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平成19年司法試験民事系科目第2問(民法・民事訴訟法)の模範解答と評価項目―出題の趣旨・採点実感から抽出した38項目と5段階の重み付け(AI作成)

第1 この記事の対象と結論

平成19年司法試験の論文式試験・民事系科目第2問は,売買契約の締結後,引渡し前に特定物である美術工芸品甲に傷が生じた事例を基に,民法上の様々な法的構成と争点,民事訴訟における訴訟行為をめぐる諸問題についての基本的な理解を問う総合問題である。
設問1は民法,設問2・3は民事訴訟法からの出題であり,問題文が示す設問1から設問3までの配点の割合は10:6:4である。

この記事は,法務省の出題の趣旨と,考査委員が採点実感等を述べた民事系科目のヒアリングの概要を基に38の評価項目を設け,そのうち9項目を重み5とした。
評価項目と重みは本記事独自の整理であり,法務省の採点基準や配点を示すものではない。

項目内容
対象平成19年新司法試験論文式試験・民事系科目第2問(民法・民事訴訟法)
問題文論文式試験問題集[民事系科目](PDF9~16頁の第2問)
試験日・答案の基準平成19年5月18日(民事系科目第2問の論文式試験)。答案は試験当時の法令による。
出題の趣旨平成19年新司法試験論文式試験問題出題趣旨(PDF4~5頁の民事系科目第2問)
採点実感新司法試験考査委員(民事系科目)に対するヒアリング概要(PDF1~4頁の民法,4~8頁の民事訴訟法)
主な事項特定物の売買と危険負担,履行遅滞・定期行為・瑕疵担保による解除,損害賠償の範囲と過失相殺,私文書の成立の真正と民事訴訟法228条4項の推定,補助事実についての擬制自白,主要事実と自白の撤回,時機に後れた攻撃防御方法,訴えの取下げの合意・請求の放棄・訴訟上の和解
評価項目38項目。重み5は9項目,重みの合計は153。
主な裁判例答案は特定の裁判例を引用せず,問題文と試験当時の条文に基づいて構成した。
答案の分量4879字(見出し,空白及び改行を除く。)
法令の基準試験当時の民法(平成16年法律第147号による現代語化後,平成29年法律第44号による改正前のもの)及び民事訴訟法による。
資料の確認日令和8年11月7日

本稿の答案は,設問1では,Xの主張の中心を履行遅滞による催告解除に置き,12月7日の持参が債務の本旨に従った提供か,履行期の延期の合意,催告期間の相当性及び解除の意思表示の有無について,Yの反論を対置する。
設問2では,陳述①について,Fの自署の証明による文書全体の真正の推定と,認否をしない場合の補助事実についての擬制自白の成否を論じ,陳述②・③について,具体的な発言を主要事実とする立場から,自白の撤回と時機に後れた攻撃防御方法を検討する。
設問3では,乙の授受,債権の消滅と清算を同じ期日に記録でき,訴訟物以外の請求も処理できる訴訟上の和解(方法③)を勧める。

重み5の9項目は,設問1の12月7日の提供の適否,催告期間の相当性,催告と解除の意思表示の区別(番号2・8・9),設問2の自署による文書全体の真正の推定,補助事実についての擬制自白,主要事実の捉え方(番号21・23・25),設問3の取下げの合意と取下げの区別,和解の効力を錯誤で争う余地,清算条項の範囲(番号31・36・37)である。
第3に事実関係と設問の要求,第4に評価項目と重み,第5に答案と解説,第7に出典を置く。

第2 評価項目の示し方と重み付けの基準

1 評価項目の示し方

評価項目は,出題の趣旨と採点実感の指摘を,答案の記載から判定できる単位に言い換えた本稿独自の基準である。
表の番号は記事全体で通している。
出題の趣旨・採点実感の欄は,法務省が公表したPDFの頁と,関連する記載の要旨である。
平成19年の民事系科目では,採点実感等は司法試験委員会第40回(平成19年9月12日)の考査委員に対するヒアリングの概要として公表されているので,採点実感欄はその民法部分(PDF1~4頁)と民事訴訟法部分(PDF4~8頁)の頁と要旨を示す。
一方の資料に対応する記載がない場合は「記載なし」,一般的な指摘から導く場合は「間接」と表示する。
採用する構成によって評価する項目が異なる場合は,【適用条件】を付けた。

2 5段階の重み付けの基準

重み判断基準
5その設問の判断を大きく分ける核心
4結論を理由付きで支える主要な論証・当てはめ
3通常押さえる法的処理・事情の評価
2論証を補強する説明・個別事情・誤りの注意
1補充的な引用・記述範囲の確認

重みとその合計は本記事独自の整理であり,法務省の配点,採点基準又は得点の目安を示すものではない。
条件付きの項目も重みの分布と合計に含める。

第3 本問の概要

1 問題文と事実関係

美術工芸品の輸入販売をするYは,p国在住のAが制作した美術工芸品甲の購入を美術品収集家のXに勧めた。
Yは,平成17年9月28日,代金600万円,Xの自宅への納品日を同年12月7日,内金200万円を申込み時,中間金200万円を納品時,残代金200万円を翌年1月10日に支払い,所有権は代金完済時に移転するという趣旨のメモをXに交付した。
Yは,甲を自らの費用で船便により輸送し,納品は1か月程度遅れるかもしれないと説明し,Xは,どんなに遅くとも翌年2月末日までに納品してほしいと述べただけで,確定的な返事をしなかった。
Xは10月1日に200万円を振り込み,YがAから甲を買い受ける契約を締結したのは10月6日であった。

Yは,傷のない甲をB運送会社に引き渡して船便で日本へ送らせ,12月7日にX宅に持参したが,開梱すると甲の扉の可動部分の根元に亀裂と塗りの剥落があり,Xは受領を拒んで中間金を支払わなかった。
Yは,修理の可否をAに尋ねることについてXの同意を得てp国に渡り,Aから,修理には約2週間の期間と50万円の費用を要し,取り掛かれるのは早くても1か月先になるとの回答を得た。
12月12日,Yから修理品の納品は早くても2月半ば以降になると聞いたXは,どれだけ遅くても2月末までに傷を修理した甲を持って来なければ,支払済みの200万円は返してもらい,損害賠償も払ってもらうと述べた。

Bは,鯨が輸送船にぶつかる事故によって甲が破損したと推測されると説明し,往復の船便の輸送料と修理代金50万円の支払を約束したが,破損の経緯は不明のままである。
Yは甲を航空便でAに送って修理させ,平成18年1月25日に修理の完了をXに伝えたが,航空便での送付を求めるXに費用の負担を求めたところ,Xは「それなら結構だ」と言って電話を切り,甲は船便で日本に送られた。
Yが3月7日に甲をX宅に持参すると,Xは契約は既に解除したとして受領を拒絶した。
Xは,支払済みの200万円の返還と,特注のアクリルケースの契約の合意解除に要した8万円及び美術展の期間に甲をDに貸せば得られた賃料10万円の合計18万円の賠償を求めている。

Xは平成18年6月15日に訴えを提起し,解除による原状回復として200万円の支払を,債務不履行による損害賠償としてFへの転売の差額250万円の支払を請求した。
Xは,F名義の署名があるだけで押印のない文書(甲4号証)を提出し,Yは,第1回口頭弁論期日に,Fが覚えがないと言っていることを理由に甲4号証の成立を否認し(陳述①),12月12日のXの発言があったことを認めた。
弁論準備手続が3回の期日で終結した後の第2回口頭弁論期日において,Yは,支払済みの200万円は返してもらう旨の発言があったことを否認し(陳述②),仮にその発言があったとしても解除の意思表示に該当することは争うと陳述した(陳述③)。
その後,Yは早く訴訟を終わらせたいと考え,Xの側から,YがXの請求債権の存在を認めた上で仏像乙を代物弁済として譲渡することを前提に,訴えの取下げの合意(方法①),請求の放棄(方法②)又は訴訟上の和解(方法③)による解決が提案された。

2 設問が求めること

設問立場・対象指定・仮定・除外到達点
1L修習生がK弁護士に報告する。Ⅰの事実だけを考慮し,日本法を適用する。帰責事由がなくても解除できるという解釈論自体の当否と反訴は検討しない。Xの200万円の返還と18万円の賠償の法的構成と,これに対するYの反論
2陳述①~③の訴訟法上の効果Xが訴状で採用した実体法上の法律構成の当否は問わない。①は認否をしない場合との比較,②・③は攻撃防御方法としての許容性を含めた効果
3K弁護士の立場からYの利益を考える。第2回口頭弁論期日の前とする。訴訟費用は論じない。方法①~③のいずれをXの側に求めるべきか(訴訟法上の観点から)

第4 評価項目と重み

1 設問1

番号評価項目重み出題の趣旨採点実感
1振込みを承諾と評価し,XYの売買成立時点をAYの売買と区別する。4PDF4頁。解除の対象となる売買契約の締結PDF2頁。契約の締結の時点を正しく指摘できていない答案が多数あったこと
2無傷の甲を届ける義務の有無から,12月7日の持参が本旨に沿う提供かを判断する。5PDF4頁。Yの反論としての12月7日の適法な提供PDF1~2頁。12月7日の提供が適法であれば履行遅滞がないのではないか
3旧民法534条の適用又は修正を,損傷時期・所有権留保・輸送負担の事実に即して論じる。4間接(PDF4頁。12月7日の適法な提供と帰責の反論)間接(PDF1~2頁。12月7日の提供と不可抗力による免責の反論)
4Bの履行補助者性と運送業者の独立性を対置し,選任・監督上の過失の有無が結論を変える構成を示す。4PDF4頁。履行補助者性の否定と選任・監督上の無過失PDF2頁。運送人の独立性,選任監督上の過失
5鯨との衝突を仮説として扱い,Bの費用負担約束から事故原因や過失を断定しない。2間接(PDF4頁。不可抗力の反論)間接(PDF2頁。不可抗力による免責の反論)
612月7日と船便による猶予,2月末の限界から,当初の引渡期限を解釈する。3PDF4頁。履行期の延期合意の成立あるいは相当期間内の履行PDF2~3頁。履行期の延期の合意,相当期間の未経過
7修理を待つこと,航空便の費用を負担しないこと,納期を延期することを分け,延期合意の成否を論じる。4PDF4頁。履行期の延期合意の成立PDF2~3頁。延期の合意の議論は事実をつかめないとできないこと
8修理の着手・完了時期と復路の輸送方法・費用から,2月末までの催告期間の相当性を判断する。5PDF4頁。相当期間内の履行による履行遅滞自体の否定PDF2~3頁。相当期間内の履行,相当期間の未経過
912月12日の発言について,期間を示した催告と期限徒過を条件とする解除の意思表示を区別する。5PDF4頁。解除権の行使と解除の意思表示の否定PDF2~3頁。解除の意思表示が実際にされたか否か
10帰責事由を不要とする立場でも成り立つYの解除への反論を,履行内容・期間等の事実に即して示す。4間接(PDF4頁。Yの側からの反論)間接(PDF2頁。反論として多くのポイントを考えられること)
11展示・撮影の事情が売買契約の目的に組み込まれたかを踏まえ,定期行為性を判断する。4PDF4頁。定期行為の履行遅滞による解除(民法542条)と定期行為性の否定PDF1頁。本件契約が定期行為ではないのではないか
12契約後の損傷を旧民法570条で扱えるかを,瑕疵担保制度の趣旨に照らして論じる。4PDF4頁。瑕疵担保を理由とする解除と,制度の趣旨による瑕疵担保規定の不適用PDF1~2頁。制度趣旨からの不適用の問題。瑕疵担保解除を正しく指摘できていない答案
13瑕疵担保による解除について,隠れた傷の内容と契約目的を達成できるかを評価する。【適用条件】瑕疵担保による解除を検討するとき3PDF4頁。契約目的不達成要件の不充足PDF1頁。契約目的不達成という要件
14解除が有効な場合の原状回復として,Yによる内金200万円の返還を導く。4PDF4頁。履行遅滞を理由とする解除に基づく原状回復請求PDF1頁。支払済みの代金200万円の返還
1518万円の損害賠償の構成を,債務不履行と瑕疵担保に分ける。4PDF4頁。債務不履行に基づく損害賠償(民法415条)と瑕疵担保を理由とする損害賠償PDF1頁,3頁。二つの損害賠償の構成。損害賠償に触れない答案,簡略な答案
16ケース解約費用8万円について,解約の必要性と特注費用の予見可能性を具体的に論じる。4PDF4頁。損害の発生と数額,特別事情の予見不能(民法416条2項)PDF2~3頁。特別事情の予見可能性,アクリルケースの合意解除の費用
17賃料10万円について,展示・貸与の予見可能性と収益の確実性を具体的に論じる。4PDF4頁。損害の発生と数額,特別事情の予見不能PDF2~3頁。特別事情の予見可能性,得べかりし賃料
18ケース解約費用と賃料の同時請求について,賠償の基準となる利益状態の整合を検討する。3PDF4頁。信頼利益と履行利益の同時請求の矛盾PDF2頁。契約の清算を前提とする費用と履行を前提とする賃料は同時に成り立たないのではないか
19Xによる説明や解約時の対応で損害を軽減できたかを過失相殺の問題として検討する。3PDF4頁。債権者の損害軽減義務違反等による過失相殺PDF2頁。債権者の説明不足等と過失相殺

2 設問2(1)

番号評価項目重み出題の趣旨採点実感
20私文書の成立の真正を形式的証拠力の問題とし,提出者Xが証明すべきことを示す。4PDF4頁。擬制自白が成立しない場合の書証の成立の真正の証明PDF4~5頁。文書の形式的証拠力とXによる成立の真正の証明
21Fの自署の証明を前提に文書全体の真正を推定し,押印の二段の推定を適用しない。5PDF4頁。署名はあるが押印のない私文書と民事訴訟法228条4項の規律PDF4~5頁。Fの自署の証明による推定。押印がないのに二段の推定を適用した答案
22民訴法228条4項の推定を覆すには反証と反対事実の本証のどちらを要するか,推定の性質と結び付ける。【適用条件】Fの自署の証明により同項の推定が働くとき3間接(PDF4頁。民事訴訟法228条4項の規律を踏まえた説明)PDF4~5頁。反証で足りるか反対事実の証明を要するかは推定の性質による
23成立の真正が補助事実であることを根拠に,認否しない場合の擬制自白の成否を論じる。5PDF4頁。書証の成立に関する事実についての擬制自白の成否PDF5頁。補助事実であることの指摘と擬制自白の成否。補助事実の語が出てこない答案
24真正について証明を省ける場合があるかを,擬制自白の成否とは別に判断する。【適用条件】補助事実について擬制自白の成立を否定するとき4間接(PDF4頁。擬制自白が成立しない場合の成立の真正の証明)PDF5頁。擬制自白が成立しない場合の証明不要効

3 設問2(2)

番号評価項目重み出題の趣旨採点実感
25具体的発言と法的に構成された解除の意思表示のどちらを主要事実とするか,理由を示す。5PDF4頁。Xの従前の発言が主要事実に該当するか等の法的位置付けPDF5~6頁。生の事実と法的に構成された事実のいずれが主要事実か。理由を論じない答案
26②の自白の効力と撤回の条件を事実に即して論じる。【適用条件】具体的発言を主要事実とするとき4PDF4頁。自白の成否と従前の陳述の撤回可能性PDF6頁。撤回の可否と例外。事例に即して論じる姿勢が希薄な答案
27②の間接事実性と③の擬制自白・否認を整合的に扱う。【適用条件】解除の意思表示を主要事実とするとき3PDF4頁。法的位置付けと論理的に整合する自白・擬制自白の成否PDF5~6頁。後者の立場では③は主要事実の否認に当たること
28③を許される法律上の防御とし,初回の沈黙から擬制自白を導かない。【適用条件】具体的発言を主要事実とするとき4PDF4頁。法的位置付けと論理的に整合する擬制自白の成否PDF5~6頁。前者の立場では③は発言の法的評価に関する主張。法律上の主張は許されないとする答案
29②について,予定された本人尋問で足りるかを踏まえ,時機後れと訴訟完結の遅延を別に評価する。4PDF4頁。許容すると新たにどのような審理が必要になるかを踏まえた時機後れの判断PDF6頁。第2回口頭弁論期日の当事者本人尋問で賄えないかを考えて論じる答案が少数
30③について,法的評価を争うときに追加審理が必要かを踏まえ,時機後れによる却下を検討する。4PDF4頁。許容すると新たにどのような審理が必要になるかを踏まえた時機後れの判断PDF6頁。時機後れを事例に即して論じない答案

4 設問3

番号評価項目重み出題の趣旨採点実感
31裁判外の取下げ合意と取下げを区別し,実際に取り下げた場合の係属消滅と再訴の扱いを示す。5PDF4~5頁。訴えの取下げの合意の法的性質と効果PDF7頁。取り下げられた場合と取り下げられなかった場合の効果。取下げそのものと誤解した答案,再訴禁止効に言及した答案
32取下げに応じない場合,合意の法的性質と係属・訴えの利益への効果を矛盾なく結び付ける。4PDF4~5頁。訴えの取下げの合意の法的性質と効果PDF7頁。訴訟契約と位置付けながら訴えの利益なしとして却下するとした答案
33請求の放棄を期日で行い,調書記載により訴訟が終了することを説明する。4PDF4~5頁。請求の放棄の法的性質と効果PDF7頁。放棄の手続をとる合意と誤解した答案,放棄に基づいて請求棄却判決をするとした答案
34放棄調書の効力が本訴の請求に及ぶことと,別個の請求の範囲を区別する。4PDF4~5頁。既判力の有無や範囲PDF7頁。既判力の有無と範囲。範囲を論じない答案
35放棄後に乙の価値について錯誤が主張された場合,代物弁済の瑕疵と訴訟行為の効力を分ける。4PDF5頁。意思表示の瑕疵の主張等による紛争の蒸し返しPDF7頁。意思表示の瑕疵を主張して再訴された場合の扱い
36和解後に乙の価値について錯誤が主張された場合,和解調書の効力と瑕疵を争う余地を論じる。5PDF5頁。意思表示の瑕疵の主張等による紛争の蒸し返しPDF7頁。仏像という評価が後で問題になりやすい目的物による示唆。言及した答案が極めて少数
37和解の清算条項が,ケース解約費用等の訴訟物外の本件関連請求に及ぶことを論じる。5PDF5頁。再訴による新たな紛争の発生の可能性PDF7頁。清算条項とアクリルケースに関する請求等の新たな請求の可能性
38終了の速さと再燃防止をYの利益から比較し,適する方法と理由を示す。4PDF4~5頁。三つの方法を横断的に比較した長短PDF7頁。早く訴訟を終わらせたいYの立場からの選択

5 重みの分布

38項目の内訳は,重み5が9項目,重み4が22項目,重み3が6項目,重み2が1項目,重み1が0項目であり,重みの合計は153点である。
設問別では,設問1が19項目・73点,設問2(1)が5項目・21点,設問2(2)が6項目・24点,設問3が8項目・35点である。
問題文が示す配点の割合(10:6:4)に対し,重みの合計は設問1・設問2・設問3で73点・45点・35点であり,設問3の比重がやや大きい。

設問1の重み5(番号2・8・9)は,12月7日の提供の適否,催告期間の相当性,催告と解除の意思表示の区別である。
設問2の重み5(番号21・23・25)は,自署による文書全体の真正の推定,補助事実についての擬制自白,主要事実の捉え方である。
設問3の重み5(番号31・36・37)は,取下げの合意と取下げの区別,和解の効力を錯誤で争う余地,清算条項の範囲である。

第5 模範解答

1 答案の前提と表記

答案は,試験当時(平成19年5月18日)の民法及び民事訴訟法により,設問ごとに規範,事実の評価及び効果を示す。
答案の民法の条文は,平成29年法律第44号による改正前の民法(試験当時の民法)の条文であり,評価項目と解説の「旧民法」も同じ意味である。
設問1は,L修習生の報告として,Xの主張とYの反論を対置し,問題文の指示に従ってⅡ以下の事実を用いない。
答案では,最初の引用の後は民法・民事訴訟法の条文を条番号だけで示す。

2 答案

第1 設問1

1 売買契約と給付の内容

Yは9月28日,写真で示した特定物甲を,600万円でX宅に届け,完済時に所有権を移す旨を申し込んだ。
Xは即答しなかったが,10月1日に申込時の内金200万円を指定口座に振り込み,承諾の意思を実現したと解される(民法526条2項)。
YがAと売買契約を結んだのは10月6日であるから,当初は他人物売買であるが,契約は有効であり,Yは権利を取得してXに移転すべきである(民法560条)。

Xは,無傷の甲を自宅へ納める債務の履行を求め得ると主張する。
甲の外観は美術品としての価値に直結し,12月7日の甲には亀裂と塗りの剥落があり,扉の開閉にも支障があった。
特定物の現状引渡しを定める483条も,無傷での納品を合意した場合にその義務を排除しない。
この解釈では同日の持参は適法な提供ではなく(493条),納品と引換えの中間金は支払を拒める(533条)。

Yは,特定物の損傷が自己に帰責できなければXに危険が移る(534条1項)から,現状での提供で足り,履行遅滞はないと反論し得る。
損傷はYがAから取得した後であり,当初他人物売買だったことだけで適用は妨げられない。
ただしXは,完済まで所有権が移らず,Yが自己の費用で運送してX宅へ届ける約束をしたことから,少なくとも引渡しまで危険をYに留める合意だったと主張できる。
Yは,所有権留保は代金債権の担保であり,運送費負担と偶然損傷の危険負担は別であると争える。

Bへの交付時に甲は無傷であった。
鯨との衝突が原因で,Bに回避・損傷防止の過失もなければ,Yは不可抗力を主張できるが,衝突と損傷との関係は推測である。
Bの船賃・修理代負担の約束も事故原因や過失の自認とは限らない。
Yは,専門の運送業者Bには独立性があり,適切な梱包を依頼した以上,選任・監督に過失はないと反論できる。
他方,Yは,自らの費用でX宅へ届けるためにBに運送を委ねている。
Bを履行補助者と位置付け,その過失をYに帰責する構成では,Y自身に選任・監督上の過失がないことだけでは免責されない。

2 代金200万円の返還

Xはまず履行遅滞による催告解除を主張する(541条)。
メモの納品日は12月7日で,Xは船便の事情による1か月程度の遅れを容認したものの,2月末が最終期限だと伝えた。
Xはこの留保を含む合意が成立したと主張でき,Yは2月末はXの要望にとどまると争える。
傷ある甲の持参が適法な提供でなければ,合意された履行期を過ぎてYは遅滞となる。

Xの12月12日の発言は,修理済みの甲を2月末までに届けるよう求め,その期間に履行がなければ契約を解消して代金の返還を求める趣旨と読める。
相当期間の催告と,期間内に履行がないことを条件とした解除表示を兼ねるなら,期限経過で解除の効力が生じる(540・541条)。
Yは,12月12日には船便のための猶予期間中で,催告は早過ぎ,返金の発言も交渉上の警告にすぎないと争い得る。
1月25日の「それなら結構だ」も,契約打切りの確定的な通知とは限らない。
もっとも,催告が有効なら,3月7日に既に解除したとして受領を拒んだ言動自体からも解除表示を認める余地がある。

Yは,Xが修理を求め,航空便の要求を撤回したことを挙げ,修理と船便に必要な時期まで納期を延ばす合意があったと反論できる。
しかし,12月8日の同意は修理可否の照会を待つことであり,12月12日にもXは2月末を明言した。
1月25日の返答も追加運賃の負担を断る意味に読め,3月納品への承諾は認めにくい。
相当期間について,Yは着手待ち1か月,作業2週間,復路船便1か月を見込めば3月7日でも合理的と争える。
Xは,現に1月25日に修理は済み,往路同様に復路も航空便なら2月中に履行し得たと反論する。
Yの負担で適時にX宅に届ける合意であれば,Bの運賃補償が船便相当に限られることや航空便が高価であることだけで,費用をXに転嫁できない(485条)。

Yが同時履行を主張しても,Xは12月7日に中間金を準備しており,Yが本旨に従う給付を準備しない間は中間金等を現実に提供する必要はないと反論できる。
帰責事由が必要な立場では,当初の破損の帰責と,修理後に適時の輸送方法を採らなかったことの帰責を別々に判断する。
帰責を不要とする立場でも,Yは適法な提供,期限延期,催告期間の不足又は解除表示の欠缺を主張できる。
重大性を要求する立場では,修理で価値は回復し,2月末からの遅れは僅かであり,展示が契約目的に含まれないと争う余地もある。

Xは,撮影までに納品されなければ展示ができないとして,定期行為の無催告解除(542条)も主張できる。
Yは,展覧会の開催を知っていてもXの出展・撮影期限は聞いておらず,収集品としては後日も価値があるとして,契約上その時期が不可欠だったことを争うべきである。
Xはさらに,開梱して初めて分かった傷を隠れた瑕疵として解除を主張し得る(570・566条)。
Yは,隠れた原始的瑕疵を担保する制度を後発の運送損傷に及ぼすべきでなく,その処理は履行・危険負担の規律によると争える。
後発の傷を対象にする構成でも,Aによる修理で甲の価値を回復でき,契約目的を達成できないかは展示目的が合意されたかにもよる。
有効に解除されれば,Yは受領済みの200万円を原状回復として返還する(545条1項)。

3 18万円の損害賠償

Xは415条に基づき,Yの帰責事由ある不履行と各損害の因果関係を主張する。
解除しても賠償を妨げず(545条3項),解除が無効でも遅滞による賠償は別途成り立ち得る。
瑕疵担保が適用されれば,570・566条による賠償も別構成となる。

Xは,甲を保管するためEに20万円の特注ケースを発注し,甲が得られなくなって3月3日に8万円を払って解約したと主張する。
収集品の保管容器を用意することは通常想定できるといえるが,Yは特注や解約費用が特別事情であり,その予見可能性,解約の必要性と金額の相当性も争える(416条)。
Dへの貸与による賃料10万円は展示と撮影期限を前提とする。
Xは展示会のテーマと2月末の指定から予見可能だったと主張できるが,YはXの出展・有償貸与までは知り得ず,Dの支払の確実性も確認できないと反論する。

Yはさらに,契約清算を前提とするケース解約費用と履行による賃料利益とを同時に取るのは,異なる利益状態を重ねると争うべきである。
Xは,適時履行の仮定ではケースを利用でき,賃料も得られるとして,二つの損失が同一の利益状態を基準に重複なく立証できるかを明らかにする必要がある。
またXが展示期限の意味を早く説明し,解約前に納品見込みを確認していれば損害を避けられたかを検討し,避けられた分についてYは過失相殺を主張し得る(418条)。

第2 設問2

1 陳述①

成立の真正は,文書が作成名義人の意思に基づき作成されたことをいい,形式的証拠力の前提である。
①はFからの返答を理由とした成立の否認である。
提出者Xは真正を証明すべきであるが(民訴法228条1項),尋問や筆跡によりFの自署と証明すれば,文書全体の真正が推定される(同条4項)。
押印がないので,印影を起点とする二段の推定は働かない。
Yが推定を覆すには,立証責任を転換する法律上の推定と解すれば反対事実の本証を要し,証拠評価上の推定と解すれば反証で足りる。
真正が認められても,11月22日の申入れの書面が11月28日の成約を証明するかは別である。

Yが成立について沈黙した場合,補助事実にも159条1項を適用すれば擬制自白を認め得る。
他方,証拠の評価を裁判所に委ねるため,擬制自白の対象を主要事実に限るべきである。
この立場でも,真正に争いがなく疑いもなければ証明を省く扱いは可能だが,裁判所まで拘束して証明を不要とするものではない。
159条1項の適用説でも,契約否認の理由等から真正を争ったと認めるなら同項ただし書が働く。
否定説では,その事情と沈黙を247条の弁論の全趣旨として評価し,疑いが残るならXが証明する。

2 陳述②・③

12月12日の発言のうち,返金を求める部分の存否は,解除に当たるかという評価と分けて認定できる。
そこで具体的発言を主要事実と解する。
Yは第1回期日で自己に不利益なこの事実を認めたから,自白が成立して証明を要しなくなり(179条),裁判所もこれに拘束される。
立証を省けるとのXの信頼を保護するため,②の撤回も原則として許されない。
Xの同意,又は反真実と錯誤(反真実の証明から錯誤を推認し得る)等を基礎付ける事情は示されていない。
③は法的評価を争うもので,初回の沈黙にも擬制自白は成立せず,法律上の防御として許される。

反対に,解除意思表示という法的に構成された事実を主要事実とする立場では,具体的発言は間接事実で,②は自白の拘束を受けない。
③は主要事実の否認となる。
初回の沈黙について弁論の全趣旨から争ったといえず擬制自白が成立しても,明示の自白と異なり,原則として弁論終結まで争うことができる。

弁論準備終結後の提出については,相手方の求めがあれば終結前に出せなかった理由を説明する(174・167条)。
②の撤回を許容できる場合,Yが立ち会った会話の内容を準備の3期日に提出しなかった点は,故意・重過失による時機後れを基礎付け得る。
ただし,予定されたX・Y本人尋問で発言の有無を審理できれば終結は遅れず,追加証拠の準備に続行期日を要する場合に却下が問題になる(156・157条)。
③を法律評価の争いと捉える限り新たな証拠調べは通常不要である。
主要事実の否認と捉える場合も,既存の主張・当日予定の尋問で真意を審理できるかを検討し,準備終結後というだけで排斥しない。

第3 設問3

Yには③を勧める。
各案とも,Xの承諾を得て乙を引き渡し,代物弁済により請求債権を消滅させる前提である(民法482条)。
比較すべきは終了の確実性と紛争が再燃する範囲である。

①は裁判外の合意である。
Xが合意どおり書面等で訴えを取り下げ,本案の答弁を済ませたYが同意すると,係属は遡って消滅する(民訴法261・262条)。
本案終局判決前なので再訴禁止は生じず,既判力もない。
Xが取り下げない場合,合意に直接の終了効を認める訴訟契約説なら,裁判所は終了を宣言する。
私は,手続の明確性から合意だけでは係属は消えないと解する。
この立場でも,訴えを維持しない趣旨の合意が有効でその射程内なら,訴えの利益を欠くとして却下を求める余地がある。
いずれにせよ,既に乙を渡したYは,合意の成否や代物弁済を争われる負担を負う。

②は,Xが法廷で請求を放棄し調書に記載されることで訴訟を終わらせる(266・267条)。
既判力は本訴の請求に及ぶが(114条1項参照),Eへの解約費用8万円の賠償請求がFへの転売差額の賠償請求と別個の訴訟物であれば,その別訴は遮断されない。
乙の価値についてXが後から錯誤を主張しても,放棄は一方的な訴訟行為であり,代物弁済に錯誤があるという主張だけで放棄の効力が当然に失われるとは解されない。
もっとも,放棄という訴訟行為自体に意思表示の瑕疵があるとして争われる場合の扱いは別に問題となり,その限りで紛争が再燃するおそれは残る。

③は,債権の消滅と本件に関する債権債務の不存在を相互に確認し,和解調書に記載して訴訟を終える(267条)。
同じ請求の再争に対しては確定判決と同一の効力を主張でき,ケース解約費用等には清算合意の実体法上の効力が及ぶ。
もっとも,和解の既判力をその実体法上の有効性に依存させる立場では,乙の評価を前提とする旨が表示され,要素性等の民法95条の要件を満たして和解が無効なら,期日指定等で争われ得る。
確定判決と同様の安定性を重視する立場では,単なる錯誤の主張だけで同じ請求を再審理できず,認められる手続と要件によらねばならない。
乙の価値の見込み違いだけで直ちに錯誤無効となるわけでもない。
乙の引渡し,債権消滅と清算を同一期日に記録でき,従前の請求以外も解決できる③が,早期に紛争を終えたいYに適する。

以上

3 出題の趣旨・採点実感を踏まえた解説

(1) 答案と評価項目の対応

答案の第1(設問1)は番号1~19,第2の1(陳述①)は番号20~24,第2の2(陳述②・③)は番号25~30,第3(設問3)は番号31~38に対応する。
第1の1は契約の成立,提供の適否,危険負担及び履行補助者(番号1~5),第1の2は履行期,催告と解除,帰責事由,定期行為及び瑕疵担保(番号6~14),第1の3は損害賠償(番号15~19)を扱う。
重み3以下で条件の付かない番号5・6・18・19は,鯨との衝突の扱い(第1の1第4段落),当初の引渡期限(第1の2第1段落),同時請求の整合と過失相殺(第1の3第3段落)に対応する。
表の段落番号は,答案の各見出しの下の段落を数えたものである。

第4の重み5・4の項目及び条件付きの項目について,模範解答との対応を次の表に示す。

番号重み評価項目答案の該当箇所・留保
14振込みを承諾と評価し,XYの売買成立時点をAYの売買と区別する。第1の1第1段落。
25無傷の甲を届ける義務の有無から,12月7日の持参が本旨に沿う提供かを判断する。第1の1第2・第3段落。
34旧民法534条の適用又は修正を,損傷時期・所有権留保・輸送負担の事実に即して論じる。第1の1第3段落。
44Bの履行補助者性と運送業者の独立性を対置し,選任・監督上の過失の有無が結論を変える構成を示す。第1の1第4段落。
74修理を待つこと,航空便の費用を負担しないこと,納期を延期することを分け,延期合意の成否を論じる。第1の2第3段落。
85修理の着手・完了時期と復路の輸送方法・費用から,2月末までの催告期間の相当性を判断する。第1の2第3段落。
9512月12日の発言について,期間を示した催告と期限徒過を条件とする解除の意思表示を区別する。第1の2第2段落。
104帰責事由を不要とする立場でも成り立つYの解除への反論を,履行内容・期間等の事実に即して示す。第1の2第4段落。
114展示・撮影の事情が売買契約の目的に組み込まれたかを踏まえ,定期行為性を判断する。第1の2第5段落。
124契約後の損傷を旧民法570条で扱えるかを,瑕疵担保制度の趣旨に照らして論じる。第1の2第5段落。
133瑕疵担保による解除について,隠れた傷の内容と契約目的を達成できるかを評価する。【適用条件】瑕疵担保による解除を検討するとき第1の2第5段落。後発の傷を対象にする構成を採った場合の検討として示した。
144解除が有効な場合の原状回復として,Yによる内金200万円の返還を導く。第1の2第5段落末尾。
15418万円の損害賠償の構成を,債務不履行と瑕疵担保に分ける。第1の3第1段落。
164ケース解約費用8万円について,解約の必要性と特注費用の予見可能性を具体的に論じる。第1の3第2段落。
174賃料10万円について,展示・貸与の予見可能性と収益の確実性を具体的に論じる。第1の3第2段落。
204私文書の成立の真正を形式的証拠力の問題とし,提出者Xが証明すべきことを示す。第2の1第1段落。
215Fの自署の証明を前提に文書全体の真正を推定し,押印の二段の推定を適用しない。第2の1第1段落。
223民訴法228条4項の推定を覆すには反証と反対事実の本証のどちらを要するか,推定の性質と結び付ける。【適用条件】Fの自署の証明により同項の推定が働くとき第2の1第1段落。法律上の推定と解する立場と証拠評価上の推定と解する立場の帰結を示した。
235成立の真正が補助事実であることを根拠に,認否しない場合の擬制自白の成否を論じる。第2の1第2段落。
244真正について証明を省ける場合があるかを,擬制自白の成否とは別に判断する。【適用条件】補助事実について擬制自白の成立を否定するとき第2の1第2段落。擬制自白の対象を主要事実に限る立場を採ったので適用する。
255具体的発言と法的に構成された解除の意思表示のどちらを主要事実とするか,理由を示す。第2の2第1・第2段落。
264②の自白の効力と撤回の条件を事実に即して論じる。【適用条件】具体的発言を主要事実とするとき第2の2第1段落。具体的発言を主要事実とする立場を採ったので適用する。
273②の間接事実性と③の擬制自白・否認を整合的に扱う。【適用条件】解除の意思表示を主要事実とするとき第2の2第2段落。反対の立場を採った場合の帰結として示した。
284③を許される法律上の防御とし,初回の沈黙から擬制自白を導かない。【適用条件】具体的発言を主要事実とするとき第2の2第1段落末尾。具体的発言を主要事実とする立場を採ったので適用する。
294②について,予定された本人尋問で足りるかを踏まえ,時機後れと訴訟完結の遅延を別に評価する。第2の2第3段落。
304③について,法的評価を争うときに追加審理が必要かを踏まえ,時機後れによる却下を検討する。第2の2第3段落。
315裁判外の取下げ合意と取下げを区別し,実際に取り下げた場合の係属消滅と再訴の扱いを示す。第3第2段落。
324取下げに応じない場合,合意の法的性質と係属・訴えの利益への効果を矛盾なく結び付ける。第3第2段落。合意だけでは係属は消えないとする立場から,訴えの利益を欠くとして却下を求める余地を示した。
334請求の放棄を期日で行い,調書記載により訴訟が終了することを説明する。第3第3段落。
344放棄調書の効力が本訴の請求に及ぶことと,別個の請求の範囲を区別する。第3第3段落。解約費用の請求が別個の訴訟物である場合に限って遮断されないとした。
354放棄後に乙の価値について錯誤が主張された場合,代物弁済の瑕疵と訴訟行為の効力を分ける。第3第3段落。放棄という訴訟行為自体の瑕疵が争われる場合の扱いは留保した。
365和解後に乙の価値について錯誤が主張された場合,和解調書の効力と瑕疵を争う余地を論じる。第3第4段落。和解の既判力を実体法上の有効性に依存させる立場とそうでない立場の帰結を示した。
375和解の清算条項が,ケース解約費用等の訴訟物外の本件関連請求に及ぶことを論じる。第3第4段落。
384終了の速さと再燃防止をYの利益から比較し,適する方法と理由を示す。第3第1~第4段落。

(2) 設問1

出題の趣旨は,代金返還の法的構成の中心を履行遅滞を理由とする解除に基づく原状回復請求(民法541条)とし,定期行為の履行遅滞による解除や瑕疵担保を理由とする解除の構成も考えられるとした上で,解除の対象となる売買契約の締結,解除権を発生させる要件及び解除権の行使について,過不足なく事実を指摘して主張を構成することを求めている(PDF4頁)。
Yの反論としては,定期行為性の否定,瑕疵担保規定の不適用と契約目的不達成,12月7日の適法な提供,履行期の延期の合意又は相当期間内の履行,履行補助者性の否定と選任・監督上の無過失・不可抗力,解除の意思表示の否定等が挙げられ,損害賠償に対しては,特別事情の予見不能,信頼利益と履行利益の同時請求の矛盾,損害軽減義務違反等による過失相殺が挙げられている(同頁)。
答案は,番号1~14で契約の成立から提供の適否,危険負担,履行補助者,延期の合意,催告期間,解除の意思表示,定期行為及び瑕疵担保までを順に検討し,番号15~19で二つの損害賠償の構成,予見可能性,同時請求の整合及び過失相殺を検討した。
採点実感では,瑕疵担保解除と契約の締結の時点を正しく指摘できていない答案が多く,履行期の延期の合意,相当期間の未経過,解除の意思表示がされたか否かといった事実に即した反論の構成で力の差が大きく開き,損害賠償に触れない答案や簡略な答案が少なくなかったとされている(PDF2~3頁)。
旧民法534条の適用と修正(番号3)は,公式資料に記載のない補足であり,12月7日の提供の適否と帰責の反論を支える本記事の分析である。

(3) 設問2

出題の趣旨は,設問2が自白,擬制自白及び自白の撤回についての民事訴訟法の理解を主として試すものであるとし,陳述①については,署名はあるが押印のない私文書を題材に,書証の成立に関する事実についての擬制自白の成否を論じた上で,擬制自白が成立しない場合の成立の真正の証明を民事訴訟法228条4項の規律を踏まえて説明することを求めている(PDF4頁)。
陳述②・③については,Xの従前の発言が主要事実に該当するか等の法的位置付けを具体的に検討した上で,自白・擬制自白の成否と撤回の可能性を論理的に整合するように導き,時機に後れた攻撃防御方法として却下されるかを,許容すると新たにどのような審理が必要となるかを踏まえて論じることが求められている(同頁)。
答案は,番号20~24で,Fの自署の証明による推定,推定の性質と反証・本証,補助事実についての擬制自白と証明を要しない扱いを分けて論じた。
番号25~30では,具体的な発言を主要事実とする立場を理由とともに示し,その立場から②の自白の撤回と③の法律上の主張を扱った上で,反対の立場の帰結も示し,予定された当事者本人尋問で足りるかを踏まえて時機後れを検討した。

採点実感では,陳述①について,Fの自署であることの証明が必要なことを理解していない答案や,押印がないのに二段の推定を適用した答案が相当多数あり,補助事実という言葉が出てこない答案も多かったとされている(PDF5頁)。
陳述②・③については,Xの発言を主要事実とする理由を論じない答案,発言を催告と理解して陳述③の論述と齟齬を来す答案,時機後れを事例に即して論じない答案及び法律上の主張は攻撃防御方法として許容されないとする答案が指摘されている(PDF6頁)。

(4) 設問3

出題の趣旨は,訴えの取下げの合意,請求の放棄及び訴訟上の和解について,紛争の解決を希望する被告の視点から,法的性質,既判力の有無や範囲等の法的効果を踏まえ,意思表示の瑕疵の主張等による紛争の蒸し返しや再訴による新たな紛争の発生の可能性を本件に即して検討し,横断的に比較して長短を論じることを求めている(PDF4~5頁)。
答案は,番号31・32で取下げの合意と実際の取下げを分け,番号33~35で放棄の手続,既判力の範囲及び錯誤の主張との関係を,番号36・37で和解の効力を錯誤で争う余地と清算条項の範囲を検討し,番号38で方法③を選んだ。
採点実感では,評価が後で問題になりやすい仏像を目的物とすることで示唆した意思表示の瑕疵に言及する答案や,清算条項との関係でアクリルケースに関する請求のような新たな請求に言及する答案が少なかったとされ,訴えの取下げの合意を取下げそのものと誤解した答案や,終局判決前の合意なのに再訴禁止効に言及した答案も指摘されている(PDF7頁)。
放棄の後に代物弁済の錯誤が主張された場合の扱い(番号35)は,ヒアリングが検討を求める事項であるが,放棄の効力が当然には失われないとする答案の結論は本記事の理解であり,公式資料が述べるものではない。

(5) 答案の弱点と扱わなかった事項

運送事故の具体的な経緯と,展示の予定についてのYの認識は問題文上確定していないため,答案はこれらを条件付きで扱い,18万円全額の回収を断定していない。
請求の放棄の意思表示自体の瑕疵を理由に効力を争えるか,和解の既判力の範囲をどう解するかについて,答案は立場による帰結の違いを示すにとどめ,Yにとっての再燃の危険の大小を比較した。
帰責事由がなくても解除できるという解釈論自体の当否,反訴及び訴訟費用は,問題文の指示により扱っていない。
平成29年の民法(債権関係)改正後の規律は答案に用いていない。

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第7 出典

1 公式資料

①法務省「論文式試験問題集[民事系科目]」(平成19年新司法試験)(PDF9~16頁の第2問)
②法務省「平成19年新司法試験論文式試験問題出題趣旨」(PDF4~5頁の民事系科目第2問)
③法務省「新司法試験考査委員(民事系科目)に対するヒアリング概要」(PDF1~4頁の民法,4~8頁の民事訴訟法。司法試験委員会第40回(平成19年9月12日)の議事要旨として掲載)
④法務省「平成19年新司法試験の実施日程等について」(平成18年9月20日司法試験委員会決定。PDF1頁の試験日程)

2 法令

①民法の一部を改正する法律(平成16年法律第147号)(衆議院)
②民事訴訟法(平成8年法律第109号)の制定時の条文(衆議院)

試験日当時の版はe-Gov法令検索で閲覧できないため,民法は上記の現代語化後の条文と,e-Gov法令検索で閲覧できる最も古い版(平成28年10月13日施行版)とを,民事訴訟法は上記の制定時の条文と,e-Gov法令検索で閲覧できる最も古い版(平成24年10月1日施行版)とを照らし合わせた。
答案で用いた民法95条,415条,416条,418条,482条,483条,485条,493条,526条2項,533条,534条1項,540条~542条,545条,560条,566条及び570条並びに民事訴訟法114条1項,156条,157条,159条1項,167条,174条,179条,228条,247条,261条,262条,266条及び267条の内容は,両方の版で答案に関わる部分が同じである。

3 裁判例

答案は特定の裁判例の結論を前提とせず,問題文の事実と試験当時の条文に基づいて,許容される構成を比較した。

4 留意事項

出題の趣旨はPDF4~5頁の民事系科目〔第2問〕の部分を,採点実感はヒアリング概要のPDF1~4頁の民法及び4~8頁の民事訴訟法の部分を,評価項目の根拠とした。
平成19年の民事系科目の採点実感等は,司法試験委員会第40回の議事要旨に掲載された考査委員に対するヒアリングの概要として公表されており,採点実感欄に示した答案の傾向は考査委員の所感である。
答案と解説は試験当時の法令によっており,平成29年の民法(債権関係)改正後の規定は用いていない。
評価項目,重み,答案の構成と結論は本記事独自の分析であり,出題の趣旨・採点実感が述べる内容とは,第4の根拠欄及び第5の3で区別して示した。