最高裁判所裁判官の任命に関する各種説明


目次
1 内閣答弁書の説明
2 内閣官房の説明
3 最高裁判所人事局長経験者の説明
4 最高裁判所人事局長の国会答弁
5 最高裁判所事務総局の説明(ナンバリングを追加しています。)
6 最高裁判所裁判官の選任等の在り方に関する司法制度改革審議会意見書の記載
7 法曹制度検討会における,最高裁判所裁判官人事に関する議論
8 最高裁判所判事経験者の説明
9 昭和22年6月5日の片山内閣談話
10 関連記事その他
  
1 内閣答弁書の説明
  内閣は,平成21年5月22日付の「衆議院議員鈴木宗男君提出最高裁判所裁判官の指名等に関する質問に対する答弁書」において以下の答弁をしています(読みやすいようにナンバリングを変えています。)。
① 最高裁判所の裁判官の任命資格については、裁判所法(昭和二十二年法律第五十九号)第四十一条第一項において、「識見の高い、法律の素養のある年齢四十年以上の者」と規定されており、これを踏まえ、最高裁判所の裁判官にふさわしい人物を指名し又は任命している。
② 「司法試験」については、司法試験法(昭和二十四年法律第百四十号)第一条第一項において、「裁判官、検察官又は弁護士となろうとする者に必要な学識及びその応用能力を有するかどうかを判定することを目的とする国家試験とする」と規定されている。
  「法曹資格」については、一般的には、裁判官、検察官及び弁護士となる資格という意味で用いられているものと承知している。
③ 過去十年間に最高裁判所の裁判官に任命された者で、司法試験に合格していないもの又は司法試験に合格していても司法修習を終了していないものは六人であり、これらの者の主な前職は、京都大学教授、特命全権大使(アイルランド国駐箚)、内閣法制局長官、東北大学教授、労働省女性局長及び外務事務次官である。
④ 「天下り」とは、一般的には、各府省で退職後の幹部職員を企業、団体等に再就職させることをいうものと考えている。
⑤ 最高裁判所の裁判官の指名又は任命に当たっては、裁判所法第四十一条第一項に規定する任命資格を満たし、最高裁判所の裁判官にふさわしい人物を選考しており、「「最高裁裁判官」の身分が行政官の天下り先となっているとも受け止められる」ことはないものと考える。
⑥ 過去十年間に高等裁判所又は地方裁判所の裁判官に任命された者で、司法試験に合格していないもの又は司法試験に合格していても司法修習を終了していないものはいない。

2 内閣官房の説明

  内閣官房は,我が国の国政上の重要事項や内閣の重要政策に関する企画,立案及び総合調整,情報の収集及び分析,危機管理等をつかさどる機関であります(最高裁平成30年1月19日判決)ところ,平成14年7月5日の司法制度改革推進本部顧問会議(第5回)の資料4「最高裁裁判官の任命について」には以下の記載があります。

◎最高裁裁判官の任命について
○ 最高裁裁判官の任命は、最高裁長官の意見を聞いたうえで、内閣として閣議決定する。
○ 最高裁長官に意見を聞くのは、最高裁の運営の実情を踏まえたものとなるよう人事の万全を期すため慣例として行っている。
○ 最高裁長官の意見は、一般的には、出身分野、候補者複数名と最適任候補者に関するものである。
○ 候補者については、(ア)主として裁判官、弁護士、検察官の場合は、最高裁長官から複数候補者について提示を受け、(イ)行政、外交を含む学識経験者については、原則内閣官房で候補者を選考し、いずれの場合も内閣総理大臣の判断を仰いだうえで閣議決定する。
○ その際、最高裁裁判官は国民審査をうける重い地位であることに鑑み、極力客観的かつ公正な見地から人選している。

○ 現在の最高裁裁判官の出身分野は、最高裁の使命、扱っている事件の内容などを総合的に勘案した結果のもの。
※ 現在の最高裁裁判官の15 人の出身分野
裁判官6(民事5、刑事1)、弁護士4、学識者5(大学教授1、検察官2、行政官1、外交官1
※最高裁裁判官の法律上の任命資格〔裁判所法 41条〕
・ 識見の高い、法律の素養のある40 歳以上の者。15 人のうち少なくとも10人は、
① 高裁長官又は判事を10年以上
② 高裁長官、判事、簡裁判事、検察官、弁護士、法律学の教授等で、通算20年以上
※ 最高裁の使命→憲法判断、法令解釈の統一
※ 平成12年度;新規受理件数 約6,400件(うち民事事件 約4,500件。刑事事件 約1,900件。)、大法廷事件(憲法判断・判例変更)8件。
○ 以上について、内定後官房長官記者会見で、可能な範囲で選考過程、選考理由を明らかにする。
   なお、候補者を含め具体的な人選の過程は公表しない。

3 最高裁判所人事局長経験者の説明
(1)ア  最高裁判所とともに(著者は高輪1期の矢口洪一 元最高裁判所人事局長・元最高裁判所長官)97頁には以下の記載があります。
  判事、判事補、簡裁判事などの人事は、最高裁が提出する名簿に基づき内閣が任命するが、最高裁裁判官の人事は三権分立におけるチェック・アンド・バランスから、完全な内閣の専権に属している。
  ただ、最高裁長官は自己の後任人事を含む最高裁裁判官の人事について、首相に意見を述べるのが慣例である。その意見を聴くかどうかは内閣の自由だが、この習慣はぜひ続けてほしい。

イ 後藤田正晴と矢口洪一の統率力(著者は御厨貴)147頁及び148頁には,高輪1期の矢口洪一 元最高裁判所長官の発言として以下の記載があります。
・ 「最高裁判事の場合、『長官の意向は分からないけれども、こっちで勝手に回ししておけ』なんて、そんなことは考えられません。それは、長官がどういうふうにお考えになっているかということを、以心伝心であるのか、長官が『これで行こう』とおっしゃるのか、それはいろいろな状況がありますが、長官が総理に会われて、長官の意向が実現できないような状況は、私には考えられません。根回しをするとか、しないとかの問題ではなく、長官の意向の実現に、あらゆる準備をするのが事務総長、人事局長、人事担当の部下の仕事でしょう。その意味で、根回しというような表現は、正確ではありません。」
・ 「裁判官の人事で、長官が総理に会って初めて、『後任は、この人で・・・』と言って、総理が『ああそうか、そうしましょう』と言うわけがないじゃないですか。総理官邸の意向と、長官の希望とが合致するのが最も望ましいと思います。その場合には、短い会談で決まることになります。人事担当者としては、最も嬉しい状況です。」
・ 「それ(山中注:最高裁に)行政官から誰が入るかというときに、『誰を考えているのか』と言えば、官邸も総理が一人で考えているわけではないでしょう。行政官から最高裁判事になるような人は、大体、官房長官、官房副長官ぐらいのところで考えているんです。そう言っては何だけれども、後藤田正晴さんという人は、大したものでした。それから保利茂さんも官房長官として、力を発揮されたようです。その点、二階堂進さんなんかは、どちらかと言うと、あまり関心がなかった。竹下登さんは、人事のことはよく考えられました」
(2) 「一歩前へ出る司法」(著者は泉徳治 元最高裁判所人事局長・元最高裁判所判事)157頁ないし159頁に以下の記載がありますから,引用します。
渡辺 最高裁判事を経験された先生方の回想録などを読みますと,最高裁判事への就任の打診はいろいろな形で行われるようですが,先生の場合はどのように打診されたのですか。
泉 最高裁判事は内閣が任命します。内閣は,最高裁判事の任命にあたっては,最高裁長官の意見を聴くという慣行があります。首相が最高裁長官に直に会って意見を聴きます。ただし,任命権はあくまでも内閣にありますから,最高裁長官としても複数の候補者を挙げて,優先順位を付けて意見を述べるということをしております。そして,歴代内閣は,最高裁長官の意見を尊重してきたと思います。内閣の任命権と司法の独立を調和させるという考えから,こういう慣行ができてきたのだと思います。新聞の「首相の動静」欄に,首相が最高裁長官に会ったということが書かれていれば,だいたいがこの意見具申です。そこで,首相からこの候補者を任命しようという意向が示されると,最高裁長官が候補者に内定を伝えるという運びになります。人事局長が長官に代わって内定を伝えることもあります。私の場合,山口繁長官が官邸から戻られてから私に電話で内定を伝えてこられました。それまでは,意向打診等の話は何もありませんでした。
山元 先生が電話をしてお願いできませんか,と候補者の方にいわれたこともあったのですね。
泉 人事局長のときに,長官の指示で電話をしたことが何度かありました。長官が官邸から帰ってきてから電話をしておりました。相手が内部の裁判官だと,長官が直々に電話をするということもあります。
山元 受けられた方のリアクションも千差万別だったのでしょうか。
泉 最高裁から内定を伝えるのは裁判官と弁護士です。大体は,ありがたくお受けしますということだったと思います。検察官の場合は,法務省が候補者を最高裁に推薦してきますし,本人への内定の通知も法務省がしております。行政官と学者の場合は,内閣が直接人選しますので,最高裁は関与しません。ただし,行政官と学者の場合も,最高裁長官が首相に会って,内閣の人選に最高裁として異存がないということを伝えます。また,学者については,内閣の意向で,人選の段階から最高裁が意見を述べたり,本人への内示も最高裁が行うということはあります。ケース・バイ・ケースです。
     弁護士の場合は,日弁連が最高裁長官に複数の候補者を推薦してきます。最高裁長官は,その中からある程度人数を絞って内閣に推薦しております。日弁連には最高裁判所裁判官推薦諮問委員会があります。以前は,委員会が自ら候補者を選んでいたようです。そのため,東京の三弁護士会と大阪弁護士会から選ばれる,例外的に神戸,名古屋の弁護士会から選ばれる,これらの弁護士会の幹部の意向が反映させることがあったようです。また,最高裁長官が日弁連の推薦にない弁護士を内閣に推薦するということもあったと,野村二郎「最高裁全裁判官」(三省堂,1986年)などに書かれております。ところが,中坊公平さんが1990年に日弁連会長になってから,広く全国から候補者を募集するというようになりました。現在では,弁護士会および会員が候補者を推薦できる,会員が推薦するときは50人以上の推薦人を要するとなっております。その中から委員会が面接などで日弁連として推薦する候補者とその順位を決めて日弁連会長に答申する。日弁連会長は,委員会の答申に基づいて候補者を最高裁長官に推薦するという手順になっております。

    本人への内定の連絡が終わってから,閣議決定があり,内閣から報道発表されます。内閣の任命ですから,最高裁が報道機関に話すということは一切ありません。

4 最高裁判所人事局長の国会答弁

・ 47期の徳岡治最高裁判所人事局長は,令和2年11月17日の参議院法務委員会において以下の答弁をしています(ナンバリングを追加しています。)。
① 最高裁判所判事の選任につきましては、最高裁判所長官が長官としての立場から内閣総理大臣に対して意見を述べるというのが慣例となっております。これは、最高裁判所長官が裁判所の運営に最も詳しい立場にあるということ、また、最高裁判所判事の選任という事柄の性質上、司法部の意見を聞くことが望ましいということからこのような慣例になっているものと承知しております。
② 憲法は内閣が最高裁判所判事を任命することとしておりますけれども、そのことと司法の独立との関係につきましては、憲法の解釈にわたるものでございますので、最高裁判所としてお答えすることは差し控えたいと存じます。 

5 最高裁判所事務総局の説明(ナンバリングを追加しています。)
(1) 平成28年度(最情)答申第10号(平成28年4月27日答申)の記載
ア 最高裁判所裁判官のうち,最高裁判所長官は,内閣の指名に基づき天皇が任命し(憲法6条2項),その他の裁判官である最高裁判所判事は,内閣が任命する(憲法79条1項)とされているところ,法律上,内閣において最高裁判所や最高裁判所長官の意見を聴くこととはされておらず,また,最高裁判所において日本弁護士連合会,法務省等に推薦を依頼することともされていない。したがって,本件各開示申出文書の存在が法律上推認されるということはできない。
  しかし,最高裁判所の職員の説明によれば,内閣は,最高裁判所裁判官を任命等するに際し,慣例として最高裁判所長官の意見を聴くこととなっている。また,当委員会庶務に調査させたところ,このような慣行の存在については首相官邸のホームページにおいても公表されていることが確認された。
  したがって,最高裁判所裁判官の任命等について,最高裁判所長官は,意見を述べることになっており,その際に何らかの書面が作成される可能性は否定できない。 

   もっとも,このことについて,最高裁判所の職員は,内閣に対してどのような意見を述べるか,推薦依頼をするかなどについては,最高裁判所長官がその都度決めることであり,これらをどのような方法によって行うかを含め一切の事柄が,そのときどきの最高裁判所長官の判断に委ねられているから,最高裁判所事務総局としては,その立場上どのような文書を授受するかを定めた文書は作成していない旨を説明する。最高裁判所長官が内閣に対して述べる意見が,最高裁判所裁判官の任命等という高度な人事に関する事柄を対象としていることや,その意見が慣例として述べられているにすぎないことからすると,意見を述べるための準備行為等について,最高裁判所事務総局が組織として何らの定めも設けていないことは,不自然なこととはいえない。 
   また,日本弁護士連合会は,「日本弁護士連合会が推薦する最高裁判所裁判官候補者の選考に関する運用基準」を定め,同会が推薦する最高裁判所裁判官候補者の選考のために最高裁判所裁判官推薦諮問委員会を設置しているが,上記運用基準にも,誰に対して推薦をするのか,推薦に当たってどのような書面を作成するのかなどについての定めはなく,同基準の存在をもって,本件各開示申出文書の存在を推認することもできない。 
   そうすると,他に本件各開示申出文書の存在をうかがわせる事情が見当たらないことからしても,本件各開示申出文書は作成し,又は取得していないとする最高裁判所事務総長の説明は合理的であるといえ,最高裁判所において,本件各開示申出文書は保有していないと認められる。
イ 本件各開示申出対象文書は,①最高裁が日弁連に対し,新任の最高裁判事の推薦を依頼する際,どのような文書を授受することになっているかが分かる文書,及び②最高裁が法務省又は検察庁に対し,新任の最高裁判事の推薦を依頼する際,どのような文書を授受することになっているかが分かる文書です。
(2) 平成29年度(最情)答申第54号(平成29年12月22日答申)の記載
ア 口頭説明の結果によれば,最高裁判所長官は,最高裁判所判事の任命等につき,内閣から意見を求められる慣例があるが,内閣に対する最高裁判所判事の後任候補者の提示等については,どのような方法によって行うかを含む一切の事柄が,そのときどきの最高裁判所長官の判断に委ねられているとのことである。
  この説明を踏まえて検討すれば,最高裁判所判事の任命という高度な人事について,その具体的手続の一端が明らかになると,第三者が不当な働き掛けを試みるおそれが生じるなど,今後の人事に対して適切でない影響を与えて,適正な人事の確保に支障を及ぼすおそれがあると認められるから,本件開示申出文書が存在するか否かは,法5条6号に規定する不開示情報に相当する。
  したがって,本件開示申出文書について,その存否を答えるだけで法5条6号に規定する情報に相当する不開示情報を開示することになるとした原判断は,妥当である。

イ 本件開示申出文書は,特定の最高裁判所判事の後任について最高裁判所が内閣に対して提示した候補者の人数及び日本弁護士連合会からの推薦の有無が分かる文書です。
(3) 平成30年度(最情)答申第54号(平成30年12月21日答申)の記載
ア ①   別紙記載1の文書について,最高裁判所事務総長の上記説明によれば,事務総局における決裁は審査公報の原稿を送付することを対象とするものであり,原稿の内容等については判事に一任されているので,当該文書は作成し,又は取得していないとのことである。本件開示申出の内容に照らして検討すれば,このような説明の内容が不合理とはいえない。そのほか,最高裁判所において別紙記載1の文書を保有していることをうかがわせる事情は認められない。
   したがって,最高裁判所において別紙記載1の文書を保有していないと認められる。
② 別紙記載2の文書について,苦情申出人は,対象文書の存否を答えるべきである旨を主張する。しかし,別紙記載2の文書の存否を答える場合には,特定の最高裁判所判事について本件開示申出に係る身上調査資料が存在するか否かが明らかになることからすれば,法5条6号に規定する不開示情報に相当する特定の最高裁判所判事の人事の具体的手続に関する情報を開示することになるので,文書の存否を答えることができないという最高裁判所事務総長の上記説明の内容が不合理とはいえない。
   したがって,別紙記載2の文書について,存否を答えるだけで法5条6号に規定する情報に相当する不開示情報を開示することになるとした原判断は,妥当である。

イ 別紙記載1の文書は「別件の開示申出に対して開示された特定の文書の記載内容について,間違いないとの確認・検査の上での是認と思料される。何と照合されたか,原資料名とその原本。」であり,別紙記載2の文書は「特定の最高裁判所判事の身上調査資料」です。
  また,特定の最高裁判所判事というのは,学校法人加計学園の監事をしていた木澤克之最高裁判所判事のことと思います。

6 最高裁判所裁判官の選任等の在り方に関する司法制度改革審議会意見書の記載
  平成13年6月12日付の司法制度改革審議会意見書「Ⅲ 司法制度を支える法曹の在り方」には,最高裁判所裁判官の選任等の在り方について,以下の記載があります。

  • 最高裁判所裁判官の地位の重要性に配慮しつつ、その選任過程について透明性・客観性を確保するための適切な措置を検討すべきである。
  • 最高裁判所裁判官の国民審査制度について、国民による実質的な判断が可能となるよう審査対象裁判官に係る情報開示の充実に努めるなど、制度の実効化を図るための措置を検討すべきである。

   現行制度においては、最高裁判所裁判官の選任に関して、同裁判所長官については内閣の指名に基づき天皇が任命し、同裁判所判事については内閣が任命することとされているが(憲法第6条第2項及び同第79条第1項並びに裁判所法第39条第1項、第2項)、内閣による指名及び任命に係る過程は必ずしも透明ではなく、同裁判所裁判官の出身分野別の人数比率の固定化などの問題点が指摘されている。こうした現状を見直し、同裁判所裁判官に対する国民の信頼感を高める観点から、その地位の重要性に配慮しつつ、その選任過程について透明性・客観性を確保するための適切な措置を検討すべきである(昭和22年当時、裁判所法の規定に基づき設けられていた裁判官任命諮問委員会の制度も参考となる。)。    また、最高裁判所裁判官の国民審査制度については、その形骸化が指摘されている。こうした現状を見直し、最高裁判所裁判官に対する国民の信頼感を高める観点から、最高裁判所裁判官の国民審査制度について、国民による実質的な判断が可能となるよう審査対象裁判官に係る情報開示の充実に努めるなど、制度の実効化を図るための措置を検討すべきである。7 法曹制度検討会における,最高裁判所裁判官人事に関する議論  

第12回(平成14年11月12日)ないし第14回(平成14年12月10日)の法曹制度検討会における各委員の発言内容をまとめた,「最高裁裁判官の選任過程について透明性・客観性を確保するための適切な措置」について(議事整理メモ)には,以下の記載があります。
○選任された最高裁裁判官についての説明の在り方などについての意見
・ 選任過程の透明化もさることながら、選任された裁判官が、国民の目から見て納得できる人かどうかが重要である。実際に選任された裁判官が、信頼に値すると判断できるような十分な説明をして欲しい。最高裁の裁判官はいわば公人であるから、プライバシーを多少犠牲にするくらいの覚悟があってしかるべきである。(第12回・中川委員)
・ 新たに行われるようになった内閣官房長官の記者会見による説明については、透明化という面で足りるのか、という感じを受ける。また、記者会見の内容がマスコミ報道の中で詳しく述べられているかというと必ずしもそうではない。だれが最高裁の裁判官に任命されることになったかということと、その人の経歴だけが報道されているのが実態であり、国民が、任命に関する透明化された情報を知ることができないという現状が続いているのではないか。(第13回・松尾委員)
・ 内閣として選任過程をどこまで説明できるかということになるが、個人のプライバシーのことも考慮する必要はあるが、最大限の努力をする必要がある。それとともに、国民審査においても、対象となる裁判官についての、これまでよりも一歩も二歩も踏み出した情報提供が可能であり、現状では、そのような側面からの改善が望ましい。(第13回・小貫委員)

8 最高裁判所判事経験者の説明
(1) 最高裁判所は変わったか-裁判官の自己検証-には以下の記載があります。
(5頁の記載)
   法曹資格を有する者からの任命については、最高裁判所長官の推薦を受け入れて任命する慣行ができていると言われてきた。しかし、その推薦の実情は、最高裁のなかにいても全くわからない。長官が推薦しているとしても、それはその資格において行っているものであって、私の在任中、裁判官会議で議論になることもなければ、話題になることもなかった。最高裁のなかにいても新聞報道によって初めてその内定者がわかるという実情である。
(6頁の記載)
   わが国のように、長期にわたり政権交代がない場合に、最高裁の裁判官の任命が時の内閣の意思で決まり、選任の過程が不透明で、客観性の担保も用意されていないということは、立法、行政へのチェック機能という司法の役割を考えれば決してあるべき姿ではない。司法の役割が益々重視されるべきだと言われている今日、このような現状をいつまでも放置すべきことではないと思うのであるが、現状についての目だった改革意見はどこからも出ていない。

(2) 坂田宏のペイジ「(インタビュー)最高裁人事という「慣習」」(2014年4月17日05時00分)(発言者は滝井繁男 元最高裁判所判事・元大阪弁護士会会長となっています。)には,以下の発言があります。
① 最高裁の竹崎博允(ひろのぶ)長官が辞任し、後任に寺田逸郎(いつろう)最高裁判事が就任しました。最高裁の意向に沿った、「順当な人事」ということでいいのでしょうか。
    「最高裁長官は、内閣の指名に基づいて天皇が任命すると、憲法に定められています。内閣には、この指名について説明責任があります。しかし、内閣は今回も、なぜこの人を起用したのか、どういうプロセスを経て選んだのかを、全く明らかにしていません。長官以外の最高裁判事は内閣が任命します。長官や判事の人事に、米国ほどではなくても、国会が何らかの形で関わることで透明化を図る必要があります
② 米国の連邦最高裁の判事はどうやって任命されるのですか。
    「大統領が上院の同意を得て任命します。上院の司法委員会では、銃規制や妊娠中絶など、政党間で激しく対立する問題についてどう考えるか、徹底的に質問されます。判事候補に対する聴聞は一大政治イベントになり、メディアでも大きく報道されます。上院の同意が得られなかったなどで、任命されなかった人は過去に27人もいます。大統領と上院が共に選任プロセスに関わる仕組みなのです。政争の場と化するという弊害もありますが、手続きの透明化という観点では優れています」
③ 最高裁の判事や長官の選任を透明化するには、どうすればいいでしょうか。
    「最も簡単なのは、長官や判事が選任された後、なぜその人を選んだのか、国会で首相らに質問して説明を求めることです。国会がつくった法律や政府の行為を無効にできる権限を持ち、国民生活に重要な影響力を持つ最高裁判事らの選任に、国会はもっと関心を持ち、内閣に説明責任を果たすよう迫るべきです。また、カナダで2006年以来行われているように、新任の最高裁判事を議会の委員会に呼んで聴聞するということも検討に値します。その聴聞会は紳士的で、内閣の任命を覆すものではなく、国民に新任判事をお披露目することが主眼のようです」
④ その場合、(山中注:最高裁判事の候補者を答申する)諮問委員会のメンバーの人選が重要ですね。
「諮問委員会が作った候補者リストの中から、内閣が最高裁判事を選ぶ。その人を国会が聴聞する。一連のプロセスを判断材料に、国民が国民審査に臨む。それが理想ですね。裁判官選びに国民の関心が高まれば、形骸化している国民審査を意味のあるものに近づけることもできるかもしれません」
「最高裁判事についての国民の関心の低さは深刻です。三権の長の一人である最高裁長官の名前さえ、一般国民ならまだしも、法科大学院の学生でもほとんど知らない最高裁の判事や長官の任命過程について厳しく追及しない国会やメディアの責任もあるかもしれませんが、国民審査の活性化に向けた議論を始めなければならないと思います

9 昭和22年6月5日の片山内閣談話
・ 「日本の最高裁判所 判決と人・制度の考察」314頁及び315頁によれば,裁判官任命諮問委員会設置に当たっての,昭和22年6月5日の片山内閣談話は以下のとおりです(文中にある「休戚」(きゅうせき)は,「喜びと悲しみ」という意味です。)。
  新憲法に規定された新しい裁判制度確立の為め、いよいよ最高裁判所の建設に着手する。(中略)新憲法は最高裁判所に法令審査権をも含む広汎にして最高の裁判権を与え、これを憲法の番人たる地位に置き、全下級裁判所を率いて国民の権利自由を確保する神聖なる使命を完うさせようとして居る。よき最高裁判所の構成こそは真に国家百年の大計である。従ってその構成は各界の最高権威者を網羅する絢燗多彩な良識の結集体たることを期待して居るのである。故にこの最高裁判所の裁判官の選定は単に一内閣の仕事でなくて国家的大事業であり、国民の休戚に関すること、国会における総理大臣の選定に優るとも劣らない。従って政府はこの神聖なる事業が公正にして明朗、いわゆるガラス張りの中で最も民主的に行われることを期待(する)。(中略)
  国民は、この選定がいかに行われるかについて深い関心をもって、これを見守り、適切な批判を怠ってはならない。(中略)最高の知識と人格とを網羅する最高裁判所の建設こそは、国民に課せられた偉大な責務である。

10 関連記事その他
(1) 令和元年6月13日付の理由説明書には以下の記載があります。
   最高裁判所は,我が国唯一の最上級裁判所として裁判手続及び司法行政を行う機関であり,最高裁判所判事や事務総局の各局課館長は,裁判所の重大な職務を担う要人として,襲撃の対象となるおそれが高く,その重大な職務が全うされるように,最高裁判所の庁舎全体に極めて高度なセキュリティを確保する必要がある。そのため,最高裁判所では,各門扉に警備員を配し,一般的に公開されている法廷等の部分を除き,許可のない者の入構を禁止している。
   この点,本件対象文書中,原判断において不開示とした部分は,各門における入構方法に関する具体的な運用が記載されており, この情報を公にすると警備レベルの低下を招くことになり,警備事務の適正な遂行に支障を及ぼすことになるから, 当該部分は,行政機関情報公開法第5条第6号に定める不開示情報に相当する。
   よって,原判断は相当である。

(2) 首相官邸HPの「諸外国等における最高裁判所裁判官任命手続等一覧表」には以下の国の憲法裁判所及び最高裁判所の裁判官任命手続等の比較が載っています。
ア 憲法裁判所設置国
ドイツ,フランス,イタリア,オーストリア,ベルギー,タイ,大韓民国,台湾
イ 憲法裁判所非設置国
アメリカ合衆国,カナダ,ブラジル,オランダ,スイス,スェーデン,デンマーク,ノルウェー,連合王国,オーストラリア,インド,インドネシア,シンガポール,中華人民共和国,フィリピン及びマレイシア
(3) 「司法の可能性と限界と-司法に役割を果たさせるために-」(講演者は31期の井戸謙一 元裁判官)には以下の記載があります(法と民主主義2019年12月号20頁及び21頁)。
   長年、日弁連推薦枠から最高裁判事になった方々は、有能で人格的にも立派な弁護士として、多くの人から尊敬されていた人たちだったと思いますが、最近はそういう人がいないという感じがします。これには最高裁判事の選任手続の問題があると思いますが、これはまたあとで申し上げます。
(4) 以下の記事も参照してください。
・ 最高裁判所長官任命の閣議書
・ 最高裁判所判事任命の閣議書
・ 最高裁判所発足時の裁判官任命諮問委員会,及び最高裁判所裁判官任命諮問委員会設置法案等
・ 外務省国際法局長経験のある最高裁判所判事
・ 弁護士出身の最高裁判所裁判官の氏名の推移(昭和時代及び平成時代)
・ 日弁連推薦以外の弁護士が最高裁判所判事に就任した事例


広告
スポンサーリンク