第1 建物図面の地番と現在の土地登記が合わないとき
1 最新の取得日でも図面の内容が最新とは限らない
建物図面を最近取得したのに,そこに記載された地番が現在の土地登記と異なることがある。
証明書や登記情報を取得した日と,図面が作成・提出された時期は異なるため,取得日だけを見て現在の敷地の形状や地番を示す図面だと判断してはならない。
図面に記載された作成日,受付年月日・番号及び訂正等の記録を確認し,どの時点の状態を示す資料なのかを整理する。
現在の土地・建物の登記事項証明書,地図等,地積測量図及び建物図面・各階平面図を組み合わせる必要がある。
建物の所在地番に複数筆が記載されている場合は,それぞれの土地を確認し,所有者や利用権まで同一だと推測しないようにする。
相続,売買又は担保評価では,この対応関係の確認が対象不動産の範囲を決める基礎となる。
2 地番,家屋番号及び住居表示を分ける
土地の地番,建物の家屋番号及び住居表示は,役割の異なる情報である。
郵便物の住所や建物名だけで,調査すべき土地を確定することはできない。
まず土地・建物の登記事項証明書で所在,地番及び家屋番号を確認し,図面や現地資料と照合する。
建物の表示に関する登記事項には,建物の所在する土地の地番が含まれる(不動産登記法44条)。
しかし,所在欄の地番の記載から,建物所有者がその土地を所有していることや,現在も同じ条件で利用できることまでは分からない。
建物の所有権と土地の所有権・利用権は,それぞれ確認する必要がある。
第2 分筆と合筆で登記記録がどう変わるか
1 分筆では元の記録が一律に閉鎖されるわけではない
不動産登記規則101条は,甲土地から乙土地を分筆するとき,乙土地について新たな登記記録を作り,甲土地の記録には残余部分と分筆の内容を記録する仕組みを定めている。
甲土地には新たな地番を付す場合と従前の地番を維持できる場合があり,変更した表題部の記載には抹消を示す記号が付される。
したがって,「分筆前の登記記録は必ず閉鎖される」として閉鎖記録だけを探すと,存続する記録に残った履歴を見落とすことがある。
以下は記録の追い方を説明するための架空例である。
もとの30番1から30番9が分筆され,30番1が残余部分として存続した場合は,30番9の「30番1から分筆」という記載と,30番1の「30番9を分筆」という記載を対応させる。
実際の記載は対象の登記記録で確認し,地番の数字の並びだけから分筆元を推測しないようにする。
2 合筆では吸収された土地の記録を閉鎖する
不動産登記規則106条は,甲土地を乙土地に合筆するとき,乙土地の表題部に合筆後の事項等を記録し,甲土地の記録を閉鎖することを定めている。
閉鎖された甲土地の「何番に合筆」という記載と,存続する乙土地の「何番を合筆」という記載をつなぐことで,現在の土地に至る経過を確認できる。
分筆と合筆では記録の扱いが異なるため,一つの説明でまとめないことが必要である。
前記の架空例で,30番9が後に30番10へ合筆されたなら,30番9の閉鎖記録から30番10の存続記録へ追う。
古い建物図面に30番1や30番9が書かれている場合は,その時点の区画が現在のどの部分に対応するのかを,登記履歴と当時・現在の図面で確かめる。
3 地番の履歴と所有権の履歴を混同しない
分筆・合筆の履歴を追う表題部と,所有権や担保権等の記載を確認する権利部は,別々に読む必要がある。
ある土地が現在の地番につながることが分かっても,その土地を誰がいつ取得したか,どの範囲に抵当権等があるかは別途確認する。
共同担保目録や必要な閉鎖記録も含め,地番の変遷と権利の変遷を分けて時系列化すると検討しやすい。
第3 各図面が示すことと示さないこと
1 地図と地図に準ずる図面
不動産登記法14条は,登記所に備える地図と,地図が備えられるまでこれに代える地図に準ずる図面を区別している。
法務局は,登記所の地図に関する説明で,後者の大部分は旧土地台帳附属地図であり,地図に比べて精度が劣り,形状が現地と一致しないものもあると説明している。
資料の名称が「地図」であっても,内容欄で地図か地図に準ずる図面か,縮尺,作成時期及び精度等を確認すべきである。
地図に準ずる図面は,土地の配列や隣接関係を調べるための重要な資料である。
一方,そのコピーの見た目だけから辺長,面積,細い通路の実幅又は建物の越境を断定することは避ける。
山形地方法務局「地図と公図の違い」も,資料の作成目的と時期に応じた限界を説明している。
2 地積測量図と建物図面・各階平面図
土地の地積測量図は,面積や境界点等を検討する資料であり,作成時期によって記載内容や測量の条件が異なる。
図面の地番が現在と異なる場合は,先に分筆・合筆の履歴を確認する。
複数の図面がある場合は,古い図面を捨てず,どの登記に伴う資料かを整理して相互の違いを調べる。
建物図面は,建物と敷地の位置関係を調べる資料であり,各階平面図は階ごとの形状や床面積等を調べる資料である。
両者を,土地の利用権や建築基準法上の適法性をすべて証明する資料として扱うことはできない。
増改築や利用状態の変化が疑われる場合は,現地,建築関係の資料及び登記の履歴を追加して確認する。
3 縮尺をそろえて重ねるときの注意
異なる年代の図面を重ねる作業は,地番対応を考える補助となるが,正確な現況測量の代わりにはならない。
原図の縮尺,スキャンの拡大縮小,方位,座標,基準点及び図面の歪みを確認し,位置合わせの根拠を残す。
基準点が不足する図面同士の重ね合わせで,境界や越境の有無まで断定しないようにする。
図面上の見た目の比率で建物床面積を各土地へ配分したり,敷地の利用面積を確定したりすることは避ける。
価格や権利の判断に影響する場合は,土地家屋調査士等の専門家による資料調査や測量を検討すべきである。
第4 弁護士の調査で資料をつなぐ順序
1 現在の記録から必要な過去記録へ進む
最初に現在の土地・建物の登記事項証明書を取得し,所在,地番,家屋番号,地積,床面積及び権利者を整理する。
次に地図等,地積測量図及び建物図面・各階平面図を確認し,地番,形状,面積又は記載時期が一致しない箇所を抽出する。
その不一致を説明するために,分筆元,合筆先,閉鎖記録又はコンピューター化前の記録を必要な範囲で取得する。
分筆・合筆のたびに,変更日,受付情報,変更前の地番,変更後の地番,地積及び対応する図面を記録する。
面積の増減があれば,合筆・分筆のほか,地積更正その他の原因も記録で確認する。
現在の面積と古い図面の面積が合わないことだけで,資料が誤っていると決めつけないようにする。
2 確認できた対応と推測を分ける
資料整理では,「登記に記載されている分筆・合筆の経過」,「図面上で対応すると考えられる位置」及び「現地・測量で確認できた位置」を分けて記載する。
対応が未確定の部分には,不足する記録や確認方法を添える。
査定書や契約書に添付する図は,法務局の原図なのか,調査用に作成した説明図なのかが分かるようにする。
取得日と作成日,図面の種類,登記情報の提供資料か証明書かの別も保存しておく。
同じ名前のPDFが複数あるときは,ファイル名だけで選ばず,内容,受付情報及び対象地番を確認することが必要である。
第5 査定対象外の土地を調べる理由
1 価格に含める範囲と調査する範囲
依頼者が所有する土地と建物だけを査定する場合でも,対象外土地に建物の一部や通路,階段,設備等がかかっている可能性があれば,その利用関係を確認する必要がある。
対象外土地の所有権価格を査定額に足さないことと,その土地の利用条件が対象物件の収益や処分に与える影響を検討することは両立する。
隣地の登記や図面を調べたという理由だけで,隣地を査定対象に含めるものではない。
土地ごとに,所有者,利用目的,権利の根拠,期間,対価,維持管理,売却後の利用継続及び利用停止時の影響を整理する。
建物の所在欄に載っている地番,建築計画上の敷地及び実際に通行・利用している土地が,常に一致するとは限らない。
必要な部分が未確認なら,その状態を査定条件に反映し,利用権があると当然視しないようにする。
2 接道の問題と他人地を使う問題
建築基準法上の道路・接道の確認と,私有地を通行・掘削できる民事上の権利の確認は,別の検討である。
公図に通路が描かれていることだけで,売却後の通行・設備更新や建替えまで問題なくできると判断することはできない。
道路資料,契約・承諾関係及び現地を確認し,必要な場合は行政庁や専門家に照会する。
具体的な法律関係は,私道をめぐる法律関係を参照されたい。
賃料収入を査定に使うときの対象範囲と費用については,相続・遺産分割で収益不動産の査定書を読むも参照されたい。
第6 登記と現況の不一致が残る場合
1 所在変更等の登記が必要かを確認する
不動産登記法51条は,建物の表題部の一定の登記事項に変更が生じた場合,原則として変更から1か月以内の変更登記申請を定めている。
ただし,古い図面に旧地番が残っていることだけで,現在の表題部が誤っていることや,所有者に特定の申請義務違反があることまで断定してはならない。
変更の内容,時期,現在の記録及び職権処理の有無等を確認し,訂正や変更の必要性は土地家屋調査士又は登記所に相談することが適切である。
古い建物図面を現在の地番対応の説明に使うことと,図面や登記を実際に更新することも別の作業である。
売買や遺産分割で問題となる場合は,対応関係を整理しただけで足りるのか,登記や測量等まで必要なのかを案件の目的に応じて判断する。
2 境界,越境又は利用権の問題が残るとき
境界点の位置,建物の越境又は対象外土地の利用権が価格や売却条件を左右する場合は,不確定部分を図面上に明示し,専門家の追加調査や当事者間の確認を検討する。
法務局の図面があることをもって,すべての境界・所有権・契約問題が解決したと扱うことはできない。
資料で確定できる部分と,測量,契約確認又は紛争手続を要する部分を分けることが,査定条件や契約条件を具体化するために役立つ。
第7 出典と関連記事
法令上の主な根拠は,不動産登記法14条,44条及び51条,並びに不動産登記規則101条及び106条である。
地図の性質は,法務局「登記所の地図にはどのようなことが記載されているのですか」及び山形地方法務局「公図って何?~地図と公図の違い~」による。
本文の資料確認順序と架空例は,これらを踏まえた実務上の説明である。
過去記録の保存と取得方法は,不動産登記簿等の保存期間を参照されたい。
底地取得前後の遺言と権利関係は,借地権付建物の遺言と底地取得・混同を参照されたい。