38期二回試験において,書き込みをした六法全書が持ち込まれたことに関する国会答弁


目次

1 38期二回試験における不祥事
2 関連記事その他

1 38期二回試験における不祥事
・ 38期二回試験において,書き込みをした六法全書が持ち込まれたことについて,昭和61年3月27日の参議院法務委員会において以下の質疑応答がありました(11期の櫻井文夫裁判官は答弁当時,最高裁判所人事局長でした。)。

○橋本敦君 最高裁にお尋ねをしたいのでありますが、けさ起きまして、さわやかに目覚めたつもりでありますけれども、大変さわやかでないニュースが飛び込んでまいりました。
 私もかつて学んだ司法研修所、ここの修習終了に際しての試験で修習生の諸君の中でカンニングが行われていた事実がある。しかも、カンニングをした人の中に、これは先輩から伝授をされた手法だというようなことを言っておるのがあるという報道がありました。私は先輩の一人としてそんなことを伝授した覚えはありませんし、カンニングが常態化になっているはずもありませんし、一体どうなっているのだろうか。しかも、法曹といえば、社会的にも一応信頼ある立場で仕事をしなくちゃなりませんので、人格的にも不正を許さない清潔さが必要ですし、なぜこういうことが起こったのか。最高裁、事実を今どの程度把握していらっしゃるかも含めてお話しいただきたいと思うのであります。
最高裁判所長官代理者(櫻井文夫君) 昭和六十一年度の司法修習生の考試、いわゆる三十八期司法修習生の二回試験でございますけれども、そこでカンニングと言われるような事態が発生いたしまして、私どもも先輩といたしまして、また司法修習生を所管している最高裁判所といたしまして本当に残念であり、また申しわけないと思っておる次第でございます。
 今年度の二回試験、四百五十名の司法修習生が受験をしたわけでございます。試験の方式といたしましては、これは例年ほぼ同じようなものでございますが、各科目についての筆記試験と、それから口述試験とがあるわけでございます。筆記試験は二月二十七日が最初の日でございまして、二月二十七日から三月の五日まで、中に一日日曜日がございますけれども、六日間行われたわけでございます。
 このカンニングと言われるようなことが発生したのは、この筆記試験のときでございます。この二回試験は司法修習生考試委員会という最高裁判所に常置されている委員会が所管しているわけでございますが、そこで試験の日程その他詳細を決めるわけでございます。そして、さらに司法修習生に対しましては応試の心得を配付いたしまして、そして試験当日使う六法全書については各人の持ち込みということになっております。これも昔からの制度でございます。ただ、その六法全書は書き込みのないものということに定められていをわけでございます。これも昔からの定めてございます。
 六法全書を使います場合に、もちろん私どもでも傍線を引いたりすることは、これは通常あるわけでございますし、そのようなものまでは書き込みとは通常は言わないわけでございますが、それに試験に役立つような記入をした六法全書を使っていた者がいたということでございます。試験の開始に先立ちまして試験の係員から、試験には書き込みのない六法全書を使うことになっている、もしそういうものを持っている人があれば、申し出があればこちらに備えつけの六法全書を使っていただきますと、こういうふうに六法全書の交換を促しまして、それで取りかえた人も何人かはあったわけでございますけれども、その後、その取りかえをしないで試験を受けようとした人の中に何人か、調べてみましたところ、少し看過できないような書き込みがしてあるのがあったということでございます。さらに、試験が開始された後、係員が見回りをずっといたしますが、その過程でも何人か看過できないような書き込みをしている者があったということで、これは一日だけではございませんで、第一日目と二日目と二日間にわたって、最終的には八名の者の六法全書に明らかに試験の用に役立てるための書き込みをしてあるものが見つかったということでございます。
 この点につきまして、私どもの方でその修習生から十分事情の聴取もいたしました。修習生の方で申しますには、先輩から教えられたというようなことを言う者もあり、あるいは現在の修習生の仲間の間でも公然の事実になっている、人によっては、六法全書に教える会というのがあって、あなたはもう六法全書に教えたかというような言葉まで交わされるんだというようなことを言う人もありましたけれども、そういうことで以前からある程度行われていたということではあろうかと思いますが、私どもには昨年の試験までは全くこれはわからなかったわけでございますが、そのような事態が二月の終わりから三月の初めにかけてあったわけでございます。
 そこで、司法修習生の行状としましては、このような行為は到底無視できないということで、三月の十九日にその八名の者全員に対しまして司法研修所長から厳重な書面による注意が行われたということでございます。
○橋本敦君 先輩の皆さんもたくさんおられるわけですが、何かちょっと重症な感じですね。公知の事実なんということになると聞き捨てなりません。知らぬは教官ばかりなんというようなことになりますな。しかし、これがやっぱり裁判所や司法に対する国民の信頼を損なうということにもなりますので、この問題については厳しく襟を正していただきたいということをお願いをして、処置はどうせい、こうせいということは私申しませんけれども、二度とこのような不祥なことがないようにぜひお願いしたいというように思いますので、その点は今後の処置として厳正にやっていただけることを期待して、この点の質問は終わります。

2 関連記事その他
(1) 38期司法修習については,昭和61年4月3日が本来の司法修習終了日でしたが,昭和61年4月14日付で司法修習を終えた人が8人いました。
(2) 司法の病巣117頁には以下の記載があります。
「司法修習生八人 カンニング!!」
 昭和六十一年三月、司法研修所の”卒業試験”である「法曹資格試験」(二回試験)で,持ち込みが認められている六法全書に修習生が書き込みを加えていたことが明らかになった。
「不正を裁き、社会正義の実現を使命とする職業に就くものが・・・」
 前代未聞の不祥事。八人は厳重注意処分を受けたが、「卒業が遅れるなど制裁も受けている」として、最終的に全員が合格、法曹資格を得た。
(3) 東弁リブラ2021年5月号の「思い出だけど思い出じゃない,実務修習」(筆者は38期の弁護士)に「二回試験で,書き込みの六法全書を持ち込むこともなく,無事,法の卵が雛に孵れた」と書いてあります。
(4) 以下の記事も参照してください。
 65期二回試験以降の事務委託に関する契約書,及び67期二回試験の不祥事
・ 二回試験に関する記事の一覧


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