第1 この記事の対象と結論
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 対象 | 平成20年司法試験(新司法試験)論文式試験 公法系科目第2問(行政法) |
| 公式の問題文 | 法務省「論文式試験問題集[公法系科目]」の10頁~15頁 |
| 答案の基準時 | 試験の実施日(平成20年5月15日)の法令と,それまでの判例 |
| 公式資料の範囲 | 問題文(問題PDFの10頁~15頁),出題の趣旨(2頁~3頁の〔第2問〕)及び採点実感(5頁~6頁の行政法の部分) |
| 主要事項 | 勧告と公表の法的性格,救済手段(取消訴訟と執行停止,差止め訴訟と仮の差止め,確認訴訟・民事差止めと仮処分)の比較,調査の違法と勧告への影響,勧告の事実誤認と手続 |
| 評価項目 | 23項目(重み5:4項目) |
| 重みの合計 | 78(本記事独自の整理であり,公式の配点ではない。) |
| 主要判例 | 最高裁平成17年7月15日判決(病院開設中止勧告),最高裁昭和60年1月22日判決(理由付記の程度)ほか |
| 答案の字数 | 4911字(答案部分の見出しを含み,空白・改行を除く可視文字数) |
| 試験後の改正 | 行政手続法は平成26年改正で行政指導の方式(35条2項)等が追加され,介護保険法103条も後に勧告の要件と措置を各号に分けて定める形に改められた(e-Gov法令検索の平成29年4月1日施行の版による)。答案は試験時の法による |
| 資料確認日 | 令和8年11月7日 |
本記事は,平成20年司法試験の論文式試験のうち,公法系科目第2問(行政法)を対象として,法務省が公表した「出題の趣旨」及び「採点実感等に関する意見」から答案の評価項目を抽出し,5段階で重み付けをした上で,それらの評価項目を満たす模範解答を示すものである。
評価項目は本記事が公式資料から独自に抽出したものであり,法務省の採点基準や配点ではない。
本問は,介護老人保健施設を運営する医療法人社団Aが,県知事から介護保険法103条1項に基づく勧告を受け,これに従わない旨を回答したところ,勧告不服従の公表をされることを恐れて訴訟を依頼したという事案について,Aの代理人の立場から,公表を阻止するための訴訟と仮の救済の比較(設問1)と,その本案で主張すべき調査・勧告の違法事由(設問2)を論じさせるものである。
公式資料から抽出できた評価項目は23項目であり,重み5に当たるのは,介護保険法の仕組みに即した勧告の法的性格の分析(番号2),複数の法的手段の比較と自己の見解の明示(番号9),調査の違法が勧告に及ぼす影響(番号16)及び勧告に要請される行政手続と行政手続法・行政手続条例の適用区分(番号20)の4項目である。
模範解答は,勧告を処分と解して勧告の取消訴訟を提起し,公表の停止を求める執行停止を申し立てる手段を最も適切とし,本案では,人員基準と身体的拘束についての事実誤認,弁明の機会の付与と理由の提示を欠く手続の違法,身分証の不提示と帳簿書類の持ち帰りという調査の違法とその勧告への影響を主張する構成をとった。
第5の模範解答は,問題提起,規範の定立,当てはめ及び結論の順に書く論文式答案の型で示し,その後に出題の趣旨・採点実感を踏まえた解説を付けている。
第2 評価項目の示し方と重み付けの基準
1 評価項目の示し方
評価項目は,本問の出題の趣旨(2頁~3頁の〔第2問〕)又は採点実感(5頁~6頁の行政法の部分)の記述から抜き出したものに限り,一つの項目には一つの判定対象(一つの論点又は一つの手段についての検討)だけを入れ,答案に何が書かれていれば満たすのかが分かる形に言い換えた。
各項目には,出題の趣旨と採点実感のどこに根拠があるかを頁と見出しで示し,一方の資料の本問に関する部分に記載がない場合は「記載なし」,一般的な記述や関連する他の項目の記述から導いたものは「間接」と表示し,括弧内に根拠の頁を,他の項目の記述から導いたものはその番号も示した。
公式資料の文章は,評価の強さを示す短い語句を除いて引用せず,根拠となる記述の趣旨を要約して示している。
出題の趣旨は,勧告や公表の処分性の結論に応じて複数の法的手段を挙げ,勧告の性格づけに応じて行政手続法又は行政手続条例の手続を挙げている。
そこで,答案が採った構成に応じて評価の対象となる項目には【適用条件】を付け,採らなかった構成の項目を全答案に累積して求めないこととした。
採点実感が誤りの型として挙げた事項のうち,正しい書き方の項目の裏返しでない独立の注意点は,【注意】を付けて「〜しない」の形の項目にした。
採点実感のうち,答案の構成・表現の優れた答案を高く評価するとの採点方針や,法科大学院教育への要望など,本問に固有でない一般的な指摘は評価項目に入れていない。
2 5段階の重み付けの基準
重みは,各評価項目がその設問の結論を導く中で担う役割から本記事が付けたものであり,法務省の配点ではない。
①重み5:その設問の判断を大きく分ける核心
②重み4:結論を理由付きで支える主要な論証・当てはめ
③重み3:通常押さえる法的処理・事情の評価
④重み2:論証を補強する説明・個別事情・誤りの注意
⑤重み1:補充的な引用・記述範囲の確認
【適用条件】と【注意】の別は重みとは独立に定めており,条件付きの項目や注意の項目であることだけを理由に重みを下げていない。
第3 本問の概要
1 問題文と事実関係
問題文は,法務省の問題PDFの10頁~15頁にある。
以下は事実関係の要約である。
医療法人社団Aは,平成13年1月24日にB県知事から介護保険法94条1項の開設許可を得て介護老人保健施設を運営しており,入所者は60名で,大半が70歳を超えた長期の入所者である。
平成19年10月1日,退職して間もない元職員から,医師が存在せず看護師・介護職員の人数が足りないとの通報があり,同月15日,B県職員が介護保険法100条に基づいて立入調査をした。
Aの理事長は,ほかの施設では行政指導として実地指導が行われているのに,いきなり法律に基づく調査をするのは穏当でないと抗議したが,職員は調査に着手した。
職員は,身分や調査の趣旨の説明を求められても身分証の提示を拒否し,公的な調査であり抵抗すれば罰則の対象になると繰り返し述べた上,事務机の上の帳簿等書類を段ボール箱に詰めて持ち帰った。
B県は,医師が存在しない事実は確認できなかったものの,看護師数・介護職員数の不足と一部入所者への常時の身体的拘束があると判断し,B県知事は,平成20年1月15日,同年3月24日を期限として,常勤の看護師・介護職員の確保,常時の身体的拘束の中止と研修等,改善状況の文書報告を求める勧告をした。
勧告書には,勧告に従わない場合の公表や措置命令・業務停止命令の可能性が明記されていたが,勧告の基礎となる事実は示されていなかった。
Aは,調査以来何の連絡もなく問い合わせにも応じないまま勧告書が交付されたことに反発し,同年3月14日,勧告に応ずる意思がない旨を回答したが,公表による信頼の喪失,利用者の離脱による経営難,入所者の健康や家族の負担を懸念して,訴訟を依頼した。
会議録では,Aが,調査は一部の出勤簿を対象とせず,調査日の特定曜日以外に週5日勤務する看護師2名・介護職員5名を算入していないと主張し,ベッドの柵は転倒防止のため家族の同意の下で1名に5時間に限って設置したにすぎないと主張していることが紹介されている。
2 設問が求めること
| 設問 | 立場・対象 | 指定・仮定・除外 | 到達点 |
|---|---|---|---|
| 設問1 | Aの代理人(弁護士D)が,勧告不服従の公表を阻止する法的手段を検討する | 訴訟とそれに伴う仮の救済措置に限る。行政事件訴訟法上の問題点を中心に,複数の手段を比較検討する | 最も適切と考える法的手段を自己の見解として示す |
| 設問2 | 同じ立場で,設問1の手段の本案でAが主張すべき違法事由を検討する | 勧告と調査の適法性を争う場合の実体上・手続上の違法事由。会議録は,調査の違法と勧告の関係の整理と,勧告に要求される手続の検討を求める | Aの主張を,B県の反論を踏まえて詳細に示す |
第4 評価項目と重み
1 設問1
| 番号 | 評価項目 | 重み | 出題の趣旨 | 採点実感 |
|---|---|---|---|---|
| 1 | 処分性の定義(公権力の主体たる国又は公共団体が行う行為のうち,その行為によって直接国民の権利義務を形成し又はその範囲を確定することが法律上認められているもの)を正確に示す | 3 | 2頁〔第2問〕設問1(処分性の定義を前提として勧告の処分性を説明する) | 5頁3(処分性の定義が不正確な答案が少なくなかった) |
| 2 | 勧告に従わない場合に公表,措置命令,業務停止命令,開設許可取消し等がされ得る介護保険法の仕組みを正確に把握し,それに即して勧告の法的性格(処分性)を具体的に分析する(定義の形式的当てはめに終わらない) | 5 | 2頁〔第2問〕設問1(法的仕組みを正確に把握した上で,勧告や公表の法的性格を分析する) | 5頁3(定義の形式的当てはめに終始し,行政活動の性質の分析と必ずしもかみ合っていない答案が目に付いた) |
| 3 | 公表の法的性格(処分性の有無)を介護保険法に即して分析する | 4 | 2頁〔第2問〕設問1(勧告や公表が処分に当たるかの検討が前提となる) | 間接(5頁3。番号2の指摘) |
| 4 | 勧告の取消訴訟を論じるに当たり,処分性以外の訴訟要件(原告適格,被告,出訴期間,訴えの利益等)にも触れる【適用条件】勧告の処分性を肯定して取消訴訟を論じる場合 | 2 | 間接(2頁〔第2問〕設問1。勧告の取消訴訟を論じる) | 5頁3(取消訴訟の訴訟要件について処分性にしか触れない答案が少なくなかった) |
| 5 | 仮の救済として執行停止の要件(行政事件訴訟法25条2項~4項。重大な損害,緊急の必要,公共の福祉,本案について理由がないとみえないこと)を検討し,問題文の事実に当てはめる【適用条件】勧告の取消訴訟と執行停止を選ぶ場合 | 4 | 2頁〔第2問〕設問1(行政事件訴訟法25条所定の要件を検討する) | 5頁3(仮の救済など,明記・誘導された事項に記述が及んでいない答案も少なからず見られた) |
| 6 | 公法上の当事者訴訟(確認訴訟)を提起し,確認の利益を中心に詳細に検討するとともに,仮の救済として仮処分を検討する【適用条件】勧告の処分性を否定し,確認訴訟を主たる手段とする場合 | 4 | 2頁〔第2問〕設問1(確認の利益を中心に詳細な検討が期待される) | 間接(5頁3。番号10の注意) |
| 7 | 差止め訴訟の要件(行政事件訴訟法37条の4)と仮の差止めの要件(同法37条の5第2項・第3項)を法文に即して解釈し,的確に当てはめる【適用条件】公表の処分性を肯定し,差止め訴訟と仮の差止めを主たる手段とする場合 | 4 | 2頁〔第2問〕設問1(37条の4と,特に37条の5第2項・第3項の法文の解釈・当てはめ) | 間接(5頁3。番号11の注意) |
| 8 | 公表に対する民事の差止め訴訟又は公法上の当事者訴訟を提案して仮処分の可能性を検討し,民事の差止め訴訟では差止めを根拠付ける権利を詳しく述べる【適用条件】公表の処分性を否定し,民事差止め等を主たる手段とする場合 | 3 | 2頁〔第2問〕設問1(差止めを根拠付ける権利について詳細な言及が望まれる) | 間接(5頁3。番号10の注意) |
| 9 | 複数の法的手段を提案し,それらを実質的な視点で比較した上で,最も適切と考える法的手段を自己の見解として明示する(評論家風に並べるだけにしない) | 5 | 2頁〔第2問〕設問1(複数の法的手段を提案し,比較を通じて最も適切な手段を提示しなければならない) | 5頁2(「自己の見解」の有無を重視する),5頁3(比較の視点が希薄な答案が多かった) |
| 10 | 【注意】当事者訴訟には仮の救済がないとし,又は行政事件訴訟法44条によって仮処分が排除されるとしない | 2 | 間接(2頁〔第2問〕設問1。仮処分の検討) | 5頁3(当事者訴訟に仮の救済なし,又は44条で仮処分が排除されるとする答案が少なからずあった) |
| 11 | 【注意】差止め訴訟の補充性(行政事件訴訟法37条の4第1項ただし書)を,取消訴訟が可能であれば差止め訴訟は不適法になると解するなど,不正確に理解しない | 2 | 間接(2頁〔第2問〕設問1。37条の4) | 5頁3(取消訴訟が可能であれば駄目とするなど,補充性の理解が不正確だった) |
2 設問2
| 番号 | 評価項目 | 重み | 出題の趣旨 | 採点実感 |
|---|---|---|---|---|
| 12 | 設問1で選んだ法的手段と結び付けて,本案での調査・勧告の違法の主張を展開する | 2 | 2頁〔第2問〕冒頭(救済手段を選択し,それと結び付いた本案の主張を展開する力を試す) | 記載なし |
| 13 | 帳簿書類等を段ボール箱に詰めて持ち帰った行為が強制力の行使(押収)に当たるとすれば,介護保険法100条の解釈として許容されるかを検討する | 4 | 2頁~3頁〔第2問〕設問2(持ち帰りが強制力の行使に当たるとすれば,100条の解釈として許容されるか) | 5頁3(調査における強制・押収の違法を指摘する答案が極めて少なかった) |
| 14 | B県職員が身分証を提示しなかったことが介護保険法100条2項・24条3項に違反するかを論じる | 3 | 3頁〔第2問〕設問2(100条2項,24条3項に違反するか) | 間接(5頁3。強制調査の問題点の記述漏れの指摘) |
| 15 | 行政指導として行われる調査(実地指導)を介護保険法100条の調査に先行させる義務を知事が負うかを検討する | 3 | 3頁〔第2問〕設問2(先行させる義務を知事が負うか) | 間接(5頁3。強制調査の問題点の記述漏れの指摘) |
| 16 | 調査の違法が認められる場合に,それが勧告の適法性にどのような影響を及ぼすかを検討する | 5 | 3頁〔第2問〕設問2(調査の違法が勧告に及ぼす影響の検討が本問で要求されている) | 間接(5頁3。番号17の注意) |
| 17 | 【注意】調査の違法が勧告に及ぼす影響を,専ら「違法性の承継」の問題として論じない | 2 | 間接(3頁〔第2問〕設問2。番号16と同じ箇所) | 5頁3(専ら「違法性の承継」の問題として解答する答案が少なくなかった) |
| 18 | 基準違反(看護・介護職員の員数不足,常時の身体的拘束)を内容とする県の指摘について,問題文の事実に基づき事実誤認を主張する | 4 | 3頁〔第2問〕設問2(基準違反を内容とする県の指摘について事実誤認を主張する) | 間接(5頁3。番号19の注意) |
| 19 | 【注意】勧告の違法を,安易に行政裁量の問題として論じない | 2 | 間接(3頁〔第2問〕設問2。番号18と同じ箇所で,事実誤認として整理) | 5頁3(安易に行政裁量の問題として論じる答案が目立った) |
| 20 | 勧告にどのような行政手続が要請されるかを勧告の法的性格に即して論じ,行政手続法と行政手続条例の適用区分を正確に示す | 5 | 3頁〔第2問〕設問2(その前提として,勧告に要請される行政手続が論じられなければならない) | 5頁3(行政手続法と行政手続条例の適用区分を正確に理解できていない答案が少なからずあった) |
| 21 | 行政手続法の不利益処分手続として具体的にどのような手続(意見陳述の手続,理由の提示等)が要求されるかを明らかにし,本件でそれが踏まれたかを検討する【適用条件】勧告を不利益処分ととらえる場合 | 4 | 3頁〔第2問〕設問2(不利益処分ととらえる場合は行政手続法の不利益処分手続が適用される) | 間接(5頁3。番号20の適用区分) |
| 22 | 知事の行う行政指導には行政手続法が適用除外となることを指摘し,B県行政手続条例の行政指導手続に即して手続の違法を検討する【適用条件】勧告を行政指導と解する場合 | 4 | 3頁〔第2問〕設問2(行政指導と解する場合は条例の行政指導手続による) | 間接(5頁3。番号20の適用区分) |
3 答案全体
| 番号 | 評価項目 | 重み | 出題の趣旨 | 採点実感 |
|---|---|---|---|---|
| 23 | 条文の引用を正確にする | 2 | 記載なし | 5頁2(条文の引用の正確さも採点で考慮する) |
番号23は,採点実感の採点方針が両設問に共通して挙げた事項であるため,答案全体の項目とした。
4 重みの分布
23項目の内訳は,重み5が4項目,重み4が8項目,重み3が4項目,重み2が7項目,重み1が0項目であり,重みの合計は78点である。
設問1は11項目・38点,設問2は11項目・38点,答案全体は1項目・2点である。
条件付きの項目(番号4~8・21・22)は答案が採った構成に応じて評価の対象となるものであり,一つの答案がすべてを満たすことは予定していない。
重み5の4項目は,次のとおりである。
①番号2は,勧告を処分とみるか否かが,採るべき手段(取消訴訟か当事者訴訟か)と,設問2で要求される手続(行政手続法か行政手続条例か)を同時に決めるため,両設問をつなぐ判断である。
②番号9は,設問1が明示的に求める到達点であり,採点実感も「自己の見解」が示されているかを重視したとしている。
③番号16は,会議録が整理を求めた調査と勧告の関係であり,調査の違法を勧告の取消事由として主張できるか否かを決める。
④番号20は,勧告の性格づけから適用法令と要求される手続を導く,設問2の手続上の違法の前提である。
これに対し,公表の法的性格(番号3),執行停止の要件(番号5),持ち帰りの違法(番号13),事実誤認(番号18)等は,上の判断を前提に結論を理由付きで支える論証・当てはめであるため重み4とした。
番号13は,採点実感が指摘する答案が極めて少なかったとした点であるが,勧告への影響(番号16)を経て初めて結論に効くため,重み5とはしていない。
第5 模範解答
1 答案の前提と表記
以下の答案は,第4の評価項目(採った構成に当てはまらない条件付きの項目を除く。)を満たすように作成したものであり,Aの代理人である弁護士Dの立場で,試験の実施時(平成20年5月)の法令と,それまでに言い渡された判例を前提にしている。
答案は,勧告の処分性を肯定し,公表の処分性は否定される可能性が高いとする構成を採った。
出題の趣旨は,勧告の処分性を否定して確認訴訟を選ぶ構成や,公表の処分性を肯定して差止め訴訟を選ぶ構成もあり得るとしている。
答案の型は次のとおりである。
見出しを「1」「(1)」「ア」の順に下げ,論点ごとに,問題提起(「〜に当たるか。」「〜が問題となる。」),規範の定立(「思うに,〜。よって,〜と解する。」),当てはめ(「本問では,〜」)及び結論(「よって」「したがって」「以上より」)の順に書き,反対の立場は「確かに,〜とも思える。しかし,〜。」の形で取り上げ,最後に「以上」と書く型である。
採点実感が処分性の定義の形式的当てはめや比較の視点の乏しさを指摘しているため,規範の論証は争いの中心に絞り,介護保険法の仕組みと問題文の事実を評価する部分に多くの字数を割いた。
答案の括弧書きで示した判例は,いずれも裁判所ウェブサイトに判決全文が掲載されているものである。
「判例同旨」は判例と同じ規範によるもの,「参照」は事案が異なるが判示の考え方を参考にしたものを示す。
答案の「法」は介護保険法,「省令」は介護老人保健施設の人員,施設及び設備並びに運営に関する基準,「条例」はB県行政手続条例を指す。
字数は見出しを含めて約4900字である。
実際の答案で分量を減らす場合は,重み5の評価項目(番号2・9・16・20)に対応する部分を残し,その他の部分を短くすることになる。
2 答案
1 設問1について
(1) 法的手段の候補
本問勧告(法103条1項)に従わなかった旨の公表(同条2項)を阻止する手段として,①本問勧告の取消訴訟と執行停止,②公表の差止訴訟と仮の差止め,③確認訴訟又は民事の差止訴訟と仮処分が考えられ,その適否は勧告と公表が「処分」(行政事件訴訟法(以下「行訴法」という。)3条2項)に当たるかにかかる。
(2) 勧告と公表の法的性格
ア 勧告
本問勧告は「処分」に当たるか。行政指導の形式をとる勧告にも処分性が認められるかが問題となる。
「処分」とは,公権力の主体たる国又は公共団体が行う行為のうち,その行為によって直接国民の権利義務を形成し又はその範囲を確定することが法律上認められているものをいい(判例同旨・最判昭和39年10月29日),その判断は根拠法令の仕組み全体から行為の法的効果を読み取って行うべきである。
確かに,勧告は相手方の任意の協力を前提とする行為であり(B県行政手続条例(以下「条例」という。)2条7号,30条1項),それ自体では開設者に義務を課さないとも思える。
しかし,法103条は,勧告を受けた開設者が期限内に従わなければ公表することができ(2項),正当な理由なく勧告に係る措置をとらなければ措置命令や業務停止命令をすることができるとし(3項),命令違反は開設許可の取消しにまで至り得る(104条1項9号)。
設備の基準違反には直ちに命令ができる(101条)のと異なり,人員・運営の基準違反では勧告が公表と命令の法律上の要件となっている。
そうすると,勧告を受けた開設者は,期限までに勧告に係る措置をとるべき地位に置かれ,従わなければ公表や命令を受ける地位に立たされる。
また,医療法上は行政指導とされる病院開設中止勧告も,これに従わない場合には相当程度の確実さをもって保険医療機関の指定を受けられなくなり,病院の開設自体を断念せざるを得ないことから処分に当たるとされている(最判平成17年7月15日)。
本問では確かに,後続の公表が処分でなく事実行為とみられる点で判例と異なる。
しかし,勧告不服従は法律上直ちに公表の要件となり,公表は一度されれば信用の失墜を回復し難く,後で争う途もないから,勧告の段階で争わせる必要はむしろ大きい。
よって,本問勧告は「処分」に当たると解する。
イ 公表
これに対し,公表は勧告不服従の事実を市民に知らせる事実行為である。
確かに,公表は勧告不服従への制裁として機能するから,公権力の行使に当たるとみる余地もある。
しかし,公表によって法律上の地位が変動するわけではなく,制裁的な機能は事実上のものにとどまるから,公表の処分性は否定される可能性が高い。
(3) 各手段の検討
ア ①勧告の取消訴訟と執行停止
本問勧告が処分である以上,名あて人Aに原告適格があり(9条1項),被告はB県で(11条1項1号),平成20年1月15日から6か月の出訴期間内であり(14条1項),期限経過後も勧告は公表・命令の要件として効果を持つから訴えの利益もある。
執行停止は,公表が勧告を前提とする後続の手続であるから,「手続の続行」の停止として公表の停止を求め,これに当たらないとしても勧告の効力の停止を求める(25条2項ただし書)。
「重大な損害」(25条2項)は,損害の回復の困難の程度を考慮し,損害の性質・程度,処分の内容・性質を勘案して判断する(同条3項)。
本問では,収入減は金銭賠償で回復し得るが,公表による市民の信頼の失墜は事後に回復し難く,多くの利用者が離れれば施設経営自体が立ち行かなくなるおそれもある。
入所者の健康リスクや家族の負担は,A自身の損害ではないが,損害の性質を重くする事情である。
3月24日の期限後はいつでも公表され得るから,緊急の必要もある。
B県は,違反状態の継続が入所者の生命・身体を害し,「公共の福祉に重大な影響」(25条4項)を及ぼすと反論し得る。
しかし,停止の範囲を公表に限れば(「一部の停止」),措置命令による是正の途は残るから,この反論は当たらない。
本案について理由がないとみえないことは,設問2のとおりである。
イ ②公表の差止訴訟と仮の差止め
公表の処分性が否定されれば,差止訴訟(3条7項)は不適法となる。
仮に処分性を肯定すれば,Aの不服従の回答から公表の蓋然性はあり,信用失墜は事後の救済が困難だから「重大な損害」(37条の4第1項)も認め得るし,勧告の取消訴訟の提起だけでは公表は当然には止まらないから「他に適当な方法」(同項ただし書)にも当たらないと解される。
しかし,仮の差止めには「償うことのできない損害」(37条の5第2項)という執行停止より厳格な要件が課され,公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれがあるときもすることができない(同条3項)。
ウ ③確認訴訟・民事の差止訴訟と仮処分
勧告に従う義務のないことの確認訴訟(4条後段)は,勧告の処分性を否定する立場の手段で,確認対象の適否や公表の切迫による即時確定の必要が確認の利益の中心となるが,勧告を処分とみる以上,取消訴訟で争うべきであり,確認の利益は認められにくい。
また,公表の処分性を否定する立場では,公表は公権力の行使に当たらず行訴法44条の制限は及ばないから,当事者訴訟又は法人であるAの名誉・信用という人格権に基づく民事の差止訴訟を本案として,民事保全法上の仮の地位を定める仮処分(同法23条2項)を求めることができる。
もっとも,この経路は勧告の効力を失わせず,適否が公表の性格の理解に左右される点で①に劣る。
(4) 結論
以上より,本問勧告の取消訴訟を提起し,公表の停止(手続の続行の停止,予備的に効力の停止)を申し立てる手段が最も適切であり,取消判決で勧告が遡って効力を失えば公表と命令の前提も消滅する。
2 設問2について
(1) 実体上の違法事由(事実誤認)
ア 人員基準の充足
看護・介護職員の員数は,常勤換算方法で入所者の数が3又はその端数を増すごとに1以上とされ(省令2条1項3号),常勤換算方法は,勤務延時間数の総数を常勤の従業者が勤務すべき時間数で除して算定する(同条3項)。
本問では,入所者は60名であるから,常勤換算で20以上が必要となる。
ところが,本問調査は一部の出勤簿を対象とせず,調査日の特定曜日以外に週5日勤務する看護師2名,介護職員5名を算入していない。
週5日勤務の者は勤務延時間数の上で相当の常勤換算数となるから,これを算入すれば本件施設は基準を満たしていたといえる。
よって,員数不足の認定は事実を誤認しており,勧告①は違法である(「常勤の」職員を求める点も省令の要求を超える)。
イ 身体的拘束
省令13条4項は,入所者等の生命・身体を保護するため緊急やむを得ない場合を除き,身体的拘束等を禁止する。
本問では,ベッドの柵の設置は1名に対し5時間に限られており,「常時」の身体的拘束が行われているとの勧告②の前提事実は存在しない。
確かに,柵の設置も身体的拘束等に当たり,常時か否かを問わず禁止されるとの反論が考えられる。
しかし,柵の設置はベッドからの転倒を防止して当該入所者の身体を保護するためのものであり,時間を限り,家族の同意も得ているから,「緊急やむを得ない場合」に当たる。
よって,基準違反の認定は誤りであり,勧告②も違法である。
なお,これらは基準に照らした事実の問題であるから,裁量の逸脱濫用ではなく事実誤認として主張すべきである。
(2) 勧告の手続上の違法事由
ア 要求される手続
B県は,手順は行政の自由であると主張する。
しかし,本問勧告は,前述したとおり,公表と命令の要件として開設者を不利益な地位に立たせる処分であり,法律に根拠を置くから,地方公共団体の機関がするものでも行政手続法(以下「行手法」という。)の適用は除外されない(行手法3条3項)。
思うに,行手法が不利益処分に意見陳述と理由の提示を求めた趣旨は,名あて人に防御の機会を与え,行政庁の判断の慎重・公正を確保する点にあり,公表・命令に直結する勧告は直接に義務を課す処分と実質的に異ならない。
よって,本問勧告には不利益処分の手続(行手法13条1項2号,14条1項)が適用され,少なくともその趣旨が及ぶと解する。
イ 理由提示の欠如
理由の提示は,いかなる事実関係に基づきいかなる法規を適用したかを,名あて人がその記載自体から了知し得る程度に示す必要がある(判例同旨・最判昭和60年1月22日)。
本問勧告書には,勧告の基礎となる事実が示されておらず,Aはどの職員の数え方やどの入所者の拘束が問題とされたかを知り得ない。
よって,本問勧告は行手法14条1項に違反し,この瑕疵はそれ自体で取消事由となる。
ウ 弁明の機会の欠如
本問では,B県は調査以来何の連絡もせず,Aの問い合わせにも一切応じないまま,いきなり勧告書を交付しており,弁明の機会(行手法13条1項2号)を与えていない。
確かに,公益上緊急の必要があれば意見陳述の手続は省略できる(同条2項1号)。
しかし,調査から勧告まで3か月が経過し,勧告にも2か月余りの期限が付されているから,緊急の必要はなく,同項の他の除外事由もない。
Aには出勤簿の未算入等の反論があり,弁明により判断が変わり得たから,この瑕疵も取消事由となる。
エ 行政指導と解する場合
仮に勧告を行政指導と解すれば,地方公共団体の機関がする行政指導には行手法第4章が適用されず(行手法3条3項),条例の行政指導手続が適用されるところ,基礎となる事実を示さない勧告書は行政指導の趣旨を明確に示しておらず,条例33条1項に反する。
(3) 調査の違法
ア 調査の違法事由
法100条の調査は,拒否に罰則を科すことで受忍を間接的に強制する調査であり(法209条2号。最大判昭和47年11月22日参照),職員は請求があれば身分証明書を提示しなければならないのに(法100条2項・24条3項),本問の職員は身分の説明を求められても提示を拒否しており,同項に違反する。
また,法100条1項は帳簿書類の提出・提示を命じ又は検査させる権限を定めるにとどまり,相手方の意思に反して物件を持ち去る権限を与えていない。
確かに,任意の提出とみれば違法ではないとも思える。
しかし,罰則の対象になると繰り返し告げた上で,提出命令も経ずに帳簿等書類を段ボール箱に詰めて持ち帰った行為は,強制力の行使であり,令状のない押収に等しく,法100条の解釈として許容されない(同条2項・24条4項参照)。
さらに,Aは,他の施設と異なり実地指導を経ずに調査したことを問題とする。
しかし,法100条は「必要があると認めるとき」に調査を認めるだけで実地指導の先行を要件とせず,実施細目は職員の合理的な選択に委ねられ,事前通知も一律の要件ではない(最決昭和48年7月10日参照)から,知事に先行させる義務はなく,この点は違法事由とならない。
イ 調査の違法と勧告の関係
調査の違法は勧告の違法をもたらすか。両者の関係が問題となる。
確かに,調査と勧告は別個の行為であり,勧告の要件が客観的に充足されていれば,調査の違法は国家賠償の問題にとどまるとも思える。
しかし,法は,100条の調査で施設の実態を把握し,その結果に基づいて103条の勧告をする仕組みをとっており,調査は勧告の判断資料を得るための法定の前提手続である。
思うに,前提手続に重大な違法があるのにその結果に基づく処分を維持すれば,手続を法定した趣旨が没却される。
よって,調査に重大な違法があり,勧告がその調査の結果に基づいてされた場合には,勧告も違法となると解する。
本問では,勧告は「当日の調査に基づき」された判断のみを基礎とし,その調査には身分証の不提示と書類の持ち去りという重大な違法がある。
したがって,本問勧告は調査の違法により違法となり,調査が一部の出勤簿・特定曜日に限られたことは前述した事実誤認の原因でもある。
以上より,Aは,勧告の取消訴訟において,以上の実体上及び手続上の違法事由を主張すべきである。
以上
3 出題の趣旨・採点実感を踏まえた解説
(1) 答案と評価項目の対応
答案の1は第4の番号1~11(設問1),2は番号12~22(設問2)に対応し,番号23(条文の引用)は答案全体に関わる。
主な評価項目は,1(2)アの勧告の処分性(番号2),1(2)イの公表の法的性格(番号3),1(3)の各手段の検討と1(4)の結論(番号9),2(2)アの勧告に要求される手続と適用区分(番号20)及び2(3)イの調査の違法と勧告の関係(番号16)に当たる。
第4の重み5・4の項目及び条件付きの項目について,模範解答との対応を次の表に示す。
| 番号 | 重み | 評価項目 | 答案の該当箇所・留保 |
|---|---|---|---|
| 2 | 5 | 勧告に従わない場合に公表,措置命令,業務停止命令,開設許可取消し等がされ得る介護保険法の仕組みを正確に把握し,それに即して勧告の法的性格(処分性)を具体的に分析する(定義の形式的当てはめに終わらない) | 答案1(2)ア。法103条2項・3項,104条1項9号,101条との対比,病院開設中止勧告判決との異同 |
| 3 | 4 | 公表の法的性格(処分性の有無)を介護保険法に即して分析する | 答案1(2)イ。処分性は否定される可能性が高いとした |
| 4 | 2 | 勧告の取消訴訟を論じるに当たり,処分性以外の訴訟要件(原告適格,被告,出訴期間,訴えの利益等)にも触れる【適用条件】勧告の処分性を肯定して取消訴訟を論じる場合 | 答案1(3)ア第1段落 |
| 5 | 4 | 仮の救済として執行停止の要件(行政事件訴訟法25条2項~4項。重大な損害,緊急の必要,公共の福祉,本案について理由がないとみえないこと)を検討し,問題文の事実に当てはめる【適用条件】勧告の取消訴訟と執行停止を選ぶ場合 | 答案1(3)ア。停止の種類(25条2項ただし書)と停止の範囲は公式資料に記載のない補足 |
| 6 | 4 | 公法上の当事者訴訟(確認訴訟)を提起し,確認の利益を中心に詳細に検討するとともに,仮の救済として仮処分を検討する【適用条件】勧告の処分性を否定し,確認訴訟を主たる手段とする場合 | 答案は勧告の処分性を肯定したため適用外。1(3)ウで確認の利益の中心要素と仮処分の可否に触れた |
| 7 | 4 | 差止め訴訟の要件(行政事件訴訟法37条の4)と仮の差止めの要件(同法37条の5第2項・第3項)を法文に即して解釈し,的確に当てはめる【適用条件】公表の処分性を肯定し,差止め訴訟と仮の差止めを主たる手段とする場合 | 答案は公表の処分性を否定したため適用外。1(3)イで仮に肯定した場合の要件を比較した |
| 8 | 3 | 公表に対する民事の差止め訴訟又は公法上の当事者訴訟を提案して仮処分の可能性を検討し,民事の差止め訴訟では差止めを根拠付ける権利を詳しく述べる【適用条件】公表の処分性を否定し,民事差止め等を主たる手段とする場合 | 主たる手段ではないため適用外。1(3)ウで名誉・信用という人格権と仮の地位を定める仮処分に触れた |
| 9 | 5 | 複数の法的手段を提案し,それらを実質的な視点で比較した上で,最も適切と考える法的手段を自己の見解として明示する(評論家風に並べるだけにしない) | 答案1(1)・(3)・(4)。処分性,仮の救済の要件の厳格さ,勧告の効力を失わせるかの3点で比較した |
| 13 | 4 | 帳簿書類等を段ボール箱に詰めて持ち帰った行為が強制力の行使(押収)に当たるとすれば,介護保険法100条の解釈として許容されるかを検討する | 答案2(3)ア第2~4段落。任意の提出とみる反論を退けた |
| 16 | 5 | 調査の違法が認められる場合に,それが勧告の適法性にどのような影響を及ぼすかを検討する | 答案2(3)イ。違法性の承継の枠組みは使っていない(番号17) |
| 18 | 4 | 基準違反(看護・介護職員の員数不足,常時の身体的拘束)を内容とする県の指摘について,問題文の事実に基づき事実誤認を主張する | 答案2(1)ア・イ |
| 20 | 5 | 勧告にどのような行政手続が要請されるかを勧告の法的性格に即して論じ,行政手続法と行政手続条例の適用区分を正確に示す | 答案2(2)ア・エ |
| 21 | 4 | 行政手続法の不利益処分手続として具体的にどのような手続(意見陳述の手続,理由の提示等)が要求されるかを明らかにし,本件でそれが踏まれたかを検討する【適用条件】勧告を不利益処分ととらえる場合 | 答案2(2)ア~ウ |
| 22 | 4 | 知事の行う行政指導には行政手続法が適用除外となることを指摘し,B県行政手続条例の行政指導手続に即して手続の違法を検討する【適用条件】勧告を行政指導と解する場合 | 答案は勧告を不利益処分ととらえたため適用外。2(2)エで行政指導と解した場合の条例33条1項違反を示した |
重み3以下で条件の付かない項目は,番号1を答案1(2)ア,番号10を1(3)ウ,番号11を1(3)イ,番号12を1(3)アの末尾と2(3)イの末尾,番号14・15を2(3)ア,番号17を2(3)イ,番号19を2(1)イの末尾で扱い,番号23は答案全体で条文を明示した。
(2) 設問1
出題の趣旨は,勧告に従わない場合に公表,措置命令,業務停止命令,開設許可取消し等がされ得る法的仕組みを正確に把握した上で勧告や公表の法的性格を分析することを前提とし,その結論に応じて,勧告の取消訴訟と執行停止,当事者訴訟(確認訴訟)と仮処分,公表の差止め訴訟と仮の差止め,民事の差止め訴訟等を挙げ,複数の手段の比較を通じて最も適切な手段を提示することを求めている。
採点実感は,処分性の定義の形式的当てはめに終始する答案,比較の視点が希薄な答案,当事者訴訟に仮の救済がないとする答案,補充性を誤解する答案を挙げ,「自己の見解」が示されているかを重視したとしている。
答案は,処分性の定義(番号1)を示した上で,法103条が勧告を公表(2項)と措置命令・業務停止命令(3項)の要件とし,命令違反が許可の取消し(104条1項9号)に至り得る仕組みから,勧告を受けた開設者が公表や命令を受ける地位に立たされることを読み取り,勧告の処分性を肯定した(番号2)。
設備の基準違反には直ちに命令ができる101条との対比と,病院開設中止勧告に関する最高裁平成17年7月15日判決との異同は,公式資料に記載のない補足である。
同判決の理由は,勧告に従わなければ相当程度の確実さをもって保険医療機関の指定を受けられなくなり,病院の開設自体を断念せざるを得ないという点にあり,本問の後続措置である公表は処分性が否定される可能性が高い点で事案が異なるため,答案ではその差を示した上で,公表を後で争う途がないことを勧告段階で争わせる理由とした。
公表については,事実行為であり処分性は否定される可能性が高いとした(番号3)。
その上で,勧告の取消訴訟の訴訟要件(番号4)と執行停止の要件(番号5)を検討し,差止め訴訟については補充性を正しく理解した上で仮の差止めの要件の厳格さを(番号7・11),確認訴訟と民事差止めについては確認の利益と仮処分の可否を(番号6・8・10)比較し,勧告の取消訴訟と執行停止を最も適切とした(番号9)。
執行停止で公表を「手続の続行」として止めるか勧告の効力を止めるか(25条2項ただし書),停止の範囲を公表に限ることで公共の福祉の反論に応えることは,公式資料に記載のない補足である。
入所者の健康リスクや家族の負担をA自身の損害ではなく損害の性質を重くする事情と位置付けたのは本記事の理解であり,公式資料が述べるものではない。
(3) 設問2
出題の趣旨は,調査について,帳簿書類等の持ち帰りが強制力の行使に当たるとすれば介護保険法100条の解釈として許容されるか,身分証の不提示が100条2項・24条3項に違反するか,行政指導として行われる調査を100条の調査に先行させる義務を知事が負うかを挙げ,調査の違法が勧告にどのような影響を及ぼすかの検討も要求されているとする。
勧告については,基準違反の指摘についての事実誤認の主張と,勧告の手続法的違法を挙げ,その前提として勧告に要請される手続を論じ,勧告を不利益処分ととらえれば行政手続法の不利益処分手続,行政指導と解すれば同法の適用除外とB県行政手続条例の行政指導手続によるとしている。
採点実感は,調査における強制・押収の違法を指摘する答案が極めて少なかったこと,調査の違法の影響を専ら「違法性の承継」の問題とする答案,行政手続法と条例の適用区分の誤り,勧告の違法を安易に行政裁量の問題として論じる答案を挙げている。
答案は,実体上の違法として,省令2条1項3号・3項の常勤換算方法により入所者60名に対し常勤換算20以上が必要となることを示し,週5日勤務の看護師2名・介護職員5名の算入漏れによる事実誤認と,1名・5時間・家族の同意・転倒防止という事実からの身体的拘束の認定の誤りを主張した(番号18)。
裁量の逸脱濫用としてではなく事実誤認として主張すべきことも一文で示した(番号19)。
勧告①が「常勤の」職員を求める点が常勤換算方法を超えるとの指摘は,公式資料に記載のない補足である。
手続上の違法では,勧告が法律に根拠を置く処分であるから行政手続法3条3項による適用除外に当たらないことを示し,勧告の位置付けから不利益処分の手続が適用され,少なくともその趣旨が及ぶとした上で(番号20・21),理由の提示(14条1項)と弁明の機会の付与(13条1項2号)を欠くことを当てはめた。
理由の提示の程度に関する最高裁昭和60年1月22日判決の引用と,緊急の必要による除外(13条2項1号)の検討は,公式資料に記載のない補足である。
勧告を行政指導と解した場合については,行政手続法第4章が適用されず条例の行政指導手続によることを示し,条例33条1項の違反を一文で示した(番号22に当たる分岐への備え)。
調査の違法では,身分証の不提示(番号14)と,罰則の告知と提出命令なしの持ち帰りを強制力の行使と評価して100条の解釈として許容されないとし(番号13),実地指導を先行させる義務はないとした(番号15)。
調査と勧告の関係は,違法性の承継の枠組みによらず,調査が勧告の判断資料を得るための法定の前提手続であることから,重大な違法がありその結果に基づいて勧告がされた場合には勧告も違法となるとした(番号16・17)。
この規範は,調査の違法と処分の効力の関係について考えられる見解の一つを採ったものであり,本記事の理解であって,公式資料が特定の見解を示しているわけではない。
(4) 答案の弱点と扱わなかった事項
勧告の処分性を否定して確認訴訟を選ぶ構成,公表の処分性を肯定して差止め訴訟を選ぶ構成は,出題の趣旨が許容する分岐であるが,答案では比較の対象として要件を示すにとどめた。
確認訴訟の確認対象の具体的な定め方や,民事差止めの根拠となる人格権の内容は,字数の制約から1(3)ウで要点に触れるにとどまる。
調査の違法と勧告の関係について,違法に収集した資料を除くと要件事実を認定できない場合に勧告を違法とする考え方もあり得るが,答案では採っていない。
省令2条2項は入所者の数を前年度の平均値とするが,問題文は現在の入所者数(60名)だけを示しているため,答案は60名を前提に計算した。
試験後の法改正として,行政手続法は平成26年改正(平成27年4月1日施行)で,行政指導に携わる者が許認可等をする権限を行使し得る旨を示すときの根拠の明示(35条2項)や行政指導の中止等の求め(36条の2)等を加えた。
介護保険法103条も,後に勧告の要件と措置を各号に分けて定める形に改められた(e-Gov法令検索の平成29年4月1日施行の版による)。
答案はいずれも試験時の法によっており,これらの改正を前提にしていない。
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第7 出典
1 公式資料
①法務省「論文式試験問題集[公法系科目]」(平成20年新司法試験)
②法務省「平成20年新司法試験論文式試験問題出題趣旨」
③法務省「平成20年新司法試験の採点実感等に関する意見」
④法務省「平成20年新司法試験の実施日程等について」
2 法令
①行政事件訴訟法(e-Gov法令検索)
②行政手続法(e-Gov法令検索)
③民事保全法(e-Gov法令検索)
④介護保険法,介護老人保健施設の人員,施設及び設備並びに運営に関する基準及びB県行政手続条例は,問題文の資料2に掲げられた抜粋による。
3 裁判例
①最高裁昭和39年10月29日判決(昭和37年(オ)第296号,民集18巻8号1809頁)
②最高裁平成17年7月15日判決(平成14年(行ヒ)第207号,民集59巻6号1661頁)
③最高裁昭和60年1月22日判決(昭和57年(行ツ)第70号,民集39巻1号1頁)
④最高裁昭和47年11月22日大法廷判決(昭和44年(あ)第734号,刑集26巻9号554頁)
⑤最高裁昭和48年7月10日決定(昭和45年(あ)第2339号,刑集27巻7号1205頁)
4 留意事項
出題の趣旨は2頁~3頁の〔第2問〕の部分を,採点実感は5頁~6頁の行政法の部分を,評価項目の根拠とした。
出題の趣旨の〔第1問〕と他の科目の部分,採点実感の他の科目の部分は,本問の評価項目に用いていない。
答案と解説は試験時の法令によっている。
行政事件訴訟法は平成16年法律第84号による改正後の規定であり,行政手続法は平成26年法律第70号(平成27年4月1日施行)による改正前の規定である。
介護保険法,省令及びB県行政手続条例は問題文の資料2の抜粋によっており,資料2で略とされた部分(省令13条5項等)は扱っていない。
評価項目,重み,答案と解説の法的な理解は本記事独自の分析であり,出題の趣旨・採点実感が述べる内容とは,第4の根拠欄及び第5の3で区別して示した。