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平成23年司法試験民事系第2問(商法)の模範解答と評価項目―出題の趣旨・採点実感から抽出した36項目と5段階の重み付け(AI作成)

第1 この記事の対象と結論

平成23年司法試験の民事系科目第2問(商法)について,法務省の出題の趣旨と採点実感から独自に抽出した36の評価項目と,5段階の重み,5000字以内の答案例を示す。
評価項目と重みは本記事独自の分析であり,法務省の公式採点基準,配点又は合格可能性の推計ではない。

項目内容
対象問題法務省・平成23年民事系問題PDFの第2問(PDF6頁~9頁)。
答案の基準時平成22年6月29日の定時株主総会等を扱う問題であり,平成23年の試験時の会社法及び会社法施行規則を前提とする。その後の会社法改正で設けられた機関類型等を当時の答案へ持ち込まない。
資料の状態問題はPDF6頁~9頁の第2問全体を確かめた。出題の趣旨はPDF5頁の民事系第2問の見出しから6頁の第3問の直前まで,採点実感はPDF15頁~17頁の民事系第2問全体を読んだ。
中心となる事項特定の株主からの自己株式の取得の三つの瑕疵と取得の効力,財源規制違反による受領者の支払義務,有利な価額での自己株式の処分における説明義務違反と特別利害関係人の議決権行使,自己株式処分無効の訴え,代表取締役の462条・465条・423条の責任。
評価項目全36項目。重み5は9項目。重みの合計は144。取得を無効とする構成でだけ評価する条件付きの項目を,全答案へ累積要求しない。
裁判例最高裁昭和46年7月16日判決(昭和46年(オ)第396号,集民103号407頁)。判決本文と書誌を裁判所HPで確認した(第7の3)。
答案の分量4789字(見出し・番号・空白を含み,改行だけを除外)。上限5000字。
確認日令和8年11月6日。法令の確認範囲は第7の2に示す。

本答案は,設問①では,売主追加請求の通知の欠缺,特定の株主Bの議決権行使及び財源規制違反という三つの瑕疵を認めた上で,本件自己株式取得を有効とし,Bは株主の地位を失う一方で,受領した25億円全額を甲社に支払う義務を負うとする。
設問②では,Dの質問に対する説明拒絶と乙社の議決権行使による著しく不当な決議を取消事由と認めつつ,本件自己株式処分は無効とならないとする。
設問③では,Cの462条・465条の責任について注意を怠らなかったことの証明を認め,423条の責任は損害と因果関係が認められる範囲に限る構成を採る。
各設問の結論を唯一の正解とするものではない。
事実と設問の整理,評価項目の一覧,答案本文,設問ごとの解説の順に参照されたい。

第2 評価項目の示し方と重み付けの基準

1 評価項目の示し方

一つの評価項目には,一つの判定対象を置いた。
表の頁はPDFファイルの先頭から数える頁であり,両公式資料の対象範囲から根拠箇所と短い語句を示す。
「記載なし」は当該範囲を読んだ上で具体的な記載を確認できないことを意味する。

採点実感が不十分な答案として挙げた事項のうち,正しい書き方の裏返しに当たるものは,独立の項目にせず,対応する項目にまとめた。
通知の欠缺を招集手続の瑕疵とする誤りは番号3に,Bの議決権行使を特別利害関係人の問題とする誤りは番号5に,461条1項2号を根拠とする誤りは番号10に,財源規制違反の有効説だけで他の瑕疵を処理する誤りは番号12に,法令違反を度外視して経営判断の原則を当てはめる誤りは番号33に含めている。
出訴期間の徒過を前提とする誤り(番号8)と,後の処分を理由に取得を有効とする誤り(番号19)は,独立の注意点として「〜しない」の形で置いた。

採点実感は,Bの議決権行使の瑕疵の性質と,財源規制違反の取得の効力について,どちらの見解を採っても理由が適切であれば同等に評価したとしている。
そのため,番号6・11は見解の選択ではなく理由の有無を評価する。
【適用条件】が付く行は,その構成を採った場合に限って評価する。

2 5段階の重み付けの基準

重み5:設問の判断を大きく分ける核心。
重み4:結論を理由付きで支える主要な論証・当てはめ。
重み3:通常押さえる法的処理・事情の評価。
重み2:論証を補強する説明・個別事情・誤りへの注意。
重み1:補充的な引用・記述範囲の確認。

重みは設問内での役割から各項目を個別に判断した。
両公式資料に登場するという件数だけで重みを決めず,段階ごとの件数も割り当てていない。

第3 本問の概要

1 問題文と事実関係

問題の全文は,法務省の民事系問題PDFに掲載されている。
本記事の要約だけでなく,資料①~③の数値と設問の文言を確認されたい。

甲社は,携帯電話の販売を目的とする会社法上の公開会社で,種類株式発行会社ではない大会社であり,株式を新興企業向けの市場に上場している。
代表取締役Cは,経営の立て直しのため,甲社株式30万株を有する乙社との資本関係の強化を図り,創業者Aの唯一の相続人Bから250万株を市場価格の25%増しで取得し,これを乙社に市場価格の80%で処分することとした。

時点事実
平成21年12月Aが死亡し,Bが甲社株式250万株(発行済株式総数1000万株の25%)を相続
平成22年3月31日事業年度の末日・議決権の基準日。当初の貸借対照表(資料②)ではその他利益剰余金35億円,後に作り直した正しい貸借対照表(資料③)では5億円
同年6月10日招集通知・株主総会参考書類等を発送。B以外の株主に売主追加の請求ができる旨を通知せず
同年6月29日定時株主総会。第1号議案(Bからの取得)はBの賛成で,第2号議案(乙社への処分)は乙社の賛成で,いずれも出席議決権の3分の2をかろうじて上回って可決。第2号議案では,処分価格の根拠を問うDに対し,Cが企業秘密を理由に説明を拒絶
同年6月30日甲社がBから250万株を1株1000円(6月28日の最終の価格800円の25%増し),総額25億円で取得
同年7月20日甲社が乙社に250万株を1株640円,合計16億円で処分。乙社は8月31日までに50万株を市場で売却
同年9月1日架空売上げの計上が発覚。会計監査人も見抜けない巧妙な手口で,内部統制に問題がなく,Cに発見の過失はなかったとされた
平成23年3月31日の計算書類の承認時業績の急激な悪化により,30億円の欠損

2 設問が求めること

設問対象到達点
①前段本件自己株式取得の効力通知の欠缺,Bの議決権行使,財源規制違反の各瑕疵と,取得全体の効力
①後段甲社とBとの間の法律関係462条の支払義務の額,株式の帰属,返還関係と同時履行の抗弁
②本件自己株式処分の効力説明義務違反・著しく不当な決議の成否,自己株式処分無効の訴えの無効原因,先行取得の瑕疵との関係
③Cの甲社に対する会社法上の責任462条・465条1項3号の責任と注意を怠らなかったことの証明,423条の任務懈怠・損害・因果関係

第4 評価項目と重み

1 設問①前段―本件自己株式取得の効力

番号評価項目重み出題の趣旨採点実感
1市場価格のある株式の取得の特則(161条)が適用されないことを示す3PDF6頁「市場価格のある株式の取得の特則」PDF15頁「市場価格のある株式の取得の特則」
2公開会社には相続人等からの取得の特則(162条)が適用されないことを示す3PDF6頁「相続人等からの取得の特則」PDF15頁「相続人等からの取得の特則」
3売主追加請求の通知(160条2項)の欠缺を自己株式の取得に関する手続違反と捉え,株主総会の招集手続の瑕疵にとどめない4PDF6頁「自己の株式の取得に関する手続違反」PDF15頁「自己の株式の取得に関する手続違反」
4通知の欠缺と本件自己株式取得の効力との関係を理由付きで論じる5PDF6頁「これらの手続的瑕疵と本件自己株式取得の効力との関係」PDF15頁「それぞれの瑕疵と本件自己株式取得の効力」
5Bが特定の株主として議決権を行使できないこと(160条4項)を指摘し,特別利害関係人の議決権行使(831条1項3号)の問題として論じない4PDF6頁「議決権行使が禁止される特定の株主」PDF15頁「同法第160条第4項本文違反」
6Bの議決権行使の瑕疵を,決議の方法の法令違反と見るか取得手続の違反と見るかを理由とともに明らかにする3PDF6頁「決議の方法が法令に違反している」PDF15頁「どちらの見解を採っても」
7採った見解に応じて,株主総会決議取消しの訴えの要否と取得の効力との関係を導く4PDF6頁「株主総会決議取消しの訴えを提起する必要」PDF15頁「理由等が適切に述べられていれば」
8決議取消しの訴えを出訴期間内に提起していないという,問題文にない前提を設けない【適用条件:決議の方法の法令違反と見る構成を採用】2記載なしPDF15頁「出訴期間内に提起していないという前提を設定し」
9正しい貸借対照表(資料③)から分配可能額を5億円と算出する5PDF6頁「分配可能額は5億円しかなかった」PDF15頁「分配可能額を誤っている答案」
1025億円の取得が461条1項3号の財源規制に違反することを示す(同項2号を根拠としない)4PDF6頁「同法第461条第1項第3号」PDF15頁「同法第461条第1項第3号ではなく」
11財源規制違反と取得の効力との関係について,無効説・有効説のいずれかを理由付きで採る5PDF6頁「これと本件自己株式取得の効力との関係」PDF15頁「無効説と有効説とがある」
12三つの瑕疵ごとの検討を踏まえ,取得全体の効力を論理的に一貫させる(財源規制違反の有効説だけを理由に他の瑕疵を処理しない)5PDF6頁「全体として,本件自己株式取得の効力をどのように考えるか」PDF15頁「論理的整合性を意識しながら記述した答案」

2 設問①後段―甲社とBとの間の法律関係

番号評価項目重み出題の趣旨採点実感
13取得の効力にかかわらず,Bが462条1項により受領した25億円全額の支払義務を負うことを示す5PDF6頁「会社法第462条の責任」PDF16頁「25億円を支払う義務を負う」
14取得の効力に対応して,本件株式の帰属とBの株主の地位を確定する4PDF6頁「対象となった株式の帰属等」PDF16頁「Bの株式の帰すう」
15甲社とBとの間の不当利得返還関係を根拠とともに示す【適用条件:取得を無効とする構成を採る場合のみ】4PDF6頁「その根拠と併せて検討」PDF16頁「甲社とBとの間の不当利得関係」
16甲社の乙社への処分と乙社の市場売却を踏まえ,Bが主張する同時履行の抗弁権を検討する5PDF6頁「同時履行の抗弁権」PDF16頁「同時履行関係等について,論理的整合性」
17無効を主張できるのが甲社に限られるかを検討する【適用条件:取得を無効とする構成を採る場合のみ】3記載なしPDF16頁「無効を主張することができるのは甲社だけであるか」
18Bが善意又は善意・無重過失であっても甲社が無効を主張できるかを検討する【適用条件:取得を無効とする構成を採る場合のみ】4記載なしPDF16頁「Bが善意又は善意・無重過失であった場合」
19甲社が取得した株式を後に処分したことだけを理由に,取得の瑕疵が治癒されて有効になるとしない3記載なしPDF16頁「それ以上の理由を述べないで」

3 設問②―本件自己株式処分の効力

番号評価項目重み出題の趣旨採点実感
20有利な価額での処分であることを前提に,199条3項の必要性の説明は尽くされていることを区別する3記載なしPDF16頁「会社法第199条第3項に基づく説明義務は尽くされている」
21Dの質問に対する314条の説明義務違反の有無を,説明を拒める場合に当たるかに即して理由付きで検討する4PDF6頁「説明義務(会社法第314条)の違反があるかどうか」PDF16頁「一般的な説明義務(同法第314条)との区別」
22乙社の議決権行使により著しく不当な決議がされたか(831条1項3号)を,結論だけでなく理由を示して検討する4PDF6頁「同法第831条第1項第3号に掲げる場合」PDF16頁「著しく不当な決議がされたとの結論だけ」
23自己株式の処分の無効は自己株式処分無効の訴え(828条1項3号)によってのみ主張できることを示す3PDF6頁「自己株式処分無効の訴え」PDF16頁「無効の訴えによってしか主張することができない」
24説明義務違反による決議取消事由が自己株式処分の無効原因となるかを論じる4PDF6頁「それらが自己株式処分無効の訴え」PDF16頁「株主総会決議取消事由となることと自己株式処分無効の訴えとの関係」
25特別利害関係人の議決権行使による決議取消事由が自己株式処分の無効原因となるかを論じる4PDF6頁「それらが自己株式処分無効の訴え」PDF16頁「株主総会決議取消事由となることと自己株式処分無効の訴えとの関係」
26特別決議を欠く有利発行を有効とした昭和46年の最高裁判決の考え方と本件処分との関係を論じる4記載なしPDF16頁「最高裁昭和46年7月16日第二小法廷判決」
27有効に取得されていない自己株式を処分したことが無効原因となるかを論理的に検討する【適用条件:取得を無効とする構成を採る場合のみ】5PDF6頁「そもそも有効に取得されたものとはいえないといった瑕疵」PDF16頁「自己株式がそもそも有効に取得されたものではない」

4 設問③―Cの甲社に対する会社法上の責任

番号評価項目重み出題の趣旨採点実感
28本件自己株式取得に関する職務を行ったCの462条1項の責任を示す5PDF6頁「同法第462条(第1項柱書又は第1項第2号)の責任」PDF17頁「第462条(第1項柱書又は第1項第2号)の責任」
29Cが職務を行うについて注意を怠らなかったか(462条2項)を,粉飾の発見可能性等の事実に即して検討する4PDF6頁「その職務を行うについて注意を怠らなかった」PDF17頁「その職務を行うについて注意を怠らなかった」
30462条とは別に,Cの465条1項3号の欠損塡補責任を示す5PDF6頁「同法第465条第1項第3号」PDF17頁「第465条第1項第3号の欠損塡補責任」
31欠損塡補責任の額を,欠損額30億円と交付額25億円から具体的に示す4記載なしPDF17頁「責任を負うべき金額まで正確に示した答案」
32465条1項ただし書の注意を怠らなかったかを,取得時の判断と期末の欠損に即して検討する4PDF6頁「その職務を行うについて注意を怠らなかった」PDF17頁「その職務を行うについて注意を怠らなかった」
33本件自己株式取得に関するCの任務懈怠(423条)を,設問①で検討した法令違反と整合させて分析する(法令違反を度外視して,差損に経営判断の原則を当てはめない)4PDF6頁「何が任務懈怠に当たるのかを分析」PDF17頁「任務懈怠の内容の分析」「法令違反の点を度外視して」
34本件自己株式処分に関するCの任務懈怠を,設問②で検討した説明義務違反等と整合させて分析する4PDF6頁「何が任務懈怠に当たるのかを分析」PDF17頁「任務懈怠の内容の分析」
35取得による甲社の損害額と因果関係を,Bの支払義務等による回復と整合させて論じる4PDF6頁「損害額に関する論理的な記述」PDF17頁「損害額及び因果関係について論理的な記述」
36処分による甲社の損害額と因果関係を,資本提携の利益等の取引判断と整合させて論じる4PDF6頁「損害額に関する論理的な記述」PDF17頁「損害額及び因果関係について論理的な記述」

5 重みの分布

重み5は9件,重み4は19件,重み3は7件,重み2は1件,重み1は0件であり,合計36項目,重みの合計は144である。
この合計を実際の配点又は答案の得点へ換算することはできない。
設問別では,設問①前段が12項目・47点,設問①後段が7項目・28点,設問②が8項目・31点,設問③が9項目・38点である。
問題文は第2問全体の配点を100とするだけで,設問ごとの配点の割合を示していないため,この比を配点と比べることはできない。

条件付きの項目も分布には含めるが,採らなかった構成の項目は,その答案の評価から外す。
重み5は,通知の欠缺と取得の効力との関係(番号4),分配可能額5億円の算出(番号9),財源規制違反と取得の効力(番号11),三つの瑕疵を通じた取得全体の効力の一貫性(番号12),Bの462条による25億円の支払義務(番号13),処分・市場売却を踏まえた同時履行の抗弁権(番号16),有効に取得されていない自己株式の処分の効力(番号27),Cの462条の責任(番号28),Cの465条1項3号の欠損塡補責任(番号30)の9項目とした。
いずれも,取得・返還・処分の効力又はCの法定責任の結論を左右する点を重視した。

第5 模範解答

1 答案の前提と表記

平成23年の試験時の会社法及び会社法施行規則を前提とする。
答案中の条数は,特に断らない限り会社法の条数である。
設問①では,Bの議決権行使の瑕疵を決議の方法の法令違反と見た上で,三つの瑕疵のいずれによっても本件自己株式取得は無効とならないとする構成を採る。
答案には評価項目の番号や判例の書誌を入れず,採らなかった構成は枠外の解説で説明する。
答案は見出し・番号・空白を含み,改行だけを除いて4789字である。

2 答案

第1 設問①
1 取得手続及び財源規制
 甲社が特定の株主Bから250万株を25億円で取得するには,株主総会の特別決議を要する(会社法156条1項,160条1項,309条2項2号。以下条数のみ)。
他の株主には,160条2項の通知により,自らも売主に加えるよう請求する機会が保障される。
 1株1000円は市場価格800円を超えるから161条は適用されず,甲社は公開会社なので相続人等からの取得の特則(162条)も適用されない(同条ただし書1号)。
通知を欠いた本件は,他の株主の売主追加の機会を奪う取得手続の違反である。
これは,それ自体が総会の招集手続の瑕疵となるものではない。
 Bは売主なので議決権を行使できない(160条4項)。
基準日に株主だったことは,特定の株主についてのこの禁止を解除しない。
Bの票により辛うじて可決された第1号議案には,決議の方法の法令違反による取消事由がある(831条1項1号)。
この構成では,株主等が決議の日から3か月以内に取消しの訴えを提起する必要がある。
取消判決の存在や期間の徒過は仮定しない。
 粉飾を除く純資産40億円から資本金15億円,資本準備金15億円及び利益準備金5億円を除くと,剰余金は5億円である。
取得までの増減もないから分配可能額は5億円となり,25億円の交付は20億円超過し,461条1項3号に違反する。

2 各瑕疵と取得の効力
 通知規制の保護対象は他の株主個人の売主追加の機会であり,会社への423条の賠償だけでその機会が回復するわけではない。
個人の機会喪失による損害をCへ請求するには,職務上の悪意又は重過失と,その損害及び因果関係を要する(429条1項)。
売却を希望し追加請求をしたはずか,取得株数の配分によって何株を売れたか等も問題となり,通知の欠缺だけで個人損害全額の賠償が保障されるものではない。
 機会そのものを回復できず,受益者Bを保護すべきでないことは無効説の理由となる。
しかし,通知制度は売主追加請求を保障するもので,特定の株主からの取得を一律に禁止するものではなく,欠缺時の取得無効も明定していない。
機会の侵害を取得全体の無効へ直結させると,侵害された株主だけでなく会社の株主構成・後続の処分にも効果が及ぶ。
B個人の信頼より会社全体の取得関係の安定を重く見て,個人損害の救済を残し,通知違反による取得自体は有効と解する。
 Bの違反投票についても,取消事由がある決議と,その下で代表取締役が実行した取得の効力を区別する。
Bは違反投票者兼受領者であり,無関係な第三者と同じ信頼保護は主張できない。
他方,採用説の根拠はBの善意ではなく,特別決議の瑕疵を取消訴訟で争わせる制度と,既に実行された取得について株式の帰属を一義的にする必要にある。
Bの関与は取消事由の判断や受領者責任から除かず,その関与だけで既に実行された取得まで当然無効とはしない。
取消しと取得の効力を一体に扱う反対説にも理由はあるが,ここでは取得関係の安定を優先する。
 財源規制違反は債権者保護に関わるので無効とする考えもある。
ただ,462条は受領額全体の支払義務を課して会社財産を回復させる。
有効説は,この回復手段を維持して資本を保護しつつ,取得関係の安定も図る解釈である。
同条の存在だけから当然に有効となるわけではないが,この制度上の利益を重視して有効と解する。
したがって本件取得は有効と解する。
これは各瑕疵の理由を別に検討した結論であり,財源規制違反の有効説だけで他の二つの瑕疵を処理するものではなく,後に甲社が株式を処分したことも理由としていない。

3 甲社とBとの関係
 取得は有効なので甲社は本件株式を取得し,Bは株主の地位を失う。
他方,財源規制違反の取得による受領者Bは,交付を受けた25億円全額を甲社へ支払う(462条1項)。
超過額20億円だけではなく,取得が有効であることや粉飾を知らなかったことでも免れない。
463条1項の善意者保護は,義務を履行した業務執行者等からの求償に関するもので,甲社の直接の請求とは異なる。
 Bは取得無効を理由とする株式返還請求権を持たず,それを反対債権とする同時履行の抗弁も認められない。
甲社の後続の処分や乙社の市場売却を理由として,Bに返還請求権が新たに生じるわけでもない。

第2 設問②
1 決議の瑕疵
 自己株式の処分にも199条の募集株式の規律が及ぶ。
640円は800円を20%下回る特に有利な金額であり,特別決議を要する(199条2項・3項,309条2項5号)。
Cは資本提携の必要性を参考書類に即して説明しており,199条3項の必要性の説明は履行している。
 しかし,Dの価格算定根拠の質問には,別に314条の説明義務がある。
同条ただし書と会社法施行規則71条は,議題に関しない場合,株主の共同の利益を著しく害する場合のほか,説明に調査を要する場合(相当の期間前の通知があった場合又は調査が著しく容易な場合を除く),会社その他の者(質問した株主を除く)の権利を侵害する場合,同じ総会での実質的に同一の事項の反復その他正当な理由がある場合に説明の拒絶を許す。
本件では,基準価格800円から640円とした理由が議案判断の核心である。
秘密として守る具体的な権利や侵害の危険,一切の説明を拒まなければならない理由は示されていない。
相場・値引率・提携利益との関係等を説明できない理由もなく,企業秘密という言葉だけで全面的に拒絶したことは正当化できない。
調査の必要や反復の質問も示されておらず,決議の方法の法令違反による取消事由がある。
 乙社は低額処分の相手方として特別の利害関係を有するが,当然に議決権を失うものではない。
提携の利益は考慮すべきでも,乙社の希望で市場価格の80%とし,価格の根拠も説明しないまま乙社の票により辛うじて可決した点から,他の株主の経済的利益を犠牲にした著しく不当な決議と評価する(831条1項3号)。

2 処分の効力
 自己株式の処分の無効は,処分の効力が生じた日から6か月以内に,訴えをもってのみ主張できる(828条1項柱書・3号)。
新株発行と自己株式の処分は,199条が同じ募集の規律に置き,いずれも会社外の株式数と持分割合を動かす。
有利発行の内部決議の瑕疵だけで外部の発行の効力を覆さない考え方を,公開会社の自己株式の処分にも及ぼすのが相当である。
 説明義務違反は価格判断の情報を欠かせる重要な違反であり,199条3項の必要性の説明をしたことでは治らない。
しかし,募集事項を定める意思決定の瑕疵である点は共通し,決議の取消しを認めつつ,それだけで処分まで無効とはしない。
 乙社は価格設定を求め自ら投票しており,善意の転得者と同じ保護に値するとはいえない。
他方,831条1項3号は,特別利害関係人の投票自体を禁じず,著しい不当性を伴う場合の取消しで公正を確保する。
乙社への制裁のため,その取消事由を直ちに公開会社の株式の処分の無効原因へ広げるより,募集の規律と流通の安定を優先する。
50万株の市場売却は流通への影響が現実化した事情として考慮するが,無効原因を当然に治癒する根拠ではない。
 先行する取得も上記の採用説では有効なので,甲社が処分対象の株式を取得していなかったとの問題も生じない。
本件処分は有効と解する。

第3 設問③
1 462条の責任
 取得に関する職務を行ったCは,原則としてBと連帯して25億円の支払義務を負う。
Cがその職務を行うについて注意を怠らなかったことを証明すれば免責される(462条1項・2項)。
 「当該行為に関する職務」を取得手続全体と読む余地はある。
しかし,同条は財源規制違反を発生要件として受領額を回復する特別の責任であるから,免責の注意も財源超過を回避するための財務情報の確認・計算に関する注意と解する。
手続違反を無視する趣旨ではなく,財源超過と異なる利益を保護する通知等の違反は,それによる会社の損害について423条で別に評価する。
 本件では帳簿上の剰余金35億円に対し交付は25億円であり,財源超過を生んだのは巧妙な粉飾である。
会計監査人でも見抜けず,内部統制にも問題がなく,Cに発見の過失がないことが示されている。
これは単に反対事実がないというのではなく,財源情報の誤りを合理的な調査で発見できなかったことを支える積極的な事情である。
上記の解釈の下では,これらをCが注意を怠らなかったことの証明として評価し,免責を認める。
証明の負担はCにあり,通知等についての過失までなかったとするものではない。

2 465条の責任
 平成23年3月31日に係る計算書類を取締役会が承認した時に欠損30億円がある。
取得に関する職務を行ったCには465条1項3号の責任が問題となり,その上限は,欠損額30億円と交付額25億円のうち少ない25億円である。
処分代金16億円を単純に控除して9億円とはしない。
 同項ただし書の注意は,取得時にキャッシュフローの状況,取得価格及び経営状況を踏まえ,会社財務への取得の負担を合理的に判断する注意と解する。
期末の欠損を対象としつつ,取得行為に関する職務を問い,交付額を限度に填補させる条文の構造を根拠とする。
取得時の分配可能額の確認を中心とする462条とは異なるが,経営全般の結果保証や,問題文にない特定の調査・収益予測の義務を課すものではない。
 本件では取得前から事業環境への対応が遅れ経営に陰りがあり,25億円を先に支出し予定の処分で16億円を得ても9億円の資金負担を伴う。
これは慎重な取得判断を求める事情である。
他方,資本提携による立て直しを目的とし,資料①には「キャッシュフローの状況及び取得価格等を総合的に検討」した旨が記載され,Cは取得価格の算定方法・理由を丁寧に説明した。
参考書類の一般的な記載だけで全ての注意が証明されるわけではないが,価格の説明と併せ,取得の負担を検討したことを支える資料として評価する。
 粉飾は会計監査人でも見抜けず,内部統制に問題がなくCの発見の無過失も明示され,その後の急激な業績悪化により欠損が生じた。
急激な悪化だけで予見不能とはせず,経営の陰りと9億円の負担からなお証明不足とする評価もあり得る。
しかし本問では,再建の目的,キャッシュフロー・価格の検討の記載,価格の理由の説明及び粉飾を発見できなかった無過失という積極的な事情を総合して,当該取得に関する合理的な注意は尽くしたと評価する。
これをCの免責の証明として認め,465条の支払義務も免れると解する。

3 423条の責任
 取得・処分が有効でも,通知・Bの議決権行使の禁止を守らずに取得を実行し,処分時の価格の質問にも正当に説明しなかった任務懈怠は別に評価する。
Cの帰責性,甲社に生じた損害と因果関係を要し,他の株主個人の売主追加の機会の喪失とは区別する。
 市場価格相当額による取得額20億円との割増分5億円,処分価格との差4億円は損害の検討材料だが,当然に9億円の会社の損害となるものではない。
適法な手続なら相場で取引できたか,取引自体を避けられたかが問題であり,その可能性を新たな事実として仮定しない。
Bの納税資金の需要だけで割増を会社の利益とはいえない一方,提携の利益や取引実現の必要性も考慮する。
 適法な手続なら不要だった支出・失われなかった対価として,因果関係の認められる範囲で賠償させる。
経営判断というだけで手続違反を免責せず,価格差だけで損害額を確定することもしない。
Bの法定の支払等により同一の損失が実際に回復した部分は残存損害に反映するが,法定債権の発生だけを回復と扱い,未払の25億円を損害額から当然に控除することはできない。
以上

3 出題の趣旨・採点実感を踏まえた解説

(1) 答案と評価項目の対応

答案第1の1は第4の番号1~3・5・6・8~10,第1の2は番号4・7・11・12・19,第1の3は番号13・14・16に対応する。
答案第2の1は番号20~22,第2の2は番号23~27,第3の1は番号28・29,第3の2は番号30~32,第3の3は番号33~36に対応する。
重み3以下で条件の付かない番号1・2・6・19・20・23も,各設問の論述に対応する。
番号15・17・18・27は取得を無効とする構成でだけ評価する項目であり,本答案は取得を有効とするので適用外である。
第4の重み5・4の項目及び条件付きの項目について,模範解答との対応を次の表に示す。

番号重み評価項目答案の該当箇所・留保
34売主追加請求の通知(160条2項)の欠缺を自己株式の取得に関する手続違反と捉え,株主総会の招集手続の瑕疵にとどめない答案第1の1。招集手続の瑕疵ではないことを明示。
45通知の欠缺と本件自己株式取得の効力との関係を理由付きで論じる答案第1の2。保護対象と救済手段から有効とする。
54Bが特定の株主として議決権を行使できないこと(160条4項)を指摘し,特別利害関係人の議決権行使(831条1項3号)の問題として論じない答案第1の1。
74採った見解に応じて,株主総会決議取消しの訴えの要否と取得の効力との関係を導く答案第1の1・2。取消しの訴えの必要と,取消事由のある決議と取得の効力の区別。
82決議取消しの訴えを出訴期間内に提起していないという,問題文にない前提を設けない【適用条件:決議の方法の法令違反と見る構成を採用】答案第1の1。期間の徒過を仮定しない。
95正しい貸借対照表(資料③)から分配可能額を5億円と算出する答案第1の1。
10425億円の取得が461条1項3号の財源規制に違反することを示す(同項2号を根拠としない)答案第1の1。超過額20億円も示す。
115財源規制違反と取得の効力との関係について,無効説・有効説のいずれかを理由付きで採る答案第1の2。無効説の理由を示した上で有効説を採る。
125三つの瑕疵ごとの検討を踏まえ,取得全体の効力を論理的に一貫させる(財源規制違反の有効説だけを理由に他の瑕疵を処理しない)答案第1の2。瑕疵ごとの理由を分けて結論をそろえる。
135取得の効力にかかわらず,Bが462条1項により受領した25億円全額の支払義務を負うことを示す答案第1の3。
144取得の効力に対応して,本件株式の帰属とBの株主の地位を確定する答案第1の3。
154甲社とBとの間の不当利得返還関係を根拠とともに示す【適用条件:取得を無効とする構成を採る場合のみ】本答案では採らない(取得を有効とする)。適用外であり,欠落として減点しない。
165甲社の乙社への処分と乙社の市場売却を踏まえ,Bが主張する同時履行の抗弁権を検討する答案第1の3。返還請求権がないため抗弁を否定。
173無効を主張できるのが甲社に限られるかを検討する【適用条件:取得を無効とする構成を採る場合のみ】本答案では採らない(取得を有効とする)。適用外である。
184Bが善意又は善意・無重過失であっても甲社が無効を主張できるかを検討する【適用条件:取得を無効とする構成を採る場合のみ】本答案では採らない(取得を有効とする)。適用外である。
214Dの質問に対する314条の説明義務違反の有無を,説明を拒める場合に当たるかに即して理由付きで検討する答案第2の1。199条3項の説明と区別。
224乙社の議決権行使により著しく不当な決議がされたか(831条1項3号)を,結論だけでなく理由を示して検討する答案第2の1。
244説明義務違反による決議取消事由が自己株式処分の無効原因となるかを論じる答案第2の2。
254特別利害関係人の議決権行使による決議取消事由が自己株式処分の無効原因となるかを論じる答案第2の2。
264特別決議を欠く有利発行を有効とした昭和46年の最高裁判決の考え方と本件処分との関係を論じる答案第2の2。判例の書誌は答案に付けない。
275有効に取得されていない自己株式を処分したことが無効原因となるかを論理的に検討する【適用条件:取得を無効とする構成を採る場合のみ】本答案では採らない(取得を有効とする)。答案第2の2でその帰結を示す。
285本件自己株式取得に関する職務を行ったCの462条1項の責任を示す答案第3の1。
294Cが職務を行うについて注意を怠らなかったか(462条2項)を,粉飾の発見可能性等の事実に即して検討する答案第3の1。
305462条とは別に,Cの465条1項3号の欠損塡補責任を示す答案第3の2。
314欠損塡補責任の額を,欠損額30億円と交付額25億円から具体的に示す答案第3の2。
324465条1項ただし書の注意を怠らなかったかを,取得時の判断と期末の欠損に即して検討する答案第3の2。
334本件自己株式取得に関するCの任務懈怠(423条)を,設問①で検討した法令違反と整合させて分析する(法令違反を度外視して,差損に経営判断の原則を当てはめない)答案第3の3。
344本件自己株式処分に関するCの任務懈怠を,設問②で検討した説明義務違反等と整合させて分析する答案第3の3。
354取得による甲社の損害額と因果関係を,Bの支払義務等による回復と整合させて論じる答案第3の3。
364処分による甲社の損害額と因果関係を,資本提携の利益等の取引判断と整合させて論じる答案第3の3。

(2) 設問①前段

出題の趣旨は,市場価格を超えるため161条の特則がなく,公開会社であるため162条の特則もないのに売主追加請求の通知を怠ったこと,特定の株主Bが議決権を行使したことという二つの手続的瑕疵と,正しい貸借対照表による分配可能額5億円を超える財源規制違反を挙げ,それぞれと取得の効力との関係を論じた上で,全体として論理的に整合させることを求めている(PDF5頁~6頁)。
採点実感は,通知の欠缺を株主総会の招集手続の瑕疵として決議取消事由にとどめる答案,Bの議決権行使を特別利害関係人の問題として論じる答案,財源規制違反を検討しない答案や分配可能額・適用条項を誤る答案が多かったことを指摘している(PDF15頁)。
本答案は,各瑕疵を特定した上で(番号1~3・5・9・10),通知の欠缺,Bの議決権行使,財源規制違反のそれぞれについて取得の効力との関係を理由付けて論じている(番号4・6・7・11・12)。

Bの議決権行使の瑕疵については,決議の方法の法令違反と見る見解と自己の株式の取得に関する手続違反の一つと見る見解があり,採点実感はどちらを採っても理由が適切であれば同等に評価したとしている(PDF15頁)。
前者を採る場合には,問題文が触れていない出訴期間の徒過を前提にして決議取消しの訴えの検討を省かないよう注意を要する(番号8)。
財源規制違反の取得の効力についても,無効説と有効説のいずれを採っても理由が適切であれば同等に評価されている。
採点実感は,財源規制違反について有効説を採った上で,通知の欠缺やBの議決権行使があっても特に理由を述べずに有効とする答案を誤りとしている(PDF15頁~16頁)。
本答案が三つの瑕疵ごとに理由を分けているのは,この点に対応するためである。
分配可能額は,資料③の純資産40億円から資本金・資本準備金・利益準備金の合計35億円を差し引いたその他利益剰余金5億円であり,資料③に自己株式の計上はない。

(3) 設問①後段

出題の趣旨は,取得の効力についての結論にかかわらず462条の責任を記述すること,Bが受け取った金銭の扱いと株式の帰属をその根拠と併せて検討すること,甲社が株式を乙社に処分し乙社が一部を市場で売却していることを踏まえて同時履行の抗弁権を論ずることを求めている(PDF6頁)。
採点実感は,Bが25億円を支払う義務を負うことを理解していない答案や,支払義務の額を誤り又は具体的に示していない答案がかなり見られたとしている(PDF16頁)。
本答案は,取得を有効としてBが株主の地位を失うとした上で,Bが462条1項により交付を受けた25億円全額の支払義務を負い,株式の返還請求権がないので同時履行の抗弁も成り立たないとする(番号13・14・16)。

取得を無効とする答案では,Bの株式の帰属,甲社とBとの間の不当利得関係,両者の請求権の同時履行関係を論理的に整合させる必要がある(番号15・16)。
採点実感は,その場合に,無効を主張できるのが甲社だけか,Bが善意又は善意・無重過失であっても甲社が無効を主張できるか等,裁判例や学説で議論されてきた点に触れることを求めている(PDF16頁,番号17・18)。
本答案はこれらの構成を採らないため,番号15・17・18を欠落として扱わない。
また,採点実感は,甲社が取得した自己株式を後に処分したことだけを理由に取得を有効とする答案を挙げており(PDF16頁),本答案はこの事情を取得の効力の理由にしていない(番号19)。

(4) 設問②

出題の趣旨は,第2号議案の審議における314条の説明義務違反の有無と,乙社の議決権行使が831条1項3号に当たるかを検討し,それらが自己株式処分無効の訴え(828条1項3号)の無効原因となるかを論述すること,設問①との関連で処分の対象となった自己株式が有効に取得されたものといえないという瑕疵との関係も検討することを求めている(PDF6頁)。
採点実感は,資料①の記載から199条3項の説明義務は尽くされていることが示唆されており,主として314条の違反が論じられるべき事例であるとした上で,両者の区別を理解しない答案,理由なく著しく不当な決議との結論だけを述べる答案,自己株式の処分の無効は訴えによってしか主張できないことに触れない答案を指摘している(PDF16頁)。
本答案は,199条3項の必要性の説明と314条の説明義務を区別し,Dの質問は第2号議案の判断に関わる事項であるのに,企業秘密というだけで説明を拒んだことは説明を拒める場合に当たらないとした(番号20・21)。
同じ総会でのDの質問のうち,第1号議案での質問は取得価格,第2号議案での質問は処分価格の根拠に関するものであり,実質的に同一の事項の反復にも当たらない。

採点実感は,株主総会の特別決議を欠く新株の有利発行を有効とした最高裁昭和46年7月16日の判決の考え方との関係を論じた答案は更に少なかったとしている(PDF16頁)。
最高裁昭和46年7月16日判決(昭和46年(オ)第396号,集民103号407頁)は,株式会社の代表取締役が新株を発行した場合には,株主総会の特別決議を経ることなく株主以外の者に対して特に有利な発行価額で発行されたものであっても,その瑕疵は新株発行無効の原因とはならないとし,そのことは最高裁昭和40年10月8日判決(昭和39年(オ)第1062号,民集19巻7号1745頁)の趣旨に照らして明らかであるとした。
本答案は,この考え方を,199条が新株発行と自己株式の処分を同じ募集の規律に置いていることを理由に自己株式の処分に及ぼし,説明義務違反と著しく不当な決議という決議取消事由があっても処分は無効とならないとしている(番号22~26)。
もっとも,同判決は特別決議を経なかった新株発行についての判断であり,本件のように特別決議が成立したもののその決議に取消事由がある場合や,自己株式の処分の場合について直接判断したものではない。
採点実感は,処分の対象となった自己株式がそもそも有効に取得されたものではないという問題点との関係を論理的に記述した答案を高く評価したとしている(PDF16頁)。
本答案は取得を有効とするのでこの問題は生じないとしたが,取得を無効とする答案では,有効に取得されていない株式の処分の効力を論ずることが必要となる(番号27)。

(5) 設問③

出題の趣旨は,本件自己株式取得について462条(1項柱書又は1項2号)の責任と465条1項3号の欠損塡補責任を記述し,Cが「その職務を行うについて注意を怠らなかった」(462条2項,465条1項ただし書)かどうかを検討すること,さらに423条の任務懈怠責任について,設問①②との整合性を意識しながら何が任務懈怠に当たるかを分析し,損害額について論理的に記述することを求めている(PDF6頁)。
採点実感は,財源規制違反を見落として462条の責任を論じない答案,465条1項3号の責任を論じない答案や責任を負うべき金額まで正確に示さない答案が多く,法令違反を度外視して,高く取得して安く処分したことによる差損に経営判断の原則を当てはめる答案が散見されたとしている(PDF17頁)。
本答案は,462条の責任を25億円とし,免責の注意を財源超過の回避に関する注意と解して,粉飾を会計監査人でも見抜けず,Cに発見の過失がなかった事実から免責を認める(番号28・29)。
465条1項3号の責任は,欠損額30億円と,取得により株主に交付した金銭等の帳簿価額の総額25億円のうち少ない25億円を上限とし,取得時の判断の合理性から免責を認める(番号30~32)。

423条については,通知の欠缺,Bの議決権行使の禁止違反及び説明義務違反を任務懈怠の内容とし,市場価格を基準とした取得の割増分5億円と処分の差額4億円を損害の検討材料としつつ,因果関係の認められる範囲に損害を限っている(番号33~36)。
Cの免責の判断,特に465条の責任については,取得前から経営に陰りがあり9億円の資金負担を伴ったことを重く見て,注意を怠らなかったことの証明が足りないとする評価も成り立つ。
答案はその評価にも触れた上で一方の結論を採っており,結論の方向ではなく,問題文の事情に即した検討の有無が評価の対象である。

(6) 答案の弱点と扱わなかった事項

売主追加請求の通知の欠缺と財源規制違反のある取得を有効とする構成,462条2項の注意の対象を財源の確認に関する注意に限る解釈,自己株式の処分に昭和46年判決の考え方を及ぼす構成には,いずれも解釈上の検討の余地がある。
本記事は,これらについて判例の原文を示して論じたものではなく,答案は主要な構成を一貫させる一例として読むべきものである。
D以外の株主による決議取消しの訴えの提起の有無,乙社の市場売却の相手方の保護,株主個人の429条1項に基づく請求の詳細は,設問との分量関係から詳述していない。
その後の会社法改正の内容を当時の答案へ持ち込まず,採らなかった構成を選ばなかったことだけで減点もしない。

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法令の基準時を確かめる際は①,別年度の答案を探す際は②を参照されたい。
これらの記事を,本問の法理の一次資料に代えるものではない。

第7 出典及び確認状態

1 公式資料

①平成23年司法試験・民事系科目の問題PDF
②平成23年新司法試験論文式試験問題出題趣旨の掲載PDF
③平成23年新司法試験の採点実感等に関する意見(民事系科目第2問)の掲載PDF

問題はPDF6頁~9頁の第2問全体(資料①~③を含む)を確かめた。
出題の趣旨はPDF5頁の民事系第2問の見出しから6頁の第3問の直前まで,採点実感はPDF15頁~17頁の民事系第2問全体を読んだ。
採点実感は,出題の趣旨について特に補足すべき点はないとしている(PDF15頁)。
他問の本文を本記事の根拠にしていない。

2 法令

会社法は,日本法令外国語訳データベースシステム掲載の会社法(平成18年法律第109号による改正まで反映)の日英対訳PDFの日本語本文と,e-Gov法令検索で遡ることのできる最も古い平成29年4月1日施行の版とを対比した。
156条,157条,160条~162条,199条,314条,461条,463条及び465条は文言が一致し,423条と462条は「委員会設置会社」が「指名委員会等設置会社」に改められた点(423条は監査等委員会の承認に関する4項の追加を含む)を除いて一致した。
309条2項2号・5号,429条1項,828条1項3号及び831条1項1号・3号は,衆議院の制定時本文(平成17年法律第86号)と平成29年4月1日施行の版とで,答案が依拠する部分の文言が一致することを確認した。
平成23年の試験時はこれらの版の間にあるが,試験時の法令統合版そのものを確認したものではない。

会社法施行規則71条は,日本法令外国語訳データベースシステム掲載の会社法施行規則(平成21年法務省令第7号による改正まで反映)の日英対訳PDFの日本語本文と,e-Gov法令検索の平成28年3月1日施行の版及び現行版とで,1号~4号の文言が一致する。
平成21年12月11日の官報号外第260号43頁に掲載された平成21年法務省令第46号は,附則1条で公布の日から施行するとし,附則4条で会社法施行規則132条5項1号を改めたもので,71条は改めていない。
日本法令索引の会社法施行規則の改正沿革では,同号の次の改正は平成22年9月30日法務省令第33号である。
したがって,平成22年6月29日の定時株主総会には上記の71条の文言が適用される。

3 裁判例

最高裁昭和46年7月16日判決(昭和46年(オ)第396号,集民103号407頁)について,裁判所掲載の特別決議を経ない有利発行の効力に関する最高裁第二小法廷判決本文を全1頁確認した。
本文は,株主総会の特別決議を経ることなく株主以外の者に特に有利な発行価額で発行された新株であっても,その瑕疵は新株発行無効の原因とはならないとし,上告を棄却している。
本文のPDFには事件番号・裁判年月日が表示されていないため,これらと掲載誌は裁判所HPの裁判例検索の結果詳細で確認した。
最高裁昭和40年10月8日判決(昭和39年(オ)第1062号,民集19巻7号1745頁)は,昭和46年判決の本文が引用する先例であり,その書誌も裁判所HPの結果詳細で確認した。
答案には判例の書誌や「判例同旨」を付けず,判決本文の法理と理由だけを用いた。

4 確認状態

問題・出題の趣旨・採点実感は,前記の範囲で確かめた。
公式資料の記載と,本記事による評価単位化・重み付け・解釈・事実評価は区別した。
後者は独自の分析であり,公式の採点基準又は唯一の正解ではない。
法令の確認は第7の2に記した範囲に限られる。
売主追加請求の通知の欠缺のある取得の効力,462条2項・465条1項ただし書の注意の内容,自己株式の処分への昭和46年判決の考え方の適用については,本記事は学説や他の裁判例の原文を示していないので,学習に用いる際は当時の法令集・基本書等とも照合されたい。
試験後の法令改正を本問の答案要求に遡及させるものではない。