第1 訴訟参加の2つの型
1 規程62条の参加
国際司法裁判所(ICJ)の裁判は,当事国の間で,かつ,その事件に関してだけ拘束力を持つ。
国際司法裁判所規程59条は,「The decision of the Court has no binding force except between the parties and in respect of that particular case.」と定める。
それでも,二国間の事件の判決が,事件の外にいる第三国の利益に影響することはある。
そこで規程は,第三国が係属中の事件に加わる訴訟参加の制度を2つ置いている。
規程62条1項は,事件の裁判によって影響を受けうる法律的性質の利益を有すると考える国は,参加の許可を裁判所に要請することができると定める。
同条2項は,この要請について裁判所が決定すると定める。
後で述べる2026年判決が適用したグアテマラの申請時の裁判所規則81条は,参加の申請に,影響を受けうると考える法律的性質の利益,参加の正確な目的及び参加国と当事国の間に存在すると主張する管轄の基礎を記載することとしていた(同条はその後改正されている。判決24項)。
2 規程63条の参加
規程63条1項は,事件の当事国以外の国が当事国となっている条約の解釈が問題となるときは,書記は直ちにそれらの国に通知すると定める。
同条2項は,通知を受けた国は手続に参加する権利を有するが,その権利を行使した場合には,判決が示す解釈はその国に対しても等しく拘束力を有すると定める。
62条の参加が裁判所の許可を要するのに対し,63条の参加は,同条2項により,通知を受けた国の権利とされている。
国際司法裁判所の全体像は国際司法裁判所とは―役割・管轄権・国際刑事裁判所との違い(AI作成)で,判決の拘束力は国際司法裁判所の判決に拘束力はあるか―暫定措置・勧告的意見と履行の仕組み(AI作成)で説明している。
第2 2026年3月19日判決の事案
1 ベリーズとホンジュラスの事件
ベリーズは,2022年11月16日,ホンジュラス湾にあるサポディラ諸島(Sapodilla Cayes。ホンジュラスはCayos Zapotillosと呼ぶ。)の主権をめぐり,ホンジュラスを相手にICJに提訴した(判決1項,20項)。
ベリーズは,管轄の基礎として,米州の紛争の平和的解決に関する条約(ボゴタ条約)31条を援用した(判決2項)。
同諸島は,ベリーズ,グアテマラ及びホンジュラスの3か国の海岸から約20〜25海里の位置にある(判決20項)。
一方,グアテマラとベリーズは,2019年6月7日,特別合意によって両国間の領土・島・海域の紛争をICJに付託しており,その事件でも両国がサポディラ諸島の主権を主張している(判決22項)。
2 グアテマラの参加申請
グアテマラは,2023年12月1日,規程62条に基づき,ベリーズとホンジュラスの事件への参加の許可を申請した(判決11項)。
ベリーズは異議を述べなかったが,ホンジュラスは,申請は規程と裁判所規則に適合しないとして反対した(判決12項)。
裁判所は,2025年11月24日から26日まで,参加申請について口頭弁論を開いた(判決14項)。
ホンジュラスは,グアテマラの申請は参加の制度の濫用であり,受理できないと主張した(判決18項)。
第3 判決の判断
1 法律的性質の利益と影響を受けうること
判決は,参加を求める国は,自国の権利が影響を受けうることまで示す必要はなく,法律的性質の利益が影響を受けうることを示せば足りるとした(判決27項)。
その利益は,純粋に政治的・経済的・戦略的な性質の主張ではなく,法に基づく現実かつ具体的な主張の対象であることを要するという先例も引用している(同項)。
また,規程は,利益が影響を受けうることを求めるにとどまり,影響を受けることが確実であることまでは求めていないとした(判決28項)。
他方で,判決の適用が予想される一般的な法規則・法原則への関心のような一般的な利益では足りず,直接問題となっている自国固有の法的利益を示す必要があるとした(判決29項)。
その上で,判決は,グアテマラの利益は同諸島の主権についての現実かつ具体的な主張に基づき,主権の判断は本質的に法的な問題であるから法に基づくものであるとして,法律的性質の利益を認めた(判決35項)。
そして,本案判決の主文は同諸島の主権を扱うから,グアテマラの利益は影響を受けうるとした(判決39項)。
2 規程59条があれば参加は要らないか
ホンジュラスは,規程59条により判決は当事国の間でしか拘束力を持たないから,グアテマラの利益は影響を受けないと主張した(判決43項)。
判決は,59条が第三国を判決の影響から必ず遮断するわけではないとし,59条が第三国を守ると解すると参加の必要がなくなり,62条が無意味になると述べた(判決44項)。
さらに,領域の主権は,共同統治のような特別の事情がない限り排他的であるから,ある国に主権があるとの判断は,事件の他方当事国だけでなく,同じ領域を主張する第三国の法的利益にも影響しうるとした(判決45項)。
3 別の事件があっても参加できるか
ホンジュラスは,グアテマラの利益はグアテマラ・ベリーズ間の別の事件で守られるから参加は不適切だと主張した(判決51項,53項)。
判決は,参加を求める国は,参加が自国の利益を守る唯一の手段であることを示す必要はないとして,この主張を退けた(判決53項)。
ただし,参加は付随的な手続であるから,参加の目的は本案の紛争の主題と結び付いていなければならず,参加の形をとって新たな事件を持ち込んだり,事件の性質を変えたりすることはできないとした(判決54項)。
4 当事国としての参加と非当事国としての参加
判決は,62条の参加には,当事国としての参加と非当事国としての参加があるとした(判決61項)。
当事国として参加するには,参加国と当事国の間に独立の管轄の基礎が必要であるが,非当事国としての参加にはそれが要らない(同項)。
非当事国として参加を許された国は,当事国の地位に伴う権利を取得せず,義務も負わない(同項)。
グアテマラとホンジュラスの間には管轄の基礎がなかったので,判決は,グアテマラを非当事国としての参加を求めるものと扱い,管轄の基礎がないことは参加の妨げにならないとした(判決63項)。
5 裁判所に裁量はあるか
ホンジュラスは,裁判所には参加申請を拒否する裁量があり,手続の濫用を理由に拒否すべきだと主張した(判決71項)。
判決は,62条が裁判所に与えているのは,法律的性質の利益が影響を受けうるかを客観的に評価する権限であって,申請を受け入れるか拒否するかの一般的な裁量ではないとし,62条と裁判所規則81条の要件が満たされた以上,申請を拒否する裁量はないとした(判決74項)。
そして,手続の濫用を理由に申請を退けるべきだとのホンジュラスの主張を採用しなかった(判決75項)。
6 結論と参加の範囲
裁判所は,全員一致で,グアテマラに対し,規程62条に基づき非当事国として事件に参加することを許可した(判決77項)。
参加の範囲は,同諸島の主権の問題(その周辺水域での漁業の権利を含む。)に限られた(判決76項,77項)。
判決には,所長として岩澤雄司裁判官が署名している(判決末尾)。
判決は英語とフランス語で作成され,フランス語の本文が正文とされている(同)。
1人の裁判官が個別意見を,1人の裁判官が宣言を付している(同)。
第4 判決が引用した過去の例
判決は,過去の参加申請の判断を数多く引用している。
例えば,ニカラグアとコロンビアの事件でコスタリカの参加申請について判断した2011年の判決では,コスタリカの法律的性質の利益は認めながら,裁判所が両国の海洋境界線を第三国の利益が関わる海域の手前で止めることができるから,その利益は影響を受けないとされたことを紹介し,主権そのものを判断する今回の事件とは異なるとした(判決40項)。
また,カメルーンとナイジェリアの事件(赤道ギニアが参加した事件)の2002年の本案判決について,複数の国の海域が関わる場合には59条による保護では常に十分とはいえないとした判示を引用し,領域主権の判断にも同じことが当てはまるとした(判決46項)。
第5 関連記事
ICJの管轄権の基礎は国際司法裁判所の管轄権―選択条項受諾宣言・相互主義・留保(AI作成)で,ICJの日本人裁判官と所長は国際司法裁判所(ICJ)の日本人裁判官と所長―岩澤雄司所長・歴代の日本人判事・選出方法(AI作成)で説明している。
司法試験の国際公法の論点は,司法試験の国際公法―令和元年~令和8年の過去問・答案と論点別ガイド(AI作成)にまとめている。
第6 出典
Statute of the International Court of Justice(国連のウェブサイト)
Sovereignty over the Sapodilla Cayes/Cayos Zapotillos (Belize v. Honduras), Application by Guatemala for Permission to Intervene, Judgment of 19 March 2026(ICJの判決PDF)