最高裁判所裁判官の少数意見

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目次
1 少数意見の種類
2 最高裁判所裁判官に限り意見の表示が認められている理由
3 裁判所法及び最高裁判所裁判事務処理規則の関係条文
4 少数意見において専ら事実認定に関することが書いてあった実例
5 多数意見がほとんど書いていない最高裁判決の実例
6 関連記事その他

1 少数意見の種類
(1) 少数意見は以下の三種類に分けられます。
① 反対意見
・ ある論点についての法廷意見である多数意見の結論に反対するものです。
② 意見
・ 法廷意見の結論には賛成するものの,理由付けを異にする意見です。
・ 理由付けを省いたもの,又は理由付けを最大公約数の範囲に縮小したものを法廷意見とした場合,法廷意見の一つとなる性質を持っています。
③ 補足意見
・ 法廷意見に加わった裁判官がさらに自分だけの意見をこれに付加して述べるものです。
・ 反対意見及び意見はそれだけがそれを述べた裁判官の意見であるのに対し,補足意見は共同意見としての法廷意見と補足意見との双方がその裁判官の意見であることになります。
(2) 少数意見は,単独意見として書かれることもあれば,それに賛成する二人以上の裁判官の共同意見の形を採ることもあります。
    また,他の裁判官の少数意見に「同調する」という,共同意見よりはやや緩やかな形を採ることもあります。
(3) 反対意見が共同意見として書かれた場合,それに加わった裁判官がさらに付加意見を述べることがありますところ,反対意見とこの付加意見の関係は,法廷意見と補足意見の関係と同じです。
(4) 「判例とその読み方(三訂版)」104頁及び105頁が非常に参考になります。

2 最高裁判所裁判官に限り意見の表示が認められている理由
・ 裁判所法案質疑応答(昭和22年3月頃の,司法省刑事局作成の文書)には以下の記載があります。

第十一条(裁判官の意見の表示)
一問 この条文の趣旨
   答 第七十五条の評議の秘密の例外を設けた。
   元来評議を外部に漏らすことを許さないのは、評議における自由な意見の発表を保障しようとする趣旨に出たものであるが、最高裁判所の裁判官については、このような点を顧慮する必要がないばかりでなく,最高裁判所の裁判官はその任命について国民の審査に付されるから、国民としては裁判に関与した裁判官がどんな意見をもつていたかを知つて、国民審査の際の判断の資料とする必要がある。それで最高裁判所では、大法廷においても、小法廷においても、裁判官の意見を裁判書に表示しなければならないこととした。如何なる程度にその意見を表示するか、又表示の形式等は最高裁判所の規則で定められるであろう。
二問 何故下級裁判所には同様のことを認めないのか
   答 下級裁判所の裁判官については国民審査の制度がないばかりでなく、下級裁判所の裁判は事実の判断に関するものであつて、少数意見の公表をさせるのに適当でないから、これを認めなかった。

3 裁判所法及び最高裁判所裁判事務処理規則の関係条文
(1) 裁判所法11条(裁判官の意見の表示)は以下のとおりです。
    裁判書には、各裁判官の意見を表示しなければならない。
(2) 裁判所法75条(評議の秘密)は以下のとおりです。
① 合議体でする裁判の評議は、これを公行しない。但し、司法修習生の傍聴を許すことができる。
② 評議は、裁判長が、これを開き、且つこれを整理する。その評議の経過並びに各裁判官の意見及びその多少の数については、この法律に特別の定がない限り、秘密を守らなければならない。
(3) 最高裁判所裁判事務処理規則(昭和22年11月1日最高裁判所規則第6号)13条は以下のとおりです。
     裁判書に各裁判官の意見を表示するには、理由を明らかにして、これをしなければならない。

4 少数意見において専ら事実認定に関することが書いてあった実例
(1)ア 昭和24年8月17日発生の松川事件(現在の福島市松川町の国鉄東北本線で起きた列車往来妨害事件)の第二次上告審である最高裁昭和38年9月12日判決(20人の被告人全員を無罪とした仙台高裁昭和36年8月8日判決に対する上告を棄却した判決です。第一次控訴審としての仙台高裁昭和28年12月22日判決は17人について有罪(うち死刑4人)としていましたが,最高裁大法廷昭和34年8月10日判決によって破棄差戻しとされました。)はPDFで370頁ありますところ,
    多数意見は1頁ないし34頁であり,
    斎藤朔郎
最高裁判事(満州国司法部次長をしていたため,終戦後,ハバロフスクで抑留生活を送りました。)の補足意見は34頁ないし39頁であり,
    下記の記載(改行を追加しています。)を含む下飯坂潤夫最高裁判事の少数意見は39頁ないし370頁ですし,
    専ら事実認定に関することが書いてあります。
記(PDF367頁)
     以上私は縷々として証述したわけであるが、これによつて、原判決には幾多の甚しい審理不尽、理由不備の存することが判然としたものと考える。
     そしてその理由不備は重大な事実誤認に直結するものであり、これを看過することは著しく正義に反するものであることは云うまでもない。上来私の述べたところは実行々為に関するものであるが、実行々為あつての松川事件である。
     実行行為に関する判示に許し難しい欠陥があれば原判決全体に影響を及ぼすものであることはこれ亦証をまたない。
    よつて、私は原判決は全部これを破棄し、原裁判所に差戻すを相当と考える。
イ 第一審から数えて262回の公判期日がありました(NHKアーカイブスの「松川事件 全員に無罪判決」参照)。
(2)ア 松川事件に関しては,東京地裁昭和44年4月23日判決(第一審判決)及び東京高裁昭和45年8月1日判決(原則として控訴棄却の控訴審判決)によって国家賠償請求が認められました(いずれも判例秘書に掲載されています。)。
イ 「裁判官の勉強について-若い人のために-」(筆者は27期の西野喜一 元裁判官)には,東京地裁昭和44年4月23日判決について,「裁判において,証拠によって事実を認定するという作業の本質を洞察した名判決で,一読の価値があります。」と書いてあります(判例タイムズ1191号104頁)。

5 多数意見がほとんど書いていない最高裁判決の実例
(1) 最高裁大法廷平成16年1月14日判決
ア 平成15年12月10日の口頭弁論を経て,最高裁大法廷平成16年1月14日判決は,公職選挙法14条,別表第3の参議院(選挙区選出)議員の議員定数配分規定は,平成13年7月29日施行の参議院議員選挙当時,憲法14条1項に違反していたものということはできないと判示しました。
イ 最高裁大法廷平成16年1月14日判決の多数意見は5行だけであって(判決文4頁参照),残りは以下のとおりでした。
① 補足意見1(裁判官5人)
② 補足意見1の追加補足意見(裁判官島田仁郎)
③ 補足意見2(裁判官4人)
④ 補足意見2の追加補足意見(裁判官亀山継夫)
⑤ 補足意見2の追加補足意見(裁判官横尾和子)
⑥ 反対意見(裁判官6人)
⑦ 追加反対意見(裁判官福田博)
⑧ 追加反対意見(裁判官梶谷玄)
⑨ 追加反対意見(裁判官深澤武久)
⑩ 追加反対意見(裁判官濱田邦夫)
⑪ 追加反対意見(裁判官滝井繁男)
⑫ 追加反対意見(裁判官泉徳治)
(2) 最高裁大法廷昭和28年7月22日判決
・ 多数意見が結論しか書いていない最高裁判決としては,最高裁大法廷昭和28年7月22日判決があるぐらいです(「一歩前へ出る司法」172頁参照)。

6 関連記事その他
(1) 「最高裁の暗闘 少数意見が時代を切り開く」10頁及び11頁には以下の記載があります。
    最高裁がホームページで公表しているすべての判決や決定のうち、少数意見がついたものを集計したところ、2008年は21世紀に入ってから初めて20%を超した。2010年は10月まででみると3割に達するペースだ。
    さらに、少数意見の論理がその後、同テーマを扱う別のケースで、多数意見に生まれ変わることが目立つようになってきた。それは、特に社会を大きく変える画期的な判決で際だっている。
(2) 北海道大学HPに載ってある「憲法裁判における調査官の役割」(藤田宙靖 元最高裁判所判事へのインタビュー)には最高裁判所裁判官の少数意見の作成方法に関して以下の記載があります(リンク先4頁・末尾298頁)。
・ 通常は裁判官が自ら書く。
・ 裁判官から調査官に頼むこともある。例えば、「この部分○○を書きたいが、調べて補足してくれ」と依頼することもある。また、「××について文章にしてくれ」と依頼することがある。
・ 理系の研究室で、教授が、准教授、講師、助教や院生をアシスタントとして使うことに似ているのかもしれない。
(3) 以下の記事も参照してください。
 最高裁判所裁判官の任命に関する各種説明
 最高裁判所長官任命の閣議書
・ 最高裁判所判事任命の閣議書
 高輪1期以降の,裁判官出身の最高裁判所判事
 外務省国際法局長経験のある最高裁判所判事

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