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退職後の競業避止義務の誓約書の作り方―条項例と署名前の確認事項(AI作成)

第1 退職時に競業避止の誓約書が必要か

退職後の競業避止義務を定めるときは,まず会社が守るべき利益を特定し,秘密情報の使用・開示の禁止や資料の返還で足りるかを検討する。
それでも具体的な危険が残る場合に,その従業員が行う特定の業務に絞って制限を設計する。
本記事は,日本の企業が従業員の退職に備えて条項を作る場合を対象とし,令和8年11月8日時点の法令に基づいて記載している。

退職後の競業避止条項は,転職や独立の自由を制約する。
会社が守る利益,従業員の従前の職務・地位,業務・地域・期間などの制限範囲,代償措置の有無と内容を考慮し,過度な制限は民法90条の公序良俗に反して無効となり得る。
会社が同業者への転職そのものを避けたいという事情だけで,退職者全員を同じ範囲で制限することは難しい。

1 秘密保持と競業避止の使い分け

(1) 先に検討する措置

秘密保持条項は,対象情報の使用・開示を制限する。
競業避止条項は,定めた範囲で業務への従事自体を制限する。
例えば,非公表の設計資料の持出しが心配なら,対象の資料を特定し,アクセス権の停止,会社資料・端末の返還,私物端末への会社資料の複製の確認,会社の指示に沿った削除と記録を先に検討する。
私物端末の確認は会社の資料に対象を絞り,確認方法と本人の協力範囲を事前に決める。
紛争が現実化しているときは,削除の前に証拠保全の要否を確認する。
秘密保持条項を設ける場合は,法令に基づく開示・通報を妨げないことも明示する。

(2) 秘密保持条項を無効とした裁判例

東京地裁令和6年2月19日判決(令和4年(ワ)第70057号)は,「業務上知った情報」を対象とする退職後の秘密保持の定めについて,対象が具体的に特定されておらず範囲が事実上無限定であり,秘密として保護する必要性にかかわりなく対象となり得るとして,公序良俗に反し無効とした。
同判決は,競業制限については,代償措置が講じられていないとみられることの一事をもって無効とは必ずしもいえないと述べた。
その上で,在職中に業務上関係ができた取引先へ退職後に連絡したという具体的な相手方は明らかでなく,不特定多数の者に対するホームページ・SNSでの宣伝広告は同業の事業自体を禁止していない合意に違反しないとして,違反を認めなかった。
秘密保持の文言も,対象者の職務と結び付けて具体化する必要がある。

第2 条項を作る順序と記載例

1 対象者,禁止行為,期間・地域を決める

まず,対象者が実際に担当した製品・サービス,利用した非公表情報,情報が競争上の価値を持つ期間,会社が競合する市場を整理する。
肩書だけで対象者を選ばず,同業他社の別部門など,保護すべき利益に結び付かない職務を外す。
顧客情報を守るための制限を検討する場合は,従業員が担当した顧客,禁止する勧誘行為と,顧客側からの連絡をどう扱うかを分けて決める。

2 記載例

(1) 架空の条項例

以下は,説明のために作った架空の条項例であり,特定の会社の書式ではなく,このまま使えば有効性が確保されるものでもない。
競業制限が必要な事案で,会社の代償措置も併せて合意する場合を想定している。
角括弧の内容は,会社の資料と本人の職務に照らして決める。
目的・対象業務・地域・期間・対価を同じ文書又は別紙に記載し,双方が確認できるようにする。

【記載例(説明のための架空の条項例)】
会社と従業員は,従業員が担当した[製品・事業]に関する[保護すべき非公表情報の種類・範囲]を保護するため,次のとおり合意する。
従業員は,退職日の翌日から[満了年月日]まで,[対象市場・地域]において,[具体的な競合製品・サービス]に関する[従事を制限する具体的な業務]を自ら行い,又は他の事業者のために行わない。
会社はこの制限の対価として,従業員に[金額]を[支払期日・方法]により支払う。
会社と従業員は,書面又は電子記録による合意により,制限を解除し,又はその範囲を縮小できる。

(2) 文言を具体化するときの注意

担当製品の設計を制限する必要があるなら,製品の範囲と設計業務を明記する。
競合会社に転職する場合でも,その製品に関与しない職務がどのように扱われるかを説明できる文言にする。
地域は勤務先の所在地だけで機械的に決めず,対象市場や業務の実態と結び付ける。
期間は情報の陳腐化や製品の更新時期を資料で確認して定める。
短期間であっても,制限対象が広すぎれば有効性が問題になる。

会社が補償を約束する場合は,金額・支払時期に加え,制限を早期に解除した場合の精算も決めておく。
補償の有無と内容は判断要素の一つである。
使用者が労働契約の不履行について違約金を定め,又は損害賠償額を予定する契約をすることは,労働基準法16条で禁止されているため,上の条項例には違反時の一律の支払額を入れていない。
実際に発生した損害を請求できるか,退職金規程に基づいて支給要件を満たすかは,それぞれ根拠と要件を分けて検討する。

第3 説明・署名・保管の実務

1 既存の契約・規則を先に照合する

雇用契約書,入社時の誓約書,就業規則,退職金規程を並べ,対象者,期間,禁止業務と代償の定めが一致するかを確認する。
就業規則を根拠とする場合は,契約締結時の合理性・周知を定める労働契約法7条や,既存の労働条件を変更する場面での同法9条・10条が問題となる。
個別契約が就業規則の基準に達しない労働条件を定めるときは,同法12条によりその部分が無効となり,就業規則の基準による。
新しい文書を作るときは,旧文書との関係や残す義務も明示する。

2 説明と資料返還の記録を分ける

会社は,制限が必要な理由と具体的な対象業務を事前に示し,本人が文面を確認し質問できる時間を設ける。
合意に至ったときは,署名日,交付した文書の版と別紙,説明内容,対価の支払条件を記録し,本人にも控えを交付する。

退職日の端末返還,アカウント停止,資料の返還・削除の確認は別に記録する。
競業制限の合意に至らなくても,資料返還やアクセス停止の要否はそれぞれの根拠に照らして判断する。

第4 署名と有効性に関するよくある質問

1 署名しなければ競業避止義務はないか

契約は申込みに対する承諾で成立し,法令に特別の定めがある場合を除き,書面の作成その他の方式は要しない(民法522条)。
署名がないときも,メールなど本人の意思表示を確認する。
本人が新たな条件への同意を拒んだ場合,会社が誓約書を提示しただけではその条件の合意は成立しない。

一方,既に成立している個別合意や労働契約の内容となっている就業規則があれば,その適用範囲と有効性は別に確認する。
前職の営業秘密の使用・開示に関する不正競争防止法上の規律も,誓約書への署名の有無とは別に適用され得る。

2 署名すれば同業他社で働けないか

署名は合意の存在を示す資料になる。
転職先で予定する業務が条項の文言に含まれるか,また条項が従業員の職業選択の自由を過度に制限しないかを順に確認する。
就職そのものを禁じる条項と,特定業務だけを制限する条項とでは,確認すべき範囲が異なる。

3 競業避止の期間は何か月なら有効か

期間だけで有効性は決まらない。
会社が守る利益,担当していた業務,対象とする事業・地域,代償措置と併せて判断する。
情報の使用が契約や不正競争防止法によって制限されるかは,競業避止期間の満了とは分けて確認する。

第5 出典・関連記事

民法90条・522条(e-Gov法令検索)
労働契約法7条・9条・10条・12条(e-Gov法令検索)
労働基準法16条(e-Gov法令検索)
不正競争防止法2条(e-Gov法令検索)
東京地裁令和6年2月19日判決(令和4年(ワ)第70057号,裁判所HP)
厚生労働省「確かめよう労働条件」の裁判例解説「競業避止」

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