第1 本記事の対象と結論
1 対象
本記事は,会社が業務で使うソフトについて,許諾された台数を超えてインストールした場合,不正にコピーされたソフトを買って使った場合,無料のソフトを利用条件の範囲外で使った場合に,ソフトの権利者からどのような請求を受け得るかを扱う。
法令は令和8年10月30日時点の e-Gov 法令検索の条文により,裁判例は裁判所ウェブサイト又は判例秘書で本文を確認したものに限って紹介する。
2 結論
① 著作者は,その著作物を複製する権利を専有する(著作権法21条)。
許諾された台数を超えてプログラムをインストールすることは,複製権の侵害になり得る。
② 賠償額については,故意又は過失により著作権を侵害した者に対し,著作権の行使につき受けるべき金銭の額に相当する額を損害の額として請求できる(同法114条3項)。
大阪地裁の裁判例は,正規品の標準小売価格(平成15年判決。同年改正前の114条2項による)や,1台当たりのライセンス料に台数を掛けた額(平成28年判決)を基準に損害を算定している。
③ 平成15年判決は,標準小売価格の2倍の賠償を認めず,後から正規品を買っても既に生じた損害は填補されないとした。
利用期間に応じて損害を減らす主張は,平成15年判決と平成28年判決のいずれも採用しなかった。
④ 不正にコピーされたプログラムを業務上使用する行為は,そのプログラムを使用する権原を取得した時に情を知っていた場合に限り,著作権の侵害とみなされる(同法113条5項)。
⑤ 他方で,権利者の側も違法な複製を立証する必要があり,証拠がないとして請求が棄却された例もある。
第2 無料のソフトの利用条件
著作権者は,他人に対し,その著作物の利用を許諾することができ,許諾を得た者は,その許諾に係る利用方法及び条件の範囲内において,その著作物を利用することができる(著作権法63条1項・2項)。
ソフトの使用許諾契約は,この許諾の範囲を定めるものである。
無料で配布されているソフトでも,利用規約等で「個人の非商用利用に限る」といった条件が付されていれば,その条件の範囲外での利用は,63条2項の許諾の範囲外の利用になるおそれがある。
会社で使う前には,配布元の利用規約やライセンスの文書で,商用・法人での利用が認められているか,台数や利用者の数に制限があるかを確かめ,その写しと確認日を残しておくことが考えられる。
第3 違法な複製になる場面
1 許諾された台数を超えるインストール
ライセンス契約で許された台数を超えてプログラムをパソコンにインストールすれば,許諾の範囲外の複製になる。
第5の1の大阪地裁平成15年10月23日判決は,プログラムの複製数と保有するライセンスの数との差を違法な複製と捉えて損害を算定している。
また,今回のバージョンのライセンスを受けずに不正コピー品をインストールした事案で,大阪地裁平成28年3月24日判決は,その行為について,「著作権者である原告からライセンスを受けずに,すなわち利用許諾を受けずになされたものであるから,複製権を侵害する違法な行為である」とした。
同判決は,被告が以前に古いバージョンのライセンスを受けていたことから,今回のインストールについてライセンスが必要であったことを認識していたと認め,少なくとも過失があることは明らかであるとした。
2 不正にコピーされたソフトの購入と使用
プログラムの著作物の著作権を侵害する行為によって作成された複製物を業務上電子計算機において使用する行為は,これらの複製物を使用する権原を取得した時に情を知っていた場合に限り,当該著作権を侵害する行為とみなされる(著作権法113条5項)。
極端に安い価格や,正規の販売経路でない出品等,不正なコピーであることを疑わせる事情がある場合には,購入しないことが基本になる。
3 社員が無断で入れた場合
会社の機器に社員が無断でソフトを入れた場合も,会社の業務に使われていれば,権利者との関係で会社の責任が問題になり得る。
社員に対する懲戒や損害賠償の請求は,労働契約法15条や信義則による制限を受けるので,権利者への対応とは分けて検討する必要がある。
第4 賠償額の算定の仕組み
故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は,これによって生じた損害を賠償する責任を負う(民法709条)。
著作権法114条は,著作権侵害の損害額の算定について特則を置いている。
同条2項は,侵害した者がその侵害の行為により利益を受けているときは,その利益の額を著作権者等が受けた損害の額と推定する。
同条3項は,著作権者等は,故意又は過失によりその著作権等を侵害した者に対し,その著作権等の行使につき受けるべき金銭の額に相当する額を自己が受けた損害の額として,その賠償を請求することができると定める。
ソフトの違法な複製では,この3項の「受けるべき金銭の額に相当する額」を,正規品の価格やライセンス料を基準にどう算定するかが争われてきた。
第5 裁判例
1 大阪地裁平成15年10月23日判決(標準小売価格と同額)
大阪地裁平成15年10月23日判決(平成14年(ワ)第8848号)は,コンピュータスクールを営む会社が,証拠保全の検証で確認された複製の数から保有するライセンスの数を差し引いた分のプログラムを違法に複製していた事案である。
同判決は,著作権法114条(平成15年法律第85号による改正前のもの)2項の「受けるべき金銭の額に相当する額」について,本件に現れた事情を勘案すると,「本件プログラムの正規品購入価格(標準小売価格)と同額であると認めるのが相当である」とした。
原告らは,違法複製による被害の甚大性,違法性の高さ,正規品の事前購入者との均衡等を理由に,標準小売価格の2倍を下らない額を主張した。
しかし同判決は,不法行為に基づく損害賠償制度は,被害者に生じた現実の損害を金銭的に評価し,被害者が被った不利益を補てんして,不法行為がなかったときの状態に回復させることを目的とするものであり,著作権侵害の場合も異ならないとして,この主張を採用しなかった。
他方で,卸売価格相当額にとどまるという被告らの主張も,違法行為を行った被告らとの関係で,適法な取引関係を前提とした場合の価格を基準としなければならない根拠はないとして採用しなかった。
被告らは,証拠保全の後に正規品を購入したことにより損害は填補されたと主張したが,同判決は,正規品の購入代金は正規品購入の対価であって損害賠償債務の履行としてのものではないとして,この主張を退けた。
また,ソフトの価格は使用期間の長短にかかわらず一定であるから,使用期間が限られていたことは損害額を減ずる根拠にならないとした。
さらに同判決は,コンピュータスクールの代表取締役について,違法複製を行わないように注意すべき義務を怠り,自ら違法複製を行ったか又は従業員がこれを行うのを漫然と放置していたとして少なくとも重過失を認め,民法709条又は当時の商法266条の3に基づく請求について,会社と連帯して賠償するよう命じた。
認容額は,原告3社に対し,弁護士費用を含めて合計約3878万円である。
2 大阪地裁平成28年3月24日判決(ライセンス料×台数)
大阪地裁平成28年3月24日判決(平成27年(ワ)第7614号)は,プログラムの不正コピー品を購入して2台のコンピュータにインストールして利用した事案である。
同判決は,国内でこのプログラムを適法に利用するには,インストール台数1台当たり380万円を支払ってライセンスを受ける必要があると認め,著作権法114条3項の「受けるべき金銭の額に相当する額」は,複製権侵害行為が2回行われたことを前提に760万円を下らないとした。
弁護士費用76万円を加え,請求どおり836万円の支払を命じている。
被告は,国内のライセンス契約が別の会社を通じて締結されることを考慮すべきこと,2台目は1台に準じて扱うべきこと,利用期間を考慮すべきことを主張したが,同判決はいずれも採用しなかった。
特に利用期間については,「ライセンスを受けることなく利用を開始した被告が,その違法事実を発見されるや,それまでの期間に比例したライセンス料を算定して,その額の支払だけで責任を免れ得るようにいう主張が失当であることも明らかである」とした。
3 大阪地裁令和4年9月29日判決(違法複製の立証がなく棄却)
大阪地裁令和4年9月29日判決(令和3年(ワ)第4692号)は,ソフトの権利者が,情報処理の教育等を行う会社に対し,ライセンス契約で許諾された数を超えてソフトを複製し,運営するスクールで使用したとして,約1億7529万円の損害賠償を求めた事案である。
同判決は,許諾された数を超えて各ソフトが同時に使用されていた実態があったこともうかがえないとし,「本件証拠保全後に新規に本件各ソフトウェアを購入したからといって、直ちに従前の違法複製が推認されることにはならない」として,請求を棄却した。
4 三つの判決から読み取れること
違法な複製が認められると,賠償額は,正規品の価格やライセンス料を台数分積み上げた額が基準になり,後から正規品を買っても,使用期間が短くても,既に生じた損害は減らないと判断されている。
他方で,平成15年判決は,制裁としての上乗せ(標準小売価格の2倍)を認めなかった。
また,権利者の側も違法な複製を立証しなければならず,後からの買い足しだけでは推認されない。
会社としては,台数や利用者の数を管理し,購入の記録とライセンスの証書を保存しておくことが,両方の場面で重要になると考えられる。
第6 会社が確認しておくこと
① 台帳:ソフトごとに,ライセンスの形態,許諾された台数・利用者の数,インストールした機器を一覧にし,定期的に照合する。
② 記録:購入の領収書,ライセンス証書,利用規約の写しと確認日を保存する。
③ 購入経路:正規の販売経路から購入し,極端に安い出品等は避ける。
④ 許可制:社員が会社の機器に無断でソフトを入れないよう,規則と技術的な制限を整える。
⑤ 請求を受けたとき:証拠保全や警告書を受けた場合は,独断でソフトを削除・購入せず,現状の記録を残した上で弁護士に相談する。
ソフトの解析やリバースエンジニアリングの適法性は,ソフトウェアの解析・リバースエンジニアリングは適法かで扱っている。
第7 関連する山中弁護士ブログの記事
社員のミスやAIの使いすぎで会社が損害を受けたとき,本人に請求できるか―茨石事件・福山通運事件と労働基準法16条・24条(AI作成)
ソフトウェアの解析・リバースエンジニアリングは適法か―著作権法30条の4・利用契約と実務の確認事項(AI作成)
業務プログラムの著作権は誰のものか―著作物性・職務著作と会社への承継前の確認(AI作成)
法律事務所がパソコン・Office等を購入・納品してもらうときの確認事項―管理アカウント,プロダクトキー,保守記録及びサポート期限(AI作成)
第8 出典
1 法令
e-Gov 法令検索(令和8年10月30日確認)
① 著作権法21条,63条,113条5項,114条
② 民法709条
2 裁判例
① 大阪地裁平成15年10月23日判決,平成14年(ワ)第8848号
② 大阪地裁平成28年3月24日判決,平成27年(ワ)第7614号
③ 大阪地裁令和4年9月29日判決,令和3年(ワ)第4692号