第1 この記事の対象と座談会の位置付け
1 公開している資料の範囲
この記事は,全国裁判所書記官協議会及び日本裁判所書記官協議会が最高裁判所事務総局の担当者を招いて行った座談会について,現時点で公開確認できる昭和56年から令和元年までの会報掲載資料を整理したものである。開催日,掲載号及び原資料へのリンクを年代順に掲げ,名称の変遷,平成16年の団体統合,平成23年の書面回答,令和2年及び令和3年の不開示通知並びに情報政策課廃止後の組織も説明する。
もっとも,この記事で原資料を公開している最古の年が昭和56年であることは,座談会が同年に始まったことを意味しない。また,国立国会図書館は日本裁判所書記官協議会の『会報書記官』を継続刊行中の季刊誌として収録しているが,この記事では第62号以降の目次及び本文を確認できていない。したがって,令和元年開催分を最後に座談会が終了したとも断定しない。
2 主催者と最高裁判所事務総局
平成29年度(最情)答申第22号によれば,平成28年6月2日の座談会は日本裁判所書記官協議会が主催した。同協議会は裁判所書記官等が加入する任意の私的団体であり,座談会は最高裁判所裁判官会議そのものでも,最高裁判所が主催する裁判官会同・協議会でもない。
裁判所法12条及び13条は,最高裁判所の司法行政事務を裁判官会議の議によって行うこと及び最高裁判所の庶務を掌らせるため事務総局を置くことを定めている。最高裁判所の組織も,事務総局を裁判官会議を補佐し,裁判部門を人員・設備等の面から支援する機関と説明している。本件の各資料は,任意団体が主催する場に事務総局の総務局,人事局及び当時の情報政策課の担当者が出席し,施策を説明するとともに,裁判所書記官側の質問や意見に応答した記録として読むべきものである。
第2 日本裁判所書記官協議会時代のバックナンバー
1 平成17年から令和元年まで
平成16年7月の団体統合後に刊行された『会報書記官』等のうち,この記事で本文を確認した資料は次のとおりである。平成17年の名称には情報政策課が入っておらず,平成18年以降の確認済み資料では「最高裁総務局・人事局・情報政策課との座談会」となっている。
| 年 | 開催日又は資料日 | 掲載号 | 原資料及び注記 |
|---|---|---|---|
| 平成17年 | 平成17年5月27日 | 会報書記官第4号 | 平成17年開催分。「最高裁総務局・人事局との座談会」 |
| 平成18年 | 平成18年5月26日 | 第8号 | 平成18年開催分 |
| 平成19年 | 平成19年6月1日 | 第12号 | 平成19年開催分 |
| 平成20年 | 平成20年5月30日 | 第16号 | 平成20年開催分 |
| 平成21年 | 平成21年5月29日 | 第20号 | 平成21年開催分 |
| 平成22年 | 平成22年5月28日 | 第24号 | 平成22年開催分 |
| 平成23年 | 平成23年5月31日付け | 第28号 | 「座談会に代えて」とする書面回答 |
| 平成24年 | 平成24年6月1日 | 第32号 | 平成24年開催分 |
| 平成25年 | 平成25年5月27日 | 第36号 | 平成25年開催分 |
| 平成26年 | 平成26年6月10日 | 第40号 | 平成26年開催分 |
| 平成27年 | 平成27年6月2日 | 第44号 | 平成27年開催分 |
| 平成28年 | 平成28年6月2日 | 第48号 | 平成28年開催分 |
| 平成29年 | 平成29年7月3日 | 掲載号の表示なし | 平成29年開催分。公開抜粋は発言者名を示さない構成 |
| 平成30年 | 平成30年6月28日 | 第57号 | 平成30年開催分 |
| 令和元年 | 令和元年6月28日 | 第61号 | 令和元年開催分 |
2 平成23年は座談会に代わる書面回答であること
平成23年の資料は,東日本大震災の影響により通常の座談会方式を採らず,「座談会に代えて 最高裁判所事務総局総務局・人事局・情報政策課に聞く」と題して,平成23年5月31日付けの書面回答を掲載したものである。震災対応のほか,地域別・事件別の書記官事務,裁判員裁判,人事・給与及び情報システムが扱われているため,バックナンバーには含めるが,開催日を持つ座談会とは区別した。
3 令和2年及び令和3年の不開示通知が示す範囲
令和3年1月25日付け最高裁秘書第109号不開示通知書及び令和4年1月26日付け最高裁秘書第133号不開示通知書は,各年中に実施された座談会に関する会報記事,表紙及び目次を開示対象とした申出に対し,最高裁判所が対象文書を作成又は取得していないとして不開示としたものである。
これらの通知書が証明するのは,最高裁判所が特定された文書を作成又は取得していなかったという範囲である。通知書だけから,座談会自体が開催されなかったこと,又は協議会側にも記事その他の資料がなかったことを導くことはできない。
第3 座談会で扱われた主なテーマ
1 書記官事務と事件分野別の運用
平成27年及び平成28年の資料では,書記官事務の整理・合理化,裁判官との協働並びに民事・行政,刑事,家事及び少年の各事件分野の運用が横断的に扱われている。法改正への対応,事件記録,判決原本等の国立公文書館への移管,会計事務,秘密情報の取扱いなども含まれ,個別の質問と回答から当時の課題認識を追うことができる。
平成28年の資料には,予納郵便切手の管理問題に関する説明もある。最高裁判所事務総局側は,適正処理だけでなく,当事者の利便・迅速性と公正中立性との関係,現場から問題を報告・相談する必要性を述べている。この資料は,座談会が施策の一方向の説明だけでなく,現場で生じた問題への応答を記録する場でもあったことを示す。
2 人事,研修及び働き方
人事局関係では,配置,給与,級別定数,任用,女性職員の登用,定年,研修,OJT,フレックスタイム,ワーク・ライフ・バランス及びメンタルヘルスなどが継続的に取り上げられている。各年度の記載は当時の制度及び方針に関する説明であり,現在の人事運用を直接示す資料ではないが,論点がどの時期に現れ,説明の重点がどう移ったかを比較できる。
3 情報システムから裁判手続のデジタル化へ
平成28年の資料では,音声認識,デジタル録音,J・LINK,MINTAS,KEITAS及び情報セキュリティが扱われ,令和元年の資料では裁判事務支援システムNAVIUS,民事裁判手続のIT化及び情報セキュリティが主要テーマとなっている。令和元年の説明は,利便性だけでシステム化の範囲を決めず,書記官事務の本来の在り方から必要性と相当性を検討するという考え方を示している。
その後の山本和彦・清藤健一・江原健志「座談会 裁判手続のデジタル化の展望―民事訴訟手続を中心に―」は,デジタル化をそれ自体の目的ではなく,司法サービス,業務及び裁判の質を改善する手段と位置付けている。既存業務をそのまま電子化するのではなく業務の再構築を伴わせ,裁判所と弁護士を含む法律実務家がデジタル化後の実務を形成するという説明は,情報政策課時代の資料を現在の政策へ接続して読む手掛かりとなる。
第4 日本裁判所書記官協議会の成立と情報公開答申
1 平成16年7月の団体統合
国立国会図書館典拠データ「全国裁判所書記官協議会」によれば,平成16年7月,全国裁判所書記官協議会と裁判所書記官研修所富士見同窓会が統合し,日本裁判所書記官協議会となった。全国裁判所書記官協議会会報第167号にも,同年7月24日の設立総会で両組織を統合し,裁判所書記官の新しい組織として再出発する予定が記載されている。
座談会の出席者欄から確認できるのは,特定年度における協議会会長と最高裁判所大法廷首席書記官との役職関係に限られる。恒常的な役職慣行を裏付ける会則又は歴年の役員名簿は確認できていないため,本記事では一般化しない。
2 平成28年座談会の出席者情報と議事録
平成29年度(最情)答申第22号は,協議会側出席者の肩書及び氏名を個人識別情報として不開示とする判断を妥当とした。同答申は,協議会が任意の私的団体であり,その会員が協議会主催の座談会に出席することは私的な行為であって,公務員の職務遂行に係る行為とは認められないとしたものである。
同答申によれば,最高裁判所は平成28年座談会の議事録を作成せず,協議会からも取得しておらず,対象文書以外の該当文書を保有していなかった。これは最高裁判所による作成・取得・保有の有無についての判断であり,協議会が議事録その他の記録を作成しなかったことまで認定するものではない。
第5 全国裁判所書記官協議会時代のバックナンバー
1 昭和56年から昭和63年まで
| 年 | 開催日 | 掲載号 | 原資料 |
|---|---|---|---|
| 昭和56年 | 昭和56年4月21日 | 会報第75号 | 昭和56年開催分 |
| 昭和57年 | 昭和57年4月23日 | 第82号 | 昭和57年開催分 |
| 昭和58年 | 昭和58年4月21日 | 第83号 | 昭和58年開催分 |
| 昭和59年 | 昭和59年4月18日 | 第87号 | 昭和59年開催分 |
| 昭和60年 | 昭和60年5月24日 | 第92号 | 昭和60年開催分 |
| 昭和61年 | 昭和61年5月23日 | 第96号 | 昭和61年開催分 |
| 昭和62年 | 昭和62年5月8日 | 第99号 | 昭和62年開催分 |
| 昭和63年 | 昭和63年5月13日 | 第103号 | 昭和63年開催分 |
2 平成元年から平成16年まで
| 年 | 開催日 | 掲載号 | 原資料 |
|---|---|---|---|
| 平成元年 | 平成元年5月12日 | 会報第107号 | 平成元年開催分 |
| 平成2年 | 平成2年5月11日 | 第111号 | 平成2年開催分 |
| 平成3年 | 平成3年5月14日 | 第116号 | 平成3年開催分 |
| 平成4年 | 平成4年5月8日 | 第119号 | 平成4年開催分 |
| 平成5年 | 平成5年5月21日 | 第123号 | 平成5年開催分 |
| 平成6年 | 平成6年6月3日 | 第127号 | 平成6年開催分 |
| 平成7年 | 平成7年5月9日 | 第131号 | 平成7年開催分 |
| 平成8年 | 平成8年5月31日 | 第135号 | 平成8年開催分 |
| 平成9年 | 平成9年5月30日 | 第139号 | 平成9年開催分 |
| 平成10年 | 平成10年5月29日 | 第143号 | 平成10年開催分 |
| 平成11年 | 平成11年5月28日 | 第147号 | 平成11年開催分 |
| 平成12年 | 平成12年5月26日 | 第151号 | 平成12年開催分 |
| 平成13年 | 平成13年6月1日 | 第155号 | 平成13年開催分 |
| 平成14年 | 平成14年5月31日 | 第159号 | 平成14年開催分 |
| 平成15年 | 平成15年5月30日 | 第163号 | 平成15年開催分 |
| 平成16年 | 平成16年6月17日 | 第167号 | 平成16年開催分 |
3 資料名の変遷
確認できた会報本文では,座談会記事の名称は次のように変化している。これは各時期の掲載名を整理したものであり,会合の法的性質が名称変更によって変わったことまで示すものではない。
| 期間 | 会報における名称 |
|---|---|
| 昭和56年~平成3年 | 最高裁総務局・人事局各課長,参事官を囲む |
| 平成4年~平成12年 | 最高裁総務局・人事局各課長,参事官を囲む座談会 |
| 平成13年~平成17年 | 最高裁総務局・人事局との座談会 |
| 平成18年~令和元年の確認済み資料 | 最高裁総務局・人事局・情報政策課との座談会 |
| 平成23年 | 座談会に代えて 最高裁判所事務総局総務局・人事局・情報政策課に聞く |
第6 情報政策課廃止後の組織
1 令和6年4月1日の再編
この記事の表題にある情報政策課は,座談会当時の組織名である。最高裁判所事務総局規則は,令和6年最高裁判所規則第6号によってデジタル審議官を新設し,令和6年4月1日に施行した。デジタル審議官は,デジタル化の推進,情報セキュリティの確保,情報システムの整備・管理及び統計情報に関する重要事項の企画・立案に参画し,関係事務を総括整理する。
最高裁判所事務総局分課規程は,令和6年最高裁判所規程第3号によって情報政策課に関する旧第3条の2及び第3条の3を削除し,サイバーセキュリティ管理官及びデジタル基盤管理官を置く体制とした。この改正も令和6年4月1日に施行された。
2 旧資料を読む際の注意
したがって,平成18年から令和元年までの「情報政策課」と現在のデジタル部門を同一の課として扱うことはできない。一方で,情報システム,統計情報,情報セキュリティ及び裁判手続のデジタル化という論点には継続性があるため,旧座談会資料は現在の制度の直接の根拠ではなく,組織再編前の課題と政策形成を確認する歴史資料として位置付けられる。
第7 関連記事
1 最高裁判所事務総局と文書管理
①最高裁判所事務総局総務局の事務分掌
②最高裁判所事務総局人事局の事務分掌
③最高裁判所事務総局情報政策課
④最高裁判所事務総局情報政策課の事務分掌
⑤裁判所の情報公開に関する通達等
⑥司法行政文書に関する文書管理
⑦司法行政文書の国立公文書館への移管
2 裁判所書記官事務と情報化
①裁判所における主なシステム
②裁判所の情報化の流れ
③裁判所書記官の役職
④最高裁判所裁判部作成の民事・刑事書記官実務必携
⑤予納郵便切手の交換に関する事務の取扱いについて
第8 出典・参考資料
1 法令・規程
①裁判所法(昭和22年法律第59号)12条・13条(e-Gov法令検索)
②最高裁判所事務総局規則(昭和22年最高裁判所規則第10号)3条の2の2及び附則(令和6年最高裁判所規則第6号。資料1頁・3頁,PDF1頁・3頁)
③最高裁判所事務総局分課規程(昭和22年最高裁判所規程第5号)1条,3条の2,3条の3及び附則(令和6年最高裁判所規程第3号。資料2頁・11頁,PDF2頁・11頁)
2 公文書・書誌
①最高裁判所「最高裁判所の組織」
②平成29年度(最情)答申第22号(平成29年7月24日。2頁~4頁,PDF2頁~4頁)
③令和3年1月25日付け最高裁秘書第109号不開示通知書
④令和4年1月26日付け最高裁秘書第133号不開示通知書
⑤国立国会図書館典拠データ「全国裁判所書記官協議会」
⑥国立国会図書館サーチ「会報書記官」
⑦CiNii Journals「会報書記官」
3 会報
①全国裁判所書記官協議会『会報』第75号から第167号までのうち,第5の各表に掲げた掲載号及び頁
②日本裁判所書記官協議会『会報書記官』第4号から第61号までのうち,第2の表に掲げた掲載号及び頁
4 文献
①宇賀克也『管見 最高裁判所』(有斐閣,2023年)95頁~106頁
②山本和彦・清藤健一・江原健志「座談会 裁判手続のデジタル化の展望―民事訴訟手続を中心に―」法律のひろば76巻4号(ぎょうせい,2023年)6頁~20頁
