第1 この記事の対象と結論
平成18年司法試験の論文式試験・民事系科目第2問(民法・民事訴訟法)は,XがAに対する貸金債権を担保するため,AのBに対する将来の売買代金債権の譲渡を受けて債権譲渡登記をした後,Aが同じ代金債権をZにも譲渡した事例を基に,要件事実,民法を中心とする民事実体法上の処理及び民事訴訟法上の論点を問う融合問題である。
設問1は保証債務の履行請求の請求原因事実,設問2は弁論の併合と共同訴訟人間の証拠共通の原則,設問3はXA間の法律関係とXのY・Zに対する請求,設問4は保証人Yの請求異議を問い,問題文が示す設問1から設問4までの配点の割合は4:4.5:7:4.5である。
この記事は,法務省の出題の趣旨と,考査委員が採点実感等を述べた民事系科目のヒアリングの概要を基に27の評価項目を設け,そのうち10項目を重み5とした。
評価項目と重みは本記事独自の整理であり,法務省の採点基準や配点を示すものではない。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 対象 | 平成18年新司法試験論文式試験・民事系科目第2問(民法・民事訴訟法) |
| 問題文 | 論文式試験問題集[民事系科目第2問](PDF6~10頁) |
| 試験日・答案の基準 | 平成18年5月22日(民事系科目第2問の論文式試験)。答案は試験当時の法令による。 |
| 出題の趣旨 | 平成18年新司法試験論文式試験問題出題趣旨(PDF3~4頁の民事系科目第2問) |
| 採点実感 | 新司法試験考査委員(民事系科目)に対するヒアリング概要(PDF1~7頁の民法・民事訴訟法及び11頁) |
| 主な事項 | 将来債権の譲渡担保の法的構成と要件事実,共同訴訟人独立の原則と共同訴訟人間の証拠共通の原則,民事訴訟法152条2項,債権譲渡登記による第三者対抗要件と債務者対抗要件,異議をとどめない承諾,被担保債権額と保証債務の履行請求・不当利得返還請求の関係,反射効,既判力の時的限界と基準時後の解除権の行使 |
| 評価項目 | 27項目。重み5は10項目,重みの合計は114。 |
| 主な裁判例 | 将来債権の譲渡の有効性について,最高裁平成11年1月29日第三小法廷判決。保証人敗訴の確定判決に対する請求異議について,最高裁昭和51年10月21日第一小法廷判決。 |
| 答案の分量 | 5050字(空白及び改行を除き,見出しを含む。) |
| 法令の基準 | 試験当時の民法(平成16年法律第147号による現代語化後,平成29年法律第44号による改正前のもの),商法,債権譲渡の対抗要件に関する民法の特例等に関する法律(平成16年法律第148号による改正の前後),民事訴訟法及び民事執行法による。 |
| 資料の確認日 | 令和8年11月7日 |
本稿の答案は,設問1では,将来の売買代金債権が発生時にXに移転し,実行通知まではAに代金の受領権限が留保されるという構成を採り,①・③・④をXの請求原因事実とし,②は④の通知の前提として主張立証を要するとする。
設問2では,証拠調べの結果は共同訴訟人間でも共通に用いられることを前提に,併合前の証人尋問に関与していないZの不利益を,民事訴訟法152条2項による尋問等で解消する。
設問3では,Bの第1回分の弁済と第4回分の解除をXに対抗できるとした上で,XはYに2700万円,Zに500万円を請求できるとし,被担保債権2000万円を超える回収はAとの清算で調整する。
設問4では,XB間の判決の確定自体を異議の事由とする主張と,基準時後のBの解除権の行使を異議の事由とする主張を分け,後者により2700万円の限度で強制執行の不許を求める構成を有力とする。
重み5の10項目は,設問1の①~④の振り分けの理由付け(番号2),設問2のZに不利な証拠の具体的な把握と民事訴訟法152条2項による方策(番号9・10),設問3のXZ間の順位とBへの対抗の時期の区別,第1回分の弁済の効力,異議をとどめない承諾の援用の可否,Yに対する請求額及び二つの請求の関係(番号14・15・17・19・22),設問4の反射効の肯定説・否定説と基準時後の解除権の行使(番号24・26)である。
第3に事実関係と設問の要求,第4に評価項目と重み,第5に答案と解説,第7に出典を置く。
第2 評価項目の示し方と重み付けの基準
1 評価項目の示し方
評価項目は,出題の趣旨と採点実感の指摘を,答案の記載から判定できる単位に言い換えた本稿独自の基準である。
表の番号は記事全体で通している。
出題の趣旨・採点実感の欄は,法務省が公表したPDFの頁と,関連する記載の要旨である。
平成18年の民事系科目では,採点実感等は司法試験委員会第30回(平成18年10月5日)の配布資料である考査委員に対するヒアリングの概要として公表されているので,採点実感欄はその民法・民事訴訟法の部分(PDF1~7頁)及び11頁の頁と要旨を示す。
一方の資料に対応する記載がない場合は「記載なし」,一般的な指摘や他の設問についての指摘から導く場合は「間接」と表示する。
番号12は,採点実感が指摘した論述の対象の取り違えを「〜しない」の形の項目としたものである。
番号15は,第1回分の弁済の効力を,債権の準占有者に対する弁済(民法478条)ではなく,債務者対抗要件の有無から説明できるかを評価する。
2 5段階の重み付けの基準
| 重み | 判断基準 |
|---|---|
| 5 | その設問の判断を大きく分ける核心 |
| 4 | 結論を理由付きで支える主要な論証・当てはめ |
| 3 | 通常押さえる法的処理・事情の評価 |
| 2 | 論証を補強する説明・個別事情・誤りの注意 |
| 1 | 補充的な引用・記述範囲の確認 |
重みとその合計は本記事独自の整理であり,法務省の配点,採点基準又は得点の目安を示すものではない。
第3 本問の概要
1 問題文と事実関係
X,Y,A及びBはいずれも株式会社であり,Zは金融業を営む者である。
Aは,平成15年10月6日,Bとの間で,3年間継続して機械部品を販売する基本契約(代金は納品の3か月後に支払う。)を締結し,Bの親会社であるYは,この基本契約に基づくBの売買代金債務を連帯保証した。
Xは,平成16年9月13日,Aに3600万円を5回の分割返済(1回でも怠れば当然に期限の利益を喪失する。)の約定で貸し付け,この貸金債権を担保するため,基本契約の契約期間中にこれに基づく売買契約によって将来生ずべきAのBに対する代金債権の譲渡を受けて,債権譲渡登記をした。
XがAに譲渡担保を実行する旨の通知をするまでは,Aに代金の受領権がある旨も合意された。
Aは,Xに2回分の元金合計1600万円を返済した後,平成17年6月から9月にかけて,Bに機械部品を4回(代金500万円,1200万円,1500万円及び400万円)売り,生じた代金債権を,その都度Zに450万円,1000万円,1200万円及び200万円で売却して,Bに内容証明郵便で譲渡を通知した。
Bは,第1回分の500万円を同年9月21日にZに弁済し,第4回分の400万円については,Zからの電話に対し,何の留保もせずに譲渡を承諾した。
Aが同年9月20日の分割金を支払わなかったため,Xは,同年10月8日,Aに譲渡担保を実行する旨を通知し,同日,Bに登記事項証明書を交付して債権譲渡と登記を通知した。
第4回の売買の目的物には直ちに発見できない重大な瑕疵があり,Bは,商品の納入後1か月程経って気付き,同年10月19日に第4回の売買契約を解除した。
Xは,Yに保証債務の履行を求める訴えを提起し,その後,Zに対しても,BのZに対する弁済が有効にされたことを前提とする不当利得の返還を求める訴えを提起して,二つの訴訟の口頭弁論の併合を求めた。
XY間の訴訟では,併合の前に,Yの申出によりA及びBの各担当社員の証人尋問が行われ,Bの担当社員はBがZに弁済した旨を証言しており,Yは出金伝票も提出している。
Zは,Bから金銭の交付を受けたことはないとして,弁済の事実を否認している。
設問4は,XがYに訴えを提起した時点に遡って,これらと別の事実関係を設定している。
XのYに対する保証債務の履行請求訴訟は,Yが答弁書を提出せず口頭弁論期日にも出頭しないまま平成17年12月20日に口頭弁論が終結し,平成18年1月10日にY敗訴の判決書が送達されて,その2週間後に確定した。
他方,併合されなかったXのBに対する売買代金請求訴訟では,第1回分の弁済,第4回分の解除及び平成18年2月10日にされた第2回分・第3回分の瑕疵を理由とする解除を理由として,Xの請求をすべて棄却する判決が同年5月10日に確定した。
2 設問が求めること
| 設問 | 立場・対象 | 指定・除外 | 到達点 |
|---|---|---|---|
| 1 | K修習生として,J裁判官の問いに答える。XのYに対する保証債務の履行請求 | Ⅱ以下の事実は考慮しない。 | 債権譲渡担保の法的構成と,①~④の各事実が請求原因事実として必要か否か |
| 2 | K修習生として,J裁判官に報告する。XY間・XZ間の訴訟 | 口頭弁論の併合を仮定する。Ⅲ以下の事実は考慮しない。 | ①共同訴訟人独立の原則と共同訴訟人間の証拠共通の原則の考え方,②証拠共通の原則が働く場合の問題点とその考え方 |
| 3 | K修習生として,認定事実を実体法の観点から検討する。 | 証明責任の所在は考慮しない。利息及び遅延損害金は省略してよい。 | ①XA間の法律関係,②XのY・Zに対する請求と金額 |
| 4 | M修習生として,L弁護士に報告する。Yが強制執行を免れる方法 | Ⅱ・Ⅲの事実と設問2・3の検討結果は考慮しない。両判決の適否や妥当性は検討しない。 | 強制執行を免れる結論を導く主張,Xの反論及びそれに対する再反論 |
第4 評価項目と重み
1 設問1 債権譲渡担保の法的構成と請求原因事実
| 番号 | 評価項目 | 重み | 出題の趣旨 | 採点実感 |
|---|---|---|---|---|
| 1 | 将来債権を基本契約・債務者・発生期間で特定し,発生時にXに移るとする構成を示す。 | 4 | PDF4頁。本問の事例における将来債権譲渡担保の法的構成をどのように考えたか | PDF3頁。譲渡担保の法的構成等を関連させながら要件事実を出題したこと |
| 2 | 採用した実体法上の構成から,①~④がXの権利発生・行使に必要な事実か,Y側の抗弁かを根拠付きで振り分ける。 | 5 | PDF4頁。①から④までの各事実を請求原因事実と解したか否かの結論よりも,結論を導いた理由を論理的に精緻に展開しているかを重視すること | PDF4頁。主張立証責任の分配について基礎的な記述を欠く答案。PDF6頁。実体法との有機的関連を意識した記述に高い評価を与えたこと |
| 3 | ①の貸金債権発生事実について,保証債権の取得と担保実行の要件を区別して要否を示す。 | 3 | PDF4頁。①の事実を請求原因事実と解したか否かとその理由 | 間接(PDF6頁。実体法との有機的関連を意識した記述) |
| 4 | ②の登記を第三者対抗要件として位置付け,④の特例通知の前提となることを分けて説明する。 | 4 | PDF4頁。②の事実を請求原因事実と解したか否かとその理由 | 間接(PDF4頁。設問3について,対債務者対抗要件と対第三者対抗要件の錯綜の処理ができていない答案) |
| 5 | ③の通知の要否をAに留保された受領権限の解釈と結び付けて説明する。 | 4 | PDF4頁。将来債権譲渡担保の法的構成と③の事実についての結論の理由 | 間接(PDF3頁。譲渡担保の法的構成等を関連させた要件事実) |
| 6 | ④の通知の要否について,通知の相手方であるBと,請求の相手方である保証人Yとの関係を理由付きで示す。 | 4 | PDF4頁。④の事実を請求原因事実と解したか否かとその理由 | 間接(PDF6頁。実体法との有機的関連を意識した記述) |
2 設問2 弁論の併合と共同訴訟人間の証拠共通の原則
| 番号 | 評価項目 | 重み | 出題の趣旨 | 採点実感 |
|---|---|---|---|---|
| 7 | 通常共同訴訟が独立の訴訟を共同で審理する形であることから,民訴法39条の独立の原則を説明する。 | 4 | PDF4頁。共同訴訟人独立の原則と共同訴訟人間の証拠共通の原則を共同訴訟の基本構造に遡って理解しているか | PDF1~2頁。両原則がどうして行われているのかを問う出題。当事者間の証拠共通の原則を前提に解答した答案 |
| 8 | 申出の効力と証拠調べの結果を区別し,通常共同訴訟人間で証拠調べの結果を共通に利用できる理由を示す。 | 4 | PDF4頁。共同訴訟人独立の原則と共同訴訟人間の証拠共通の原則を共同訴訟の基本構造に遡って理解しているか | PDF1~2頁。両原則がどうして行われているのかを問う出題。当事者間の証拠共通の原則を前提に解答した答案 |
| 9 | B社員の証言や出金伝票が弁済を否認するZに不利に働くことを,併合前にZが関与していない経過に即して示す。 | 5 | PDF4頁。Zが全く関与せずに実施された証拠調べの証拠資料がXZ間の訴訟でも使用されることによってZが被る不利益の具体的な把握 | PDF2頁。Bの社員の証言等のZに不利な証拠を無視して解答した答案 |
| 10 | Zの証人尋問の申出があれば民訴法152条2項により尋問すべきことを示し,手続保障の方策を具体化する。 | 5 | PDF4頁。民事訴訟法152条2項の趣旨等を踏まえたZの不利益を解消する方策の具体的な説明 | PDF1頁。証拠共通の原則が生じさせる問題と解決の方法を事例に即して論じさせる出題 |
| 11 | 弁済の主張が各訴訟で提出されているかを弁論主義に従って別々に確認する。 | 4 | PDF4頁。弁論主義及び手続保障を考慮した方策 | PDF1頁。事例を無視して主張共通の原則も認めなければ証拠共通の原則だけでは意味がないと論じた答案 |
| 12 | Xの立場からの両負け防止策の検討に終始しない(設問2②はZが被る不利益とその解消を問う。)。 | 2 | 間接(PDF4頁。Zが被る不利益の具体的な把握) | PDF1頁。Xの立場から両負け防止策を検討する問題と理解し,もっぱらそれを論じた答案 |
3 設問3 XA間の法律関係とY・Zに対する請求
| 番号 | 評価項目 | 重み | 出題の趣旨 | 採点実感 |
|---|---|---|---|---|
| 13 | 4件の将来の売買代金債権の譲渡担保の有効性を,対象の特定に即して説明する。 | 4 | PDF4頁。本問の将来債権譲渡担保が有効なものであること | PDF1頁。将来債権譲渡担保の有効性について論及しない答案 |
| 14 | Xの先行登記とZへの各通知の到達を比較し,XZ間の順位とBへの対抗の時期を区別する。 | 5 | PDF4頁。XZ間では債権譲渡登記を先に備えたXが優先すること | PDF4頁。対債務者対抗要件と対第三者対抗要件の錯綜の処理。PDF6~7頁。両者の峻別が制度の基本であること |
| 15 | Bの第1回分500万円の弁済を,Xの債務者対抗要件の具備前であることから有効と説明する。 | 5 | PDF4頁。Xが債務者対抗要件を具備する前にBがZにした弁済は有効であること | PDF6~7頁。通知までに債務者がした弁済は有効であるのに,債権の準占有者に対する弁済とした答案が多く,点差が付いたこと |
| 16 | 第4回の売買の瑕疵につき,商法526条の検査・通知と旧民法の解除の要件を事情に即して適用する。 | 4 | PDF4頁。Bが商品の瑕疵を理由に行った解除は有効であること | 記載なし |
| 17 | Zに対する異議をとどめない承諾をXが援用できないことを説明し,解除をXに対抗できるかを処理する。 | 5 | PDF4頁。BがZにした異議をとどめない承諾をXが援用して解除の効果を否定することはできないこと | 記載なし |
| 18 | 残元本2000万円の算定と,期限の利益の喪失・実行通知による担保の実行をXA間で説明する。 | 4 | PDF4頁。被担保債権の残元本額2000万円を踏まえたXA間の関係の解釈 | 記載なし |
| 19 | Yに残る保証債務の額を,2700万円の額面と被担保債権2000万円の関係から理由付きで示す。 | 5 | PDF4頁。第2回・第3回の代金債権の保証債務履行請求権の合計2700万円が残元本2000万円を超えることを踏まえたXY間の関係の解釈 | 記載なし |
| 20 | Zの受益とXの損失の対応から,不当利得返還請求の成立を説明する。 | 4 | PDF4頁。XがZに請求することができる不当利得返還請求 | 記載なし |
| 21 | Zの債権取得代金450万円を踏まえ,返還額から控除するかを理由付きで示す。 | 4 | PDF4頁。Zが500万円の債権を450万円の代金で譲り受けたことを踏まえた不当利得返還請求の額 | 記載なし |
| 22 | Yへの保証債務の履行請求とZへの不当利得返還請求の併存・回収の関係を,被担保債権額と超過分の清算まで説明する。 | 5 | PDF4頁。不当利得返還請求権と保証債務履行請求権との関係の解釈 | 記載なし |
4 設問4 保証人の請求異議
| 番号 | 評価項目 | 重み | 出題の趣旨 | 採点実感 |
|---|---|---|---|---|
| 23 | YがXに提起する請求異議の訴えと,XY間の訴訟の口頭弁論終結時を基準とすることを示す。 | 3 | 間接(PDF4頁。既判力の時的限界を巡る議論) | 間接(PDF2頁。既判力の時的限界に言及する答案が極めて少なかったこと) |
| 24 | 反射効の肯定説・否定説の双方につき,主債務と保証債務の関係と判決効の人的範囲から根拠を示す。 | 5 | PDF4頁。反射効肯定説と否定説のそれぞれの見解の根拠 | PDF2頁。設問4は出来が非常に悪く,事例に当てはめて考えることができていない答案が多かったこと。PDF11頁。関連する判例は代表的な教材で取り上げられていること |
| 25 | XB間の判決の確定と,基準時前の500万円の弁済・400万円の解除の発生を区別する。 | 4 | 間接(PDF4頁。口頭弁論終結前に生じた事由と既判力の時的限界) | 間接(PDF2頁。既判力と実体権の関係,既判力の時的限界) |
| 26 | 2700万円について基準時前の解除原因と基準時後の解除権の行使を区別し,遮断の可否の両説を論じる。 | 5 | PDF4頁。口頭弁論終結前に生じた解除事由に基づく口頭弁論終結後の解除権の行使に関する既判力の時的限界を巡る各見解の根拠 | PDF2頁。既判力と実体権の関係や既判力の時的限界に言及する答案が極めて少なかったこと |
| 27 | 解除を選べるのはBであることを踏まえ,Yが基準時前に主張・行使できた手段を検討する。 | 4 | PDF4頁。解除が買主Bにしかできないものであることと保証人の地位についての民法上の解釈 | PDF2頁。実体法も絡めた設問4で事例に当てはめて考えることができていない答案 |
5 重みの分布
27項目の内訳は,重み5が10項目,重み4が14項目,重み3が2項目,重み2が1項目,重み1が0項目であり,重みの合計は114点である。
設問別では,設問1が6項目・24点,設問2が6項目・24点,設問3が10項目・45点,設問4が5項目・21点である。
問題文が示す配点の割合(4:4.5:7:4.5)に対し,重みの合計の割合は,設問3がやや大きく,設問4がやや小さい。
設問1の重み5(番号2)は,採用した法的構成から①~④を請求原因事実と抗弁に振り分ける理由付けである。
設問2の重み5(番号9・10)は,併合前の証拠調べがZに不利に働く具体的な経過と,民事訴訟法152条2項による不利益の解消である。
設問3の重み5(番号14・15・17・19・22)は,XZ間の順位とBへの対抗の時期の区別,第1回分の弁済の効力,異議をとどめない承諾の援用の可否,Yに対する請求額及び二つの請求の関係である。
設問4の重み5(番号24・26)は,反射効の肯定説・否定説の根拠と,基準時後の解除権の行使の扱いである。
採点実感が点差の付いた点として挙げた,第1回分の弁済を債権の準占有者に対する弁済とする誤りは,番号15で評価する。
第5 模範解答
1 答案の前提と表記
答案は,試験当時(平成18年5月22日)の法令により,設問ごとに規範,事実の評価及び結論を示す。
XA間の債権譲渡登記(平成16年9月13日)とBへの登記事項証明書を交付した通知(平成17年10月8日)の間に,債権譲渡の対抗要件に関する民法の特例等に関する法律を改正する平成16年法律第148号が施行され(平成17年10月3日),同法の題名は動産及び債権の譲渡の対抗要件に関する民法の特例等に関する法律に改められた。
答案では,登記を改正前の同法2条1項により,通知を改正後の同法4条2項により扱い,改正法の附則2条の経過措置を踏まえる。
答案の「旧民法」は平成29年法律第44号による改正前の民法を,「特例法」は上記の特例法を指す。
設問1の取立権限と対抗要件の位置付け,設問3の対外的な取立額と清算は,本答案が採用した構成である。
2 答案
第1 設問1
1 法的構成
AB間の基本契約,債務者B及び契約期間によって,担保目的となる将来の売買代金債権は特定されている。
将来の一定期間内に発生すべき債権を譲渡の目的とする場合も,期間の始期と終期を明確にするなどして目的債権が特定されていれば足り,契約締結時に債権発生の可能性が低かったことは契約の効力を当然には左右しない(最判平成11年1月29日)。
したがって,本件の譲渡担保は有効である。
XA間の合意により,その債権は発生時にXに移転し,Yに対する保証債権も,主債権の履行を確保する従たる権利としてXに移る。
他方,実行通知までAに代金受領権を認めたのは,Aに通常の営業資金を得させ,Xによる直接の取立てを猶予する趣旨である。
Xの取得と取立権限の行使時期は異なる。
2 ①から④まで
Xは,自己に保証債権が帰属し,取立権を行使できることを基礎付ける事実を主張立証する。
これと,既に発生・移転した債権を妨げる抗弁事実とは区別する。
① 貸金債権の発生は,代金債権の移転そのものの要件ではない。
しかしAに取立権を残した本件契約の下でXに取立権が移るには,担保の実行ができることを要する。
よって,被担保債権の発生は,期限の利益喪失を生じさせた不払とともに,Xが行使権限を得たことを基礎付ける請求原因事実となる。
② 登記は,譲渡の成立要件ではなく,債務者以外の第三者への対抗要件である。
Yは競合する譲受人等に当たらないから,Yに対する請求につき,第三者対抗要件として②を独立に主張立証する必要はない。
③ Aに対する実行通知は,Aの受領権を終わらせ,Xが直接取り立てるために必要である。
主債権の取立てが制約されたまま従たる保証債権だけを先に取り立てることも許されない。
Xは通知の到達を主張立証すべきである。
④ Yに対する保証債権は主債権の移転に伴うため,Yへの独立の譲渡通知は要らない。
他方,Bに譲渡を対抗できないXがYに保証履行を求めると,BがなおXを債権者として扱う義務を負わない段階でYに支払を強いる。
そこで,Bに譲渡を対抗できることをXの行使の積極要件と解する。
Xが譲受人として特例法による通知に依拠する以上,④のBへの到達と,その特例通知の前提である②は,いずれもXの主張立証を要する。
②が必要となるのは,④を有効にする前提としてである。
第2 設問2
1 両原則の根拠
Yへの保証債務請求とZへの不当利得返還請求は,弁済の有無が双方で争われても,各被告に対する別個の請求であり,合一確定が法的に要求されるものではない。
民訴法39条は,各当事者が自己の訴訟を追行し,他の共同訴訟人の行為や不利益で自己の地位を左右されないことを保障する。
したがって,Yの主張や自白はZを拘束しない。
これに対し,証拠調べの結果は裁判所が事実を判断するための資料であり,申出人の処分に委ねられるものではない。
適法に調べた証拠が共通の争点について証明力を有する以上,民訴法247条の自由心証の下で他方の事件にも用いることができ,共通の事実につき判断の整合を図れる。
証拠申出の効力を他の当事者に及ぼすこととは区別される。
2 本件における限界
Yの申出によるA・B社員の尋問は,Xが弁済を否認していたXY訴訟の争点整理に従い,Zが加わる前に行われた。
Zには証人に質問し,出金伝票の意味や支払先を争い,反証を提出する機会がなかった。
とりわけ併合後は,Xが対Y訴訟で否認した弁済を対Z訴訟の請求の前提とするから,当初の尋問でZに有利な事項が十分取り上げられたともいえない。
弁済はXY訴訟ではYが,XZ訴訟ではXが,それぞれ主張しているから,各事件に認定の対象となる事実主張がある。
証拠が共通に使われるからといって,当事者の主張まで当然に共通するわけではない。
併合後,Zに従前の証拠と尋問調書を示し,成立・内容への意見,証言との矛盾の指摘,反証の機会を与える。
併合前に尋問の機会がなかったZがA・B社員の尋問を申し出た場合,裁判所は民訴法152条2項によりその尋問をしなければならない。
特にB社員について,支払先の確認方法や伝票と支払との対応をZが質問できるようにする。
追加証拠等により判断が異なり得るから,認定の統一は証拠共通から当然には生じない。
第3 設問3
1 XA間
前記のとおり,各売買代金債権は発生と同時にXに帰属する。
Aが実行通知まで代金を受領できることは,Aに債権の再譲渡権限を与えるものではない。
Aは貸付元本3600万円のうち2回合計1600万円を弁済した。
平成17年9月20日に分割金を支払わず当然に期限の利益を失ったので,Xは残元本2000万円全額を請求できる。
10月8日の実行通知到達によりAの受領権限がなくなり,Xが自ら担保を取り立てることができる。
Xは回収金を貸金の弁済に充当し,残額を超える回収はAに清算する。
2 譲渡の順位と保証
Xは平成16年9月13日の債権譲渡登記により,債務者以外の第三者との関係で確定日付ある通知と同様の効力を得る。
この登記は改正前の特例法2条1項によるものであり,平成16年の改正法の附則2条により,その効力は妨げられず,改正後の特例法4条1項による登記とみなされる。
Zへの4件の譲渡につきAからBへの確定日付ある通知が到達したのは,いずれもこの登記の後であるから,XがZに優先する。
他方,Xは10月8日の登記事項証明書付き通知により初めてBに譲渡を対抗できる(改正後の特例法4条2項)。
Yの保証は,信用が不十分なBとの3年間の基本契約による売買代金債務を対象としており,4件はこの範囲内である。
代金債権が消滅すれば保証債務も消滅する。
3 第1回分
9月21日の時点で,BはAからZへの譲渡通知を受けている。
他方,Xは先行登記を有していても,Bに対する対抗要件をまだ具備していない。
Xは,Zに対する優先を理由としてBのZへの弁済の効力を否定できない。
Bの弁済は有効であり,付従性によりYの保証債務もこの500万円につき消滅する。
弁済の効力はこの対抗関係に基づく。
旧民法478条の善意無過失を別途要求する場面ではない。
これに対し,XZ間ではXが優先し,Zは500万円をXとの関係で保持する権原を有しない。
Zの受領によりXの代金債権が消滅したので,Xの損失とZの利得が対応する(民法703条)。
ZがAに支払った450万円は別個の取得取引の出捐であり,Bの弁済による500万円の受益を得る前の支出である。
その額を当然に控除して利得を50万円とする理由はなく,現存利益の減少を示す別の事情もない。
よってXはZに500万円の返還を請求できる。
4 第4回分
機械部品の重大な隠れた瑕疵は,商品として使用する目的を達成できない程度である。
商法526条によれば,商人間売買の買主は受領後遅滞なく検査し,直ちに発見できない瑕疵も6か月内に発見した場合には直ちに売主に通知を発することを要する。
Bは納入の約1か月後に発見し,10月19日に瑕疵を理由とする解除をAに通知した。
具体的な発見日は特定されていないが,この事実関係では発見後直ちに通知したと評価する。
Bは旧民法570条,566条によりAとの売買を解除し得る。
瑕疵を知った時から1年以内に解除している。
旧民法468条1項による異議なき承諾の抗弁切断は,その承諾を受けた譲受人の取引の安全のためのものである。
電話で承諾を得たのはZであり,これに依拠して債権を譲り受けたのではないXにその効果は及ばない。
またXの証明書付き通知より後に解除されたものの,解除の根拠となる瑕疵は既に引渡時にあった。
通知前に生じた原因に基づく抗弁をXに対抗できると解すべきである(旧民法468条2項,特例法4条3項)。
BはXに解除を対抗できるため,Yの保証債務もこの400万円につき消滅し,Zはこの分の支払を受けていない。
5 残る請求と清算
第2回の1200万円及び第3回の1500万円は,納品から3か月後の平成17年10月22日及び11月17日に各弁済期が到来し,弁済その他の消滅事由はない。
XはYに対し連帯保証債務の履行として計2700万円を,Zには第1回分の返還として500万円を請求できる。
譲渡の対象は売買代金債権であり,対外的に各債権の一部だけを取得させる文言はない。
よって対外取立額を2000万円に制限せず,担保目的による制限はXA間の清算で実現する。
Yの支払によって先に貸金全額を回収できたとしても,それは別個の第1回分について既に生じたZの受益に保持原因を与えない。
Xはその回収をAとの担保清算に計上し,同じ貸金に二重に充当できない。
双方から全額を回収した場合,元本2000万円に充て,超過1200万円はAに清算する。
第4 設問4
1 手続とYの主張
YはXを被告に,XY間の確定判決に基づく強制執行の不許を求め,請求異議の訴えを提起する(民事執行法35条)。
執行の進行を止める必要があれば同法36条の執行停止を併せて申し立てる。
同法35条2項により,確定判決についての異議の事由は,平成17年12月20日の口頭弁論の終結後に生じたものに限られる。
Yは,XB間の請求棄却判決が平成18年5月10日に確定し,XはBに対して主債務を強制できなくなったこと自体を新事由と主張できる。
Xは主債務訴訟に当事者として関与し,Yは主債務の不存在という有利な判断を援用できるという反射効肯定説に立ち,付従性に従いYへの執行も排除すべきだと主張する。
そうでなければYが支払ってもBへの求償が困難となり,主債務者に対し回収できない者が保証からのみ利益を得る。
2 Xの反論とYの再反論
Xは反射効否定説に立ち,既判力の及ぶ人的範囲は民訴法115条に従い,YはXB訴訟の当事者でも承継人等でもないと反論する。
主債務と保証債務は別個の権利関係であり,主債務不存在の判断はXB間の基準時におけるもので,その判決の確定自体は主債務を消滅させる実体法上の事由ではない。
先に確定したXY間の判決の拘束を後のXB判決で覆すこともできない。
Yは訴状等の送達を受け,答弁書を提出して争うことができたのに欠席した。
最判昭和51年10月21日も,保証人敗訴の判決が確定した後に主債務者勝訴の判決が確定しても,その判決が保証人敗訴の判決の基礎となった事実審口頭弁論終結の時までに生じた事由に基づいてされているときは,保証人はこれを請求異議の事由にすることができないとしている。
これに対しYは,XB判決をYに一般的に及ぼすのではなく,Xが当事者として争って敗訴したことの有利な効力を付従性から片面的に認めるべきだと再反論し得る。
また,矛盾した判決の存在とXがBから回収できないことを承知でYのみに執行することを合わせ,信義則ないし権利濫用を主張し得る。
しかし判決の相対効を離れてXY間の既判力を実質的に失わせる根拠は乏しく,判決の併存やXからの連絡がなかったことだけで濫用と評価するのは難しい。
3 実体上の消滅事由を別に主張する方法
500万円の弁済と400万円の解除は,いずれも12月20日より前である。
後訴判決でその事実が認められたことは,弁済・解除が基準時後に生じたことを意味しない。
したがって,これらの事実自体は民事執行法35条2項により異議の事由とならず,前記判例に照らし,これらの事実を理由とするXB間の判決を援用することもできないから,900万円の部分の異議は認められない。
これに対し1200万円と1500万円については,Bが平成18年2月10日に解除したこと自体を主張できる。
Xは,判決による紛争の終結を重視し,瑕疵及び解除原因は基準時前にあり,解除の遡及効を理由に終結時の保証債務を争い直すのは許されないと反論する。
また,Xは,Yにも,目的物の瑕疵を理由とするBの履行拒絶を援用して前訴で防御する余地があったと主張し得る。
しかしYは,解除するかどうかは売買契約の当事者Bの選択であり,Yは自ら解除できなかったこと,実際にBが解除権を行使した時点で初めて主債務及び保証債務の消滅が生じたことを指摘できる。
前訴で履行拒絶を援用できたとしても,Bが契約を解除して主債務を消滅させることとは効果が異なる。
遡及効の有無と異議事由が現実に生じた時点とは別である。
有効な解除を異議訴訟で主張立証して,この2700万円の限度で執行不許を求めることが最も有力である。
以上
3 出題の趣旨・採点実感を踏まえた解説
(1) 答案と評価項目の対応
答案の第1(設問1)は番号1~6,第2(設問2)は番号7~12,第3(設問3)は番号13~22,第4(設問4)は番号23~27に対応する。
重み3以下の番号3・12・23は,①の貸金債権の発生(第1の2①),Zの不利益の解消に論述を絞ること(第2の2),請求異議の訴えと基準時(第4の1)に対応する。
第4の重み5・4の項目について,模範解答との対応を次の表に示す。
| 番号 | 重み | 評価項目 | 答案の該当箇所・留保 |
|---|---|---|---|
| 1 | 4 | 将来債権を基本契約・債務者・発生期間で特定し,発生時にXに移るとする構成を示す。 | 第1の1。対象の特定と取得の時期。 |
| 2 | 5 | 採用した実体法上の構成から,①~④がXの権利発生・行使に必要な事実か,Y側の抗弁かを根拠付きで振り分ける。 | 第1の2。積極的な要件と抗弁の区別。 |
| 4 | 4 | ②の登記を第三者対抗要件として位置付け,④の特例通知の前提となることを分けて説明する。 | 第1の2②・④。登記の二つの位置付け。 |
| 5 | 4 | ③の通知の要否をAに留保された受領権限の解釈と結び付けて説明する。 | 第1の2③。Aへの通知の到達。 |
| 6 | 4 | ④の通知の要否について,通知の相手方であるBと,請求の相手方である保証人Yとの関係を理由付きで示す。 | 第1の2④。Bへの対抗とYへの請求。 |
| 7 | 4 | 通常共同訴訟が独立の訴訟を共同で審理する形であることから,民訴法39条の独立の原則を説明する。 | 第2の1。二つの訴訟の独立と自白。 |
| 8 | 4 | 申出の効力と証拠調べの結果を区別し,通常共同訴訟人間で証拠調べの結果を共通に利用できる理由を示す。 | 第2の1。申出行為と証拠調べの結果。 |
| 9 | 5 | B社員の証言や出金伝票が弁済を否認するZに不利に働くことを,併合前にZが関与していない経過に即して示す。 | 第2の2。B社員の証言と出金伝票。 |
| 10 | 5 | Zの証人尋問の申出があれば民訴法152条2項により尋問すべきことを示し,手続保障の方策を具体化する。 | 第2の2。Zの尋問の申出と152条2項。Zが併合前に尋問の機会を得ておらず,併合後に申出をした場合。 |
| 11 | 4 | 弁済の主張が各訴訟で提出されているかを弁論主義に従って別々に確認する。 | 第2の2。各訴訟の弁済の主張の主体。 |
| 13 | 4 | 4件の将来の売買代金債権の譲渡担保の有効性を,対象の特定に即して説明する。 | 第1の1,第3の1。目的債権の特定と4件への適用。 |
| 14 | 5 | Xの先行登記とZへの各通知の到達を比較し,XZ間の順位とBへの対抗の時期を区別する。 | 第3の2。先行する登記と通知の到達。 |
| 15 | 5 | Bの第1回分500万円の弁済を,Xの債務者対抗要件の具備前であることから有効と説明する。 | 第3の3。Bに対する対抗要件の欠缺。 |
| 16 | 4 | 第4回の売買の瑕疵につき,商法526条の検査・通知と旧民法の解除の要件を事情に即して適用する。 | 第3の4。隠れた瑕疵と解除。 |
| 17 | 5 | Zに対する異議をとどめない承諾をXが援用できないことを説明し,解除をXに対抗できるかを処理する。 | 第3の4。承諾の相手方と解除の原因。 |
| 18 | 4 | 残元本2000万円の算定と,期限の利益の喪失・実行通知による担保の実行をXA間で説明する。 | 第3の1。既払分と期限の利益の喪失。 |
| 19 | 5 | Yに残る保証債務の額を,2700万円の額面と被担保債権2000万円の関係から理由付きで示す。 | 第3の5。対外的な取立額と担保の目的。 |
| 20 | 4 | Zの受益とXの損失の対応から,不当利得返還請求の成立を説明する。 | 第3の3。Zの利得とXの代金債権の消滅。 |
| 21 | 4 | Zの債権取得代金450万円を踏まえ,返還額から控除するかを理由付きで示す。 | 第3の3。Zの取得代金と現存利益。500万円の弁済が有効であることを前提に,XのZに対する返還請求を検討する場合。 |
| 22 | 5 | Yへの保証債務の履行請求とZへの不当利得返還請求の併存・回収の関係を,被担保債権額と超過分の清算まで説明する。 | 第3の5。別の取引に基づく請求と担保の清算。譲渡担保の対外的な取立額を被担保債権額に限定しない構成を採る場合。 |
| 24 | 5 | 反射効の肯定説・否定説の双方につき,主債務と保証債務の関係と判決効の人的範囲から根拠を示す。 | 第4の1・2。反射効と先行して確定した判決。 |
| 25 | 4 | XB間の判決の確定と,基準時前の500万円の弁済・400万円の解除の発生を区別する。 | 第4の3。基準時前に生じた二つの事由。 |
| 26 | 5 | 2700万円について基準時前の解除原因と基準時後の解除権の行使を区別し,遮断の可否の両説を論じる。 | 第4の3。基準時後の解除権の行使。 |
| 27 | 4 | 解除を選べるのはBであることを踏まえ,Yが基準時前に主張・行使できた手段を検討する。 | 第4の3。Bによる解除とYの防御。 |
(2) 設問1 債権譲渡担保の法的構成と請求原因事実
出題の趣旨は,設問1が要件事実論の理解を試すものであり,将来債権譲渡担保の法的構成をどのように考えたか,①から④までの各事実を請求原因事実と解したか否かという結論よりも,各結論を導いた理由を論理的に分かりやすく精緻に展開しているかを重視するとしている(PDF4頁)。
採点実感では,要件事実を暗記ではなく試験場で考えさせる出題であったことが説明され,主張立証責任の分配について基礎的な記述を欠く答案や,証拠との距離や消極的事実の立証の困難だけに寄りかかって実体法を余り論じない答案があった一方,実体法との有機的な関連を意識した記述に高い評価を与えたとされている(PDF1頁,3~4頁,6頁)。
答案は,番号1~6に対応し,権利の取得,取立権限の移転及びBへの対抗を区別した上で,①~④を振り分けた。
②を独立の第三者対抗要件としては要しないことと,④の通知の前提として要することは両立する。
①~④の結論は,本答案の採用した契約の解釈と対抗要件の位置付けによるものである。
(3) 設問2 弁論の併合と共同訴訟人間の証拠共通の原則
出題の趣旨は,前半で共同訴訟人独立の原則と共同訴訟人間の証拠共通の原則を共同訴訟の基本構造に遡って理解しているかを試し,後半で,Zが全く関与せずに実施された証拠調べで得られた証拠資料がXZ間の訴訟でも使用されることによってZが被る不利益を具体的に把握し,民事訴訟法152条2項の趣旨等と弁論主義・手続保障を考慮して,その不利益を解消する方策を具体的に説明することを求めている(PDF4頁)。
採点実感では,前半で当事者間の証拠共通の原則を前提に解答した答案,後半をXの立場からの両負け防止策の問題と理解した答案,事例を無視して主張共通の原則を論じた答案,Bの社員の証言等のZに不利な証拠を無視した答案が指摘されている(PDF1~2頁)。
答案は番号7~12に対応し,証拠調べの結果を共通に用いること,弁済の主張が各訴訟で提出されていること,Zの申出があれば裁判所に尋問の義務が生じることを分けて論じた。
(4) 設問3 対抗要件・弁済・解除と各請求の額
出題の趣旨は,将来債権譲渡担保が有効であること,XZ間では債権譲渡登記を先に備えたXが優先すること,Xが債務者対抗要件を具備する前にBがZにした弁済は有効であること,Bの瑕疵を理由とする解除は有効で,BがZにした異議をとどめない承諾をXが援用して解除の効果を否定できないことを正確に説明することをまず求め,その上で,保証債務履行請求権の合計2700万円と残元本2000万円の関係,Zの取得代金450万円を踏まえた不当利得返還請求の額及び両請求権の関係について,自説を展開することを求めている(PDF4頁)。
採点実感では,将来債権譲渡担保の有効性に論及しない答案が散見され,第三者対抗要件と債務者対抗要件の錯綜の処理ができていない答案があったとされ,債務者対抗要件の具備前にされた弁済を債権の準占有者に対する弁済とした答案が「半分どころか,3分の2ぐらい」あって,そこで点差が付いたとの発言もある(PDF1頁,4頁,6~7頁)。
答案は番号13~22に対応し,第1回分の弁済の効力をBとの対抗関係に,Zの返還義務をXZ間の優先関係に結び付けた。
第4回分の解除は,瑕疵の存在した時期と解除の時期を分け,Zに対する承諾の効果がXとの関係に及ばないと整理した。
対外的な取立額を被担保債権額に限る解釈を採る場合には,Yへの請求の限度に加え,Zから先に回収した額をどう調整するかの説明が必要になる。
(5) 設問4 判決効と強制執行の限界
出題の趣旨は,反射効肯定説と否定説のそれぞれの根拠と,口頭弁論終結前に生じた解除事由に基づく口頭弁論終結後の解除権の行使に関する既判力の時的限界の議論についての各見解の根拠を正確に説明することをまず求め,その上で,解除がXY間の訴訟の口頭弁論終結後にされ,買主であるBにしかできないものであることを踏まえ,保証人の地位についての民法上の解釈も考慮して,Y側・X側それぞれの主張の根拠を展開することを求めている(PDF4頁)。
採点実感では,設問4の出来が非常に悪く,既判力と実体権の関係や既判力の時的限界に言及する答案が極めて少なかったとされ,関連する判例は代表的な教材で大抵取り上げられているとの発言もある(PDF2頁,11頁)。
答案は番号23~27に対応する。
最高裁昭和51年10月21日第一小法廷判決は,保証人敗訴の判決が確定した後に主債務者勝訴の判決が確定しても,その判決が保証人敗訴の判決の基礎となった事実審口頭弁論終結の時までに生じた事由に基づいてされているときは,保証人はこれを請求異議の事由にすることができないとした。
答案は,この判例を踏まえて,基準時前に生じた弁済と解除による900万円の部分の異議を否定し,基準時後にBが解除権を行使した2700万円の部分について異議を認める構成を有力とした。
同判決は,基準時前に解除原因があり基準時後に解除権が行使された場合を直接判断したものではないから,この部分は本記事の分析である。
(6) 答案の弱点と扱わなかった事項
設問1は,Bへの対抗をXの請求原因とする立場に絞った。
設問3では,Xの対外的な取立額を被担保債権額に限る構成や,Zの現存利益の減少を認める事情がある場合の処理は採用していない。
10月19日の解除の通知が瑕疵の発見後直ちにされたかは,問題文がBの気付いた時期を「商品の納入後1か月程経って」と述べるにとどまる事案での評価である。
保証人が主たる債務者の抗弁を援用して争うことについて,試験当時の民法は相殺(旧民法457条2項)以外に明文の規定を置いていなかったので,答案では,Yが前訴で防御できた余地をXの反論として示すにとどめた。
設問4では,問題文の指示に従い,XY間及びXB間の各判決の適否や妥当性は論じていない。
第6 関連記事
1 同じ年度の司法試験の記事
①平成18年司法試験公法系科目第1問(憲法)の模範解答と評価項目
②平成18年司法試験公法系科目第2問(行政法)の模範解答と評価項目
③平成18年司法試験民事系科目第1問(商法)の模範解答と評価項目
④平成18年司法試験刑事系科目第1問(刑法)の模範解答と評価項目
⑤平成18年司法試験刑事系科目第2問(刑事訴訟法)の模範解答と評価項目
⑥平成18年度旧司法試験論文式試験の模範答案―憲法・民法・刑法・商法・民事訴訟法・刑事訴訟法の全12問と出題趣旨を踏まえた解説(AI作成)
同年度の他の問題は,平成18年新司法試験試験問題で,出題の趣旨は,平成18年新司法試験論文式試験結果で確認できる。
2 同じ科目の別の年度の記事
①平成19年司法試験民事系科目第2問(民法・民事訴訟法)の模範解答と評価項目
②平成20年司法試験民事系科目第1問(民法)の模範解答と評価項目
③平成21年司法試験民事系科目第1問(民事訴訟法)の模範解答と評価項目
④平成22年司法試験民事系第2問(民法・民事訴訟法)の模範解答と評価項目
⑤平成23年司法試験民事系第1問(民法)の模範解答と評価項目
⑥平成23年司法試験民事系第3問(民事訴訟法)の模範解答と評価項目
⑦令和7年度司法試験民事系第1問の模範解答と評価項目
⑧令和7年度司法試験民事系第3問の模範解答と評価項目
3 本問の論点に関連する山中弁護士ブログの記事
①連帯保証人だけが先に敗訴したとき―主たる債務者の勝訴判決・相殺と請求異議の訴え(最高裁昭和51年10月21日判決・昭和40年4月2日判決,民法457条3項)(AI作成)
②明文のない主観的追加的併合と別訴・弁論併合の実務(AI作成)
③司法試験の出題法令の基準日―平成18年以降の年度別六法リンク(AI作成)
①は,設問4と同じく,保証人が先に敗訴した後に主たる債務者が勝訴した場合の請求異議の訴えを扱っている。
第7 出典
1 公式資料
①法務省「論文式試験問題集[民事系科目第2問]」(平成18年新司法試験)(PDF6~10頁)
②法務省「平成18年新司法試験論文式試験問題出題趣旨」(PDF3~4頁の民事系科目〔第2問〕)
③法務省「新司法試験考査委員(民事系科目)に対するヒアリング概要」(PDF1~7頁の民法・民事訴訟法及び11頁。司法試験委員会第30回(平成18年10月5日)の配布資料として掲載)
④法務省「平成18年新司法試験の実施日程の変更について」(平成17年11月8日司法試験委員会決定。PDF1頁の試験日程)
2 法令
①民法の一部を改正する法律(平成16年法律第147号)(衆議院)
②債権譲渡の対抗要件に関する民法の特例等に関する法律(平成10年法律第104号)の制定時の条文(衆議院)
③債権譲渡の対抗要件に関する民法の特例等に関する法律の一部を改正する法律(平成16年法律第148号)(衆議院)(題名の改正と附則2条の経過措置)
④法務省「第1 動産譲渡登記制度とは?」(平成16年法律第148号による動産譲渡登記制度の運用開始が平成17年10月3日であること)
⑤民事訴訟法(平成8年法律第109号)の制定時の条文(衆議院)
⑥民事執行法(昭和54年法律第4号)の制定時の条文(衆議院)
⑦会社法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律(平成17年法律第87号)(衆議院)(商法526条)
試験日当時の版はe-Gov法令検索で閲覧できないため,上記の条文と,e-Gov法令検索で閲覧できる最も古い版(民法は平成28年10月13日施行版,商法と特例法は平成28年4月1日施行版,民事執行法は平成28年10月1日施行版,民事訴訟法は平成24年10月1日施行版)とを照らし合わせた。
答案で用いた民法448条,457条2項,467条,468条,478条,566条,570条及び703条,民事訴訟法39条,115条,152条2項及び247条並びに民事執行法35条2項及び36条の内容は,答案に関わる部分で両方の版が同じである。
特例法は,平成16年法律第148号により制定時の2条が4条に移されており,制定時の2条1項~3項と最も古い版の4条1項~3項とで,答案に関わる対抗要件の規律は同じである。
商法526条は,平成17年法律第87号により平仮名の条文に改められ,同法は会社法の施行の日(平成18年5月1日)に施行された。
答案は,この改められた条文の検査・通知の規律によっている。
3 裁判例
①最高裁平成11年1月29日第三小法廷判決(平成9年(オ)第219号,民集53巻1号151頁):将来の一定期間内に発生する債権を譲渡の目的とする場合は,期間の始期と終期を明確にするなどして目的債権を特定すべきであるとし,契約締結時に目的債権の発生の可能性が低かったことは契約の効力を当然には左右しないとした。
②最高裁昭和51年10月21日第一小法廷判決(昭和49年(オ)第937号,民集30巻9号903頁):保証人敗訴の判決が確定した後に主債務者勝訴の判決が確定しても,その判決が保証人敗訴の判決の基礎となった事実審口頭弁論終結の時までに生じた事由に基づいてされているときは,保証人はこれを保証人敗訴の確定判決に対する請求異議の事由にすることができないとした。
4 留意事項
出題の趣旨はPDF3~4頁の民事系科目〔第2問〕の部分を,採点実感はヒアリング概要のPDF1~7頁の民法・民事訴訟法の部分及び11頁を,評価項目の根拠とした。
平成18年の民事系科目の採点実感等は,司法試験委員会第30回の配布資料として公表された考査委員に対するヒアリングの概要であり,発言には考査委員個人の意見や自らが採点した答案についての印象が含まれる。
答案と解説は試験当時の法令によっており,平成29年の民法(債権関係)改正後の規定(将来債権の譲渡を定めた466条の6や,異議をとどめない承諾の規定の削除等)は用いていない。
評価項目,重み,答案の構成と結論は本記事独自の分析であり,出題の趣旨・採点実感が述べる内容とは,第4の根拠欄及び第5の3で区別して示した。