第1 この記事の対象と結論
平成20年司法試験の論文式試験・民事系科目第2問は,会社財産の不適切な運用・管理により財産の流出を来した株式会社をめぐり,会社法上及び民事訴訟法上の問題を問う総合問題である。
設問1・2は商法(会社法),設問3・4は民事訴訟法からの出題であり,問題文が示す設問1から設問4までの配点の割合は5:5:3.5:6.5である。
この記事は,法務省の出題の趣旨と採点実感を基に34の評価項目を設け,そのうち13項目を重み5とした。
評価項目と重みは本記事独自の整理であり,法務省の採点基準や配点を示すものではない。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 対象 | 平成20年新司法試験論文式試験・民事系科目第2問(商法・民事訴訟法) |
| 問題文 | 論文式試験問題集[民事系科目第2問](PDF5~12頁) |
| 試験日・答案の基準 | 平成20年5月17日(民事系科目第2問の論文式試験)。答案は試験当時の法令による。 |
| 出題の趣旨 | 平成20年新司法試験論文式試験問題出題趣旨(PDF4~6頁の民事系科目第2問) |
| 採点実感 | 平成20年新司法試験の採点実感等に関する意見(PDF11~12頁の商法,13~15頁の民事訴訟法) |
| 主な事項 | 多額の借財と保証,間接取引,株式交換の債権者異議手続と無効の訴え,直接取引と責任財産の回復,役員の解任の訴えと被告の追加,文書提出命令の不遵守の効果 |
| 評価項目 | 34項目。重み5は13項目,重みの合計は143。 |
| 主な裁判例 | 最高裁昭和62年7月17日第三小法廷判決(民集41巻5号1402頁。問題文に引用された判示部分) |
| 答案の分量 | 4788字(見出し,空白及び改行を除く。) |
| 法令の基準 | 試験当時の会社法,民法及び民事訴訟法による。平成29年の民法(債権関係)改正後の条文は答案の根拠に用いない。 |
| 資料の確認日 | 令和8年11月7日 |
本稿の答案は,丙銀行の乙社に対する保証債務の履行請求について,取締役会の決議の欠缺とFの調査の経過から,困難と考える。
株式交換については,異議を述べた丙銀行に弁済等がされていない点を有力な無効原因とし,無効の訴えの実益を,対価として流出した財産の回復に求める。
丁社については,甲社の責任財産の回復と,乙社及び甲社の取締役に対する直接の請求とを分けて検討する。
役員の解任の訴えでは,固有必要的共同訴訟であることと提訴期間から甲社の追加を例外的に認めるべき理由を示し,文書提出命令の不遵守では,共同被告Bの防御の機会を確保した上で統一的に判断する。
重み5の13項目は,設問1の間接取引の判定,全株主の同意と債権者保護,債権者の異議権と異議後の措置,株式交換の無効の訴え(番号5・7・8・10・13),設問2の一人会社の承認不要論と取締役ごとの責任(番号16・22),設問3の固有必要的共同訴訟,提訴期間,判例の理由への反論(番号23~25),設問4の四説の比較,認定の対象,合一確定とBの手続保障(番号28・31・32)である。
第3に事実関係と設問の要求,第4に評価項目と重み,第5に答案と解説,第7に出典を置く。
第2 評価項目の示し方と重み付けの基準
1 評価項目の示し方
評価項目は,出題の趣旨と採点実感の指摘を,答案の記載から判定できる単位に言い換えた本稿独自の基準である。
表の番号は記事全体で通している。
出題の趣旨・採点実感の欄は,法務省が公表したPDFの頁と,関連する記載の要旨である。
採点実感の一般的な指摘を設問の個別の項目に用いた場合は「間接」と表示し,本問に関する範囲に対応する記載がない場合は「記載なし」と表示する。
採用する構成によって評価する項目が異なる場合は,【適用条件】を付けた。
2 5段階の重み付けの基準
| 重み | 判断基準 |
|---|---|
| 5 | その設問の判断を大きく分ける核心 |
| 4 | 結論を理由付きで支える主要な論証・当てはめ |
| 3 | 通常押さえる法的処理・事情の評価 |
| 2 | 論証を補強する説明・個別事情・誤りの注意 |
| 1 | 補充的な引用・記述範囲の確認 |
重みとその合計は本記事独自の整理であり,法務省の配点,採点基準又は得点の目安を示すものではない。
条件付きの項目も重みの分布と合計に含める。
第3 本問の概要
1 問題文と事実関係
甲社は工作機械の部品を製造販売する東京証券取引所(マザーズ)の上場会社であり,乙社が30%,A及びBが各10%,Dが5%の株式を保有していた。
甲社の取締役はA,B及びDで,Aが代表取締役である。
乙社は公開会社でない株式会社で,株主はAとBの2人だけであり,取締役はA,B及びC,代表取締役はAとBである。
Aは,Dの反対を押し切り,甲社の資金50億円の運用を金融ブローカーEに一任した。
Eは架空の工場建設の話を作って丙銀行の担当者Fと交渉し,平成19年1月,甲社が丙銀行から30億円を借り入れ,乙社がこれを保証した。
両社とも取締役会の承認はなく,Fは,Aが署名捺印した確認書を受け取っただけで,役員全員と面談して承認を確認したとの虚偽の稟議書を作成した。
Eは80億円全額をハイリスク・ハイリターン型の投資に振り向けて巨額の損失を出し,不適切な会計処理の発覚後,甲社の株価は1株6000円程度から1000円程度に下落した。
甲社の定時株主総会(平成19年6月28日)では,Dが株主提案権を行使したA及びBの解任議案が否決された。
その後,乙社は,不祥事発覚前の株価である6000円程度を基準とする金銭を対価として甲社との株式交換をしたが,知れている債権者に各別の催告をせず,異議を述べた丙銀行に弁済等もしなかった。
平成20年4月には,A及びBが両社をそれぞれ代表し,取締役会の承認を受けずに価格の不自然な取引を繰り返して,甲社の財産を乙社に移転させた。
丁社は,株式交換の効力発生日の直後に甲社から振出しを受けた手形が不渡りとなった。
別に,甲社の株主Jは,Aだけを被告として取締役の解任の訴えを提起した後に甲社を被告に追加する申立てをし,株主Kは,甲社とBを被告とする解任の訴えで,甲社が所持する文書について文書提出命令を得たが,甲社はこれに従わなかった。
2 設問が求めること
| 設問 | 立場・対象 | 指定・仮定・除外 | 到達点 |
|---|---|---|---|
| 1 | 丙銀行の相談を受ける山野弁護士 | 乙社に対する保証債務の履行請求と,株式交換の問題点 | 保証請求の可否と,交換の瑕疵・救済 |
| 2 | 丁社の相談を受ける川野弁護士 | 甲社の破産手続開始を申し立てない場合。詐害行為取消権と債権侵害の不法行為は検討不要 | 甲社の財産の回復,乙社又は取締役に対する請求 |
| 3 | Jの訴訟代理人である海野弁護士 | 甲社の答弁書が引用した最高裁判決への反論 | 甲社の追加が許されるべき理由と手続 |
| 4 | 裁判長に報告する司法修習生 | 224条3項が適用される場合の効果に限る。一般論,甲社との関係,共同被告Bを含む関係の三つの課題 | 四つの考え方の比較,真実と認め得る主張の範囲,両被告に対する効果 |
第4 評価項目と重み
1 設問1
| 番号 | 評価項目 | 重み | 出題の趣旨 | 採点実感 |
|---|---|---|---|---|
| 1 | 甲社の30億円の借財と乙社の巨額の保証について,各社の取締役会の決議が必要であり,運用委託の決議で代替できないと論じる。 | 4 | PDF4頁。両契約が「多額の借財」に当たり,各社の取締役会の承認を要すること | 間接(PDF11頁。保証債務履行請求について複数の問題点の一つだけを論じる答案が多いこと) |
| 2 | 主たる貸付けが無効なら,その契約債務を前提とする保証の履行も請求できないと論じる。 | 3 | 間接(PDF4頁。金銭消費貸借契約を主たる債務とする保証契約) | 間接(PDF11頁。同上) |
| 3 | 決議の欠缺の外部効について,旧民法93条ただし書の類推等の構成を選び,相手方の認識・過失と取引の効力を接続する。 | 4 | PDF4頁。民法93条ただし書を類推適用する判例の立場 | 間接(PDF11頁。判例に言及する答案が少ないこと) |
| 4 | Fの確認書の取得,議事録の欠如,役員への未照会と虚偽の稟議を,丙銀行の過失の有無に即して評価する。 | 4 | PDF4頁。丙銀行の側の過失の有無を事例に即して丁寧に吟味すること | 間接(PDF11~12頁。事実関係への当てはめ) |
| 5 | 保証が間接取引に当たるかを,乙社に生じる負担と兼任取締役Aらの甲社側の立場・利益から判定する。 | 5 | PDF4頁。間接取引(会社法356条1項3号,365条)に当たるか | PDF11頁。間接取引に該当するか否かの判断基準 |
| 6 | 利益相反の承認の欠缺の外部効で相対的無効説を採るときは,銀行の善意・無重過失を具体的に検討する。【適用条件】相対的無効説を採るとき | 4 | PDF4頁。相対的無効説による丙銀行の善意かつ無重過失の検討 | 間接(PDF11~12頁。事実関係への当てはめ) |
| 7 | 乙社の全株主A・Bの同意により利益相反の承認を省けるかを,同意の実質と債権者保護を踏まえて論じる。 | 5 | PDF4頁。乙社の株主がA及びBの2人だけであること | PDF11頁。すべての株主の同意がある場合に,債権者の保護が問題となる局面での悩み |
| 8 | 現金対価が乙社の引当財産を減らすため799条1項3号の手続が働き,保証の効力によって丙銀行の異議権の有無が分かれると論じる。 | 5 | PDF4頁。株式交換の問題点①(799条1項3号・2項) | 間接(PDF11頁。株式交換の問題点を論ずる意味や実益) |
| 9 | 官報公告と知れている債権者への各別の催告を区別し,丙銀行が異議を述べた事実が催告の欠缺の評価に与える影響を論じる。 | 3 | PDF4頁。株式交換の問題点① | 間接(PDF11頁。同上) |
| 10 | 異議があれば原則として弁済等が必要であり,乙社の現金流出・弁済資力を害するおそれの例外に当てはめる。 | 5 | PDF4頁。株式交換の問題点②(799条5項) | 間接(PDF11頁。同上) |
| 11 | 6000円と1000円の形成事情とAの動機から,対価の不当性を具体的に評価する。 | 4 | PDF4頁。株式交換の問題点③(対価の不当) | 間接(PDF11~12頁。事実関係への当てはめ) |
| 12 | 承認総会での特別利害関係人による議決権の行使と著しい不当を831条1項3号に照らし,決議の瑕疵が交換に及ぼす影響を論じる。 | 4 | PDF4頁。株式交換の問題点④(831条1項3号参照) | 間接(PDF11頁。株式交換の問題点を論ずる意味や実益) |
| 13 | 効力発生日後の無効の訴えで,株式交換について承認をしなかった債権者の原告適格と,手続の瑕疵・対価・決議の瑕疵の無効原因性を分ける。 | 5 | PDF4~5頁。無効原因と丙銀行の原告適格(828条1項11号・2項11号) | 間接(PDF11頁。同上) |
| 14 | 無効判決によって株式交換の対価として流出した財産を回復できる実益を示す。 | 4 | PDF5頁。不当に流出した会社財産を取り戻すという実益 | PDF11頁。問題点を論ずる意味や実益を明らかにしない答案が多いこと |
2 設問2
| 番号 | 評価項目 | 重み | 出題の趣旨 | 採点実感 |
|---|---|---|---|---|
| 15 | AとBの兼任と代表行為から一連の取引を直接取引とし,各取締役会の承認の欠缺を論じる。 | 4 | PDF5頁。直接取引(356条1項2号,365条)と責任財産の回復 | 間接(PDF11頁。設問2で複数の問題点を幅広く論じる答案が極めて少ないこと) |
| 16 | 完全親会社乙社が甲社の唯一の株主である事実を承認不要とする判例の考え方につなげ,債権者保護の場面での射程を吟味する。 | 5 | PDF5頁。一人会社の株主が相手方となる場合の判例の立場と,債権者保護についての悩み | PDF11頁。すべての株主の同意と債権者の保護 |
| 17 | 取引の無効による甲社の責任財産の回復を,丁社が回収に利用できる手段とつなげる。 | 4 | PDF5頁。甲社の責任財産を回復できないか | 間接(PDF11頁。設問2の複数の問題点) |
| 18 | 乙社の責任について,法人格の濫用による否認の適否を完全支配・財産流出の目的に即して検討する。【適用条件】乙社の直接の責任を法人格否認で論じる場合 | 4 | PDF5頁。乙社に対する責任追及①法人格否認の法理 | 間接(PDF11頁。同上) |
| 19 | 乙社を事実上の取締役とする構成では,実質的な関与と429条1項の適用上の障害を示す。【適用条件】事実上の取締役としての責任を論じる場合 | 3 | PDF5頁。乙社に対する責任追及②事実上の取締役 | 記載なし |
| 20 | 乙社への利益供与とする構成では,利益が株主の権利の行使に関するかを検討し,返還の帰属を示す。【適用条件】利益供与の構成を選ぶ場合 | 3 | PDF5頁。乙社に対する責任追及③利益供与(120条) | 記載なし |
| 21 | 隠れた剰余金の配当とする構成では,対価と実質,分配可能額の超過,返還請求の帰属を検討する。【適用条件】隠れた配当の構成を選ぶ場合 | 3 | PDF5頁。乙社に対する責任追及④隠れた剰余金の配当(462条) | 記載なし |
| 22 | 甲社取締役の429条1項の責任を,A・B・D各自の職務への関与,悪意・重過失,丁社の回収不能との因果関係から判断する。 | 5 | PDF5頁。各取締役の関与の具体的な吟味 | PDF11頁。取締役の第三者に対する責任の問題だけを論じる答案が多いこと |
3 設問3
| 番号 | 評価項目 | 重み | 出題の趣旨 | 採点実感 |
|---|---|---|---|---|
| 23 | 855条により甲社とAが共同被告となる固有必要的共同訴訟であり,訴訟共同と解任の結果の合一確定を要すると説明する。 | 5 | PDF5頁。被告側の固有必要的共同訴訟と,訴訟共同・合一確定の要請 | PDF13頁2(2)。固有必要的共同訴訟等の概念の理解。PDF14頁2(4)。論理の一貫性 |
| 24 | 提訴・送達・追加の申立て・答弁書の受領の日を,854条の30日の期間と手続の進行に結び付け,再提訴の可能性を評価する。 | 5 | PDF5頁。出訴期間の徒過と,訴訟の極めて初期段階であること | PDF14頁2(3)。時系列の記載の意味 |
| 25 | 引用された最高裁判決の明文の欠如,訴訟状態の利用,複雑化・濫訴・遅延の懸念に対し,不可欠な当事者の追加と初期段階の事情で反論する。 | 5 | PDF5頁。最高裁判決が摘示した理由に対する反論 | PDF14頁3。判例が事例に当てはまらないことを主張させる問題への対応 |
| 26 | Aへの訴状の送達済みを踏まえ,単なる表示の訂正の主張に終始せず,追加の許容を求める理由を複線化する。 | 3 | 間接(PDF5頁。原告の立場から許容されるべきことを示すこと) | PDF14頁2(3)。訴状の補正(訂正)の主張のみに終始することへの疑問 |
4 設問4
| 番号 | 評価項目 | 重み | 出題の趣旨 | 採点実感 |
|---|---|---|---|---|
| 27 | 文書の不提出による申立人・不提出の当事者・裁判所への影響を,立証の困難,証明妨害の誘因,真実の発見から示す。 | 4 | PDF5頁。小問(1)。命令に従わない場合に生じる「不都合」 | 間接(PDF13頁2(1)。会話の誘導に従っていない答案) |
| 28 | 転換,軽減,擬制,心証の四説につき,変更されるものと反証の余地を区別して長所・短所を比較する。 | 5 | PDF5頁。小問(1)。各説の長所短所の多角的な検討 | PDF13~14頁2(2)・(3)。各説の理解と,長所短所の比較 |
| 29 | 224条1項の記載に関する認定と3項の事実に関する認定を区別し,3項の要件の構造と裁量の文言を採用する説の理由に用いる。 | 4 | PDF5頁。小問(1)。1項の要件との違いと「真実と認めることができる。」の文言 | PDF14頁3。1項と3項の要件の違いに気付かない答案 |
| 30 | 申立書に証明すべき事実を記載させる意義と,実際の認定の対象が申立書の記載だけで広がらない理由を説明する。 | 4 | PDF5~6頁。小問(2)。「証明すべき事実」を記載すべきものとされていることの意義 | 記載なし |
| 31 | 40億円の損失自体,Aの認識,Bの認識,重大な違反という法的評価を区分し,文書との推論関係と他の書証を踏まえて認定の範囲を決める。 | 5 | PDF6頁。小問(2)。主要事実・間接事実・法的評価の位置付け | 記載なし |
| 32 | 甲社の不提出とBへの効果を区別した上で,合一確定の要請とBの手続保障を両立させる帰結を示す。 | 5 | PDF6頁。小問(3)。合一確定の場面と他方被告への手続保障 | PDF14頁2(4)。甲社に適用されてもBには適用されないとしたまま疑問を示さない答案 |
| 33 | 心証説では,不提出の評価と証拠共通を分け,甲社・Bの関係やBの証拠への関与を評価する。【適用条件】心証説を採るとき | 4 | PDF6頁。小問(3)。心証説の立場からの証拠共通の原則との関係 | 間接(PDF14頁2(4)) |
| 34 | 心証説以外では,文書の不提出を不利益な訴訟上の態度として民訴法40条1項との関係で位置付ける。【適用条件】心証説以外を採るとき | 4 | PDF6頁。小問(3)。心証説以外の立場からの民事訴訟法40条1項との関係 | 間接(PDF14頁2(4)) |
5 重みの分布
34項目の内訳は,重み5が13項目,重み4が15項目,重み3が6項目,重み2が0項目,重み1が0項目であり,重みの合計は143点である。
設問別では,設問1が14項目・59点,設問2が8項目・31点,設問3が4項目・18点,設問4が8項目・35点である。
問題文が示す配点の割合(5:5:3.5:6.5)とは一致せず,重みの合計は設問ごとの評価項目の数を反映したものである。
設問1の重み5(番号5・7・8・10・13)は,保証の利益相反と承認不要論,債権者の異議権と異議後の措置,株式交換の無効の訴えである。
設問2の重み5(番号16・22)は,一人会社における承認不要論と債権者保護,取締役ごとの責任である。
設問3の重み5(番号23・24・25)は,固有必要的共同訴訟,提訴期間,判例の理由ごとの反論である。
設問4の重み5(番号28・31・32)は,四説の比較,認定の対象,合一確定とBの手続保障である。
第5 模範解答
1 答案の前提と表記
答案は,試験当時(平成20年5月17日)の会社法,民法及び民事訴訟法により,設問ごとの立場に従って,規範,事実の評価及び効果を示す。
答案の「旧民法」は,平成29年法律第44号による改正前の民法(試験当時の民法)を指す。
昭和62年の最高裁判決は,問題文に引用された判示を用いる。
民事訴訟法224条3項の効果については心証説を採る。
2 答案
第1 設問1
1 保証債務履行請求
(1) 丙銀行は,甲社に30億円を交付し,乙社を代表するBと保証契約を締結した。
保証は主債務に付従するから,貸付けと保証を順に検討する。
甲社の借入れは,額,資金使途及び甲社の負担に照らし多額の借財である。
乙社の保証も,甲社が弁済できなければ乙社が30億円の負担を負う点で同じ決議を要する(会社法362条4項2号)。
Eに運用を一任する決議は,借入れや保証の決議を兼ねない。
決議欠缺は内部の問題であるから,代表取締役の対外取引は原則として有効と解する。
ただし,取引相手が欠缺を知り,又は過失により知らなかった場合には,旧民法93条ただし書の類推により,会社は無効を主張できる。
FにはAの署名捺印のある確認書を信用したとの言い分がある。
しかし,両社の議事録を用意できないとEから聞き,巨額の案件でありながらD,Cらに照会せず,自ら役員面談をしたとの虚偽の稟議書を作った。
簡単な照会で欠缺を把握し得たのであり,Fの過失は丙銀行について評価される。
甲社が貸付けの無効を主張できれば保証履行も求められず,貸付けが有効でも乙社が保証自体の無効を主張し得る。
(2) 乙社の保証は丙銀行との取引であるが,Aは甲社を代表して借入れを行い,乙社の代表取締役でもある。
保証により,Aが経営しA・Bが各10%の株式を持つ甲社は資金を得る一方,乙社は30億円のリスクを負う。
乙社が甲社株式を30%持つことを考慮しても,その利益と保証の危険は釣り合うとは限らない。
保証契約をBが締結したとしても,取引の実質から間接取引に当たり,乙社取締役会の承認を要する(356条1項3号,365条1項)。
乙社の全株主はA・Bだけである。
実情を知った全員の同意があれば株主保護のための利益相反承認を不要とする見解がある。
両名は保証を含む資金調達に関与したが,架空の使途を誰が認識していたかなど,同意の実質には疑問が残る。
また,会社に巨額の負担を負わせる取引で,会社債権者の利益まで株主の同意で処分できるかは別問題である。
仮に利益相反承認を不要とする場合でも,多額の借財に関する決議欠缺は別に判断する。
相対的無効説を採ると,乙社は銀行が承認欠缺を知り,又は知らないことに重過失があるとき,これを対抗できる。
Fの虚偽稟議だけで直ちに悪意とはいえないが,議事録がなく,役員に確かめず,真偽を自ら確かめていない確認書を頼りに外形を取り繕った。
重大な注意欠如として重過失が認められる可能性が高く,保証請求は困難である。
2 株式交換
(1) 現金対価により乙社の引当財産が減るので,乙社債権者には異議権がある(799条1項3号)。
丙銀行は保証債権が有効なら乙社の債権者である。
保証が無効なら,甲社の貸金債権者としての地位だけで乙社に異議を述べることはできない。
株式交換は甲社債務の包括承継を伴わない。
保証が有効なら,官報公告だけでは知れている丙銀行への各別催告を欠く(799条2・3項)。
丙銀行が現に期間内に異議を述べたなら催告漏れによる手続上の不利益は小さいが,乙社には別に弁済・担保提供・信託の義務が生じる。
6000円は不祥事前の価格,1000円は発覚後の市場価格であり,いずれも直ちに公正額を決めるものではない。
責任追及を避けるためにAが得た意見書の根拠を吟味すべきで,巨額の現金流出と乙社の資力低下から,債権者を害するおそれがないとはいえない(同条5項)。
(2) 過大な対価はそれ自体の程度と会社・債権者への影響を検討する。
A・Bは甲社株主として高額の対価を得る側で,乙社株主としては支出を決める側でもある。
実際に特別利害関係を有する者の議決権行使によって著しく不当な承認決議がされたなら,831条1項3号の瑕疵が問題となる。
1月の投票状況は明らかでなく,6月の否決時の投票を流用できない。
(3) 手続が未了なら効力発生日の経過だけで株式取得の効果は生じない(769条6項)。
既に交換が実施された外観の下では,丙銀行は未承認の乙社債権者として,効力発生日から6か月内に両社を被告に無効の訴えを提起する(828条1項・2項各11号,834条11号)。
異議後の措置欠缺が有力な無効原因である。
催告漏れの実害,対価の不当の程度,決議瑕疵の重大性と取引の安定も個別に評価する。
認容確定判決は対世的・将来効を有する(838・839条)。
交換関係を解消して流出した対価を乙社に回復し得ることに実益がある。
丙銀行がその金銭を直接取得するわけではない。
第2 設問2
1 甲社の責任財産の回復
乙社が甲社の株式を取得しても,丁社に対する手形債務は甲社に残る。
4月の取引では,甲社の取締役Bが相手方乙社を代表し,乙社の取締役Aが相手方甲社を代表した。
各社の利益相反直接取引であり,原則として各取締役会の承認が要る(356条1項2号,365条1項)。
両社の代表者は無承認と資産流出の計画を知っており,取引相手方の保護は及ばない。
もっとも乙社が甲社の唯一株主なら,株主自身が相手方となる取引には実質的利益相反がなく,甲社の取締役会の承認を要しないとする判例の考え方がある。
しかし本件では,唯一株主が会社財産を吸い上げ債権者の引当てを失わせる。
株主全員が同意すれば保護の必要がなくなるという理由はこの場面に妥当せず,少なくとも債務免脱のために取引する場合にまで判例の射程を及ぼすべきでない。
承認が不要だとしても,財産を処分する代表権を会社の利益に背いて行使し,相手方代表者も目的を知っていたから,旧民法93条ただし書の類推による効果帰属の否定を主張し得る。
取引が無効なら,甲社は乙社に財産の返還又は不当利得の返還を求め得る。
丁社は,自己の債権が弁済期にあり,甲社が無資力で権利を行使しない場合,甲社の返還請求権を代位行使し(旧民法423条),回復した責任財産への執行で回収を図る。
2 乙社の責任
乙社の完全支配を利用し,取引を仮装して甲社から財産を移し,甲社に債務のみを残す計画を実行したと立証できれば,法人格の濫用として乙社への直接請求を主張できる。
支配関係や役員の兼任だけでは足りない。
乙社自身が甲社の業務を実質的に決定したと立証できれば,事実上の取締役として429条1項の適用を求める余地もあるが,法人は取締役に就けないことにも留意し,株主としての関与と実際の業務執行を区別する必要がある。
乙社への給付に比して甲社の受けた対価が著しく少なければ,株主権の行使に関する利益供与と推定される(120条1・2項)。
推定が覆らなければ乙社の甲社への返還義務を代位行使できる(同条3項)。
取引の差額が実質的な剰余金の配当で,分配可能額を超える場合には,461条1項8号・462条1項の責任を問い,463条2項により丁社は受領額の帳簿価額と自らの債権額の小さい方を上限として乙社に支払を求め得る。
差額と分配可能額は資料で確かめる。
3 甲社取締役の責任
AとBは,甲社の利益に反する資産移転を計画・実行し,故意に任務を怠った。
そのため手形債権が回収不能となった限度で,丁社は両名に連帯賠償を請求できる(429条1項,430条)。
従前の投資損失のみで既に回収できなかった分を含まない。
Dにも財務担当取締役として監視義務はあるが,Eへの一任に反対し,Aの解職・ABの解任を求めた。
4月の取引を知り,又は重大な注意欠如により知らずに防止措置を怠った事情は直ちには認め難い。
第3 設問3
会社法855条により,甲社とAは,同一の解任につき共同追行と合一確定を要する固有必要的共同訴訟の被告である。
Jの保有要件は充足し,P地裁には856条の専属管轄がある。
6月28日総会から30日以内(854条1項)に提訴すべきところ,7月9日にAのみを提訴し13日に送達,17日に甲社を追加する申立てをし,20日に双方に所定書面が送達された。
30日目は7月28日(土)であり,民訴法95条3項によっても期間は同月30日(月)に満了する。
答弁書が届いたのがその日で,相談後の再提訴では期間徒過を避けられない。
昭和62年7月17日最判は別の被告への請求が当然併合される効果を否定した。
本件では既にAに送達済みであり,単なる氏名の訂正とはいえない。
それでも,855条が要求する不可欠な当事者を補うため,請求の基礎を維持し著しい遅延を避ける民訴法143条の趣旨も参照し,例外として追加を認めるべきである。
請求の増加がなく濫訴や複雑化のおそれは小さい。
早期に甲社にも訴状と申立書を送達しており,Aとの間の訴訟状態をそのまま流用せず甲社に十分な防御機会を与えても遅延は小さい。
追加を許す方が,期間制限の下で同一請求を一体で判断する制度に合う。
予備的に,17日書面を元の訴状と合わせて甲社に対する適時の訴えと解し得るなら,必要な補正をした上で152条の弁論併合により被告適格を充たすよう求める。
第4 設問4
1 224条3項の効果
不提出により申立人は証明の機会を失い,不提出者には相手方の立証困難から利益を得る誘因が生じ,裁判所は真相解明を妨げられる。
1項は文書の記載に関する主張,3項は記載を具体的に主張することと他の証拠での証明とが著しく困難な場合に,文書で証明すべき事実の主張を対象とする。
後者の効果が強いことを前提に四説を比べる。
転換説は真偽不明の不利益を不提出者に移し,反対事実の証明を促すが,妨害の程度に応じた調整が難しく,条文に証明責任変更の明文がない。
軽減説は証明度を下げて申立人を救済し,反証も可能とするが,引下げの程度が明確でなく,証拠がほとんどないと救済が及びにくい。
擬制説は迅速かつ強力で妨害を抑止するが,反証を排する形では誤認を強制し,認定を可能とする裁量文言とも合いにくい。
心証説は妨害の程度,文書の証明力,反対証拠を踏まえ個別に調整できるが,通常の自由心証との違いが曖昧になり,認定の予測可能性が低くなるおそれがある。
心証説を採る。
3項は証明責任を動かさず,所定の場合には失われた証明機会に見合う範囲で,記載内容を越えて事実を認定できる特則と解する。
不提出を機械的に認定へ結び付けず,文書と証明対象との結び付き及び反証を理由に明示することで,恣意を抑える。
2 甲社との関係
証明すべき事実の記載(221条1項4号)は証拠調べの目的を特定し,裁判所の必要性判断と所持者の防御を可能にする。
列挙した事項すべてが文書の証明対象になるわけではない。
1月末の約40億円の損失自体は別の書証で明らかである。
アのAの認識はBの認識を推認するための間接事実であり,A宛てに同時期に届いた損失一覧の内容と通常の文書の取扱いから,他の証拠と併せて認定し得る。
イのBの認識は監視義務違反を基礎付ける争点であるが,文書はA宛てで,Bへの回覧や伝達は別の事実である。
A・Bが共同して経営に関わるとしても,本件文書の不提出だけでBの認識までは認めない。
ウの重大な法令・定款違反は裁判所の法的評価であり,3項の認定対象にならない。
3 共同被告Bとの関係
甲社とBは固有必要的共同訴訟人であり,解任の結論は一つでなければならない。
民訴法40条1項の趣旨から,甲社の命令違反という不利益な態度の法的効果をBに当然に及ぼすことはできない。
心証説の下では,両者が吟味し反証できる証拠は共通の判断資料となる。
しかし,甲社の不提出による制裁をそのまま共通証拠としてBに不利益に利用することはできない。
Bが甲社取締役として提出拒否に関与したか,文書を利用できたかを検討する余地はあるが,単に甲社と共同被告であることから関与は認められない。
Bに独自の主張立証の機会を与え,不提出とBの関係を吟味して,共通の証拠と弁論の全趣旨から統一的に事実認定する。
Bの認識が立証され,監視義務違反が重大と認められれば双方との関係で解任を認容する。
認識の立証が足りなければ,立証責任を負うKの請求を双方について棄却する。
以上
3 出題の趣旨・採点実感を踏まえた解説
(1) 答案と評価項目の対応
答案の第1は保証と株式交換(番号1~14),第2は責任財産の回復と責任追及(番号15~22),第3は被告の追加(番号23~26),第4は文書提出命令の不遵守(番号27~34)に対応する。
保証についての二つの承認の根拠(番号1・5・7),一人会社の承認不要論(番号16),再提訴と追加の関係(番号24・25),Bに対する効力(番号32~34)が判断の分かれ目になる。
重み3の番号2・9・26は,それぞれ第1の1(1),第1の2(1),第3の中段及び末尾に対応する。
第4の重み5・4の項目及び条件付きの項目について,模範解答との対応を次の表に示す。
| 番号 | 重み | 評価項目 | 答案の該当箇所・留保 |
|---|---|---|---|
| 1 | 4 | 甲社の30億円の借財と乙社の巨額の保証について,各社の取締役会の決議が必要であり,運用委託の決議で代替できないと論じる。 | 第1の1(1)。両契約の規模と一任の決議の対象を区別する。 |
| 3 | 4 | 決議の欠缺の外部効について,旧民法93条ただし書の類推等の構成を選び,相手方の認識・過失と取引の効力を接続する。 | 第1の1(1)。旧民法93条ただし書の類推と過失。 |
| 4 | 4 | Fの確認書の取得,議事録の欠如,役員への未照会と虚偽の稟議を,丙銀行の過失の有無に即して評価する。 | 第1の1(1)。確認書を信頼したとの銀行側の言い分とFの調査の欠落。 |
| 5 | 5 | 保証が間接取引に当たるかを,乙社に生じる負担と兼任取締役Aらの甲社側の立場・利益から判定する。 | 第1の1(2)。Bの締結,Aの兼任,持株の利益と乙社の負担。 |
| 6 | 4 | 利益相反の承認の欠缺の外部効で相対的無効説を採るときは,銀行の善意・無重過失を具体的に検討する。【適用条件】相対的無効説を採るとき | 第1の1(2)。重過失の評価は確認書の信用性に左右される。 |
| 7 | 5 | 乙社の全株主A・Bの同意により利益相反の承認を省けるかを,同意の実質と債権者保護を踏まえて論じる。 | 第1の1(2)。実質的な同意の有無と債権者保護を分ける。 |
| 8 | 5 | 現金対価が乙社の引当財産を減らすため799条1項3号の手続が働き,保証の効力によって丙銀行の異議権の有無が分かれると論じる。 | 第1の2(1)。対価が現金であることと丙銀行の地位。 |
| 10 | 5 | 異議があれば原則として弁済等が必要であり,乙社の現金流出・弁済資力を害するおそれの例外に当てはめる。 | 第1の2(1)。異議後の措置と現金流出の関係。 |
| 11 | 4 | 6000円と1000円の形成事情とAの動機から,対価の不当性を具体的に評価する。 | 第1の2(1)・(2)。両時点の価格の意味と意見書。 |
| 12 | 4 | 承認総会での特別利害関係人による議決権の行使と著しい不当を831条1項3号に照らし,決議の瑕疵が交換に及ぼす影響を論じる。 | 第1の2(2)。特別利害関係人が実際に投票したかは与件から確定しない。 |
| 13 | 5 | 効力発生日後の無効の訴えで,株式交換について承認をしなかった債権者の原告適格と,手続の瑕疵・対価・決議の瑕疵の無効原因性を分ける。 | 第1の2(3)。無効原因の候補と原告適格を区分する。 |
| 14 | 4 | 無効判決によって株式交換の対価として流出した財産を回復できる実益を示す。 | 第1の2(3)。対価を回復する主体は乙社である。 |
| 15 | 4 | AとBの兼任と代表行為から一連の取引を直接取引とし,各取締役会の承認の欠缺を論じる。 | 第2の1。各社の代表取締役が相手方の会社の取締役を兼任する。 |
| 16 | 5 | 完全親会社乙社が甲社の唯一の株主である事実を承認不要とする判例の考え方につなげ,債権者保護の場面での射程を吟味する。 | 第2の1。完全親会社となった場合の承認不要論と債権者保護。 |
| 17 | 4 | 取引の無効による甲社の責任財産の回復を,丁社が回収に利用できる手段とつなげる。 | 第2の1。甲社の返還請求権を丁社が代位行使する。 |
| 18 | 4 | 乙社の責任について,法人格の濫用による否認の適否を完全支配・財産流出の目的に即して検討する。【適用条件】乙社の直接の責任を法人格否認で論じる場合 | 第2の2。支配の利用と債務の免脱を検討する構成。 |
| 19 | 3 | 乙社を事実上の取締役とする構成では,実質的な関与と429条1項の適用上の障害を示す。【適用条件】事実上の取締役としての責任を論じる場合 | 第2の2。乙社自身の業務執行と取締役の資格が争点となる。 |
| 20 | 3 | 乙社への利益供与とする構成では,利益が株主の権利の行使に関するかを検討し,返還の帰属を示す。【適用条件】利益供与の構成を選ぶ場合 | 第2の2。対価の少なさによる推定と甲社への返還。 |
| 21 | 3 | 隠れた剰余金の配当とする構成では,対価と実質,分配可能額の超過,返還請求の帰属を検討する。【適用条件】隠れた配当の構成を選ぶ場合 | 第2の2。分配可能額は資料による確認が必要。463条2項の直接の請求を補足した。 |
| 22 | 5 | 甲社取締役の429条1項の責任を,A・B・D各自の職務への関与,悪意・重過失,丁社の回収不能との因果関係から判断する。 | 第2の3。A・BとDを分けて判断する。 |
| 23 | 5 | 855条により甲社とAが共同被告となる固有必要的共同訴訟であり,訴訟共同と解任の結果の合一確定を要すると説明する。 | 第3の冒頭。被告適格,合一確定,専属管轄。 |
| 24 | 5 | 提訴・送達・追加の申立て・答弁書の受領の日を,854条の30日の期間と手続の進行に結び付け,再提訴の可能性を評価する。 | 第3の冒頭。各日付を提訴期間と手続に対応させる。 |
| 25 | 5 | 引用された最高裁判決の明文の欠如,訴訟状態の利用,複雑化・濫訴・遅延の懸念に対し,不可欠な当事者の追加と初期段階の事情で反論する。 | 第3の中段。判例が挙げる弊害を一つずつ本件と比べる。 |
| 27 | 4 | 文書の不提出による申立人・不提出の当事者・裁判所への影響を,立証の困難,証明妨害の誘因,真実の発見から示す。 | 第4の1の冒頭。三者に生じる不都合。 |
| 28 | 5 | 転換,軽減,擬制,心証の四説につき,変更されるものと反証の余地を区別して長所・短所を比較する。 | 第4の1。四説で動くものを比較し,心証説を採る。 |
| 29 | 4 | 224条1項の記載に関する認定と3項の事実に関する認定を区別し,3項の要件の構造と裁量の文言を採用する説の理由に用いる。 | 第4の1。1項と3項の要件・認定の対象を区別する。 |
| 30 | 4 | 申立書に証明すべき事実を記載させる意義と,実際の認定の対象が申立書の記載だけで広がらない理由を説明する。 | 第4の2。221条1項4号の記載の目的。 |
| 31 | 5 | 40億円の損失自体,Aの認識,Bの認識,重大な違反という法的評価を区分し,文書との推論関係と他の書証を踏まえて認定の範囲を決める。 | 第4の2。損失,Aの認識,Bの認識,法的評価を区別する。 |
| 32 | 5 | 甲社の不提出とBへの効果を区別した上で,合一確定の要請とBの手続保障を両立させる帰結を示す。 | 第4の3。Bの防御の機会を確保して一つの結論を出す。 |
| 33 | 4 | 心証説では,不提出の評価と証拠共通を分け,甲社・Bの関係やBの証拠への関与を評価する。【適用条件】心証説を採るとき | 第4の3。証拠共通の対象と不提出の制裁を区別する。 |
| 34 | 4 | 心証説以外では,文書の不提出を不利益な訴訟上の態度として民訴法40条1項との関係で位置付ける。【適用条件】心証説以外を採るとき | 適用外。答案は心証説を採るため,心証説以外の構成に固有の検討はしていない。第4の3で40条1項の趣旨に触れた。 |
(2) 設問1
出題の趣旨は,金銭消費貸借契約と保証契約がいずれも「多額の借財」に当たり各社の取締役会の承認を要することを前提に,民法93条ただし書を類推適用する判例の立場を採る場合には丙銀行の過失の有無を事例に即して吟味することを求め,保証が間接取引に当たるか,乙社の株主がA及びBの2人だけであることから承認がそもそも不要ではないかも問題とする(PDF4頁)。
株式交換については,各別の催告の欠缺,異議を受けた弁済等の欠缺,対価の不当及び特別利害関係人の議決権の行使を挙げ,それらが無効原因となるか,丙銀行に原告適格があるか,無効とすることの実益を検討するよう求める(PDF4~5頁)。
採点実感は,保証債務履行請求について複数の問題点の一つだけを論じる答案や,株式交換の問題点を論ずる意味や実益を明らかにしない答案が多かったとし,全株主の同意があれば取引は有効となりそうであるが,債権者の保護が問題となる局面でもそれでよいのかを悩む答案が極めて少なかったと指摘する(PDF11頁)。
答案は,両契約の決議の欠缺と銀行側の認識を分け,現金対価による資力の低下,異議後の保護措置,決議の瑕疵,交換を争う実益までを扱った(番号1~14)。
(3) 設問2
出題の趣旨は,直接取引に当たる一連の取引を承認の欠缺により無効とし甲社の責任財産を回復すること,一人会社の株主が相手方となる場合に承認を要しないとする判例の立場で債権者を保護できるかという悩み,乙社に対する責任追及の四つの構成,及び甲社の取締役の対第三者責任を挙げる(PDF5頁)。
採点実感は,複数の問題点を幅広く論じる答案は極めて少なく,取締役の第三者に対する責任だけを論じる答案が多かったとする(PDF11頁)。
答案は,一人会社の承認不要論の射程,乙社への責任追及の複数の構成,A・BとDの行動の違いを検討した(番号15~22)。
債権者代位の要件と463条2項による直接の請求は,回収の手順を示すための,公式資料に記載のない補足である。
(4) 設問3
出題の趣旨は,取締役の解任の訴えが被告側の固有必要的共同訴訟であること,出訴期間が法定されており再訴では期間の徒過により対応できないこと,被告追加の申立てが訴訟の極めて初期段階にされたことを抽出し,最高裁判決が摘示した理由に対する反論の形で展開するよう求める(PDF5頁)。
採点実感は,時系列の記載に注目しない答案を挙げ,訴状の補正(訂正)にすぎず最高裁判決の射程外であるという主張だけに終始することが原告の代理人として得策かを問う(PDF13~14頁)。
答案は,固有必要的共同訴訟であることと,追加の申立てが早期にされ甲社に防御の機会を与えられることを対応させた(番号23~26)。
7月17日の書面を甲社に対する別訴の訴状と解する予備的な主張は,公式資料に記載のない補足である。
(5) 設問4
出題の趣旨は,小問(1)で文書提出命令に従わない場合に生じる「不都合」を考えながら,各説の長所短所を224条1項の要件との違いや「真実と認めることができる。」という文言に留意して検討し,小問(2)で「証明すべき事実」を記載させることの意義と申立書の各事項の位置付けを,小問(3)で心証説以外の立場からは民事訴訟法40条1項との関係を,心証説の立場からは証拠共通の原則との関係を,他方の被告への手続保障に配慮して論じるよう求める(PDF5~6頁)。
採点実感は,他の3説の短所だけを挙げて消去法で残る説を採る答案,224条1項と3項の要件の違いに気付かない答案,設問3で固有必要的共同訴訟としながら設問4(3)で甲社に適用されてもBには適用されないとしたまま疑問を示さない答案を挙げる(PDF13~14頁)。
答案は,申立書の記載の目的を示し,Aの認識,Bの認識及び法的評価を切り分けた上で,証拠共通と制裁を区別しながら,Bに防御の機会を与えて一つの解任の判断をする構成を採った(番号27~34)。
(6) 答案の弱点と扱わなかった事項
丙銀行の重過失は,Fが確認書をどう受け止めたかを含む事実の評価である。
現金対価の相当額,総会での実際の議決権の行使及び取引時の分配可能額は,与件だけからは確定できない。
乙社を事実上の取締役とする場合は,法人が取締役になれないこととの関係が残る。
設問2で除外された詐害行為取消権と債権侵害の不法行為,設問4で前提とされた文書提出命令の要件の充足は扱っていない。
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第7 出典
1 公式資料
①法務省「論文式試験問題集[民事系科目第2問]」(平成20年新司法試験)(PDF5~12頁)
②法務省「平成20年新司法試験論文式試験問題出題趣旨」(PDF4~6頁の民事系科目第2問)
③法務省「平成20年新司法試験の採点実感等に関する意見」(PDF11~12頁の商法,13~15頁の民事訴訟法)
④法務省「平成20年新司法試験の実施日程等について」(平成19年8月2日司法試験委員会決定。PDF1頁の試験日程)
2 法令
①会社法(平成17年法律第86号)の制定時の条文(衆議院)
②民事訴訟法(平成8年法律第109号)の制定時の条文(衆議院)
③民法の一部を改正する法律(平成16年法律第147号)(衆議院)
試験日当時の版はe-Gov法令検索で閲覧できないため,会社法と民事訴訟法は,上記の制定時の条文と,e-Gov法令検索で閲覧できる最も古い版(会社法は平成29年4月1日施行版,民事訴訟法は平成24年10月1日施行版)とを照らし合わせた。
答案で用いた会社法120条,356条,362条4項,365条1項,429条1項,430条,461条1項,462条1項,463条2項,769条6項,799条,828条,831条1項3号,834条,838条,839条及び854条~856条並びに民事訴訟法40条1項,95条,143条,152条,221条1項及び224条の内容は,両方の版で答案に関わる部分が同じである。
民法93条と423条は,平成16年法律第147号による現代語化後の試験当時の条文によった。
3 裁判例
最高裁昭和62年7月17日第三小法廷判決(民集41巻5号1402頁)は,問題文に引用された判示部分によった。
取締役会の決議を欠く取引,利益相反取引の全株主の同意及び一人会社に関する判例の立場は,出題の趣旨の説明(PDF4~5頁)によった。
4 留意事項
出題の趣旨はPDF4~6頁の〔第2問〕の部分を,採点実感はPDF11~15頁の商法及び民事訴訟法の部分を,評価項目の根拠とした。
答案と解説は試験当時の法令によっており,平成26年の会社法改正や平成29年の民法(債権関係)改正後の規定は用いていない。
評価項目,重み,答案と解説の法的な理解は本記事独自の分析であり,出題の趣旨・採点実感が述べる内容とは,第4の根拠欄及び第5の3で区別して示した。