第1 この記事の対象と結論
平成26年司法試験の民事系第2問(商法)について,法務省の出題趣旨と採点実感から33個の評価項目を抽出し,5段階で重み付けした。
項目と重みは本記事独自の学習用整理であり,法務省の公式採点基準・項目別配点・予測得点ではない。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 対象問題 | 平成26年司法試験・民事系科目第2問(商法) |
| 公式問題文 | 民事系科目の問題PDFの6頁~9頁 |
| 答案の基準時 | 平成26年5月の試験実施時。事例の評価時点は同年4月。 |
| 問題・出題趣旨・採点実感 | いずれも第2問の該当頁を確認した。頁の範囲は第7に記載。 |
| 主要事項 | 新株発行の不存在,表見代表と不実登記,多額借財・濫用,代表訴訟 |
| 評価項目 | 33項目,重み5は20項目,重みの総和は148。 |
| 主要判例 | 最高裁平成15年3月27日判決(不存在確認の出訴期間),最高裁平成21年4月17日判決(重要業務の決議欠缺),最高裁平成21年3月10日判決(取引債務と代表訴訟)。 |
| 答案分量 | 3690字(見出し・末尾「以上」を含み,改行を1字として計数)。5000字以内。 |
| 試験後の改正 | 最低取締役員数は当時331条4項。現行の項番号や民法107条をそのまま用いない。 |
| 年度別の案内 | 法務省・平成26年司法試験問題 |
| 確認日 | 令和8年11月1日 |
本答案は,新株発行の不存在を認め,現物出資の清算には840条を類推する立場を採る。
借入れについては資格の外観保護を認めても,個別の多額借財の決議欠缺とHの過失から契約効果の帰属を否定する。
D・Eの損害賠償は会社に残る実損の限度で検討し,土地の売買契約上の登記義務は代表訴訟で追及できると解する。
第4に評価表,第5に答案と設問別解説,第7に資料と確認の限界を置く。
第2 評価項目の示し方と重み付けの基準
1 評価項目の示し方
一項目につき一つの判定対象になるよう整理し,根拠となる公式資料の実頁と短い引用を示した。
出題趣旨のみ・採点実感のみの事項も残し,対象範囲を読んだ上で根拠のない側は「記載なし」とした。
「注意」は誤った論述を避けるための基準を表し,重みと別の序列ではない。
不存在の肯定・否定や,現物出資清算の法的構成は許容される分岐であり,相容れない結論を同時に要求しない。
2 5段階の重み付けの基準
| 重み | 判断基準 |
|---|---|
| 5 | その設問の判断を大きく分ける核心 |
| 4 | 結論を理由付きで支える主要な論証・当てはめ |
| 3 | 通常押さえる法的処理・事情の評価 |
| 2 | 論証を補強する説明・個別事情・誤りの注意 |
| 1 | 補充的な引用・記述範囲の確認 |
公式資料に何回現れるかだけで重みを決めていない。
役員資格という共通前提,発行の実体,異なる認識対象,責任と損害をつなぐ理由など,各設問の結論を分ける役割を重視した。
重み1・2の件数を埋めるために項目を増やしていない。
第3 本問の概要
1 問題文と事実関係
問題文は法務省の民事系科目PDFの第2問である。
甲社は取締役会・監査役を置く全株式譲渡制限会社である。
創業者Aは300株,子Cは50株,妻Dは100株,Dの子Eは50株を保有していた。
A・DはEの取締役・代表取締役就任を相談し,Aが登記したが,Cへの説明も必要な選任・選定決議も欠いていた。
DがEへの400株発行を計画し,Cは反対,Aは態度を保留した。
Eは全員賛成との虚偽議事録を作り,4000万円相当の賃貸建物を現物出資して発行登記をした。
建物は毎年100万円の収益が見込まれ,弁護士の価額証明と不動産鑑定士の評価もあった。
Eは妻Fの提案でHから2億円を年10%で借り,同率で乙社に貸したが,回収不能が確実となった。
Fは乙社取締役であり,Eはその地位を既に辞任していた。
Fから甲社が適正代金250万円で買い,引渡しを受けていた土地は未登記で,Fの全財産を相続したE名義に登記された。
2 設問が求めること
| 設問 | 立場・対象 | 指定・仮定・除外 | 到達点 |
|---|---|---|---|
| 1 | Cによる株式発行の効力の争い | 平成26年4月。発行は平成24年6月10日。 | 主張の当否と発行に係る法律関係まで。 |
| 2 | 効果帰属を肯定するHと否定する甲社 | 借入れの会社帰属。資格と個別行為の瑕疵を分ける。 | 双方の主張を区別し,各主張の当否を理由付きで示す。 |
| 3 | CからD・Eへの株主代表訴訟 | 会社のための請求。役員資格と契約債務の射程も検討。 | 各責任の根拠,損害・因果関係,登記義務の追及可否。 |
第4 評価項目と重み
1 全体の前提と設問1
| 番号 | 評価項目 | 重み | 出題の趣旨 | 採点実感 |
|---|---|---|---|---|
| 1 | 登記事項を含む事実を分析し,基礎知識から事例に即した論理的な結論を導く。 | 3 | 実頁6「事案に即して検討」 | 実頁25「事例解析能力,論理的思考力」 |
| 2 | Eの取締役選任決議と代表取締役選定決議の双方の欠缺を指摘し,登記だけで実体資格を認めない。 | 5 | 実頁6「取締役としての株主総会の選任決議を欠き」 | 実頁25「取締役としての株主総会の選任決議を欠き」 |
| 3 | 非公開会社の第三者割当発行に必要な株主総会特別決議を示し,C反対・A留保により全員賛成決議がないと判断する。 | 4 | 実頁6「株主総会の特別決議による必要」 | 実頁25「場合を除き」 |
| 4 | 非公開会社の新株発行無効の訴えの期間を1年とし,平成24年6月10日から平成26年4月には経過していると判断する。 | 5 | 実頁6「既に1年を経過」 | 実頁25「これを6か月間と誤って」 |
| 5 | 829条1号の不存在確認には期間制限がないことと,発行の実体の有無という解釈基準を示す。 | 5 | 実頁6「期間制限のない新株発行不存在確認」 | 実頁25「新株発行不存在確認の訴えの可否」 |
| 6 | Eの代表権欠缺と募集事項決議の重大な瑕疵を,発行の実体を否定する具体的要素として評価する。 | 5 | 実頁6「代表権のないEによって行われた」 | 実頁25「新株発行の実体を否定する要素」 |
| 7 | 現物出資・発行登記,AのE代表行動の承認・登記申請・副社長外観を,発行の実体を肯定する側の事情としても検討する。 | 5 | 実頁6「現物出資財産の給付がされ,登記が完了」 | 実頁25「これを肯定する要素」 |
| 8 | 【注意】不存在の肯否は結論自体を固定せず,相反事情を踏まえた適切な理由で評価する。 | 3 | 記載なし | 実頁25「どのような結論を採っても」 |
| 9 | 【適用条件:不存在肯定】不存在認容判決には839条の無効判決と異なり遡及効を否定する規定がないことを出発点に,出資の原状回復を論じる。 | 4 | 実頁6「遡及効を否定する規定がない」 | 実頁25「判決が確定した場合の法律関係」 |
| 10 | 【適用条件:不存在肯定】収益を生む現物不動産につき,840条類推による回復制限と民法703条・189条等による清算のいずれを採るかを,制度の理由と事実に即して説明する。 | 5 | 実頁6「第840条を類推」/実頁7「不当利得についての規律」 | 記載なし |
| 11 | 【適用条件:不存在否定】不存在を否定する場合は,Cの持株比率低下とA合算でも過半数を失う影響を踏まえ,429条1項又は不法行為による損害賠償を検討する。 | 4 | 実頁7「会社法第429条第1項又は不法行為」 | 記載なし |
2 設問2
| 番号 | 評価項目 | 重み | 出題の趣旨 | 採点実感 |
|---|---|---|---|---|
| 12 | 借入帰属についてHの実体代表権の主張と甲社の選任手続欠缺の反論を対置し,その前提を評価する。 | 4 | 実頁7「代表権のあるEによる行為」 | 実頁25「Eに代表権がないことを主張し」 |
| 13 | 354条の直接適用ができない非取締役Eについて,外観保護の趣旨から類推の可否を論証する。 | 5 | 実頁7「同法第354条を直接適用することはできない」 | 実頁26「類推適用することの是非」 |
| 14 | A・Dによる副社長肩書の使用許諾と対外活動を,会社帰責性・代表外観の具体的事実に結び付ける。 | 4 | 実頁7「A及びDがEに「副社長」」 | 記載なし |
| 15 | 908条2項の不実登記について,実体代表者A自身の申請を会社による登記と評価できるかを事実に即して論証する。 | 5 | 実頁7「代表権のあるAが」 | 実頁25「故意に不実の事項を登記」 |
| 16 | 354条・908条2項の外観保護に対し,代表資格の瑕疵についてHの悪意・重過失があるかを判断する。 | 4 | 実頁7「瑕疵についてHに悪意又は重過失」 | 実頁26「悪意等の対象」 |
| 17 | 2億円の借入れを,年商・1株当たり純資産額から算出する純資産額等に照らして362条4項2号の多額借財と評価する。 | 5 | 実頁7「純資産の額」 | 実頁26「多額の借財」 |
| 18 | 多額借財の取締役会決議を欠く効果につき,内部的欠缺と相手方の悪意・過失による効力否定の関係を示す。 | 5 | 実頁7「取締役会の決議を経ておらず」 | 実頁25「取締役会の決議を経ておらず」 |
| 19 | Hが決議欠缺を知ったとは断定せず,曖昧な説明,資料要求と未交付,議事録等未確認から知り得たかを双方の立場で評価する。 | 5 | 実頁7「取締役会議事録等の確認」 | 実頁26「知り又は知ることができたか」 |
| 20 | 甲社の事業上の必要性でなくEの個人的思惑による乙社救済という代表権濫用を,試験時法の規範で検討する。 | 5 | 実頁7「Eの個人的な思惑」 | 実頁26「権限濫用行為に該当」 |
| 21 | 濫用目的についてのHの悪意・過失を,転貸目的を告げられていない反対事情と説明・資料の不自然さから独立に評価する。 | 5 | 実頁7「使途についての説明が曖昧」 | 実頁26「悪意等の対象」 |
| 22 | 【注意】資格の外観保護が認められても,決議欠缺又は濫用によって借入効果が帰属しない場合があるという段階関係を示す。 | 5 | 記載なし | 実頁26「上記①又は②の主張が認められるとしても」 |
| 23 | 【注意】Hと甲社の主張の概要を区別して示した上で当否を丁寧に評価し,主張の反復や一方だけの議論で終えない。 | 4 | 記載なし | 実頁26「その当否を丁寧に論ずる」 |
3 設問3
| 番号 | 評価項目 | 重み | 出題の趣旨 | 採点実感 |
|---|---|---|---|---|
| 24 | 【注意】非公開会社の株主代表訴訟では6か月の継続保有を原告資格に要求しない。 | 3 | 記載なし | 実頁26「株式の6か月間の継続保有」 |
| 25 | Eは実体上使用人だが代表活動の経緯から事実上の取締役に当たるかを判断し,423条1項の類推と代表訴訟による責任追及を論証する。 | 5 | 実頁8「事実上の取締役に該当」 | 実頁26「会社法第423条第1項の類推適用」 |
| 26 | 本件借入れの多額借財だけでなく,本件貸付けも重要財産処分として取締役会決議を要し,その欠缺を指摘する。 | 4 | 実頁8「多額の借財及び重要な財産の処分」 | 実頁26「多額の借財及び重要な財産の処分」 |
| 27 | 借入債務負担・貸付回収不能という具体的な会社損害と直接因果関係を持つEの任務懈怠を,リスクだけの同率転貸等から示す。 | 5 | 実頁8「具体的な損害と直接の因果関係」 | 実頁26「Eの任務懈怠の内容」 |
| 28 | EがFから相続した甲社への売買契約上の移転登記義務を,単なる物権的請求と区別して特定する。 | 4 | 実頁8「相続を原因として承継」 | 実頁26「EがFから相続した甲社に対する所有権移転登記義務」 |
| 29 | 代表訴訟の対象を取締役の地位に基づく責任に限るか,追及懈怠の懸念と取引債務を含む判例の理由から検討する。 | 5 | 実頁8「請求の懈怠のおそれ」 | 実頁27「詳しく論じた答案」 |
| 30 | 相続した登記義務にまで代表訴訟を及ぼすことが,会社の取引上の裁量的判断を不当に制約するとの反論を検討して結論を理由付ける。 | 5 | 実頁8「取引上の裁量的判断を制約」 | 記載なし |
| 31 | Eが有効就任せずA・Cだけでは試験時331条4項の最低員数を欠くため,任期満了Dが346条1項の権利義務取締役であると判断する。 | 5 | 実頁8「会社法第331条第4項」 | 実頁26「なお取締役としての権利義務」 |
| 32 | DがEから危険を告知されながら積極的な制止等をしなかった点につき,監視義務違反と損害・因果関係を具体的に論じる。 | 5 | 実頁8「積極的に違法な借入れ及び貸付けの実行を制止」 | 実頁26「Dの監視義務違反」 |
4 答案全体
| 番号 | 評価項目 | 重み | 出題の趣旨 | 採点実感 |
|---|---|---|---|---|
| 33 | 【注意】総合評価は主要論点,具体的当てはめ,相当な理由と論理的一貫性による。少数の論点欠落だけで優秀を排除せず,基礎知識と事実適用・論理力を両立する。 | 3 | 記載なし | 実頁27「主要な論点の一つや二つが欠けている程度」/実頁27「論理的思考力を養う教育」 |
5 重みの分布
全33項目の内訳は,重み5が20項目,重み4が9項目,重み3が4項目,重み2が0項目,重み1が0項目であり,重みの総和は148である。
これは項目の役割を示す合計で,試験の100点満点への換算値ではない。
重み5は,2・4・5・6・7・10・13・15・17・18・19・20・21・22・25・27・29・30・31・32である。
役員資格と発行の存在,現物清算,外観保護と個別決議・濫用の区別,事実上取締役の責任,取引債務の射程及びDの残存地位・監視という判断の分かれ目を構成する。
第5 模範解答
1 答案の前提と表記
試験実施時の法令とそれまでの裁判例を前提とする。
答案の階層は「1→(1)」とし,段落ごとに規範,事実の評価,結論を示す。
最高裁判決に基づく一般規範と,本件への類推・射程の判断は区別した。
特に840条の不存在への類推と相続した登記義務への代表訴訟の拡張は,本答案が理由を付して採る理解である。
2 答案
1 設問1
(1) 取締役は株主総会で選任し(会社法329条1項・341条),取締役会設置会社の代表取締役は取締役会が選定する(362条2項3号・3項)。
A・Dが相談して書類を整えただけでは両決議を代替しない。
本件の経緯では,Cに説明すらなく両決議を欠くから,Eは取締役にも代表取締役にも有効就任していない。
就任登記に資格を創設する効力はない。
(2) 甲社は全株式譲渡制限の非公開会社であり,株主割当でない本件募集事項には株主総会特別決議を要する(199条2項・309条2項5号)。
Cは反対して退席しAも賛成していないから,相談の会合を株主総会と評価しても必要な決議は成立せず,319条の全員同意もない。
これは重大な瑕疵である。
しかし発行無効の訴えの期間は1年であり(828条1項2号括弧書),平成24年6月10日から平成26年4月には経過した。
決議不存在確認だけで発行無効の期間制限を免れることはできない。
(3) Cは期間制限のない新株発行不存在確認の訴え(829条1号)を提起する。
単なる手続違反でなく,会社による発行の実体がない場合の訴えと解する。
Eには代表権がなく,募集事項の特別決議も欠く点は実体を否定する。
他方,建物の現物出資と発行登記は完了し,A自身もEの代表行動を承認して就任登記を申請し,副社長としての活動を許していたから,会社の発行とみる事情もある。
しかし一般的な対外活動の承認と,既存株主の支配関係を変える自己への割当発行の授権は別であり,Aは本件計画に賛同せず時期尚早としていた。
Eが自己の株主権取得のために作った外観について自ら表見法理の保護を求めることもできない。
したがって本件発行は不存在と解する。
(4) 不存在認容確定判決には,無効判決に関する839条のような不遡及の規定はない。
400株の株主権は当初から生じず,A300株,C50株,D100株,E50株,総数500株のままである。
現物出資の清算については,民法703条等に従い建物を返し,果実も占有者の善悪意等に応じて処理する構成が考えられる。
しかし840条が現物出資でも給付時価額の金銭返還を定めたのは,会社財産として利用される財産を引き揚げて事業・債権者に影響が及ぶのを防ぐ趣旨と解する。
この必要は発行不存在でも,実際に出資を受けて利用する本件に共通する。
建物は毎年経費控除後100万円の収益が見込まれ,甲社の目的にも不動産賃貸がある。
そこで840条1項を類推し,建物・果実の現物返還ではなく給付時価額4000万円の金銭で清算する。
会社財産の状況から著しく不相当なら同条2項の裁判所による増減の問題とする。
2 設問2
(1) HはEの代表取締役登記から実体上も代表権があり,借入効果が甲社に帰属すると主張するが,前記の両決議欠缺によりこれは認められない。
次にHは354条を主張する。
Eは実体上使用人なので直接適用できないが,会社が代表権を示す名称を与えたという帰責性と第三者の外観信頼を保護する必要は同じであるから類推する。
A・Dは副社長の肩書での対外活動を許し,Eは金融機関との折衝等も担当していた。
副社長は代表権を示す名称に当たる。
Hは908条2項も主張できる。
真の代表取締役A自身がEの就任登記を申請したから,甲社が故意に不実登記をしたと評価できる。
(2) 甲社は両外観保護に対し,代表資格の欠缺についてHの悪意・重過失を主張する。
Hが欠缺を知らなかっただけで常に保護されるのではなく,重大な過失は善意と同視できない。
他方,店舗計画の説明の曖昧さや資料未交付は資金使途の不明確さであり,役員選任決議の不存在を直ちに示さない。
与件から資格欠缺についての悪意・重過失までは認め難く,資格に関する外観保護は成立する。
(3) それでも甲社は個別借入れの決議欠缺を主張できる。
2億円は年商に相当し,発行前の純資産500株×10万円=5000万円の4倍である。
建物4000万円を加えるとしても9000万円を大幅に上回る。
したがって多額借財(362条4項2号)であり,Eの独断ではなく取締役会決議を要する。
決議を欠く取引は内部的意思決定の欠缺にとどまるので原則有効だが,相手方が欠缺を知り又は知り得たときは会社が無効を主張できる。
ここでの認識対象は代表資格でなく借入承認決議であり,通常の過失でも足りる。
Hは店舗建設資金と説明され,甲社の代表外観を持つEとの取引であるから有効と反論する。
しかし年商規模の借入れなのに説明が曖昧で,Hは資料を要求しながら未交付のまま実行した。
事業計画と取締役会議事録を確認すべき具体的疑念があり,確認すれば独断による借入れを知り得た。
Hには決議欠缺について過失があるので,甲社の無効主張を認め,契約効果の帰属を否定する。
354条等がこの個別決議の瑕疵まで治癒するわけではない。
(4) 甲社は代表権濫用も主張する。
Eは妻Fの要請に応じて乙社を救済するため,甲社には利益なく同率で転貸する資金を借りた。
外観上権限内でも,自己・第三者の利益を図る目的を相手方が知り又は知り得たときは,試験時民法93条ただし書を類推して効果帰属を否定する。
甲社は曖昧な説明と資料未交付からHの過失をいうが,Hには店舗建設と説明され,乙社救済目的は告げられていない。
Fの知人というだけでその目的を知ったとはいえず,資料の不足から目的まで知り得たかには反論の余地がある。
決議欠缺を知り得たこととは分けて判断すべきで,この構成だけによる否定は困難と解する。
それでも前項の決議欠缺による結論は維持される。
3 設問3
(1) Cは非公開会社の株主であり,6か月の継続保有は不要である(847条2項)。
会社に提訴請求し60日内に提訴がなければ,会社のためにD・Eへの責任追及等の訴えを提起できる(同条1項・3項,回復不能損害のおそれは5項)。
C個人への支払を求める訴えではない。
(2) Eは適法に選任されていないが,代表就任を受け入れ継続的に会社の企画・資金管理・代表活動を行っている。
実質的に取締役の業務を担いながら資格欠缺で対会社責任を免れるのは相当でないから,事実上の取締役として423条1項を類推し,責任追及を実効化する847条も類推する。
本件借入れは多額借財,2億円の貸付けは重要財産処分であり(362条4項1号・2号),ともに取締役会決議を欠く。
さらにEは乙社の低迷と資金難を知り,Dから危険のみで利益がないと警告されたのに実行した。
同じ年10%の転貸で金利差益もなく,甲社に回収リスクだけを負わせたことは,合理的な裁量の範囲を超える善管注意・忠実義務違反である。
借入効果が帰属するとされる場合は,借入債務負担に対応する貸付金2億円が回収不能となる会社損害があり,この無利益の転貸と直接の因果関係がある。
本答案のように契約効果の帰属を否定する場合は,受領資金についてHに負う不当利得返還関係と現存利益,甲社の貸付債権等を踏まえて実損を確定する必要がある。
借入無効だから損害ゼロとも,債務負担が残るかを検討せず当然に2億円とも断定しない。
いずれも同じ元本を借入れと貸付けで二重計上しない。
(3) Dは任期満了したが,Eが有効就任せずA・Cの2人では試験時331条4項の最低3人を欠くため,346条1項により取締役の権利義務をなお有する。
退任登記だけで監視義務を免れない。
Eから相談され,甲社にリスクしかないことを認識した以上,単なる消極的助言でなく,A・Cや監査役への報告,取締役会の招集要求等により借入れ・貸付けを積極的に制止すべきだった。
実行前に審議・是正させ得たのにEに委ねた不作為には任務懈怠がある。
是正によって回避できた会社の実損の限度で,423条1項により賠償責任を負う。
Eと重なる損害は430条の趣旨により連帯して負担する。
(4) EはFの全財産の相続により,売買契約に基づく甲社への土地移転登記義務も承継した(民法896条)。
甲社は代金を支払い引渡しも受けており,Eは包括承継人なので民法177条の第三者として登記欠缺を主張できない。
代表訴訟は役員相互の関係から生じる追及懈怠を防ぐ制度であり,判例も地位に基づく責任だけでなく会社に対する取引債務を含むとする。
ただし物権的登記請求自体は別であり,本件では売買契約上の義務を請求原因とする。
E自身が締結せず相続した債務に及ぼすと会社の取引上の裁量を制約するとの反論がある。
しかし適正代金の支払と引渡しが完了し,未了の登記履行を求めるだけであり,役員の未履行を放置する合理的な裁量は乏しい。
事実上の取締役Eにも前記847条の趣旨が及ぶから,Cは甲社への登記義務の履行を代表訴訟で求め得ると解する。
以上
3 出題の趣旨・採点実感を踏まえた解説
(1) 答案と評価項目の対応
答案の1は番号2~11,2は番号12~23,3は番号24~32に対応する。
番号1・8・23・33は,各設問における事実の扱い方,双方の主張と理由,許容分岐,論理的一貫性として答案全体に現れる。
主要項目のうち,Eの実体資格は答案1(1),発行不存在と現物清算は1(3)(4),代表資格の外観保護は2(1)(2),多額借財と濫用は2(3)(4)にある。
事実上取締役の任務懈怠・損害は3(2),Dの権利義務と監視義務は3(3),相続登記義務と代表訴訟の射程は3(4)で論じた。
第4の重み5・4の項目及び条件付きの項目について,模範解答との対応を次の表に示す。
| 番号 | 重み | 評価項目 | 答案の該当箇所・留保 |
|---|---|---|---|
| 2 | 5 | Eの取締役選任決議と代表取締役選定決議の双方の欠缺を指摘し,登記だけで実体資格を認めない。 | 1(1) |
| 3 | 4 | 非公開会社の第三者割当発行に必要な株主総会特別決議を示し,C反対・A留保により全員賛成決議がないと判断する。 | 1(2) |
| 4 | 5 | 非公開会社の新株発行無効の訴えの期間を1年とし,平成24年6月10日から平成26年4月には経過していると判断する。 | 1(2) |
| 5 | 5 | 829条1号の不存在確認には期間制限がないことと,発行の実体の有無という解釈基準を示す。 | 1(3) |
| 6 | 5 | Eの代表権欠缺と募集事項決議の重大な瑕疵を,発行の実体を否定する具体的要素として評価する。 | 1(3) |
| 7 | 5 | 現物出資・発行登記,AのE代表行動の承認・登記申請・副社長外観を,発行の実体を肯定する側の事情としても検討する。 | 1(3)の肯定事情と反論 |
| 9 | 4 | 【適用条件:不存在肯定】不存在認容判決には839条の無効判決と異なり遡及効を否定する規定がないことを出発点に,出資の原状回復を論じる。 | 1(4) |
| 10 | 5 | 【適用条件:不存在肯定】収益を生む現物不動産につき,840条類推による回復制限と民法703条・189条等による清算のいずれを採るかを,制度の理由と事実に即して説明する。 | 1(4)。840条類推を採用。民法703条等の構成は本解説(2)で比較。 |
| 11 | 4 | 【適用条件:不存在否定】不存在を否定する場合は,Cの持株比率低下とA合算でも過半数を失う影響を踏まえ,429条1項又は不法行為による損害賠償を検討する。 | 不存在肯定の本答案には不適用。本解説(2)で不存在否定の場合の救済を示す。 |
| 12 | 4 | 借入帰属についてHの実体代表権の主張と甲社の選任手続欠缺の反論を対置し,その前提を評価する。 | 2(1) |
| 13 | 5 | 354条の直接適用ができない非取締役Eについて,外観保護の趣旨から類推の可否を論証する。 | 2(1) |
| 14 | 4 | A・Dによる副社長肩書の使用許諾と対外活動を,会社帰責性・代表外観の具体的事実に結び付ける。 | 2(1) |
| 15 | 5 | 908条2項の不実登記について,実体代表者A自身の申請を会社による登記と評価できるかを事実に即して論証する。 | 2(1) |
| 16 | 4 | 354条・908条2項の外観保護に対し,代表資格の瑕疵についてHの悪意・重過失があるかを判断する。 | 2(2) |
| 17 | 5 | 2億円の借入れを,年商・1株当たり純資産額から算出する純資産額等に照らして362条4項2号の多額借財と評価する。 | 2(3) |
| 18 | 5 | 多額借財の取締役会決議を欠く効果につき,内部的欠缺と相手方の悪意・過失による効力否定の関係を示す。 | 2(3) |
| 19 | 5 | Hが決議欠缺を知ったとは断定せず,曖昧な説明,資料要求と未交付,議事録等未確認から知り得たかを双方の立場で評価する。 | 2(3) |
| 20 | 5 | 甲社の事業上の必要性でなくEの個人的思惑による乙社救済という代表権濫用を,試験時法の規範で検討する。 | 2(4) |
| 21 | 5 | 濫用目的についてのHの悪意・過失を,転貸目的を告げられていない反対事情と説明・資料の不自然さから独立に評価する。 | 2(4) |
| 22 | 5 | 【注意】資格の外観保護が認められても,決議欠缺又は濫用によって借入効果が帰属しない場合があるという段階関係を示す。 | 2(3)末尾・2(4)末尾 |
| 23 | 4 | 【注意】Hと甲社の主張の概要を区別して示した上で当否を丁寧に評価し,主張の反復や一方だけの議論で終えない。 | 2(1)~(4) |
| 25 | 5 | Eは実体上使用人だが代表活動の経緯から事実上の取締役に当たるかを判断し,423条1項の類推と代表訴訟による責任追及を論証する。 | 3(2)冒頭 |
| 26 | 4 | 本件借入れの多額借財だけでなく,本件貸付けも重要財産処分として取締役会決議を要し,その欠缺を指摘する。 | 3(2) |
| 27 | 5 | 借入債務負担・貸付回収不能という具体的な会社損害と直接因果関係を持つEの任務懈怠を,リスクだけの同率転貸等から示す。 | 3(2)の任務懈怠と損害の条件分岐 |
| 28 | 4 | EがFから相続した甲社への売買契約上の移転登記義務を,単なる物権的請求と区別して特定する。 | 3(4) |
| 29 | 5 | 代表訴訟の対象を取締役の地位に基づく責任に限るか,追及懈怠の懸念と取引債務を含む判例の理由から検討する。 | 3(4) |
| 30 | 5 | 相続した登記義務にまで代表訴訟を及ぼすことが,会社の取引上の裁量的判断を不当に制約するとの反論を検討して結論を理由付ける。 | 3(4)の裁量反論と適正代金・引渡しの評価 |
| 31 | 5 | Eが有効就任せずA・Cだけでは試験時331条4項の最低員数を欠くため,任期満了Dが346条1項の権利義務取締役であると判断する。 | 3(3) |
| 32 | 5 | DがEから危険を告知されながら積極的な制止等をしなかった点につき,監視義務違反と損害・因果関係を具体的に論じる。 | 3(3) |
(2) 設問1
公式資料は,Eの選任・選定決議欠缺,募集事項の特別決議,1年の期間経過,不存在の意義と相反事情の評価を要求している(番号2~8)。
採点実感は,不存在の結論がどちらでも,理由が適切なら同等に評価したと明記する。
そこで答案は,現物給付・登記とAの外観作出を無視せず,自己への支配権割当まで授権されていないことから不存在を採った。
原状回復は「不存在だから建物を返す」で終わらない(番号9・10)。
839条が不存在判決に当然適用されるわけではないことを示し,収益不動産を会社に残す必要から840条を類推した。
他方,会社の発行行為自体がない以上,組織行為を前提とする840条の例外を広げないと考え,民法703条及び189条等によって現物・果実を処理する立場も出題の趣旨が挙げる立場の一つである。
この立場では会社の善悪意,果実取得の有無と時期,現存利益等を区別する必要があり,年100万円という見込みを取得済み果実額に置き換えない。
不存在を否定する立場なら,発行の無効を争えなくても,Cの別の救済が問題となる(番号11)。
Cは50/500の10%から50/900の約5.6%となり,Aとの合計も350/900で過半数を失う。
その支配力低下を損害として,429条1項又は不法行為による賠償を検討するのが出題の趣旨の示す立場である(出題の趣旨は請求の相手方を明示していない)。
ただしEの実体資格がない点を踏まえた責任根拠・帰責要件と,支配力低下から具体的損害額への論証は別に必要であり,比率低下を直ちに金額損害と同じにしない。
(3) 設問2
採点実感は,表見代表取締役と多額の借財の一方又は双方を論ずるにとどまる答案や,表見法理が個別決議の欠缺も治癒するとする答案を問題視した(番号12~23)。
答案は実体代表権,354条類推,908条2項を検討してから,多額借財の決議と権限濫用へ進めた。
資格の不実,個別決議の欠缺,乙社救済目的は,Hの認識対象が異なる。
資格については悪意・重過失,決議や濫用については悪意・過失を問題とし,同じ資料未交付の事実から一括して同じ結論を出さなかった。
議事録等を確認すべきかは個別事情の評価であって,借入れなら常に調査義務があるという意味ではない。
本答案は年商に相当する巨額性と,自ら求めた資料さえ未交付という経緯から過失を認めた。
他方,資金使途の不明確さから乙社救済目的まで知り得たかは別に論じ,濫用だけによる帰属否定には慎重な立場を採った。
(4) 設問3
公式資料は,Dを退任登記だけで免責せず,Eの無効就任と最低員数不足から権利義務取締役と捉えることを求める(番号31・32)。
答案は相談時に具体的危険を知った点から,報告・審議等の現実の是正手段を挙げ,実行前なら回避できた損害との因果関係を示した。
Eについては,形式的取締役でないため423条の類推を論証し,貸付けを重要財産処分とする点も明示した(番号25~27)。
借入れの効果帰属を否定する答案で,会社が当然に借入債務2億円を負うとして損害を算定するのは整合しない。
そこで本答案は,Hとの不当利得返還関係・現存利益を含め,Cが現実に会社に残る不利益を立証した範囲の賠償を求めるという留保を置いた。
借入れと貸付けの元本を加算して4億円とする説明は採らない。
この損害額の条件整理及び430条の趣旨による連帯の補足は本記事の理解であり,公式資料がこの結論を指定したものではない。
相続した登記義務について,取引債務を代表訴訟の対象とする判例の言葉だけを引用して終わらせない(番号28~30)。
判例(最高裁判所第三小法廷平成21年3月10日判決)は,平成17年改正前商法267条1項の「取締役ノ責任」に,取締役の地位に基づく責任のほか取締役の会社に対する取引債務についての責任も含まれるとする一方,所有権に基づく移転登記請求はそのいずれにも当たらないとしており,本件の相続債務への拡張は別の射程判断である。
本答案は,適正代金の支払と土地引渡しが完了し登記だけが残る事情から,会社の取引裁量を保護する必要より登記義務の未履行・追及懈怠を防ぐ必要が勝ると論じた。
相続債務まで広げることへの反対説を排除するものではない。
(5) 答案の弱点と扱わなかった事項
本答案の争いの余地は,発行の実体,840条類推の可否,Hの決議欠缺に関する過失,相続債務への代表訴訟の射程である。
とりわけ借入れの帰属否定を採る以上,会社に残る実損を与件だけで一律に確定しない点には,金額算定を簡潔に示しにくいという限界がある。
刑事責任,F・G・Hへの別訴,Aの将来の相続分等は本答案では扱わない。
建物の価額不足がないこと及び証明・鑑定により検査役調査が省略できる点は補足として確認したが,本記事の評価項目に独立の項目を加えていない。
第6 関連記事
1 同じ年度の司法試験の記事
同年度の各問題は,法務省・平成26年司法試験問題から確認できる。
本稿は民事系第2問に絞って論じている。
2 同じ科目の別の年度の記事
3 本問の論点に関連する山中弁護士ブログの記事
①新株発行不存在確認の訴えと確認の利益―新株発行無効の訴えとの違い
②司法試験の過去問・参考答案一覧
第7 出典及び確認状態
1 公式資料
①平成26年司法試験・民事系科目の問題
②平成26年司法試験論文式試験問題出題趣旨
③平成26年司法試験の採点実感等に関する意見
2 法令
①会社法制定条文(平成17年法律第86号・衆議院)
②会社法の一部を改正する法律(平成26年法律第90号・衆議院)
③民法(明治29年法律第89号・e-Gov)
答案には試験時の331条4項を用いた。
平成26年法律第90号は試験後の改正であり,その新制度を本問の答案の前提にしていない。
代表権濫用には試験時の民法93条ただし書による構成を用い,後の民法107条を直接適用していない。
3 裁判例
①最高裁判所第一小法廷平成15年3月27日判決(平成12年(受)第469号,民集57巻3号312頁)
②最高裁判所第二小法廷平成21年4月17日判決(平成19年(受)第1219号,民集63巻4号535頁)
③最高裁判所第三小法廷平成21年3月10日判決(平成19年(受)第799号,民集63巻3号361頁)
④最高裁判所第一小法廷昭和42年4月20日判決(昭和39年(オ)第1025号,民集21巻3号697頁)
4 確認状態
| 資料 | 状態 | 確認範囲・限界 |
|---|---|---|
| 問題 | 確認済み | 民事系PDFの6頁~9頁(印字頁は2頁~5頁)。設問1~3と別紙の登記事項証明書を含む。 |
| 出題趣旨 | 確認済み | 全28頁のうち6頁~8頁(第2問の見出しから第3問の見出しの直前まで)。 |
| 採点実感 | 確認済み | 全83頁のうち25頁~27頁。冒頭,2(1)~(5),末尾の「法科大学院教育に求められるもの」を含む。 |
| 公式記載 | 独自分析と区別 | 評価表の根拠引用は原本テキストと照合。重み・分類・本記事の採用結論は独自分析。 |
| 許容分岐 | 採用した立場に応じて評価 | 不存在の肯否,現物清算,主観要件の事実評価,代表訴訟の射程を区別。 |
| 原本 | 法務省PDF | 第7の1に掲げた法務省のPDFによる。 |
| 判決 | 対象判示箇所を確認 | 原文で規範と事案の違いを確認。相続した登記債務への拡張等は本記事の射程判断。 |
公式3資料は,いずれも第2問の該当頁を確認した。