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平成20年司法試験刑事系科目第2問(刑事訴訟法)の模範解答と評価項目―出題の趣旨・採点実感から抽出した22項目と5段階の重み付け(AI作成)

第1 この記事の対象と結論

平成20年新司法試験の刑事系科目第2問では,Wの日記の証拠能力と,令状呈示前に甲方のガラス窓を割って入室した捜索の適法性が問われた。
公式資料から評価項目を22件抽出し,答案と対応させた。

事項内容
対象平成20年新司法試験刑事系科目第2問(刑事訴訟法)
基準時平成20年5月18日(論文式試験の刑事系科目の試験日)
資料問題集5~8頁の第2問,出題の趣旨7~8頁の第2問,採点実感等に関する意見18~19頁の刑事訴訟法
主要事項伝聞・再伝聞・特信情況/捜索に必要な処分と呈示時期
項目数・分布22項目,重み5は7項目,重みの合計は90
参照裁判例最一小決平成14年10月4日・刑集56巻8号507頁
答案分量4558字(見出しを含み,題名・改行を除く)
資料確認日令和8年11月7日

公式問題文 出題の趣旨 採点実感等に関する意見

設問1の答案は,発見・会話の状況にWの供述の例外を適用し,甲の入手とX組の過去の売却価格を事実として用いる場合は甲の供述も別に審査する。
設問2の答案は,破壊・立入りと呈示までの約3分を別々に検討し,与件の下ではいずれも適法と評価する。

重み5は,番号1・2の立証趣旨とWの伝聞性,番号8の特信情況の判断,番号12の再伝聞の構造,番号15の必要な処分,番号19の事前呈示の規律,番号21の入室後の遅れである。

評価項目は第4に,模範解答と評価項目との対応は第5に掲げる。

第2 評価項目の示し方と重み付けの基準

1 評価項目の示し方

各行の番号は記事全体の通し番号である。
評価項目は法務省の公表資料を基にした記事独自の整理であり,法務省の公式採点基準・配点を示すものではない。

注意は誤りを避けるための項目で,別建ての減点をしない。
許容分岐は,該当する構成を採る場合に限って評価する。

2 5段階の重み付けの基準

重み基準
1補充的な引用・記述範囲の確認
2論証を補強する説明・個別事情・誤りの注意
3通常押さえる法的処理・事情の評価
4結論を理由付きで支える主要な論証・当てはめ
5その設問の判断を大きく分ける核心

第3 本問の概要

1 問題文と事実関係

警察は甲方の令状を執行しようとしたが,施錠された玄関への開扉要求に応答がなく,室内から声と足音が聞こえた。
Qは窓ガラスの一部を割って開錠し,警察官らは入室後に在室者を確認した。
Pが甲に令状を呈示し,甲の立会いの下で探索すると,赤いポーチの中から覚せい剤が見付かった。

W方から差し押さえた日記には,前日にWが甲方でポーチを見付け,甲が中身を説明した様子が書かれていた。
Wは死亡し,検察官がノートの取調べを請求した際,弁護人は書証としての取調べには同意しなかった。

法務省の問題文と日記別紙

2 設問が求めること

設問立場・対象指定・除外到達点
1証拠能力を判断する立場。Wのノート検察官の三つの立証趣旨を前提とする。W方の捜索差押手続の適法性は除外。どの立証にどの例外を必要とし,採用できるか。
2甲方の捜索の適法性を評価する立場具体的事実に基づく。逮捕と差押えは後行処分。破壊・開錠・入室の必要性と相当性及び呈示時期の適否。

第4 評価項目と重み

1 設問1 本件ノートの証拠能力

番号評価項目重み出題の趣旨採点実感
1立証趣旨から発見・会話,入手状況,過去の売却価格を区分し,証拠物としての請求や取調べへの異議がないことと,記載内容の真実性のための採用を区別する。57頁 設問1・法解釈/立証趣旨からの要証事実18~19頁 採点実感/要証事実のすり替え等への注意
2三つの立証趣旨とも,Wが知覚し記録した事実の真実性を必要とするため,Wの記載を320条1項の伝聞証拠として扱う。57頁 設問1・法解釈/Wの知覚・記憶と記載18頁末~19頁 採点実感/ノートを非伝聞とする誤り
3甲の発言がされたことを発見・会話の状況として使う場合と,甲の発言内容を歴史的事実として使う場合を区別する。37頁 設問1・法解釈/甲の発言内容の真実性を要証事実とするとき19頁 採点実感/再伝聞と要証事実
4【注意】Wが直接作成した日記を供述書と扱い,供述録取書に必要な署名又は押印を自筆供述書に要求しない。37頁 設問1・法解釈/Wが作成した供述書19頁 採点実感(設問1の末尾)/日記の供述書該当性と署名押印
5321条1項3号の供述書と,323条3号の定型性等に基づく書面の区別を,本件記載の生成過程と立証用途を用いて説明する。47頁 設問1・法解釈/例外選択,321条を例示(323条は明示なし)19頁冒頭 採点実感/両規定の選択と要件解釈
6Wの死亡を根拠に,公判準備又は公判期日に供述できないという321条1項3号の要件を満たすと説明する。37頁 設問1・法解釈/例外の各要件(間接)18頁 採点方針等/適用可能な例外の要件(間接)
7甲方の押収物だけでは争われている甲の支配と営利目的を十分に基礎付けられない事情を示し,各記載の不可欠性を説明する。47頁 設問1・法解釈/例外の各要件(間接)18頁 採点方針等/適用可能な例外の要件(間接)
8特信情況を,供述内容の真偽を直接判定することから区別し,反対尋問を欠くことを補う外部事情に基づき,その供述自体について絶対的に判断する。57頁 設問1・法解釈/外部的な情況・絶対的判断19頁 採点実感/特信情況の解釈を欠く答案
9長期の日付順,週3~5日の頻度,空白なし,筆記具の違いと最終頁の内容から,体験と近接したその都度の記帳を推認する。47頁 設問1・法適用/その都度の記載の意味19頁 採点実感/事情を抽出するだけでなく意味を論じる
10施錠された引き出しでの保管と鍵の管理から,第三者に見せる予定が乏しく,作為的に書く動機が弱いことを説明する。47頁 設問1・法適用/施錠と公開予定19頁 採点実感/他人に見せる予定と虚偽動機
11バッグ,ATM,映画等との外部的符合を,問題の記載が真実だという直接の裏付けと区別し,記帳時期・習慣を評価する材料にする。37頁 設問1・法適用/具体的事実と意味(間接)19頁 採点実感/外部事情の分析(間接)
12入手状況と過去の売却価格を真実として立証する場合に,Wの供述書とその中の甲の供述という二層を示し,別々の例外が必要な再伝聞と捉える。57頁 設問1・法解釈/再伝聞の正確な構造分析19頁 採点実感/被告人の発言の真実性と再伝聞
13再伝聞の許否を,324条1項の公判供述という文言の射程と,供述ごとの信用性審査の実質から論じる。47頁 設問1・法解釈/文理上の根拠と実質的な考慮18~19頁 採点実感/再伝聞の法解釈
14甲の供述の採用を肯定する構成では,入手と過去価格を個別に322条1項の不利益承認又は特信情況に照らし,任意性を審査する。(【許容分岐】再伝聞の許容を採り,甲の発言内容を真実として用いる場合)47頁 設問1・法解釈と法適用/採用した解釈に沿った事実評価(間接)19頁 採点実感/再伝聞の法的処理(間接)

2 設問2 甲方の捜索の適法性

番号評価項目重み出題の趣旨採点実感
15222条1項が準用する111条1項の必要な処分として,ガラス破壊・開錠・立入りを捜索の実効性のための必要性と手段の相当性から評価する。57頁末~8頁 設問2/111条1項の趣旨・目的18頁 採点方針等・19頁 採点実感/入室措置と判例法理
16営利目的所持の嫌疑と所持の客体である覚せい剤の証拠価値,性質を踏まえ,証拠保全の必要性を具体化する。47頁末~8頁 設問2/被疑事実・物件の重要性と隠滅19頁 採点実感/必要十分な事実の評価(間接)
17警察との告知後の声・足音,施錠,繰返しの開扉要求と無応答を,30秒で破壊に移った必要性・代替手段と結び付ける。47頁末~8頁 設問2/破棄隠匿のおそれ・協力態様19頁 採点実感/必要十分な事実の評価(間接)
182枚のうち1枚への約20センチ四方の損傷,開錠の目的,修理費と方法の比較から,財産的損害を含め相当性を評価する。48頁 設問2/財産的損害の内容19頁 採点実感/必要十分な事実の評価(間接)
19222条1項・110条の呈示の趣旨から着手前を原則とし,事前呈示が捜索の実効性を害し例外が必要な場合の限界を示す。58頁 設問2/呈示の趣旨と事前呈示の要請18頁 採点方針等・19頁 採点実感/令状呈示時期と判例法理
20呈示に先立つ入室について,閉ざされた玄関での実物呈示の困難と,待機中の隠滅のおそれを当時の状況から評価する。48頁 設問2/事前呈示と現場保全18頁 採点方針等/呈示先行の適否(入室措置の文脈)
21入室後の約3分を,在室者の確認と監視のために呈示を遅らせる必要が続いた時間か,呈示可能後も先送りした時間かに分けて評価する。58頁 設問2/事前呈示の要請と現場保全の必要性18頁 採点方針等・19頁 採点実感/呈示時期の適否
22在室者への指示・監視と証拠物の探索を区別し,令状を呈示して住居主を立ち会わせた後に探索が始まった順序を用いる。38頁 設問2/現場保全と呈示時期(間接)18頁 採点方針等/呈示時期(間接,立会い条文の明示なし)

3 重みの分布

重み項目数重みの小計
100
200
3515
41040
5735
合計2290

第5 模範解答

1 答案の前提と表記

答案は試験時点の問題を扱う。
条番号は刑事訴訟法を指す。
甲の供述を内容どおりの事実の立証に用いるときは,再伝聞を許す解釈を採る。

2 答案

第1 設問1

1 立証趣旨と伝聞性

刑訴法320条1項が公判外供述を制限するのは,知覚・記憶・叙述や供述の誠実性を公判の反対尋問等で吟味できないからである。
そこで,立証しようとする事実との関係で,当該供述の内容が真実であることを要するかを検討する。

ノートの形状,筆跡,筆記具の違い,日付順の体裁等は,物の存在・状態を証明する限度で証拠物として調べられる。
しかし,検察官が明示した発見・会話の状況,乙からの入手の状況及びX組の過去の売却価格は,物としての外形のみからは認定できない。
証拠物として請求し,弁護人がその限度で異議を述べなかったことから,直ちに記載の真実性を証明するための証拠能力が生ずるものではない。
書証としては不同意であり,326条1項によることはできない。

まず,Wが1月14日に甲方のサイドボードの引き出しでポーチを見付け,白色粉末を見て,甲がポーチを取り上げ,甲と会話したことを証明するには,これらを見聞きしたというWの記載が真実であることを要する。
したがって,Wの日記は伝聞である。
他方,甲の制止や口止め,甲が当該ポーチについて具体的な説明をしたという発言の存在は,その内容どおりの取引があったかにかかわらず,甲が中身を知り管理していたことを推認させる。
この限りで甲の発言は伝聞ではない。
翌日同じ場所から同じ色のポーチとビニール袋入りの白色粉末が発見されたことは,14日の物と翌日の押収物との同一性を支える。

次に,実際に甲がY組の乙から覚せい剤50グラムを250万円で譲り受けたこと,及び実際にX組が過去に0.1グラムを1万5000円で売っていたことを証明するには,Wが会話を聞いて記したことの真実性だけでなく,甲の発言の内容自体が真実であることを要する。
この場合,Wの日記中に甲の公判外供述が取り込まれた再伝聞であり,Wと甲のそれぞれについて例外を検討する。

2 Wの記載

本件ノートはWが自ら記した供述書であり,供述録取書に要求される署名又は押印は要しない。
筆跡がすべてWのものであり,W方の施錠された机から押収され,Wの所持品からその鍵が発見されたことは,Wによる真正な作成を支える。
個人が体験した事実の記述であり,321条1項3号の供述書に当たる。
323条3号は,前三条に掲げる書面以外で,1号・2号に準じる作成の定型性等から高度の信用性が保障される書面を想定する。
本件には継続的な記帳習慣があるが,記載の正確さを制度的に支える作成上の規律は示されていない。
問題となるのは個人の体験と会話に関する叙述を内容の真実性のために用いる場面であり,Wの供述として321条1項3号の要件を審査する。
Wは死亡しており,公判準備又は公判期日に供述できない。

甲は覚せい剤の所持及び営利目的を争っている。
甲方にはほかにも組員が起居しており,覚せい剤の発見場所だけで甲の認識と支配を確定できない。
甲による制止・取り上げ及び会話の状況はこの結び付きを示し,入手の経緯は甲による所持を,取得価格と過去の組の売却価格は比較により転売益を見込んだ所持という営利の目的をそれぞれ支える。
押収された覚せい剤そのものから入手経緯や過去の価格は判明せず,これらを示す他の証拠もない。
よって,これらの記載は犯罪事実の存否の証明に欠くことができない。

同号ただし書の特に信用すべき情況は,反対尋問を経ない供述を例外的に許す根拠である。
供述の真偽そのものではなく,作成時期,作成目的,公開の予定など外部的事情を主として判断する。
また,他の供述より信用できるかではなく,当該供述自体について反対尋問を欠いても採用できるほどの信用性の保障があるかを絶対的に判断する。
本件ノートは2年以上にわたり週3日ないし5日程度,日付順に空欄なく,日常の出来事や感想を異なる筆記具で綴ったものである。
単一の事件について後で作った陳述書と異なり,その都度の個人的な記録と認められる。
11日欄の翌日の映画と現金の予定に対応して,12日にW名義口座から3万円が払い戻され,D子と映画を見て買物街を回ったことが確かめられている。
6日欄に対応する商品・価格の売上げがあり,Wが同型のバッグを持っていたことも,記録が日常の具体的経験に即していたことを支える。
これらの符合は14日の事件の真実性を直接証明するものではないが,通常の記帳の時期と性格を裏付ける。
9日・14日欄には日付が変わるころに就寝しようとする記述があり,15日欄には甲の逮捕を知らない様子で連絡を待つ叙述がある。
これらも,捜査を知った後にまとめて作成したという見方より,日々の記帳と整合する。

Wは甲と親密であり,女物らしいポーチに疑いを持ったが,この疑い自体も隠さず記し,ノートは自ら鍵で管理した机に保管していた。
第三者を説得し又は甲を陥れるために書く動機は乏しい。
自らその場で見聞きした内容を体験に接近した時点で記したとみられ,白い粉の薬物としての識別自体には限界があるものの,色,容器,甲の動作及び会話の記録について特信情況を認められる。
したがって,必要な記載は同号により証拠能力を有する。

3 甲の発言内容

Wが公判で甲の発言を証言する場合には324条1項が322条を準用する。
本件では外側がWの書面であり,324条1項の文言上の直接適用場面とは異なる。
文言を重くみれば,反対尋問できる法廷証言に限った例外を供述書に広げることには疑問がある。
しかし,二重の信用性の危険を一括して免除するのではなく,外側はWが公判で供述できないことなどを要件とする321条1項3号により独立に審査できる。
内側の甲の発言については,Wが公判で伝える場合と同じ供述者について同じ信用性の問題がある。
そこで,両層の要件を満たす限度で再伝聞を許容し,内側の甲の発言について324条1項を類推し,同項が準用する322条1項の要件を審査する。

乙から当該覚せい剤を有償で入手したという発言は,甲による所持・認識を認める方向に働く不利益な事実の承認である。
過去の価格の発言も,X組の行為についての叙述ではあるが,甲が同じ会話で自己の仕入れと結び付けて語っている。
従来の単価で50グラム全量を販売できると仮定すると売上げは750万円となり,取得額250万円と大きな差がある。
このため,公訴事実における営利の目的を推認させる点で甲に不利益である。
甲は交際相手と私的に話しており,強制・誘導を受けた事情はなく,任意性を疑わせる事情は認められない。
裁判所は325条によりWの記載と甲の発言の双方について任意性を調査した上で,入手状況及び過去の価格を証明するためにも当該記載を採用できる。
どこまで甲の支配や営利目的が証明されたかは,証拠能力とは別に評価する。

第2 設問2

1 判断枠組み

裁判官の令状による捜索であり(218条1項),甲方は令状に記載された場所である。
ただし,令状の効力が及ぶことと,その執行方法が適法であることは別に判断する。
222条1項が準用する111条1項により,捜索の実効性を確保するため,開錠その他の必要な処分ができる。
物を壊して立ち入る措置については,捜索の実効性確保のための必要性と,より侵害の小さい手段の利用可能性,損傷の範囲等を踏まえた社会通念上の相当性を要する。

また,222条1項・110条は,令状による処分であることとその範囲を処分を受ける者に知らせ,不当な執行に対する防御の機会を保障するため,原則として執行着手に先立つ呈示を求める。
口頭で令状があると告げても呈示にはならない。
ただし,事前の呈示が困難で,これを貫くと証拠が隠滅される具体的なおそれがあるなど,捜索の実効性を確保するため必要であり,手段・時間が相当な限度にとどまる場合には,呈示に先立ち立入り等を行うことが許される。

2 ガラスの破壊,開錠及び立入り

捜索対象には所持の客体そのものである覚せい剤が含まれる。
これは嫌疑を裏付ける重要な証拠であり,小分けして隠すことも,水に流して廃棄することも短時間で行い得る。
嫌疑はX組の活動資金を得るための所持であり,甲には譲渡の前科があり,複数の組員が日常的に甲方に起居していた。
加えて,警察と告げるや,ドアの近くで「やばい」との声がし,人が離れ,複数人が慌ただしく移動する音がした。
単に施錠されていたという以上に,待機すれば在室者が証拠を隠滅する具体的危険があった。

警察と名乗ってから約30秒しか経っていないが,その間にQは開扉を求め,ドアが施錠されていると分かると,チャイム等とともに令状の存在を数回告げた。
それでも応答も開扉の気配もなかった。
玄関ドアも共用通路に面する唯一の窓も施錠されており,再度の説得や開錠業者を待つのでは証拠を保全できる見込みが乏しい。
Qは2枚のうち1枚に,クレセント錠に手を届かせる約20センチメートル四方の穴を開け,窓を開けて入った。
窓全体や玄関ドアを壊す方法に比べ損傷を局限しており,すぐ修復され修理費が2万円だったことも侵害規模の評価を支える。
よって,破壊,開錠及び立入りは111条1項の必要な処分として相当である。
また,ドア越しに実物の令状を示すことができない状態で待機を強いると隠滅のおそれが高まるから,呈示前に入室した点も例外として許される。

3 入室後の措置と呈示

入室先行が適法であっても,入室後は呈示の支障が解消し次第,速やかに呈示しなければならない。
したがって,本件では入室から呈示までの約3分について,現場を保全するための措置の必要性と限界を別に検討する。
4LDKの室内では複数の在室者が別室で証拠を処分し得た。
Qらは窓から順に入り,物に触れないよう告げて各室へ向かい,リビングの甲と別々の部屋にいた2名の組員を確認し,その行動を注視できる位置に就いた。
この間の措置は,在室者による隠滅を防いで令状を実効的に執行するためのものであり,この段階で引き出しを開けるなどの証拠探索を始めた事実や,在室者を物理的に拘束した事実は示されていない。
仮にPが甲の所在を早期に確認し,ほかの警察官が別室の保全を並行して行える態勢にあったなら,その時点で呈示すべきである。
ただし,問題文からPが甲のもとに到達した時点や在室者の発見順は分からない。
先行して聞こえた複数の足音と間取りからすると,別室の在室者を把握しないままでは,その間に証拠を処分されるおそれが残っていた。
PもQに続いて窓から入室しており,入室した警察官がそれぞれの部屋に到達し,3名を見守れる態勢を作るには時間を要する。
甲への呈示を支障なく並行できたのに先送りした事情は示されておらず,態勢の整備に続けて呈示したという経過から,約3分の遅れは現場保全に必要な限度にとどまったと評価できる。

222条1項・114条2項の立会いは,執行の公正を担保する。
呈示前は上記の付随措置にとどまり,Pらは呈示後,住居主である甲を立会人として探索を始めた。
サイドボードの引き出し及びその中のポーチは,令状が対象とする覚せい剤を収納し得る甲方の物であり,その中を調べる行為は許された捜索の範囲内である。
以上から,甲方の捜索は適法である。

3 出題の趣旨・採点実感を踏まえた解説

(1) 答案と評価項目の対応

第1の1は番号1~3・12,第1の2は番号4~11,第1の3は番号13・14に対応する。
第2の1は番号15・19,第2の2は番号16~18・20,第2の3は番号21・22に対応する。

番号重み評価項目答案の該当箇所・留保
15立証趣旨から発見・会話,入手状況,過去の売却価格を区分し,証拠物としての請求や取調べへの異議がないことと,記載内容の真実性のための採用を区別する。第1の1。三つの立証趣旨を維持する。
25三つの立証趣旨とも,Wが知覚し記録した事実の真実性を必要とするため,Wの記載を320条1項の伝聞証拠として扱う。第1の1。Wの層は全立証に共通する。
54321条1項3号の供述書と,323条3号の定型性等に基づく書面の区別を,本件記載の生成過程と立証用途を用いて説明する。第1の2。日記の記帳習慣と制度的な正確性の保障を区別する。
74甲方の押収物だけでは争われている甲の支配と営利目的を十分に基礎付けられない事情を示し,各記載の不可欠性を説明する。第1の2。甲の所持と営利目的に関する代替証拠を確認する。
85特信情況を,供述内容の真偽を直接判定することから区別し,反対尋問を欠くことを補う外部事情に基づき,その供述自体について絶対的に判断する。第1の2。絶対的な判断の意義を示す。
94長期の日付順,週3~5日の頻度,空白なし,筆記具の違いと最終頁の内容から,体験と近接したその都度の記帳を推認する。第1の2。記帳頻度,筆記具,前後の日付の意味を示す。
104施錠された引き出しでの保管と鍵の管理から,第三者に見せる予定が乏しく,作為的に書く動機が弱いことを説明する。第1の2。施錠と鍵の管理を虚偽動機の乏しさに結び付ける。
125入手状況と過去の売却価格を真実として立証する場合に,Wの供述書とその中の甲の供述という二層を示し,別々の例外が必要な再伝聞と捉える。第1の1末と第1の3。Wと甲の層を分ける。
134再伝聞の許否を,324条1項の公判供述という文言の射程と,供述ごとの信用性審査の実質から論じる。第1の3。324条の文言と類推の理由を対照する。
144甲の供述の採用を肯定する構成では,入手と過去価格を個別に322条1項の不利益承認又は特信情況に照らし,任意性を審査する。(【許容分岐】再伝聞の許容を採り,甲の発言内容を真実として用いる場合)第1の3。本答案は再伝聞の許容を採る。
155222条1項が準用する111条1項の必要な処分として,ガラス破壊・開錠・立入りを捜索の実効性のための必要性と手段の相当性から評価する。第2の1。令状の範囲と執行方法を分ける。
164営利目的所持の嫌疑と所持の客体である覚せい剤の証拠価値,性質を踏まえ,証拠保全の必要性を具体化する。第2の2。薬物そのものの証拠価値と隠滅の容易性を示す。
174警察との告知後の声・足音,施錠,繰返しの開扉要求と無応答を,30秒で破壊に移った必要性・代替手段と結び付ける。第2の2。声,足音,無応答と30秒の意味を示す。
1842枚のうち1枚への約20センチ四方の損傷,開錠の目的,修理費と方法の比較から,財産的損害を含め相当性を評価する。第2の2。開錠に必要な穴の大きさと損害を評価する。
195222条1項・110条の呈示の趣旨から着手前を原則とし,事前呈示が捜索の実効性を害し例外が必要な場合の限界を示す。第2の1。原則と例外の理由を示す。
204呈示に先立つ入室について,閉ざされた玄関での実物呈示の困難と,待機中の隠滅のおそれを当時の状況から評価する。第2の2末。入室前に呈示できたかを当時の状況から評価する。
215入室後の約3分を,在室者の確認と監視のために呈示を遅らせる必要が続いた時間か,呈示可能後も先送りした時間かに分けて評価する。第2の3。保全との並行が可能なら早期呈示が必要であることも示す。

(2) 設問1の解説

出題の趣旨は,検察官の立証趣旨を分け,Wが書いたことの真実性を使う場面を先に見定めることを求める。
採点意見は,ノート全体を非伝聞とする処理や,自筆の供述書に署名押印を求める処理を指摘している。
答案の第1の1と第1の2冒頭が番号1~6に対応する。

鍵付きの引き出しは公開を予定していなかったことに,空白のない長期の記帳は体験のたびに書いたことに結び付く。
この区別により,客観的な符合を使って記帳の仕方を説明しつつ,14日の記載内容を真実と先取りせずに済む。
番号7~11がこの論証に対応する。

甲の発話自体を使う場合は番号3,発話内容の真実性を使う場合は番号12~14が問題になる。
324条1項の類推と過去の売却価格の不利益性は,公式資料が指定した唯一の結論ではなく,本答案の解釈・当てはめである。

(3) 設問2の解説

出題の趣旨は,ガラス破壊の必要性・相当性と,令状呈示の時期をいずれも理由付きで検討することを求める。
番号15~18では,物件の重要性,急迫性,協力態様,財産上の損害を個々の判断に結び付ける。

最高裁平成14年10月4日決定(第7の3)の事案では,来意を告げずにマスターキーで客室に入り,その直後に令状が呈示された。
本問では窓を割り,さらに呈示まで約3分を要した。
番号19~22の評価では,保全に要した措置と時間を理由にして,入室の適否だけでは決まらない呈示の遅れを検討する。

(4) 答案の弱点と扱わなかった事項

甲の確認順や令状を持つPの到達時刻は与件から確定しないため,先に呈示できたという場合分けを設けた。
同じ単価で全量を売れた場合の売上げは,営利目的を考えるための仮定であり,現実の売上げの認定ではない。

供述の証明力や有罪認定はここでの証拠能力判断と区別する。
W方の捜索差押え,甲方での後行の逮捕・差押え,違法収集証拠の排除は独立の検討対象にしていない。

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①平成20年司法試験論文式試験の主要7科目の模範解答と評価項目
②平成20年司法試験公法系科目第1問(憲法)の模範解答と評価項目
③平成20年司法試験公法系科目第2問(行政法)の模範解答と評価項目
④平成20年司法試験民事系科目第1問(民法)の模範解答と評価項目
⑤平成20年司法試験民事系科目第2問(商法・民事訴訟法)の模範解答と評価項目
⑥平成20年司法試験刑事系科目第1問(刑法)の模範解答と評価項目
⑦平成20年度旧司法試験論文式試験の模範答案―憲法・民法・刑法・商法・民事訴訟法・刑事訴訟法の全12問と出題趣旨を踏まえた解説(AI作成)

同じ年の旧司法試験の刑事訴訟法は,第1問で無告知の入室と令状の呈示を,第2問で弾劾証拠を扱っている。
同年度の他の問題は,平成20年新司法試験試験問題の一覧で確認できる。

2 同じ科目の別の年度の記事

①平成21年司法試験刑事系科目第2問(刑事訴訟法)の模範解答と評価項目
②平成22年司法試験刑事系第2問(刑事訴訟法)の模範解答と評価項目
③平成23年司法試験刑事系第2問(刑事訴訟法)の模範解答と評価項目
④令和7年度司法試験刑事系第2問の模範解答と評価項目

3 本問の論点に関連する山中弁護士ブログの記事

①署名・押印のない私的メモは刑事裁判の証拠になるか―供述書と供述録取書,作成者,伝聞例外(AI作成)
②刑事裁判の書証の証拠能力-伝聞法則・供述調書・同意書面の判断順序(AI作成)
③平成27年司法試験刑事系第2問(刑事訴訟法)の模範解答と評価項目―秘密録音・約束による自白・伝聞法則(AI作成)
④家宅捜索で同居家族のバッグや来訪者のポケットまで調べられるか―場所に対する捜索差押許可状の効力と最高裁平成6年9月8日決定(AI作成)

第7 出典

1 公式資料

論文式試験問題集[刑事系科目]5~8頁。
平成20年新司法試験論文式試験問題出題趣旨7~8頁(刑事系科目第2問)。
平成20年新司法試験の採点実感等に関する意見18~19頁(刑事訴訟法)。
平成20年新司法試験の実施日程等について1頁。

2 法令

刑事訴訟法の条文は,試験当時の文言を,平成18年法律第36号までの改正を反映した法務省の刑事訴訟法(第一編第二編)の対訳の日本語欄によった。
答案が用いる320条から326条までは,e-Gov法令検索が収録する最も古い平成28年12月1日施行の版でも同じ文言である。
110条・111条・114条・218条・222条には試験後の改正で記録命令付差押状等の文言が加わったが,本答案が用いる令状の呈示,必要な処分,立会い及び捜査段階への準用の内容は変わっていない。

3 裁判例

最一小決平成14年10月4日・平成14年(あ)第413号・刑集56巻8号507頁:捜索差押許可状の呈示に先立ってホテル客室のドアをマスターキーで開けて入室した措置を,刑訴法222条1項・111条1項に基づく処分として許容し,入室の直後に令状を呈示したことを適法とした。

4 留意事項

答案・評価項目・5段階の重みは,法務省の公式資料を参照した記事独自の構成であり,法務省の採点基準・配点を示すものではない。
出題の趣旨・採点実感は,刑事系科目第2問(刑事訴訟法)の上記範囲だけを根拠とした。

上記の最高裁決定は,来意を告げずにマスターキーで入室し,その直後に令状を呈示した事例である。
本問の窓ガラスの破壊と,入室から呈示までの約3分の評価は,本答案の当てはめである。