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一票の格差とは何か|違憲状態・違憲判決の違いと最高裁判例一覧(AIリライト)

第1 一票の格差に関する結論

1 本記事の対象及び基準日

(1) 本記事で分かること

本記事は,国政選挙における「一票の格差」について,違憲状態と違憲との違い,最高裁が違憲状態と判断した判決の全一覧,定数配分規定を違憲とした判決,事情判決の法理,近時の最高裁判決及び公職選挙法204条による選挙無効訴訟の実務を整理したものです。

(2) 結論の要約

  • 最高裁の法廷意見又は多数意見が違憲状態とした判決は,衆議院について5件,参議院について3件の合計8件です。
  • 最高裁の法廷意見又は多数意見が定数配分規定を違憲とした判決は,衆議院についての昭和51年4月14日大法廷判決及び昭和60年7月17日大法廷判決の2件です。
  • 上記2件も選挙自体は無効とせず,事情判決の法理により,選挙が違法であることの宣言にとどめました。
  • 最大較差が2倍,3倍又は6倍を超えれば機械的に違憲となるわけではありません。最高裁は,選挙制度の仕組み,較差の原因,国会の是正措置及び選挙までの期間等を総合して判断しています。
  • 令和7年9月26日第二小法廷判決は,令和6年衆議院議員総選挙の最大較差2.059倍について,法廷意見として違憲状態を否定しました。ただし,高須順一裁判官には違憲状態とする個別意見があります。

本記事の判例・法令情報は,令和8年7月15日現在のものです。裁判所ウェブサイトは全ての裁判例を掲載しているわけではないため,係属中の最新事件については,最高裁判決が同サイトで確認できたかどうかを基準として記載しています。

2 最高裁判例の件数

(1) 違憲状態判決は合計8件

衆議院については,昭和58年,平成5年,平成23年,平成25年及び平成27年の5件です。参議院については,平成8年,平成24年及び平成26年の3件です。

(2) 規定を違憲とした判決は2件

定数配分規定を違憲とした最高裁判決は,法廷意見又は多数意見に限れば2件です。下級審には違憲又は選挙無効とした判決があり,最高裁判決にも違憲又は無効とする個別意見があるため,「一票の格差について違憲判断がされたのは歴史上2件だけ」と無限定に表現するのは正確ではありません。

第2 一票の格差の意味及び憲法上の根拠

1 一票の格差の意味

(1) 投票価値の不平等

「一票の格差」とは,選挙区ごとの議員1人当たりの選挙人数又は人口が異なることにより,選挙人の投票が議員の選出に与える影響力に差が生じることをいいます。最高裁判例では,「投票価値の平等」,「投票価値の不平等」又は「投票価値の較差」という表現が用いられています。

(2) 最大較差の読み方

最大較差2倍とは,議員1人当たりの選挙人数が最も少ない選挙区の選挙人の一票が,最も多い選挙区の選挙人の一票に対して,議員選出への影響力という意味でおおむね2倍の価値を有する状態を指します。ただし,判例が用いる数値には,選挙当日の選挙人数による較差と,国勢調査人口による較差とがあるため,表を比較するときは基準を確認する必要があります。

2 憲法上の根拠

(1) 投票価値の平等

日本国憲法は,法の下の平等(14条1項),公務員を選定する国民固有の権利及び普通選挙(15条1項・3項),全国民を代表する選挙された議員による両議院の組織(43条1項)並びに選挙人資格に関する差別の禁止(44条ただし書)を定めています。最高裁は,憲法14条1項等が選挙権の形式的平等だけでなく,選挙権の内容の平等,すなわち投票価値の平等を要求すると解しています。

(2) 国会の立法裁量

他方で,憲法43条2項及び47条は,議員の定数,選挙区,投票方法その他の選挙制度の具体化を法律に委ねています。そのため,最高裁は,投票価値の平等を唯一・絶対の基準とはせず,国民の利害や意見を公正かつ効果的に国政へ反映させるという目的,行政区画,地勢,交通,人口密度その他の合理的要素との調和を認めています。

3 衆議院と参議院との違い

(1) 制度上の相違

衆議院議員の任期は4年であり,解散によって任期満了前に終了します(憲法45条)。参議院議員の任期は6年であり,3年ごとに半数が改選されます(憲法46条)。また,参議院の選挙区選出議員については,都道府県を基本単位とし,各選挙区の定数を偶数として半数改選を可能にしてきた沿革があります。解散制度の比較については,国立国会図書館「主要国議会の解散制度」も参考になります。

(2) 許容較差を単純比較できないこと

衆議院は任期が短く解散もあるため参議院より許容較差が必ず小さい,と単純に整理することはできません。両院で過去に違憲状態とされた較差水準が異なる背景には,任期だけでなく,二院制,半数改選,選挙制度の構造及び都道府県を選挙区単位としてきた経緯があります。近時の参議院判例も,参議院の制度的特色を考慮しつつ,参議院議員選挙であること自体から投票価値平等の要請が当然に後退するとはしていません。

第3 合憲・違憲状態・違憲・選挙無効の違い

1 最高裁の二段階の判断枠組み

(1) 第1段階―違憲状態の意味

最高裁は,まず,選挙区間の投票価値の不均衡が,国会の立法裁量を考慮してもなお,憲法の投票価値平等の要求に反する状態に達しているかを判断します。この状態が,一般に「違憲状態」と呼ばれます。

違憲状態を認定しただけでは,定数配分規定又は区割規定を違憲としたことにはなりません。違憲状態判決は,学説上「違憲警告判決」と呼ばれることがあり,判決理由中で憲法上の問題を指摘しながら,結論として規定を違憲とはしない類型です。

(2) 第2段階―合理的期間内に是正されなかったか

次に,最高裁は,違憲状態が選挙までの間に是正されなかったことが,憲法上要求される合理的期間内の是正をしなかったものとして,国会の裁量権の限界を超えるかを判断します。この段階まで肯定されると,定数配分規定又は区割規定が違憲となります。「合理的期間」は一律の年数ではなく,判決による問題の指摘,国会での検討,法改正及び区割改定に必要な時間等を踏まえて判断されます。

2 4種類の結論

(1) 一覧表

判定違憲状態の認定合理的期間の経過規定の効力選挙の効力
合憲否定問題とならない合憲有効
違憲状態肯定否定違憲とはしない有効
規定違憲肯定肯定違憲最高裁の2判決は事情判決の法理により無効としなかった
選挙無効肯定肯定違憲選挙を無効とする結論。最高裁の法廷意見には実例がない

(2) 固定的な数値基準がないこと

過去の判決結果から,かつては衆議院でおおむね3倍,参議院でおおむね6倍が違憲状態判断の一つの目安であると説明されたことがあります。しかし,最高裁は3倍又は6倍という固定的な境界値を採用していません。較差の数値だけでなく,制度の仕組み,較差の原因,国会の取組及び是正に要する期間を総合しているため,平成23年以降の衆議院判例では2倍台でも違憲状態とされる一方,近時には2倍をわずかに超えても違憲状態ではないとされた判決があります。

弁護士ドットコムニュースの「一票の格差判決における「違憲」と「違憲状態」の違い」も,両概念を区別するための参考資料です。

第4 最高裁が衆議院議員総選挙について違憲状態とした判決

1 違憲状態判決5件の一覧

(1) 一覧表

番号最高裁判決対象選挙最大較差結論
1最大判昭和58年11月7日
民集37巻9号1243頁
昭和55年6月22日3.94倍違憲状態。ただし合理的期間内に是正されなかったとはいえない。
2最大判平成5年1月20日
民集47巻1号67頁
平成2年2月18日3.18倍違憲状態。ただし合理的期間を経過したとはいえない。
3最大判平成23年3月23日
民集65巻2号755頁
平成21年8月30日2.304倍1人別枠方式を含む区割基準が投票価値平等の要求に反する状態に至っていた。
4最大判平成25年11月20日
民集67巻8号1503頁
平成24年12月16日2.425倍(約2.43倍)違憲状態。ただし合理的期間内に是正されなかったとはいえない。
5最大判平成27年11月25日
民集69巻7号2035頁
平成26年12月14日2.129倍違憲状態。ただし合理的期間を経過したとはいえない。

(2) 昭和58年11月7日大法廷判決の重要性

昭和58年11月7日大法廷判決は,最大較差3.94倍について,選挙時よりある程度以前に憲法の選挙権平等の要求に反する状態に達していたとしながら,合理的期間内に是正されなかったと断定することは困難であるとして,規定を違憲とはしませんでした。違憲状態と規定違憲とを分ける二段階の枠組みを理解する上で重要な判決です。

2 平成23年以降の判例の特徴

(1) 1人別枠方式の合理性の喪失

平成23年3月23日大法廷判決は,各都道府県にまず1議席を配分し,残余の議席を人口比例で配分する1人別枠方式について,制度導入時の合理性には時間的限界があり,平成21年選挙時には合理性を失っていたと判断しました。ここでは最大較差の数値だけでなく,較差を生む制度的原因が審査されています。

(2) 較差の数値だけではない審査

その後の平成25年及び平成27年大法廷判決は,違憲状態を認定しながら,国会による法改正,区割審議会の勧告及び制度改正の進行状況を検討し,合理的期間の経過を否定しました。衆議院判例の詳細な推移は,「衆議院議員総選挙における,一票の格差に関する最高裁判決の一覧」も参照してください。

第5 最高裁が参議院議員通常選挙について違憲状態とした判決

1 違憲状態判決3件の一覧

(1) 一覧表

番号最高裁判決対象選挙最大較差結論
1最大判平成8年9月11日
民集50巻8号2283頁
平成4年7月26日6.59倍違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態。ただし合理的期間内に是正されなかったとはいえない。
2最大判平成24年10月17日
民集66巻10号3357頁
平成22年7月11日5.00倍違憲状態。選挙制度の仕組み自体の見直しを要求した。
3最大判平成26年11月26日
民集68巻9号1363頁
平成25年7月21日4.77倍違憲状態。ただし合理的期間内に是正されなかったとはいえない。

(2) 都道府県単位の選挙区制の見直し

平成24年10月17日大法廷判決は,都道府県を各選挙区の単位とする仕組みを維持しながら投票価値平等の要求に応えることが著しく困難になっていると指摘し,制度の仕組み自体を見直す立法措置を求めました。平成27年改正では,鳥取県と島根県,徳島県と高知県をそれぞれ合区する措置等が採られました。

2 参議院の制度的特色と投票価値の平等

(1) 二院制の考慮

最高裁は,参議院について,衆議院と異なる権限,任期及び半数改選並びに都道府県を選挙区単位としてきた制度の沿革を考慮しています。もっとも,これらの要素だけで長期間にわたる大きな較差を正当化できるわけではありません。

(2) 平等の要請が当然に後退するものではないこと

参議院議員選挙であること自体から,投票価値平等の要請が直ちに後退してよいと解すべき理由は見いだし難い,というのが平成24年以降の大法廷判例の基本的な考え方です。参議院判例の詳細な推移は,「参議院議員通常選挙における,一票の格差に関する最高裁判決の一覧」も参照してください。

第6 最高裁が定数配分規定を違憲とした判決及び事情判決の法理

1 規定違憲判決2件の一覧

(1) 一覧表

番号最高裁判決対象選挙最大較差結論
1最大判昭和51年4月14日
民集30巻3号223頁
昭和47年12月10日衆議院議員総選挙4.99倍定数配分規定は違憲。ただし選挙は無効とせず,違法を宣言した。
2最大判昭和60年7月17日
民集39巻5号1100頁
昭和58年12月18日衆議院議員総選挙4.40倍定数配分規定は違憲。ただし選挙は無効とせず,違法を宣言した。

(2) 選挙自体は無効とされなかったこと

上記2判決は,いずれも定数配分規定を違憲としましたが,選挙を直ちに無効にした場合に生ずる重大な混乱を考慮し,選挙無効請求を棄却するとともに,主文で選挙が違法であることを宣言しました。

2 事情判決の法理

(1) 公職選挙法219条との関係

公職選挙法219条1項は,選挙関係訴訟について行政事件訴訟法31条を準用しないと定めています。それにもかかわらず,昭和51年大法廷判決は,行政事件訴訟法31条に表れた一般的な法の基本原則を選挙無効訴訟にも用いることができるとしました。これが「事情判決の法理」です。

(2) 行政事件訴訟法31条の直接適用ではないこと

事情判決の法理は,行政事件訴訟法31条の直接適用又は準用ではありません。同条の基礎に存する一般的な法の基本原則を援用するものです。この区別は,訴状,準備書面及び判例解説で表現を誤らないために重要です。

3 事情判決の法理に対する反対意見

(1) 山本庸幸裁判官の反対意見

最大判平成30年12月19日において,山本庸幸裁判官は,事情判決の法理に反対し,次のように述べました。

国政選挙という代表民主制を支える最も重要な制度の合憲性が争われる争訟において,裁判所がこれを違憲と判断しながら当該選挙を無効とせずに単に違法の宣言にとどめるということが,法律上の明文の根拠もなく許されるものであるかどうか,私には甚だ疑問に思えてならない。現にこれまでの経緯を振り返ると,選挙区の区割りや定数に関する幾たびかの法改正や国会における検討を経てもなお,一票の価値の平等という代表民主制を支える根幹の原理が守られておらず,その改善は遅々として進まないという状況にあって,選挙制度の憲法への適合性を守るべき立場にある裁判所としては,違憲であることを明確に判断した以上はこれを無効とすべきであり,そうした場合に生じ得る問題については,経過的にいかに取り扱うかを同時に決定する権限を有するものと考える。

(2) 法廷意見と個別意見の区別

上記は山本裁判官の反対意見であり,法廷意見ではありません。判例一覧を作成するときは,判決主文を形成する法廷意見又は多数意見と,補足意見,意見及び反対意見とを区別する必要があります。

第7 近時の最高裁判決及び最新の訴訟状況

1 近時の合憲判決

(1) 平成29年から令和7年までの一覧

最高裁判決対象選挙最大較差法廷意見の結論
最大判平成29年9月27日平成28年参議院選挙3.08倍違憲状態ではない。
最大判平成30年12月19日平成29年衆議院選挙1.979倍違憲状態ではない。
最大判令和2年11月18日令和元年参議院選挙3.00倍違憲状態ではない。
最大判令和5年1月25日令和3年衆議院選挙2.079倍違憲状態ではない。
最大判令和5年10月18日令和4年参議院選挙3.03倍違憲状態ではない。
最二小判令和7年9月26日令和6年衆議院選挙2.059倍違憲状態ではない。

(2) 令和7年9月26日第二小法廷判決

令和7年9月26日第二小法廷判決は,アダムズ方式及び令和4年改正後の区割制度について,人口異動による較差の拡大を予定した上で,定期的に区割りを是正する合理的な仕組みであると評価しました。そして,令和6年選挙時の最大較差2.059倍,2倍以上の選挙区10という状況は,違憲状態に至っていないとしました。

もっとも,高須順一裁判官は,較差は違憲状態にあったが,合理的期間内に是正されなかったとはいえないとする個別意見を述べています。この個別意見は重要ですが,法廷意見による違憲状態判決ではないため,第4の5件には加えません。

2 最高裁判断が確認されていない最新選挙

(1) 令和7年参議院議員通常選挙

令和7年7月20日参議院議員通常選挙の最大較差は3.13倍でした。高裁判決が順次言い渡されており,例えば大阪高判令和7年10月24日は違憲状態を否定しました。令和8年7月15日現在,裁判所ウェブサイトで同選挙に関する最高裁判決は確認できません。

(2) 令和8年衆議院議員総選挙

令和8年2月8日衆議院議員総選挙の最大較差は2.097倍であり,2倍以上の選挙区は16でした。高裁判決が言い渡されており,例えば大阪高判令和8年5月22日は違憲状態を否定しました。令和8年7月15日現在,裁判所ウェブサイトで同選挙に関する最高裁判決は確認できません。

最新選挙の高裁判断は,最高裁による統一判断ではありません。最高裁判決一覧と混在させないことが必要です。

第8 一票の格差訴訟の実務

1 公職選挙法204条による選挙無効訴訟

(1) 原告適格及び出訴期間

衆議院議員又は参議院議員の選挙の効力に異議がある選挙人又は公職選挙法204条が選挙の種類ごとに定める候補者側の者は,同条に基づき,選挙の日から30日以内に高等裁判所へ訴えを提起することができます。候補者側の範囲は,衆議院小選挙区では候補者又は候補者届出政党,衆議院比例代表では衆議院名簿届出政党等,参議院比例代表では参議院名簿届出政党等又は参議院名簿登載者(特定枠の優先候補者を除きます。)です。弁護士が受任する場合,最初に,依頼者が対象選挙の選挙人又は同条所定の候補者側の者に当たるか,選挙日から30日以内かを確認する必要があります。

(2) 被告及び専属管轄

衆議院小選挙区選出議員又は参議院選挙区選出議員の選挙については,当該選挙に関する事務を管理する都道府県選挙管理委員会等を被告とします。衆議院比例代表選出議員又は参議院比例代表選出議員の選挙については,中央選挙管理会を被告とします。公職選挙法217条によれば,選挙区選挙に関する訴訟は,原則として当該選挙管理委員会の所在地を管轄する高等裁判所の専属管轄に属し,衆議院及び参議院の比例代表選挙に関する同法204条の訴訟は,東京高等裁判所の専属管轄に属します。

(3) 選挙無効の要件

公職選挙法205条1項は,選挙の規定に違反することがあり,かつ,選挙の結果に異動を及ぼすおそれがある場合に,選挙の全部又は一部を無効とする旨を定めています。定数配分規定又は区割規定自体の違憲を理由とする選挙無効訴訟が公職選挙法204条の訴訟として許されることは,昭和51年及び昭和58年の大法廷判例が認めています。

2 迅速処理及び執行不停止

(1) 100日以内の判決努力義務

公職選挙法213条は,選挙関係訴訟の判決を,事件を受理した日から100日以内にするよう努めなければならないと定めています。100日以内の判決は法定の努力義務であり,100日を経過すれば当然に手続が違法又は判決が無効になるという規定ではありません。

(2) 訴訟提起によって選挙の効力は停止しないこと

公職選挙法214条は,訴訟の提起があっても処分の執行は停止しないと定めています。選挙無効訴訟の係属中も,当選人は原則として議員の地位にとどまり,国会の活動は継続します。

3 受任時の確認事項

(1) 訴え提起前のチェックリスト

  • 対象選挙,選挙区,選挙日及び原告の選挙人資格等を確認すること。
  • 選挙の日から30日以内という出訴期間を確認すること。
  • 被告となる選挙管理委員会及び専属管轄の高等裁判所を特定すること。
  • 選挙当日の選挙人数による最大較差と,国勢調査人口による較差とを区別すること。
  • 区割規定又は定数配分規定,直近の法改正,国会審議及び区画審の勧告を確認すること。
  • 違憲状態の主張と,合理的期間の経過に関する主張とを分けること。
  • 選挙無効を求める範囲及び無効判決後の経過措置に関する主張を整理すること。

(2) 法廷意見・個別意見・下級審判断の峻別

一票の格差訴訟では,同じ選挙について複数の高裁判決が言い渡され,最高裁にも多数の個別意見が付されます。記事,準備書面又は意見書で判例を引用するときは,①最高裁の法廷意見又は多数意見,②最高裁裁判官の補足意見・意見・反対意見,③高裁判決のいずれであるかを明示する必要があります。

第9 投票価値の平等に関する訴訟の沿革

1 最初の訴訟

(1) 越山康氏(当時司法修習生)による昭和37年参議院選挙訴訟

我が国における一票の格差訴訟は,当時司法修習生であった越山康氏が昭和37年7月1日の参議院議員通常選挙について提起した訴訟から始まったとされています。越山氏は後に弁護士となり,その系統による訴訟活動は,その後も継続しました。

(2) 平成21年以降の全国訴訟

平成21年8月30日実施の衆議院議員総選挙以降,越山弁護士の系統とは別に,全国の弁護士有志が各高裁及び高裁支部で投票価値の平等を求める訴訟を提起するようになりました。訴訟の概要については,外部サイトの「一人一票裁判とは?」も参照してください。同ページは訴訟当事者側が説明するページであり,更新されていない記述もあるため,最新の裁判状況は裁判所ウェブサイトの裁判例検索で確認する必要があります。

2 主な訴訟グループ

(1) 山口邦明弁護士らのグループ

越山弁護士の系統を引く山口邦明弁護士らのグループが,一票の格差訴訟を提起しています。

(2) 升永英俊弁護士らのグループ

升永英俊弁護士,伊藤真弁護士及び久保利英明弁護士らのグループも,全国で人口比例選挙を求める訴訟を提起しています。例えば,平成28年7月10日実施の第24回参議院議員通常選挙に関する最高裁の平成29年7月19日の弁論では,午前と午後に別グループの弁論が行われました。升永弁護士に対するインタビューとして,現代ビジネス「「一票の格差」に数億円投入する「最強弁護士」の素顔」があります。記事の一部は会員向けです。

3 平成21年から平成30年までの訴訟活動

(1) 全国の高裁及び高裁支部への提訴

升永英俊弁護士による「自由と正義」平成30年12月号5頁及び6頁の整理によれば,升永弁護士,久保利英明弁護士及び伊藤真弁護士は,平成21年から平成30年までの国政選挙ごとに,各地の弁護士とともに全国の高裁及び高裁支部へ訴訟を提起し,平成21年衆議院選挙を除き,全14の高裁・高裁支部を対象としました。同期間には,92件の高裁判決と6件の最高裁大法廷判決があったとされています。

(2) 下級審判決と最高裁判決の区別

上記92件の高裁判決には,違憲無効,違憲違法,違憲状態,留保付き合憲及び合憲という異なる判断が含まれていました。これらは最高裁による統一判断ではありません。一票の格差訴訟の成果を数えるときは,高裁判決の件数と最高裁判決の件数を分ける必要があります。

第10 一票の格差是正をめぐる異なる見解

1 是正に慎重又は否定的な見解

(1) 既存の論考

一票の格差の是正については,人口比例を重視する見解だけでなく,地域代表,地方の利害の反映及び選挙制度の安定性を重視する見解もあります。是正に慎重又は否定的な論考として,次の記事があります。

(2) 地方代表との関係

一票の格差是正が「地方切り捨て」につながるとの指摘があります。地域の利害を国政へ反映させることは,国会が考慮し得る政策的要素です。しかし,最高裁は,地域代表の必要性だけで長期間にわたる大きな投票価値の不平等を当然に正当化できるとはしていません。人口比例と地域代表の調整は,憲法上の投票価値平等の要求を踏まえて行う必要があります。

2 議論を読む際の留意点

(1) 政策論と憲法判断の区別

選挙制度としてどの程度の地域代表を確保するのが望ましいかという政策論と,現行制度が国会の立法裁量を超えて憲法に違反するかという司法判断とは,問題の次元が異なります。賛否いずれの論考を読む場合も,その主張が制度政策に関するものか,判例上の合憲性判断に関するものかを区別する必要があります。

第11 よくある質問

1 違憲状態なら選挙は無効になるか

なりません。違憲状態は,投票価値の不均衡が憲法の要求に反する状態に達しているものの,合理的期間内に是正されなかったとはいえず,規定を違憲とはしない判断です。

2 最大較差が2倍を超えれば直ちに違憲か

直ちに違憲となるわけではありません。令和7年9月26日第二小法廷判決は,最大較差2.059倍について違憲状態を否定しました。もっとも,2倍は無条件に許容される安全圏でもなく,制度の仕組み及び較差の発生原因等が審査されます。

3 最高裁が選挙を無効にした例はあるか

国政選挙の一票の格差訴訟について,最高裁の法廷意見が選挙を無効とした例はありません。規定を違憲とした2件も,事情判決の法理により,選挙を無効とはしませんでした。

4 最新の最高裁判断は何か

令和8年7月15日現在,裁判所ウェブサイトで確認できる最新の最高裁判断は,令和6年10月27日衆議院議員総選挙について違憲状態を否定した令和7年9月26日第二小法廷判決です。

第12 関連資料及び関連記事

1 公的資料及び外部資料

(1) 経済同友会の旧資料

経済同友会は,かつて一票の格差是正専門サイトを運営していました。2005年8月29日付け「投票率向上を目指し,「投票に行こう!」サイトをリニューアル」で運営の経緯を,個別の論考「「一票の格差」の表し方についての一試案」で当時の提案内容を確認できます。

(2) 国立国会図書館

国立国会図書館の「レファレンス」及び「調査と情報」には,次の資料があります。

「戦後主要政党の変遷と国会内勢力の推移」を見ると,昭和20年8月から平成25年までの主要政党の国会内勢力の推移を確認できます。

(3) 総務省

総務省組織規則27条2項によれば,総務省自治行政局選挙部管理課の選挙管理官は,中央選挙管理会が管理する選挙,国民審査及び投票に関する事務を行います。

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第13 まとめ

一票の格差に関する最高裁判例を正確に読むためには,最大較差の数値だけでなく,①投票価値の不均衡が憲法の要求に反する状態に達しているか,②その状態が合理的期間内に是正されなかったか,③規定を違憲とした場合に選挙を無効とするか,という段階を分ける必要があります。

最高裁の法廷意見又は多数意見による違憲状態判決は,衆議院5件,参議院3件の合計8件であり,定数配分規定を違憲とした判決は衆議院に関する2件です。後者も選挙は無効とされていません。最新の最高裁判断である令和7年9月26日第二小法廷判決は,令和6年衆議院議員総選挙の最大較差2.059倍について違憲状態を否定しました。

弁護士が一票の格差訴訟を検討する場合には,判例理論だけでなく,公職選挙法204条の選挙日から30日以内という出訴期間,被告となる選挙管理委員会,高等裁判所の専属管轄,100日以内の判決努力義務及び執行不停止を最初に確認する必要があります。

第14 出典

1 法令

2 主要裁判例

3 主要文献

  • 福田博『福田博オーラル・ヒストリー―「一票の格差」意見判断の真意』ミネルヴァ書房
  • 辻村みよ子『憲法[第8版]』日本評論社
  • 渡辺康行ほか『憲法Ⅱ 総論・統治[第2版]』日本評論社
  • 新井誠ほか『憲法[第3版]』日本評論社
  • 小熊美幸「衆議院及び参議院における一票の格差―平成21年以降の最高裁判所判決を踏まえて―」レファレンス843号57頁