第1 この記事の対象と結論
平成19年新司法試験の刑事系科目第2問(刑事訴訟法)では,住宅街の駐車場で連続して発生した車両放火事件の捜査として警察が行った,駐車場と被疑者方前の公道上のビデオ撮影・録画の適法性(設問1)と,被告人の前科に関する事実を被告事件の犯人であることの認定に用いることの可否(設問2)が問われた。
出題の趣旨によれば,設問1は「捜査」の意義,任意捜査と強制捜査の区別基準及びその区別に即したビデオ撮影・録画の適法性判断基準と具体的事実への当てはめを,設問2は前科から悪性格を介して犯人であることを推認させる推認過程と,特殊な犯行方法・態様等の共通性から推認させる推認過程との違いを問うものである。
この記事は,法務省の出題の趣旨と,考査委員が採点実感等を述べた刑事系科目のヒアリングの概要を基に21の評価項目を設け,そのうち5項目を重み5とした。
評価項目と重みは本記事独自の整理であり,法務省の採点基準や配点を示すものではない。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 対象 | 平成19年新司法試験論文式試験・刑事系科目第2問(刑事訴訟法) |
| 問題文 | 論文式試験問題集[刑事系科目](PDF5~7頁の第2問) |
| 試験日・答案の基準 | 平成19年5月19日(刑事系科目の論文式試験)。答案は試験当時の法令と判例による。 |
| 出題の趣旨 | 平成19年新司法試験論文式試験問題出題趣旨(PDF5~6頁の刑事系科目〔第2問〕) |
| 採点実感 | 新司法試験考査委員(刑事系科目)に対するヒアリングの概要(PDF3~5頁の刑事訴訟法の報告と,PDF5~6頁の質疑) |
| 主な事項 | 「捜査」の意義,強制処分と任意処分の区別,任意捜査の限界(必要性・緊急性・相当性),ビデオ撮影・録画,前科に関する事実による犯人性の推認 |
| 評価項目 | 21項目。重み5は5項目,重みの合計は84。 |
| 主な裁判例 | 強制手段の意義と任意捜査における有形力の行使の限度について,最高裁昭和51年3月16日第三小法廷決定。みだりに容ぼう等を撮影されない自由と写真撮影の許容限度について,最高裁昭和44年12月24日大法廷判決。 |
| 答案の分量 | 4172字(見出しを含み,空白及び改行を除く。) |
| 法令の基準 | 試験当時の刑事訴訟法による。前科証拠に関する最高裁平成24年9月7日第二小法廷判決は試験後の判例であり,答案では用いていない。 |
| 資料の確認日 | 令和8年11月7日 |
本稿の答案は,次の放火を待ち受ける駐車場の撮影・録画も,既に発生した3件の放火の犯人と証拠を得るための捜査に当たるとした上で,駐車場と被疑者方前のいずれの撮影・録画も強制処分には当たらず,必要かつ相当な任意捜査として適法であるとする。
設問2では,前科から犯罪性向を経て犯人性を推認することは許されないとしつつ,前犯と本件に共通する特殊な手口の組合せから同一人性を推認する用途に限り,前犯の具体的な行為態様を犯人性の認定に用いることができるとする。
重み5の5項目は,次の放火を待ち受ける録画が既発事件の捜査に当たるか(番号1),撮影が強制処分に当たるか(番号3),任意捜査としての限界をどう導くか(番号4),前科から悪性格を経由する推論の弱さと弊害(番号18),特殊な手口の共通性による推認経路の区別(番号19)である。
第3に事実関係と設問の要求,第4に評価項目と重み,第5に答案と解説,第7に出典を置く。
第2 評価項目の示し方と重み付けの基準
1 評価項目の示し方
評価項目は,出題の趣旨と採点実感の指摘を,答案の記載から判定できる単位に言い換えた本記事独自の基準である。
表の番号は記事全体で通している。
出題の趣旨・採点実感の欄は,法務省が公表したPDFの頁と,関連する記載の要旨である。
平成19年の刑事系科目では,採点実感等は司法試験委員会第41回(平成19年10月3日)の考査委員に対するヒアリングの概要として公表されているので,採点実感欄はその刑事訴訟法部分の頁と要旨を示す。
刑事訴訟法の考査委員は,ヒアリングの中で,公表された出題の趣旨の要点と補充説明も述べているので,採点実感欄にはその箇所も含めた。
一方の資料に対応する記載がない場合は「記載なし」,一般的な指摘から導く場合は「間接」,公式資料の一般的な指示を問題文の事実に即して具体化した場合は「具体化」と表示する。
結論の方向が定められていない箇所では,採用した立場の理由と事実の評価を判定の対象とする。
2 5段階の重み付けの基準
| 重み | 判断基準 |
|---|---|
| 5 | その設問の判断を大きく分ける核心 |
| 4 | 結論を理由付きで支える主要な論証・当てはめ |
| 3 | 通常押さえる法的処理・事情の評価 |
| 2 | 論証を補強する説明・個別事情・誤りの注意 |
| 1 | 補充的な引用・記述範囲の確認 |
重みとその合計は本記事独自の整理であり,法務省の配点,採点基準又は得点の目安を示すものではない。
第3 本問の概要
1 問題文と事実関係
A市B町は約1キロメートル四方の住宅街であり,平成19年3月7日にP駐車場で,同月16日にQ駐車場で,それぞれ駐車中の車両1台から不審火が発生した。
いずれも早期に消火されて出火元の車両を焼損するにとどまったが,両駐車場は多数の木造住宅に隣接し,管理人が常駐せず,誰でも自由に出入りできる屋根のない駐車場であった。
焼損した車両はいずれもC社製高級外車で,ドアに鋭利な金属様の物による複数のひっかき傷があり,前部バンパー付近からベンジンの成分が検出された。
Q駐車場での出火の前日の午前3時頃に,B町内に住む甲が,駐車区画を賃借していない同駐車場内をしばらく歩き回っていたことが判明したが,それ以上に犯人の特定につながる証拠は得られなかった。
同月21日には,R駐車場でも,焼損したC社製高級外車のドアに出火前にはなかったひっかき傷があり,前部バンパー付近からベンジンの成分が検出される不審火が発生した。
警察は,同月22日,B町内のS,T及びU駐車場にもC社製高級外車が駐車されていることを確かめた。
これらの駐車場は夜間の人通りが極めて少なく,出入口を除く三方を木造住宅に囲まれ,出入口に面した公道の幅員は5メートル程度であり,犯人に気付かれずに警察官を張り込ませることは極めて困難であった。
警察は,同月23日,S,T及びUの各駐車場付近の電柱に,出入口を画面の中心にとらえるカメラとC社製高級外車を画面の中心にとらえるカメラの2台ずつを設置し,翌24日から毎日午前零時から午前5時まで撮影・録画した。
設置には駐車場の管理人と電柱を管理する電力会社の承諾を得たが,駐車場利用者の承諾は得ておらず,令状も取得していなかった。
同月25日には,R駐車場での出火直後に甲とよく似た人物が瓶を持って走り去るのが目撃されていたこと,甲のアルバイト先のクリーニング店でベンジンの瓶数本がなくなっていたこと,甲が友人にR駐車場のC社製の車に言及していたことが判明した。
警察は,同月26日,隣家Fの承諾を得てF方2階のベランダにカメラを設置し,同月27日から毎日午前零時から午前5時まで,甲方玄関ドアから出た直後又は入る直前の人物の公道上の姿をアップで撮影・録画した。
撮影範囲の横幅は公道の幅員の約3分の1で,通行人がいればその姿も録画される状況であった。
警察は,撮影当日にテープを回収して映像を精査し,捜査上必要な映像がなかったテープは次の撮影に使って上書きしていた。
同月28日午前3時30分頃にS駐車場でC社製高級外車が放火され,その様子が録画されていたが,犯人の人相は帽子とマスクのため判別できなかった。
甲方前の録画には,同日午前3時7分と午前3時55分に,放火犯人と服装・体格が酷似した甲の姿が映っていた。
甲は,同年4月2日,S駐車場における建造物等以外放火の容疑で逮捕され,同月20日に起訴されたが,公判で犯行を否認した。
甲には,C社日本法人に不採用とされたことを逆恨みし,平成16年3月3日に,屋根のない駐車場で第三者所有のC社製高級外車のドアに折りたたみ式ナイフで複数のひっかき傷を付けた上,前部バンパー付近にベンジンを散布して火をつけたという器物損壊の前科があった。
この事件では公共の危険は発生しておらず,甲は懲役1年6月,3年間執行猶予の有罪判決を受けていた。
2 設問が求めること
| 設問 | 立場・対象 | 指定・範囲 | 到達点 |
|---|---|---|---|
| 1 | 警察による駐車場と甲方前の撮影・録画 | 事例の1から7までの記載に表れた具体的事実を摘示する。 | それぞれの撮影・録画の適法性 |
| 2 | 甲を被告人とする建造物等以外放火被告事件の公判 | 事例の8記載の前科に関する事実を,同被告事件の犯人は甲であるとの認定に用いる。 | その認定に用いることが許されるか |
第4 評価項目と重み
1 設問1 ビデオ撮影・録画の適法性
| 番号 | 評価項目 | 重み | 出題の趣旨 | 採点実感 |
|---|---|---|---|---|
| 1 | 既発事件の犯人・証拠を求める目的を示し,次の放火を待ち受ける録画が刑訴法上の捜査に当たると説明する。 | 5 | 6頁。「捜査」の意義 | 間接(3頁。犯罪捜査目的のビデオ撮影の法的性質を決定し,法解釈によって適法性の要件を導くこと) |
| 2 | 刑訴法197条1項の本文とただし書の役割を区別し,強制処分を特別の根拠のあるものに限る理由を説明する。 | 4 | 6頁。関連規定の構造と,なぜ「強制」の処分には特別の根拠規定が要請されているのか | 4頁。関連条文から解釈論を展開せず,何の理由もなく抽象的な判断基準を設定する答案が多かったこと |
| 3 | 意思の制圧と重要な権利利益の実質的制約に着目して,無形・秘匿の撮影を強制処分か任意捜査かに分類する。 | 5 | 6頁。判例の示す「強制」手段の定義や判断基準の背後にある考え方と,強制捜査と任意捜査の区別基準 | 3頁。強制手段の意義と,強制捜査と任意捜査との区別 |
| 4 | 任意捜査でも制約される私生活上の利益を示し,必要性・緊急性と方法の相当性を検討する理由を説明する。 | 5 | 6頁。任意処分であっても一定の限界があり得る理由と,必要性・緊急性や相当性等の適法性判断基準 | 3頁。各捜査手段の適法要件。4頁。判例法理の理由,根拠に着目せず結論部分のみを覚え込む教育への懸念 |
| 5 | 機器設置への第三者の承諾と,被撮影者の私生活上の利益に対する承諾の有無を区別する。 | 2 | 具体化(6頁。具体的事実関係を的確に抽出,分析して該当性を判断すること) | 間接(3頁。事実関係の抽出と分析と当てはめ) |
| 6 | P・Q・Rの時期,場所,対象車,手口の共通性から同一犯による連続放火の可能性を根拠付きで示す。 | 4 | 6頁。3件の放火事件が発生時期,発生場所,放火対象物,放火の態様等において類似し,同一犯人による連続放火事件である可能性が高いことの論証 | 間接(4頁。法解釈に即して事実を抽出し,分析し,位置付けること) |
| 7 | S・T・Uにおける次の放火の具体的蓋然性を,先行現場との類似と駐車車両の状況から示す。 | 4 | 6頁。同一犯人による同種手口の放火事件が発生する蓋然性が高いと認められる駐車場 | 間接(3頁。与えられた事実関係の当てはめ) |
| 8 | 木造住宅や駐車車両への延焼のおそれと,次の機会を逸したときの証拠確保の困難さを評価する。 | 3 | 具体化(6頁。任意手段の必要性・緊急性) | 間接(3頁。与えられた事実関係の当てはめ) |
| 9 | 撮影開始時に甲に対する個別嫌疑が限られ,発覚しない張込みも難しいことを,場所を絞る録画の必要性に結び付ける。 | 4 | 具体化(6頁。駐車場と被疑者方前とで論じるべき具体的事実関係が異なること) | 間接(3頁。与えられた事実関係の当てはめ) |
| 10 | 出入口用と車両用の画角を区別し,各カメラで得る証拠と無関係者・隣接車の写込みを比較して方法の相当性を判断する。 | 4 | 具体化(6頁。それぞれの事実が持つ意味を的確に分析して論じること) | 間接(3頁。与えられた事実関係の当てはめ) |
| 11 | 深夜5時間への限定と,鮮明な反復録画の回収・精査,必要映像を含まないテープの上書きを,侵害の程度に結び付ける。 | 3 | 具体化(6頁。相当性等の判断基準への該当性) | 間接(3頁。与えられた事実関係の当てはめ) |
| 12 | 甲方前の必要性について,P・Q・Rの同一犯性を中間前提として,甲と各事件の接点及び接点の強弱を段階的に評価する。 | 4 | 6頁。連続放火事件である可能性を論証した上で,各放火事件と被疑者を結び付ける個々の事実関係に言及して嫌疑の程度を論じれば,極めて優れた分析といえること | 間接(4頁。事実関係の抽出や分析ができず,問題文の書き写しにとどまる答案が多かったこと) |
| 13 | 3月25日に得た目撃,勤務先のベンジン瓶紛失及び車の所在に関する発言を,確実性の限界も含めて甲の嫌疑に結び付ける。 | 4 | 6頁。各放火事件と被疑者を結び付ける個々の事実関係 | 間接(4頁。事実関係の抽出や分析ができず,問題文の書き写しにとどまる答案が多かったこと) |
| 14 | 玄関や室内を撮らないことと,玄関の出入り・訪問者をアップで識別できることを両面から評価する。 | 4 | 具体化(6頁。被疑者方前公道上の撮影・録画で論じるべき具体的事実関係) | 間接(3頁。与えられた事実関係の当てはめ) |
| 15 | 甲の出入りを録画して現場映像と照合する捜査上の意味を,張込みの困難さを踏まえて示す。 | 4 | 具体化(6頁。被疑者方前公道上の撮影・録画の必要性) | 間接(3頁。与えられた事実関係の当てはめ) |
| 16 | 自ら立てた基準に従って,駐車場の撮影と甲方前の撮影それぞれの適法性まで論じる。 | 4 | 6頁。自らが論じた判断基準等に従い,駐車場と被疑者方前の撮影・録画の違いに即して該当性を判断すること | 3頁。法解釈によって適法性の要件を導き,事実関係を当てはめて適否を判断すること |
2 設問2 前科に関する事実の使用
| 番号 | 評価項目 | 重み | 出題の趣旨 | 採点実感 |
|---|---|---|---|---|
| 17 | 前科の内容をS事件の犯人性に用いるという立証目的を固定し,証拠の使用可否と最終的な有罪認定を区別する。 | 3 | 6頁。前科に関する事実を,被告人が被告事件の犯人であることの認定に用いることが許されるか | 3~4頁。前科の内容となっている犯行の態様,方法を犯人性の立証に用いることができるか |
| 18 | 前科から悪性格・犯罪性向を経て今回の実行者とする推論を示し,その弱さと偏見等の弊害を説明する。 | 5 | 6頁。前科に関する事実を公訴事実の認定に用いる場合に生じ得る問題点や弊害と,悪性格の立証を介する推認過程 | 4頁。前科の内容たる事実から犯人性に至る推論の過程を分析し,その合理性,適否を具体的に検討すること |
| 19 | 特殊な手口の共通性から犯人の同一性を推認する経路を,悪性格を介する経路から明確に分ける。 | 5 | 6頁。特殊な犯行方法・態様等の共通性に着目する推認過程との違いを明確に意識すること | 3~4頁。非常に特殊な犯行の態様,方法を,酷似した態様で実行された放火の犯人性の立証に用いること |
| 20 | ドアへの反復加傷,C社製高級外車という対象の共通性,燃料,散布部位,順序等の組合せを比較し,各要素の一般性と組合せの識別力を評価する。 | 4 | 6頁。前科に関する事実を犯人であることの認定に用いる際の推認の過程の具体的な検討 | 3~4頁。非常に特殊な犯行の態様,方法 |
| 21 | 罪名や公共の危険,時期・動機の相違が手口比較に与える影響を検討して,当該前科事実を用いる可否まで示す。 | 4 | 6頁。この事実を認定に用いることの可否 | 4頁。推論の合理性,適否を具体的に検討すること |
3 重みの分布
21項目の内訳は,重み5が5項目,重み4が12項目,重み3が3項目,重み2が1項目,重み1が0項目であり,重みの合計は84点である。
設問別では,設問1が16項目・63点,設問2が5項目・21点である。
問題文は第2問全体の配点(100点)だけを示しており,設問ごとの配点の割合は示していない。
重み5の5項目は,次のとおりである。
①番号1は,次の放火を待ち受ける撮影・録画が刑事訴訟法の規律を受ける「捜査」に当たるかを決める入口である。
②番号3は,撮影・録画が法律の特別の根拠を要する強制処分に当たるかを決める分岐である。
③番号4は,任意処分としての撮影・録画の適法性を判断する基準を理由とともに導く部分であり,出題の趣旨は,基準の結論部分を記述しただけでは法解釈とはいえず不十分であるとしている(6頁)。
④番号18と番号19は,前科に関する事実から犯人性を推認する二つの推認過程を区別する項目であり,出題の趣旨はその違いを明確に意識して論じることを求めている(6頁)。
主要な論証と当てはめは重み4に,延焼のおそれ,テープの保存方法及び立証目的の確認は重み3に,機器の設置に対する承諾の範囲は重み2に整理した。
第5 模範解答
1 答案の前提と表記
答案は,試験当時(平成19年5月19日)の刑事訴訟法と,その時点までの判例による。
答案では,刑事訴訟法を「刑訴法」と略記する。
設問2は,試験後の最高裁平成24年9月7日第二小法廷判決を用いず,証拠裁判主義と推論の合理性から構成した。
2 答案
第1 設問1
1 判断枠組み
刑訴法189条2項は,司法警察職員が犯罪があると思料するとき,犯人と証拠を捜査するものとする。
S・T・U駐車場の撮影には新たな放火の予防にも資する面がある。
しかし,既にP・Q・Rで共通の手口による犯罪が疑われ,次の犯行を撮って同一犯を特定し,既発事件の証拠を得るという具体的な結び付きがある。
甲方前の撮影も,これらの事件に関する甲の嫌疑を確かめるためのものである。
いずれも刑訴法上の捜査に当たる。
警察は,S・T・U駐車場及び甲方玄関前の公道を,被撮影者の承諾も令状もなく撮影・録画した。
管理人,電力会社及びFの承諾は機器の設置場所についてのもので,撮影される者の承諾を代替しない。
刑訴法197条1項本文は捜査目的を達するため必要な取調べを認め,ただし書は強制処分を同法に特別の定めがある場合に限る。
重大な権利制約を捜査官の判断だけに委ねず,法律で対象・要件・方法を画して権利を保障する趣旨である。
最決昭和51年3月16日は,有形力の行使の有無ではなく,個人の意思を制圧し,身体・住居・財産等に制約を加えて強制的に捜査目的を実現するなど,特別の根拠規定がなければ許容することが相当でない手段を強制手段と捉えた。
秘匿撮影にもこの趣旨が及ぶ。
気付かれない方法で拒む機会を失わせて情報を取得する場合にも,撮影対象の私的性質,撮影の範囲・継続性,録画の蓄積から,意思に反して重要な権利利益を実質的に制約するかを判断する。
強制処分に当たるなら,必要性だけで実施は正当化されない。
本件では検証等の令状を取得しておらず,強制処分として実施を許す法的根拠が示されていない。
任意捜査にも限界がある。
京都府学連事件の最大判昭和44年12月24日は,憲法13条が公権力から私生活上の自由を守る趣旨を踏まえ,容貌等をみだりに撮影されない自由を認めた。
撮影は有形力を加えなくてもこの利益を制約するため,同項本文の必要性を,捜査目的の重大性,証拠保全の必要性・緊急性,代替手段及び被撮影者の負担を踏まえて具体化し,目的との関係で相当な限度の方法だけを許す。
同大法廷判決は,犯罪が現に行われ又は行われて間がない場合に,証拠保全の必要性・緊急性があり,方法が相当なら,同意も令状もない写真撮影が許され得るとした。
本件は,発生を待ち受けて反復録画するため,その時間的条件をそのまま満たさない。
しかし,同判決が扱った現場での写真撮影と事案が異なり,同判決が示した利益衡量の趣旨から,時間的接近をあらゆる撮影の一律の要件とは解しない。
犯罪が起きてから機器を設置したのでは一瞬の犯行を記録できない一方,事前録画は事件と無関係な人も写す。
同判決が第三者の撮影を認めたのは,犯人や対象物の近くにいて除外できない場合である。
本件では犯行のない時間帯にも利用者や通行人を記録するため,画角,時間帯及び保存方法を別に吟味する必要がある。
そこで,既発事件と将来の行動との結び付き,次の犯行を具体的に予測できる程度,事前録画の代替手段及びその範囲・時間を検討する。
2 S・T・U駐車場の撮影・録画
駐車場には誰でも入れ,出入口と対象車は公道から見える。
顔・服装が鮮明に記録され,通常の利用者も撮影されるが,撮影の中心は出入口と特定車両であり,私的な空間内の活動や特定人の生活全般を継続して追うものではない。
したがって,強制処分には当たらない。
3月23日の設置及び翌日からの録画の時点では,約1キロメートル四方の住宅街で,7日・16日・21日の深夜に3件が生じていた。
いずれも自由に出入りできる屋根のない駐車場で,焼損したC社製高級外車に出火前にはなかった複数の傷があり,前部バンパー付近からベンジン成分が検出された。
自然発火の原因もない。
この組合せと時間・場所の近接から,同一人による連続放火の嫌疑が強く,同型の場所にある同社製高級外車が再び狙われる具体的な危険がある。
S・T・Uは木造住宅に囲まれ,夜間には駐車区画がほぼ埋まる。
P・Qでは早期消火で延焼を免れたが,次も早期に消火できるとは限らない。
犯人を特定して既発事件を解明する証拠を確保する必要は大きく,次の機会を逸すれば現場の映像を後から得ることはできない。
他方,この時点の甲に関する事情は,Q駐車場で出火前日の午前3時頃に歩き回ったことや居住・勤務等であり,捜査対象を甲に絞り込めるほどの裏付けは乏しい。
人通りが少なく,幅員約5メートルの公道に面していて,発覚せずに張り込むことも極めて難しい。
出入口用は出入りした人物を捉え,対象車用は車体に対する行動を捉える。
出入口用は車両及び公道を含まず,対象車用の写込みは隣接車の一部にとどまる。
周辺の駐車場全般に広げず,各夜の録画は先行3件が集中する午前零時から5時までに限った。
鮮明な録画は人物や服装の識別に役立つ反面,無関係者の情報を残すが,警察は撮影当日にテープを回収・精査し,捜査に必要な映像を含まないテープを次の撮影で上書きした。
必要映像と同じテープに写った無関係者の映像まで消去したとはいえない。
以上から,各駐車場の録画は,事前設置を含めて必要かつ相当な任意捜査であり,適法である。
3 甲方前の撮影・録画
玄関前を定点でアップ撮影し,甲の出入りや来訪者を識別可能な形で蓄積するため,公道上でも私生活への負担は駐車場撮影より重い。
もっとも,玄関や住居内部を写さず,出入りの直前直後の公道上の姿を,幅員の約3分の1,深夜の5時間に限定して記録する。
行き先や日中の生活全体は捉えず,捜査に必要な映像を含まないテープは上書きしている。
甲方前での録画は3月27日からであり,終了日は与件から確定できない。
記録内容と本件で確認できる実施態様に照らし,強制処分とする程度の実質的制約には至らない。
3月26日の設置時には,先に述べたとおりP・Q・Rを同一犯によるものと疑う強い根拠があった。
その上で甲との接点をみると,Q駐車場では,出火の約25時間前の午前3時頃に,甲が区画を借りていないのに場内を歩き回っており,下見を疑わせる。
R駐車場では,出火直後に,約200メートル離れた路上で,500ミリリットル程度の瓶を持ってR駐車場の方向から走り去る甲によく似た人物が目撃されていた。
甲の勤め先では同容量のベンジン瓶が数本なくなり,甲はR駐車場にC社製の車があったことを友人に話していた。
Q駐車場を歩いたことや車の所在に言及したことだけでは弱く,R駐車場の目撃も同定は確実でない。
瓶の紛失も甲による持出しを直接示さない。
しかし,Q・Rに関するこれらの事実が共通する手口と符合し,甲と直接結び付く事情が乏しいPを含めても,同一犯とみる根拠を介して,甲が一連の犯人である嫌疑は相当に強い。
犯行が予想される時間帯に甲の外出・帰宅時刻や服装・体格を撮り,駐車場での犯行と照合する必要がある。
玄関のすぐ前は幅員約5メートルの公道で,ひそかな張込みも極めて困難である。
無関係の通行人の写込みや訪問関係の記録は残る。
駐車場映像だけでは犯人の顔が隠れている場合などに同一人の識別が困難であり,犯行の場所だけを撮る方法では外出時刻・服装の照合に代えられない。
他方,狭い画角と時間帯の限定が取得する情報の範囲を抑え,上書きの運用も捜査に不要なテープを継続して保管する負担を減らす。
甲方前の録画も,示された態様の限度では必要かつ相当な任意捜査であり,適法である。
3月28日の録画では,午前3時7分及び3時55分の甲の服装・体格が,午前3時30分頃にS駐車場で撮影された犯人のものと酷似していた。
この撮影結果とは別に,必要性は設置・実施時に判明していた事情で判断する。
第2 設問2
1 前犯の事実を犯人性の認定に使う限界
刑訴法317条の証拠裁判主義の下で,事実認定に用いる証拠には,要証事実を推認させる関係が必要である。
本問の要証事実はS事件の実行者が甲であることである。
前科に関する事実がそれに多少の推認力を持つとしても,採用の可否は,その推論の合理性と誤認・審理拡散の危険を踏まえて判断する。
前科があることから犯罪性向を推測し,さらに今回も甲が実行したと推測する方法は,性向についての評価が粗く,特定の事件での行動を示す力も弱い。
他方,前科による偏見が過大な評価を生み,前犯の詳細をめぐる審理が公訴事実から逸れるおそれがある。
したがって,前科又は類似罪名があるというだけで犯人性の証拠に使うことは許されない。
もっとも,前犯の具体的手口に識別力のある特徴があり,起訴事件の手口にもこれが現れ,両者を同一人物の行為と合理的に結び付けられるときは,その具体的な事実を犯人性の間接事実として使うことができる。
2 本件
平成16年の前犯では,甲は屋根のない駐車場の第三者所有のC社製高級外車を選び,折りたたみ式ナイフでドアに複数の傷を付け,前部バンパー付近にベンジンを散布して点火した。
S事件でも,同じC社製の高級外車を同様の駐車場で選び,ナイフ様の物でドアに繰り返し傷を付け,前部バンパー付近に液体を掛けて点火しており,そこからベンジン成分が検出された。
車両への放火や駐車場という一般的な共通性だけでは弱い。
しかし,火を付けるのに不要なドアへの反復加傷と,メーカー,燃料,散布部位及び行為順序の一致が組み合わさると,個々の特徴がありふれていても,併存することはありふれた手口では説明しにくく,犯人を識別する力がある。
模倣の可能性は抽象的には残るが,与件には別人がこの組合せを知って模倣したと積極的に示す事情は見当たらない。
前犯と本件は約3年離れ,今回も就職不採用への逆恨みが動機かは分からない。
前犯では公共の危険が生じず器物損壊罪とされ,S事件の訴因は建造物等以外放火である。
しかし,罪名や公共の危険の有無の違いは,車両の選別,加傷,散布及び点火の手順を比較する妨げとはならない。
時期と動機に関する限界を考慮しても,特徴の束から具体的な同一人性を推認できる。
よって,前犯の行為態様を,甲の一般的性向の証明から切り離してS事件の犯人性の認定に用いることは許される。
その証明力及び他の証拠を含めて有罪といえるかは,別の問題である。
以上
3 出題の趣旨・採点実感を踏まえた解説
(1) 答案と評価項目の対応
答案の第1は設問1を,第2は設問2を扱う。
重み3以下の番号5・8・11・17は,それぞれ承諾の範囲(第1の1第2段落),延焼のおそれと証拠確保の必要(第1の2第3段落),テープの保存方法(第1の2第4段落),立証目的(第2の1第1段落)に対応する。
第4の重み5・4の項目について,模範解答との対応を次の表に示す。
| 番号 | 重み | 評価項目 | 答案の該当箇所・留保 |
|---|---|---|---|
| 1 | 5 | 既発事件の犯人・証拠を求める目的を示し,次の放火を待ち受ける録画が刑訴法上の捜査に当たると説明する。 | 第1の1第1段落 |
| 2 | 4 | 刑訴法197条1項の本文とただし書の役割を区別し,強制処分を特別の根拠のあるものに限る理由を説明する。 | 第1の1第3段落 |
| 3 | 5 | 意思の制圧と重要な権利利益の実質的制約に着目して,無形・秘匿の撮影を強制処分か任意捜査かに分類する。 | 第1の1第3段落,第1の2第1段落,第1の3第1段落 |
| 4 | 5 | 任意捜査でも制約される私生活上の利益を示し,必要性・緊急性と方法の相当性を検討する理由を説明する。 | 第1の1第4・第5段落 |
| 6 | 4 | P・Q・Rの時期,場所,対象車,手口の共通性から同一犯による連続放火の可能性を根拠付きで示す。 | 第1の2第2段落 |
| 7 | 4 | S・T・Uにおける次の放火の具体的蓋然性を,先行現場との類似と駐車車両の状況から示す。 | 第1の2第2・第3段落 |
| 9 | 4 | 撮影開始時に甲に対する個別嫌疑が限られ,発覚しない張込みも難しいことを,場所を絞る録画の必要性に結び付ける。 | 第1の2第3段落 |
| 10 | 4 | 出入口用と車両用の画角を区別し,各カメラで得る証拠と無関係者・隣接車の写込みを比較して方法の相当性を判断する。 | 第1の2第4段落 |
| 12 | 4 | 甲方前の必要性について,P・Q・Rの同一犯性を中間前提として,甲と各事件の接点及び接点の強弱を段階的に評価する。 | 第1の3第2段落 |
| 13 | 4 | 3月25日に得た目撃,勤務先のベンジン瓶紛失及び車の所在に関する発言を,確実性の限界も含めて甲の嫌疑に結び付ける。 | 第1の3第2段落 |
| 14 | 4 | 玄関や室内を撮らないことと,玄関の出入り・訪問者をアップで識別できることを両面から評価する。 | 第1の3第1・第4段落 |
| 15 | 4 | 甲の出入りを録画して現場映像と照合する捜査上の意味を,張込みの困難さを踏まえて示す。 | 第1の3第3・第4段落 |
| 16 | 4 | 自ら立てた基準に従って,駐車場の撮影と甲方前の撮影それぞれの適法性まで論じる。 | 第1の2第4段落,第1の3第4段落 |
| 18 | 5 | 前科から悪性格・犯罪性向を経て今回の実行者とする推論を示し,その弱さと偏見等の弊害を説明する。 | 第2の1第2段落 |
| 19 | 5 | 特殊な手口の共通性から犯人の同一性を推認する経路を,悪性格を介する経路から明確に分ける。 | 第2の1第2段落 |
| 20 | 4 | ドアへの反復加傷,C社製高級外車という対象の共通性,燃料,散布部位,順序等の組合せを比較し,各要素の一般性と組合せの識別力を評価する。 | 第2の2第1段落 |
| 21 | 4 | 罪名や公共の危険,時期・動機の相違が手口比較に与える影響を検討して,当該前科事実を用いる可否まで示す。 | 第2の2第2段落 |
(2) 設問1
出題の趣旨は,刑事訴訟法等の関連規定の構造と,判例の示す「強制」手段の定義や判断基準の背後にある基本的な考え方を論じた上で,強制捜査と任意捜査の区別基準や,任意手段の必要性・緊急性や相当性等の具体的な適法性判断基準を導き出すことを求め,基準の結論部分を記述しただけでは法解釈とはいえず不十分であるとしている(6頁)。
答案は,次の放火を待つ撮影が既発事件の証拠を得るための捜査といえる理由を示し(番号1),刑訴法197条1項の構造と最高裁昭和51年3月16日第三小法廷決定から強制処分の意義を,最高裁昭和44年12月24日大法廷判決から任意捜査としての撮影の限界を導いた(番号2~5)。
出題の趣旨は,駐車場における撮影・録画と被疑者方前公道上における撮影・録画とでは,同じ判断基準を適用しても論じるべき具体的事実関係が異なるので,その違いに即して丁寧に分析・検討すべきであるとしている(6頁)。
また,被疑者方前の撮影・録画の必要性を検討する過程で,3件の放火事件が同一犯人による連続放火事件である可能性が高いことを論証した上で,各放火事件と被疑者を結び付ける個々の事実関係に言及して嫌疑の程度を論じることができていれば,極めて優れた分析といえるとしている(同頁)。
答案は,先行3件の共通性から次の放火の場所と時間を絞り,駐車場の画角・時間・保存方法を検討した(番号6~11)。
甲方前については,連続放火の可能性を中間の前提として甲と各事件との接点を評価し,甲方前を撮る必要性と住居の出入りを記録する負担を対置した(番号12~16)。
考査委員は,関連条文から解釈論を展開することなく,いきなり抽象的な判断基準を何の理由も記載せずに設定し,あとは問題文中の事実をただ書き写しているかのような答案が多かったと述べている(4頁)。
その原因として,判例法理の背後にある理由,根拠,考え方の筋道に着目せず,結論部分のみを覚え込めばよいといった誤った教育がある疑いにも言及している(同頁)。
また,理論的な解釈論の部分がよく説明できている答案に限って事案の分析がうまくいっておらず,その逆の場合もあり,両方がそろった答案はかなり少なかったとしている(5頁)。
最高裁昭和44年12月24日大法廷判決は,集団行進に際して警察官が行った写真撮影の事案であり,その考え方を犯行を待ち受ける録画にどう及ぼすかは,本答案の解釈である。
(3) 設問2
出題の趣旨は,前科に関する事実を公訴事実の認定に用いる場合に生じ得る問題点や弊害についての基本的な理解を踏まえ,前科から悪性格の立証を介して被告人が犯人であることを推認させようとする推認過程と,特殊な犯行方法・態様等の共通性に着目して推認させようとする推認過程との違いを明確に意識して論じることを求めている(6頁)。
答案は,前科を犯人性の認定に用いるという立証目的を確認し(番号17),悪性格を経由する推論の弱さと弊害を示した上で,特殊な手口の共通性による推認を別の経路として区別した(番号18・19)。
その上で,C社製高級外車という対象,ドアへの反復した加傷,ベンジン,散布部位及び点火の順序が組み合わさることで識別力が生じると評価し,罪名と時期・動機の違いも検討して,前犯の行為態様を用いることができると結論付けた(番号20・21)。
考査委員は,設問2について,前科の内容たる事実から被告人の犯人性に至る推論の過程を分析して,その合理性,適否を具体的に検討することを求めたものであると説明している(3~4頁)。
答案は,前犯と同じ動機があったことを推認の前提にしていない。
手口の識別力の評価と,証拠全体を踏まえた有罪の判断は別の段階である。
(4) 答案の弱点と扱わなかった事項
甲方前の録画については,住居の出入りや来訪関係の蓄積を重く評価すれば,強制処分への該当性又は任意捜査としての相当性の結論が変わり得る。
答案では,撮影範囲・時間帯と,捜査に必要な映像を含まないテープの上書きを考慮した。
必要な映像と同じテープに写った第三者の映像には,この運用による消去は及ばない。
設問1の撮影に続く捜索差押えや逮捕,撮影・録画で得られた証拠の証拠能力,設問2の具体的な証拠調べの方法と量刑への使用は,設問が直接問う範囲から外した。
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第7 出典
1 公式資料
①法務省「論文式試験問題集[刑事系科目]」(平成19年新司法試験)(PDF5~7頁の第2問)
②法務省「平成19年新司法試験論文式試験問題出題趣旨」(PDF5~6頁の刑事系科目〔第2問〕)
③法務省「新司法試験考査委員(刑事系科目)に対するヒアリングの概要」(PDF3~5頁の刑事訴訟法の報告とPDF5~6頁の質疑。司法試験委員会第41回(平成19年10月3日)の議事要旨として掲載)
④法務省「平成19年新司法試験の実施日程等について」(平成18年9月20日司法試験委員会決定。PDF1頁の試験日程)
2 法令
刑事訴訟法の条文は,e-Gov法令検索で取得できる最も古い版(平成28年12月1日施行)によった。
答案が用いる189条2項,197条1項及び317条は,刑事訴訟法の制定時の条文(衆議院)と同じ文言であり,試験当時も同じである。
憲法13条は,e-Gov法令検索の条文による。
3 裁判例
①最高裁昭和51年3月16日第三小法廷決定(昭和50年(あ)第146号,刑集30巻2号187頁):任意捜査における有形力の行使は,強制手段,すなわち個人の意思を制圧し,身体,住居,財産等に制約を加えて強制的に捜査目的を実現する行為など特別の根拠規定がなければ許容することが相当でない手段にわたらない限り,必要性,緊急性なども考慮した上,具体的状況の下で相当と認められる限度において許容されるとした。
②最高裁昭和44年12月24日大法廷判決(昭和40年(あ)第1187号,刑集23巻12号1625頁):何人も,その承諾なしに,みだりにその容ぼう・姿態を撮影されない自由を有するとした上で,警察官による写真撮影は,現に犯罪が行われ又は行われた後間がないと認められる場合であって,証拠保全の必要性及び緊急性があり,一般的に許容される限度を超えない相当な方法で行われるときは,本人の同意や令状がなくても憲法13条,35条に違反しないとした。
③最高裁平成24年9月7日第二小法廷判決(平成23年(あ)第670号,刑集66巻9号907頁):前科証拠を被告人と犯人の同一性の証明に用いる場合は,前科に係る犯罪事実が顕著な特徴を有し,かつ,それが起訴に係る犯罪事実と相当程度類似することから,それ自体で両者の犯人が同一であることを合理的に推認させるようなものであるときに証拠能力が肯定されるとした(試験後の判例であり,答案では用いていない)。
4 留意事項
出題の趣旨はPDF5~6頁の刑事系科目〔第2問〕の部分を,採点実感はヒアリングの概要のPDF3~5頁の刑事訴訟法の報告とPDF5~6頁の質疑を,評価項目の根拠とした。
平成19年の刑事系科目の採点実感等は,司法試験委員会第41回の議事要旨に掲載された考査委員に対するヒアリングの概要として公表されており,採点実感欄に示した答案の傾向は考査委員の所感である。
答案と解説は試験当時の法令と判例によっており,設問2の論点について試験後に示された第7の3③の判決は,答案の根拠に用いていない。
評価項目,重み,答案の結論及び出題の趣旨の具体化は本記事独自の分析であり,法務省が一つの結論を指定したものではない。