弁は,阪口徳雄修習生の実際の行動とは異なるとのことです。
(4) 司法研修所の移転
ア 東京都千代田区紀尾井町にあった司法研修所は,この事件の3日後,東京都文京区湯島に移転しました。
イ 23期の修習終了式と25期の修習開始式(昭和46年4月16日)の合間を縫って司法研修所の移転作業が行われたわけです。
(5) 阪口徳雄は2年後に弁護士登録をしたこと
ア 阪口徳雄は,法律事務所で勉強するなどしていましたところ,昭和48年1月30日,松井宣日弁連事務総長らに伴われて,高輪1期の矢口洪一最高裁判所人事局長に会い,「式の当日の行動や,それに関連する言動のなかに礼を失したり穏当を欠いた点があることを率直に認め反省します」と謝罪しました(最高裁物語(下巻)129頁)。
イ 日弁連会長は,昭和48年1月31日,「司法修習生への再採用の決定と最高裁の寛大な措置について」と題するコメントで以下のとおり述べています。
   阪口徳雄君は、昨年来昭和46年4月5日の修習終了式当日の行動およびその後の各地における言動について真剣に反省された結果、このたび、最高裁判所および司法研修所に対し卒直に陳謝の意を表明され、最高裁判所においても、同君の誠意を酌まれ、本日同君の司法修習生への再採用を決定されました。
   わたくしは、阪口君の卒直な態度および最高裁判所の寛大な措置に対し、満腔の敬意と賛意を表するものであります。
   日本弁護士連合会は、今後とも最高裁判所と協力し、司法の健全な運営のために最善の努力をする所存であります。
ウ 阪口徳雄修習生は,2年後の昭和48年4月16日,司法修習を終え(昭和48年4月18日の官報参照),25期の弁護士になっていますところ,自由と正義2018年7月号6頁に以下の記載があります。
   1973年1月末に,終了式を「混乱」させたことを謝り,再採用となった。2回試験を合格しているので研修所に通わず修習終了となり,25期の卒業式と同時ではまた騒がれると思ったのか(笑),終了式の1週間後に,守田所長,教官に囲まれ「たった1人の終了式」で罷免事件は終わった。

2 33期の男性司法修習生(昭和54年4月採用)の罷免事例
(1)   ①岐阜地裁刑事部で実務修習中の昭和55年11月8日午後1時10分頃,地元の女子高生の通学路になっている路上で,下校中の女子高生5人に下腹部を露出する卑猥な行為をしたこと,並びに②昭和49年2月及び昭和54年2月に公然わいせつ行為での検挙歴があったことにかんがみ,昭和55年11月13日(木),「品位を辱める行状」があったということで罷免されました(昭和55年11月13日の毎日新聞夕刊)。
(2) 昭和55年11月12日の最高裁判所裁判官会議議事録を掲載しています。
(3) 33期の元修習生は,名字を変更した上で昭和62年4月2日に司法修習を終え,39期の弁護士になっています。
   そのため,6年後に再採用してもらえたものと思われます。

3 34期の男性司法修習生(昭和55年4月採用)の罷免事例
(1)ア ①司法修習期間中の昭和55年6月から昭和56年6月にかけて,知り合いの女性の父親に対し,過去の扶養料を取り立てるため,この父親の自宅,職場に手紙や電話で金の支払を頻繁に求めたこと,及び②金の支払を求めた際,司法研修所の用紙や東京地裁の裁判官が使う用紙などを用いて支払を催促しており,最終的には300万円を要求したことにかんがみ,昭和56年11月25日(水),「品位を辱める行状」があったということで罷免されました(昭和56年11月30日の日本経済新聞夕刊)。
イ 昭和56年11月30日の日本経済新聞夕刊には以下の記載があります(一部,氏名を伏せました。)。
   修習生が罷免されたのは,今回を含め9件。うち6件は成績不良や病気などによるもので,○○さんのように裁判所法や「司法修習生に関する規則」18条(裁量的罷免事由)1号(品位を辱める行為があった時)に基づく”強制罷免”は46年4月の阪口徳雄氏(研修所の終了式を混乱させた),55年11月の○○○○氏(破廉恥行為)に続いて3人目。しかし○○氏を除く7人はその後修習生として再採用された。
(2) 昭和56年11月25日の最高裁判所裁判官会議議事録を掲載しています。
(3) 34期の元修習生は,昭和59年4月4日に司法修習を終え,36期の弁護士になっています。
   そのため,2年後に再採用してもらえたものと思われます。

4 70期の男性司法修習生(平成28年11月採用)の罷免事例
(1)ア 70期導入修習の最終日である平成28年12月22日(木),司法研修所の寮の談話室で飲食した際,同期の女性司法修習生2人にみだらな言動をしたほか,ズボンと下着を脱いで下半身を露出したため,平成29年1月18日,「品位を辱める行状」があったということで罷免されました(日付につき外部ブログの「70期千葉修習の罷免」参照)。
イ そして,12月23日(金)がいずみ寮の退去日であったことからすれば,導入修習終了後の打ち上げでの出来事だったのかも知れません。
(2) 平成29年1月18日の最高裁判所裁判官会議議事録を掲載しています。


(3) ちなみに,水戸地検検事正(当時)は,平成23年2月14日の夜,水戸市内のスナックで酒に酔い,居合わせた客や同地検次席検事(当時)ら4人に対し,マイクで頭を殴ったり,髪の毛を引っ張ったりしました。
   しかし,東京地検は,平成23年10月13日,暴行の事実はあったとした上で,「酒に酔った際の偶発的な事案で,被害者も処罰を望んでいない」として,起訴猶予にとどめました。
   また,職務時間外の行動でしたから,懲戒等の人事上の処分は行われませんでした(外部ブログの「水戸地検検事正(当時。現・最高検検事)が,たたく・蹴るの暴行して。不起訴。懲戒処分無し」参照)。

5 その他の罷免事例
(1) 自転車窃盗に関して28期司法修習生が罷免されたことについて,最近の司法研修所の実態と問題点(昭和52年7月の大阪弁護士会の文書)25頁には以下の記載があります。
   昭和五〇年一〇月六日、実務修習の二八期、二九期生に対して、「司法修習生の規律保持について」と題する、大塚正夫司法研修所長の通達が出された。この通達では、四名の修習生が処分を受けた事例をあげて、今後も研修所において、修習生の規律保持について厳格に対処する考えであることを表明して、修習生に規律の厳守と修習への専念を要望している。その中で挙げられている「酔余他人の自転車を窃取」したとされる事例は二八期生であり、その本人は修習生の身分を失った。同人によれば、ある飲み屋から友人のいる他の飲み屋に行く際、道端にあった自転車を帰りに同じ道を通るのですぐに返せると考えて借りたということであり、当時の実務庁の検察教官からは,大した問題ではないので処分等の問題まで至らないといわれ、安心していたところ、研修所への報告後、急に処分問題にまで発展したとのことである。
(2) 昭和61年7月,関東地方のスーパーで菓子4000円相当を万引きして書類送検された女性修習生が罷免されました(司法の病巣117頁)が,それ以上の詳細は不明です。

6 罷免された後の再採用
(1)ア 「品位を辱める行状」があったことを理由に罷免された司法修習生が再採用を申し出た過去の先例では,①司法研修所の修習終了式を妨害したとされた23期司法修習生,及び②知り合いの女性に頼まれて家族の離婚問題に介入し,恐喝まがいの行為をしたとされた34期司法修習生については,2年度に再採用が認められたみたいです。
   これに対して公然わいせつ行為を行った33期の司法修習生については,6年後に再採用が認められたみたいです。
イ   報道されている事実を前提とすれば,公然わいせつ行為を行った70期の司法修習生の場合,再採用が認められなかった33期の司法修習生よりも情状は軽い気がします。
(2) 昭和56年11月30日の毎日新聞夕刊によれば,司法修習生が罷免されたのは,昭和56年11月25日付の罷免を含めて9人であり,うち6人は成績不良や病気などによるものであるところ,33期の司法修習生を除く7人は,後日,再採用されたそうです。
(3)  二回試験不合格という成績不良を理由に罷免された司法修習生について再採用が認められるのは早くても1年後であることにかんがみ,それよりも情状が悪い,素行不良を理由に罷免された司法修習生については,2年後に再採用を認めるという運用をしてきたのかもしれません。
(4)ア 平成29年度(最情)答申に第38号(平成29年10月2日答申)は以下の記載があります。
   本件開示文書には,司法修習生の採用選考における審査基準が記載されているところ,その記載内容を踏まえて検討すれば,司法修習生であった者が考試を再度受験するために再採用される際には,本件開示文書に基づいて審査が行われるのであり,本件開示文書以外に司法行政文書を作成し,又は取得する必要はないという最高裁判所事務総長の上記説明の内容が不合理とはいえない。そのほか,最高裁判所において本件開示文書以外に本件開示申出文書に該当する文書を保有していることをうかがわせる事情は認められない。
イ 本件開示文書は「司法修習生採用選考審査基準(平成28年6月1日付け)」であり,本件開示申出文書は「司法修習生考試に不合格となった者を再び採用する際の,最高裁判所及び司法研修所内部の事務手続が分かる文書(最新版)」です。
(2) 「司法修習生採用選考審査基準(平成28年6月1日付け)」には以下の記載があります。
2 司法修習生採用選考申込者に次に掲げる事由があると認めるときは,これを不採用とする。
(中略)
(2) 司法修習生であった者が,次のいずれかに該当すること。
ア 修習態度の著しい不良その他の理由により修習をすることが不相当である者
イ 成績不良(裁判所法(昭和22年法律第59号)第67条第1項の試験の不合格を除く。)その他の理由により修習をすることが困難である者
ウ 裁判所法第67条第1項の試験に連続して3回合格しなかった者(再度司法試験法による司法試験に合格した者を除く。)。ただし,病気その他やむを得ないと認められる事情により,裁判所法第67条第1項の試験の全部又は一部を受験することができなかった場合には,当該試験については,受験回数として数えないものとすることができる。

7 関係記事その他
(1) 以下の記事も参照してください。
・ 司法修習生の罷免
・ 司法修習生の罷免理由等は不開示情報であること
・ 司法修習生の罷免事由別の人数
・ 38期二回試験において,書き込みをした六法全書が持ち込まれたことに関する国会答弁
→ 38期二回試験では,書き込みをした六法全書を持ち込んだ司法修習生が8人いたものの,司法研修所長から厳重な書面による注意を受けたにとどまり,他の人から11日遅れで司法修習を終えることができました。
・ 司法修習生の逮捕及び実名報道
(2) 平成30年に発覚した裁判所における障害者雇用に係る事案(裁判所HPの「裁判所における障害者雇用に係る事案に関する検証について」参照)に関して,最高裁判所では懲戒処分がありませんでした(平成31年3月14日付の理由説明書参照)。

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