メインコンテンツへスキップ
       

平成20年司法試験刑事系科目第1問(刑法)の模範解答と評価項目―出題の趣旨・採点実感から抽出した25項目と5段階の重み付け(AI作成)

第1 この記事の対象と結論

平成20年新司法試験の刑事系科目第1問(刑法)では,A方での窃盗を共謀した甲乙が,その後それぞれ別の場面でBに暴行・脅迫を加えた事例について,甲乙の罪責が問われた。
出題の趣旨によれば,共謀共同正犯の成立要件ないし共同正犯と幇助犯の区別,甲乙が想定していた金品奪取の態様と奪取対象となる金品の範囲,Bの負傷と死亡の帰責,乙が予見していた事情と甲が実際に行ったこととのずれが主な検討事項である。

この記事は,法務省の出題の趣旨と採点実感を基に25の評価項目を設け,そのうち7項目を重み5とした。
評価項目と重みは本記事独自の整理であり,法務省の採点基準や配点を示すものではない。

事項内容
対象平成20年新司法試験論文式試験・刑事系科目第1問(刑法)
問題文論文式試験問題集[刑事系科目](2~4頁の第1問)
基準時平成20年5月18日(論文式試験の刑事系科目の試験日)。答案は試験当時の刑法による。
出題の趣旨平成20年新司法試験論文式試験問題出題趣旨(6~7頁の刑事系科目〔第1問〕)
採点実感平成20年新司法試験の採点実感等に関する意見(16~17頁の刑法)
評価項目25項目。重み5は7項目,重みの合計は99。
答案の分量3768字(答案部分の見出しを含み,空白及び改行を除く。)
資料確認日令和8年11月7日

本稿の答案は,甲乙の共謀の対象を書斎の現金300万円の窃取と認定し,甲が居間で強取した現金2万円には共謀が及ばないとする。
Bの右手首の骨折は甲の強盗致傷に,Bの死亡は乙の事後強盗を基本とする強盗致死に結び付け,骨折を乙に,死亡を甲に,それぞれ帰責しない。

重み5の7項目は,共同正犯と幇助犯の区別の判断基準(番号1),事前の合意における奪取の態様(番号6)と対象の範囲(番号7),Bの死亡を甲に帰責する二つの経路(番号15・16),乙の錯誤と帰責する金額(番号18),乙の窃盗と路上の暴行との連続性(番号21)である。
第3に事実関係と設問の要求,第4に評価項目と重み,第5に答案と解説,第7に出典を置く。

第2 評価項目の示し方と重み付けの基準

1 評価項目の示し方

評価項目は,出題の趣旨(6~7頁の刑事系科目〔第1問〕)と採点実感(16~17頁の刑法)を照合し,答案の記載から判断できる単位に言い換えた本記事独自の基準である。
表の番号は記事全体で通している。
各項目には根拠となる頁と記載の要旨を示し,一方の資料に対応する記載がない場合は「記載なし」,一般的な記述から導く場合は「間接」と表示する。
採点実感欄の「2」は,採点実感の見出し「2 採点実感」の部分を指す。
「〔注意〕」は誤りを避けるための項目を示す。

2 5段階の重み付けの基準

重み判断基準
5その設問の判断を大きく分ける核心
4結論を理由付きで支える主要な論証・当てはめ
3通常押さえる法的処理・事情の評価
2論証を補強する説明・個別事情・誤りの注意
1補充的な引用・記述範囲の確認

重みとその合計は本記事独自の整理であり,法務省の配点,採点基準又は得点の目安を示すものではない。

第3 本問の概要

1 問題文と事実関係

失職して生活費に窮した甲は,友人の乙に,泥棒でもするしかないかと話した。
乙は,以前勤務していた会社の社長Aが自宅書斎の机の引き出しに現金300万円くらいを入れていることを知っており,そのことを甲に話した。
甲から一緒に盗みに入ろうと誘われた乙は,危ないことはしたくないと断ったが,300万円を手に入れたら100万円を渡すとの甲の申出を受け入れ,Aが一人暮らしで月曜日の日中は不在であること,トイレの窓に鍵が掛かっていないこと,書斎の机の引き出しに現金があることなどを説明し,間取り図面を作成して甲に手渡した。
犯行当日,乙は自分の自動車で甲をA方付近まで送ったが,車を見られることを嫌った甲から先に帰るよう言われ,すぐにその場を去った。

甲は,無施錠のトイレの窓からA方に入り,書斎の現金300万円をジャンパーのポケットに入れた後,別の金品を探そうと居間に入った。
居間には,乙が出入りしなくなった後にA方に同居していたAの父B(70歳)がおり,甲は,カッターナイフの刃をBに突き付けて金を要求し,Bから渡された封筒の中の現金2万円を取った。
Bは,甲が物色している隙に逃げ出し,玄関の外に出た直後に足がもつれて転倒し,右手首を骨折した。

甲のことが気掛かりになってA方付近に戻っていた乙は,「どろぼう」と叫びながら路上に出たBを黙らせるため,背後からBの口を塞ぎ,手を噛まれると,Bの顔面を拳で殴打した。
Bは倒れてブロック塀の角に後頭部を強打し,さらに乙に背部・腹部を蹴られ,頭蓋骨骨折による脳内出血で同日死亡した。
甲は,Bの骨折も乙の暴行も知らずに裏口から外に出て,乙と共に逃走し,その後,乙に100万円を分け前として渡した。

2 設問が求めること

設問立場・対象指定・除外到達点
第1問甲及び乙の罪責具体的な事実を示して論じる。特別法違反の点を除く。各罪の成否,死傷結果の帰責,罪数及び共犯の成立範囲を示す。

第4 評価項目と重み

1 甲乙の共犯関係

番号評価項目重み出題の趣旨採点実感
1共同正犯と幇助犯の区別の判断基準を示す。56頁。共謀共同正犯の成立要件ないし共同正犯と幇助犯の区別の判断基準16頁 2。理論的な根拠や検討すべき要素を示した当てはめ
2乙が一緒にA方に入ることを断り,自ら実行しなかったことを,幇助犯の方向に働く事情として評価する。36頁。乙の発言と,自らA方に盗みに入らなかったこと16頁 2。乙の関与に関する具体的事実の検討
3提供した情報と図面が,犯行の時機・侵入口・対象の選定を可能にしたことを評価する。46頁。乙が甲に提供した情報の具体的内容16頁 2。乙の関与に関する具体的事実の検討
4現場付近まで車で送ったことなど,犯行当日の行動を役割分担として評価する。36頁。犯行当日の甲乙の行動間接(16頁 2。乙の関与に関する具体的事実の検討)
5分配の合意と実際の分配を,乙の利害と正犯性に結び付ける。46頁。甲乙間の金銭の分配状況16頁 2。乙の分け前が少ない点のみを論拠に幇助犯とする論述
6奪取の態様に関する事前の合意を,Aの不在時を狙う計画から認定する。56頁。甲乙が想定していた金品奪取の態様16頁 2。現実の強盗から強盗の事前共謀を認定する強引な答案,17頁 2。事前共謀の内容を窃盗とする答案
7共謀が及ぶ財物の範囲を,ほかの金品への言及と300万円を中心とする合意とを比較して示す。56頁。奪取対象となる金品の範囲17頁 2。300万円の窃盗か,302万円の窃盗の限度かの明示

2 甲の罪責

番号評価項目重み出題の趣旨採点実感
8窓からA方へ立ち入った行為に住居侵入罪の構成要件を当てはめる。36頁。A方に入った行為の構成要件への当てはめ記載なし
9300万円をポケットに入れた行為に窃盗既遂の構成要件を当てはめる。36頁。300万円をジャンパーのポケットに入れた行為の当てはめ記載なし
10刃物の提示,発言,胸倉をつかんだ行為と被害者・現場の事情を,反抗を抑圧するに足りる程度の暴行・脅迫の規範に当てはめる。46頁。反抗を抑圧するに足りる程度の暴行・脅迫の有無16頁 2。屋内でBが容易に助けを求められない状況
11暴行・脅迫から封筒の交付・2万円の取得までのつながりを示す。46頁。現金2万円を奪った行為の法的評価16頁 2。強盗罪の成立要件への当てはめ
12現金の交付後の追加の要求と物色までを,暴行・脅迫の利用の連続性から一連の行為として評価する。3間接(6頁。カッターナイフを示すなどして2万円を奪った行為の評価)16頁 2。甲の行為を分断的に捉える答案
13玄関の直外での転倒時まで強盗の機会が続いていたかを示す。46頁。強盗の機会性の有無間接(16~17頁 2。強盗罪の枠組み)
14威嚇・追跡による逃走の危険が右手首の骨折に現実化したかを示す。46頁。因果関係の有無記載なし
15事前の合意と現場での意思連絡を踏まえ,乙の暴行による死亡の甲への共犯としての帰責を検討する。56頁。乙との共犯関係に基づく帰責の可否16~17頁 2。共謀内容と強盗罪の枠組みの両方の観点
16甲自身の強盗の機会と因果関係を検討し,乙の新たな暴行が生じさせた死亡の帰属を判断する。56頁。強盗罪固有の枠組みによる帰責の可否16~17頁 2。共謀内容と強盗罪の枠組みの両方の観点

3 乙の罪責

番号評価項目重み出題の趣旨採点実感
17乙について,住居侵入及び300万円の窃取の共犯形態を示す。36頁。甲によるA方への侵入と300万円の窃取に関する乙の罪責間接(16頁 2。甲乙の共犯関係)
18予定された窃取と現実の強取のずれを示し,38条2項を踏まえて強盗と窃盗の構成要件の重なりと帰責する金額を論じる。56頁。乙が予見していた事情と甲が実際に行ったことのずれ17頁 2。錯誤論を前提とした乙の具体的な罪責
19乙が自ら屋内で窃取していなくても,窃盗の共同正犯として238条の主体となることを示す。4間接(6頁。乙に成立する犯罪の構成要件要素)間接(17頁 2。乙の事後強盗(致死))
20乙が通報を防ごうとした事情を,逮捕を免れる目的に当てはめる。4間接(6頁。構成要件要素への具体的事実の当てはめ)間接(17頁 2。乙の事後強盗(致死))
21乙が現場付近を一時離れて戻った経過と,犯行直後の場所・時系列から,窃盗と路上の暴行との連続性を判断する。5間接(6頁。構成要件要素への具体的事実の当てはめ)17頁 2。財物奪取と暴行との関連性
22口を塞ぐ行為,殴打,蹴りの具体的な態様から,反抗を抑圧するに足りる程度の暴行を判断する。4間接(6頁。構成要件要素への具体的事実の当てはめ)17頁 2。反抗抑圧に足りる程度の暴行
23乙の殴打,転倒,後頭部の打撃と死亡を結び付け,強盗致死罪の成否を示す。46頁。Bを殴る・蹴るなどして死亡させたことについての犯罪の選択17頁 2。乙の事後強盗(致死)罪の成否
24〔注意〕強い殴打や死の結果から,乙の殺意を直ちに認定しない。2記載なし17頁 2。乙の殺意を無理に認定する答案

4 罪数

番号評価項目重み出題の趣旨採点実感
25当人ごとに,先行する窃盗の包摂,住居侵入との牽連,別の強盗の個数と罪数上の関係を示す。46頁。罪数評価及び共犯の成立範囲記載なし

5 重みの分布

25項目の内訳は,重み5が7項目,重み4が11項目,重み3が6項目,重み2が1項目,重み1が0項目であり,重みの合計は99点である。
表の区分ごとには,甲乙の共犯関係が7項目・29点,甲の罪責が9項目・35点,乙の罪責が8項目・31点,罪数が1項目・4点である。
問題文の配点は第1問全体で100点であり,区分ごとの配点は示されていない。

重み5の7項目は,次のとおりである。
①番号1は,実行行為を分担していない乙を共同正犯と幇助犯のいずれとするかを決める判断基準である。
②番号6は,事前の合意が窃盗にとどまるか強盗を含むかを決め,甲の強盗とBの死傷を乙に帰責できるかの前提となる。
③番号7は,共謀が及ぶ財物の範囲であり,採点実感は,乙が300万円の窃盗について責任を負うのか,302万円の窃盗の限度で責任を負うのかを明らかにするよう求めている(17頁)。
④番号15と番号16は,乙の暴行によるBの死亡を甲に帰責できるかを,共犯関係と甲自身の強盗の枠組みという二つの経路から検討するものであり,採点実感は,両方の観点で問題となり得ることを論じた答案は少数であったとしている(16~17頁)。
⑤番号18は,乙の予見と甲の行為のずれを38条2項によって処理し,乙の罪責を具体的な金額で確定する。
⑥番号21は,乙の路上の暴行が窃盗の機会に行われたかを決め,乙の事後強盗の成否を左右する。

主要な理由付けと当てはめは重み4に,構成要件への基本的な当てはめと共犯の事情の個別の評価は重み3に整理した。

第5 模範解答

1 答案の前提と表記

答案は,平成20年5月18日の試験当時の刑法を前提とし,条文は刑法を指す。
答案は,事前の共謀の対象を書斎の300万円の窃取と認定する。
甲の300万円について事後強盗が成立するかは,追加の財物を得る目的と,先行の窃盗について逮捕を免れる目的が併存したかによって分かれ,答案は,刃物を突き付けた一連の行為を追加の強取を遂げるための制圧と評価して,事後強盗の成立を認めない構成を採る。

2 答案

第1 A方への侵入と現金300万円の窃取

1 甲は,窃盗の目的で,Aの外出直後に無施錠のトイレの窓を開けてAの住居に入った。
Aの意思に反する立入りであり,住居侵入罪(刑法130条前段)が成立する。
甲は,Aが書斎の引き出しで管理していた現金300万円を,自己らのために使う意思でジャンパーのポケットに入れた。
この時点でAの占有を排除して現金を自己の支配下に移したから,窃盗罪(235条)が既遂となる。

2 実行行為を分担していない者も,他の者と意思を通じ,互いの行為を利用して自己の犯罪を実現したと認められるときは,共同正犯(60条)となる。
共同正犯と幇助犯(62条1項)の区別には,犯罪による利益,計画への関与,分担した役割と実行への寄与を考慮する。

乙は,危険を理由に甲と一緒にA方に入ることを断り,現に室内での実行を分担しなかった。
他方,乙は,300万円のうち100万円を得る約束の下で,単に甲がすでに決めた計画を手伝うだけでなく,Aの不在の時間帯,無施錠の窓,書斎の机という,侵入方法と奪取対象を具体化する情報を提供した。
さらに見取り図を作り,現場を確認させ,当日も甲を送り届けた。
甲は実際に図面を使って侵入し,予定した現金を手に入れた。
実際の100万円の分配も当初の利害の共通性を裏付ける。
これらを総合すると,乙は役割を分けて甲と共同で犯罪を実現する意思を持ち,甲の実行を利用してこれを遂げたといえる。

乙が甲を降ろして現場を離れたのは,乙の車を見られないようにするために甲に求められたからである。
犯罪をやめる旨の意思表示も,提供した図面等の寄与を解消する行為もない。
したがって,乙には,甲の住居侵入及び300万円の窃盗について共同正犯が成立する。

3 ただし,乙はAが一人暮らしであると認識し,その不在時間に無施錠の窓から侵入して金を取る計画を立てていた。
刃物は甲が独自に準備し,暴行・脅迫により金品を奪う合意は認められない。
対象についても,乙は他の金目の物に言及していたが,報酬の算定も図面の用途も書斎の300万円を中心とする。
甲がその確保後に別の金品を探すと決めた経過を併せると,共謀が及ぶ対象は書斎の300万円と解する。

第2 居間での現金2万円の取得とBの骨折

1 甲は,70歳のBの目の前に約5センチメートル出したカッターナイフの刃を突き出して金を求めた。
叫んだBの胸倉をつかみ,左頬に刃先を突き付けて殺害を告げ,Bがしゃがんだ後も刃先を突き付けて金を要求した。
Bは屋内で直ちに他人の助けを得にくく,至近距離で身体を拘束され,抵抗すれば直ちに刃物で加害され得る状況にあった。
暴行・脅迫は客観的に反抗を抑圧するに足りる。
これによってBはAの現金が入った封筒を渡し,甲はその2万円を自己のポケットに入れた。
甲は暴行・脅迫を手段として他人の財物を強取したから,1項強盗罪(236条1項)が成立する。
甲は同じ威圧を利用してさらに金の所在を問い,続けて物色したのであり,これを別の強盗未遂として切り離す必要はない。

2 先行する300万円の窃盗との関係では,甲は窃取直後にまだA方内にいた。
Bを黙らせる際,声が近所に届くことを恐れた点は逮捕免脱目的をうかがわせる。
他方,聞かれることを恐れたのが先行窃盗の発覚を避けるためか,現に行っていた強取を遂げるためかは,声への懸念だけでは判別できない。
甲はBを見て直ちに新たな金品を求め,Bを制した後も同じ姿勢で要求を続けた。
Bを追う際の「待て」という発言だけからは,先行窃盗の逮捕を免れるために反抗抑圧に足りる新たな脅迫を行ったとは認め難い。
本答案では,刃物を突き付けた一連の行為を追加の強取を遂げるための制圧と評価し,300万円について事後強盗罪(238条)の成立を認めない。
もっとも,先行窃盗についての逮捕免脱目的も併存したと認めるなら,同じ暴行・脅迫が238条の要件を満たし得る。

3 強盗に伴う暴行・脅迫による危険が傷害として現実化したときは,強盗の手段が被害者に直接傷害を負わせていなくても,強盗致傷罪(240条前段)が成立する。
Bは刃物による至近距離の威嚇を受けた直後に甲に追われ,捕まれば殺されると恐れて必死に玄関から逃げ,外へ出た直後に足がもつれて右手首を骨折した。
甲が玄関で追跡をやめても,それがBに伝わり逃走の切迫性が解消された事情はない。
場所が玄関の外に移ったことも,連続した逃走を中断させない。
転倒は強盗の機会に起き,甲の行為が作り出した危険の現実化といえる。
よって,甲に強盗致傷罪が成立する。

4 乙の故意は無人の間の窃取に向けられており,Bに対する暴行・脅迫を伴う強取についての意思連絡はない。
乙はこの行為を知らず,骨折を生じさせた威嚇・追跡にも加わっていない。
したがって,強盗致傷罪を乙に帰責できない。
重い犯罪を基礎付ける事実を知らなかった者には重い罪を負わせられない(38条2項)。
強盗と窃盗が他人の財物を不法に取得する限度で重なるとしても,軽い窃盗の共同正犯が成立するには,当該財物が共謀の対象に含まれることを要する。
2万円は甲が300万円の確保後に別途手に入れたもので,上述の共謀の範囲に入らない。
乙は300万円の窃取につき共同正犯となるが,2万円については窃盗の責任も負わない。

第3 路上における乙の暴行とBの死亡

1 乙は300万円の窃盗の共同正犯であり,自らA方で現金を手にしていなくても238条の主体である。
同条が適用されるには,窃盗の機会の継続中に,逮捕を免れるなど同条所定の目的で,相手方の反抗を抑圧するに足りる暴行又は脅迫に及んだことを要する。

乙はいったん車で現場付近を離れたが,甲のことが気掛かりになって帰路から戻った。
乙は車内から,Bが玄関の外で転び,直ちに起き上がって「どろぼう」と叫びながらA方前の路上に出るところを見て,すぐにBに暴行した。
甲はまだ逃走を終えていない。
犯行の発見から現場直近で連続した経過であり,乙が一時離れたことを考慮しても,窃盗と暴行との間に犯行が安全に終了したといえる中断はない。
乙はBが甲の窃盗を発見したと考え,近所からの通報を防ぐためにBを黙らせようとした。
甲が発覚して逮捕されれば共同して窃取した自らの関与にも及び得ることから,自己を含む逮捕の回避が目的に含まれる。

乙は背後からBの首に腕を回し口を塞いだ。
Bが噛みついた直後,顔面を力一杯殴り,助けを求めて逃げようとするBの背部と腹部を数回蹴った。
相手は70歳であり,発声と逃走を封じる行為が短時間に連続している。
殴打には噛まれたことへの反応という側面があるが,直前には発声を封じ,直後にも救援を求めて逃げようとしたBを続けて蹴っていることから,死因となった殴打にも通報を防いで逮捕を免れる目的が及んでいたといえる。
Bが一度抵抗できたことを考慮しても,一連の暴行は客観的に反抗を抑圧するに足りる。
噛みつきは乙の暴行から逃れるための抵抗であり,手を離した後の殴打と逃走するBへの蹴りを正当防衛とする事情はない。
以上により,乙に事後強盗罪が成立する。

2 顔面を力一杯殴れば,相手が倒れて近くの硬い物に頭を打つ危険がある。
Bは現に殴打で転倒し,ブロック塀の角に後頭部を強打して頭蓋骨を骨折し,それによる脳内出血で死亡した。
死亡は乙の殴打の危険が現実化したものであり,後続の蹴りや搬送はこの連鎖を切断しない。
殴打は事後強盗の暴行に当たるから,乙に強盗致死罪(240条後段)が成立する。
殴打等の強さは暴行の故意を裏付けるが,その経過から死の可能性の認識・認容までを認定するには足りない。

3 甲が乙の路上暴行による死亡の責任を負うかは,まず共犯関係から検討する。
甲乙の事前共謀は窃盗を内容とし,甲は乙が戻って来たことも路上でBに暴行したことも知らなかった。
甲が乙の車の方へ来た時にはBは倒れていた。
両名にそれぞれ強盗又は事後強盗が成立し,事後に一緒に逃走しても,それだけで路上暴行を共同で行ったことにはならない。

次に甲の強盗との関係では,Bが玄関から外へ逃げ出した直後に近くで乙に襲われた点には時間的・場所的な近さがある。
この近さからなお甲の強盗の機会に含まれるとみる余地があるとしても,甲はすでに追跡をやめ,裏口へ向かっていた。
Bの死亡は,甲による威嚇・追跡で転倒したことによるものではなく,事情を知らずに戻った乙が独自に発声を止めようとして顔面を殴り,Bが塀に頭を打ったことによる。
甲の強盗に連続する逃走の危険が死亡として現実化したとはいえない。
甲自身の強盗を基礎としても,240条後段によってBの死亡を甲に帰責することはできない。

第4 罪数

甲の住居侵入は300万円の窃盗の手段であり,両罪は牽連犯(54条1項後段)となる。
この窃盗の完了後,甲が別に金品を求めてBに暴行・脅迫したことで成立する強盗致傷罪は,窃盗とは別個の犯罪であるが,同じく住居侵入を手段とするから,住居侵入と牽連犯の関係に立つ。
したがって,甲の住居侵入,窃盗及び強盗致傷は,全体を一罪としてその最も重い刑により処断する(54条1項後段)。

乙の先行窃盗は事後強盗を基本犯とする強盗致死罪に取り込まれ,住居侵入罪は同罪と牽連犯となる。

以上

3 出題の趣旨・採点実感を踏まえた解説

(1) 答案と評価項目の対応

答案の第1は侵入,窃取及び共謀の範囲を扱う。
第2は居間での強取と骨折及び乙への帰責,第3は路上の暴行と死亡及び甲への帰責,第4は罪数を扱う。
重み3以下の項目のうち,番号8・9は第1の1,番号2・4は第1の2第2段落,番号17は第1の2第3段落,番号12は第2の1の末尾,番号24は第3の2の末尾に対応する。

番号重み評価項目答案の該当箇所・留保
15共同正犯と幇助犯の区別の判断基準を示す。第1の2第1段落
34提供した情報と図面が,犯行の時機・侵入口・対象の選定を可能にしたことを評価する。第1の2第2段落
54分配の合意と実際の分配を,乙の利害と正犯性に結び付ける。第1の2第2段落
65奪取の態様に関する事前の合意を,Aの不在時を狙う計画から認定する。第1の3,第3の3第1段落
75共謀が及ぶ財物の範囲を,ほかの金品への言及と300万円を中心とする合意とを比較して示す。第1の3,第2の4
104刃物の提示,発言,胸倉をつかんだ行為と被害者・現場の事情を,反抗を抑圧するに足りる程度の暴行・脅迫の規範に当てはめる。第2の1
114暴行・脅迫から封筒の交付・2万円の取得までのつながりを示す。第2の1
134玄関の直外での転倒時まで強盗の機会が続いていたかを示す。第2の3
144威嚇・追跡による逃走の危険が右手首の骨折に現実化したかを示す。第2の3
155事前の合意と現場での意思連絡を踏まえ,乙の暴行による死亡の甲への共犯としての帰責を検討する。第3の3第1段落
165甲自身の強盗の機会と因果関係を検討し,乙の新たな暴行が生じさせた死亡の帰属を判断する。第3の3第2段落
185予定された窃取と現実の強取のずれを示し,38条2項を踏まえて強盗と窃盗の構成要件の重なりと帰責する金額を論じる。第2の4
194乙が自ら屋内で窃取していなくても,窃盗の共同正犯として238条の主体となることを示す。第3の1第1段落
204乙が通報を防ごうとした事情を,逮捕を免れる目的に当てはめる。第3の1第2段落
215乙が現場付近を一時離れて戻った経過と,犯行直後の場所・時系列から,窃盗と路上の暴行との連続性を判断する。第3の1第2段落
224口を塞ぐ行為,殴打,蹴りの具体的な態様から,反抗を抑圧するに足りる程度の暴行を判断する。第3の1第3段落
234乙の殴打,転倒,後頭部の打撃と死亡を結び付け,強盗致死罪の成否を示す。第3の2
254当人ごとに,先行する窃盗の包摂,住居侵入との牽連,別の強盗の個数と罪数上の関係を示す。第4

(2) 共謀の範囲と乙の正犯性

出題の趣旨は,乙が一緒に盗みに入ることを断り,実際に自らはA方に盗みに入らなかったことに着目して,共謀共同正犯の成立要件ないし共同正犯と幇助犯の区別の判断基準に当てはめ,その際に甲乙が想定していた金品奪取の態様や奪取対象となる金品の範囲を明確に意識するよう求めている(6頁)。
答案は,乙が室内で実行しなかった点と,計画を具体化して利益の分配を受けた点を,共謀共同正犯と幇助犯を区別する事情として評価した(番号1~5・17)。

奪取の方法と対象物は別の問題である。
無人の時に入る計画には強盗の合意が含まれず,ほかの金目の物への言及があっても,答案では共謀の対象を書斎の300万円までと認定した(番号6・7・18)。
採点実感は,乙の罪責を「窃盗罪の限度」と抽象的に示すだけでは足りず,300万円の窃盗であり2万円については責任を負わないという趣旨なのか,302万円の窃盗の限度で責任を負うという趣旨なのかを明らかにする必要があるとしている(17頁)。

(3) Bの骨折と死亡を誰に帰責するか

答案は,甲の屋内での威嚇と追加の物色を一連の行為と捉え,刃物の使い方,Bの年齢及び助けを求めにくい状況から反抗抑圧の程度を評価した(番号10~12)。
採点実感は,甲の行為を脅迫罪,強要罪,新たな別個の強盗未遂罪などと細切れに捉える答案を不適切とし,A方の屋内でBが容易に助けを求められる状況にないこと等にも触れた答案を挙げている(16頁)。

骨折については,玄関の外での転倒までの機会の継続と,恐怖による逃走から骨折までの因果関係を示した(番号13・14)。
死亡については,乙との共犯関係による経路と甲自身の強盗による経路を検討した(番号15・16)。
採点実感は,甲乙間に強盗の共謀がない以上,強盗罪の共犯として責任を負わせることはできず,甲に成立する強盗罪との関係でも因果関係等を認定できない旨を事実を示しつつ検討した答案を秀逸としている(17頁)。
第7の3②の東京高裁判決は,強盗犯人自身が発射したびょうによる傷害を強盗の機会における傷害とした事例であり,本問のBの死亡は,甲の行為ではなく,事情を知らずに戻った乙の独自の暴行によって生じた点で異なる。

(4) 乙の事後強盗と罪数

答案は,乙が窃盗の共同正犯であることを前提に,逮捕を免れる目的,窃盗の機会,暴行の程度を順に当てはめた(番号19~22)。
採点実感は,乙に事後強盗(致死)罪が成立し得ることは多数の答案が指摘していたものの,反抗抑圧に足りる程度の暴行といえるか,財物奪取と暴行との関連性は認められるかという点まで具体的に論じた答案は多くなかったとしている(17頁)。
第7の3①の福岡高裁判決は,窃盗未遂の犯人が追跡を受けることなく現場から離れ,約1時間休息した後に巡査に誰何されて殺害した行為を,窃盗の機会の継続中のものとは認めなかった。
本問の乙は現場付近を一時離れたが,Bが「どろぼう」と叫んで路上に出た直後に,現場の直近で暴行に及んでおり,甲もまだ逃走を終えていなかったことから,答案は窃盗の機会の継続を認めた。

死亡は,顔面の殴打による転倒と頭部の打撃に結び付け,殺意は認定していない(番号23・24)。
罪数は,甲と乙がそれぞれどの財物について何罪を負うかを確定した後に整理し,甲については,住居侵入が窃盗と強盗致傷のいずれの手段にもなっていることから,全体を一罪として処断する構成とした(番号25)。

(5) 答案の弱点と扱わなかった事項

甲の300万円について事後強盗を肯定する構成を採るなら,どの暴行・脅迫がその要件を満たすかを特定し,2万円の強盗との行為の重なり,骨折の帰属及び罪数を改めて説明する必要がある。
共謀が居間の2万円にも及んだと認定する構成では,38条2項を踏まえて強盗と窃盗が重なる限度でその2万円を乙に帰責し,乙の窃盗の対象は合計302万円になる。
同時傷害の特例や分け前の授受に関する独立の犯罪は,答案の主たる検討から外した。
採点実感は,理解が不十分なまま承継的共犯や片面的共犯等の概念を用いた答案を低い評価としており(17頁),答案はこれらの概念を用いていない。

第6 関連記事

1 同じ年度の司法試験の記事

①平成20年司法試験論文式試験の主要7科目の模範解答と評価項目
②平成20年司法試験公法系科目第1問(憲法)の模範解答と評価項目
③平成20年司法試験公法系科目第2問(行政法)の模範解答と評価項目
④平成20年司法試験民事系科目第1問(民法)の模範解答と評価項目
⑤平成20年司法試験民事系科目第2問(商法・民事訴訟法)の模範解答と評価項目
⑥平成20年司法試験刑事系科目第2問(刑事訴訟法)の模範解答と評価項目
⑦平成20年度旧司法試験論文式試験の模範答案―憲法・民法・刑法・商法・民事訴訟法・刑事訴訟法の全12問と出題趣旨を踏まえた解説(AI作成)

同年度の他の問題は,平成20年新司法試験試験問題の一覧で,出題の趣旨と採点実感は,平成20年新司法試験の結果についてで確認できる。

2 同じ科目の別の年度の記事

①平成21年司法試験刑事系科目第1問(刑法)の模範解答と評価項目
②平成22年司法試験刑事系第1問(刑法)の模範解答と評価項目
③平成23年司法試験刑事系第1問(刑法)の模範解答と評価項目
④令和2年度司法試験刑事系第1問の模範解答と評価項目
⑤令和7年度司法試験刑事系第1問の模範解答と評価項目

3 本問の論点に関連する山中弁護士ブログの記事

①共謀共同正犯か幇助犯か-実行行為をしない関与者の正犯性,順次共謀及び共犯の錯誤(AI作成)
②強盗後に被害者が転倒・負傷した場合の強盗致傷罪―手段たる暴行,因果関係及び「強盗の機会」(AI作成)
③事後強盗と「窃盗の機会」の終了―発見・追跡,現場離脱と再侵入の確認事項(AI作成)
④共犯関係が途中で変わった場合の傷害責任-共謀の射程,共犯からの離脱及び刑法207条(AI作成)

第7 出典

1 公式資料

①法務省「論文式試験問題集[刑事系科目]」(平成20年新司法試験)(2~4頁の第1問)
②法務省「平成20年新司法試験論文式試験問題出題趣旨」(6~7頁の刑事系科目〔第1問〕)
③法務省「平成20年新司法試験の採点実感等に関する意見」(16~17頁の刑法)
④法務省「平成20年新司法試験の実施日程等について」(平成19年8月2日司法試験委員会決定。論文式試験の刑事系科目の実施日)

2 法令

刑法の条文は,e-Gov法令検索で取得できる最も古い時点(平成29年4月1日)の版(平成28年6月23日施行)によった。
試験日の後,この版までの刑法の改正(平成22年法律第26号,平成23年法律第74号,平成25年法律第49号,平成25年法律第86号及び平成28年法律第54号)は,答案が用いる36条,38条,45条,54条,60条,62条,130条,235条,236条,238条及び240条を改めていない。

3 裁判例

①福岡高裁昭和29年5月29日判決(昭和28年(う)第3093号,高刑集7巻6号866頁):窃盗未遂の犯人が犯行現場から追跡を受けることなく逃走し,約1時間休息した後,犯人を捜査中の巡査に誰何されて逃走し,組み付いてきた巡査を逮捕を免れるために殺害した行為について,窃盗未遂の犯行の機会の継続中にされたものとは認められないとして,事後強盗による強盗殺人罪の成立を否定した。
②東京高裁昭和52年3月8日判決(昭和50年(う)第1570号,高刑集30巻1号150頁):強盗犯人が殺意をもって警ら中の巡査に建設用びょう打銃を発射し,びょうが付近の通行人にも傷害を負わせた場合に,その発生につき過失が認められる限り,強盗の機会における傷害として,通行人に対する強盗殺人未遂罪が成立するとした。

4 留意事項

出題の趣旨は6~7頁の刑事系科目〔第1問〕の部分を,採点実感は16~17頁の刑法の部分を,評価項目の根拠とした。
答案・評価項目・5段階の重みは,法務省の公式資料を参照した記事独自の構成であり,法務省の採点基準・配点を示すものではない。
上記の裁判例は,窃盗の機会の継続と強盗の機会の範囲を考えるための参照例であり,本問の事実への当てはめは本答案の判断である。