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平成21年司法試験公法系科目第1問(憲法)の模範解答と評価項目―出題の趣旨・採点実感から抽出した29項目と5段階の重み付け(AI作成)

第1 この記事の対象と結論

平成21年司法試験公法系科目第1問(憲法)は,遺伝子治療の臨床研究をめぐる二つの処分を素材とする。
設問1は県立大学医学部長による中止命令,設問2は学長による停職処分を扱う。

本答案は,研究計画を中止した命令を合憲と考える。
停職については,C本人への情報提供と家族の情報の開示を区別し,家族4人の無同意の全面開示を独立の理由とする処分は憲法上許されると考える。

1 資料の範囲

資料対象とした範囲
問題文PDF2~5頁の第1問と参考資料1~3
出題の趣旨PDF1~2頁の公法系第1問(第2問の直前まで)
採点実感PDF1~4頁の憲法部分

第4に29の評価項目を,第5に答案とその解説を掲載する。
先に解く場合は,問題文を読んでから第4以降へ進むとよい。

第2 評価項目の示し方と重み付けの基準

評価項目は,法務省の出題の趣旨と採点実感を基に,本記事で答案の検討単位として抽出したものである。
重みは独自の分類であり,法務省の公式配点や採点基準を示すものではない。

重み判断基準
5その設問の判断を大きく分ける核心
4結論を理由付きで支える主要な論証・当てはめ
3通常押さえる法的処理・事情の評価
2論証を補強する説明・個別事情・誤りの注意
1補充的な引用・記述範囲の確認

「注意」は避けるべき取り違えを示す。
29番は部分社会論を大学側の反論として取り上げる場合の項目である。
条件が異なる論証を全答案に累積して求めるものではない。

第3 本問の概要

1 問題文と事実関係

Y県立大学のX教授らは,難病の治療法を開発するため,所定の承認を経てCを被験者とする臨床研究を実施した。
予測できなかった問題でCが重体となり,後に回復した。
医学部長は審査を経て研究全体の中止を命じた。

Cは自己と家族4人の遺伝情報を得ることを研究参加の条件とした。
Xは家族4人の検査には各自から同意を得ていたが,Cへの開示の同意は得ずに,Cと家族の情報をCへ伝えた。
学長は遺伝子情報保護規則への違反を理由にXを1か月の停職とした。

2 設問が求めること

設問争う処分答案の到達点
1研究中止命令処分性は前提。学問の自由と大学の自治を踏まえ,規則と命令の合憲性を検討する。
21か月の停職個人情報に関する法令・条例は除外。開示規則と停職について,Xの主張適格と各情報への規制を論じる。

両設問とも,Xの代理人として主張を構成し,大学側の正当化を想定して,自分の結論と理由を示すことが求められている。

第4 評価項目と重み

1 設問1と両設問の共通事項

番号評価項目重み出題の趣旨採点実感
1【両設問共通】Xの立場から具体的な違憲主張を立て,大学側の有力な反論を自己の理由の中で検討する。3PDF 1・総論PDF 1–2・2(1)エ
2【両設問共通】規則が定める規制の合憲性と,具体的な中止・停職処分の合憲性を別々に評価する。5PDF 1・総論PDF 1・2(1)イ
3【両設問共通】【注意】県立大学の公権力の行使として扱い,国立大学Aや私人間の事案と取り違えない。3対象範囲に個別の指摘なしPDF 2・2(1)カ①
4新しい治療法を検証するXの臨床研究の実施を,憲法23条の研究の自由の保障範囲に位置付ける。5PDF 1・設問1PDF 2・2(2)ア,イ①
5研究,成果発表等を含む学問の自由の独自の意義を説明する。3対象範囲に個別の指摘なしPDF 2・2(2)イ①
6人への投与を伴う実験の規制を,思索や表現内容の規制と区別して審査の密度を理由付ける。4PDF 1・設問1PDF 2–3・2(2)イ②③
7制裁のない国の指針と医学部規則の違いを,制定背景・主体・機能から説明し,規則で措置を定め得るかを検討する。5PDF 1・設問1PDF 2・2(2)ア
8大学の自治の憲法上の意味を示し,個々の研究者の自由との対立を,自主的な倫理・安全審査が許される限度から調整する。5PDF 1・総論,設問1PDF 3・2(2)イ④
9生命・身体保護の目的と規則8条の発動要件・措置の幅を結び付け,研究内容を理由にしない規制として評価する。4PDF 1・設問1PDF 2–3・2(2)ア,イ⑤
10Cの重体,回復,危険の予測困難性を区別して,承認後に研究計画の危険を再評価する。4対象範囲に個別の指摘なしPDF 2・2(2)ア
11Cが説明を受けた上で与えた同意を考慮しつつ,専門知識の差,未知の危険及び将来の被験者に対する大学の責任を検討する。4対象範囲に個別の指摘なしPDF 2・2(2)ア
12規則8条の変更等と本研究全体の中止を比較し,事故の深刻さと代替措置の実効性から本件処分の相当性を説明する。5PDF 1・総論,設問1PDF 2–3・2(2)イ②⑤
13Cへの研究の続行不能と,医学部長が命じた研究計画全体の中止を区別する。3対象範囲に個別の指摘なしPDF 2・2(1)カ②,2(2)ア
14【注意】手続は定めどおり慎重に行われたという前提を維持し,31条違反を本件の中心に据えない。2対象範囲に個別の指摘なしPDF 2・2(1)カ④

2 設問2と条件付き項目

番号評価項目重み出題の趣旨採点実感
15規則6条1項の原則と2項の例外を適用し,C本人の治療対象疾病の原因情報は開示義務の対象とする。4対象範囲に個別の指摘なしPDF 2・2(1)カ⑤
16停職によりXの研究活動も制約されることと,処分の根拠規則により直接問題になるCの情報取得を区別する。4PDF 1・設問2PDF 3–4・2(3)イ①②
17Cが公的機関の保有する自己の遺伝情報を求める利益を,13条の自己情報コントロールに基づく開示請求の面から構成する。5PDF 1・設問2PDF 3–4・2(3)ア,イ①②
18第三者の権利侵害を援用する違憲主張適格について,没収事件の二つの理由を示し,本問へ移せる判断枠組みを論じる。5PDF 1・設問2PDF 4・2(3)イ④
19Cへの開示を禁じる規則への違反がXの停職理由とされたこと,XとCの具体的関係及びC自身の救済可能性を踏まえて適格を判断する。4PDF 1・設問2PDF 4・2(3)イ④
20本人を遺伝情報による自己加害から守る理由を,成人Cの情報選択・医療上の自己決定と対立させて評価する。4PDF 1–2・設問2PDF 3・2(3)ア,イ①
21遺伝情報の予測の不確実性等を考慮し,説明,項目選択,第三者情報の切分けなどと一律禁止を比較する。4PDF 1–2・設問2PDF 3・2(3)イ①
22家族の遺伝情報について,Cが自己の病気を理解する利益と,家族の13条上の情報プライバシーを区別して比較する。5PDF 2・設問2PDF 3–4・2(3)ア,イ①②
23無断開示で生じ得る病歴・体質の推知,秘密の喪失や家族関係・社会的取扱いへの影響を具体化する。3PDF 2・設問2PDF 4・2(3)イ⑥
24Cの難病と遺伝的関係に照らし,家族由来の所見に対するCの具体的な必要性と,全情報までは必要としない理由を示す。4PDF 2・設問2PDF 4・2(3)イ⑥
25家族それぞれの検査同意と,Cへの識別可能な情報の開示同意を区別して本件に適用する。4対象範囲に個別の指摘なしPDF 2・2(1)カ③,4・2(3)イ⑥
26第三者への一切の提供を禁じる規則について,個別同意や治療に不可欠な場合などの扱いと,本件無同意の全面開示を分ける。4PDF 2・設問2PDF 4・2(3)イ②⑥
27指針上の説明を尽くしたことと,Cの受諾条件に反する規則の内容を説明したかを分け,Cの医療上の選択への影響を論じる。4PDF 2・設問2末尾PDF 4・2(3)イ③
28開示ごとに憲法上の結論を出し,家族情報など残る処分事由と停職1か月の評価を結び付ける。3PDF 1–2・規則と処分PDF 3・2(3)イ①
29【条件付き】部分社会論を大学側の反論に採る場合は,富山大学判決の枠組みと射程を示し,両処分にそのまま適用できるかを論じる。3PDF 2・両設問PDF 4・2(3)イ⑤

3 重みの分布

重み項目数
10
21
37
413
58
総項目数29
重みの合計115

重み5の項目は,規則と処分を分ける2番,研究の自由の保障範囲を定める4番,指針と規則の役割を分ける7番,大学自治と個人の研究の自由を調整する8番,代替措置と全体中止を比較する12番である。
設問2では,自己情報の開示請求を構成する17番,Xの違憲主張適格を検討する18番,家族のプライバシーとCの利益を調整する22番が該当する。

第5 模範解答

1 答案の前提と表記

試験当時を基準とし,医学・科学の事情は問題文の設定に従う。
以下は,規則の適用範囲と処分の評価を分けて論じる一つの答案である。

2 答案

第1 設問1

1 X側の主張

(1)憲法23条は,学問上の知見を得る過程を権力による統制から守る。
研究の自由には,課題の選定や思索に加え,知見を検証する方法を選び,実施する自由が含まれる。
Xらは難病の治療法を開発するため,動物実験の成果を人で検証していた。
治療への期待があることや,Xが県立大学の職務として行うことによって,研究としての保護が失われるわけではない。
医学部長の中止命令は,Cへの実施が事実上不可能となったことと異なり,Xらによる研究計画全体を停止させる。

(2)国は研究者の自主性を尊重し,刑罰を伴う法規制を設けず,指針によって規律することにした。
大学の自治も学問を支える制度である。
それにもかかわらず,審査委員会規則8条は,研究者の落ち度を要せず,重大な事態が生じたときに中止を命ずることを認める。
Xは,研究継続を直接妨げる以上,生命・身体を守るため他に実効的な手段がない場合に限って中止を認めるべきであり,重大な事態だけで中止を許す規則なら23条に反すると主張する。

 仮に規則自体が合憲でも,Xらは2003年以来動物実験を重ね,指針所定の承認を得た。
Cにも所定の説明を尽くし,文書で同意を得た。
A大学の死亡事故は別研究のものであり,本研究の再発危険を直接裏付けない。
Cへの研究は既に続行不能で,Cは回復した。
原因究明までの停止や,対象・方法の変更で目的を達成できるかを問わず本研究全体を打ち切ることは過大である。
Xは,規則又は本件への適用が23条に反するとして,中止命令の取消しを求める。

2 大学側の主張を踏まえた私見

(1)大学側は,承認した臨床研究の安全性と倫理性に大学が責任を負い,自ら危険に対処できることは大学の自治の一内容だと主張し得る。
東大ポポロ事件判決(最大判昭和38年5月22日)は,大学における学問の自由を支えるための自治を認めた。
同判決の問題は警察官の立入り等に関するものであり,大学内部で個々の研究者を規律する権限の限界まで直接決めていない。
自治は外部の介入を防ぐとともに,研究機関が専門的判断によって研究環境を維持することを支える。
しかし,構成員の自由に常に優越させれば,自治の目的を失う。
内部規律にも,安全確保との具体的な関係と相当な限度が必要である。

 国の指針は,臨床研究を適正に行うための無制裁の準則である。
規則8条は,先行する事故を受け,承認後の重大事態に対し,研究を実施する医学部の責任において総括責任者へ必要な措置を命じるものである。
この違いは,法律と条例の優先関係や命令への委任の問題ではない。
外部の研究者一般に刑罰等を課す代わりに,現に研究を行う大学が内部の専門的判断で安全を確保することは,国が採った柔軟な規律とも両立する。

 人の体内への遺伝子等の投与は生命・身体に直接影響する。
思索や研究成果の発表を内容によって禁じる場合と比べ,危険の重大性や代替手段の実効性について相応の専門的判断の幅を認めてよい。
ただし,研究自体の中止は強い制約である。
規則8条は重大な事態を契機とし,変更その他の措置も掲げている。
重大事態に当たれば直ちに中止するのではなく,危険の重大性・切迫性,影響の範囲及び他の手段の実効性に照らし必要で相当な措置だけを許すと解する限り,規則自体は23条に反しない。

(2)本件では,所定の承認後,予測できなかった問題によってCが重体となった。
Cが難病に対する新たな治療の可能性を選択した意思は尊重すべきだが,説明に基づく同意であっても,専門家にも予見できない危険を本人が評価し切れるわけではない。
他の被験者の生命・身体に対する大学の責任も残る。
Cは回復したが,実際に重体となった事実の重みは失われない。

 もっとも,C以外への影響もあるため,Cへの実施を中止するだけで足りるかを問う必要がある。
本問では原因や危険の及ぶ範囲が特定されたとは示されていない。
別の被験者を選ぶことや説明を追加することだけで,同じ計画を安全に続けられるとはいえない。
研究の変更も,その安全性が確認されて初めて中止に代わり得る。
原因究明までの停止は有力だが,現計画を安全に再開できる具体的な見通しは示されておらず,承認を前提とした現計画の打切りにも合理性がある。
医学部長は所定の手続で慎重に審査している。
措置が向けられたのは現計画であり,遺伝子治療に関する研究一般を禁ずるものではない。
以上により,本件中止は相当な範囲にとどまり,23条を理由とする取消しは認められない。

 なお,大学側が部分社会論を援用しても,富山大学単位不認定事件判決(最判昭和52年3月15日)は,一般市民法秩序に直接関わらない内部問題について自律的解決を認めた。
処分性を前提とする本件中止や,教授の地位・職務に法的効果が及び,Cらの情報の利益にも関わる後記の停職を,単位の教育的評価と同列には扱えない。
自治への配慮は審査の方法に反映できるが,内部で行われたことだけを理由に司法審査を排除すべきではない。

第2 設問2

1 X側の主張

(1)停職はXの研究活動を実質的に制約する。
停職の理由である開示を直接禁じた遺伝子情報保護規則6条1項は,識別可能な遺伝情報の開示を原則として一切禁止し,2項は,総括責任者に対し,本人の求めがある場合に治療対象疾病の原因情報に限って開示を義務付ける。
CへのC自身の原因情報の開示は適法である。
Xは,規則がCの自己情報へのアクセスを必要な限度を超えて制約し,Cの難病に関係する家族の情報を知る可能性も一切閉ざす点で違憲だと主張する。

(2)Cは自己と家族の情報を得られることを研究参加の条件としていた。
成人Cの健康管理と医療上の選択に関わる情報について,Cのためだという理由で一律に遮断することは,13条に根拠を持つ自己情報の開示請求を侵害する。
家族の検査が病因の特定に必要であった以上,家族の情報のうちCの病気に直接関わる所見まで,同意の有無や医療上の必要性を問わず知らせないのも過大である。
処分を受けるのはXだが,Cの請求に応じたことが処分の理由とされたから,Xはその処分の取消しのためCの権利を援用できると主張する。

2 大学側の主張を踏まえた私見

(1)大学側は,XはCの権利の主体でなく,Cが自ら開示を求め得るから,Xに援用を認める必要はないと主張し得る。
第三者所有物没収事件判決(最大判昭和37年11月28日)は,没収が被告人自身に対する附加刑であることと,使用・収益の喪失や所有者からの請求の危険等につき被告人にも利害関係があることから,第三者の権利に関する違憲主張を認めた。
同判決は刑事手続での判断であり,附加刑であることを他の紛争にそのまま要求できないし,第三者の権利を何人でも援用できるとしたものでもない。

 私は,第三者の権利の制約が本人の争う不利益処分の根拠と直結するか,権利者との関係からその利益を適切に主張できるか,権利者自身の手続でこの不利益を解消できるかを検討する。
XはCを診断し,参加に向けた説明をした総括責任者であり,C自身の開示要求に応じたことが停職の理由となった。
C自身が開示を争えたとしても,それではXへの停職は解消しないし,既に情報が渡ったCが別途争う実益も乏しい。
したがって,Xは自己の停職を争う限度でCの権利侵害を主張できる。
この判断は,Cの家族の秘密保持利益をXが自由に処分できることを意味しない。

(2)C自身の情報について,ここで問われるのは公に発信された表現を受け取る自由ではない。
既に県立大学が保有する自己の遺伝情報は,健康や身体への介入を判断する資料となる。
13条が保障する個人の自律に照らし,本人を識別でき,かつ第三者の権利に配慮して開示できる範囲で,本人がその情報を求める権利を認めるべきである。
新たな情報の作成や,大学が保有する情報一般の公開を求める場合とは異なる。

 大学側のいう心理的打撃の防止には理由がある。
発症確率の限界を理解しないまま将来の病気を確実視したり,本人が知らないでいたい所見を告知されたりすれば,本人の生活や家族関係に影響する。
他方,Cは成人で自ら開示を求めており,他の疾患の予防や将来の生活を考えるために有用な情報もあり得る。
意味・限界を説明し,知りたい項目を選べるようにし,家族の秘密を推知させる部分は切り分けることで,弊害を抑えられる。
したがって,そのように本人の自律を尊重して開示できる範囲にも,疾病の原因かどうかだけで一律に禁止を及ぼす規則は過大であり,その適用を本件処分の根拠とはできない。
ただし,このことからC本人に全情報を無条件で知らせてよいとはいえない。

(3)家族の遺伝情報は本人ごとに13条上の情報プライバシーとして保護される。
発症可能性や体質が知られれば家族関係が損なわれ,さらに広まれば社会生活上の差別にもつながり得る。
Cと遺伝的特質を共有することだけで,家族の利益が薄れるわけではない。
他方,難病で新しい治療の選択が問題となるCにとって,家族との比較から得られる病因や治療選択に直接関わる所見を知る利益は軽くない。
そのため,家族が開示先と範囲を特定して同意した場合や,識別可能な所見の提供が治療の選択に不可欠で他に手段がない場合まで一律に禁ずるなら,規則の範囲は過大となり得る。
これとは別に,匿名化され個人を識別できない情報は規則1条の対象から外れる。

 本件で家族4人がしたのは各自の検査への同意であり,Cへの提供には同意していない。
Cが参加の条件にしたことは,家族の同意の代わりにならない。
Cの診断・治療に関係する所見を選んで説明し,必要があれば改めて家族の同意を求めることができた。
全員の全情報を伝える固有の必要は示されていない。
したがって,このような無同意の全面開示を禁止することは,Cの利益を考慮しても正当化できる。

(4)大学側は,Xが指針所定の説明を尽くした以上,それ以上の情報を渡す必要はなかったと主張し得る。
輸血拒否事件判決(最判平成12年2月29日)は,患者の明確な意思を知る医師が,それと相いれない方針を説明せずに,治療を受けるかの選択の機会を奪った点を問題とした。
本件は遺伝情報と研究への参加の事案であるが,参加するかの決定を左右する条件を告知する必要性は共通する。
XはCが情報の取得を受諾の条件にした時点で,指針所定の説明とは別に,規則により開示できる範囲と家族の同意が得られていないことを告げ,その上で参加するかをCに選ばせるべきであった。
与件からその説明をしたことは確認できない。
Cの選択を尊重することは,Xが家族の情報をすべて渡す理由にはならない。

(5)以上から,Cの原因情報の開示や,C自身への開示を一律に禁ずることが過大となる部分を停職の理由にはできない。
他方,家族4人の全情報を無同意で開示したことは独立して重大であり,C一人に提供した事情を考慮しても,これを理由とする1か月の停職は憲法上の均衡を失しない。
本問で示された憲法上の理由による取消しは認められないと考える。
もっとも,学長が許されない事由を加重に用いたと認められる場合には,量定を改めて検討すべきである。

3 出題の趣旨・採点実感を踏まえた解説

(1) 答案と評価項目の対応

第1の答案は4~14番,第2の答案は15~28番に対応する。
1~3番は両設問に共通し,29番は第1の末尾で両処分について条件付きで検討している。

番号重み評価項目答案の該当箇所・留保
25【両設問共通】規則が定める規制の合憲性と,具体的な中止・停職処分の合憲性を別々に評価する。第1・2(1)(2),第2・2(2)(3)(5)。規則の規制範囲と個別処分を分ける。
45新しい治療法を検証するXの臨床研究の実施を,憲法23条の研究の自由の保障範囲に位置付ける。第1・1(1)。研究目的と人で検証する方法。
64人への投与を伴う実験の規制を,思索や表現内容の規制と区別して審査の密度を理由付ける。第1・2(1)第3段落。人の身体に作用する方法と内容規制の違い。
75制裁のない国の指針と医学部規則の違いを,制定背景・主体・機能から説明し,規則で措置を定め得るかを検討する。第1・2(1)第2段落。国の実施準則と大学の事後措置。
85大学の自治の憲法上の意味を示し,個々の研究者の自由との対立を,自主的な倫理・安全審査が許される限度から調整する。第1・2(1)第1段落。ポポロ判決と学内安全規律の限界。
94生命・身体保護の目的と規則8条の発動要件・措置の幅を結び付け,研究内容を理由にしない規制として評価する。第1・2(1)第3段落。重大事態を契機とする必要・相当な措置。
104Cの重体,回復,危険の予測困難性を区別して,承認後に研究計画の危険を再評価する。第1・2(2)第1段落。先行承認,重体,回復を区別。
114Cが説明を受けた上で与えた同意を考慮しつつ,専門知識の差,未知の危険及び将来の被験者に対する大学の責任を検討する。第1・2(2)第1段落。未知の危険と将来の被験者への責任。
125規則8条の変更等と本研究全体の中止を比較し,事故の深刻さと代替措置の実効性から本件処分の相当性を説明する。第1・2(2)第2段落。対象変更,一時停止,現計画の打切りを比較。
154規則6条1項の原則と2項の例外を適用し,C本人の治療対象疾病の原因情報は開示義務の対象とする。第2・1(1),2(5)。原因情報の本人開示義務。
164停職によりXの研究活動も制約されることと,処分の根拠規則により直接問題になるCの情報取得を区別する。第2・1(1),2(1)(2)。Xへの処分とCの情報取得。
175Cが公的機関の保有する自己の遺伝情報を求める利益を,13条の自己情報コントロールに基づく開示請求の面から構成する。第2・2(2)第1段落。既に保有された自己情報へのアクセス。
185第三者の権利侵害を援用する違憲主張適格について,没収事件の二つの理由を示し,本問へ移せる判断枠組みを論じる。第2・2(1)第1~2段落。没収判決の理由と本問の判断方法。
194Cへの開示を禁じる規則への違反がXの停職理由とされたこと,XとCの具体的関係及びC自身の救済可能性を踏まえて適格を判断する。第2・2(1)第2段落。Cが開示を争ってもXの停職は解消しない。
204本人を遺伝情報による自己加害から守る理由を,成人Cの情報選択・医療上の自己決定と対立させて評価する。第2・2(2)第2段落。本人を守る目的とCの意思。
214遺伝情報の予測の不確実性等を考慮し,説明,項目選択,第三者情報の切分けなどと一律禁止を比較する。第2・2(2)第2段落。意味の説明,選択,第三者情報の切分け。
225家族の遺伝情報について,Cが自己の病気を理解する利益と,家族の13条上の情報プライバシーを区別して比較する。第2・2(3)第1段落。Cの疾病と家族の秘密を対照。
244Cの難病と遺伝的関係に照らし,家族由来の所見に対するCの具体的な必要性と,全情報までは必要としない理由を示す。第2・2(3)。難病の治療選択に関係する所見の範囲。
254家族それぞれの検査同意と,Cへの識別可能な情報の開示同意を区別して本件に適用する。第2・2(3)第2段落。検査同意と第三者提供への同意を分ける。
264第三者への一切の提供を禁じる規則について,個別同意や治療に不可欠な場合などの扱いと,本件無同意の全面開示を分ける。第2・2(3)。識別可能な情報の個別同意と本件の全面開示。
274指針上の説明を尽くしたことと,Cの受諾条件に反する規則の内容を説明したかを分け,Cの医療上の選択への影響を論じる。第2・2(4)。研究参加を判断するため規則の開示限界を説明。
293【条件付き】部分社会論を大学側の反論に採る場合は,富山大学判決の枠組みと射程を示し,両処分にそのまま適用できるかを論じる。第1・2(2)末尾。部分社会論を大学側の反論に採る場合のみ。

(2) 設問1

出題の趣旨は,人を対象とする研究を,思索や表現内容の規制と区別して考えることを求めている。
採点実感は,指針と医学部規則の制定背景や役割を対照した答案と,大学の自治と研究者の自由との対立を検討した答案に言及している。

答案では,研究の保障範囲を先に確定し,7~9番の制度の違いと自治の機能を踏まえて,規則8条の解釈を示した。
12~13番では,Cへの研究の続行不能と研究全体の中止を分け,変更や一時停止と比較している。
中止を相当とした評価は,問題文の事実に即した本答案の結論である。

(3) 設問2

出題の趣旨は,自己情報の開示請求を13条に位置付け,XがCの権利を援用できるかを検討することを求めている。
採点実感は,家族のプライバシーとCの利益を比較すること,輸血拒否事件判決を踏まえXの説明の問題に気付くことを指摘している。

答案は17~19番で,第三者所有物没収事件判決の事案と理由を本問の判断枠組みから分けた。
C本人の情報では一律禁止と本人の選択を,家族の情報では無同意の開示と医療上の必要を比較する(20~26番)。
27番では,指針所定の説明が済んだことと,Cの参加の条件に関わる規則の説明が必要だったことを分けている。

(4) 答案の弱点と扱わなかった事項

中止命令については,原因究明までの一時停止を選ぶ結論も,危険と代替手段の実効性を理由付けて検討できる。
停職については,学長がいずれの事由をどの程度重く見たかは明らかでなく,28番の独立事由と処分量定は本答案の評価である。
処分性の議論,個人情報に関する法令・条例の適用,試験後の制度変更は扱わない。

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1 他年度の同科目

令和7年度司法試験公法系第1問の模範解答と評価項目

平成22年司法試験公法系科目第1問(憲法)の模範解答と評価項目

2 平成21年司法試験の他の問題

平成21年司法試験公法系科目第2問(行政法)の模範解答と評価項目
平成21年司法試験民事系科目第1問(民事訴訟法)の模範解答と評価項目
平成21年司法試験民事系科目第2問(民法・商法)の模範解答と評価項目
平成21年司法試験刑事系科目第1問(刑法)の模範解答と評価項目
平成21年司法試験刑事系科目第2問(刑事訴訟法)の模範解答と評価項目

第7 出典

1 法務省の一次資料

平成21年新司法試験試験問題・論文式試験(公法系科目) PDF2~5頁。

平成21年新司法試験論文式試験問題出題趣旨 PDF1~2頁の第1問。

平成21年新司法試験の採点実感等に関する意見(憲法) PDF1~4頁。

2 条文と裁判所原文

日本国憲法 13条,21条,23条。

東大ポポロ事件・最高裁昭和38年5月22日大法廷判決(昭和31年(あ)第2973号,刑集17巻4号370頁) PDF1~2頁。

第三者所有物没収事件・最高裁昭和37年11月28日大法廷判決(昭和30年(あ)第2961号,刑集16巻11号1593頁) PDF1~2頁。

輸血拒否事件・最高裁平成12年2月29日判決(平成10年(オ)第1081号,民集54巻2号582頁) PDF3頁。

富山大学単位不認定事件・最高裁昭和52年3月15日判決(昭和46年(行ツ)第52号,民集31巻2号234頁) PDF1~2頁。

判例の規範を本問に応用した判断と,各項目の重みは本記事の分析である。