第1 対象と結論
1 対象は下級裁判所裁判官であること
本記事は,日本国憲法80条の下級裁判所裁判官が,任期終了直前に依願退官し,又は任期終了により退官した場合の国家公務員退職手当法上の取扱いを対象とする。
最高裁判所裁判官には,最高裁判所裁判官退職手当特例法による別の算定方法が適用されるため,本記事の支給率表の対象外である。
2 結論
下級裁判所裁判官が任期を終えて退官した場合は,任期終了を理由とする支給率が適用される。
任期終了前1年以内の依願退官について同じ区分の支給率が適用されるのは,任期終了に伴う裁判官の配置等の事務の都合により退官した場合である。
したがって,「任期終了前1年以内」又は「依願退官」という事実だけから,事務都合退職の支給率が適用されるとはいえない。
また,任期終了直前の3月31日等に退官しても,退職手当法上の勤続期間が当然に9年,19年,29年又は39年になるわけではない。
第2 支給月数は退職手当基本額の支給率であること
1 退職手当の算定構造
国家公務員退職手当法2条の4によれば,一般の退職手当は,基本額に同法6条の4の調整額を加えた額である。
内閣人事局の「国家公務員退職手当支給率早見表(平成30年1月1日以降の退職)」に記載された月数は,退職日俸給月額を基礎として基本額を計算するための支給率であり,退職手当の総額を示す月数ではない。
同表の支給率には,退職手当法附則による83.7%の調整が反映されている。
2 個別の退職手当額を計算する場合の留意点
個別の退職手当額を計算するには,退職理由及び勤続期間のほか,退職日俸給月額,俸給月額の減額に関する特例,定年前早期退職者の特例,休職等の除算期間,前歴の通算及び調整額を確認する必要がある。
そのため,公開された任官日及び退官日だけから,個別の裁判官の退職手当額を確定することはできない。
退職手当の算定方法及び税金を含む全体像は,「裁判官の退職金(退職手当)はいくらか―推定額・計算方法・税金(AI作成)」を参照されたい。
第3 退職手当法上の勤続期間
1 任命月から退官月までを月単位で数えること
国家公務員退職手当法7条1項及び2項によれば,勤続期間は,職員としての引き続いた在職期間について,職員となった日の属する月から退職した日の属する月までの月数により計算する。
例えば,4月中に職員となった者が10年後の3月31日に退職した場合,休職等の除算期間がなければ,4月から10年後の3月までの120月が算入されるため,暦日上は10年に満たなくても,退職手当法上の勤続期間は10年となる。
したがって,任期終了日の数日前又は数週間前に退官したことと,勤続期間が1年短くなることとは,同じ問題ではない。
2 1年未満の端数処理及び在職期間の連続
同法7条6項本文により,月数で計算した在職期間に1年未満の端数がある場合は,原則としてその端数を切り捨てる。
もっとも,在職期間が6月以上1年未満である場合等については同項ただし書の例外があり,休職月等がある場合は同条4項による除算も行われる。
また,退職した日又はその翌日に再び職員となった場合は,同条3項により引き続いて在職したものとみなされるため,再任の前後を含む個別の発令経過を確認する必要がある。
第4 退職理由による支給率の違い
1 任期終了及び任期終了前1年以内の事務都合退職
下級裁判所裁判官の任期は,日本国憲法80条1項及び裁判所法40条3項により10年であり,再任されることができる。
勤続期間が11年以上25年未満の場合,国家公務員退職手当法4条1項2号及び同法施行令3条1項1号により,①任期を終えて退職した裁判官と,②任期終了に伴う裁判官の配置等の事務の都合により任期終了前1年以内に退職した裁判官は,同法4条の支給率の対象となる。
勤続期間が25年以上の場合は,同法5条1項5号及び同法施行令4条により,同じ退職理由が同法5条の支給率の対象となる。
勤続期間が10年以下の場合は,同法3条による基本額の算定において,自己都合等退職者に該当するかどうかにより支給率が異なる。
2 支給率の比較
次の表は,国家公務員退職手当法上の勤続年数が表記どおりであり,退職理由が自己都合退職又は任期終了・前記の事務都合退職に該当すると仮定した場合の基本額の支給率である。
| 勤続年数 | 自己都合退職 | 任期終了・施行令3条1項1号の事務都合退職 |
|---|---|---|
| 9年 | 4.5198月 | 7.533月 |
| 10年 | 5.022月 | 8.37月 |
| 19年 | 16.49727月 | 22.912875月 |
| 20年 | 19.6695月 | 24.586875月 |
| 29年 | 33.3963月 | 39.29715月 |
| 30年 | 34.7355月 | 40.80375月 |
| 39年 | 43.7751月 | 47.709月 |
| 40年 | 44.7795月 | 47.709月 |
このうち,19年の事務都合退職の支給率は22.912875月であり,39年の事務都合退職の支給率は47.709月である。
支給率は内閣人事局の公式表に記載された数値であって推定値ではないが,個々の裁判官についてどの年数及び退職理由の欄を用いるかは,その者の在職記録及び退職理由の取扱いを確認しなければ判断できない。
第5 早期退職募集による退官との違い
1 応募認定退職は別の制度であること
国家公務員退職手当法8条の2の早期退職希望者の募集に応募し,認定を受けて指定日に退職する応募認定退職は,任期終了前1年以内の事務都合退職とは別の制度である。
応募認定退職は,支給率早見表上,任期終了及び事務都合退職と同じ欄に掲げられている。
もっとも,一定の定年前早期退職者には同法5条の3による俸給月額の特例が適用されることがあるため,同じ支給率であっても退職手当額が同じになるとは限らない。
2 募集条件は実施要項ごとに確認すること
早期退職募集の対象年齢,募集人数,応募期間及び退職すべき期間は,個々の募集実施要項で定められる。
したがって,特定の年齢の裁判官が毎年一定回数応募できると一般化せず,対象年度の実施要項を確認する必要がある。
裁判官向け募集の制度及び実施要項は,「裁判官及び裁判所職員の早期退職募集実施要項の解説(AI作成)」及び「裁判官の早期退職」を参照されたい。
第6 個別の退官例を検討する手順
個別の裁判官について退職手当基本額の支給率を検討する場合は,次の順序で確認する必要がある。
- ① 最初の任命日,再任日及び退官日を確認する。
- ② 職員としての在職期間が連続するか,前歴通算又は休職等の除算があるかを確認し,勤続月数及び法定勤続年数を計算する。
- ③ 任期終了,任期終了に伴う裁判官配置等の事務都合,応募認定退職又は自己都合のいずれとして取り扱われたかを確認する。
- ④ 該当する支給率を用いて基本額を計算し,俸給月額の特例及び調整額を加味する。
公開資料から退職理由の認定又は勤続期間計算の基礎資料を確認できない場合は,個別の支給率又は退職手当額を確定値として示すことはできない。
第7 出典・参考資料
1 法令
- ① 日本国憲法80条
- ② 裁判所法40条3項
- ③ 国家公務員退職手当法2条の4,3条から5条の3まで,6条の4,7条及び8条の2
- ④ 国家公務員退職手当法施行令3条1項1号及び4条
- ⑤ 最高裁判所裁判官退職手当特例法2条及び3条
2 官公庁資料
- ① 内閣官房内閣人事局「給与・退職手当―国家公務員退職手当法等の改正について」
- ② 内閣官房内閣人事局「国家公務員退職手当支給率早見表(平成30年1月1日以降の退職)」
- ③ 内閣官房内閣人事局「令和7年度早期退職希望者の募集実施要項(最高裁判所)」