第1 この記事の対象と結論
平成19年司法試験の論文式試験・公法系科目第1問(憲法)は,宗教団体の本部兼共同生活施設の開発について,市が条例に基づく許可をしなかった事案である。
出題の趣旨によれば,法律と条例の関係,人権の保障と民主主義の関係,人権の保障と安全・安心の確保の関係という三つのテーマが問われている。
この記事は,法務省の出題の趣旨と,考査委員が採点実感等を述べた公法系科目のヒアリングの概要を基に19の評価項目を設け,そのうち4項目を重み5とした。
評価項目と重みは本記事独自の整理であり,法務省の採点基準や配点を示すものではない。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 対象 | 平成19年新司法試験論文式試験・公法系科目第1問(憲法) |
| 問題文 | 論文式試験問題集[公法系科目](PDF2~9頁の第1問・資料1~3) |
| 試験日・答案の基準 | 平成19年5月16日(公法系科目の論文式試験)。答案は試験当時の法令による。 |
| 出題の趣旨 | 平成19年新司法試験論文式試験問題出題趣旨(PDF1~2頁の公法系科目第1問) |
| 採点実感 | 新司法試験考査委員(公法系科目)に対するヒアリングの概要(PDF1~4頁の憲法) |
| 評価項目 | 19項目。重み5は4項目,重みの合計は75。 |
| 主な裁判例 | 徳島市公安条例事件(最高裁昭和50年9月10日大法廷判決)。信仰上の不利益と代替措置の検討では,神戸高専剣道実技拒否事件(最高裁平成8年3月8日第二小法廷判決)を参照した。 |
| 答案の分量 | 4040字(見出し,空白及び改行を除く。) |
| 法令の基準 | 都市計画法,同法施行令及びC市まちづくり条例は問題文の資料1・2による。特例市の扱いも資料1による。 |
| 資料の確認日 | 令和8年11月7日 |
本稿の答案は,条例の許可制が都市計画法と併存する余地を認める。
その上で,本件で協定の締結を義務付けることは信教の自由との関係で許されず,勧告に従わなかったことを入口として検討しても,具体的な危険と全面的な不許可の必要性が示されていないとして,不許可処分の取消しを結論とする。
重み5の4項目は,条例の2段階構造(番号1),住民多数の意思による事実上の拒否(番号7),宗教的行為の自由の保障(番号9),危険が不確かな状況での審査基準(番号14)である。
第3に事実関係と設問の要求,第4に評価項目と重み,第5に答案と解説,第7に出典を置く。
第2 評価項目の示し方と重み付けの基準
1 評価項目の示し方
評価項目は,公式資料の指摘を答案で判定できる単位に言い換えた本稿独自の基準である。
表の番号は記事全体で通している。
「〔注意〕」は誤りを避けるための項目を示す。
「〔条件〕」は特定の権利主張や審査枠組みを採る場合に限り適用する項目であり,その構成を採らない答案に重ねて求めるものではない。
平成19年の公法系科目では,採点実感等は司法試験委員会第41回(平成19年10月3日)の考査委員に対するヒアリングの概要として公表されているので,採点実感欄はその憲法部分の頁と要旨を示す。
一方の資料に対応する記載がない場合は「記載なし」,一般的な指摘から導く場合は「間接」と表示する。
2 5段階の重み付けの基準
| 重み | 判断基準 |
|---|---|
| 5 | その設問の判断を大きく分ける核心 |
| 4 | 結論を理由付きで支える主要な論証・当てはめ |
| 3 | 通常押さえる法的処理・事情の評価 |
| 2 | 論証を補強する説明・個別事情・誤りの注意 |
| 1 | 補充的な引用・記述範囲の確認 |
重みとその合計は本記事独自の整理であり,法務省の配点,採点基準又は得点の目安を示すものではない。
条件付きの項目も重みの分布と合計に含める。
第3 本問の概要
1 問題文と事実関係
A教団の一部の過激な信者が同時爆弾テロを実行し,計画,指示及び実行に当たった教団幹部や信者は逮捕された。
このテロはA教団の活動として行われたものではなかったが,A教団は解散した。
その2年後,A教団の元信者が,同教団の幹部であった甲を代表としてB教団を結成し,テロについての反省とA教団との決別を表明した。
もっとも,逮捕されなかったA教団の元幹部は全員B教団の幹部となり,教典もA教団と同一である。
B教団は,信者乙がC市D地区に所有する1200平方メートルの土地に,本部機能を持ち,信者が集団で居住し,修行する施設を建設しようとした。
計画は都市計画法上の許可要件を満たしていたが,C市まちづくり条例に基づく説明会では反対の発言が相次ぎ,開発事業協定の締結に同意する周辺住民は一人もいなかった。
市長は条例17条2項に基づいて開発事業の中止を勧告し,B教団がこれに従わなかったため,審議会の意見を聴いた上で,開発事業計画を許可しない処分をした。
2 設問が求めること
| 設問 | 立場・対象 | 指定・除外 | 到達点 |
|---|---|---|---|
| 1 | B教団の訴訟代理人 | 憲法上の主張 | 条例と処分の両面から取消しを基礎付ける。 |
| 2 | C市の反論を想定した上での自己の見解 | B教団側の主張を受け,反論と自己の判断を示す。 | 条例,協定の要件及び不許可処分を理由付きで評価する。 |
出題者注により,両設問で無差別大量殺人行為を行った団体の規制に関する法律は考慮しない。
第4 評価項目と重み
1 審査の構造
| 番号 | 評価項目 | 重み | 出題の趣旨 | 採点実感 |
|---|---|---|---|---|
| 1 | 条例18条1・2項の許可原則から,協定未締結又は勧告不遵守に加え,各号のいずれかを要する2段階の構造を示す。 | 5 | PDF1頁。条例の2段階構造と,その仕組みを理解した上での論述 | PDF2頁。2段階の構成を読み込まず,第1段階の論点を見落とした答案 |
| 2 | 条例の効力の問題と,不許可処分の合憲性の問題とを区別して論じる。 | 4 | PDF1頁。条例自体の合憲性と不許可処分の合憲性 | 間接(PDF2頁。主な論点が三つあること) |
2 法律と条例
| 番号 | 評価項目 | 重み | 出題の趣旨 | 採点実感 |
|---|---|---|---|---|
| 3 | 憲法94条の法律の範囲につき,徳島市公安条例事件判決の矛盾抵触の判断を,規定の目的・対象・内容・効果の比較として示す。 | 4 | PDF1頁。徳島市公安条例事件判決の正確な理解 | PDF2~3頁。判決を正確に理解せず,誤った当てはめをした答案 |
| 4 | 都市計画法1・2条と条例1条を比較し,目的の重なりと,住民参加・C市の事情に即した目的の固有部分を示す。 | 4 | PDF1頁。法律と条例の目的・趣旨・効果の比較 | PDF3頁。目的の文言の違いを並べるだけの表面的な比較 |
| 5 | 同じ開発に同一の市長が法と条例の別の許可権限を行使し,法33条1項の許可義務があっても条例で事業が止まり得るという効果を示す。 | 4 | PDF1頁。どのような点で法律の範囲内である又はないといえるか | 間接(PDF2~3頁。判決を具体的な事案に当てはめること) |
| 6 | 法律が全国一律の規制を予定するかと,地域の規制が法の目的・効果を害するかを区別し,本件条例の併存又は抵触を理由付ける。 | 4 | PDF1頁。法律の範囲内であるか否かの結論と理由。PDF2頁。判決の射程 | 間接(PDF2~3頁。判決の理解と趣旨・目的の比較) |
3 住民自治と人権
| 番号 | 評価項目 | 重み | 出題の趣旨 | 採点実感 |
|---|---|---|---|---|
| 7 | 地域の直接の利害を反映する住民同意制について,嫌われる施設を多数の意思で排除し,少数者の基本権の行使を事実上妨げる危険を論じる。 | 5 | PDF1頁。過半数の同意要件が禁忌施設の拒否として機能すること | PDF2頁。住民の同意と人権保障の関係に気付いた答案が極めて少ないこと |
| 8 | 協定締結の義務を置く条例16条2項について,説明・意見聴取との違いを踏まえ,規定自体の合憲性を理由付きで評価する。 | 4 | PDF1頁。過半数の同意要件を置くことの合憲性 | PDF2頁。過半数の同意が前提要件であることの分析の欠如 |
4 信教の自由
| 番号 | 評価項目 | 重み | 出題の趣旨 | 採点実感 |
|---|---|---|---|---|
| 9 | 憲法20条1項前段の信教の自由のうち宗教的行為の自由を中心に,本件施設での集団居住・修行を通じた共同の信仰実践を保障の対象とする。 | 5 | PDF1頁。専ら問題となるのは宗教的行為の自由であること | PDF3頁。宗教的行為の自由に絞った掘り下げた論述 |
| 10 | 一般的な土地開発規制という外形の下で,施設の用途と立地の代替困難から,宗教的行為に生じる具体的な不利益を示す。 | 4 | PDF1頁。どのような侵害が生じているかをB教団の立場から具体的に論じること | 間接(PDF3頁。宗教的行為の自由の掘り下げ) |
| 11 | 〔注意〕〔条件〕居住・移転の自由又は財産権を独立の違憲理由とする場合は,土地の利用形態の制限を超えて,権利の主体と侵害の実質を具体的に論じる。 | 2 | PDF1頁。居住・移転の自由や財産権の侵害を主張するには更に広く深い論述が必要であること | PDF3頁。居住移転の自由や財産権を並べた散漫な記述 |
5 危険の評価と不許可処分
| 番号 | 評価項目 | 重み | 出題の趣旨 | 採点実感 |
|---|---|---|---|---|
| 12 | 旧教団との人的・教典上の連続性,過去の施設の利用と説明会での発言を,B教団への懸念を支え得る事実として具体的に検討する。 | 4 | PDF1頁。危険性への懸念にも一定の理由があること | PDF3~4頁。一方に都合のよい要素だけを抜き出す論述 |
| 13 | 旧事件の団体への帰属,B教団の決別の表明,威圧的な発言や不安の証明力の限界から,現在の危険の有無・程度に残る不確実性を評価する。 | 4 | PDF1頁。危険性の有無・程度等の不確実な面 | PDF3~4頁。危険性の有無を断定し難い状況を前提とする判断 |
| 14 | 危険の有無・程度が不確かな状況で,被害の重大さと宗教実践を誤って阻止する不利益を踏まえ,採る審査基準と要求する根拠の程度を説明する。 | 5 | PDF1頁。不確実な状況で審査基準論が意味を持つこと | PDF3~4頁。断定し難い状況の下で法令を活用して判断すること |
| 15 | 採用した基準を本件に当てはめ,危険の根拠と,より負担の小さい手段の可能性から,全面的な不許可の合憲性を評価する。 | 4 | PDF1頁。不許可処分の違憲性と審査基準論(代替手段の検討は本記事の具体化) | 間接(PDF3~4頁。法令を活用した判断) |
6 設問2の論述
| 番号 | 評価項目 | 重み | 出題の趣旨 | 採点実感 |
|---|---|---|---|---|
| 16 | B教団の主張に対応するC市の反論を示し,自説の中で必要な理由を補う。 | 3 | PDF1頁。C市側の主張は設問1ほど詳細でなくてよいこと | PDF1~2頁。市側の主張はポイントを絞ってよいこと。PDF3頁。市側の反論に全く触れない答案 |
| 17 | 双方の主張を踏まえ,自己の結論について,採用し又は退ける理由を具体的に示す。 | 4 | PDF1~2頁。両者の主張を踏まえた自己の見解と,一方の主張に賛成する理由 | PDF3~4頁。客観的にどう判断するかについての意見 |
| 18 | 〔条件〕徳島市公安条例事件判決と異なる条例の審査を採る場合は,同判決の事案との違いと,採用する規範を理由付きで示す。 | 2 | PDF2頁。判例とは異なる見解が主張されることもあり得ること | 記載なし |
| 19 | 双方に都合のよい別々の事実だけを拾わず,危険の有無を断定し難い共通の事実状況に立って,法的な評価の違いを示す。 | 4 | PDF1頁。資料の事実の一面だけをとらえる読み方は不十分であること | PDF3~4頁。異なる事実を基に水掛け論とする答案 |
7 重みの分布
19項目の内訳は,重み5が4項目,重み4が12項目,重み3が1項目,重み2が2項目,重み1が0項目であり,重みの合計は75点である。
重み5は,番号1の条例の2段階構造,番号7の住民多数の意思による事実上の拒否,番号9の宗教的行為の自由の保障,番号14の危険が不確かな状況での審査基準である。
番号1は判断の対象を,番号7と番号9は審査すべき利益と制約を,番号14は処分を支える危険の根拠がどの程度必要かを決める。
主要な理由付けと当てはめは重み4に整理した。
第5 模範解答
1 答案の前提と表記
法令は平成19年5月16日の試験当時を基準とし,都市計画法,同法施行令及びC市まちづくり条例は問題文の資料1・2の抜粋による。
条例は設問上のものであり,B教団とC市の発言は資料3の事前協議メモに即して扱う。
答案は,設問1を教団側の主張,設問2を市側の反論と自己の見解に分ける。
答案では都市計画法を「法」と略す。
2 答案
第1 設問1
1 条例の効力
憲法94条及び地方自治法14条1項により,条例は法令に違反しない範囲で制定できる。
抵触の有無は,対象や文言だけでなく,法律と条例の趣旨,目的,内容及び効果を比較して判断する(徳島市公安条例事件・最大判昭和50年9月10日)。
独自の目的を掲げても,法律が意図する目的や効果を阻害すれば許されない。
D地区は市街化区域かつ推進地区である。
本件開発は1200平方メートルで,都市計画法29条1項1号及び同法施行令19条の規模未満の例外に当たらず,条例上も大規模開発事業に当たる。
C市は特例市であるから,市長は,法の要件を満たす本件開発を同法33条1項により許可しなければならない。
ところが,都市計画法上の開発行為の定義を用いる条例は,推進地区の大規模開発事業に別個の許可を要求し(2条1号,15条),協定の不成立等を入口として不許可を認める(18条2項)。
その許可なく着手すれば19条の中止命令等の対象となり得る。
したがって,法上の許可義務があっても,同じ市長が同じ事業を実質的に止められる。
法1・2条が目指す秩序ある都市整備,健康で文化的な都市生活及び適正な土地利用と,条例1条の安全で快適な都市環境とは重なる。
住民参加という手続上の独自性があっても,その参加を通じ,同じ開発を都市生活の安全という重なり合う理由で全面的に拒めるなら,法が要件を充たす開発について予定した効果が失われる。
よって,本件事業をこのように規制する条例は法律の範囲を超え,不許可は根拠を欠く。
2 信教の自由の侵害
憲法20条1項前段の信教の自由には,集団で宗教的行為を行う自由が含まれる。
本件で中心となるのは,B教団が信者の共同の修行を組織し,信者とともに実践する自由である。
施設は事務所だけでなく,共同居住し甲の下で修行する拠点である。
Bは他地域で反対に遭って計画を断念し,新たな信者である乙が所有するまとまった土地を利用する本件計画に至った。
この場所に当然に建築できるということではないが,現実に代替地が得にくい以上,その不許可は共同の信仰実践に重大な支障を生じさせる。
条例16条2項は説明を尽くす義務を超え,周辺住民の過半数の同意による協定締結を義務とする。
同意がないだけで18条2項の不許可にできるわけではないが,多数者の同意がなければ義務を果たせず,未締結は不許可を可能にする要件の一つになる。
説明会には周辺住民の9割以上が出席し,出席者から旧教団の後継であるとして拒絶する発言が相次ぎ,同意者はいなかった。
住民の生活への具体的影響を聴くことはできても,宗教的少数者の実践の可否を,施設を忌避する多数者の意思に実質的に左右させる仕組みは,住民自治によって正当化できず,20条1項に反する。
また,本件処分は,開発規制の外形をとりながら,Bの教典,人員及び共同生活に着目して信仰実践の拠点を排除する。
宗教活動に向けられた重大な制約であるから,生命・身体の保護のような重大な目的について,客観的に裏付けられた具体的危険を避けるために必要な限度でなければならない。
旧事件はAの団体活動ではなく,Bは反省と決別を表明し,甲も事件に関与していないと説明している。
市の述べる旧施設での爆弾製造も,人的連続性や威圧的な発言と合わせ,調査の理由にはなるが,現在の計画に具体的な危険があることまでは示さない。
施設の利用計画を確かめ,具体的な安全上の懸念について計画の変更を協議する余地もある。
したがって,条例の効力を前提としても,本件不許可は信教の自由を侵害する。
以上の理由により処分の取消しを求める。
第2 設問2
1 条例と法律の関係
市は,都市計画法は計画的な市街地整備や土地利用を規律するのに対し,条例は宅地の乱開発や景観問題への取組を背景に,C市独自の住民参加と住環境の安全を図るものであり,規制対象も推進地区内の大規模開発に限ると反論する。
法の許可は法が対象とする支障についての規制を解除するもので,他の目的による規制まで排除しないというのである。
私見では,徳島市公安条例事件判決が問題にしたのは,道路交通の規律と,交通秩序を含む地域の公安のための規律との関係であった。
同判決の比較方法は本件にも使えるが,同判決が両規制の併存を認めたことから,直ちに条例による開発の禁止まで許されることにはならない。
法と条例が異なる目的を有していても,法の目的や効果を害してはならない。
また目的が重なっても,法律が当該問題について全国一律の規律を尽くす趣旨でなければ,地域の実情に応じた規律はあり得る。
法律が区域指定に地域事情を取り入れていることと,自治体が法律の開発許可基準に独自の拒否事由を加えられることとは別である。
法33条1項の許可義務は,法が定めた要件に適合する開発を同じ土地利用上の理由で拒まないことを要請する。
他方,資料1の規定から,その許可が地域に固有の別の安全上の危険への対処まで排除するとは解されない。
条例の許可を,推進地区の具体的事情から生じる独自の安全上の支障を防ぐための規律として運用する限り,法律の許可基準の加重とは区別できる。
したがって,法律が考慮するのと同じ土地利用上の不都合だけで開発を阻止する解釈は採れないが,条例の許可制自体を一律に無効とは解さない。
2 住民同意要件の合憲性
市は,地域の生活環境について直接の利害をもつ者の意向を反映する仕組みであり,どの事業者にも等しく適用されると主張する。
条例上の周辺住民は,事業区域の境界から200メートル以内の土地の所有者,建物の所有者・占有者等であり,その知見を利用することは危険の把握や利害調整に役立つ。
しかし,説明を聴いて意見を述べる機会と,協定締結という結果を宗教的少数者に要求することは異なる。
16条2項が前者を超えて過半数の同意を求めれば,本件のように,規制対象となる外部的な支障と無関係な忌避によっても,Bは義務を履行できなくなる。
18条2項が市長に別の判断を求めるとしても,その不履行自体が不許可の入口になることは残る。
住民の意見や客観的影響は説明会と市との協議によっても把握できる。
よって,16条2項が,信仰実践の拠点を設ける事業にも,外部的な支障と無関係な不同意の危険を負わせる形で協定締結義務を一律に課す限度で,その規定は20条1項に反する。
本件で協定未締結をBに不利な要件として用いることはできない。
もっとも,18条1項は許可を原則とし,2項は,協定未締結又は勧告不遵守のいずれかに加え,各号のいずれかに該当するときに不許可を認める。
協定未締結を根拠にできなくても,17条2項による中止勧告にBが従わなかったという別の入口がある。
その場合にも,事前協議で市が根拠とした18条2項2号の安全上の支障のおそれと,不許可という手段の相当性を別に判断する必要がある。
3 不許可処分の合憲性
市は,市民の生命・身体を守るための一般的な開発規制であり,Bの信仰自体を否定していないと反論する。
逮捕されなかったAの旧幹部が全員Bの幹部となり,教典と集団居住の形態も共通する。
市によればAの集団居住施設では爆弾が製造され,近隣との紛争もあった。
B信者の威圧的な発言もあり,想定される被害の重大さから危険が現実化する前の対応が必要だとする。
私見では,開発規制として外部的危険に着目する限り,宗教そのものを狙った規制と同視する必要はない。
ただし,規制目的が中立でも,施設の設置を全面的に拒否すれば信仰の実践には重大な負担が及ぶ。
神戸高専の剣道実技拒否事件(最判平成8年3月8日)では,信仰上の理由で実技を拒む学生を原級留置・退学とした処分につき,代替措置の検討を欠いたことが裁量判断の違法を基礎付けた。
この判決は,一般的な基準を適用する場合にも信仰上の不利益と代替手段を考慮する参考になる。
危険を過小評価すれば生命・身体に取り返しのつかない損害が生じ得るから,実害の発生まで待つことや確実な発生の立証は求めない。
他方,重大な結果が想定できるだけで拒否を認めれば,危険がない場合にも信仰実践の場を失わせ,事業者に無危険の証明を求めることになる。
そこで,2号のおそれを判断する際には,過去の行為と現在の事業を結ぶ客観的な事実に照らし,具体的な危険を認められることを求める。
その上で,危険の性質と程度に応じた措置では防止できず,不許可が必要かを別に審査する。
Aの解散からBの結成までの間隔は2年であり,短期間で旧幹部と教典を引き継いだこと,集団居住施設が爆弾製造に利用されたと市が指摘することは,運営実態を調べる理由となる。
他方,旧事件はAの団体活動ではなく,Bは決別を表明し,甲の関与も否定している。
これらの説明だけで安全を確定できないが,同じ教典や集団居住を理由に逸脱が再び起こると推認することもできない。
市がいう施設内部の実態把握の難しさは調査の必要を強めても,現在の計画のどこに具体的な危険があるかを示さない。
威圧発言は近隣との関係悪化を示し得るが,その内容は明らかでなく,暴力を準備しているという評価には足りない。
反対運動や相談の多さは懸念の広がりを示す事情であり,危険の客観的根拠としては扱えない。
市は,工事や防災の懸念があるなら,施設の利用計画や安全設備を確認し,計画変更の勧告で対応できるかを検討できる。
これらの措置で故意の犯罪まで防げるとはいえないが,その危険を理由に全面拒否するなら,現在のBと当該事業に結び付く別の具体的な根拠が要る。
審議会の意見を聴いても,それだけで危険の根拠が補われるわけではない。
したがって,条例の許可制が有効であり,勧告不遵守の入口があるとしても,本件の事実から2号の具体的なおそれを認めることはできず,不許可を必要とする事情も示されていない。
信教の自由を踏まえて解した条例の要件を欠き,このような事情の下でBの実践の場を全面的に奪う処分は20条1項との関係でも正当化できない。
処分は取り消されるべきである。
以上
3 出題の趣旨・採点実感を踏まえた解説
(1) 答案と評価項目の対応
答案の第1の1と第2の1は番号3~6,第1の2と第2の2は番号1及び7~11に対応する。
第2の3は番号12~15を具体化し,番号2及び16~19は主張と自己の判断の関係を確かめる項目である。
番号16(重み3)は,第2の1~3の各冒頭の市側の反論に対応する。
番号11と番号18の条件に当たる構成は,答案では採っていない。
第4の重み5・4の項目及び条件付きの項目について,模範解答との対応を次の表に示す。
| 番号 | 重み | 評価項目 | 答案の該当箇所・留保 |
|---|---|---|---|
| 1 | 5 | 条例18条1・2項の許可原則から,協定未締結又は勧告不遵守に加え,各号のいずれかを要する2段階の構造を示す。 | 第2の2第3段落。 |
| 2 | 4 | 条例の効力の問題と,不許可処分の合憲性の問題とを区別して論じる。 | 第1の1・2と第2の1~3。 |
| 3 | 4 | 憲法94条の法律の範囲につき,徳島市公安条例事件判決の矛盾抵触の判断を,規定の目的・対象・内容・効果の比較として示す。 | 第1の1第1段落,第2の1第2段落。 |
| 4 | 4 | 都市計画法1・2条と条例1条を比較し,目的の重なりと,住民参加・C市の事情に即した目的の固有部分を示す。 | 第1の1第3段落,第2の1第1段落。 |
| 5 | 4 | 同じ開発に同一の市長が法と条例の別の許可権限を行使し,法33条1項の許可義務があっても条例で事業が止まり得るという効果を示す。 | 第1の1第2段落。 |
| 6 | 4 | 法律が全国一律の規制を予定するかと,地域の規制が法の目的・効果を害するかを区別し,本件条例の併存又は抵触を理由付ける。 | 第2の1第2・3段落。 |
| 7 | 5 | 地域の直接の利害を反映する住民同意制について,嫌われる施設を多数の意思で排除し,少数者の基本権の行使を事実上妨げる危険を論じる。 | 第1の2第2段落,第2の2第1・2段落。 |
| 8 | 4 | 協定締結の義務を置く条例16条2項について,説明・意見聴取との違いを踏まえ,規定自体の合憲性を理由付きで評価する。 | 第2の2第2段落。16条2項の効力を論じ,本件への適用に接続する。 |
| 9 | 5 | 憲法20条1項前段の信教の自由のうち宗教的行為の自由を中心に,本件施設での集団居住・修行を通じた共同の信仰実践を保障の対象とする。 | 第1の2第1段落。 |
| 10 | 4 | 一般的な土地開発規制という外形の下で,施設の用途と立地の代替困難から,宗教的行為に生じる具体的な不利益を示す。 | 第1の2第1段落,第2の3第2段落。 |
| 11 | 2 | 〔注意〕〔条件〕居住・移転の自由又は財産権を独立の違憲理由とする場合は,土地の利用形態の制限を超えて,権利の主体と侵害の実質を具体的に論じる。 | 適用外。答案は居住・移転の自由や財産権を独立の違憲理由にしていない。 |
| 12 | 4 | 旧教団との人的・教典上の連続性,過去の施設の利用と説明会での発言を,B教団への懸念を支え得る事実として具体的に検討する。 | 第2の3第1・4段落。 |
| 13 | 4 | 旧事件の団体への帰属,B教団の決別の表明,威圧的な発言や不安の証明力の限界から,現在の危険の有無・程度に残る不確実性を評価する。 | 第2の3第4段落。 |
| 14 | 5 | 危険の有無・程度が不確かな状況で,被害の重大さと宗教実践を誤って阻止する不利益を踏まえ,採る審査基準と要求する根拠の程度を説明する。 | 第2の3第3段落。 |
| 15 | 4 | 採用した基準を本件に当てはめ,危険の根拠と,より負担の小さい手段の可能性から,全面的な不許可の合憲性を評価する。 | 第2の3第4段落~最終段落。 |
| 17 | 4 | 双方の主張を踏まえ,自己の結論について,採用し又は退ける理由を具体的に示す。 | 第2の1・2・3の私見。 |
| 18 | 2 | 〔条件〕徳島市公安条例事件判決と異なる条例の審査を採る場合は,同判決の事案との違いと,採用する規範を理由付きで示す。 | 適用外。答案は判例と異なる審査枠組みを採っていない。 |
| 19 | 4 | 双方に都合のよい別々の事実だけを拾わず,危険の有無を断定し難い共通の事実状況に立って,法的な評価の違いを示す。 | 第1の2第3段落,第2の3第1~4段落。 |
(2) 設問1
出題の趣旨は,法律との抵触や宗教的行為の自由の侵害を抽象的に指摘してすぐに審査基準論を展開するのでは不十分であり,どのような点でどのような抵触や侵害が生じているかをB教団の立場から具体的に論じるよう求めている(PDF1頁)。
答案は,法の許可要件に適合する開発が,同じ市長の条例上の不許可によって止まり得ることを示した(番号3~6)。
また,説明・調整を求めることと少数者に多数者の同意を得させることを分け,施設の利用目的と代替の難しさから信仰実践の負担を説明した(番号7~10)。
採点実感では,徳島市公安条例事件判決を正確に理解していない答案,目的の文言の違いを並べるだけの比較,過半数の同意要件を見落とした答案,教団側の主張を見出しや問題提起の程度で終える答案が指摘されている(PDF2~3頁)。
(3) 設問2
出題の趣旨は,C市側の主張は設問1ほど詳細でなくてよいとした上で,両者の主張を踏まえた自己の見解と,一方の主張に賛成する場合の理由を求めている(PDF1~2頁)。
答案の第2の1は,地域に固有の安全上の支障を防ぐ規律として条例の併存を認める一方,法が考慮する土地利用上の理由を再び用いて開発を止める解釈は採らない(番号6・17)。
第2の2は,協定締結の義務がもたらす負担を,後段で市長が独立に判断することとは分けて審査する。
協定の未締結を使えない場合にも,勧告に従わなかったことを入口として安全上の危険を検討する点が,番号1・7・8との接続である。
第2の3は,懸念に理由があることと,不許可を支えるだけの事実があることとを分ける(番号12~15)。
採点実感は,教団側と市側がそれぞれ都合のよい事実を基に主張し合う答案を挙げ,危険性があるともないとも断定し難い状況の下で,法令を活用してどう判断するかを論じてほしかったと述べている(PDF3~4頁)。
答案は,旧教団との連続性などを両者に共通する事情として扱い,何を根拠に不許可までできるかを論じた(番号19)。
危険の誤認がどちらの側にどのような損失をもたらすかを比較し,要求する根拠の程度へつなげるのは,出題の趣旨を具体化した本記事の論証であり,公式資料が述べるものではない。
神戸高専剣道実技拒否事件は,公式資料に記載のない補足であるが,代替措置を考慮する参考として用いた。
(4) 答案の弱点と扱わなかった事項
条例と都市計画法の併存は,資料1が抜粋であることを踏まえ,本問の与件の範囲で判断した。
具体的な危険が立証できた場合には,危険の性質と代替措置の実効性により,処分の評価は変わり得る。
答案では,居住・移転の自由や財産権を独立の根拠にせず,土地と立地の事情を宗教実践に対する負担の評価に用いた。
判例と異なる基準を定立する構成は採っていない。
採点実感欄に示した答案の傾向は,ヒアリングで述べられた考査委員の所感である。
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第7 出典
1 公式資料
①法務省「論文式試験問題集[公法系科目]」(平成19年新司法試験)(PDF2~9頁の第1問・資料1~3)
②法務省「平成19年新司法試験論文式試験問題出題趣旨」(PDF1~2頁の公法系科目第1問)
③法務省「新司法試験考査委員(公法系科目)に対するヒアリングの概要」(PDF1~4頁の憲法。司法試験委員会第41回(平成19年10月3日)の議事要旨として掲載)
④法務省「平成19年新司法試験の実施日程等について」(平成18年9月20日司法試験委員会決定。PDF1頁の試験日程)
2 法令
①日本国憲法(衆議院)(20条1項及び94条)
②都市計画法1条,2条,4条,7条,29条及び33条,都市計画法施行令19条並びにC市まちづくり条例は,問題文の資料1・2に掲げられた試験当時の条文の抜粋による。
③条例制定権の限界に関する地方自治法14条1項は,徳島市公安条例事件判決の理由で引かれた規定として参照した。
3 裁判例
①最高裁昭和50年9月10日大法廷判決(昭和48年(あ)第910号,刑集29巻8号489頁,徳島市公安条例事件):条例が国の法令に違反するかどうかの判断方法。
②最高裁平成8年3月8日第二小法廷判決(平成7年(行ツ)第74号,民集50巻3号469頁,神戸高専剣道実技拒否事件):信仰上の理由による履修拒否と代替措置の考慮。
4 留意事項
出題の趣旨はPDF1~2頁の公法系科目〔第1問〕の部分を,採点実感はヒアリングの概要のPDF1~4頁の憲法の部分を,評価項目の根拠とした。
平成19年の公法系科目の採点実感等は,司法試験委員会第41回の議事要旨に掲載された考査委員に対するヒアリングの概要として公表されており,採点実感欄に示した答案の傾向は考査委員の所感である。
答案と解説は試験当時の法令と問題文の資料によっている。
評価項目,重み,答案の結論及び出題の趣旨の具体化は本記事独自の分析であり,法務省が一つの結論を指定したものではない。