第1 この記事の対象と結論
平成19年5月16日に実施された新司法試験の公法系科目第2問(行政法)を扱う。
留学生Aが,退去強制令書に基づく収容と送還を止め,留学を続けるためにどの手続を採り,何を主張するかが問われた。
法務省の出題の趣旨と,考査委員が採点実感等を述べた公法系科目のヒアリングの概要を基に,評価項目28件を抽出し,5段階の重みを付けた。
評価項目と重みは本記事独自の整理であり,法務省の採点基準や配点を示すものではない。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 対象 | 平成19年新司法試験・論文式・公法系科目第2問(行政法) |
| 公式問題文 | 論文式試験問題集[公法系科目](PDF10~17頁の第2問・資料1~3) |
| 試験日・答案の基準 | 平成19年5月16日(公法系科目の論文式試験の実施日)。答案は試験当時の法令による。 |
| 出題の趣旨 | 平成19年新司法試験論文式試験問題出題趣旨(PDF2~3頁の公法系科目第2問) |
| 採点実感 | 新司法試験考査委員(公法系科目)に対するヒアリングの概要(PDF4~9頁の行政法の報告と質疑) |
| 主要事項 | 令書発付処分の取消し・執行停止,原処分主義と裁決主義,資格外活動と退去強制事由 |
| 評価項目 | 28項目,うち重み5は5項目,重みの合計105 |
| 裁判例 | 大阪地裁平成18年1月25日判決(平成16年(行ウ)第15号)の裁決主義と退去強制事由の判断枠組みを参照した。 |
| 答案の分量 | 4506字(見出し,空白及び改行を除く。) |
| 法令の時点 | 設問の資料と試験当時の法令による。試験後の改正は答案に適用しない。 |
| 資料の確認日 | 令和8年11月7日 |
答案は,令書発付処分の取消訴訟を提起し,収容部分と送還部分の双方の執行停止を求める。
退去強制事由該当の判断自体については,入管法上の手続の一体性を重視し,最終裁決の取消訴訟を選ぶ。
R店での勤務が資格外活動許可の範囲を外れるとしても,就労を専ら行っていると明らかに認められるとはいえず,入管法24条4号イには該当しないと主張する。
重み5は,現在の令書に対応する本案と暫定救済の組合せ(番号2),収容・送還を分けた救済(番号4),認定・裁決から訴訟対象を選ぶこと(番号15),退去強制の二要件の分離(番号20),専従を判断する解釈と総合評価(番号24)である。
第4に全項目,第5に答案と設問別の解説,第7に出典を置く。
第2 評価項目の示し方と重み付けの基準
1 評価項目の示し方
公式資料の記述を,答案で確認できる単位に整理した。
出典列の「間接」は,関連する公式記述から論証や具体的な条文要件を導いた箇所を指す。
「記載なし」は,本問に関する範囲に個別の記述がない箇所である。
平成19年の公法系科目では,採点実感等は司法試験委員会第41回(平成19年10月3日)の議事要旨に掲載された考査委員に対するヒアリングの概要として公表されているので,採点実感欄はその行政法部分の頁と要旨を示す。
「注意」は誤りの回避を評価する項目である。
同じ誤りを他の項目と重ねて評価しない。
「許容分岐」の番号10は,取消しと執行停止以外を主たる救済とする答案だけに適用する。
第4の分布は,これらを含めた公開表の行数である。
2 5段階の重み付けの基準
| 重み | 基準 |
|---|---|
| 5 | その設問の判断を大きく分ける核心。 |
| 4 | 結論を理由付きで支える主要な論証・当てはめ。 |
| 3 | 通常押さえる法的処理・事情の評価。 |
| 2 | 論証を補強する説明・個別事情・誤りの注意。 |
| 1 | 補充的な引用・記述範囲の確認。 |
重みは本記事が設問内の役割に基づき付けた数値である。
法務省の公式採点基準・配点・得点とは区別する。
第3 本問の概要
1 問題文と事実関係
法務省の問題文・資料1~3の第2問はPDFの10~17頁にある。
留学の在留資格で大学に在学するAは,父の会社の倒産で学資援助を失い,資格外活動許可を受けてP店で働き始めた。
滞在経費を補うため,週21時間のまま時給の高いR店に移った。
R店は営業許可を受けずに風俗営業をしていたが,Aは接客をせず,厨房手伝い・掃除等を行っていた。
R店の摘発後,入国審査官の認定,特別審理官の判定,地方入国管理局長の裁決を経て,主任審査官が5月6日に退去強制令書を発付した。
Aは令書により収容され,送還はまだ行われていない。
Aは大学の第4学年で,翌年3月に卒業する見込みである。
2 設問が求めること
| 設問 | 立場・対象 | 指定・仮定・除外 | 到達点 |
|---|---|---|---|
| 1(1) | Aの代理人側。5月6日の令書による現在の収容と送還。 | 行訴法上の手段に限る。4月の収容令書とは区別する。 | 本案の対象を特定し,収容と送還を止める暫定手段を示す。 |
| 1(2) | 認定と裁決のうち事由該当性を直接争う対象。 | 認定を原処分,判定・裁決を不服申立ての裁決とする。 | 両主義の根拠と主張できる範囲を比較し,一つ選ぶ。 |
| 2 | Aに退去強制事由があるかについての実体法上の主張。 | 在留特別許可,仮放免及び人身保護請求を除外する。 | 19条違反と24条4号イの上乗せ要件を分け,具体的な事実に即して争う。 |
第4 評価項目と重み
1 設問1(1) 収容・送還を止める手段
| 番号 | 評価項目 | 重み | 出題の趣旨 | 採点実感 |
|---|---|---|---|---|
| 1 | 令書発付が収容・送還の法的根拠を具体化するため処分に当たると説明する。 | 4 | PDF2頁・設問1(1)。発付の法的性格 | PDF5,6~7頁・発付を特定しない答案 |
| 2 | 令書発付の取消しを本案とし,行訴法25条の執行停止を組み合わせる。 | 5 | PDF2頁・設問1(1)。取消訴訟と執行停止 | PDF5~6,8~9頁・救済手段の選択と仮の救済 |
| 3 | 取消訴訟を提起しただけでは令書の執行が止まらないことを示す。 | 3 | PDF2頁・設問1(1)。25条の要件に即した検討から間接 | PDF6頁・仮の救済を欠く答案から間接 |
| 4 | 令書の収容部分と送還部分を区別し,それぞれの執行停止の要否・可否を示す。 | 5 | PDF2頁・設問1(1)。収容継続と送還の区別 | PDF8頁・執行停止の事案への適用から間接 |
| 5 | 執行の停止で目的を達せる場合に効力停止を求めない理由を示す。 | 3 | PDF2頁・設問1(1)。25条所定の要件から間接 | 記載なし |
| 6 | 収容の継続がAの自由や就学に与える重大な損害と,その回避の緊急性を具体的に説明する。 | 4 | PDF2頁・設問1(1)。重大な損害の具体化と収容 | PDF6,8頁・執行停止の具体的当てはめから間接 |
| 7 | 送還により就学継続や原状回復が困難になる損害と,その回避の緊急性を具体的に説明する。 | 4 | PDF2頁・設問1(1)。重大な損害の具体化と送還 | PDF6,8頁・執行停止の具体的当てはめから間接 |
| 8 | 公共の福祉への重大な影響のおそれを,収容を解く場合も含めて具体的に評価する。 | 3 | PDF2頁・設問1(1)。25条の要件から間接 | PDF8頁・執行停止の当てはめから間接 |
| 9 | 退去強制事由を争える具体的な事情を示し,本案に理由がないとみえる場合かを判断する。 | 3 | PDF2頁・設問1(1)。25条の要件と本案の接続から間接 | PDF8頁・要件の事実適用から間接 |
| 10 | 【許容分岐】取消しと執行停止に代わる救済を採る場合,その適法性・補充性及び収容・送還双方を止める実効性を説明する。 | 4 | PDF2頁・設問1(1)。別の救済方法と差止めの例 | PDF6,8~9頁・代替手段を採る場合の説明 |
| 11 | 【注意】取消対象を認定・裁決の二つだけに限定して現在の令書への救済を落とす誤りを避ける。 | 3 | PDF2頁・設問1(1)と(2)の分離から間接 | PDF7~8頁・(2)を(1)の候補限定と誤解した答案 |
2 設問1(2) 認定と裁決の選択
| 番号 | 評価項目 | 重み | 出題の趣旨 | 採点実感 |
|---|---|---|---|---|
| 12 | 認定を原処分,判定・裁決を入管法独自の不服申立てに対する行訴法上の裁決とする設問の前提を採る。 | 3 | PDF2頁・設問1(2)。原処分と裁決の前提 | PDF5,7頁・会議録の検討枠 |
| 13 | 原処分主義を採る場合,認定の違法は認定取消訴訟で争い,10条2項により裁決取消訴訟では裁決固有の瑕疵だけを争うと説明する。 | 4 | PDF2頁・設問1(2)。原処分主義 | PDF5,7頁・10条2項の原則の理解 |
| 14 | 裁決主義を採る余地を入管法独自の手続構造から説明し,裁決取消訴訟で認定の違法を主張できると示す。 | 4 | PDF2頁・設問1(2)。裁決主義 | PDF5,7頁・例外を認める根拠 |
| 15 | 両主義の根拠を比較し,Aの事由該当性を争う取消対象を理由付きで一つ選ぶ。 | 5 | PDF2頁・設問1(2)。解答者の立場 | PDF7頁・立場を示さない答案 |
| 16 | 【注意】認定と裁決の関係を,先行行為の違法性が令書発付に及ぶかという問題に置き換えない。 | 3 | PDF2頁・設問1(2)。取消対象の限定から間接 | PDF7頁・この小問で違法性の承継に入り込む答案 |
3 設問2 退去強制事由の有無
| 番号 | 評価項目 | 重み | 出題の趣旨 | 採点実感 |
|---|---|---|---|---|
| 17 | 留学生の報酬活動の禁止と,学業を阻害しない範囲で相当な活動を許可し得る仕組みを示す。 | 3 | PDF2~3頁・設問2。資格外活動の限定,19条違反 | PDF5~6頁・入管法の条文構造と資料の理解 |
| 18 | 許可書の時間制限と営業所の除外を区別し,無許可営業・接客なしでもR店の仕事がAの許可書の文言から外れる理由を示す。 | 4 | PDF3頁・設問2。本件就労の19条違反の検討 | PDF5~6頁・条文と具体的事情から間接 |
| 19 | 学業非阻害・相当性に照らして,風俗営業所での活動を一律除外する運用へのAの反論を示す。 | 3 | PDF3頁・設問2。風営店一律扱いへの事実に即した検討 | PDF5頁・外国人側の主張の手掛かりから間接 |
| 20 | 19条1項違反と「専ら行つていると明らかに認められる」ことを別要件とし,単純違反から退去強制を直結させない。 | 5 | PDF3頁・設問2。19条と24条の関係 | PDF5,7頁・条文の構造と事由該当性 |
| 21 | 73条と70条1項4号の構成要件・法定刑の違いを,退去強制に上乗せ要件があるという解釈に使う。 | 4 | PDF3頁・設問2。軽い刑と重い刑の書き分け | PDF7頁・資格外活動が刑罰の対象となること |
| 22 | 入管当局が上陸時の経費支弁基準から国内就労で滞在費を賄う留学を抑制する理由を説明し,その基準を在留中へ直ちに適用できるかを検討する。 | 3 | PDF2頁・設問2。入管政策と就労しつつ勉学する形態 | PDF5~6頁・入管実務の考え方 |
| 23 | 当局が示す量的な推認と風営店就労を重く扱う質的な推認を,A側の検討に入る前に区別する。 | 3 | PDF2頁・設問2。量と質に関する当局の説明 | PDF5頁・入管側見解を会議録から読み取ること |
| 24 | 在留目的の実質的変更という解釈の条文上の位置を吟味し,Aが報酬活動を専ら行っているかを客観的事情の総合評価で判断する。 | 5 | PDF2~3頁・設問2。在留目的の語と解釈の検討 | PDF5,7頁・条文と事由の客観的性質 |
| 25 | 滞在費の額,収入源,経費の負担・使途,就労開始の経緯から,R店就労が学業のための補填かを評価する。 | 4 | PDF2~3頁・設問2。量,経緯及び事実に即した検討 | PDF6頁・事案への当てはめから間接 |
| 26 | 就労の期間・時間帯・作業内容を学業への負担という観点から評価する。 | 4 | PDF3頁・設問2。継続性,仕事の内容 | PDF6頁・事案への当てはめから間接 |
| 27 | 出席率・修得単位・成績と卒業見込みから,在留資格に係る活動が実質的に続いていたかを評価する。 | 4 | PDF3頁・設問2。学業成績,出席状況 | PDF6頁・事案への当てはめから間接 |
| 28 | 【注意】設問2の判断を,在留特別許可の広汎な裁量統制に置き換えない。 | 3 | PDF2頁・設問2。在留特別許可を除外 | PDF6~7頁・裁量統制中心の答案への指摘 |
4 重みの分布
28項目の内訳は,重み5が5項目,重み4が11項目,重み3が12項目,重み2が0項目,重み1が0項目であり,重みの合計は105点である。
設問別では,設問1(1)が11項目・41点,設問1(2)が5項目・19点,設問2が12項目・45点である。
重み5は,現在の令書に対応する本案と暫定救済の組合せ(番号2),収容・送還を分けた救済(番号4),認定・裁決から訴訟対象を選ぶこと(番号15),退去強制の二要件の分離(番号20),専従を判断する解釈と総合評価(番号24)である。
いずれも,救済手段,訴訟の対象又は退去強制事由の結論を左右する事項である。
第5 模範解答
1 答案の前提と表記
法律事務所の会議録に従い,弁護士Cの立場でAのために検討する。
入管法は出入国管理及び難民認定法,行訴法は行政事件訴訟法を指す。
第2問の本文と資料3に掲げられた試験時の条番号を使う。
2 答案
第1 設問1
1 収容の継続と送還を阻止する手続
主任審査官による5月6日の退去強制令書の発付は,単に退去強制事由該当の判断を伝えるものではない。
入管法49条6項・51条により行われ,これに基づき入国警備官はAを送還し,直ちに送還できない間は収容できる(52条1項・3項・5項,53条)。
Aに対して強制退去を具体化し,身体拘束と送還を行う法的根拠となるから,行政事件訴訟法(以下「行訴法」)3条2項の処分に当たる。
Aは,4月の収容令書ではなく,この発付処分の取消訴訟を提起する。
Aは処分の名宛人として原告適格を有し(9条1項),被告は処分庁の所属する国である(11条1項1号)。
発付を受けた直後の提訴であれば14条の期間内である。
49条6項による令書発付は先行する裁決を法定の前提とし,退去強制事由がある者を退去させる一連の手続を完成させる。
主任審査官が退去強制事由を再審査しないことは,発付が先行判断に依存することを示す。
事由該当の判断の違法は発付処分にも承継されると主張する。
承継が否定される場合に備え,事由該当の判断自体も次項のとおり争う。
取消訴訟を提起しても,処分の効力や執行は当然には止まらない(行訴法25条1項)。
そこで,提訴と同時に,同条2項により,令書に基づく執行のうち収容部分と送還部分の双方の停止を申し立てる。
収容部分の停止は現在の令書に基づく拘束を解くため,送還部分の停止は送還を阻止するためにそれぞれ必要である。
執行の停止によってこの目的を達することができるから,発付処分の効力の停止は求められない(同項ただし書)。
令書は既に発付され,争う対象はその執行である。
取消しと執行停止で収容と送還の双方に対処できる本件では,差止めと仮の差止めを選ぶ必要はない。
執行停止には,処分又はその執行等により生ずる重大な損害を避けるため緊急の必要があることを要する(同条2項)。
損害の回復困難の程度を考慮し,損害の性質・程度と処分の内容・性質を勘案する(同条3項)。
収容については,Aは既に身体の自由を奪われている。
収容が続く間,Aは自分で行動し,大学で学ぶ機会を日々奪われる。
第4学年で翌年3月に卒業見込みのAには,残る24単位の履修を妨げられ,予定どおりに卒業できなくなるおそれがある。
後に賠償金を得ても,拘束された時間と,その時期に履修する機会は取り戻せない。
既に損害が進行しており,送還部分だけを止めても収容は終わらないから,収容部分を止める緊急の必要がある。
送還については,入国警備官は速やかにAをF国に送還すべき立場にあり,現在の収容から送還へ移る危険がある。
送還されれば,Aは学業と国内での生活を本人の意思に反して中断される。
後に勝訴しても,再入国して元の時期に授業を受けられる保障はなく,金銭賠償で履修の機会を回復することも困難である。
代理人との打合せにも支障が及ぶ。
したがって,送還部分についても,送還が行われる前に重大な損害を避ける緊急の必要がある。
公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれ又は本案について理由がないとみえるときには,停止できない(同条4項)。
国は,送還を止めれば出入国管理の実効性が損なわれ,収容を解けば送還確保に支障があると反論し得る。
しかし,Aは大学に継続して在籍し,卒業に向けて単位を修得している。
入管法違反の疑いはあっても,摘発後にAが逃亡し,又は違反就労を再開する具体的事情は示されていない。
事案に即して必要な期間だけ収容・送還を止めることで重大な公益上の支障が生ずるとはいえない。
また,後述のとおり,Aは就労に専従していたとの認定を争う具体的根拠を有し,発付処分に先行判断の違法が承継されるとの主張にも根拠がある。
本案に理由がないとみえる場合に当たらない。
以上を,在学・成績等の資料で疎明し(同条5項),収容部分・送還部分の双方の執行停止を求める。
2 先行行為の取消訴訟の対象
入国審査官の該当認定を行訴法3条2項の処分,特別審理官の判定及び地方入国管理局長の裁決を同条3項の裁決とする。
行政不服審査法の適用除外は,入管法独自の不服申立てに対する判断が行訴法上の裁決であることを妨げない。
行訴法8条1項は,特別の定めがない限り,行政上の不服申立てとは別に原処分の取消訴訟を許す。
同法10条2項により,原処分と棄却裁決の各取消訴訟を提起できる場合,裁決取消訴訟で原処分の違法を理由とすることはできない。
入管法には裁決だけを取消訴訟の対象とする明文がなく,3日間という短期の申立期間を徒過した者の裁判上の救済を制限すべきでないと解すれば,原処分主義を採り,24条4号イ該当性の誤りは認定の取消訴訟で主張する。
裁決取消しを求められるとしても,裁決固有の瑕疵が必要となる。
これに対し,入管法の制度に裁決主義が読み取れるなら,認定の取消しを別に求めることはできず,10条2項の前提を欠く。
47条以下は,身体を拘束した状態で,各3日以内の口頭審理請求と異議の申出を経て,同一の退去強制事由について迅速に最終判断を下す手続を定める。
途中で非該当とされれば認定の形式的取消しを待たず放免される一方,異議棄却の裁決によって主任審査官は令書発付を義務付けられる。
この構造は,各判断を孤立させず,最終裁決の取消訴訟に退去強制事由の審理を集中させる根拠になる。
明文を重視する見解には,裁判上の救済の入口を狭めない利点がある。
しかし,上記のとおり,最終裁決に至るまで事由の存否を再審査し,いずれかの段階で非該当とされれば直ちに放免する仕組みである。
最終裁決の取消訴訟で認定の実体上の誤りも審理するなら,現に手続を尽くしたAの事由該当性を司法審査に付することができる。
そこで,裁決主義を採り,4月30日の裁決の取消しを求め,その訴訟で認定の違法を主張する。
現に収容・送還の根拠となる令書には,1で述べた発付取消しと執行停止で対処する。
第2 設問2
1 入管法19条1項違反の有無
24条4号イは,19条1項に違反する報酬活動と,それを専ら行っていると明らかに認められることを別々に要求する。
まず,Aの留学の在留資格で認められるのは大学で教育を受ける活動であり(2条の2第2項,別表第1の4),19条2項の許可を受けてする場合を除き,報酬活動は禁止される(同条1項2号)。
Aの許可は週28時間以内とするほか,風俗営業が営まれている営業所での活動を除外している。
R店の営業は客にダンスをさせ,接待して飲食させるもので,当時の風営法2条1項1号の風俗営業に当たる。
営業許可の有無は営業の適法性の問題であるから,無許可のR店も文言上の除外に含まれる。
Aが週21時間の勤務で接客をしていなくても,場所に着目する許可書の除外には該当する。
もっとも,19条2項は在留資格に係る活動の遂行を阻害しない範囲で相当な活動を許可できるとする。
留学生への許可は,週28時間以内,勉強・在留状況,必要経費を賄う目的及び通常の学生アルバイトの範囲を考慮して運用されている。
Aとしては,テーブルの準備,厨房手伝い,掃除,買物だけであれば通常の飲食店の仕事と変わらず,深夜の勤務も週3日・21時間であり,現に学業を維持しているから,一律除外を適用する合理性が乏しいと主張できる。
国は,深夜の風俗営業所の環境や営業への間接的関与を考慮し,在留管理上画一的に扱うことにも合理性があると反論し得る。
許可を受け得るかと現に許可されたかは異なるため,一律除外が不合理であると述べるだけではR店での勤務が許可の範囲に入ったことにはならない。
除外の効力を争う余地を残しつつ,19条1項違反があるとしても,次の要件を欠くと主張すべきである。
2 退去強制事由を基礎付ける就労への専従の有無
73条は19条1項違反の報酬活動を処罰するが,70条1項4号に該当する場合を除外する。
同号はその活動を専ら行っていると明らかに認められる場合に,より重い刑を定める。
24条4号イが後者と同じ要件を置くことからも,許可範囲を超えた報酬活動をしただけでは退去強制できない。
「専ら」は,他の活動が一切ないことまで要しないが,違反就労が在留中の活動の中心になったと明らかに認められる程度をいう。
「在留目的の実質的変更」は法文上の独立した要件ではない。
もっとも,在留資格ごとに認める活動を定める制度の下では,留学に付随する就労が本来の活動に取って代わったかを問う指標として用い得る。
本人の動機や収入額だけから目的の変更を擬制することはできない。
就労の内容・期間・時間,収入の目的・使途,勉学の実態とその阻害の程度を相互に関連付け,客観的に判断すべきである。
国は,7条1項2号及び同号の基準を定める省令が上陸時に生活費用の十分な支弁手段を要求することから,滞在経費を専ら国内就労で賄う場合には,在留目的が変更されたと解する。
また,風俗営業所での勤務は学業と両立しないとして,目的変更の有力な証拠にする。
しかし,この基準は上陸時の審査基準であり,資産以外に奨学金等を認め,他者が費用を支弁する場合も予定している。
適法に入国した後に援助が途絶えることはあり,経費の相当部分を国内で得たことをもって直ちに在留目的の変更とみるのは,勉学を妨げない報酬活動を許す19条2項や24条4号イの文言と整合しない。
上陸基準の趣旨は経費支弁の方法を評価する事情となるが,それだけで退去強制事由は決まらない。
Aは父の会社の倒産により月10万円の援助を失い,まず許可の範囲でP店に勤めた。
同じ週21時間でR店へ移ったのは滞在経費の不足を補うためである。
R店の収入は月10万円余りで,約14万円の滞在経費の相当部分を占めるが,それだけで費用を賄ってはいない。
月3万円の奨学金も生活費や教科書代に充て,授業料には一部免除を受け,なお不足する授業料は親戚の仕送りに依存する。
貯蓄に回す余裕もなく,就労で得た資金が遊興,蓄財又は事業のために使われた事案とは異なる。
収入は勉学を続けるための不足分を埋める機能を果たしていたといえる。
R店で9か月余り継続して週3日深夜まで勤務したことや,時給の高い店を選んだことは,就労の比重が大きいという方向に働く。
しかし,Aは接客に関与せず,作業は通常の飲食店でも行う準備・厨房手伝い等に限られる。
週21時間は許可書の時間基準を超えず,出席率は約8割で,3年次までに卒業に必要な124単位のうち100単位を修得した。
成績も優10,良10,可25科目で,卒業見込みがある。
風俗営業所であることは許可範囲の判断を左右するが,それだけでは現実の学業阻害を示さない。
接客に専心し欠席や単位不足が生じた例と比べ,Aについては就労が学業に取って代わったことを示す事情に乏しい。
経費の大きな部分を稼いでいても,その使途と学業の実態を併せてみれば,Aは勉学を維持するため就労したのであり,違反就労を在留中の活動の中心としていたと明らかには認められない。
よって,19条1項違反を認めるとしても,24条4号イの退去強制事由は認められない。
裁決取消訴訟でこの認定の誤りを主張し,令書発付処分の取消訴訟でも,同じ誤りが先行判断から承継されると主張する。
以上
3 出題の趣旨・採点実感を踏まえた解説
(1) 答案と評価項目の対応
答案の第1の1は番号1~11,第1の2は番号12~16,第2は番号17~28に対応する。
第1の1では,提訴に自動停止の効力がないこと,効力停止の補充性,消極要件を番号3・5・8・9に対応させた。
番号11・16・28の注意は,現在の令書,認定と裁決の比較,事由該当性の判断をそれぞれ区別することで処理した。
第2では,番号17・19・22・23の制度の説明と当事者の反論を,許可範囲の検討と専従性の判断に分けた。
第4の重み5・4の項目及び条件付きの項目について,模範解答との対応を次の表に示す。
| 番号 | 重み | 評価項目 | 答案の該当箇所・留保 |
|---|---|---|---|
| 1 | 4 | 令書発付が収容・送還の法的根拠を具体化するため処分に当たると説明する。 | 第1の1第1段落。発付による具体的な法的効果。 |
| 2 | 5 | 令書発付の取消しを本案とし,行訴法25条の執行停止を組み合わせる。 | 第1の1第1・第3段落。発付取消しと執行停止。 |
| 4 | 5 | 令書の収容部分と送還部分を区別し,それぞれの執行停止の要否・可否を示す。 | 第1の1第3~第5段落。収容と送還の停止を区別。 |
| 6 | 4 | 収容の継続がAの自由や就学に与える重大な損害と,その回避の緊急性を具体的に説明する。 | 第1の1第4段落。身体拘束と授業・卒業機会。 |
| 7 | 4 | 送還により就学継続や原状回復が困難になる損害と,その回避の緊急性を具体的に説明する。 | 第1の1第5段落。送還後の原状回復と訴訟追行。 |
| 10 | 4 | 【許容分岐】取消しと執行停止に代わる救済を採る場合,その適法性・補充性及び収容・送還双方を止める実効性を説明する。 | 適用外。答案は発付取消しと執行停止を採用。別の救済を主位にする場合に限る。 |
| 13 | 4 | 原処分主義を採る場合,認定の違法は認定取消訴訟で争い,10条2項により裁決取消訴訟では裁決固有の瑕疵だけを争うと説明する。 | 第1の2第2段落。原処分主義を採る場合の訴訟対象と主張制限。 |
| 14 | 4 | 裁決主義を採る余地を入管法独自の手続構造から説明し,裁決取消訴訟で認定の違法を主張できると示す。 | 第1の2第3段落。3段階の審査と即時放免の制度構造。 |
| 15 | 5 | 両主義の根拠を比較し,Aの事由該当性を争う取消対象を理由付きで一つ選ぶ。 | 第1の2第4段落。Aが採る手続として裁決取消しを選択。 |
| 18 | 4 | 許可書の時間制限と営業所の除外を区別し,無許可営業・接客なしでもR店の仕事がAの許可書の文言から外れる理由を示す。 | 第2の1第2段落。時間と営業所という別個の許可条件。 |
| 20 | 5 | 19条1項違反と「専ら行つていると明らかに認められる」ことを別要件とし,単純違反から退去強制を直結させない。 | 第2の1第1段落及び第2の2第1段落。19条違反から退去強制を直結させない。 |
| 21 | 4 | 73条と70条1項4号の構成要件・法定刑の違いを,退去強制に上乗せ要件があるという解釈に使う。 | 第2の2第1段落。73条と70条1項4号を対比。 |
| 24 | 5 | 在留目的の実質的変更という解釈の条文上の位置を吟味し,Aが報酬活動を専ら行っているかを客観的事情の総合評価で判断する。 | 第2の2第1・第2・第4段落。客観的な活動の中心を判断する。 |
| 25 | 4 | 滞在費の額,収入源,経費の負担・使途,就労開始の経緯から,R店就労が学業のための補填かを評価する。 | 第2の2第3段落。援助途絶・財源・使途を評価。 |
| 26 | 4 | 就労の期間・時間帯・作業内容を学業への負担という観点から評価する。 | 第2の2第4段落。深夜・継続性と作業内容を比較。 |
| 27 | 4 | 出席率・修得単位・成績と卒業見込みから,在留資格に係る活動が実質的に続いていたかを評価する。 | 第2の2第4段落。出席・成績・修得単位と卒業見込み。 |
(2) 設問1(1) 収容・送還を止める手段
出題の趣旨は,発付が処分に当たることを説明し,その取消訴訟と執行停止を選ぶなら,行訴法25条の要件を具体的に検討することを求める(番号1~9)。
考査委員のヒアリングでは,取消対象を特定しない答案,仮の救済がない答案,手段を重複して列挙する答案が問題とされた(番号2・10・11)。
答案では,5月の令書の発付が収容・送還の直接の根拠を作ることを示し,停止の対象を二つの執行部分に分けた(番号1・2・4)。
収容を解いて通学を再開できることと,国外への送還を阻止することは,別個の暫定的利益である(番号4・6・7)。
答案は,在学・修得単位・卒業見込みを挙げ,賠償によっても失われた時間や履修機会の回復は難しいと説明する。
出題の趣旨は人格の尊厳への侵害も例示する。
答案は,身体拘束により生活上の行動の自由と学ぶ機会が日々失われる点を取り上げた。
収容停止には送還の確保への影響もあるため,公共の福祉への影響をAの具体的事情に即して論じる(番号8)。
差止め・仮の差止めなど別の手段を採用する答案には,適法性に加え,既に発付された令書による収容・送還を確実に止められるか,取消しと執行停止を選ばない理由を示す必要がある(番号10)。
本答案は取消しと執行停止を主位にしているため,その分岐は採用しない。
(3) 設問1(2) 認定と裁決の選択
出題の趣旨は,原処分と不服申立てに対する裁決の関係を前提に,認定か裁決かを選ぶよう求める(番号12・15)。
考査委員のヒアリングでは,行訴法10条2項を挙げるだけで入管法の特則を検討しない答案や,選択を示さない答案が問題とされた(番号13~15)。
同項は両方の取消訴訟を提起できる場合を対象とするため,原処分主義では認定の違法は認定取消訴訟で主張する。
答案はこれに対し,各3日という短期の手続,各段階の放免と最終裁決に至る流れを理由として,裁決主義を採る。
この選択は事案と設問の前提に基づく答案自身の判断であり,両主義のいずれを選ぶかは理由付けと合わせて評価する。
令書発付の取消訴訟で先行判断の違法を主張することと,認定・裁決のどちらの取消訴訟を提起するかは,対象と法的根拠が異なる(番号16)。
答案は前者を1(1)で短く扱い,1(2)では行訴法10条2項と入管法の手続構造から対象を選ぶ。
(4) 設問2 退去強制事由の有無
出題の趣旨は,まず本件の就労が19条に違反するかを検討し,次いで24条4号イの専従要件へ進むことを求める(番号17~21)。
考査委員のヒアリングも,本問を具体的な事由該当性の問題と捉え,裁量統制に終始する答案を問題とした(番号28)。
答案は,風俗営業所に当たるかという許可の範囲と,裏方の就労で学業がどの程度妨げられたかという専従要件の評価を分けた(番号18・19・26・27)。
73条は70条1項4号に該当する場合を除いて単純な違反を処罰する。
この区分を退去強制の上乗せ要件の解釈に用いた(番号20・21)。
当局の量的な推認は滞在経費の財源,質的な推認は風俗営業所の性質に関係する(番号22・23)。
出題の趣旨は,当局の理解について,滞在費の大半をアルバイトで賄う場合も,風俗営業所で働く場合も,専従要件に当たると整理している。
一方,会議録の当局の説明では,滞在経費を専ら賄う就労は専従要件に当たり,風俗営業所での就労は19条の許可から一律に除かれるものの,24条の在留目的の変更については有力な証拠と位置付けられている。
答案はこの二つの場面を区別し,法文にない在留目的という指標は,本来の活動が違反就労に置き換わったかを判断する範囲で用いる(番号24)。
収入が経費の大きな部分を占めることや深夜の勤務には,Aに不利な意味がある。
その上で,父の援助途絶,奨学金と授業料の援助,収入の使途,仕事内容,出席と単位を組み合わせ,勉学の継続を支える就労であったと評価した(番号25~27)。
この総合評価と結論は問題文の事実から導いた本記事の分析である。
(5) 答案の弱点と扱わなかった事項
在学の事実だけでは,収容を解いた後の逃亡や違反就労再開の可能性を否定できない。
答案では,本問に示された具体的事情の範囲で評価した。
裁決主義の根拠となる大阪地裁判決の事案と,本問の収支や学業の事情は異なる。
その判決の事実認定や結論をAに移すことはできない。
在留特別許可の可否,仮放免と人身保護請求,許可範囲を超えた就労の個別の刑事責任は,設問の射程から外れる。
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③司法試験の出題法令の基準日―平成18年以降の年度別六法リンク(AI作成)
第7 出典
1 公式資料
①法務省「論文式試験問題集[公法系科目]」(平成19年新司法試験)(PDF10~17頁の第2問・資料1~3)
②法務省「平成19年新司法試験論文式試験問題出題趣旨」(PDF2~3頁の公法系科目第2問)
③法務省「新司法試験考査委員(公法系科目)に対するヒアリングの概要」(PDF4~9頁の行政法の報告と質疑。司法試験委員会第41回(平成19年10月3日)の議事要旨として掲載)
④法務省「平成19年新司法試験の実施日程等について」(平成18年9月20日司法試験委員会決定。PDF1頁の試験日程)
2 法令
①入管法と同法7条1項2号の基準を定める省令は,問題の資料3(PDF14~17頁)に掲げられた試験当時の条文による。
②行訴法は,行政事件訴訟法の一部を改正する法律(平成16年法律第84号)(衆議院)による改正後の規定(3条,8条~11条,14条及び25条)による。
3 裁判例
①大阪地裁平成18年1月25日判決(平成16年(行ウ)第15号,退去強制令書発付処分等取消請求事件):判決全文のPDF43~48頁,50~52頁,59~61頁及び66頁の判断部分で,裁決主義の理由,資格外活動を専ら行ったかの判断枠組みと事実評価,裁決と令書発付の関係を参照した。
同判決は,平成16年法律第73号による改正前の入管法を適用した事案であり,本問の答案は,試験当時の条番号と問題固有の事実に基づく。
4 留意事項
出題の趣旨はPDF2~3頁の公法系科目〔第2問〕の部分を,採点実感はヒアリングの概要のPDF4~9頁の行政法の部分を,評価項目の根拠とした。
平成19年の公法系科目の採点実感等は,司法試験委員会第41回の議事要旨に掲載された考査委員に対するヒアリングの概要として公表されており,採点実感欄に示した答案の傾向は考査委員の所感である。
答案と解説は試験当時の法令と問題文の資料によっている。
評価項目の切り分け,重み,答案の構成と結論は本記事独自の分析である。