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足関節の可動域制限と後遺障害12級7号――認定基準,測定方法,代償動作及び裁判例(AI作成)

第1 本記事の対象

1 取り上げる範囲

本記事は,足関節(脛骨及び腓骨と距骨とで構成される関節)の可動域制限が,自動車損害賠償保障法施行令別表第二の第12級7号「一下肢の三大関節中の一関節の機能に障害を残すもの」に当たるかどうかが問題となる場面を対象とする。等級の要件と評価方法,可動域制限が歩行その他の動作にもたらす支障と身体が行う代償の内容,測定値の信用性が争われた裁判例,及び逸失利益と装具費の扱いを,法令,行政通達,医学文献並びに判決文の原文に当たって整理する。本記事は生成AIを用いて資料を収集し,取得した原文と照合して作成した一般的な説明であり,個別の事案の見通しは,診療録,画像及び測定条件を含む具体的資料に基づいて判断する必要がある。同じ下肢の三大関節については股関節及び膝関節を,上肢の三大関節(第12級6号)については肩関節肘関節及び手関節を,それぞれ別稿で扱っている。

2 背屈と底屈の意味

足関節の運動のうち,足の甲の方向へ足先を持ち上げる動きが背屈であり,足の裏の方向へ足先を下げる動きが底屈である。後述する認定基準の別添は,手関節,手指,足関節及び足指について「手掌または足底への動きが屈曲,手背または足背への動きが伸展である」と定めているから,等級認定の文脈における足関節の「屈曲」は底屈を,「伸展」は背屈を指す。後遺障害診断書と判決文とでは屈曲・伸展という表記と背屈・底屈という表記が混在するため,記載された角度がどちらの方向のものかを取り違えないことが,当てはめの出発点となる。

第2 第12級7号の要件と足関節に固有の構造

1 自賠責の等級表と労災の等級表の対応

自動車損害賠償保障法施行令別表第二は,一下肢の三大関節(股関節,膝関節及び足関節)のうち一関節について,「機能に障害を残すもの」を第12級7号(保険金額224万円),「機能に著しい障害を残すもの」を第10級11号(同461万円),「用を廃したもの」を第8級7号(同819万円)と定めている。同表の備考第6号は「各等級の後遺障害に該当しない後遺障害であつて,各等級の後遺障害に相当するものは,当該等級の後遺障害とする」と定めており,等級表に文言のない障害を等級に取り込む根拠となっている。

もっとも,実質的な判定基準は労災の障害等級認定基準であり,同基準を引用する解説を読むときは号数のずれに注意を要する。労働者災害補償保険法施行規則別表第一では,下肢の三大関節の一関節の著しい機能障害は第10級10号であり,局部の頑固な神経症状は第12級12号であって,自賠責の第10級11号及び第12級13号とは号が異なる。第12級7号及び第8級7号は両者で一致する。

2 認定基準の正本

関節の機能障害の判定基準を定めているのは,平成16年6月4日基発第0604003号「せき柱及びその他の体幹骨,上肢並びに下肢の障害に関する障害等級認定基準」であり,同通達は別添として「関節の機能障害の評価方法及び関節可動域の測定要領」を含んでいる。同通達により,昭和50年9月30日基発第565号別冊「障害等級認定基準」のうち「10 下肢(下肢及び足指)」に係る部分及び別紙2「関節運動可動域の測定要領」は削除されているから,昭和50年の通達をそのまま引用している資料は,下肢の可動域制限に関する限り現行の基準ではない。同基準は,平成16年7月1日以降に支給事由が生じたものについて適用される。

同基準は,下肢の機能障害を三段階で判定する。「関節の機能に障害を残すもの」とは「関節の可動域が健側の可動域角度の3/4以下に制限されているもの」であり,「関節の機能に著しい障害を残すもの」とは可動域が1/2以下に制限されているもの又は人工関節・人工骨頭を挿入置換した関節のうち可動域が1/2を超えるものである。「関節の用を廃したもの」とは,関節が強直したもの,関節の完全弛緩性麻痺又はこれに近い状態にあるもの,及び人工関節・人工骨頭を挿入置換した関節のうち可動域が1/2以下に制限されているものをいう。

強直の意義は具体的に定義されている。同基準の別添は,「これに近い状態」とは「関節可動域が,原則として健側の関節可動域角度の10%程度以下に制限されているもの」をいい,「10%程度」とは健側の関節可動域角度の10%に相当する角度を5度単位で切り上げた角度とするとし,さらに「関節可動域が10度以下に制限されている場合はすべて」これに該当すると定めている。したがって,僅かに動く関節であっても,健側との比較又は絶対値のいずれかを満たせば用廃の評価を受けうる。

3 足関節には参考運動が定められていないこと

同基準の別添は,各関節の運動を主要運動,参考運動及びその他の運動に区別し,主要運動と参考運動の対応表を掲げている。同表において,足関節の主要運動は「屈曲・伸展」だけであり,参考運動は定められていない。参考運動が定められているのは,せき柱,肩関節(伸展並びに外旋及び内旋),手関節(橈屈及び尺屈)並びに股関節(外旋及び内旋)であって,膝関節と足関節には参考運動がない。

このことは実務上大きな意味を持つ。同基準は,上肢及び下肢の三大関節について,主要運動の可動域が1/2又は3/4をわずかに上回る場合に,当該関節の参考運動が1/2以下又は3/4以下に制限されているときは著しい機能障害又は機能障害と認定するとし,「わずかに」とは原則として5度とすると定めている。足関節にはこの救済の対象となる参考運動が存在しないから,主要運動の合計値が閾値をわずかに上回れば,そこで等級は決まる。足関節の等級判断は,肩関節や股関節と異なり,測定された角度そのものの当否に一元的に依存すると整理できる。

4 測定の原則

同基準の別添は,屈曲と伸展のように同一面にある運動については両者の可動域角度を合計した値で制限の程度を評価すると定めている。足関節の参考可動域角度は底屈45度,背屈20度であり,合計65度である。もっとも,比較の分母は原則として健側の実測値であって参考可動域角度ではなく,参考可動域角度が用いられるのは,せき柱の場合や健側となるべき関節にも障害を残す場合である。

測定値は,原則として他動運動によるものによる。他動運動による測定値を採用することが適切でないものとして,同基準は,末梢神経損傷を原因として関節を可動させる筋が弛緩性の麻痺となり他動では可動するが自動では可動できない場合,及び関節を可動させると我慢できない程度の痛みが生じるために自動では可動できないと医学的に判断される場合を挙げている。また,関節が一方向には自動できるが逆方向には自動できない場合について,基本肢位から自動できない場合はその方向を0度とすると定めている。角度計は通常5度刻みで測定するとされているから,閾値との差が5度未満であるかどうかは,測定誤差の範囲と重なる。

なお同基準の別添は,被測定者の注意を患側の関節から外させて測定する方法や,筋電図等の電気生理学的診断を心因性の運動制限や詐病の鑑別に用いることにも触れている。可動域の測定は,測定される側の協力の程度に左右されうる検査であることが,基準自体に織り込まれている。

第3 可動域制限に伴う弊害と代償動作

1 立脚期に下腿が前へ倒れないこと

歩行の立脚期には,踵接地の後に足底が接地し,次いで足関節を支点として下腿が前方へ倒れ込み,最後に踵が離れて足指で床を押し出すという経過をたどる。背屈が制限されると,このうち下腿が前方へ倒れ込む局面が途中で止まるため,身体は別の方法で体重を前方へ運ばなければならない。実際に観察される代償としては,踵が早く離れること,膝が過度に伸展すること,体幹の前傾と股関節の屈曲が増すこと,足先を外へ向けて足部の内側を回り込ませること,歩幅が短くなり歩行速度が落ちることが挙げられる。底屈が制限された場合には,最後の押し出しが弱くなるため,前方への推進が別の関節に肩代わりされる。

2 足部の関節は肩代わりをしないこと

臨床では,足関節の動きが失われた分を足部の関節が肩代わりし,その結果として足部の関節が二次的に傷むと説明されることがあるが,この理解は実測と整合しない。片側性の変形性足関節症の患者16例と対照群25例について多分節の足部モデルを用いた三次元歩行解析を行った研究では,立脚期の矢状面可動域は,足関節が患者群11.4度・対照群18.0度であったのに対し,ショパール関節も患者群9.7度・対照群13.9度と患者群の方が小さく,リスフラン関節及び第一中足趾節関節にも肩代わりを示す増加はなかった。関節が発生するピークパワーについても,足関節が患者群1.1ワット毎キログラム・対照群2.4ワット毎キログラム,ショパール関節が患者群0.7ワット毎キログラム・対照群1.5ワット毎キログラムと,いずれも患者群で低下しており,遠位の足部関節のモーメント及びパワーはいずれも増加していなかった。同研究は,これらの関節は足関節の機械的機能不全を代償していないと結論づけている。

したがって,足関節の可動域制限に伴う負担は,足部より上位の膝関節及び股関節,並びに反対側の下肢へ集まると考えるのが,現在得られている実測と整合する。足部の関節が酷使されて二次的に変性するという主張は,この研究とは反対方向の資料に当たるから,主張として用いるのであれば別の根拠を要する。

3 押し出しの喪失が生む負担

健常成人を対象に,装具によって両側の足関節の押し出しを制限したうえで同一速度のトレッドミル歩行を行わせた研究では,押し出しのパワー及び仕事が最大で約50%減少したとき,同じ速度で歩くための正味の代謝パワーが最大で約50%増加した。同研究は,足関節の仕事が1ジュール減るごとに,反対側の脚が接地する際の散逸的な衝突の仕事が0.6ジュール増え,下肢の関節全体の正の仕事が1.3ジュール増え,代謝エネルギーが3.94ジュール増えると報告し,失われた正の仕事は主として膝関節が肩代わりするとしている。長い距離を歩けない,夕方になると反対側の脚が痛むという訴えは,この機序から説明できる。

もっとも,これと反対方向の研究もある。健常成人が,通常の靴,湾曲した底を持つ軽量の歩行ブーツで足関節を固定した状態,及びブーツと同重量の錘を付けた通常歩行という三条件で歩行した研究では,足関節の固定による総エネルギー消費の増加は通常歩行との比較で4.1%にとどまり,同重量の錘を付けた条件との比較では有意差がなかった。同研究は,適切に軽量な装具と湾曲した底があれば,足関節の可動域の喪失が必ずしも歩行のエネルギー消費を増やすわけではないと結論づけている。両者は矛盾するのではなく,足関節の可動域の喪失を靴底の形状でどこまで置き換えられるかという設計上の問題に帰着すると整理できる。この対立は,装具及び靴の費用が必要であることを基礎づける方向にも,労働能力の喪失が限定的であるという反論を支える方向にも働くから,いずれの立場からも先に処理しておく必要がある。

4 平地歩行では現れず階段の降段で現れること

背屈可動域の差が動作に現れる場面は限られている。他動の背屈可動域が正常範囲の中で大きい群と小さい群とを比較した研究では,群間の差が現れたのは階段の降段だけであり,立脚期のピーク背屈が小さい群で平均11.5度低かったのに対し,平地歩行及び椅子からの立ち上がりでは差が現れなかった。この知見は,「普通に歩けているから障害は軽い」という評価が,背屈制限については成り立たないことを示している。

階段の負担が昇りと降りで異なることも測定されている。健常若年者33名を対象に,蹴上げ18センチメートル・踏面28.5センチメートルの階段で三次元動作解析を行った研究では,降段は昇段より足関節の背屈角度が平均9.90度,底屈角度が平均8.78度大きく,股関節及び膝関節については昇段の方が大きかった。別の研究は,階段の降段時に足関節が最大能力の約75%を使っていることを報告している。背屈制限は,昇りではなく降りを直撃する障害であると整理できる。

5 しゃがみ込みその他の動作

しゃがみ込みについても,荷重の有無で評価が分かれる。荷重をかけたランジ動作での背屈可動域が大きい者ほど,オーバーヘッドスクワット及び片脚スクワットにおける膝屈曲及び足関節背屈の変位が大きかったのに対し,荷重をかけない他動の背屈可動域では群間の差が現れなかったとする研究がある。後遺障害診断書に記載された他動値が比較的良好であっても,荷重下の実際の動作における支障は別に評価すべきであることを示す知見である。

支障が現れる具体的な場面としては,階段の降段のほか,下り坂,砂利道や畦道などの不整地,深いしゃがみ込み,正座,浴槽をまたぐ動作,脚立やはしごの昇降,長時間の立位及び歩行が挙げられる。自動車の運転についても,アクセル及びブレーキの操作は足関節の背屈及び底屈そのものであるから,制限の程度と操作の可否を個別に確認することになる。

障害の重さについては,末期の変形性足関節症の患者130名と末期の変形性股関節症の患者130名についてSF-36を比較した研究があり,両群とも全ての下位尺度が正常人口の約2標準偏差下であって,足関節症群の方が精神サマリー,役割身体及び全般的健康の各得点が有意に低かったと報告されている。また,変形性足関節症の成因については,末期例406足の78%が外傷後であったとする報告があり,一般人口における有病率3.4%のうち70%から78%が外傷後であって股関節症や膝関節症より若年で発症するとの報告もある。足関節の障害を下肢の他の関節の障害より軽いものとして扱う前提には,実測上の裏付けがない。

第4 等級評価の範囲と併合・準用

1 足関節と踵骨は別の部位であること

平成16年基発第0604003号は,併合の例として,踵骨骨折の治ゆ後に疼痛を残し(労災の第12級12号),同一下肢の足関節の機能に障害を残す(同第12級7号)場合は併合第11級とする旨を掲げている。その注記は,足関節は脛骨・腓骨と距骨とにより構成され,踵骨は距骨との間で距骨下関節を,舟状骨・距骨・立方骨との間でショパール関節を構成しているとしたうえで,「このように,足関節と踵骨とは別の部位である」と明記している。自賠責の号数に置き換えれば,踵骨部の疼痛(第12級13号)と足関節の機能障害(第12級7号)とで併合第11級となる。

これと表裏の関係にあるのが,距骨下関節等の可動域制限の扱いである。同基準の別添の各論において下肢について掲げられているのは股関節,膝関節及び足関節のみであり,足部の内がえし・外がえし及び外転・内転は表に掲げられていないから,これらに制限が残っても足関節の等級には反映されない。距骨下関節の可動域制限を主張するのではなく,踵骨部の疼痛を神経症状として立てて併合を狙うのが,基準の構造に沿った構成である。

2 上位等級を取りに行った場合の吸収

もっとも,踵部側で上位等級を取りに行くと,足関節の可動域制限が独立に評価されなくなることがある。横浜地方裁判所平成27年1月22日判決(平成24年(ワ)第1958号)は,左踵部の荷重障害について,硬性補装具を装着しなければ歩行できないことを理由に第8級に相当する後遺障害と認めたうえで,左足関節の可動域制限は「前記荷重障害と身体部位及び障害態様を同じくする同一系列の後遺障害」であり,荷重障害を第8級に準じる機能障害として取り扱う理由を硬性補装具を装着しなければ歩行できないことに求める以上,「歩行障害に係る左下肢の後遺障害は評価済み」であるとして,足関節の可動域制限,下肢短縮障害,左下腿開放骨折後の変形障害及び左踵部の疼痛・しびれ等の症状のいずれについても併合による加重を認めなかった。同判決は裁判所ウェブサイトには掲載されていない。

したがって,踵部の荷重障害で第8級の準用を狙う構成と,足関節の第12級7号に踵骨部の疼痛を併合して第11級を狙う構成とは,並立するものではなく選択の関係に立つ。どちらが有利かは,硬性補装具の常時使用の有無と,足関節の可動域の実測値の程度によって決まる。

3 通常派生の関係と他の障害との組合せ

同一部位から通常派生する障害は別個に評価されない。同基準は,脛骨の遠位骨端部の欠損(第12級8号)と同一下肢の足関節の著しい機能障害とを残した場合は上位の等級によるとしている。神経症状についても,名古屋地方裁判所令和5年4月28日判決(令和4年(ワ)第1306号)は,左足関節の神経症状につき「上記の関節機能障害の中で既に評価されている」として別途評価せず,神戸地方裁判所令和2年2月27日判決(平成30年(ワ)第221号)は,右膝痛及び右下腿前面疼痛について「上記機能障害から通常派生する関係にあることから別個の後遺障害とは評価しない」としている。いずれも裁判所ウェブサイトには掲載されていない。

このほか,同基準は,足関節の機能障害と同一下肢の第一足指の用廃とがある場合に併合の方法を用いて準用第11級とすること,下肢の動揺関節について硬性補装具を常に必要とするものを第8級,時々必要とするものを第10級,重激な労働等の際以外には必要としないものを第12級に準ずる関節の機能障害として取り扱うこと,及びギプス固定等による廃用性の機能障害については将来における障害の程度の軽減を考慮して等級を認定することを定めている。最後の点は,拘縮が固定的なものであることを示す資料がない場合に,等級を否定する方向で援用されうる。

第5 測定値の信用性が争われた裁判例

1 他動値と自動値の区別

神戸地方裁判所令和3年1月14日判決(平成30年(ワ)第584号)は,右足関節の硬縮につき第12級7号に該当するとの主張を排斥した。同判決は,既往症のため「もともと自発運動は困難である」にもかかわらず後遺障害診断書に「自動の測定結果が記載されていること」,及びエックス線画像上「右足関節の方が左足関節より底屈角度が上回っていること」を挙げて,診断書に記載された可動域に関する検査結果は信用しがたいとした。同判決はさらに,前距腓靱帯の動揺性についても,同靱帯に緩みがあっても必ずしも損傷があるとは認められないとしたうえ,ストレス撮影による前方引出しの異常値は3ミリメートルから7ミリメートルであるとして,5.5ミリメートルという値をもって靱帯の損傷があるとは認められないとした。同判決は裁判所ウェブサイトには掲載されていない。ストレス撮影そのものの位置付けについては,動揺関節の立証手段としてのストレスレントゲン撮影で扱っている。

自動値と他動値の区別は,等級認定の実務でも明示的に扱われている。神戸地方裁判所令和6年10月17日判決(令和5年(ワ)第566号)が引用する損害保険料率算出機構の認定理由には,「後遺障害診断書上,その関節可動域に自他動差が認められますが,神経麻痺等の所見に乏しいことから他動値により等級評価を行うこととなり」という記載があり,自動値による評価を求めるには基準が定める例外事由に当たる医学的所見が必要であることが,認定機関側の文言からも確認できる。同判決は,別に,身体障害者等級5級に該当するとして身体障害者手帳の交付を受けていることは,直ちに膝関節について第10級11号に相当する後遺障害が残存したことを認めるに足りる根拠とはならないとも判示している。同判決は裁判所ウェブサイトには掲載されていない。

2 比較の分母となる健側の値

分母となるのは健側の実測値であって参考可動域角度ではないから,健側が参考可動域角度である65度を上回ることがある。前掲神戸地方裁判所令和2年2月27日判決は,足関節の主要運動は屈曲及び伸展であるとしたうえ,他動値による屈曲(底屈)及び伸展(背屈)の合計値が健側(左)70度に対し患側(右)55度であることから,4分の3以下に制限されていないとして第12級7号への該当を否定した。同判決は,同一原告の右膝関節については,他動値による屈曲及び伸展の合計値が健側(左)150度に対し患側(右)110度であることから,2分の1以下ではないが4分の3以下であるとして第12級7号に該当するとしている。

3 測定値が複数ある場合の採否

後遺障害診断書が複数ある場合や,通院中に反復して測定が行われている場合には,どの値を採るかが争点となる。大阪地方裁判所令和6年7月19日判決(令和4年(ワ)第7389号,同年(ワ)第11421号)は,三か所の測定結果を並べたうえ,最も原告に不利な測定結果について,「原告が弁護士と来院しC整形外科作成の後遺障害診断書と同じ内容の診断書の作成を依頼された上で,同診断書と異なる原告に有利ではない内容の測定結果となっているから,その測定結果は十分信用することができる」として採用し,患側の合計50度が健側の合計70度の4分の3以下であるとして第12級7号を認めた。同判決は裁判所ウェブサイトには掲載されていない。

前掲名古屋地方裁判所令和5年4月28日判決は,逆に,後遺障害診断書の値だけでは足りないとした例である。原告は,底屈運動の他動値が健側(右)45度に対し患側(左)15度であるとして第10級11号を主張したが,同判決は,通院先において断続的に行われた測定では左足関節の底屈運動の可動域が概ね30度と測定されており,別の病院で25度と測定されたこともあったとして,健側の2分の1以下に制限されていたとは認められないが4分の3以下には制限されているとして,第12級7号にとどまるとした。症状固定時の一通の診断書のみに依拠して等級を組み立てることの危うさを示している。

4 数値が基準を満たしても器質的原因を欠く場合

大阪地方裁判所令和6年9月19日判決(令和5年(ワ)第9857号)は,後遺障害診断書の数値が基準を満たしていたにもかかわらず,後遺障害の残存自体を否定した。同判決が認定した後遺障害診断書の記載は,右足関節の背屈が他動0度・底屈が他動25度(合計25度),健側である左足関節の背屈が他動25度・底屈が他動50度(合計75度)というものであり,数値上は健側の2分の1以下である。しかし同判決は,①可動域測定が後遺障害診断時の一回しか行われていないこと,②可動域制限の原因となる器質的損傷等の存在の立証がないこと,③レントゲン検査では仮骨化が進んで異常がなく,主治医が原告に対し特に後遺障害は残りそうではない旨を説明していたこと,④原告本人が現在は可動域が制限されているかわからない旨供述していることを挙げて,「後遺障害診断書における原告の右足関節の可動域制限に関する記載はただちに採用することができず,他に原告の右足関節に可動域制限が残存していると認めるに足りる証拠はない」とし,第10級11号に該当する後遺障害の残存を否定した。同判決は裁判所ウェブサイトには掲載されていない。

同判決は,神経症状についても,画像上疼痛を他覚的に証明する所見がないこと,リハビリ通院が約二か月間途切れていた時期があること,及び症状固定の前後を通じて診療録に右足関節の疼痛の主訴がとどめられなくなっていたことを挙げて否定し,後遺障害逸失利益及び後遺障害慰謝料をいずれも認めなかった。第2の3で述べたとおり足関節の等級は測定された角度の当否に一元的に依存するが,そのことは角度さえ出ていれば等級が認められるという意味ではない。同判決と前掲名古屋地方裁判所令和5年4月28日判決とを併せると,測定の反復と器質的原因の裏付けが,数値そのものと同じ重みを持つことになる。

5 強直と徒手筋力テストの整合

京都地方裁判所令和3年6月16日判決(平成27年(ワ)第3563号,平成28年(ワ)第505号)は,膝窩動脈損傷による血行障害から距骨の壊死及び下腿筋の線維化が生じ,尖足拘縮に至った事案について,足関節を第8級7号とし,足指の用廃(第11級9号)と併せて併合第7級とした。同判決は裁判所ウェブサイトには掲載されていない。

同判決は,足関節が強直している場合には徒手筋力テストのために足関節を可動させることはできないから測定値と整合しないという主張に対し,第8級7号にいう強直は「関節が全く稼働しない場合とこれに近い状態」を含むものであるとしたうえ,「同測定と同テストは手技上同時に行われ,同テストにおいて強い筋力が確認されるのは被験者が手技に協力的で,力を入れていたことを示すものであるから,同テストの結果は測定値の正確性を補強する事情とみることができる」と判示した。また,しゃがむことができないとの供述について,「深くしゃがみ込むことが円滑にできないという趣旨の供述として理解することが可能である」として,症状の誇張とはいえないとしている。この判断は,背屈制限の支障が平地歩行ではなく深いしゃがみ込みや階段の降段に現れるという第3の4及び5の知見と整合する。

なお同判決は,強直について「健側の関節可動域の10%(5%単位で切り上げ)程度以下」と説示しているが,認定基準の別添は「10%に相当する角度を5度単位で切り上げた角度」と定めているから,切上げの単位は割合ではなく角度である。判決文の表現をそのまま引用する場合には,基準の文言との差異に留意する必要がある。

6 立証の順序と打ち切りの目安

以上を踏まえると,被害者側の調査は負担の軽いものから順に行うのが合理的である。まず①後遺障害診断書について他動値か自動値かの別,測定日及び健側の記載の有無を確認し,②通院した全ての医療機関の診療録及びリハビリテーション記録から可動域の測定値を時系列で抽出し,③画像によって拘縮,関節症性変化,骨折の癒合状態などの器質的原因の有無を確認する。診療録は,患者本人による診療記録の開示請求のほか,訴訟係属後は文書送付嘱託によって取得することが考えられるが,医療機関の対応や保存期間によっては全部が得られるとは限らない。労災保険の給付が先行している事案では,労働基準監督署に対する開示請求によって障害等級の認定に用いられた資料をまとめて取得できる場合がある。

これらによって,患側の合計値が健側の4分の3を明らかに上回ることが動かない場合には,医師に対する照会や私的な医学意見書といった負担の大きい手段に進んでも等級は動きにくい。他方で,閾値との差が5度以内である場合,自動値のみが記載されている場合,又は健側の記載を欠く場合には,測定条件を確認したうえで再測定を依頼することが費用に見合う。相手方や医療機関のみが保有する資料を当然に入手できることを前提として立証計画を立てるべきではない。

第6 逸失利益及び装具費

1 労働能力喪失率

第12級7号が認められた事案では,等級表に対応する労働能力喪失率である14%が用いられている。前掲大阪地方裁判所令和6年7月19日判決は,原告が主張した20%を退けて14%を相当とし,前掲名古屋地方裁判所令和5年4月28日判決も,後遺障害の程度に鑑み14%を相当と認めている。

上位等級が認められた場合の喪失率は事案により幅がある。前掲京都地方裁判所令和3年6月16日判決は,併合第7級について,症状固定時23歳であること,教員としての就労を断念して身体障害者として雇用されていること,昇給や昇進における不利益及び就労可能職種の制限があることを挙げて56%を相当とし,被告らの主張した「顕著な減収がない」という反論を採用しなかった。他方,前掲横浜地方裁判所平成27年1月22日判決は,後遺障害が併合第7級に相当するとしつつ,そのうち左下肢の醜状障害が就労に影響を及ぼすとは考えにくいとして,第8級相当の45%をもって喪失率とした。

大阪地方裁判所令和6年1月25日判決(令和4年(ワ)第11372号)は,左足関節の機能障害を一下肢の三大関節中の一関節の用を廃したものとして第8級7号とし,左腓骨の変形障害(第12級8号),右下肢及び左下肢の瘢痕(各第12級相当)並びにうつ病による症状(第14級9号)と併せて併合第7級としたうえ,67歳までの13年間について労働能力を56%喪失したとして逸失利益を2121万7746円と算定した。同判決は,労働能力を100%喪失したという原告の主張について,後遺障害の内容に照らせば事故当時従事していた運送業に就くことはできないと認められるものの,身体の状態を前提として稼働能力を完全に喪失したと認めることはできないとして採用しなかった。同判決は裁判所ウェブサイトには掲載されていない。

2 労働能力喪失期間

足関節の可動域制限は器質的な原因に基づく機能障害であるから,喪失期間が短期に限定されにくい。前掲大阪地方裁判所令和6年7月19日判決は,「右足関節の機能障害は,右距骨骨折及び右足関節脱臼骨折に伴って周辺組織が損傷されたことによる関節の拘縮を原因とするものであると認められるから」,労働能力喪失期間は満67歳までと認めるのが相当であると判示しており,器質的原因を明示的に喪失期間の根拠としている。もっとも,症状固定時の年齢によっては平均余命の2分の1が用いられ,前掲名古屋地方裁判所令和5年4月28日判決は症状固定時63歳の事案でこれを用いており,前掲横浜地方裁判所平成27年1月22日判決は12年間としているから,一律に67歳までとなるわけではない。

3 装具費

将来の装具費が損害として認められることがある。前掲横浜地方裁判所平成27年1月22日判決は,原告が将来にわたってPTB短下肢装具,ロフストランド杖及び足底装具を必要とせざるを得なくなったとして,これらの耐用年数と症状固定時から平均余命までの期間の買換回数等を考慮し,79万3086円を認めている。第3の3で述べたとおり,湾曲した底を持つ装具によって歩行のエネルギー消費の増加を抑えられるという研究があることは,装具が代替不能であることを示す資料ではないが,装具の使用が機能の維持に寄与していることを裏付ける資料としては用いうる。

なお,労災保険の給付が併行している事案では給付との調整が問題となり,示談や訴訟提起の時期については消滅時効の管理が必要となる。これらについては,自賠責保険の支払基準(令和2年4月1日以降の交通事故に適用されるもの)損益相殺及び消滅時効に関するメモ書きを参照されたい。労災保険の等級に不服がある場合の手続については労災保険に関する審査請求及び再審査請求を,認定に用いられた資料の取得については労災保険に関する書類の開示請求方法を参照されたい。

第7 測定法の改訂と認定基準の不整合

日本整形外科学会,日本リハビリテーション医学会及び日本足の外科学会は,各理事会の承認を経て「関節可動域表示ならびに測定法」を改訂し,同改訂は令和4年4月1日から発効している。足関節・足部に関する変更点は三つある。第一に,用語について,足背への動きを背屈,足底への動きを底屈とし,屈曲及び伸展という語を使用しないこととされた。第二に,一九九五年の改訂で三平面での複合運動とされていた内がえし及び外がえしが前額面の運動と定義され,前額面の運動とされていた回外及び回内が複合運動と定義された。第三に,足関節・足部の内転・外転運動の基本軸が第二中足骨長軸とされた。参考可動域角度そのものは,背屈0度から20度,底屈0度から45度で変更されていない。

実務上留意を要するのは,背屈及び底屈の測定における基本軸及び移動軸である。令和4年改訂では,基本軸が「矢状面における腓骨長軸への垂直線」,移動軸が「足底面」とされているのに対し,労災の認定基準の別添は,基本軸を「腓骨への垂直線」,移動軸を「第5中足骨」としている。前掲京都地方裁判所令和3年6月16日判決も,「膝関節を屈曲位で測定し,腓骨への垂直線を基本軸,第5中足骨を移動軸,基本肢位を両者が直角の状態として」と説示しており,認定基準が依拠する測定法に従っている。足関節には参考運動による救済がなく,閾値との差が5度で等級が動くことを踏まえると,閾値と僅差の事案では,診断書の測定がいずれの版に従って行われたかを確認し,必要に応じて測定条件を明らかにしたうえで再測定を求めることが考えられる。

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出典・参考資料

1 法令

自動車損害賠償保障法施行令(昭和30年政令第286号)別表第二 https://laws.e-gov.go.jp/law/330CO0000000286

労働者災害補償保険法施行規則(昭和30年労働省令第22号)別表第一 https://laws.e-gov.go.jp/law/330M50002000022

2 行政通達

厚生労働省労働基準局長「せき柱及びその他の体幹骨,上肢並びに下肢の障害に関する障害等級認定基準について」(平成16年6月4日基発第0604003号。別添「関節の機能障害の評価方法及び関節可動域の測定要領」を含む。) https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=00tb2627&dataType=1&pageNo=1

3 裁判例

横浜地方裁判所平成27年1月22日判決(平成24年(ワ)第1958号,損害賠償請求事件)。裁判所HP未掲載。判例秘書で全文を確認した。

神戸地方裁判所令和2年2月27日判決(平成30年(ワ)第221号,損害賠償請求事件。交通事故民事裁判例集53巻1号)。裁判所HP未掲載。判例秘書で全文を確認した。

神戸地方裁判所令和3年1月14日判決(平成30年(ワ)第584号,損害賠償請求事件。交通事故民事裁判例集54巻1号)。裁判所HP未掲載。判例秘書で全文を確認した。

京都地方裁判所令和3年6月16日判決(平成27年(ワ)第3563号,平成28年(ワ)第505号,損害賠償請求事件ほか。交通事故民事裁判例集54巻3号)。裁判所HP未掲載。判例秘書で全文を確認した。

名古屋地方裁判所令和5年4月28日判決(令和4年(ワ)第1306号,損害賠償請求事件。交通事故民事裁判例集56巻2号)。裁判所HP未掲載。判例秘書で全文を確認した。

大阪地方裁判所令和6年1月25日判決(令和4年(ワ)第11372号,損害賠償請求事件)。裁判所HP未掲載。判例秘書で全文を確認した。

大阪地方裁判所令和6年7月19日判決(令和4年(ワ)第7389号,同年(ワ)第11421号,損害賠償請求事件。交通事故民事裁判例集57巻4号)。裁判所HP未掲載。判例秘書で全文を確認した。

大阪地方裁判所令和6年9月19日判決(令和5年(ワ)第9857号,損害賠償請求事件)。裁判所HP未掲載。判例秘書で全文を確認した。

神戸地方裁判所令和6年10月17日判決(令和5年(ワ)第566号,損害賠償請求反訴事件)。裁判所HP未掲載。判例秘書で全文を確認した。

4 医学文献

日本リハビリテーション医学会「関節可動域表示ならびに測定法改訂について(2022年4月改訂)」Jpn J Rehabil Med 58巻10号1188頁~1200頁(2021年) https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjrmc/58/10/58_58.1188/_article/-char/ja/

公益社団法人日本リハビリテーション医学会「関節可動域表示ならびに測定法改訂に関する告知(2022年4月改訂)」 https://www.jarm.or.jp/member/kadou.html

Eerdekens M, Deschamps K, Wuite S, Matricali GA. Loss of Mechanical Ankle Function Is Not Compensated by the Distal Foot Joints in Patients with Ankle Osteoarthritis. Clin Orthop Relat Res. 2021;479(1):105-115.

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