最高裁判所裁判官に限り意見の表示が認められている理由

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裁判所法案質疑応答(昭和22年3月頃の,司法省刑事局作成の文書)には以下の記載があります。

第十一条(裁判官の意見の表示)
一問 この条文の趣旨
   答 第七十五条の評議の秘密の例外を設けた。
   元来評議を外部に漏らすことを許さないのは、評議における自由な意見の発表を保障しようとする趣旨に出たものであるが、最高裁判所の裁判官については、このような点を顧慮する必要がないばかりでなく,最高裁判所の裁判官はその任命について国民の審査に付されるから、国民としては裁判に関与した裁判官がどんな意見をもつていたかを知つて、国民審査の際の判断の資料とする必要がある。それで最高裁判所では、大法廷においても、小法廷においても、裁判官の意見を裁判書に表示しなければならないこととした。如何なる程度にその意見を表示するか、又表示の形式等は最高裁判所の規則で定められるであろう。
二問 何故下級裁判所には同様のことを認めないのか
   答 下級裁判所の裁判官については国民審査の制度がないばかりでなく、下級裁判所の裁判は事実の判断に関するものであつて、少数意見の公表をさせるのに適当でないから、これを認めなかった。

*1 裁判所法11条(裁判官の意見の表示)は以下のとおりです。
   裁判書には、各裁判官の意見を表示しなければならない。
*2 裁判所法75条(評議の秘密)は以下のとおりです。
① 合議体でする裁判の評議は、これを公行しない。但し、司法修習生の傍聴を許すことができる。
② 評議は、裁判長が、これを開き、且つこれを整理する。その評議の経過並びに各裁判官の意見及びその多少の数については、この法律に特別の定がない限り、秘密を守らなければならない。
*3 最高裁判所裁判事務処理規則(昭和22年11月1日最高裁判所規則第6号)13条は以下のとおりです。
   裁判書に各裁判官の意見を表示するには、理由を明らかにして、これをしなければならない。
*4 昭和24年8月17日発生の松川事件(現在の福島市松川町の国鉄東北本線で起きた列車往来妨害事件)の第二次上告審である最高裁昭和38年9月12日判決(被告人全員を無罪とした仙台高裁昭和36年8月8日判決に対する上告を棄却した判決であり,第一審から第二次上告審まで合計22人が関与しました。)はPDFで370頁ありますところ,多数意見は1頁ないし34頁であり,斎藤朔郎最高裁判事(満州国司法部次長をしていたため,終戦後,ハバロフスクで抑留生活を送りました。)の補足意見は34頁ないし39頁であり,下記の記載(改行を追加しています。)を含む下飯坂潤夫最高裁判事の少数意見は39頁ないし370頁ですし,専ら事実認定に関することが書いてあります。
記(PDF367頁)
   以上私は縷々として証述したわけであるが、これによつて、原判決には幾多の甚しい審理不尽、理由不備の存することが判然としたものと考える。
   そしてその理由不備は重大な事実誤認に直結するものであり、これを看過することは著しく正義に反するものであることは云うまでもない。上来私の述べたところは実行々為に関するものであるが、実行々為あつての松川事件である。
   実行行為に関する判示に許し難しい欠陥があれば原判決全体に影響を及ぼすものであることはこれ亦証をまたない。
   よつて、私は原判決は全部これを破棄し、原裁判所に差戻すを相当と考える。
*5 「最高裁判所裁判官等は襲撃の対象となるおそれが高いこと等」も参照してください。

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