第1 この記事の対象と結論
平成27年司法試験の民事系科目第2問(商法)について,法務省の出題の趣旨・採点実感から評価事項を整理し,5000字以内の模範解答を示す。
本記事の答案,27項目への分け方及び重みは独自の分析であり,法務省の模範解答・公式配点ではない。
| 確認事項 | 内容 |
|---|---|
| 対象 | 平成27年司法試験・民事系第2問(商法),全3設問 |
| 設問比 | 問題文は設問1:設問2:設問3を4:4:2としている |
| 公式資料の範囲 | 問題のPDF6頁~10頁,出題の趣旨のPDF7頁~10頁(第2問部分),採点実感のPDF15頁~23頁 |
| 答案の基準時 | 平成27年司法試験の問題として,本問の事実当時の会社法を前提とする |
| 主要判例 | 最高裁平成24年4月24日第三小法廷判決(平成22年(受)第1212号,民集66巻6号2908頁) |
| 評価項目 | 27項目。重み5は12項目,表示上の重みの合計117 |
| 答案の分量 | 4186字(見出し・空白・改行・末尾「以上」を含む)。5000字以内 |
| 主な結論 | Bの競業・引抜き責任,両取引の無効,上場条件違反による株式発行の無効原因を認める構成 |
| 条件付き評価 | 立場に応じて適用する行を明示する。相互に代替する構成を一つの答案で全部書くことを求めるものではない |
| 確認日 | 令和8年10月31日 |
設問1は乙社のための競業取引と構成し,乙社の利益増加分800万円を推定損害の中心とする。
設問2は両売買を一体の事業譲渡と評価し,総会承認を欠くため両取引を無効とする。
設問3は上場条件の当初設定の委任を認める一方,発行後の上場条件の廃止を授権の範囲外とし,株式発行に無効原因があるとする。
第2 評価項目の示し方と重み付けの基準
1 評価項目の示し方
評価項目は公式資料の評価対象を,答案で判定できる単位に言い換えたものである。
表の番号は記事全体の通し番号とし,頁はリンク先PDFの頁で示す。
「間接」は出題の趣旨の一般的な記述から導いた項目を意味する。
各行の適用条件は当該行が必要となる立場を示し,立場の異なる行同士を同時に満たす必要はない。
2 5段階の重み付けの基準
重み5は結論を支える骨格,又は採点実感が答案評価の分かれ目として重視する接続である。
重み4は具体的な要件・事実・数値に基づく重要な検討,重み3は補完的な分岐又は全体の論理,重み2は対象の取違えを避ける確認,重み1は軽微な補助事項とする。
重みの合計を試験の100点へ換算したり,合格可能性に読み替えたりするものではない。
3 本問で補った点
競業の「誰のために」と損害推定の利益帰属先,重要性の実質判断と5分の1の形式基準,当初の条件設定と発行後の変更をそれぞれ分けた。
出題の趣旨・採点実感が認める別の構成は,本答案に欠けた必須論点とは扱わず,適用条件とともに示した。
条文・制度趣旨・積極消極の事実・法律効果を論理的な順序で接続するという一般的な指摘は,本問固有の27項目へ重ねて数えていない。
第3 本問の概要
1 問題文と事実関係
法務省の公式問題PDFの民事系第2問を対象とする。
甲社は全株式に譲渡制限のある取締役会設置会社で,乳製品と洋菓子の事業を営む。
洋菓子事業部門の業務執行を担当する取締役Bは,乙社の発行済株式の90%を取得し,顧問として乙社の洋菓子事業を指揮した。
甲社は関西地方への進出を企図して市場調査を委託し,委託料500万円を支払っていたが,乙社がQ商標を付したチョコレートの販路拡大に成功したことを知り,進出を断念した。
Bが洋菓子工場の工場長Eを乙社へ引き抜いたため,工場は操業停止を余儀なくされ,甲社は3日間受注ができず,1日当たり100万円相当の売上げを失った。
その後,甲社は洋菓子事業を丙社へ売る交渉をし,工場土地建物とP商標を二つの契約で売却した。
従業員・取引関係も実質的に丙社へ移るが,甲社の競業が禁止されない旨の特約がある。
譲渡資産簿価は2億5000万円,甲社の総資産は7億円である。
さらに,経営コンサルタントGに上場の成功報酬とする趣旨で新株予約権を発行し,取締役会が定めた上場条件を後に廃止して,Gの行使により1000株を発行した。
2 設問が求めること
設問1は事実1~8を前提とするBの甲社に対する会社法上の損害賠償責任,設問2は二取引の会社法上の効力,設問3は行使により発行された株式の効力を問う。
安値譲渡によるAの責任,吸収分割の無効又はGを取締役とした報酬規制へ問題を置き換えない。
第4 評価項目と重み
1 設問1(競業・引抜きと損害)
| 番号 | 評価項目の内容 | 重み | 出題の趣旨 | 採点実感 |
|---|---|---|---|---|
| 1 | 競業規制の趣旨・根拠を示し,株式取得や就任自体と個々の事業取引を区別する【適用:共通】 | 5 | 7頁・設問1前半 | 15頁・2⑵ア |
| 2 | 代表権のないBによる取引を,持株・日常指揮・報酬・商標等の関与から説明する【適用:共通】 | 5 | 7頁・事実上の主宰者性 | 15頁・2⑵ア |
| 3 | 名義説・計算説を意識して自己又は乙社のいずれのための取引かを理由付きで決める【適用:共通】 | 5 | 7頁・自己又は第三者 | 15頁~16頁・2⑵ア |
| 4 | 事業の部類を競争関係から解釈し,市場の相違と具体的な関西進出計画を評価する【適用:共通】 | 4 | 7頁~8頁・事業の部類 | 16頁・2⑵ア |
| 5 | A・Cへの説明と不異議につき,重要事実の開示と取締役会承認の要否を検討する【適用:共通】 | 4 | 8頁・手続的要件 | 16頁・2⑵ア |
| 6 | 無承認の競業について423条2項の利益による損害推定を適用する【適用:競業違反を認める場合】 | 5 | 8頁・推定損害 | 16頁・2⑵ア |
| 7 | 乙社の800万円,Bの720万円又は顧問料の候補を,採った利益帰属と整合させる【適用:競業違反を認める場合】 | 5 | 8頁・利益額と因果関係 | 16頁~18頁・2⑵ |
| 8 | 調査費500万円につき,既払であったことを踏まえ任務懈怠との因果関係を論じる【適用:共通】 | 4 | 8頁・現に生じた損害 | 16頁~17頁・2⑵ア |
| 9 | 競業規制違反を否定する場合も忠実義務等による423条1項責任を別に検討する【適用:競業規制違反を否定する場合】 | 3 | 8頁・仮に違反が成立しない場合 | 17頁・2⑵ア |
| 10 | Eの引抜き自体を洋菓子の競業取引と混同せず忠実義務等の問題に分ける【適用:共通】 | 4 | 8頁・引抜き | 17頁~18頁・2⑵ |
| 11 | 引抜きの任務懈怠を判断する規範と,担当者・目的・地位・操業停止を対応させる【適用:共通】 | 4 | 8頁・Eの地位とBの職責 | 17頁・2⑵ア |
| 12 | 引抜きによる休業損害300万円を具体的に検討し,損害推定を転用しない【適用:共通】 | 4 | 8頁・損害額の推定なし | 17頁~18頁・2⑵ |
2 設問2(二取引と事業譲渡)
| 番号 | 評価項目の内容 | 重み | 出題の趣旨 | 採点実感 |
|---|---|---|---|---|
| 13 | 別契約・別決議・別履行の形式と,交渉経緯・近接性・承継・潜脱意図を比較する【適用:共通】 | 5 | 8頁~9頁・二つの資産売買 | 18頁~19頁・2⑶ア |
| 14 | 事業譲渡の有機的一体性・活動承継・競業避止義務という要素と争点を整理する【適用:共通】 | 5 | 9頁・事業譲渡の意義 | 18頁~19頁・2⑶ア |
| 15 | 競業避止義務を排除する特約を,総会承認の制度趣旨から理由付きで評価する【適用:共通】 | 5 | 9頁・競業避止義務の排除 | 19頁・2⑶ア |
| 16 | 工場・主力商標・全従業員・取引先の実質承継を事業譲渡の要素に当てはめる【適用:共通】 | 4 | 8頁~9頁・財産と活動の承継 | 18頁~19頁・2⑶ア |
| 17 | 事業譲渡を認める場合,事業の重要性を質的・量的な比重から別に判断する【適用:事業譲渡を認める場合】 | 4 | 9頁・重要な一部 | 19頁~20頁・2⑶ |
| 18 | 事業譲渡を認める場合,簿価2.5億円と総資産7億円の5分の1を比較する【適用:事業譲渡を認める場合】 | 4 | 9頁・括弧書き・施行規則134条 | 19頁・2⑶ア |
| 19 | 総会承認欠缺の効力をS社等の保護と丙社の取引安全から論証し,両取引の結論を示す【適用:事業譲渡を認める場合】 | 5 | 9頁・欠缺の効力 | 19頁~20頁・2⑶ア |
| 20 | 事業譲渡を否定する場合,362条4項1号の重要性と各決議から効力を判断する【適用:事業譲渡を否定する場合】 | 4 | 9頁・仮に事業譲渡に該当しない場合 | 19頁~20頁・2⑶ア |
3 設問3(条件の設定・廃止と株式発行)
| 番号 | 評価項目の内容 | 重み | 出題の趣旨 | 採点実感 |
|---|---|---|---|---|
| 21 | Gを経営コンサルタントとして扱い,取締役報酬規制へ置き換えず検討する【適用:共通】 | 2 | 10頁・Gの成功報酬(間接) | 21頁・2⑷ア |
| 22 | 非公開会社の新株予約権内容の決定権限と238条・239条を出発点にする【適用:共通】 | 4 | 9頁~10頁・委任の可否 | 21頁・2⑷ア |
| 23 | 上場条件が募集新株予約権の内容に含まれるかを踏まえ,当初委任の可否を論証する【適用:共通】 | 5 | 10頁・二つの考え方 | 21頁・2⑷ア |
| 24 | 当初委任を認める場合,上場の成功報酬という授権趣旨と上場条件の実質的な廃止を区別して評価する【適用:当初委任を認める場合】 | 5 | 10頁・委任の趣旨 | 21頁・2⑷ア |
| 25 | 当初委任を否定する場合,予約権の発行瑕疵・1年経過と株式発行への影響を検討する【適用:当初委任を否定する場合】 | 4 | 10頁・予約権発行の瑕疵と出訴期間 | 21頁・2⑷ア |
| 26 | 当初委任を認め廃止を無効とする場合,条件の重要性・持株比率・差止め困難から株式発行を評価する【適用:当初委任を認め廃止を無効とする場合】 | 5 | 10頁・重要な内容と持株比率 | 21頁~22頁・2⑷ア |
| 27 | 選んだ構成から株式発行の効力の結論を示し,無効原因と無効の訴えを接続する【適用:共通】 | 4 | 10頁・株式の効力 | 22頁・2⑷ア |
4 重みの分布
| 重み | 項目数 | 重みの小計 |
|---|---|---|
| 5 | 12 | 60 |
| 4 | 13 | 52 |
| 3 | 1 | 3 |
| 2 | 1 | 2 |
| 1 | 0 | 0 |
| 合計 | 27 | 117 |
表には,採る立場によって必要になる分岐の行を含む。
例えば事業譲渡を肯定する番号17~19と,否定する番号20は代替関係にある。
当初委任を認める番号24・26と,否定する番号25も同時に必須とはならない。
本答案の構成について数える場合は,番号9・20・25を除く24項目,重み合計106となるが,これも公式の配点ではない。
全体では27項目,重み合計117である。
重み5の12項目は,番号1~3(競業規制の趣旨,取引の主体及び「自己又は第三者のために」),番号6・7(利益による損害の推定と利益帰属の整合),番号13~15・19(二取引の一体評価,事業譲渡の意義,競業避止義務を排除する特約及び総会承認欠缺の効力),番号23・24・26(当初委任,授権の趣旨と上場条件の廃止及び株式発行の評価)である。
第5 模範解答
1 答案の前提と表記
以下は出題の趣旨・採点実感を確認した上で作成した一つの答案例である。
法令名のない条文は会社法を指す。
本問の事実は平成22年~平成26年のものであり,平成27年司法試験の問題として論じ,後年の制度を答案の前提にしない。
答案の立場と別の立場で必要になる検討を区別して読む必要がある。
2 答案
第1 設問1
1 Bは甲社の取締役として任務を怠り甲社に損害を生じさせたときは,会社法423条1項の賠償責任を負う。
以下,競業取引と工場長引抜きを分けて検討する。
2 競業取引
(1) 356条1項1号・365条1項は,取締役が自己又は第三者のために会社の事業の部類に属する取引をするには,取締役会で重要事実を開示して承認を得ることを要求する。
利益衝突により会社の取引機会や利益が犠牲になることを防ぐためである。
ここで取引とは個々の事業取引であり,株式取得や顧問就任自体ではない。
Bは乙社の代表取締役ではなく,取引名義も乙社である。
しかし乙社の発行済株式の90%を保有し,連日乙社の洋菓子事業の陣頭指揮を執り,月100万円の顧問料を受け,Q商標の使用権の取得や工場長の引抜きに関与した。
肩書にかかわらず乙社の事実上の主宰者として洋菓子の販売等を行ったと評価できる。
「自己又は第三者のために」は利益衝突を取引の外形から明確に判断するため名義を基準と解する。
乙社名義の取引なので第三者である乙社のための取引である。
計算を基準と解しても,乙社を単にB個人と同一視せず,乙社に損益が帰属することを踏まえる必要がある。
「事業の部類に属する取引」は会社と競争し,その利益を害するおそれのある取引をいう。
両社は洋菓子製造販売を営み,著名商標のチョコレートをデパートに販売する。
首都圏と関西地方で現時点の市場は異なるが,甲社は委託料500万円を支払って関西地方の市場調査を委託しており,進出の企図は具体的である。
したがって潜在的競争があり,乙社の販売等はこれに当たる。
(2) BはA・Cに株式90%取得と乙社の事業への関与を告げ,両名は異議を述べていない。
しかし,会社が利益衝突を判断できるようにするには,具体的な競業の種類・範囲等を開示する必要がある。
この発言だけでは甲社の事業機会への影響を判断できず,将来の個々の競業を包括的に承認したとはいえない。
B自身は特別利害関係取締役として議決に加われない(369条2項)。
有効な承認があるとは認め難く,競業規制違反による任務懈怠がある。
(3) 423条2項により,当該取引で得た利益を甲社の損害と推定する。
本答案は第三者である乙社のための取引としたので,乙社の利益を基準にする。
平成22事業年度の営業利益1000万円から前事業年度の200万円を控除した増加分800万円は,Q商標による販売の成功等から本件競業に因果的に結び付く利益と評価でき,同額を推定損害とする。
従前の利益を当然に全部算入せず,甲社の損害がこれより少ない等の反証も許される。
Bの顧問料は月100万円で,平成22事業年度の12か月なら1200万円である。
しかし本答案の利益帰属の立場から,これを乙社利益と並べて同項の推定額に加算できない。
自己のための取引と構成する場合に初めて,800万円×90%=720万円や月100万円の顧問料がB自身の競業利益かを別途吟味することになる。
甲社が顧問料相当額を失ったとの事実もないから,その金額を423条1項の実損として当然に認めることもできない。
(4) 調査委託料500万円は別の実損として検討する。
ただしBの競業行為がなくても既に支出されていた費用であり,支出自体をBが生じさせたとはいえない。
競業により調査成果が無価値となったことや甲社の進出利益が失われたことを具体的に立証できれば相当因果関係のある損害を請求し得るが,進出断念だけから500万円全額の追加賠償を当然には認めない。
推定損害と同じ事業機会の喪失を評価する部分は重複填補しない。
なお競業が承認され,又は356条違反が否定されても,忠実義務・善管注意義務は残る(355条,330条,民法644条)。
甲社の洋菓子事業部門担当者が甲社の具体的な進出機会を犠牲にして乙社の事業を主導した点について,別途423条1項による責任を検討すべきである。
この場合,423条2項の推定は使えない。
3 工場長Eの引抜き
引抜き自体は洋菓子販売等の競業取引ではない。
もっとも,従業員の転職の自由を前提としても,担当取締役が自己の支配する競争会社にノウハウを取り込む目的で重要な従業員を突然退職させ,会社の業務を重大に妨げる勧誘は忠実義務に反する。
Bは甲社の洋菓子事業部門の利益を守る立場にありながら,工場長Eを乙社に引き抜き,甲社の工場を操業停止に至らせ,3日間受注できなくさせたから任務懈怠が認められる。
甲社は操業停止と相当因果関係のある休業損害を423条1項により請求できる。
失った売上げは100万円×3日=300万円であり,これを基礎に節約された原価等を考慮して実際の逸失利益を認定する。
423条2項の推定を転用せず,競業損害との重複も除く。
第2 設問2
1 事業譲渡か
467条1項2号の事業の重要な一部の譲渡には総会特別決議を要する(309条2項11号)。
事業基盤の大きな変更に株主の判断を及ぼす趣旨である。
有機的一体として機能する財産の移転に加え,事業活動の承継,譲渡会社の競業避止義務の負担を挙げる考え方がある。
後二者の要否には争いがあるが,本答案は活動承継を要し,競業避止義務の発生を不可欠とは解さない。
21条1項が別段の意思表示を認める以上,競業避止義務は通常の効果であり,その排除だけで承認規制を免れさせるべきではないからである。
両取引には別々の契約・取締役会決議・履行がある。
しかし甲社と丙社は当初から洋菓子事業全体を2億5000万円で譲渡する交渉をし,土地建物1億5000万円とP商標1億円の売却は10日違いで行われた。
従業員全員と取引関係も実質的に丙社へ移り,S社の反対を避けて総会承認を潜脱する意図もうかがわれる。
一連の処分として評価すべきである。
工場と主力P商標は洋菓子事業の物的・無形の中核であり,従業員・取引先関係と結び付いた有機的一体の財産である。
雇用契約や取引関係を一旦清算して再契約する形式でも,丙社が従前の事業活動を受け継ぐ実質がある。
甲社の将来の再開可能性と競業避止義務を負わない合意は,この承継を否定しない。
よって全体として事業譲渡に当たる。
2 重要性と小規模除外
重要性は会社の事業に占める質的・量的な比重から判断する。
洋菓子は乳製品と並ぶ二大部門の一つで,その工場・主力ブランド・従業員・取引関係を一括して失う点で質的に重大である。
譲渡資産簿価も2億5000万円で総資産7億円の約35.7%を占め,量的にも重要な一部に当たる。
さらに467条1項2号括弧書きの小規模除外を別に検討する。
譲渡資産簿価は土地1億円+建物5000万円+商標1億円=2億5000万円であり,総資産7億円の5分の1である1億4000万円を超える。
除外されない。
純資産5億円,売買代金,又は第2取引だけの1億円を基準にすることはできない。
3 効力
総会承認を欠く事業譲渡について,善意無過失の譲受人を保護する相対的無効説も考えられる。
しかし株主等の利害関係人を保護する法定手続であり,相手方の認識だけでその保護を失わせるべきでない。
本件でもS社は甲社を重要な取引先とする株主で,事業喪失の影響を受けるのに審議の機会を奪われた。
他方,丙社は事業全体の譲受けを交渉した当事者として総会承認を確認できる立場にあり,取引安全を理由に一律に優先すべきでない。
丙社の悪意を事実として認定せずとも,承認欠缺による無効を認めるべきである。
S社の同意はなく,全員一致の取締役会決議だけでは代替できない。
両取引は一体としていずれも無効で,代金支払や移転登録もこれを治癒しない。
時価3億円との差額自体を無効原因とするものではない。
仮に競業避止義務を不可欠と解して事業譲渡を否定する立場なら,362条4項1号の重要な財産の処分を検討する。
工場土地建物1億5000万円,主力商標1億円はいずれも金額・総資産との比率・事業上の保有目的から重要である。
その立場では各取締役会決議を経ているので,手続上は両取引とも有効となる。
第3 設問3
1 当初の委任
非公開会社である甲社では募集新株予約権の内容は総会特別決議で定め,内容自体を取締役会に白紙委任できない(238条1項1号・2項,239条1項1号,309条2項6号)。
もっとも,上場条件を236条1項列挙事項と異なる任意の行使条件と捉え,内容の具体化を委任できると解する。
株主意思に沿った設定を認める限り,潜脱を防ぎながら機動的な条件設定を可能にできるからである。
本件ではA・S社の7万株,全8万株の87.5%の賛成による決議があり,上場の成功報酬とする趣旨に沿う上場条件の当初設定は有効である。
2 事後廃止と株式発行
しかし当初の設定委任は,明示の変更委任がない限り,発行後の実質的変更まで許すものではなく,発行後の変更は細目的変更を除き許されない。
総会が判断した発行目的を取締役会だけで覆せば,株主意思を潜脱するからである。
Gの助言による業績向上は上場の成功ではなく,上場条件の廃止は成功報酬を無条件の報酬へ変える核心的変更である。
変更への明示の授権はなく,廃止決議は無効で,Gとの合意も欠けた権限を補えない。
総会の上場目的に沿って具体化された上場条件は総会が付した条件と評価できる。
非公開会社では持株比率維持の利益が重要であり,この条件に反した行使を認めれば,総会特別決議を欠く第三者割当てと同様に株主意思に反して比率を変える。
株主は条件違反の行使を知り難く差止めも困難である。
したがって500万円の払込みがあっても,未成就の条件に反する行使による1000株の発行には無効原因がある。
株主B・S社等は甲社を被告として効力発生日から1年以内に株式発行無効の訴えで争う(828条1項2号・2項2号,834条2号)。
直ちに当然無効と扱うのでなく,認容判決確定により将来に向かって失効する(838条,839条)。
以上
3 出題の趣旨・採点実感を踏まえた解説
(1) 答案と評価項目の対応
答案第1は番号1~12,答案第2は番号13~20,答案第3は番号21~27に対応する。
重み5の中心項目は,番号1~3を答案第1の2(1),番号6・7を答案第1の2(3),番号13~15を答案第2の1,番号19を答案第2の3,番号23を答案第3の1,番号24・26を答案第3の2で扱っている。
第4の重み5・4の項目及び条件付きの項目について,模範解答との対応を次の表に示す。
便宜上,重み2の共通項目も同じ表に含めた。
答案を補足する説明と,採っていない立場の説明を区別する。
| 番号 | 重み | 評価項目の内容 | 答案の記載又は分岐の説明 |
|---|---|---|---|
| 1 | 5 | 競業規制の趣旨・根拠を示し,株式取得や就任自体と個々の事業取引を区別する【適用:共通】 | 答案第1の1・2(1)で,規制の根拠と個々の販売等を特定する。 |
| 2 | 5 | 代表権のないBによる取引を,持株・日常指揮・報酬・商標等の関与から説明する【適用:共通】 | 答案第1の2(1)で,Bの代表権不存在を含む各事情を評価する。 |
| 3 | 5 | 名義説・計算説を意識して自己又は乙社のいずれのための取引かを理由付きで決める【適用:共通】 | 答案第1の2(1)で名義を基準に乙社のための取引とし,計算による見方も区別する。 |
| 4 | 4 | 事業の部類を競争関係から解釈し,市場の相違と具体的な関西進出計画を評価する【適用:共通】 | 答案第1の2(1)で現実の市場相違と潜在的競争を対置する。 |
| 5 | 4 | A・Cへの説明と不異議につき,重要事実の開示と取締役会承認の要否を検討する【適用:共通】 | 答案第1の2(2)で開示不足と承認欠缺を論ずる。 |
| 6 | 5 | 無承認の競業について423条2項の利益による損害推定を適用する【適用:競業違反を認める場合】 | 答案第1の2(3)で適用する。競業違反を否定する構成には転用しない。 |
| 7 | 5 | 乙社の800万円,Bの720万円又は顧問料の候補を,採った利益帰属と整合させる【適用:競業違反を認める場合】 | 答案第1の2(3)で乙社の800万円を選び,Bの利益候補を同時加算しない。 |
| 8 | 4 | 調査費500万円につき,既払であったことを踏まえ任務懈怠との因果関係を論じる【適用:共通】 | 答案第1の2(4)で既払と無価値化を分け,追加賠償を当然とはしない。 |
| 9 | 3 | 競業規制違反を否定する場合も忠実義務等による423条1項責任を別に検討する【適用:競業規制違反を否定する場合】 | 答案第1の2(4)末尾に反対構成の検討を置く。本答案の推定損害に重ねて求める要件ではない。 |
| 10 | 4 | Eの引抜き自体を洋菓子の競業取引と混同せず忠実義務等の問題に分ける【適用:共通】 | 答案第1の3冒頭で明示的に区別する。 |
| 11 | 4 | 引抜きの任務懈怠を判断する規範と,担当者・目的・地位・操業停止を対応させる【適用:共通】 | 答案第1の3で転職の自由を前提に判断基準を示し,Bの職責等へ当てはめる。 |
| 12 | 4 | 引抜きによる休業損害300万円を具体的に検討し,損害推定を転用しない【適用:共通】 | 答案第1の3で売上げ300万円を基礎に実損を検討する。採点実感の休業損害という整理を,純利益の確定額とまでは扱わない。 |
| 13 | 5 | 別契約・別決議・別履行の形式と,交渉経緯・近接性・承継・潜脱意図を比較する【適用:共通】 | 答案第2の1で別契約・別決議・別履行を認めた上で,一体評価の理由を挙げる。 |
| 14 | 5 | 事業譲渡の有機的一体性・活動承継・競業避止義務という要素と争点を整理する【適用:共通】 | 答案第2の1で三要素と争点を示し,採用する要素を明確にする。 |
| 15 | 5 | 競業避止義務を排除する特約を,総会承認の制度趣旨から理由付きで評価する【適用:共通】 | 答案第2の1で21条と承認規制の趣旨を結び付け,特約で事業譲渡性を失わせない。 |
| 16 | 4 | 工場・主力商標・全従業員・取引先の実質承継を事業譲渡の要素に当てはめる【適用:共通】 | 答案第2の1で物的・無形財産と人的・取引関係の結合を論ずる。 |
| 17 | 4 | 事業譲渡を認める場合,事業の重要性を質的・量的な比重から別に判断する【適用:事業譲渡を認める場合】 | 答案第2の2で二大部門の一方喪失と総資産比率を評価する。事業譲渡を認める立場で適用する。 |
| 18 | 4 | 事業譲渡を認める場合,簿価2.5億円と総資産7億円の5分の1を比較する【適用:事業譲渡を認める場合】 | 答案第2の2で小規模除外を重要性の判断後に別に検算する。 |
| 19 | 5 | 総会承認欠缺の効力をS社等の保護と丙社の取引安全から論証し,両取引の結論を示す【適用:事業譲渡を認める場合】 | 答案第2の3でS社と丙社の保護を対置し,丙社の悪意を仮定せず両取引無効とする。 |
| 20 | 4 | 事業譲渡を否定する場合,362条4項1号の重要性と各決議から効力を判断する【適用:事業譲渡を否定する場合】 | 答案第2の3末尾に別の立場を示す。事業譲渡を否定するなら各取締役会決議から手続上の有効を導く。 |
| 21 | 2 | Gを経営コンサルタントとして扱い,取締役報酬規制へ置き換えず検討する【適用:共通】 | 答案第3の1・2でGへの上場の成功報酬を新株予約権の規律として扱う。 |
| 22 | 4 | 非公開会社の新株予約権内容の決定権限と238条・239条を出発点にする【適用:共通】 | 答案第3の1で非公開会社の決定権限を出発点にする。 |
| 23 | 5 | 上場条件が募集新株予約権の内容に含まれるかを踏まえ,当初委任の可否を論証する【適用:共通】 | 答案第3の1で任意条件の具体化を委任できる立場と理由を示す。 |
| 24 | 5 | 当初委任を認める場合,上場の成功報酬という授権趣旨と上場条件の実質的な廃止を区別して評価する【適用:当初委任を認める場合】 | 答案第3の2で明示変更委任・細目的変更の留保と,成功報酬の核心的変更を評価する。 |
| 25 | 4 | 当初委任を否定する場合,予約権の発行瑕疵・1年経過と株式発行への影響を検討する【適用:当初委任を否定する場合】 | 本答案は当初委任を認めるため採用しない。否定説なら,予約権発行の無効原因を検討し,平成25年7月の発行から1年経過した点と,後の株式発行を別に論ずる。 |
| 26 | 5 | 当初委任を認め廃止を無効とする場合,条件の重要性・持株比率・差止め困難から株式発行を評価する【適用:当初委任を認め廃止を無効とする場合】 | 答案第3の2で条件の重要性,持株比率と差止めの難しさから重大性を論証する。 |
| 27 | 4 | 選んだ構成から株式発行の効力の結論を示し,無効原因と無効の訴えを接続する【適用:共通】 | 答案第3の2末尾で無効原因と,1年以内に甲社を被告とする無効の訴えを接続する。 |
(2) 設問1の構成と損害の整合
出題の趣旨・採点実感は,Bに代表権がないことを踏まえた取引主体の評価と,「自己のために」か「第三者のために」かを決める段階を区別している(番号2・3)。
株式90%の保有だけで,乙社とBを同一視することはできない。
本答案は乙社のための取引としたため,推定損害を乙社の利益に結び付ける。
Bの顧問料や持株割合による720万円を,理由なく乙社の800万円と併算しないことが中心である(番号7)。
調査費は競業がなくても先に支出されている。
その支出と,調査成果を無価値にされたこと又は進出利益の喪失を区別して,因果関係と重複を検討する(番号8)。
また,採点実感は300万円を休業損害として検討することが相当であるとするが,問題文の数値は失われた売上げの額である。
答案では,売上げを利益の確定額とせず,節約原価等を踏まえる整理を補った(番号12)。
これは公式資料に記載のない補足である。
(3) 設問2の一体評価と二段階の重要性
別契約・別決議・別履行という形式を認めた上で,事業全体の交渉,10日の近接性,従業員・取引先の承継及びS社の反対を避けた経緯を比較する必要がある(番号13)。
単に「実質的に一つ」と述べるだけでは,形式との比較が抜ける。
事業譲渡の意義については,競業避止義務を排除する特約が争点となる(番号14・15)。
本答案はその負担を不可欠としない立場を採る。
この後に,質的・量的な重要性と,簿価2.5億円が総資産7億円の5分の1を超えることを別々に判断する(番号17・18)。
5分の1超という計算だけで重要性の理由付けを終えない。
承認欠缺の効力も,S社の保護と丙社の取引安全を比べて論証する(番号19)。
丙社が悪意であったと問題文にない事実を足す必要はない。
事業譲渡を否定する立場なら,重要な財産の処分として各取締役会決議の存在を評価する(番号20)。
(4) 設問3の三段階と判旨の射程
当初の委任の可否,発行後の廃止の可否,株式発行の無効原因という三段階を混同しないことが重要である。
本答案は任意の行使条件の具体化を委任できると解するが,その立場を採っても上場条件の廃止が当然に許されるわけではない。
上場の成功報酬を無条件の報酬へ変える点で,細目的変更ではないと論証する(番号24)。
最高裁平成24年4月24日第三小法廷判決(平成22年(受)第1212号,民集66巻6号2908頁)の法廷意見は,旧商法下で発行された新株予約権について,行使条件の定めの委任は許容されるとする一方,別途明示の委任がない限り,発行後に取締役会決議で行使条件を変更することは細目的な変更にとどまる場合を除き許されないとした。
さらに,非公開会社が株主割当て以外の方法により発行した新株予約権に株主総会によって付された行使条件が,その新株予約権の重要な内容を構成しているときは,これに反した行使による株式の発行には無効原因があるとした。
寺田逸郎裁判官の補足意見は,会社法の下では行使条件のうち少なくともその実質的内容に当たるものは取締役会に委任できないとする考え方を示し,大谷剛彦裁判官が同調している。
法廷意見が会社法下での当初委任を一般的に認めたと読み替えない。
出題の趣旨は,委任の可否についていずれの考え方によるかを明らかにし,論理的に整合した論述をすることを求めており,本答案は肯定説を独自に理由付けしたものである。
否定説なら,新株予約権自体の発行手続の瑕疵と,その無効の訴えの1年が既に経過した点を検討し,後の株式発行への影響へ進む(番号25)。
肯定説では,総会の発行趣旨に沿う重要な条件への違反が,なぜ株式発行の重大な瑕疵となるのかを論証する。
持株比率維持と,株主が条件違反の行使を知って差し止めることの難しさがその理由になる(番号26)。
(5) 答案の弱点と省略した事項
本答案の800万円は,本件競業に利益増加が結び付くという事実評価を伴う。
他の原因による利益や,甲社の損害がより小さいことが認められれば,推定への反証が問題になる。
顧問料の受領期間全体,調査成果の残存価値,節約原価等を問題文以上に確定していない。
当初委任を否定する立場の詳細な無効原因論は,採用説の必須要件ではないため,解説で分岐を示すにとどめた。
また,Aの損害賠償責任,株式買取請求の手続全体,株式発行無効判決後の払戻しなどは,設問の直接の射程と分量を考えて詳述していない。
採点実感からは,特定の結論の暗記ではなく,選んだ構成に即した規範,事実及び効果の接続が評価されていることがうかがわれる。
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①平成27年司法試験・憲法(公法系第1問)の模範解答と評価項目28個(AI作成)
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3 本問の論点に関連する山中弁護士ブログの記事
事業譲渡で必要となる社内手続―株主総会・取締役会の承認,省略の条件及び株主通知(AI作成)は,事業譲渡の社内手続を確認するための関連記事である。
本問の答案と,実際の取引で現行法を確認する場面とは区別する。
第7 出典及び確認状態
1 公式資料
平成27年司法試験の問題(民事系)はPDF6頁~10頁の第2問部分を確認した。
出題の趣旨はPDF7頁の第2問開始から10頁の第3問開始直前までを確認した。
採点実感(民事系)はPDF15頁~23頁の第2問部分を,冒頭の採点方針及び末尾の教育上の指摘を含めて確認した。
2 法令
会社法の第一編~第四編は,法務省の日本法令外国語訳データベースの平成18年法律第109号版及び平成26年法律第90号版の日本語本文を参照した。
訴訟に関する828条・834条・838条・839条は,同データベースの平成24年法律第16号版の第五編~第八編で該当部分の日本語本文を確認した。
民法644条は,同データベースの平成18年法律第78号版の日本語PDFで確認した。
会社法施行規則134条1項は,出題の趣旨が示す形式基準として掲げたものであり,試験当時の条文の原文は確認できていない。
これらは対象の関係条文を参照したもので,全改正履歴を網羅した調査という意味ではない。
現在の会社法全文だけを過去の事実へ遡及適用する扱いはしていない。
3 裁判例
判決全文を確認したのは,最高裁平成24年4月24日第三小法廷判決(平成22年(受)第1212号,民集66巻6号2908頁)である(全13頁,寺田逸郎裁判官の補足意見を含む)。
事業譲渡の意義,承認を欠く場合の効力及び重要な財産の処分については,出題の趣旨が紹介する考え方を整理したものであり,そこで紹介された判決の原文は確認できていない。
4 確認状態
資料の確認日は令和8年10月31日である。
答案は公式資料を踏まえたAI作成例であり,公式答案又は唯一の正解ではない。
重み及び項目の区切りは本記事独自の整理で,別の構成を採る答案はその構成に沿って評価する必要がある。