メインコンテンツへスキップ
       

会社のパソコンに無断でソフトやアプリを入れた社員への対応―懲戒処分の有効性,損害賠償の限度及び会社が先に整えること(AI作成)

第1 本記事の対象と結論

1 対象

本記事は,会社が貸与したパソコンやスマートフォンに,社員が会社の許可なく,業務と関係のないソフトやアプリを入れた場面を扱う。
例えば,画面の装飾(第2の1の4コマ漫画)やチャット(第5の1の裁判例)のためのソフト,動画再生ソフト,ブラウザーの拡張機能等が考えられる。
社員の私物の機器や個人のサービスを業務に使う場面は,社員が私用LINE・私物USB・個人メールで会社の情報を扱ったときで扱っている。
法令は令和8年10月30日時点の e-Gov 法令検索の条文により,裁判例は裁判所ウェブサイト又は判例秘書で本文を確認したものに限って紹介する。

2 結論

① 発覚したら,まずソフトを止めて記録を残し,ウイルスの感染や情報の流出がないかを確かめる。
処分を考えるのはその後である。

② 懲戒処分をするには,就業規則に懲戒の種別及び事由が定められ,社員に周知されている必要がある。
処分の重さは,行為の性質及び態様その他の事情に照らして相当でなければならず,相当性を欠く処分は無効になる(労働契約法15条)。

③ 裁判例では,パソコンの取扱いの規則がなく,注意や警告もされていなかった事案で減給処分が無効とされている。
他方で,セキュリティソフトを故意に繰り返し止めた行為は,解雇を有効とする事情の一つとされている。

④ 会社に損害が生じても,社員に請求できる額は,損害の公平な分担という見地から信義則上相当と認められる限度に制限される。
給料から一方的に差し引くことも,原則としてできない(労働基準法24条1項本文)。

⑤ 会社の側にも,個人データの安全管理のために必要かつ適切な措置を講じ,個人データを扱う従業者を監督する義務がある(個人情報の保護に関する法律23条・24条)。
規則を定めて周知し,最初の発見時に注意を記録に残しておくことが,後の処分の有効性を支える。

第2 無断インストールで問題になること

1 安全の問題

NTT西日本の情報サイト「Biz Clip」の4コマ漫画(令和6年4月25日公開)は,新入社員が貸与パソコンの画面を好みのデザインにしようとフリーソフトを無断で入れ,それが不審な挙動として検知され,上司に叱られても理由が分からない,という場面を描いている。
無料のソフトであっても,会社の機器に入れれば,このように不審な挙動として検知されたり,サポートの終了後も更新されないまま残ったり(第2の3)することがある。
また,会社がどの機器に何が入っているかを把握できなくなると,第7で見る台帳による管理も成り立たなくなると考えられる。

2 権利の問題

ソフトの利用を許諾された者は,その許諾に係る利用方法及び条件の範囲内において利用することができる(著作権法63条2項)。
「個人利用に限り無料」等の条件のソフトを業務に使えば,条件の範囲外の利用になるおそれがある。
ライセンスの数を超えた複製や不正にコピーされたソフトの使用について,会社が権利者から賠償を求められた裁判例は,ソフトの違法コピー・ライセンス数超過の損害賠償はいくらかで扱っている。

3 使わなくなったソフトの放置

同じサイトの別の記事(令和7年10月7日公開)は,入れたまま使われなくなったアプリが,サポートの終了後も残ることの危険を指摘している。
例えば,Adobe は,Flash Player のサポートを令和2年12月31日に終了し,令和3年1月12日以降は Flash Player での Flash コンテンツの実行をブロックした上で,すべての利用者に対し,システムを保護するために直ちにアンインストールすることを強く推奨している。
サポートが終わったソフトは更新されないので,動かなくなったから無害になったとは考えず,一覧から外して削除する必要がある。

第3 発覚したときに最初に行うこと

① 対象のソフトを止め,ネットワークから切り離すかどうかを情報システムの担当者と判断する。
② 何を,いつ,どこから入れたかを記録する(画面の写真,インストールの履歴,検知の記録)。
③ ソフトの削除は,記録を残してから行う。
④ 個人データを扱う機器であれば,漏えい等が生じたおそれがあるかを確認する。
⑤ 本人から事情を聴く(入れた理由,会社の規則を知っていたか,同じことを他にしていないか)。

調査の手順と限界は,社内で窃盗・横領が疑われたときの社内調査の考え方が参考になる。
漏えい等が生じた場合の報告・本人通知は,情報漏洩が相次ぐ今,企業の信頼を守る法務の備えで扱っている。

第4 懲戒処分の根拠と相当性

1 就業規則の定めと周知

常時10人以上の労働者を使用する使用者は,表彰及び制裁の定めをする場合においては,その種類及び程度を就業規則に記載しなければならない(労働基準法89条9号)。
最高裁平成15年10月10日第二小法廷判決(フジ興産事件)は,「使用者が労働者を懲戒するには,あらかじめ就業規則において懲戒の種別及び事由を定めておくことを要する」とし,就業規則が拘束力を生ずるためには,「その内容を適用を受ける事業場の労働者に周知させる手続が採られていることを要する」とした。

そのため,「会社の機器に許可なくソフトを入れてはならない」という具体的な禁止が,就業規則又はそれに基づく情報機器の利用規程等に書かれ,入社時の研修等で周知されているかが,最初の分かれ目になる。
就業規則の記載と周知の基本は,就業規則とは―記載事項・作成届出・周知・変更・懲戒の基本で扱っている。

2 処分の重さを決める事情

労働契約法15条は,使用者が労働者を懲戒することができる場合において,当該懲戒が,当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして,客観的に合理的な理由を欠き,社会通念上相当であると認められない場合は,その権利を濫用したものとして,当該懲戒は無効とすると定める。

第5の裁判例を踏まえると,無断インストールについては,次の事情が処分の重さを考える上で問題になると考えられる。
① 禁止の規則があり,周知されていたか。
② 以前に注意や指導を受けていたか。
③ 頻度や繰り返しの程度。
④ 感染・漏えい・業務の停止等の実害が生じたか。
⑤ セキュリティ対策を故意に無効にしたか。

初めての,私的な装飾等の目的で,実害がない場合に,いきなり重い処分を選ぶことは,相当性を欠くおそれがある。
まず注意・指導を記録に残し,改善がなければ段階的に処分を検討する。
進め方は,問題社員対応の基本手順を参照されたい。

就業規則で減給の制裁を定める場合,その減給は,1回の額が平均賃金の1日分の半額を超え,総額が一賃金支払期における賃金の総額の10分の1を超えてはならない(労働基準法91条)。
減給の上限については,減給の制裁の上限と解釈例規で扱っている。

第5 裁判例

1 規則も注意もなかった事案で減給が無効とされた例

札幌地裁平成17年5月26日判決(平成15年(ワ)第1873号)は,一般職の職員が,業務用パソコンに許可なくヤフーのメッセンジャーというチャット機能を含んだソフトを入れ,他の職員にも利用を誘い,勤務時間中に外部の者とチャットをしたこと等について,物品の私用を禁止する規程に該当するとした。
しかし,私的メールやチャットの頻度が多いとはいえないこと,「当時の被告事務局では,パソコンの取扱規則等が定められておらず,パソコンの私的使用に対し注意や警告がなされたこともなかったこと」,交信記録の調査方法の公正性に疑問があること,7万1400円の減給処分は労働基準法91条に違反すること,一般職であることなどの事情を考慮し,減給処分は「社会通念上重過ぎて不当というべきであって,懲戒権の濫用として無効である」とした。

2 注意・指導がなかった点が考慮された例

東京地裁平成24年7月10日判決(平成22年(ワ)第37293号,判例秘書の判例番号 L06731066)は,社員がパソコンに業務と関連があるとはいい難いソフトウェアをインストールしていた点について,過去にも業務と無関係と思われるソフトウェアをインストールしていた事実があるのに,注意や指導がされた形跡が認められないことから,「各自が便利なソフトウェアをインストールすることは特に禁止されていなかったという原告の主張も一概に排斥しがたい」とし,この点に関する会社の主張を採用しなかった。
他方で同判決は,社員が,パソコンに予め設定されているセキュリティソフトを無断かつ故意に無効にし,パソコンの操作記録を取れないようにする等の行為を反復して行っていたことは,就業規則の解雇事由に当たるとし,以前にも懲戒を受けていたこと等もあわせて,解雇を有効とした。

3 実害と繰り返しの有無が考慮された例

東京地裁令和6年3月29日判決(令和4年(ワ)第11914号,判例秘書の判例番号 L07930723)は,社員が貸与パソコンにインストールされていたOffice 365を独断でアンインストールしたことについて,「会社が有償で導入しているソフトを会社に無断でアンインストールしてしまうのは不適切な行為である」とした。
しかし,社員が再びインストールし,業務遂行に大きな支障が生じる前に問題は一応解決したこと,同種の行為を繰り返したと認めるに足りる証拠がないことから,業務遂行上の影響は大きくなく,解雇の理由とされた適格性の欠如を基礎づける事情に当たるとまではいえないとした(解雇自体は,他の事情から有効とされた)。

4 三つの判決から読み取れること

三つの判決では,①規則と注意・指導の有無,②頻度と繰り返し,③実害,④セキュリティ対策を故意に無効にしたかどうかが,処分の重さの評価を分けている。
私的なソフトを入れたという事実だけでは重い処分の根拠になりにくく,規則の周知,注意の記録及び実害の有無を会社が示せるかが重要になると考えられる。

第6 損害賠償の請求

1 請求できる額は信義則上相当な限度に限られる

最高裁昭和51年7月8日第一小法廷判決(茨石事件)は,使用者が,その事業の執行につきなされた被用者の加害行為により損害を被った場合には,「その事業の性格、規模、施設の状況、被用者の業務の内容、労働条件、勤務態度、加害行為の態様、加害行為の予防若しくは損失の分散についての使用者の配慮の程度その他諸般の事情に照らし、損害の公平な分担という見地から信義則上相当と認められる限度において」,被用者に対し損害の賠償又は求償の請求をすることができるとした。

無断インストールの場面では,「加害行為の予防」についての使用者の配慮として,管理者権限を絞っていたか,許可制を運用していたか,ウイルス対策や更新を行っていたかが問われることになると考えられる。
社員への請求の制限は,社員のミスやAIの使いすぎで会社が損害を受けたとき,本人に請求できるかで詳しく扱っている。

2 給料から一方的に差し引くことは原則としてできない

賃金は,通貨で,直接労働者に,その全額を支払わなければならない(労働基準法24条1項本文)。
また,使用者は,労働契約の不履行について違約金を定め,又は損害賠償額を予定する契約をしてはならない(同法16条)。
「無断でソフトを入れたら一律〇万円を支払う」という誓約書は,同条に反するおそれがある。

3 取引先や顧客に損害が生じた場合

社員が入れたソフトから情報が流出し,取引先や顧客に損害が生じた場合,会社は,被用者がその事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を負い得る(民法715条1項)。
会社が賠償した後に社員へ求償することは妨げられないが(同条3項),その範囲も第6の1の基準で制限される。

個人データを扱う機器であれば,会社は,個人データの漏えい,滅失又は毀損の防止その他の安全管理のために必要かつ適切な措置を講じ(個人情報の保護に関する法律23条),個人データを扱う従業者に対する必要かつ適切な監督を行わなければならない(同法24条)。

第7 会社が先に整えること

個人情報保護委員会の「個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン(通則編)」10-6は,技術的安全管理措置の手法の例示として,セキュリティ対策ソフトウェア等を導入すること,機器やソフトウェア等に標準装備されている自動更新機能等の活用によりソフトウェア等を最新状態とすることを挙げ,中小規模事業者における手法の例示として,個人データを取り扱う機器等のオペレーティングシステムを最新の状態に保持することを挙げている。
これらを参考に,次の順で整えることが考えられる。

① 規則:会社の機器へのソフトの導入は許可制とし,申請の窓口と判断の基準を書く。
違反が懲戒事由のどれに当たるかを,就業規則の定めと照らして確認する。

② 技術:一般の社員の管理者権限を外し,導入できるソフトを限定する。
規則だけでなく技術的にも防いでおくことが,茨石事件のいう「加害行為の予防」についての配慮にもなる。

③ 台帳:導入したソフトと版,ライセンス,サポートの期限を一覧にし,定期的に見直す。
使わなくなったソフトは削除する。

④ 教育と記録:入社時と定期的に,なぜ入れてはいけないのかを具体例で説明し,受講の記録を残す。
最初の発見時には,口頭で済ませず,注意の内容と日時を記録しておく。

⑤ 退職・異動時:機器の返却を受けるときに,入っているソフトとアカウントを確認する。

使わなくなったアプリの点検は,Windowsの基本操作とサポート期限でも扱っている。

第8 関連する山中弁護士ブログの記事

社員のミスやAIの使いすぎで会社が損害を受けたとき,本人に請求できるか―茨石事件・福山通運事件と労働基準法16条・24条(AI作成)
社員が私用LINE・私物USB・個人メールで会社の情報を扱ったとき―シャドーITと営業秘密,個人情報保護法,懲戒及び退職時の対応(AI作成)
シャドーAIの問題点――営業秘密,個人情報保護法及び懲戒処分をめぐる法的枠組み(AI作成)
ソフトの違法コピー・ライセンス数超過の損害賠償はいくらか―大阪地裁の3判決と著作権法113条5項・114条(AI作成)
法律・税理士事務所の情報セキュリティ自社診断と「サイバーセキュリティお助け隊」の選び方―IPAの6か条・25項目,監視,駆付け及び保険(AI作成)

第9 出典

1 法令

e-Gov 法令検索(令和8年10月30日確認)
① 労働契約法15条
② 労働基準法16条,24条,89条,91条
③ 民法715条
④ 個人情報の保護に関する法律23条,24条
⑤ 著作権法63条

2 裁判例

① 最高裁昭和51年7月8日第一小法廷判決,昭和49年(オ)第1073号,民集30巻7号689頁(茨石事件)
② 最高裁平成15年10月10日第二小法廷判決,平成13年(受)第1709号,集民211号1頁(フジ興産事件)
③ 札幌地裁平成17年5月26日判決,平成15年(ワ)第1873号
④ 東京地裁平成24年7月10日判決,平成22年(ワ)第37293号,判例秘書の判例番号 L06731066
⑤ 東京地裁令和6年3月29日判決,令和4年(ワ)第11914号,判例秘書の判例番号 L07930723

3 公的資料等

① 個人情報保護委員会「個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン(通則編)」10-6(技術的安全管理措置)
② Adobe「Adobe Flash Player サポート終了に関する情報」(令和3年1月13日更新)
③ NTT西日本 Biz Clip「オフィスあるある4コマ(第37回)フリーソフトのインストールにご用心」(令和6年4月25日公開)
④ NTT西日本 Biz Clip「強い会社の着眼点(第31回)余計なアプリが入っていませんか? リスクと対策を解説」(令和7年10月7日公開)